- 1122/09/16(金) 03:34:36
ウタワールドから解放された観客は次々と目を覚ましていく。
少女、ロミィも目を覚ました。彼女は海賊や天竜人によって貧しい暮らしを強いられている中で、つらい日々を忘れさせてくれる歌を歌ってくれる歌姫である、ウタに憧れていた。彼女はウタワールド内で、ウタから大きな犬のぬいぐるみをプレゼントされていた。しかしウタの暴走もあり、ロミィはウタの能力で猫のぬいぐるみに変えられてしまっていた。現実世界に戻った今、彼女は人間に戻ることが出来た代わりに犬のぬいぐるみは消えてしまっていた。ロミィはしょんぼりとしながら、帰りの船に乗り込んだ。
ロミィは住処である、港街外れの小屋に戻った。彼女はここの街に出て、日雇いの仕事をしながら生活している。親はどちらとも、今はいない。この時代、海賊による被害に遭ってこの世を去ってしまう、天竜人の奴隷にされてしまうということは国によっては珍しい事ではない。無論海軍など、市民の安全を第一に考えたい勢力もいるが、それでも全ての海賊行為を取り締まる事は出来ない。天竜人に至ってはこの世の最上位に位置する存在であり、軍であっても逆らえないのが現状である。
ロミィはトーンダイヤルから流れてくるウタの歌を口ずさみながら、地面に棒を使って絵を書き始めた。遠くても初めて見ることが出来た、自分を巻き込もうとしたけれどそれでも大好きなウタちゃん。とても広いライブ会場の、サイリウムがキラキラした光景。プレゼントしてくれたわんちゃんのぬいぐるみ。疲れもあったからか、ロミィはそのまま眠ってしまった。 - 2122/09/16(金) 03:34:53
- 3122/09/16(金) 03:35:52
朝目を覚ましたロミィは支度をすると、街へ向かった。今日の仕事は街の食堂での皿洗い。まかないも出るため、好きな仕事場だ。
食堂を始めとする街の様子は、少し暗い。この街の人々も、多くがウタのファンだった。
「歌姫が行方不明だとよ…」
「亡くなったって話もあるねェ…例え四皇の娘でも、海賊に怯えてる私らにとっては癒やしだったんだよ…」
そんな話が耳に入りつつも、ロミィは皿を洗っていく。
「はいロミィちゃん、お昼だよ。向こうでお食べ。」店主はご飯をロミィに差し出す。彼はロミィがウタのファンということを知っていた。だから、声の掛け方に関しては迷っていた。周りの人のウタに関する話が出来る限り届いてしまわないように、彼はロミィを客の集団から少し離れた席に案内した。
午後も働き、夕食のまかないを食べてバイト代を受け取った彼女は家へと向かっていた。今日とは違い、まともな食事が出来ない日もある。少量で我慢したり、残飯を漁ったりする日もあるのだ。ふとおもちゃ屋さんのショーウィンドウに目を向けると、ウタにプレゼントされたのとそっくりな大きな犬のぬいぐるみがいた。ロミィはウタのライブを思い出しながら、目はぬいぐるみに釘付けになっていた。ふと横を見ると、見知らぬ男性が立っていた。
「おじちゃん、なにしてるの?」ロミィは聞いた。 - 4122/09/16(金) 03:37:07
「君が大丈夫か心配だったんだ、それよりもう夜だ、君みたいな子どもが一人で出歩いていい時間じゃないぞ。」ロミィは少し、寂しそうな顔をした。「あのぬいぐるみが欲しいのかい?おじさんが買ってあげようか。」ロミィは少し明るく、それでいて困惑したような表情を浮かべた。
「大丈夫なの…?」
「その服装を見ていて、きっと君にとっておもちゃを買うのは夢のまた夢だと感じたんだ、遠慮するんじゃないよ。」
ロミィは服を見た。継ぎ接ぎだらけのワンピース。ウタちゃんのライブという晴れ舞台に着ていった特別な服も、パッチワークがあった。
「おじちゃん、ありがとう!!!」二人は一緒におもちゃ屋に入ると、犬のぬいぐるみを選び、会計へと持っていった。
犬のぬいぐるみを抱き、ロミィは男と店の外に出た。
「おじちゃん、ありがとう!!!ところでおじちゃんはだれ…?」
「それは秘密だ。でも今度会った日には、新しい服も買ってあげよう。わんちゃんも、大切にしてくれよ!!!気をつけて帰るんだぞ!!!」
ロミィはぬいぐるみを抱きしめて、月明かりに照らされながら帰路を急いだ。 - 5122/09/16(金) 03:39:02
その日から、ロミィとぬいぐるみの生活が始まった。
まず、住処に帰った彼女はぬいぐるみの名前を付けた。
「ウタちゃんみたいな、おうたにちなんだなまえをつけたいな…そうだ!!!マーチはどうかな!?」ロミィはぬいぐるみを揺らす。ぬいぐるみはカクンと首を縦に降った。
「ありがとう!今日はもうつかれちゃったからねようね!おやすみなさい、マーチちゃん!!!」ロミィは新しい友達と一緒に、干草を敷いたベッドで眠りについた。
朝目覚めると、ロミィはトーンダイヤルから流れるウタの歌をBGMに、身だしなみを整え始めた。ふと、昨日の会話を思い出してしまう。
「ウタは行方不明なんだ、もしかするとこの世にはいないかもしれない」
大好きな歌手の安否が確認出来ていない、もしかするともう二度と会えないかもしれない。そんな気持ちを落ち着かせるために、彼女は髪を結ぶ手を止めてマーチに抱きつき、ふわふわの背中をなで続けた。しばらくすると、(きっとウタちゃんは大丈夫だよ、それにウタちゃんのうたでかなしむのはウタちゃんものぞんでいないもん!!!)という気持ちになっていた。 - 6122/09/16(金) 03:39:37
「ほらマーチ、今日はいっしょにうたをうたうよ!!」そう言うと彼女はトーンダイヤルから流れるウタの声にあわせて歌い出す。「「しんじられるー、しんじられるー♪」」優しい声で歌うロミィ、そしてその心の中では、マーチも合唱していた。「「「ゆめのつづきでー、ともにーいーきーよーう、あかつーきのーかがーやくー、きょーうにー♪」」」歌い終わると、ロミィはとても満足した表情になった。「ふたりとも、とってもありがとう!!!」ロミィは満面の笑みでそう言った。
今日は仕事がない日、一日中遊んでいられる。ロミィはマーチを連れ出して、近くの野原へ向かった。「マーチといっしょにおでかけするのたのしいね!!!」ダンスをしたり、だっこしたまま走ったり、ちょうちょを一緒に見つめたり…楽しい一日を過ごしていた。きょうだいがいないロミィにとって、マーチは弟や妹のような存在になっていた。 - 7122/09/16(金) 03:40:54
今日の仕事は、街の人々の靴磨きをすることだ。マーチは小屋で留守番だった。海から吹く潮風の香りが、ロミィは好きだった。
「おい大変だ、海賊が来たぞ!海軍を呼べ!!!」ふと、港にいた漁師たちの声が聴こえた。
「お嬢ちゃん、もういいよ。お金は払うから、逃げよう。」靴を磨いていた男性も、片方の靴を磨いてもらった所で避難を始めた。
「野郎どもォ!!!上陸だァ!!!」
「おらおっさん、金持ってそうだなァ!!!」
「ドーッシッシッシッシ!!!酒を出せ!!!」
背後から海賊たちが略奪を行なっている声が聴こえる。ロミィは走って、小屋までたどり着いた。幸い、まだこっちには海賊は来ていない。しかし小屋の中に入ってしばらくすると、海賊が近くの畑で話しているのが聴こえた。
「野菜がたっぷりじゃねェか!!!こいつァありがてェ!!!」
「ドーッシッシッシ!!!スイカもあるぞ!!!」
「おでは肉派だァ!!!」
ここの小屋は、親切な農家の人が貸してくれている。よく作物も分けてくれている。それなのに、奪われてしまうなんて、許せない。でも、ここで立ち向かう勇気がない。
ふと、小屋の隅に、マーチが目に入った。マーチを抱きしめると、心が強くなった気がした。ロミィはマーチを抱っこしてトーンダイヤルを持つと、小屋の扉を開けた。 - 8122/09/16(金) 03:41:33
「んァ!!!ガキがいるぞ!!!」
「ドッシッシ…悪い事は言わねェ、帰りな…」
「おで達は海賊、あんまり怒らせちゃいけねェど…?」
海賊は3人、どれも大柄な男だ。剣やピストルも持っている。それでもロミィは怯まず、話しかける。
「ここはのうかのおじさんおばさんの畑なの!!!どうか食べ物をうばうのはやめて!!!」
「なんだと!?おでたちはここにあるから奪う、それだけの話だど?」
「まぁ待て…」3人の内のリーダー格の男が、ロミィに詰め寄る男を制した。
「おれ達も鬼じゃねえ、畑から奪うのはやめてやるよ…」ロミィは少しホッとした。だが…
「嬢ちゃん、その代わりに君を攫わせて欲しいんだ…」
そう、この海賊団はロミィを誘拐して、人身売買する方向に切り替えたのだ。
「なるほど〜!!!そういう事か!!!」
「ドッシッシッシッシッ!!!こりゃいい金になるぞ!!!」
ロミィはとんでもないことになったと感じて、急いで走り出した。だが大人の男にはスピードでは敵わず、追いつかれてしまう。
「つーかまーえたッ♥♥♥」ロミィは転び、組み伏せられてしまう。マーチは転んだ拍子にロミィの腕から離れ、男の一人に顔を踏まれてしまう。
「マァチィィィィィィィィ!!!!!」ロミィは泣きながら、大好きな友達、唯一の家族の名前を呼んだ。それを見て海賊は大笑いしている。(誰か助けて…)そうロミィが願った時だった。 - 9122/09/16(金) 03:42:10
「やめるんだお前たち!!!」男の声が聴こえた。全員が声の聴こえた方を見ると、そこには…
「これ以上の蛮行は、海軍の絶対的正義の名のもとに許さん!!!」
海軍の将校の証であるコートを羽織った中年男性。その顔を見た瞬間、ロミィは安心する。
「もう私達海軍が来たからには、大丈夫だ!!!さぁお前たち、今すぐにその子から離れるんだ!!!大人しくお縄につけ!!!」
やってきた将校は、あの夜マーチをおもちゃ屋さんで買ってくれたおじさんであった。海賊はロミィを押さえつけるのをやめて、将校と部下の海兵に一斉に襲いかかる。
しかし流石は将校、2人を相手にしながらも1人を自分で組み伏せて捕縛して、もう1人は鍛えた手で押し倒した所を部下に捕縛させていた。最後に残った1人は羽交い締めにした所を、部下が手錠を掛けた。
「よし!!!ここのグループは全員確保出来たな!!!この海賊3人は私が軍艦まで連れて行くから、お前は少女を安全な場所まで!!!」将校はそう言うと、海賊を連れて軍艦へと向かって行った。
「立てるかい?怪我はしてないかな?」海兵はロミィに質問する。「怖かったね。これから安全な所に行くよ。そこにはお姉さんの海兵もいるから、俺には言いづらい相談にも乗ってくれるよ。あぁ、そうだこの子も連れて行かないとね。」そうやってロミィを安心させるためにマーチを拾い上げた海兵であったが、その顔は一瞬で曇った。 - 10122/09/16(金) 03:42:52
マーチは踏まれた際に、顔の生地同士をつなぐ糸が千切れ、ほどけてしまっていた。そのため、顔の左の一部が裂けてしまっていた。ロミィは「かいへいさん、大丈夫?」と声を掛けた。海兵はぬいぐるみをロミィに渡すか迷っていた。「だっこしてあげたいの、その子はあまえんぼうだから…」海兵は覚悟を決めて慎重に、マーチをロミィに渡した。
「よしよし、よくがんばったね、えらかったね…」
ロミィはマーチの顔の傷に悲しみながらも、マーチの背中をなでてあげた。自分にも言い聞かせるように、優しく声を掛ける。やがてロミィは、海兵と一緒に歩き出した。
街は海賊に荒らされて、ガラスや商品が散乱していた。幸い死者や攫われた者はいなかったが、怪我をさせられた者は何人もいた。
港に停泊している、避難用の安全地帯として使用される軍艦では、負傷者の手当などが行なわれていた。
これから数日間は怪我で動けない人も多く、そのため街の後片付けにはロミィも駆り出されるだろう。第一に、ぬいぐるみの修復のための裁縫は難易度が高い。忙しい街の人を呼ぶ事も難しいだろう。ロミィはマーチの傷の手当てを行う余裕が無い事を悟り、とても落ち込んだ。 - 11122/09/16(金) 03:43:45
「海賊は私達海軍が全員確保しました。ご心配をお掛けしました。」夕暮れになり、将校―大佐らしい―は避難者達に説明をした。少しずつ、避難者は家へと帰って行く。
「この間のお嬢さん…わんちゃんが怪我をしてしまったようだね…遅くなってすまなかった…」大佐は辛そうな表情をしながら、ロミィに近づいて謝った。
「マーチ…わんちゃんをだっこしたら、勇気がわいて来てね、それで、はたけとまちをまもろうとおもえたの…」
「マーチか…いい名前だね、大切にしてもらえているようで本当に嬉しかった…」大佐は続けた。
「大切なものや楽しいものがあると、人の心の中には勇気がわいてくるんだ。だから、君も立ち向かう事が出来たんだよ。」ロミィは胸に手を当てた。
「君はとても優しいから、悪い海賊をどうにかしたいと思ったんだよね。無茶をしてしまった事は反省すべきだけど、他のみんなのためにがんばる姿は素敵だよ。」大佐はロミィに微笑んだ。
「さぁ、また暗くなってしまったね。一人で帰るかい?それとも誰か付けてあげようか?」
「ひとりでかえるね、ありがとうございました!!!」ロミィは礼儀正しく、ぺこりとお辞儀をした。側で見ていた海兵たちから、自然と笑みがこぼれる。
「今度こそ、絶対に服を買ってあげよう。約束だよ!!!」大佐は手を振って、ロミィを見送った。 - 12122/09/16(金) 03:45:02
1週間が過ぎた頃、街はすっかり元の活気を取り戻していた。所々に割れた窓や、包帯を巻いた人が見られるものの、ほとんどのお店で営業を再開していた。ロミィも再開した食堂の仕事をしていた。あれから結局、マーチの傷はそのままだ。ロミィはあの後、街で唯一ぬいぐるみの修理が出来る人が利き腕を怪我してしまったため、修理はしばらく出来ない事を知った。仕事を終えたロミィは急いで小屋に帰る。大切なマーチが寂しがっているからだ。
ある日の夜、ロミィは食堂で配膳をしていた。今日のお客さんは少なめだ。突然扉を開いて、何人もの男たちが入ってくる。その場にいた店長、ロミィ、客全員が、男たちの正体にその目を疑った。
「ここは開いてるようだな…」「肉だ、肉!!!」「ビールをお願い出来ますかね…」「ウキィィィウキャキャ」「ビーフジャーキー、これいいな!!おれのビールに付けて!!」席について、メニューを見てあれこれ言う男たち。「おお、ボイルロブスターがあるのか。おれはこれにしよう。お前たちと分けようか。」中でも一際貫禄がある、赤い髪をした、左目の3つの傷が印象的な、左腕の無い男。間違い無い。四皇「赤髪のシャンクス」だ。 - 13122/09/16(金) 03:45:45
緊張しつつも、注文を取りに向かおうとするロミィ。店主は慌てて止めた。「君が行くのは危険だ。私が注文を取りに向かう。」ロミィは厨房の入口からこっそり海賊たちを見ることにした。
たまに大人たちは、世界の有名な海賊の話をロミィにしてくれる。巨大な暴れん坊のお婆さんの海賊。龍や恐竜に変身して戦う海賊。闇そのものに変身したり地震を起こす事が出来る海賊。そして、威圧するだけで敵を倒す海賊。ロミィは話を聴く時は、いつも怖がっていた。
しかし目の前の海賊は、楽しげに笑っている。まるで、私たちと変わらないように。ロミィは不思議な気持ちになった。
店主は厨房と海賊たちの席の間を往復して、料理を作っていた。ロミィは海賊たちから少し離れた、店主の目の届く所でまかないを食べている。「すいやせん店長さん、持ち帰って食べる用の皿を貸してほしいんすがね… 明日の朝方には洗って返しますんで…」ウニみたいな髪型の男が店主に相談をしている。男たちはほとんど食べ終わったようだ。帰り支度を始めている者もいる。これから下げたお皿を全部洗って、ようやく今日の仕事は終わりになる。 - 14二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 03:46:10
見てるよ
- 15122/09/16(金) 03:46:50
「てんちょうさん、ありがとうございました!」ペコリ
ロミィはバイト代を受け取り、今日も帰路につく。店主がランプを貸してくれた。これで暗くても安心だ。「何か襲われそうになったら大声で叫ぶ事。」と言われた。ロミィは大好きなマーチのために、急いで帰っていた。
「おぉ、食堂にいたお嬢さんじゃねェか。」ふと振り返ると、顔に大きな十字傷がある大男がいた。ライフルを担いでいる。逃げようとしたが、足がすくむ。
「怖がらないでくれよ。」大男は笑った。「それよりもお嬢さん、そのポシェットの缶バッジは…」
「あ、あのね、これはウタちゃんの…わたしのあこがれてるひとなの…」「知っている。お頭の娘だからな…」大男は笑う。
「怖がってるな…当然か。おれたちは海賊だからな…」
「うん…さいきん海賊におそわれたばかりだから…ケガはしてないけれど、ぬいぐるみをきずつけられちゃって…しゅうりを出来る人もケガしちゃったから今も治せてないの…」
「何!?そうなのか…そんな子に話しかけるなんて…申し訳無い事をしたな…」
「大丈夫だよ。」 - 16122/09/16(金) 03:47:57
「あっ、ぬいぐるみはまだいるか?」
「うん。どうするの?」
「実はおれの所の船医は手先が器用でな、裁縫も出来るんだ。明日の朝にこの港を出る予定なんだが、それまでにはきっと修理出来るはずだ。」
「そうなの!?ありがとう!!!」
「ここで待っているから、連れてきてくれ。」
ロミィは駆け出して、小屋へと急いだ。マーチを抱き上げて、約束の場所へ向かう。
「早かったな…それじゃあ連れて帰る。明日の朝8時にここで…」
「ちょっとまって!!!わたしも海賊船を見てみたい!!!ついて行ってもいい?」
「そうなのか…本当に怖くないのか?」
「マーチのケガを治してくれるから、ぜったいにやさしい人たちだもん!!!すくなくともおじさんとおいしゃさんは…」
「…わかった。嬉しい。おれはベックマン、ベックと呼んでくれ…」
「よろしくね、ベックさん!!!」ロミィは満面の笑みで応えた。
星明かりの下を、少女と男は歩いて行く。 - 17122/09/16(金) 03:49:43
「ホンゴウ、このぬいぐるみの傷を修復する事は出来るか?実はこういう理由があるようなんだ…」
「大丈夫、ぬいぐるみは昔何回も修理したことがある…」
「もしかしてウタさんのですか?そりゃまたすごいすね…」
「何なら一から作った事もあるんだぞ。あれは猫だったな…」
ロミィはぼんやりとしながら、停泊中のレッド・フォース号の甲板から海を見つめていた。隣には船長のシャンクスがやって来た。
「ロミィ…でよかったか…あのぬいぐるみはどうやって君の元へやって来たんだ…?」
「おみせのまどから外を見てたところを見てたら、かいぐんのたいささんが、かってくれた…」
「そうか…」シャンクスは続けた。「どんな世の中であっても、どんな辛いときでも、絶対にお前を大切に想ってくれる人がいるんだ…」
「そうなんだね…」ロミィは眠たそうな目で、星空が映る海を眺める。時刻はもう10時近い。 - 18122/09/16(金) 03:50:29
「眠ってしまいやしたね…」
「しょうがない、あいつの部屋で寝かせる事にするか…おぉホンゴウ、修理が終わったか」
「ちゃんと綺麗に修復出来たぞ!」
「あの子とは相部屋になるが…まぁいいだろ!!!よしお頭、俺が抱っこして連れて行く!ホンゴウもぬいぐるみ連れて来てやってくれ!!!」
「あぁヤソップ、皿を下げるのも忘れるなよ。」 - 19122/09/16(金) 03:51:41
その日、ロミィはとても久しぶりにベッドで眠る事が出来た。夢の中で、ロミィはマーチと一緒にウタと一緒に歌ったり、踊ったり、遊んだりした。夢の最後には、ウタに「わたし、ウタちゃんみたいな、だれかをしあわせに出来る歌手になりたい!!!」と語った。ウタは笑顔で「なれるよ、ロミィちゃんなら…」と応えて、目が覚めた。
ロミィがマーチと一緒に寝ていたベッドは子ども用だった。傍らにはロミィがウタワールドで変えられていたのとそっくりな猫のぬいぐるみが置かれてあった。横を見ると大人用のベッドが置かれてある。シーツも敷いてあり、今でも普通に使われているようだ。マーチを抱っこしたまま部屋を出たロミィは、ベックマンやホンゴウ、シャンクスやヤソップにあいさつとお礼を言って回った。
「おーいロミィ!!!これ、食べてくれー!!!」キッチンから出てきた巨漢のコック、ラッキー・ルゥがサンドイッチを手渡す。笑顔でロミィは頬張る。
「やさしい海賊団のみなさん、ありがとうございました!!!」タラップを下りたロミィは、改めてお礼を言って手を振る。
「こちらこそありがとうー!!!」「風邪引くなよー!!!」「ウキィーーーーーーー!!!」
少しずつ船は港を離れて行く。
『ロミィちゃーーーーーん!!!立派な歌手になってねーーーーー!!!!』
大好きなあの人の声も届いた。それが気のせいなのか本物の声だったのかは分からない。ただ、ロミィの夢の果てはこの瞬間、決まった。 - 20122/09/16(金) 03:55:16
【エピローグ】
十数年が経った頃、とある劇場で行われたある歌手の初コンサート。
「わたしは…ヒグッ…音楽を愛していて…良かった…ウウッ」泣き声を上げる男、ゴードン。彼は音楽教室で今回の歌手を始めとする子どもたちに様々な音楽の知識を教えてきた。何人もの生徒がデビューを果たしたが、そのたびにこうやって感極まり泣いてしまう。隣で涙を拭いてあげるシャンクスとベックマン。
会場でのチケットの抽選に外れた赤髪海賊団メンバーは、レッド・フォース号の甲板にてスクリーンを張って、映像電伝虫でのライブ中継で開演を待っている。一団の真ん中には、ゴードンにも負けないほどの涙を流す、猫のぬいぐるみを抱いた赤と白の髪の毛をした美女がいる。
「あの子が…こんなに立派なドレスを着て…きれいな服が好きだったからな…」あの時の大佐は中将になり、映像電伝虫でライブを見守っている。
観衆は会場内外問わず、サイリウムなどの応援グッズを持参してライブを心待ちにしている。
いよいよ開演一分前、ライブの主役のロミィは共に歩んできたマーチに語りかける。
「マーチのお陰でここまで来れたんだよ。いつも安心させてくれて、大切に想ってくれてありがとうね。」
自分にも言い聞かせるように、優しく声を掛けて。最後にマーチを撫でると、椅子の上に座らせて、ロミィはステージへと向かって歩き出した。 - 21122/09/16(金) 04:01:23
ありがとうございました。みんなに幸せになって欲しいな
これから寝て、起きて体裁を整え次第、Pixivにも上げる予定です。 - 22二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 07:47:46
いい…すごくいい…
- 23二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 07:54:11
朝からいいss読ませてもらった…
- 24二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 08:20:51
🍢🔫🐉
🔥
🥘
見事な神SSとお前は語り継がれる.... - 25二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 08:57:16
ターがお持ち帰りをお願いしてたり、相部屋って言われてたりってそういうことだったのか…ちょっとほろっときた
- 26二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 09:44:03
- 27二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 13:22:53
ウタちゃんが覚えていてくれてたの…なんかすごくいい…
「憧れの歌手は?」みたいな質問で名前を挙げられて、海賊団からお祝いされてるといいな - 28二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 15:31:20
夜のシーンがすごく好き
月とか星の描写が好き - 29二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 17:55:32
- 30二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 18:08:08
ウタちゃんがライブを見てるの好き
- 31二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 19:33:49
ロミィが本当にけなげだ…
- 32122/09/16(金) 21:45:10
- 33二次元好きの匿名さん22/09/16(金) 23:02:03
- 34二次元好きの匿名さん22/09/17(土) 00:18:11
ちょっと涙が出てきた 大好きって純粋な気持ちがたくさん出てきてよかった