【SS】伝説(の食材)って？｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:04:23

ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえる。レースのときでさえ笑顔を絶やさないアケボノも、険しい面持ちで俯いていた。
まな板の上にぽつんとひとつ。先日の、聞くも涙語るも涙の大冒険の成果がそこに鎮座していた。
｢……それじゃ、やっちゃうね？｣
｢……頼む｣
先に静寂を破ったのはアケボノ、それでも口数は少ない。
包丁がついにそれを裂こうとする。1度始めてしまえばもう元には戻せない。
学園きっての料理人である彼女の手が、僅かながら震えていた━━━

2二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:05:15

━━━炊飯器のタイマーが完成を知らせる。
｢で、出来たよトレーナーさん……！｣
｢遂に……！｣
とうとうその時がきた。この蓋の向こうには黄金が待っている。はやる手が開閉ボタンを押し損ね、アケボノに遮られた。
｢落ち着いて深呼吸だよ……すぅ━━━｣
倣って蒸気の混じった空気を肺の中に取り込む。既に食欲をそそる匂いが漏れ出ている。
｢はぁ━━━。よし！あけちゃうよ！！｣
そしてアケボノの指がボタンに触れ━━━
｢おぉ〜！！｣
｢すごい……｣
そこに眠っていたのはきらきらと輝く炊き込みご飯。芳醇な香りが部屋全体に広がった。そしてその中に……。
｢なんだかいつも食べる炊き込みより、いい香りな気がする！｣
｢あたしもこう……すごく輝いて見えるよ！｣
｢早く食べよう、松茸はどれだ……？｣
｢えっとたぶん……この白っぽいのだよ〜｣
そう、この中には伝説の高級食材、あの松茸が入っているのだ。先日山中を駆け巡り、泥にまみれた末に一つだけ見つけた貴重な戦利品。
お椀に盛られたそれに最大限の感謝を込める。

3二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:05:52

｢いただきます……！｣
｢いただきま〜す！｣
箸でつかもうとして、震えてポロッとこぼれる。幸いお椀からは落っこちず、もう一度。
汗と涙の結晶が……口の中へ、入る。
｢……どお？トレーナーさん｣
｢……｣
｢……な、泣いてる！？｣
なんということだろう。炊き込みご飯というものはこんなにも美味しい料理だったのか。
かつおと昆布からとった出汁はじんわりと舌に染み込み、鶏肉と野菜のほのかなエキスと実によくあっている。
まさしく心を揺さぶられる料理だった。
｢う〜ん！ボーノ♪頑張って作って良かった〜♪｣
アケボノも出来にはご満悦のようだ。
目を離した隙に茶碗は空になり、2杯目をついでいる。
｢僕もおかわり！｣
｢はーい！ちょっと待ってね〜｣
炊飯器が空っぽになるまで、そう時間はかからなかった━━━

4二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:06:20

｢美味しかったねえ〜｣
｢ああ、良かったよ｣
後片付けも済ませ、ようやくソファで一息。
喉を通ってしまえばあれだけ燃え上がっていたテンションも落ち着いて、色々と省みることになるわけで……。
｢なあアケボノ｣
｢なあに？｣
｢……確かに美味しかったよね、炊き込みご飯｣
｢……うん。自信作だよ〜｣
｢……なあ｣
｢トレーナーさん━━━｣
それ以上はいけないと、暗に視線を送っていたのはわかっていた。でもあれだけ苦労して採っできたものだ。言わずにはいられなかった。
｢……松茸、美味しかった？｣

5二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:06:56

｢たはは……なんだろうねえ。世界がドドーン！と変わる、みたいなのはなかったね〜……｣
香りは良かった。料理の味も申し分ない。ただ、松茸の味そのものを問われると……首をかしげざるを得ない。
肩透かしな気分。必死になって履い回った結果に見合うかどうか……苦笑いを浮かべ合う。
けれど、嫌な空気にはならなかった。
｢アケボノの腕は確かってことが改めてわかったから、いいのかな｣
｢ほんと？ありがとう〜♪｣
｢また作ってくれるか？炊き込みご飯｣
｢お易い御用だよ〜！……次回はぶなしめじになってるかもだけどね？｣
｢うん、それでも絶対美味しいから｣
｢……えへへっ♪｣
食欲の秋。彼女の振る舞う料理が、一段と楽しみになる季節がやってきた━━━

6二次元好きの匿名さん22/09/13(火) 23:09:58

※松茸の描写については、筆者が田舎のじいちゃん家で経験したことが元となっております

味覚の感じ方には個人差があります

秋の味覚の季節ですね

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