- 1二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:43:33
此の頃都に流行るもの 夜討 強盗 ───
子の刻 花の都 遊郭
「がはははは、くるしゅうないぞ~~~♡」
「いやだわ、将軍様~♡」
遊郭では大男が一人、幾人もの遊女を囲い豪遊の限りを尽くしていた。
その様子は先だっての将軍オロチもかくやというような豪遊っぷり。
「いや~~、遊郭入り放題とは将軍最高でござる~~ヒック」
酒もいい具合に入り、夢見心地で遊女と戯れる男の前に使いの者が現れた。
「将軍様、店の前に将軍様に用と申す者が!」
「ん~、誰ぞ知らんがとっとと追い返すがよい!拙者は今忙しいのだ!」
「それが、『錦えもん』といえばわかる、と」
男は目を白黒させ立ち上がる。
「ききき、錦えもん~~!!………店主、拙者用を思い出した!もう帰るぞ!支払いは『光月』にツケておくがよい。それではな」
男はサッと着物を着なおし、裏口からスタコラと退散する。 - 2二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:44:27
マセてんなぁ…
- 3二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:53:11
裏口を出て角を曲がり細い路地へと入る。
人がやっとすれ違えるほどの狭い路地の向かいからは笠をかぶった浪人と女の二人連れ。
道行を急ぐ男と浪人の肩がすれ違いざまにがぶつかる。
「失礼した」
「こちらこそすまぬ」
「…貴殿一人か?」
笠をかぶった浪人が男に問う。
「そうだが…それがいかがした?」
「なに、近頃都に龍が出るとの噂、気を付けられよ」
それを聞いて男は堪えられぬというように笑い出した。
「りゅう~~、がははは、安心せい!”竜王”カイドウは拙者、光月モモの助が成敗いたした!」
「ほう、そなたがあの光月モモの助とな?」
浪人の問いかけに気をよくしたのか男が調子をつけて大見得を切る。
「そのとおりィ!あ、賊党共を引き連れて、鬼ヶ島への大討入り!切った張ったの死闘の末に”竜王”共の首級を上げて、光月一族二十年の無念を果たす!光月モモの助とはァ拙者のことォ~よォ!!ヒック」 - 4二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:53:55
気が大きくなったのか、男は浪人の隣の女をジロジロと品定めをしたいそうな器量であることに気づくと女に粉をかけはじめた。
「おい女、拙者将軍光月モモの助であるぞ!拙者まだ飲み足りぬのだ向こうの店で酌をせい!」
女は物も言わず、動こうともしない。
ウンともスンとも応じない女に業を煮やして、大男は女の腕をつかんで連れて行こうと手を伸ばすが果たしてその手は空を切った。
男はしばらくして気づいた。
腕が、ない…?
思いがけぬことに硬直する男の上に影かかかる。
恐る恐る男が空を見上げると、男を見据える赤い相貌。月夜に映ゆる桃色の龍が宙をうねり、男を取り囲むように鎮座していた。
「ギャァァァ!カイドウーーーー!や、やめてェ!殺さないで~!!食べないでくれェ~~~!!!!」
「た、食べちゃうでござるぞ~~」
「…モモの助様……」
浪人が龍に向かって話しかける。しかし、大男は龍が喋ったことよりも今しがた聞こえた名前に耳を疑った。 - 5二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:54:01
あっ……ふーん…
- 6二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 21:58:03
「モモの助様!?この龍が?」
「この龍とは無礼者!!」
「このお方をどなたと心得る!このお方こそ、光月家が跡取り!将軍 光月モモの助様にあらせられるぞ!」
浪人と女が主君の名乗りを上げる。
「ハ、ハハァァァァァ!!」
大男が地に頭をつきひれ伏す。
「そして拙者、赤鞘”狐火の錦えもん”!」
「同じく、赤鞘”残雪の菊之丞”!」
「近頃都で将軍の名を騙り店を荒らしまわる不届き者がいると聞き成敗に参った」 - 7二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:00:06
食べちゃうでござるぞ~~って棒読みで言うモモ可愛すぎるな
- 8二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:05:52
モモの助すけべではあるけどやる事多いのと国直ししてる時だからそりゃ遊びに行けないからこんなことしないわな…
- 9二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:07:29
なるほどぉ…
- 10二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:07:39
まんまと騙されちゃった
- 11二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:08:58
古き良き時代劇だ
- 12二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:13:46
男は顔を青くして涙ながらに懇願した。
「ヒィィィィ、命だけは、命だけはどうかお助けくださいィィ!!」
男のあまりの低姿勢ぶりに顔を見合わせる錦えもんと菊之丞。
話を聞くと、男は九里の出身であり、郷里では光月おでんと赤鞘たちの武勇に憧れ、暴れ放題。
しかし、赤鞘帰還の報を聞き、いてもたってもいられず決戦に参加しようと都を目指すも決戦はすでに決着をみた後。
縁故もない慣れぬ土地で途方に暮れ、働くにも食うにも困り盗賊くずれに身をおとし、夜討、強盗、無銭飲食、無法の限りを尽くしていたところその横暴が錦えもん達の耳に入った、という次第らしい。 - 13二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:14:49
錦えもんは頭を抱えた。
今まさに皆で立て直そうという都で悪事を働くのだからもっと骨のある輩かと思えば、あまりの情けなさに起こる気も失せてしまった。
「(しかし、…)」
なんだかんだ言っても錦えもんとて元は花の都のチンピラ崩れ、人のことは言えぬのであった。
「(おでん様もこんな気持ちであったのか…)」
昔の自分を見ているような何とも言えないむず痒さ…。
この男に寛大な処置をいただけぬか、モモの助様にお伺いを立てようとしたとき、他ならぬモモの助様が口を開いた。 - 14二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:15:38
…こいつ苗字黒炭じゃねぇだろうな
- 15二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:22:56
「そなた働き口がないのなら城で働かぬか?城に部屋も余っておるゆえ衣食住は保証するぞ」
「モモの助様!?」
「このチンピラ城に住まわす気ですか!?」
菊之丞と錦えもんが悲鳴をあげる。
「今は人手が足りぬであろう?この男体格はよいし力仕事を任せるにはちょうどよいではないか」
男が目を輝かせ、地面にこすりつけていた頭をあげる。
「ほんとですか!!やった~~おれも光月家の家臣だ~~!!」
「軽いわ貴様!!家臣など100万年速い!!」
調子よく浮かれる大男に錦えもんが釘をさす。 - 16二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:35:38
またも呆れて頭を抱える錦えもんに人間の姿に戻ったモモの助が心配そうに聞いた。
「…まずかったか、錦えもん?」
錦えもんはため息をつきながら、微笑んで言った。
「いや、あなたはそれでよいのです」
「それで問題が起きれば何とかするのは我らの仕事です」
菊之丞も錦えもん同様微笑みを浮かべて言った。
「すまぬな、二人とも」
モモの助も微笑んで二人に謝意を示す。
そして、モモの助はゆらりと大男に近づきにわかに肩を組むと、ひそひそと喋り始めた。
「ところでお主、さっきの遊郭だが拙者の名前で常連なのであろう?どの遊女が…」
「モモの助様コノヤロー!!」
スケベ心を発揮したモモの助に錦えもんがツッコミをいれる。
さて、この男が真に光月の家臣となれたのかはまた別のお話。 - 17122/09/08(木) 22:37:26
単にモモの助で「控えおろう!!」みたいなのしたかった!それだけ!
読んでくれた人ありがとう! - 18二次元好きの匿名さん22/09/08(木) 22:39:54