{ss}こんな話でも作ってみようか

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:22:30

    ふと、気になったんだ。
    ソファに寝転んで、ボケーッと天井を眺めていて、あのよくある縮れた線みたいな模様は何なんだろう?何の意味があるんだろう?なんてどうでもいい事を考えていたとき、思考が何処かへ飛躍したんだ。
    こうやって人は陰謀論でも思いつくのだろうか。この世の中の構図とかいう、壮大かつ明らかに身の丈にあっていないものについて思索を巡らせ──神様にはなれなかった。何も答えは出せなかった。だって私は中学生だもの、知らないことで溢れかえってる。
    だからなのかな?トレセン学園に入学した今、少しだけ身近になった“身の丈にそぐわない夢”〈クラシック3冠〉に、想像を膨らませて……これまたあっさりと、壁にぶつかった。

    「菊花賞って、逃げ切れるのかな」
    「……ん〜?」

    パソコンに向き合っている彼からの反応、鈍いお返事。突然何?といった感じだろうか。お仕事に夢中のところごめんなさいね、いつもありがとうございます。
    ……そんなにブルーライトと見つめ合わなくたっていいじゃない。おしゃべりして楽しみましょうよ。

    「トレーナーさんはどう思います?あのレース、逃げ切りのイメージが無いんだよね〜」
    「うーん……無理じゃないかな。確か最後の逃げ切りは、俺もまだ産まれてないような……」
    「え、そんなに前なの?」

    改めて思い知った。逃げるしか無い私には、こりゃ無理だ、ってね。

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:23:46

    「秋のレース、どうします?」
    「本当に、どうしようか」

    ダービーが、終わった。
    皐月賞を勝って、クラシックの1冠目を手にしたものの、1番の大舞台では駄目だった。
    手が届いたのかもしれない。目にすることすらないと思っていたものは、あれよあれよと目の前に現れて、そのまま消え去ってしまった。最後の最後に、力尽きてしまったから。

    「じいちゃんから電話がかかってきたんだ。菊花賞に出て欲しいけど、天皇賞・秋に出たほうが良いんじゃないかって」
    「うん」
    「世間の皆さんも、そう思ってるみたいだね」
    「……そろそろ決めないとな。夏休みも、もう終わりだから」

    夏が終わり、秋になれば、レースは再び賑わいを見せる。クラシック3冠、その最後の1つ──菊花賞。3000mの長距離レース。ここが問題になった。

    皐月賞、2000m。2番手で追走し、そのレースを制した。
    日本ダービー、2400m。これまた2番手の位置で追走し、最終直線の途中で、スタミナが尽きてしまった。
    セイウンスカイは、菊花賞に向いているのか?

    「……キングのペースは、何とも言えないものだったけど、同じような展開だった」
    「ああ、そうだな。速い流れに乗っかって、ダービーでは力尽きた。……俺の練習メニューが悪かったんだよ。もう少しどうにかなった筈だ」
    「過ぎたことは悔やまずに、先の事に活かしましょう?準備万端だったとしても、あの結果だから……菊花賞は難しそうですね〜」
    「……」

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:24:37

    この通り。菊に対する展望なんて全く開けない。やっぱり天皇賞・秋へ挑む。これがお堅いところだろう。結果の出ている2000mへ。でもなあ──

    「なあ、スカイ」
    「何ですか?」
    「君には、考えがあるんじゃないかな──菊花賞を逃げ切る作戦が」
    「ええー?なんでそう思うんです?」
    「いつまでも、悩んでいるから。頭のいいスカイなら、もう結論を出しそうなのに。君のことは、君自身がわかっていると思うから」
    「……」

    ホント、よく見てるよねえ、この人。
    私は天邪鬼だから、結局考え込んでしまった。どうにか上手く、この壁を超えられないものかと。
    ──そして答えに辿り着いた。昔とは真逆だったんだ。

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:25:27

    「いよいよ、本日のメインレースが始まります。第33回、京都大賞典です!」
    「1番人気のメジロブライト、今日は落ち着いていますね」

    いや〜……なんでこんなところに来ちゃったんだろう。自分で啖呵を切ったんだけどさ。
    大歓声の向けられる先、今日の主役はブライトさん──天皇賞・春の勝者。
    天皇賞・秋に進む、先輩方が勢揃いのレースで、ダービーと同じ2400m。

    「4番人気のセイウンスカイですが……少し落ち着きがなさそうですね」
    「普通、彼女のようなクラシック期のウマ娘が出走するレースではありませんから。異色の舞台で緊張してしまうのも無理はないでしょう。距離不安もささやかれる中、何か考えがあっての事なのか、そこに期待ですね」

    ……へへ。バレちゃうか。少し身震いしてしまう。だって仕方がないじゃない。頭の中に爆弾を抱えてやってきたんだから。

    私は今から、とんでもないことをする。もしも上手く行けば、とんでもないことになる。

    このレースを逃げ切る。そして菊花賞も逃げ切ってしまう。

    多分、上手く行く。

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:26:22

    『──本当に上手く行くのか、それは』
    『不安の2文字、トレーナーさんの顔に書いてあるのがよく見えますよ』
    『いや、あまりにも常識外れというか、よく思いついたと言うか……夢物語に近いぞ、それは』
    『トレーナーさんや、私の強みは何でしょう?』
    『……スピードと、レースメイク能力』
    『スタミナで、スペちゃんに勝てると思います?』
    『ダービーの結果を見るに、厳しい』
    『そう。これを成功させる以外に、道は無い。腹を括るしかないんだよ』
    『……2着じゃ、駄目だもんな』
    『もちろん!天皇賞だと、あのサイレンススズカさんがいますからね。セイちゃん、あの人に追走して、押し切る自信はあんまりかな〜』
    『……そうか。よし!それなら俺も1つ、アイデアを思いついたぞ』
    『おお、流石は名トレーナー様。なんでしょう?』
    『ステップは、京都大賞典にしよう!』
    『え゛っ……京都“新聞杯”と、名前とか、勘違いしてませんよね?新人トレーナーさん?』
    『上手く行かなかったら、天皇賞へ進められる。そして何より──上手く行けば、相手の強さも、関係ないだろう?』
    『……一理ある。よし──』

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:27:49

    やってみせようじゃないか、強く意気込みターフに立った。
    他に逃げる娘はいない。誰もが距離適性に疑問を持っている。確実に逃げられる。きっと、上手く行く。
    でも、いざ夢に描いたものを現実にするとなると、不安な気持ちにもなってしまう。目の前の門に飛び込んだら、もう投げ出すことはできず、逃げ出すことしかできない。私に全てが委ねられる。作戦通りに走れるか、走れないか、ただそれだけ。

    ──全てが、私に。トレーナーさんの期待も、じいちゃんの夢も。私の道なのに。

    何を考えてるんだろう?私なんかに背負わせて、何を求めているんだろう?重荷ったらありゃしないよ。……なんてね。

    ホントは分かってる。私のことを好いてくれているんだって。見返りなんて求めていないんだって。
    だからさ……悪い気はしないんだよ。どうせだったら応えたい。でもね、素直に受け取るほどの自信はないから……こっちは空振り上等で、空振ったときに、落ち込んで欲しくなんてないから……期待せずに、待っててよ。

    私は今から『暴走』する。そして末脚勝負で押し切ってやる。

    全部纏めてひっくり返してやる。

    よし、行こう。覚悟を決めてゲートに入ろう。
    勝つのは、私だ──ああちょっと押さないでよ、今ちょうど入るところだったんだから。

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:28:58

    おまけ

    過去の話は、その人が辿った道。その人を形造る大切なモノ。一体どんな人なのか、とてもワクワクしながら聞き入って──思っていたとおり、驚かされた。トリックスターの歩んだ道は、間違いなく王道を外れていて……それでも、人を惹き付けて止まないものだった。

    ああ……何悩んでたんだろう、私。

    セントライト記念。賢く好位に位置づけて、何も出来ず、為す術も無く大敗して、何が正しいのか、どうすればいいのか、わかんなくなってたけど……そうだよね。

    私のペースは、私が決める。思いっきり飛ばしてしまってもいい。長距離だろうと関係ない。最後の直線に、誰が一番上手く回ってきたのか、結局はそこに行き着くんだから。

    スッキリしたか?はい、ありがとうございます、謎の芦毛のお姉さん。詳しくご存知なんですね。まるでその人自身みたい。
    ……その辺で拾ってきたような枝で、釣りを始める変な人。
    河川敷で黄昏れてた、私もそうかもしれないけど。

    でも、良い人。
    貴方のおかげで、私の展望は開けたから──

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:30:04

    ……目を開けば、曇り空が広がっていた。そこは青空じゃないのって、ツッコミを入れたくなる。

    運命の門へ向かう。彼女と同じ、内の枠番。うん、ツイてるなあ私。本当に運命なのかも。

    菊花賞の逃げ切りは、彼女以来誰も成し遂げられていない。もう20年以上も昔の話で、私が生まれる前のこと。トレーナーさんすらお腹の中だったらしいし。みんなすっかり忘れてしまったことだろう──菊花賞は、逃げ切れるということを。

    ならば今日、その記憶を、私がここで呼び覚まそう。彼女に倣って、これが“仕掛けの1つ目”〈京都大賞典〉だ。そのまま春も逃げ切ってしまえ。

    何が主役不在だ?目にもの魅せてやろうじゃないか。曇ったもの全部を吹き飛ばしてやる。

    勝つのは、私だ!

    おしまい。

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 00:31:20

    あとがき
    誰かこんな感じで書いてくれないかなあ、かっこいいセイちゃんのSS。史実ネタ、それで書いてみたんだけど、難しいね。

    最近、ウマ本って言うのを手に入れたんですよ。アニメ一期の特典ね。それにはセイちゃんの小説がついてて、アニメでは描かれなかった部分がその内容。
    やっぱり、ビックリ。アニメ一期の頃は、こんな感じで設定練ってたんだなあ〜と。今と全然違うなって。これをもとにコミカライズ、って話だったよね?……アプリの方向性にして良かったと思った。

    ウマ娘は史実をベースに作られた物語で、要するにフィクション。どこまで史実通り作るのか、どのようにして設定に練りこむのか、その匙加減を定めるのは公式だからさ。公式ベースで考える場合の話だけど。
    要するにねサイゲさん、セイちゃんの物語待ってます。つよつよセイちゃんだと私の性癖に合っていますね。完。

オススメ

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