【SS】ハヤヒデトレがさあ!普段コンタクトだったらさあ!!

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 19:53:42

     「おや、トレーナー君、それは…」

     トレーナー室に入ってきたハヤヒデが俺を見て、不思議そうに口を開いた。
     赤い眼鏡で縁取られた視線が、しげしげと俺の目、というかその周りに注がれる。

     「あぁ、普段はコンタクトなんだけど、うっかり割っちゃって。」
     「成程、それで…だがトレーナー君、見る限りそれは…」

     ご明察、と言った具合に肩を上げると、彼女は一人納得したように眉尻を下げて微笑んだ。

     「うん、学生時代のを引っ張り出してきたせいで度が合ってないんだ。
     だけどこれが無かったら、それこそ何も分からないからな…」

     「…それは随分と不便そうだな。どれくらい見えてないんだ?」
     「今の距離で、ぎりぎりハヤヒデの顔が分かるぐらいかな…3mくらい離れると、もうぼやけて分からなくなる。」
     「…念のため聞くが、それは他の子でもそうなのか?私の頭が大きいからでは…」
     「無いよ」
     
     不安の混ぜられたじとっとした視線をする彼女に、軽く首を振って返す。
     彼女がほっと胸を撫で下ろしたのを確認すると、改めて部屋を軽く見渡してみた。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 19:53:55

    壁の時計がぼやけて全く分からない。数字はともかく、短針と長針の区別がつかないのは致命的だ。
     自分の腕時計を見れば別に時間は分かるのだが、いつもの癖で時間を確認しようと壁を見る動作が抜けるわけではないし、その度に落胆を味わうことになる。

     この眼鏡で問題なく見えていた学生時代と比べ、いつの間にここまで目が悪くなったものかと溜息を吐く。
     そして、再度ハヤヒデの方に視線を移し──ふと、違和感に気付いた。
     
     「…トレーナー君?」
     「ごめんハヤヒデ、ちょっとじっとしててくれ」

     何か今一瞬だけやけにはっきりと見えたところがあったような気がして、じっと彼女の顔を見つめる。
     前、後ろと視点を変えながら、ミルクのような純白の髪から、耳飾り、瞳、そして眼鏡のレンズへと視線を落とし──あ、と声をあげた。

     「これか!!」
     「…っ!?トレーナー君…!す、少し近いぞ!」
     「あっ…すまない、興奮しすぎた」
     
     顔を赤くしたハヤヒデの言葉に、慌てて後ろへ下がる。
     確かに、担当とは言え異性の顔を至近距離でまじまじと見るのはやりすぎたなと胸中で反省すると、ハヤヒデが口を開いた。

     「…それで、私の顔をそんなに見て何が分かったんだ?」
     「いや、大したことでは無いよ。
     ハヤヒデがかけてる眼鏡を通して見ると、良く見えるようになるってだけ」

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 19:54:14

    それの度がいかほどかは分からないが、とにかく今自分が掛けているこの弱弱しい眼鏡と合わせるとはっきり見える。
     ──壁の時計によると今の日本が午後4時32分であること、窓の向こうに雀が飛んでいること──先程彼女の眼鏡を通して垣間見ただけでも、多くのことが。

     「俺と君のものが合わさって初めて綺麗に見える…うん、トレーナーとウマ娘を現してるようだ。」
     「…それは流石に行きすぎじゃないか?」

     実に1日ぶりのクリアな視界に感極まって飛び出したセリフに、ハヤヒデがやや呆れたように言葉を返す。

     …割と自分でも上手いことを言ったと思ったのだが、彼女が言うからにはそうなのだろう。
     テンションが上がり過ぎていたかと思っていると、ふと彼女が眼鏡を外し、こちらへ差し出してきた。

     「トレーナー君、それなら今日一日、私の眼鏡を使ってみてはどうだろうか」
     「おお、確かに………あれ」

     言われるがままに彼女の眼鏡を視線の先に掲げ、周囲を見渡してみる。
     …だが、自分たちの思惑と反して、視界はぼやけたままであった。

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 19:54:45

     「…駄目だな、見えない。」
     「成程、そう簡単にはいかないようだな…」
     「まぁ個人に合わせて作られるから…というか、俺に渡したとして眼鏡が無いとハヤヒデの方が問題だろ、何にせよ駄目だ。」
     「しかし……これでは君が不便ではないか?」
     「いや?別にそんな気にするものじゃあないさ」

     顎に手を当て、じっと考え込むように言ったハヤヒデに対してそう返すと、彼女は訝し気にこちらに視線を向けた。

     「俺はいつもハヤヒデと一緒にいるだろ、
     君の事を…うん、君のことだけを見ている。それはいつもと変わらない」
     「……!」
     
     別にこの距離で見れる以上彼女の指導に支障はあまりないし、グラウンドで走るなら携帯のカメラなど見る方法はいくらでもある。
     何より、今言ったことが全てだった。

     「…私のことだけを…か。」
     「あぁ、俺は君の担当トレーナーだから」

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 19:55:09

    眼鏡を軽く上げながら呟く彼女に首肯して、俺は左手の腕時計を見た。
     時計の長針は、以前見た時から3分ほど進んでいた。
     
     机の傍らにぶら下げて置いた双眼鏡の埃を払ってハヤヒデの方に向き直ると、彼女が柔らかく微笑んだ。

     「トレーニングか、今日は走り込みで良いな?トレーナー君。」
     「勿論だ」
     「ふふ…見逃さないでくれよ?」
     「あぁ、一瞬も離さないさ。勝利の方程式への理論に、俺が欠けを生むわけにもいかないしな」

     そう言って、俺もハヤヒデに向かって笑う。

     ドアを開けると、秋の涼やかな空気を含んだ風が頬を撫ぜ、空へと溶けてゆく。
     雲の形も分からない自分にとってはありがたい、快晴の青天井の空が広がっていた。
     

     「…トレーナー君、君がさっき言ったあの眼鏡のこと…あれはあながち、間違いとは言い切れないな」

     「お、やっぱりそうだろう?我ながら言いえて妙だと思ったんだよ。
     生徒会のエアグルーヴ副会長も、担当トレーナーを杖と喩えてるらしいし
     …それと比べたら、あんまり恰好は付かないけれど」

     「いいじゃないか。その方がトレーナー君らしい、
     …いや、私たちらしい、と言った方がいいな…ふふっ」
     
     おしまい


    みてえなこともさあ!!!あるのかなあ!!!!!

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 19:57:15
  • 7二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 20:04:44

    投稿乙です。
    あにまんでの非敬語のハヤトレは新鮮ですね。

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/10(土) 20:18:29

    おまけ

     「トレーナー君、あっちの方を見てみてくれ…あそこで走っている彼女だ
     …あぁ、今日はそうだったな、ほら」
     「ごめんハヤヒデ、ちょっと失礼する。…あぁ、あの子か。確かに走りのフォームがハヤヒデと似通ってるな…だが…」
     
     「あっ!!ハヤヒデー!!!
     あれっ?ハヤヒデのトレーナーさんも一緒だ!しかもお揃いで眼鏡かけてる!!!でもなんであんなに近いのかな!?
     タイシンも見て!!!ほら!!」
     「チケット…アタシ、アンタのそういうとこたまにうっとおしい…いや、やっぱいつも思ってるわ…」

     「おや、チケットにタイシン…
      ふむ……お揃い、か。意識していなかったが…確かにそうだな」
     「……いや、そこで否定しないんだ……アンタら二人、そういうとこ結構図太いよね…
     下手すりゃバカップルって思われても文句言えないんじゃない?」

     「成程そうだな…じゃあ…
     ぼやけた視界も、ハヤヒデしか見えなくなるなら悪くない…とか言えばそれっぽくなるかな?」
     「…ふふっ!トレーナー君、それはいくら何でもキザすぎるぞ…はははっ!」
     
     「わ、わぁーーっ…ハヤヒデ達、進んでるなぁ…!!すごいねタイシン…!!」
     「いや、これを凄いで済ませられるアンタも凄いよ…」

  • 922/09/10(土) 21:12:02

    >>7

    こちらこそ読了乙&有難うございます。

    先方の人に倣いたい気持ちもありましたが、書いてくとどうしても原典に寄っちゃうんですよね。この二人の距離感と言うか、ブライアンとトレの関係に似た”言わずとも伝わる”関係が好きでして。


    地の文を初めっから入れましたがなんというか我ながら文のカロリー重くなっちゃうんで、今度からはまた1スレの概念系に戻りそうです。

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