【閲覧注意】【CP注意】ここだけ本編後生き残ったウタが

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 07:29:56

    見聞色に目覚め、シャンクス達、ゴードンからの家族愛を伝わったが、それはそれとしてルフィの想いもウタに流れて来て、ルフィからの愛を独占したくなってしまった世界

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 07:33:09

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  • 3二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 07:34:53

    続けて?

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 07:37:19

    ずいぶん未来をさっき見た

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 07:37:58

    ええやん

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 07:39:05

    ぼくに才能は無いんでみなさん後は頼みます

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 08:12:12

    このレスは削除されています

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 08:16:44

    どこかに文豪はいないのか

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 08:22:21

    新時代を、つくろう。
    罪を償おう。
    苦しんでる人たちを救おう。
    ──もう、■■たい。

    ──失敗した。
    オマケに■■たくても■■られないようだ。
    自分のことだから分かる。
    何もかもうまくいかない現実に嫌気が差す。

    せめて、解放してくれた幼馴染にひと言恨み言でも言おうかと思い、ウタワールドに残すことにした。
    逆恨みだとしても。
    そう決め、ルフィに話しかけようとして──

    なにか強く大きな力と笑い声を感じる。
    それはどこか温かく、ずっと昔に無邪気に駆け回っていた頃を思い出すような、懐かしい気持ちにさせてくれた。

    「──え」

    ────「離れていても、ずっと一緒だ」「家族の時間を邪魔しないでもらおうか」
    ────「天使の歌だ」「あの子が報われない」
    ────「おれのパンチはピストルより強いんだ」「海賊は唄うんだぞ」「...強くなりてぇ!!」「ゴムだから」「仲間がいる"よ"ッ!!」

  • 10二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 08:46:14

    「待って、待ってッ!」

    言葉で制止を求めるが、その裏腹に続きを求めてしまう自分がいることに気付いた。
    昔読んだ本の共感覚というものなのだろうか。
    彼らの想い、軌跡が見え、自分の中に流れ混んでくる。

    ──もう気軽に動けないのに、自分のために駆けつけてきてくれた家族である大好きな父とその仲間達

    ──すべてを失ったのに、その元凶でもある少女を憐れみ支えてくれたもうひとりの父であり、音楽の師とも呼べる元国王

    そして───夢を誓いあった海賊王を目指す新時代の皇帝、大事な幼馴染

  • 11二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 09:02:49

    来たか…神SS

  • 12二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 10:13:17

    閃光のように駆け抜けながらも心の中に焼き付いていった、未知/冒険/人生の数々は、お前は世界を知った気でいるだけの小娘だという事実を突き付けてきた。

    同時に、海に出て冒険へ胸を踊らせた幼き頃の思い出が蘇り、愛してくれる人たちの想いも心を抉る。

    「...なんで、なんでよ。今更──知りたくなかった」

    嘘だ。
    しかし、世界の歌姫ではなく、ひとりの音楽家として、娘として、幼馴染として愛してくれた人たちの想いを知り、もうグチャグチャだった。
    ファンへの感謝の気持ちと苦しんでる人たちへの救済への想い、贖罪への感情、夢の世界への逃避願望に板挟みにされ、さらに自分への愛がたしかに伝わってくる。

  • 13二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 11:15:57

    「そうだ、ルフィ。ルフィに謝らなきゃ」

    夢を否定した。大事な仲間を傷つけた。
    受け継いだ宝である麦わら帽子を破った。
    殺そうとしてしまった。
    それでも殴ろうとはせず自分を見て止めようとしてくれた幼馴染に、謝罪と感謝を伝えなくてはいけない。

    それだけじゃない、元凶である自分を育てて見守ってくれたのに、酷い仕打ちをしてしまったゴードンにも同じことを伝えなくてはいけない。
    元々、シャンクス達に感謝と謝罪を伝えたかった。
    逃避への想いは未だ残るが、現実でもやらなくてはいけないことが増えてしまった。
    その事実への可笑しさと自分勝手さに嫌気が差しながら、せめて今は幼馴染に会おうと思い、駆け出す。

    「ルフィッ、ルフィッ!」

    息が苦しい。何故かウタワールドが正常に機能せず、自分の能力なのに思い通りにいかない。そのことに歯がゆさを抱きながらも進む。
    ルフィだけじゃなく、現実にいる家族にも伝えなくてはいけないことがたくさんある。とても忙しく、止まっている暇はない。

    「…ハァッ、ハァッ。あ、居たッ!」

    幼馴染は井戸に背中を預け、死んだようにそこにいた。

    「ルフィッ!」
    「…ウタ、か」

    直ぐ側に駆け寄る。見るからに酷い傷や生気を失ったように萎びた雰囲気を出している。
    それでも生きていることが分かる。

  • 14二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 11:19:51

    朝から良いもん見たぜ!

  • 15二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 11:35:34

    「…ルフィ、ごめんなさい」
    「夢を否定してごめんなさい。友達に酷いことしてごめんなさい。帽子を破ってごめんなさい。たくさん酷いことをしてごめんなさい」

    他にも言わなきゃいけない、謝らなきゃいけない、伝えなくちゃいけないことが山程ある。
    ルフィ以外にも会って伝えなくちゃいけないことがある。なのに、謝罪の言葉しか出てこない自分が恨めしかった。

    「良いよ。でも、もうやるなよ。おれの仲間にも一応謝っとけよ」
    「うん。ルフィ、ほんとうに──」

    「あとよぉ、ウタ。お前、顔がとんでもないことになってるぞ」
    「え、あ──」

    言われてやっと気付いた。泣いたため、化粧がグチャグチャになってるし、オマケに走ったせいで汗だくで髪も乱れてる。世界的歌姫がなんてザマだ。しかも幼馴染とはいえ人前でする恰好ではない。
    けど、怒りが先に出た。

    「うるさいっ。ほんとガキね!こういう時は指摘しないものなの!デリカシーが無いんだからッ!」
    「急に怒るなよ〜」

    ルフィは嫌そうな顔で言う。
    ──それは、十二年前、大人達に見守られながら過ごしたフーシャ村を思い出すような、やり取りで…。
    どうしょうもないことをしてしまったのに、懐かしさに笑いが込み上げて来てしまった。

  • 16二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 12:12:42

    「ねぇ、ルフィ。ほんとうに、強くなったんだね」
    「当たり前だろ。おれのパンチはピストルみたいに強いんだ」
    「うん。その通りだった」

    ウタワールドであれば私は最強だが、一方的に彼の旅路を目の当たりした今では、その前提も覆されるのではないかと感じる。あんなのに殴られたらひとたまりもない。

    「殴らないでいてくれて、私を止めようとしてくれて、───ありがとう」
    「…あぁ。シャンクス達とも話すんだぞ」
    「…うん。分かってる」

    けど、この夢の中では、彼と時間を共有したい。
    過去に殺戮を起こし、今回も身勝手さのあまり大事件を引き起こしたことへの罪の意識が残るのも、未だ変わらない。逃避願望も消えたわけではない。
    ──なのに、何故こんなにも、胸が温かくなるのだろう。こんな気持ちに名前を付けるのなら、それはなんだろう。
    家族である赤髪海賊団やゴードンともまた違う、けど似た想いを感じる幼馴染から伝わってくる感情に心が熱くなる。

  • 17二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 12:58:13

    時間の限り話せることを話した。
    現実から逃げ切ることは出来なかったけど、それでも得るものはあった。
    色んな人への申し訳ないという気持ちと、強い想いが留めなく溢れて堪らない。

    「…ねぇ、ルフィ。現実でも会えるよね」
    「…死なずに、済んだのか?」
    「…うん、そうっぽい」
    「じゃあ、生きてる限り、会える可能性は無限にあるな」

    逃げられなかった。なのに、今はそれが嬉しくてたまらない。何故か涙が溢れて止まらない。それがなんだか恥ずかしくて、彼の胸に顔を押し付けた。

    「ウタも、泣き虫になっちまったなぁ」
    「な──うるさいっ。泣き虫ルフィ。私はアンタより歳上なんだから敬いなさいッ!」
    「何だとー!」

    ふざけたやり取りを何度も繰り返してしまう。
    胸に耳を押し当てる。心臓の鼓動が聞こえる。この鳴り響く音楽が新時代の幕開けになるのだと予感し、少し悔しさと彼の幼馴染であることが嬉しく感じる。
    待っているのは地獄だ。それも自分の手で築き上げた。たくさんの人に後ろ指さされ、予想も付かない怪物がうじゃうじゃいる大海原に帰還するというのに──何故、こんなにも胸が熱くなるのだろう。

  • 18二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 13:48:37

    ──「背、伸びたね。抜かされちゃったから、身長対決は私の敗けかな」
    ──「じゃあ、おれの185連勝目だな」
    ──「はぁっ?この1勝は認めてあげるけど、それまでは私の連勝だから。184勝1敗」
    ──「何だとー!戻ったら覚悟しろ」
    ──「いいよ、返り討ちにしてあげる」

    ……もうすぐ、この時間も終わる。
    目が覚め、現実に戻る。けど、もう少しだけ、この一瞬だけは──

    ──夢の中に居させて

  • 19二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 14:06:13

    ウタちゃんゴメンな。
    ちょっと曇ります。

  • 20二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 14:43:16

    ──夢を見ていた。恐ろしい魔王に囚われた私を解放するために、海を踏破する海賊達と、それを束ねる2人の皇帝が立ち向かう夢を。ひとりは赤髪で隻腕の剣士。
    もうひとりはよく見えなかったけど、白い姿と雷に照らされた影は……麦わら帽子を被った少年に見えた。

    ──「だか…麦わら屋…は…達…じゃねぇ!──何だ?!」
    ──「起きろぉッ!ク…ゴ厶!。ウ…ちゃ…に挨拶……ッ?!アレは…」
    ──「ク…父ィ!必殺鉛……」「辞め…ウソ……」
    ──「……悪ィ……フィ。貰う……爪……」
    ──「ニワトリく…がもう限界……死んで…まう……」
    ──「医…〜!お…だ〜!!」
    ──「…アウッ…サニ…号に急……」
    ──「ヨホ…一難去ってまた……」
    ──「ごめんなさ……巻き込むわけには……。みんな……はや……」
    ──「モ…タ……てる場合で…そう…のう」


    ──心地良い眠りを妨げるような、音が響く。
    少し不快に感じながらも、眼を覚ます。そこには家族である赤髪海賊団の皆と、ゴードンが居た。

    『…ウタァッ!』
    「……シャンクス……みんな」

    シャンクスを筆頭に大の大人達が抱きしめてくる。嬉しいけど、ちょっと苦しい。

    「苦しいよ、みんな」
    「……すまん」

    なんとか離れてもらう。体中が痛い。苦しい。けど、現実からの逃避は今のところ無さそうだ。今は、伝えたい想いを伝えたい人達に伝えないと。

  • 21二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 15:06:51

    「……シャンクス…みんな……恨んで、ごめんなさい。12年前、私を助けてくれて……ありがとう。もう、気軽に動けるわけじゃないのに…また、駆けつけてくれて、ありがとう」
    「…ゴードン、12年間私を支えてくれて、ありがとう。酷いことして、ごめんなさい」

    やっと……伝えられた。離れていても想ってくれる、側に寄り添ってくれた家族に感謝と謝罪の言葉を伝えられた。
    涙でぼやけてよく見えないけど、周囲から鼻を啜る音がする。大の大人達が泣いているらしい。何だか笑いが込み上げてくる。

    「…そういえば、ルフィは?見当たらないけど、どこにいるの…?」

    ここはエレジアの建物の物陰のようだ。ルフィは何処にいるのだろう。ウタワールドで聞こえた“声”も今は響かない。

    「…ウタ。ルフィくんは……」
    「いや、ゴードンさん。俺から話す」
    「シャンクス……」

    シャンクス達がどこか申し訳無さそうな顔をしている…嫌な予感がする…まさか。

    「ウタ……すまない。ルフィ達は……」

  • 22二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 15:26:03

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  • 23二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 15:39:12

    シャンクスから聞かされた話は、私の心を沈ませた。

    『エレジアに来る前に、ルフィ達は百獣海賊団と交戦し、勝利したらしい。しかし、その総督である四皇のカイドウは傷を癒やし、単身ルフィに再戦を挑みに来た。それに巻き込ませないために、カイドウを引き付けようとルフィとその仲間達は船に乗り込み、エレジアを出発した。……すまない』

    手を貸したいが、島を巻き込むわけにはいかないという想いと、同じ四皇であるシャンクスが不用意に接触してはいけないと、今にも泣き出しそうな顔で伝えた。

    ──夢の中で交わした会話が頭に過ぎる。忘れられるわけがない。あの、胸が熱くなる感覚も未だに残っている。直に聞いた新時代を告げる鼓動も。なのに、この苦痛が伴う現実では言葉を交わすことが出来ないという事実を、受け止めきれずにいた。

    「…ルフィは、私になんて言ってた……?」

    せめて、彼からの伝言が聞きたい。最後に交わした会話が夢の中だなんて、とても嫌だった。
    シャンクスはそれでも泣きそうな顔のままだった。

    「…アイツは、この島を出るまで、目を覚ますことが無かった。だから、何も伝言を預かってはいない…」
    「そんな…」

    これが報いなのだらうか。海賊として、命の奪い合いに向かった以上、帰ってくる保証は無い。やっと家族に言葉を届けられたのに、今度は幼馴染と現実で触れ合う機会が訪れないかもしれないということに目の前が暗くなる。

  • 24二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 16:09:38

    自分勝手でどうしょうもない。惨劇を2度起こしたというのに、目の前にぶら下げられた希望を取り上げられたらこんなにも心が昏くなる。私はこんなにも醜い人間だったのか、と心が沈みかけた時、シャンクスは声をかけてくれた。

    「けど、これを預かっている」
    「何、これ」

    袋のようなものにその細長い何かが入っている。

    「ルフィの爪だ。アイツの仲間の一人から貰った。これでビブルカードを作れば、アイツが何処に行ったのかが分かる。少なくとも二度と会えなくなるわけじゃない。あとは、一度カイドウに勝利したアイツらを信じよう」
    「ビブルカード……」

    私は一欠片の希望と彼らの力を信じることしかできないようだ…。

    「お頭ァ、お頭が動けなくても最悪おれ達が向かうぜ、ウタと離れちまうのは寂しいけどな」
    「お前ら、起きたルフィに会いたいだけだろ。あと、ヤソップが死にそうな顔してるぞ」
    「ギャハハ、違ぇねぇッ!」
    「ウソップに滅茶苦茶怒られてしんどいのに、また会いに行くのか…」
    「今まで放っておいてあの程度で済んだのはむしろ奇跡だろ」
    「うるせー!」

    私も戦えれば、幼馴染の力になれたのだろうか。
    ただ信じて待つというのは、とても苦しいことを思い出した。

  • 25二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 16:44:57

    …そこからの流れはあっという間だった。
    まず、赤髪海賊団は一度縄張りとしている拠点に戻り、体勢を立て直すらしい。ベックマンが「頭が大慌てで出向したから色々不足しているため、急いで戻る」とのことだ。……私も、シャンクス達に着いていくことに決めた。その道中にどこかの島に寄るか、帰還した場所でビブルカードを作成するらしい。

    ゴードンは別の島で暮らすことになり、そこで音楽を教えるらしい。数日中に迎えの船が来る予定とのことだ。シャンクス達の出航の方が早く、私は先にエレジアを出発することになった。

    荷物を纏めたり、最後だから宴をした。それでもルフィ達のことが気に掛かり、荷物に仕舞った彼の爪を頭の中に思い浮かべ、心の拠り所の1つにした。こんな自分が少し嫌だった。選択肢をたくさん間違え、大惨事を引き起こし、ファンを裏切ってしまった。そのうえ、見守ってくれる家族に励まされながら、また別の希望に縋るなんて、こんなにも弱い人間だったのか。
    みんなが気を使っているのが伝わってくる。嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ち、少しの焦燥感が私を支配する。

  • 26二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 16:51:37

    しえん

  • 27二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 17:33:45

    その日の夜、また、不思議な夢を見た。
    目を背けたくなるような恐ろしい龍に立ち向かう、ひとりの海賊。
    どこか既視感を覚える、麦わら帽子を被り、上着を纏い、多くの仲間と共に戦いを繰り広げる、そんな夢を。
    『おれか──』
    『──おれは、海賊王になる男だ』
    私は、夢が覚めるその瞬間まで、その背中を目に焼き付けた。
    ■■■
    出航当日になった。ゴードンと最後に別れの挨拶をする。
    「ゴードン。今まで、私を育ててくれて本当にありがとう。あなたは私の、もうひとりのお父さんです」
    「そう言ってくれただけで、私も幸せだ。ウタ、離れていても、私は、君の幸せを願っている。…私の方こそ、ありがとう。……欲を言えば、今度こそしっかり君の歌が世界中に届いてほしいと思っているよ」
    「──う゛ん。ごべん゛な゛ざい…ぼんどう゛にあり゛がどう゛」

    ゴードンを抱きしめる。彼は堅気で私はもう犯罪者だ。二度と会えないかもしれない。今まで過ごした時間が脳裏に過ぎる。どれだけ迷惑をかけたか、どれだけ支えてもらったか。私は何か少しでも彼に返せたのだろうか。今になって後悔が押し寄せてくる。

    「ほら、もう行かないと。君を待っている人がまだ、たくさんいる。君の人生は、始まったばかりなのだから」
    「う゛ん」

    私は背を向け、船に向かって歩み始めた。
    12年間支えてくれた家族との別れを噛み締めながら。
    ■■■
    「ゴードンさん、12年間、本当にありがとうございます。なんと言えば良いのか…」
    「構わない。元はと言えば、あの楽譜を処分しなかった私に責任がある。…今度こそ、彼女の手を離さないであげてくれ。しかし、娘のような存在と別れるのは辛いが、シャンクス、君達とももう二度と会えないかもしれないと思うと、寂しくなるな」
    「…俺もです」

    …一瞬だけ、シャンクスの視界が滲む。眼の前がうまく見えなくなったが、ゴードンがサングラスを外し、目元を擦るような動きをしているのを見た。

    「…ありがとうございました」
    「あぁ、こちらこそありがとう」

    2人とも、最後は笑顔だった。

  • 28二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 18:09:43

    続き待ってる

  • 29二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 18:49:13

    船出は今のところ順調であり、問題は何も無い。出向の際、別れ際に予想外の切なさを抱いたが、それも無法者である自分には勿体無いぐらいの思い出だ。
    あと1日で拠点に着き、ビブルカード作成に取り掛かれるだろう。娘のためにも早めたいが、それでしくじれば大惨事になる。ここは、新しい時代とも言える彼らの力を信じることにした。
    ふと、左腕が疼く。思わず抑えてしまい、12年前のあの日を思い出す。

    ──「おれは、この一味を超えるほどの海賊になって、ひと繋ぎのの大秘宝を見つけて」「海賊王になってやるッ!」

    あの子供が、今では自分と同じ四皇の一角であるカイドウと渡り合うほどの成長を遂げたというのが、どこか嬉しかった。ある事情から、再会はまだ出来ない。しかし、娘と彼を会わせるぐらいはしていいはずだ。

    甲版を見れば、歌唄う娘に合わせてモンスターやルウ、他の船員も唄い、踊っている。必要以上にはしゃいでいるように見えるが、気の所為では無いだろう。もう二度と会えないと思っていた娘と再会し、共に航海しているなど、夢のような出来事だ。ウタには少し陰りが見られる。まだ万全とはいかなくとも、自分も父親として元気付けなければいけない。

    「おーい、おれも混ぜてくれーッ!」
    「シャンクス、お酒臭いからヤダー!」
    「振られてるぜ、頭ー!」「ギャハハ!」

    ──船は行く。天候は変わらず晴れ、風は吹いていた。彼らを祝福するように。

  • 30二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 18:55:19

    なるほど〜〜〜

  • 31二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:08:42

    ごべーん。スマホで書いてるから、実は電池がそろそろ尽きそうなんだッ!
    続きはまだ予定してるけど、それでもまた、読んでくれますか?!

  • 32二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:09:49

    (腕を掲げる)

  • 33二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:14:07
  • 34二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:32:37

    映画見たときシャンクス達が罪を被って出航したときの様子が辛かったわ。
    何だお前ら、SMILE食ったみたいな笑い方しやがって…。

  • 35二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 19:56:50

    >>31

    いつまでも楽しみにしてるぞ!

  • 36二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:36:59

    保守

  • 37二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 21:16:11

    「ハキ?」
    「あぁ、そのうちの1つ。見聞色の覇気と呼ばれる力だろう」

    拠点に到着し、明日にはビブルカードが作成できるということで、待機することになった。
    この日はシャンクスは赤髪海賊団の大頭として各方面として顔出しをしなければいけないらしく朝早くから。いない。…昨夜愚痴りながらお酒を飲んでいたため、二日酔いになっていた。四皇?の一角がそれで大丈夫なのだろうか。娘としては少し心配だった。
    偶然いたベックマンにウタワールドで最後にルフィと話す前に起きたときのことを尋ねてみた。

    「強い力によって覚醒するとも言われている。おそらくもともとあった素質が開花したんだろう」
    「じゃあ、相手の感情や気配を察知する力で、その記憶とか感情は直接知れるわけではないのに、私が見たのはいったい…」
    「…俺の推察だが、恐らく元々備わっていたウタの能力と見聞色が組み合わさり、そのような現象が起きたのかもしれない」

    ベックマンには、あのとき最後に起きた現象を説明した。もちろんシャンクスには黙っているようにしっかり言い聞かせて。

    「おれもお頭に相談しておこう。自衛の手段はあって損は無いはずだ」
    「うん。ありがとう。あともうひとつの…」
    「夢のことだな」

  • 38二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 21:17:18

    …そうだ。最近時々見る夢には必ず、麦わら帽子を被った少年が出てくる。あれはただの夢ではない、そんな予感があった。普段見る夢は、楽しかった幼少の頃、海を駆け巡った冒険、上陸した島の探索、フーシャ村での日々、──エレジアで起きた、運命のあの日。その延長線の日々。
    あの時とは違う、明らかに違和感があった。まるで──“目覚めたまま見る夢”のような。ウタワールドで起きた時と似た現象だが、あの時は体を動かせていた。
    麦わら帽子の少年が出てくる夢は必ず体は眠っていると分かるのに、まるで文字通りそこにいるような感覚を私に抱かせた。

    「おそらく、それも能力と複合しているのかもしれない。強い見聞色の力とウタワールドの力が組み合わさることでその夢を見ているのかもな。元々もうひとつの現実を知っているからこそ、起きているのかもしれない」
    「…そうなのかな」

    船の上でも少しずつ学んでいったが、未だに知らないことだらけだ。

    「少しずつ知っていけばいい。幸い今は余裕がある」
    「うん。ありがとう。ベックマン──けど、さっきも言ったけど…」
    「分かってる。流れてきたものはお頭には黙っておく」
    「それのおかげで、色々気づけて嬉しいし、みんなのことをもっと好きになれたけどね。まぁ、それで良し。私、部屋に戻るね」
    「あぁ」

    私は、念の為もう一度釘を刺し、部屋に戻った。作詞・作曲活動や世経を読みながら世間のことを勉強、能力を自衛に使えないかなど、やるべきことはたくさんある。
    ──少なくとも、これらのおかげで罪への意識や逃避願望を強く意識しないでいられる。

    ■■■

    ベックマンは一度煙草を吸い殻に押し付け、隠れていた男に声を掛ける。
    「だとよ、お頭」
    「ウタァッ!おれは今も愛してるぞぉッ!よし、今日は宴だぁッ」
    「……アンタ、二日酔いじゃなかったのか」

  • 39二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 22:59:43

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 01:53:28

    ベックマン何やってんだお前ぇ!(建前)
    ナイスゥ!(本音)

  • 41二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 08:51:53

    保守

  • 42二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 13:16:05

    【プリンセス・ウタ、世界の7割を巻き込んで心中自殺?!】【四皇 赤髪のシャンクスの娘】【海賊の子はやはり海賊だった?】【麦わらのルフィとの関係は】

    …世界から見れば、私は人類の7割を別世界に拉致し、心中させようとした犯罪者だ。ライブを行うと決断したあの覚悟を否定する気は無く、罪の意識と逃避願望、ファンへの申し訳無さは未だ消えないが。それでも今は、身近に愛してくれている人を優先し、世界を知ることにしている。出来るだけ距離を取ることで、あまり悩まずに済んでいる。
    歌うことは好きだ。新曲作成も欠かさず行っている。しかし、今は世界中を歌で平和にするというのは少し休止していた。私は世の中をもっと学ぶ必要がある。ファンからすれば、私は酷い裏切りをした海賊の娘でしかないだろう。トーンダイアルによって込められた歌を聞いてくれている人は今もいるらしいが、配信をする気は無い。今の私は赤髪海賊団の音楽家としての立ち位置と幼馴染との再会を重きに置いていた。
    …たまたま運良く治療が間に合い、奇跡のようなタイミングであの“現象”が起きて、現実を生きようと思えただけで、夢の世界に逃げ切っていた可能性は充分あったはずだ。

    「…体は生きてるけど、世界の歌姫としてはもう死んだようなものだよね、これ。新曲作るか」

    ウタワールドは今もこもるときはあるが、私は以前のような理想世界だけでなく、色々なものを足すことにしていた。中には何が楽しいのか、理解できないこともあるが、これも勉強だと少しでも知ろうとしている。

  • 43二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 13:30:23

    主に参考にしているのは、やはり彼の旅路だ。一方的に知ってしまったことへの罪悪感はあるが、あの瞬間流れた景色と心の揺さぶりは今も私に焼き付いている。
    ──圧制を強いる女海賊、正義を背負い権力と権威に溺れる斧手の軍人、道化の海賊、珍獣が暮らす島、平穏求めた海賊、全身を武装で固めた無敵艦隊の長、偉大なる航路からやってきた怪物、…そして、偉大なる航路への突入、賞金稼ぎが生きる島、古代の時間に支配された島で起きる巨人の決闘、冬に咲く奇跡の桜、英雄を騙る海賊に支配されかけた砂漠の王女のために戦う海賊達とその別れ──。
    他にも神に支配された空島など、数え切れないほどの冒険が彼を成長させていったのだろう。

  • 44二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 14:21:36

    シャンクス達と共に航海した日々を思い出す。
    あの頃と勝るとも劣らない冒険を、私の幼馴染はしてきたらしい。直に触れることで、その島や人々と関わりが彼を大人にしていったのだろう。もちろん昔の良さは残っているが、フーシャ村に出会った頃のようにはなくなっていた。それが、少し寂しく、羨ましい。

    「…会えるよね、ルフィ。あんなに強くなったんだもんね。一度勝った相手なんかには負けないよね…」

    明日の朝にはビブルカードは完成し、受け取る。「命の紙」とも言われるそれがあれば、彼の場所を知ることができる。条件さえ揃えば、会うことだってできると、シャンクスは言ってくれた。

  • 45二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 14:27:23

    >>1

    >>それはそれとしてルフィの想いもウタに流れて来て、ルフィからの愛を独占したくなってしまった

    今さらだけどこれ要は両思いでは?

  • 46二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 14:32:05

    >>45

    ものすごい友愛・親愛の情かもしれない…

  • 47二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 15:06:58

    赤髪海賊団の音楽家として、扱ってもらい、私自身それを受け入れているが、そのまま終える気はない。しでかしたことに対するケジメは不完全に終わったならば、再び新時代を創る。苦痛を伴う現実を生きる人々が、今度こそ笑顔で過ごせるように。

    そして、学んで分かったことがある。
    シャンクスが言ってくれたように、今この世界に平和や平等なんてものは無い。もちろん、またウタワールドに閉じ込めるようなことを計画する気はない。しかし、私の歌で再び新時代を創るには何が必要なのかは手探りだった。知れば知るほど、世界政府、天竜人、略奪を良しとする海賊。多くの苦難が付き纏っている。

    「歌だけで、世界がそう簡単に平和にはならないよね…」

    世経を読むに、私自身を救世主として崇めている層も過去にはいたらしく、今でも少数ながら、存在していた。かつてはその情報に喜んでいたが、今はもし実際その通りに動けば、強い力が私を消しに来るだろう。そんなことになれば、家族にも迷惑がかかる。

  • 48二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 22:04:31

    保守

  • 49二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 01:14:14

    保守

  • 50二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 05:16:19

  • 51二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 07:59:16

    保守

  • 52二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 10:09:00

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 16:08:56

    ほしゅっ

  • 54二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 18:27:07

    保守

  • 55二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 18:31:27

    最後の書き込みから落ちるまでは12時間の猶予があるからそんな連続して保守せんでも大丈夫だぞ

  • 56二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 20:35:48

    …ふと、作業中に浮かぶのはあの流れてきた想いの数々だった。今はもう遠い場所で暮らす、もうひとりの父である家族から貰った想いや、今一緒に生活出来ている赤髪海賊団のみんなからの思いやりは伝わってくる。家族として、娘に対して惜しみない愛情を向けてくれるのが私の心を支えてくれている。そのことを不満には思わないし、嬉しく感じる。それと同時に疑問に感じるのは、幼馴染である彼からの想いだった。
    こんな言い方失礼だが、私自身、ずっと一緒にいれたわけではない。共に新時代を創ると誓い合い、約束を交わし、時間が許すまで競争をした。家族に対して複雑な想いを抱いてしまった過去のあの頃は、彼との日々だけが混じりけない幸福の日々であり、私を突き動かす心臓でもあった。この十二年と比べれば、ほんの僅かな時間でしかない。それなのに、私を見たとき、駆け寄って、笑いかけてくれた。悪事を企む海賊を相手に、身を挺して戦ってくれた。───最後まで、向き合い、止めようとしてくれた。
    なんとなく、新時代の象徴ともいうべきマークを刺繍したアームカバーに触れる。今はもう、遠い、2歳下の幼馴染の少年は、海賊として仲間と共に大海原を駆け巡っている。多くの出会い、別れを繰り返し、楽しいこと、嬉しいことだけではないはずだ。時には崩れ落ちそうなほどの悲劇や災難に見舞われたはずなのに、心を奮い立たせる、仲間と支え合い、立ち上がっていった麦わら帽子を被った海賊。

  • 57二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 20:49:51

    修行や冒険、戦いなど、たくさんの時間を過ごした彼が、この目が回るような十二年間の中では僅かな思い出としか言えない私のことを覚えていてくれた、新時代の誓いを忘れないでいてくれた。あんなに必死になって動いてくれた。家族ともファンとも違う、もうひとつの特別。
    ──もしかして、ルフィは私のことを異性として好いてくれているのでは。

  • 58二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 20:58:38

    来たか

  • 59二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 21:08:36

    「な、何考えてるの、私!?」
    全身が熱くなり、思わず立ち上がってしまう。作業していた机に筆が転がる。
    私は、何を勘違いしているというのか。彼は自由と冒険を求めている。たしかに、仲間や友達など、大切な人のために体を張り、命を懸けて戦ってくれている。圧制者、自由を奪う者に対し、怒り解放を求めてその拳を振るう。たしかに、カッコいいが、特定個人を深く愛するというのは今は、たぶん、無いだろう。──無い、はずだ。
    意地を張り合い、勝負を繰り返し、泣きそうになりながらも着いてきた可愛かった彼は、立派な海賊になっていた。あの流れてきた光景と想い、直に触れたあの時間が大きく成長させていることを証明していた。
    その中に私がいないのが──少し寂しく、その中で関わった人々に対して、羨望と嫉妬の入り混じった感情を抱いてしまう。というか、お姫様や綺麗な人と多く関わっている気がする。それ以外にも、ただそこに居るだけで人々を魅了するような美女とも知り合いになっているのは、同じ女である私として少し複雑な想いだった。──幼少の頃、少し過ごした幼馴染であり、誓いを共にしたが、ルフィの中で私はどれだけ大事なのだろう、と気になってきた。あのウタワールドで流れてきた想いは私を支えてくれているが、それはそれとして、他にも関わった人たちに対する想いと比較すると、どれほどの大きさなのか、私は彼の中でどれほどの深い位置に置いてくれているのか。大事に想っていくれているのは間違いないが、あくまで新時代を誓いあった幼馴染としてでしかなく、私などよりもっと強く感情を抱き、支え合った人などがいるのではないか。思考が止まらない。どんどん彼への想いと不安が加速していた。
    ──私は、どうしてこんな自分勝手なことばかりを考えてしまうのだろう。

  • 60二次元好きの匿名さん22/09/21(水) 21:11:07

    ルフィに拗らせた激重感情を抱くウタは健康に良い

  • 61二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 00:32:03

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 08:18:28

    「切り替えよう。うん。作詞は…」
    思考を落ち着かせようと思い、作業中の机を見れば、その作詞の中にあるのは彼への想いを綴った内容だった。私は何を考えているのだ。無意識で行っていたとすると、いくらなんでもこれは重症なのではないか。一度、ホンゴウさんに相談したほうが良いのだろうか。しかし、この状況を精神的病いとは呼びたくなかった。

    「これは、閉まっておこう」

    捨てる気はない。だが、この曲を唄うのはいくらなんでも恥ずかしすぎる。私が幼馴染のことを強く想っていることが色々な人に伝わってしまうのは、照れる。あくまで、私からの感情は、強い親愛のはず…だ。歳上の意地とも言うべきものがある。

  • 63二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 09:37:07

    保守

  • 64二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 09:43:27

    曲の作成もままならない以上、別のことに集中するべきだ。
    私は、壁に立てかけてあるものを持ち出し、机の上に載せる。最近よくやっていることだ。

    「ルフィ。今日はね、シャンクスが──」

    ルフィ人形に話しかける。何もおかしいことはしていない。新時代を誓いあった幼馴染であり、お互いに大事に想いあっている同士ならどこも変では無いだろう。必ずルフィと再会するためにも練習しなくてはいけない。
    …ルフィ人形と共に笑い、話しかけ、共に眠る。どこもおかしくないだろう。

  • 65二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 09:44:37

    やべえよやべえよ……

  • 66二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 09:57:26

    エレジアで起きた運命のあの日から、その延長線の日々を思い返す。あのとき、少しでも外を知り、何か別の行動を取っていれば、変わっていたかもしれない。
    だが、そうすると今のようにはいかなかっただろう。
    少なくとも、愛してくれている人たちの想いを直に知ることは出来なかった可能性がある。
    それでも思うのは、このやり取りだ。
    あのとき、このようにルフィ人形を作って話しかけるという行いを繰り返していれば、私は配信以外にも生き甲斐を得られたのかもしれない。過去ばかり振り返るのは駄目だと分かっていても、そう思ってしまう。

    初めはルフィ以外にもシャンクス達や、ゴードンの人形も作ろうと考えたが、離れていても愛してくれている、常に一緒というわけではないが、共に暮らし、笑い合うことができているこの生活に満足していた。
    あとは、ルフィと現実で合うことが大きな目標の1つだ。彼と現実で会い、改めて彼の冒険のを聞き、今度は私の歌を聞いてもらう。欲を言えばまた昔みたいに競争がしたい。もう男女差ではっきり勝敗が掛け離されてしまうかもしれないが、譲る気は無い。全身全霊で食らいつく。
    これはそのための、大事な一歩だ。

    「やだ、止めてよ、ルフィ。アンタらしくないってば。島でナンパしてる時のベックマンみたいなこと言わないでよ。嬉しいけどさ」

    私は、何もおかしいことはしていない。

  • 67二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 11:57:03

    なんか聞こえちゃってる…

  • 68二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 12:00:35

    茸キメてね?

  • 69二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 12:31:45

    あれおかしいなちょっぴり不穏

  • 70二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 15:15:11

    ウタワールドは私にとってもうひとつの世界なのは変わらないが、出来るだけ現実での体験も知るようにしている。内面の幸福をさらに拡大するために、私はもっと多くのことを知らなくてはいけない。一方的に知るのではなく、自ら触れ、行動することも忘れないようにする。先行きは見通せないが、何度でも足を前に踏み出そうと思う。
    もう一度、新時代を創りたいから…。

    だから、今日も私はルフィ人形と戯れる。彼への想いを落ち着かせるためにも始めたこの行いは、いつの間にか更に想いを深くさせていた。
    罪深い未来の海賊王だ。私も同じくらい罪深いが。

    ──はやく現実のルフィに会い、色々なことをしたい。ずっと一緒に居られないからと、少し困らせてみたい。…優しさに付け込むようで、罪悪感に見舞われているが、同時に幼馴染としての暗い優越感に心が浸る。
    …駄目だ、思考が欲に塗れてしまっている。一度心を落ち着かせるために、別に作成していた12年前のフーシャ村に居た頃のルフィ人形で心を落ち着かせなければいけない。今のカッコいいルフィ人形ではなく、可愛かった頃なら冷静な思考を保つことが出来る。

  • 71二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 18:41:04

    大丈夫?本物に会ったら気絶しない?

  • 72二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 18:43:32

    おtintinが破裂してしまう!!!

  • 73二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 18:53:25

    明日には、ビブルカードを受け取り、ルフィの居場所を知ることが出来る。シャンクスはまったく何も無いというわけではないが、怖いぐらい平穏だと言っていた。私もそれを信じ、彼との再会を楽しみに待っている。飛んで行くことは出来ないが、何とか予定を擦り合わせてくれるとシャンクスは言ってくれていた。
    ──父達赤髪海賊団には頭が上がらない。

    私は、翌日に備え、ルフィ人形と共に床についた。

  • 74二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 19:03:52

    問題は翌日に起こった。

    ──私が受け取った、ルフィのビブルカードは、焼け焦げて半分しか無かった…。

  • 75二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 19:13:14

    カイドウにやられたか

  • 76二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 20:16:06

    ウタがビブルカードを見せて、状況が変わったという事ですぐに動き出す事になりそうだ

  • 77二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 20:20:26

    半狂乱になってそう…

  • 78二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 22:24:55

    ──…いで……療する……
    ──…イド……は完全に堕ち……
    ──麦……屋……を早……乗せ……
    ──トラ……立って……休……
    ──…タちゃ……に……なん……言え
    ──…で……ッグ……マ…が来やがっ……
    ──ル……輩……生ぎ…ぐ……

    ■■■

    私は今、部屋に入れられている。
    悪く言えば、軟禁に近い。ようやく落ち着くことができたが、今も血が滲み出るくらい手を握りしめ、アームカバーの象徴にしがみついている。

    ──ビブルカードを受け取った時、付き添ってくれたライムジュースが険しい顔付きになり、『ルフィがヤバい』と言っていた。
    どういう意味なのか知りたかったが、急いで拠点に戻り、シャンクス達に話すことになった。

    …ビブルカードがこのようになっているのは、命の危機に瀕しているから。ルフィは死んではいないが、危ない状況だと告げられた。

    ──『海賊か。海賊なら、出てけッ!』『このマークを新時代の象徴にしよう!』『おれだって歌えるぞ!』『お前、ウタだろ?おれだよ、おれ』『娘がこんなことやってるのに、シャンクスが黙ってるわけねぇだろうがァッ!』『違う、おれの183連勝中だッ!』

    …気付いたら、駆け出し、余っていた小舟を引っ張り出していた。

    「ウタッ、どこに行く気だッ!」
    「ルフィのところに決まってるでしょッ!?シャンクスの船を動かすわけにはいかないから、これ借りるねッ!」

    私は何を呑気なことをしていたのか。急いで向かわなければいけない。海賊である以上命の奪い合いは付き物など言っている場合ではなかった。最後に交わした会話のやり取りが夢の中だなんて嫌だ。

    「冷静になれッ!そんな小舟でこの海を渡るなんて無理だッ!ルフィの元に辿り着く前に沈没するぞッ!」
    「関係ないッ!離してッ!ルフィに会わせてよッ!」

  • 79二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 23:05:58

    保守

  • 80二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 23:15:20

    特別な一人に向ける独占欲っていいよね

  • 81二次元好きの匿名さん22/09/22(木) 23:36:23

    シャンクスやベックマンが必死に止めてくるが、私はこんな悠長なことをしている余裕などない。
    家族とも違う、しかし大事に想ってくれる幼馴染を失いたくなかった。話したいことがたくさんある。触れ合いたい。苦痛を伴う身体でもう一度向き合いたい。あの頃のように、笑い合い、一緒に遊びたい。
    …もう一度、ルフィに会いたい。

    どうにか振りほどき、私は船に飛び乗ろうとして、

    「あ」

    足を引っ掛けて、海に落ちた。
    同時に頭部に衝撃と痛みが走る。

    『ウタァッ!』

    ──少女は海に沈んでいった。

    ■■■

    目を覚ましたら。ベッドの上にいた。
    私の部屋であるが、窓は開かないようになっている。
    嫌な予感がし、部屋を開けようとするが、閉まったままだ。何かで扉を固定されている。

    「誰か!いないの?!開けてよッ!」
    「キキーッ」
    「モンスター?お願い、開けて。もう飛び出したりしないから」
    「ウキキーッ」
    「駄目?もう落ち着いたよ。お願いだから」

    何度か懇願するが、モンスターの返答は断るばかりだった。
    どうしても開けてくれないようだ。
    窓から脱出使用にも固定されており、使えない。

  • 82二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 00:36:50

    期待して待つ

  • 83二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 01:06:57

    少し待っていると、扉の隙間から新聞が入ってきた。モンスターが気を利かせて入れてくれたらしい。
    新聞にはこう書かれていた。

    【百獣のカイドウ、陥落!?】【追いついた百獣海賊団残党】【ビッグマムの船現る】【麦わら大船団・百獣海賊団・ビッグマム海賊団の三つ巴!?】【5番目の皇帝、ついに四皇入りか】【謎のドームの出現と消滅した軍艦】【機械仕掛けの魔人が現れる】

    「…何が起きてるの?」

    …相手はカイドウという存在、1人だけではなかったのか。

    …ビッグマムといえばライブにもいた人達の関係者だろうか。

    …麦わら大船団というよくわからないが、ルフィの友達ということなのか。

    情報が多する。早くルフィの元へ行きたいのに、置かれた状況と入ってきた情報が私を混乱させていた。

    ビブルカードを見る。ルフィはまだ生きている。焼け焦げた状態なのは変わらないが、燃え尽きていないことから命は失われていないということだ。
    情勢が動いており、浅慮で行動してはいけないということは理解する。
    …それでも。

    「…無事でいることしか祈れないなんて嫌だよ。待ち続けるのはもう嫌……」

    愛してくれる家族が側にいる。離れていても想ってくれる家族もいる。それでも、今はまだ足りないと求めてしまう。
    部屋に置いてあるルフィ人形を見つめる。ウタワールドでルフィを創造する気にもなれない。もう一度、肉体越しでルフィに触れたい。彼の話を聞き、密かに計画している、やってみたいこともある。

    それでも、会えなければなんの意味もないのだ。

  • 84二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 02:28:45

    保守

  • 85二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 09:57:44

    涙を堪えられず、ルフィ人形を抱きしめる。
    色々なものが決壊してしまい、もう駄目だった。

    私を置いて行きたくて置いていったわけでは無い。そもそもルフィは意識が無く、あのまま残っていれば私達も巻き込まれる可能性があった。
    そう思い、ビブルカードを拠り所にし、何とか平常心を保ち続けた。

    12年前とは違い、そばには家族もいる。
    もうひとりの父親とも言うべき人も、愛してくれていることが分かる。
    これ以上望むなんて贅沢にもほどがある。
    そもそも、私自身、取り返しの付かないことをしでかし、生き延びた犯罪者だ。

    ──それでも

    「嫌だ、もう会えないなんて、嫌だよッ!現実でも会うって約束したのに、最後が夢の中なんて嫌だッ!生きてくれないと意味がないんだよッ!」

  • 86二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 11:11:32

    フーシャ村の1か所。かつて彼が住んでいたと思われる一室に私とルフィはいる。

    『…頼む。ウタ、止めてくれ。正気に戻ってくれよ』
    『私は正気だよ。それより動かないで、ほら。狙いが外れちゃうでしょ』

    紐で彼の体を縛り付け、床に倒す。その後、跨がることで動きを更に封じる。力を抑える海楼石でルフィの力を奪う。

    『仲間が待ってるんだよ。行かないと。シャンクスとも約束したんだ。立派な海賊になってこの帽子を返すって。頼む…ウタ』
    『弱虫ルフィにそんなこと出来るの?友達には私が説明するし、ルフィはずっとシャンクスの船に乗りたがってたじゃん。私がお世話してあげるからさ、一緒にいてよ』

    手に持ってる刃物を彼の四肢の1つに狙いを合わせる。振り下ろし、切り離すだけだ。

    『頼むッ!止めてくれッ!元に戻ってくれッ!ウタッ!』

    『大丈夫だよ。ルフィ。私は絶対アンタを見捨てないからね。どこにも置いていかない』
    『独りにしないから』
    『私の創る新時代を見届けてよ。ずっと一緒に暮らそうね』

    力を封じた状態でも死力を尽くせば私など強引に引き剥がせれるはずだ。それをしないのは、もしそうすれば、上にいる私が怪我をする可能性があるから。
    こんな猟奇的なことをしている自分がおかしい自覚はある。
    それでも、こんな状況になっても私を説得し、思いやってくれている幼馴染の優しさが、私の心を更に加速させる。

    ──この優しさを、太陽のような温もりを独占したい。
    ──嫌われてもいい、彼の感情を独り占め出来るなら。

    想いが溢れる。もう我慢できない。
    私は手に握る新時代を告げる刃を振り下ろした───。

  • 87二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 11:31:00

    私の意識は浮上した。
    泣きすぎて眠っていたらしい。何という夢を見ているのか、私は。いくらなんでも狂気的過ぎる。彼の想いを独占したいからと自由を奪い、傷つけるなんて。

    彼がどれだけ自由を愛しているか、仲間との冒険を楽しんでいるか、麦わら帽子の返還とシャンクスとの再会を待ち続けているのか。
    ──けど

    「もし、あんなことしても、ルフィは許してくれる、かな」

    とてつもなく怒るだろう。彼を大切に想っている人たちからも蛇蝎の如く嫌われるはずだ。それでも、感情を向けてくれる。私に意識を割いてくれる。

    …大分不味いことを考えていた。思考を切り替え、ビブルカードを確認する。

    「え」

    ──ビブルカードは以前見たよりも少し減っていた。

  • 88二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 13:34:51

    これ本当にヤバくない?
    何がって、言うまでもないけど…

  • 89二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 15:04:29

    ウタワールド内でやろうとしたことが現実にも影響出たのかこれ

  • 90二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 20:40:02

    いいやルフィを信じるね
    不安も何も全部ぶっ飛ばしてくれるはず

  • 91二次元好きの匿名さん22/09/23(金) 23:20:07

    保守

  • 92二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 00:39:38

    保守

  • 93二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 03:05:41

    hosyu

  • 94二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 09:31:33

    早く続きが欲しいえ~

  • 95二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 14:57:36

    保守

  • 96二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 15:16:46

    「嘘、以前より…」

    私は身動きが取れなかった。ビブルカードがまた少し焼け焦げていたのだ。目をそらしたかった。しかし、これは現実であり、ウタワールドでもどうにもならない事実だった。一刻でも早く、伝え、ルフィの元に行ってほしい。そう思い、部屋を出ようとして扉を開けようとする。扉はあっさり空いた。船はもう動いてるようだ。船内を歩いていくうちに、父親を見つけ、声を掛ける。

    「シャンクスッ!」
    「…ウタ、閉じ込めて済まなかった。今、なんとかルフィの元へ辿り…」
    「ルフィがッ!」

    私はビブルカードを見せる。シャンクスの表情が険しくなったのを確認した。完全に燃え尽きたわけではないが、厳しい状況であることが伝わった。

    「これは…」
    「ルフィ…死んじゃうの…?全然元に戻らないよ。戦いは終わったんでしょ…?もう治療も受けてるんでしょ…?どうしてッ…!?」
    「…たぶん、戦闘のダメージが大きく、今も危険な状態である可能性が高い」
    「……そんなのって!?」

    …現実はどこまでも厳しく、私の前に立ち塞がる。あれだけ抱いた熱い想いも、大切な幼馴染の危機に揺らいでしまう。

    「…ルフィのところには何時着くの…?」
    「あと、1日半あれば辿り着く」
    「1日半…」

    たかが、1日半をこれほど長く感じる日が来るとは思わなかった。私が崩れ落ちそうになり、シャンクスが支えてくれた。

    「ウタ、まともに食事を摂れないかもしれないが、今は…」
    「ううん、何か食べる。ルウさんの所に行ってくる…」
    「あぁ…」

    私は食堂の方へ足を運んだ。ウタワールド──精神の幸福を重んじ、多くの悲劇を招いた自分が現実の肉体を優先するなど、自嘲してしまう。

  • 97二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 15:33:01

    ──…カイド…以外に…来ると…
    ──…よく…生き残…
    ──三つ…で…
    ──四……海…荒れ……
    ──手を貸すべき…た…?
    ──そした…ウ…を巻き込…

    ■■■

    私は目を覚ました。昨日は食事を摂った後、何も手につかず、そのまま眠った。ビブルカードを確認する。昨日見た状態から変化は無い。更に危機に陥っているというわけではないが、傷も癒えてはいないということでもある。

    「…ルフィ」

    シャンクスの言葉が正しければ、あと少しで再会できる。そのはずなのに、どこか不安に感じる私がいた。
    ──彼の元へ辿り着いた時、ビブルカードが燃え尽きてしまうのではないかという想いが私を支配する。
    命が燃え尽きる前の最後の光ではないか。もう二度と会えないのではないか。エレジアを滅ぼし、大事件を引き起こした私に対する報いなのではないか、と考えてしまう。

    船はもうすぐ着く。シャンクスは諸事情で会いに行けないが、護衛として2人程クルーが付き添ってくれると言っていた。ルフィの友達のところなら問題は無いはずだが、万が一の可能性を否定できない。
    …そうだ、早くルフィと再会し、その友達にも謝らないといけない。

    はやく、はやく、と私は急かすように祈り続けた。

    ───もう一度会いたい。夢の中だけではなく、現実で触れ合いたい。

  • 98二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 15:55:59

    「着いたぞ、ウタ」
    「うん…」

    ビブルカードは少し再生していた…。しかし、安心できる状態ではない。私は上陸の準備を済ませ、船を降りる。ベックマンとロックスターが付き添ってくれている。もしもの時は、連絡を入れ駆けつけられるように船員も船で待機してくれている。

    「シャンクス、みんな。行ってくるね」
    「あぁ…。ルフィによろしく頼む」

    ■■■

    島を進むと、何度か止まることになった。人が居り、警戒されているらしい。
    戦闘の意思は無いこと、ルフィに会いに来たことを告げ、通してもらえた。中にはルフィの友達である黒髪の女性もいたため、その関係もあって通れたようだった。

    建物が見えてきた。ルフィはそこに居るようだ。ビブルカードはまた少し再生しているが、未だ完全に戻らない。…この再生は死につながる前振りなのではないかと思い、私を不安に陥らせる。

  • 99二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 16:24:20

    「あなたは、ルフィの友達の…」
    「友達じゃねぇ。…事情は聞いた。麦わら屋に会いに来た、と。アイツはまだ目を覚まさない。それでも良けりゃ、案内する」
    「…お願い」

    私達は案内を受け建物内を歩く。中は複雑な構造をしている。しばらく歩くと、ある一室に立ち止まった。
    『関係者以外立ち入り禁止』、と書かれている。
    そこがルフィの病室のようだ。

    「ここだ。もう一度言っておくが、アイツは目を覚ましていない。やっと安定してきたが、変なことはするな」
    「…うん」

    私は覚悟を決め、扉を開けた。
    ──私は一瞬、目を疑った。
    全身包帯に包まれており、点滴の音が聞こえる。ルフィはそこに居る。しかし、あまりにも酷い傷跡だった。顔も包帯だらけで、まるでミイラのような状態になっていた。

    “声”が聞こえる。ルフィは生きている。意識はなくとも、生きようとしているのが感じ取れる。

    「…ルフィ。私だよ、ウタだよ。会いに来たよ。アンタとその友達に謝りたいんだ。そして、アンタとの冒険の話を聞きたいよ。シャンクスはね、会えないって言ってたけど、ルフィによろしくって言ってたよ。ねぇ、起きてくれる、よね…」

    声は返ってこないのは分かっていても、話しかけてしまう。甘くて温い夢の世界ではなく、苦痛を伴う現実で、ようやく再会することが出来た。
    話したいことが、ある。したいことがある。抱きつきたい。触れ合いたい。──もう一度、笑い合いたい。
    今は届かなくても、彼に話し続けた。

    「…ちょっとは、名の知れてる方だと思ってるんですがね」
    「ゴメン。おれ、あまり手配書とか見ないから」

    「…そうか、ビッグマムと」
    「…オマケに百獣の残党も追加でな。どうにか切り抜けた。麦わら屋の子分も駆けつけ、大乱戦だ」
    「ルフィの仲間はどうしてる?」
    「トニー屋は薬の調合、他の面子は島の見張りやこの建物の警備だ。アイツの子分のひとりがここの永久指針を偶然持っていてな」

  • 100二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 16:38:37

    もう遅くなるから帰るようにと、ルフィの友達──トラ男くんに言われたが、残りたいと私は訴えた。初めは断っていたが、結果的に了承してもらえた。
    私はルフィの近くに腰掛け、彼を見守る。出来ることが少なくても、彼のそばにいたかった。
    ベックマンは一緒に残ってくれるといい、ロックスターはシャンクス達に報告するために船に戻ると言った。護衛してくれてありがとうと告げ、手を振った。
    …白くまくんと話していた時、しょんぼりしていた気がするが、大丈夫だろうか。

    ──触れるのは禁止されていないため、恐る恐る手に触れる。とても大きくなっていた彼の手は私の手を包むほどだった。手を伸ばし、力を込めないように気をつけながらルフィの頭を撫でる。
    一方的にだが、再会出来た。現実のルフィに触ることが出来た。1つ目標は満たされたが、更に求めてしまう。──早く起きてほしい。笑いあいたい、話したい、いろんなことをしたい…。

  • 101二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 16:56:10

    ──…プリンセ…ウ…がこの島…
    ──ルフ…と一緒…
    ──出来れば…会…
    ──ふたりきりに…して…

    ■■■

    何も無い、虚無にいる。どこに向かうべきか分からない。目を凝らすと火が見える。そこに行けば懐かしい何かに出会える気がして、進もうとしたら、後方から様々な自分を呼ぶ声が聞こえる。それに釣られ、振り返るとき、──幼い頃に聞いた、歌が耳に響いた。
    思わず衝撃で身を固めたが、次の瞬間、火が思い切り“彼”の背中を押し出した。

    『──ったく、世話の焼ける…だ』

    その炎は暖かく。一滴だけ、涙が溢れた。

  • 102二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 17:04:35

    兄貴だ...

  • 103二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 17:16:57

    ──会わない…頭…
    ──顔を見るくらいなら…良い…
    ──そう…しば…船…?
    ──停泊…数日…情勢は動…
    ──ウ…のため…か…
    ──あぁ…少し…父…しいこと…やらな…

    ■■■

    …眠ってしまったようだ。もう朝になっており、陽の光が眩しい。目を擦る。よく見たら、ベッドの上にいた。──ルフィは、どこだ。私は彼のそばで眠っていたはずなのに。
    まさか、置いてかれ──

  • 104二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 17:29:50

    「おはよう、ウタ」

    「──あ」

    窓の近くに彼はいた。麦わら帽子を被り、陽の光を背にして、笑いかけてくれている。
    涙が溢れて止まらない。今すぐにでも飛びつきたい。歳上の意地や威厳なんてどうでも良い。

    「やっと、会えたな」

    すぐさま駆け寄って抱きついた。怪我人にすることではないのは分かっている。それでも我慢が出来なかった。温かい。身体越しで心臓の鼓動を感じ取る。
    夢の中で聞いた新時代を告げるリズムは変わらず私に伝わってくる。ルフィが優しく、丁寧に抱きしめ返してくれる。

    「なぁ、ウタ」
    「おれの冒険の話を、聞いてくれよッ!」

    「う゛ん。聞かせて、ルフィ。アンタの冒険の話を──」

    やっと再会できた。触れあえた。笑いあえた。現実で、再会することが出来た。
    離すものかと、時間が許す限り、私はルフィを抱きしめ続けた──。

  • 105二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 18:06:27

    「…なぁ、ウタ。自分で食えるからよ」
    「だーめ。ほら、あ~ん」

    私は今、ルフィと共に食堂に居る。建物の内の一室を利用しているらしい。ルフィの仲間の1人である金髪の料理人、サンジさんは何か血涙を流し笑顔を浮かべながら楽しんでくれと語りかけてくれた。…少し怖い。

    ──ルフィと再会したあと、色々あった。可愛い船医、チョッパーくんと遭遇し、一悶着あったが、落ち着いて、ルフィの検診を行うと、部屋を一度出ることになった。近くにいてくれたベックマンと共に待機し、ルフィを待つ。
    ルフィの容態は問題なくなりつつあったが、こんなに早く目覚めるとは思わなかったらしい。私が眠っている間に目覚め、横にいた私を布団の中に入れてくれたようだ。…彼はいつの間にこのような気遣いを覚えたのだろう。しかも、目覚めた後、眠っていた私のそばにずっといてくれたらしい。空腹と動き回るのも我慢していたなど、信じられなかった。彼は悪いものでも食べてしまったのではないかと、怪しんだほどだ。

  • 106二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 18:42:41

    保守

  • 107二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 18:48:37

    検診を終え、お腹が空いたと叫ぶルフィに食堂に行くことを提案し、共に向かうことになった。ベックマンは他の人と話をするらしく、待機している。
    ルフィはベックマンと再会した時、ものすごい顔をし、彼に抱きついていた。ベックマンも苦笑いしながら抱き返していた。…私の時より、抱き着き方が派手で、少し複雑だった。
    一瞬だけ、周囲を見渡したが、安心と寂しさを併せた表情をし、笑顔になった。

    「ルフィ、シャンクスは…」
    「分かってる」
    「え…」
    「…まだ、会えねぇからな」

    その様子に少し父を重ねてしまった。

  • 108二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 19:48:31

    食堂に着く。厨房にはルフィの仲間がいた。

    「サンジ、飯ーッ!」
    「おう、もう動いて良いのかルフィ」

    サンジ、さんは嬉しそうにルフィに笑い掛ける。
    私も一応会釈をする。

    「…どうも」
    「ウタちゃん、また会えて嬉しいよ。好きなだけ食っていってくれ」

    こちらに笑みを浮かべるサンジさん。…あれだけのことをしたのに、ルフィの仲間は優しかった。

  • 109二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 21:59:48

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん22/09/24(土) 22:50:56

    ほしゅ

  • 111二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 02:03:43

  • 112二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 07:31:15

    ほしゅ

  • 113二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 10:18:36

    再開は出来たけどこっからどうなるのか…
    ウタちゃんの言う新時代が読めぬ…

  • 114二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 16:19:13

    こういうときのサンジの優しさってなんか良いよね

  • 115二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 19:31:11

    ほs

  • 116二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 19:35:48

    このレスは削除されています

  • 117二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 21:55:48

    ご飯はとても美味しそうだった。
    しかし、私はここで、邪念を抱いてしまった。

    「ルフィ、その包帯、やっぱり動きにくい?」

    私から見た感じ、彼の身体を覆う包帯は、やはり動きにくそうだ。

    「まぁ、ちょっと動きにくいなぁ。けど、チョッパーには外すなって言われてるし、動けないほどじゃないから問題無ェ」

    それより、飯、飯ー、とご馳走を前にしてルフィは笑う。

    「ねぇ、ルフィ」
    「私が食べさせてあげる」

  • 118二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 21:58:15

    ほしゅ

  • 119二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:09:34

    「別に食べさせてもらえなくても、自分で食えるからよぉ」
    「良いから、ほら、あ~ん」

    ルフィとの距離を詰め、くっつく。動き辛そうにさせる罪悪感が湧くが、それを抑えて眼の前の料理を取り、彼の口元へ運ぶ。
    …私自身、少し恥ずかしいが、これもルフィとの距離感を深めるためだ。ルフィ自身、観念したのか黙って口を開いた。

    「やっぱり、美味ぇなぁ。サンジの飯は」

    ルフィは嬉しそうに食べている。それだけ美味しいというのか。私自身、気になり、取って口に運ぶ。
    …とても、美味しい。ルウさんの作った料理とはまた別方向の美味しさだった。ルウさんには申し訳ないが、ルフィはサンジさんの料理を航海中食べられるというのは、どこか羨ましく感じる。

    そんなやり取りと共に、引き続き食事を摂る。ルフィに食べさせ合いながら、私もいただく。少し、手間は掛かるが、彼と時間を共有できるというのが、私の心を喜ばせた。
    …もちろん、食堂で勝負をする気はない。それぐらいの分別を私は身に付けた。

    ふと、強い視線を感じ、そこに目を向けるとサンジさんが厨房から血涙を流してこちらを見ていた。

    「ルフィ、テメェ…。だが、ウタちゃんが笑顔なら…おれは…」

    どこか恐ろしいオーラを感じるが、血涙を流しながら優しい笑みを浮かべた。少し怖い。だが、声色も優しく、彼自身がとても優しい人であることが伝わってくる。

  • 120二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 07:01:19

    好き…

  • 121二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 14:56:17

    >>1の「ルフィの愛を独占したくなってしまった」って文言がなんとなく不安だぜ…

    微笑ましいレベルなら全然構わないが…

  • 122二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 19:17:41

    お腹いっぱいになるまで、食べた。その後、ルフィ越しで聞いたが、今停泊しているルフィの仲間達はそれぞれ船の修理や次の行き先の調整などで全員この島にいるわけではないようだ。中には警備に着いている人もいるらしいが。

    私自身、サンジさんに感謝と謝罪を済ませ、ルフィと共に治療室に戻る。一度、チョッパーくんに戻ってくるよう言われていた。

    「もう、ひとりで動けるのになァ」
    「お医者さんの言うことはちゃんと聞かないと駄目だってば。ほら、行こ」
    「おう」

    ルフィの手を握りなが、私は前に出る。包帯越しでもその手は温かく、私の心を穏やかにしてくれる。ルフィの方からもしっかり握り返してくれたのが意外であり、どこか照れくさく感じた。
    …ずっと、握っていたい。駄目だ、頭がポカポカしてきた。私はこんなに色ボケだったのか。

  • 123二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:19:19

    保守

  • 124二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 02:52:20

    保守

  • 125二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 07:58:35

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 11:19:53

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 17:56:13

    保守
    だけだと寂しいので、手を繋ぐだけで嬉しくなっちゃうウタ可愛い

  • 128二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 21:47:43

    保守

  • 129二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 22:33:45

    戻ると、部屋の前にはベックマン以外にホンゴウさんがいた。

    「ホンゴウ〜ッ!」

    ルフィは飛びはね、ホンゴウさんに抱き着いた。やはり、私の時と違い、抱き着き方が豪快な気がする。複雑だ。

    「久しぶりだな、ルフィ。中でお前の仲間と友だちがが待っている」
    「チョッパーとトラ男か。わかった。行ってくるよ」

    ルフィは治療室に入っていった。

    「ウタ、少し話がしたい。良いか」
    「うん。どうしたの、ホンゴウさん」

    私としては、ルフィに付き添いたかったが、離れ離れになるわけではないので、ホンゴウさんに向き合う。

    「ウタ、あと数日。おれ達はこの島で滞在することになる」
    「え。縄張りとかは大丈夫なの」
    「今は情勢が動いてはいるが、そこまで危険視することは無い」
    「そっか…」

    私は少し安堵した。ルフィと再会できた。ほんの少しだが、昔のようなやり取りも出来た。なのに、これ以上を求めるなど、贅沢に感じてしまった。

    「ウタ、一度船に戻り、着替えるといい。昨日の服装のままだろう」
    「あ」

    たしかに、船旅が過酷なのは理解しているが、乙女としてずっと同じ服装なのはあまりよろしくない。…ルフィに臭うとか思われたくない。

    「うん。一度、船に戻る。その前に…」
    「あぁ、ルフィと話をしていくといい」

  • 130二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 22:52:50

    「ルフィ。ちょっといい」
    「どうした、ウタ」

    部屋から出てきたルフィに声を掛ける。私達はしばらくこの島に滞在するが、ルフィ達は分からない。

    「私、着替とかあるから一度船に戻るね。あとさ、…ルフィ達はどれくらいこの島にいるの?」
    「あ~、チョッパーから聞いた話だと、ナミが××日はいるって言ってたらしいぞ」
    「…そっか」

    私達が停泊する日数よりも、少ない。私とルフィは同じ船に乗っているわけではない。こうして再会できたのも、いくつもの偶然が重なり合ったからに等しい。それでも…。

    「よかったら、さ。私と一緒に島を探索しない?」

    怖い…。仲間と一緒の一緒の方が居心地がいいのかもしれない。海賊として馴れ合いをする気はないと言われるかもしれない。チョッパーくんに外出禁止と言われており、それを守るのかもしれない。そもそも、本当は無理して私と一緒にご飯を食べたりしてくれたのかもしれない。
    思考が良くない方向へどんどん向かっていく。家族がそばに居てくれるのに、ここまで欲張りな自分に嫌気が差す。けど、もういっそのこと──

    「おう、良いぞ。チョッパーとトラ男には歩き回るぐらいはしていいって言われたからな。この島冒険しようッ!」

    ルフィは晴れやかな笑顔でそう返してくれた。その優しさが伝わり、私の心を掻き乱す。

  • 131二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 23:25:45

    一度船に戻り、身体を洗い、服を替える。…下に着るのもお気に入りのものにする。私は邪な感情など抱いていない。ルフィ人形を一度思い切り抱きしめる。本物に及ばなくとも、私の心を落ち着かせるのには最適のアイテムだ。
    準備を済ませたら、即座にルフィの元へ向う。途中、シャンクスを見かけたので一応声を掛ける。

    「シャンクス、ルフィのところに行ってくるねッ!あと、しばらく島に滞在することを決めてくれて、ありがとーッ!」
    「あぁ、気にするな。気をつけてな」

    私は心を踊らせながら、船を降りていった。

    ■■■

    「お頭、完全にルンルン気分でルフィの所に行ったぜ。ウタの奴」
    「大丈夫だ。ルフィは不埒なことを考えるやつじゃない」
    「そういうことは言ってないぜ、お頭」

    四皇赤髪のシャンクスは寂しそうに背中を丸めた。

  • 132二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 23:49:14

    建物に戻ると、ルフィは仲間と一緒に居た。

    「──からよ〜ウソップ。あ、ウタ。おーい!」
    「それは、分かってるけどよぉ、ルフィ。って、プ、プリンセス・ウタァァァッ!」
    「ヨホホホ、ルフィさん、なかなか良いところに目を付けますね。おや、ウタさん。お元気そうです何よりです」

    ヤソップさんの息子さんと、不思議な骸骨の紳士だ。ふたりとも、サンジさんと同じくらい優しく接してくれる。

    「おーい、待ってたぞ、ウタ。弁当もサンジから貰ってるからよ。良かったら、ウソップとブルックも──」
    「いや、ルフィ。おれ、これからフランキーと船のことでやることがあるからよ」
    「すみません、ルフィさん。私もこのあと、新曲を作る予定をしていまして、心苦しいのですが、おふたりでお出掛けしてもらえますか?」
    「え〜、分かった。よし、ウタ、ふたりになっちまったけど、冒険に行こうッ!」
    「あ、うん」

    私は、冒険を断ったふたりを見る。ふたりとも、私に優しく笑い掛け、頷いてくれる。ルフィの仲間はみんな優しい。あれだけのことをしたのに、笑顔で送り出してくれる。私は、どれだけ人に支えてもらえれば気が済むのだろう。
    一度、ふたりに頭を下げる。申し訳無さと、喜びを胸に私はルフィの手を握りしめた。…今だけは、ルフィの暖かさを感じていたかった。

  • 133二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 00:09:14

    この島は元々、栄えていたようではあるが、廃墟などが多くある。しかし、ルフィは目を輝かせながら、あたりを見渡している。とても、楽しくてしかたないのだろう。

    「見ろよ、ウター!あそこにものすっげぇ塔があるぞッ!」
    「うん、フーシャ村にある巨大風車みたい」
    「よし、勝負しよう!あそこまで競争だッ!」
    「え、えぇ。良いよ、相手になってあげる。泣き言とか言わないでよ」
    「言うかそんなもん!」

    3、2、1、私達は同時に駆け出した。ルフィは怪我人なのに、速い。一瞬で背中が離れていく。焦りを感じ、とにかく我武者羅に走った。体力には自身があったが、ルフィは幾度の冒険と戦いを繰り広げたからか、私を引き離すように駆けていく。私は策を使うことにした。

    「あ、あんなところにゴールドヘラクレスオオカブトッ!」
    「な、何だとぉッ!?」

    上手く引っ掛けられた。あとは、追いつき、抜いていくだけだ。しかし、稼いだ時間はほんの僅かであり、私が、追い抜き、大分経った頃、いないことがわかったルフィはまた駆け出し始めた。

    塔にはほぼ同時に着いた。そこそこ距離を稼いだつもりだが、一瞬で追いつかれてしまった。もう、昔のような年齢による有性は取れないようだ。それでも、何とか食らいついた。

    「おれの勝ちだ。186連勝」
    「違う、私の方が速く着いたから、私の185連勝1敗」

    私達は、睨み合い、時間が経つ。そして、同時に笑った。

    「引き分けってことにするか」
    「うん。今回はそうしてあげる」
    「なんか、言い方が嫌だなぁ」
    「感謝しなさい?」

  • 134二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 00:11:47

    才能に

  • 135二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 00:25:17

    ルフィとまた、こうして勝負したりして、笑いあえる。夢のような時間を過ごせるが、この息苦しさと、万能とは程遠い身体の動きが、私を現実世界で生かしていることの証明であることを実感する。心が熱い。
    私には愛してくれる家族が居るだけでも過ぎた幸福なのに、それ以外にも、ルフィが隣に居てくれる。ファンやエレジアの人たちへの罪悪感が頭を過り、心をチクチク痛めるが、それでも今は大事な人と過ごすことを優先したかった。

    「塔の上に行こうッ!」
    「良いよ、また勝負する?」
    「いや、こうだ」
    「え、ひゃあッ!?」

    ルフィは私を腕でぐるぐる巻にし、伸ばした腕で塔の天辺を掴み、登っていった。

    「よし、着いた。大丈夫か、ウ、ブへぇッ!」
    「ああいうことするなら、先に言ってよッ!」

    ルフィの頭を思い切り、叩いた。心臓がバクバクする。急に上昇した驚きと、恐怖。ルフィに思い切り巻き付かれたことに対する恥ずかしさがが私の身体を熱くさせた。

    「悪りぃ」
    「もうっ」

    ルフィは申し訳無さそうに、私に謝る。怒ってます、というポーズをとっているが、そこまで怒っているわけではない。正直、あんなに密着したことに、少し喜んでいる自分も居る。駄目だ、ルフィとくっつくだけでこんなに冷静さを保てないなど、だいぶやられてしまっている。心を落ち着かせなければいけない。

  • 136二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 00:45:43

    塔の上は不思議なぐらい見る限り、丈夫な素材で出来ており、安定していた。私とルフィは近くの段に腰掛ける。ここは突風で吹き飛ばされることもなさそうだ。

    「シャンクスったらね、すっごく過保護なんだよ。嬉しいけどさ、ちょっと窮屈」
    「自由が無いのはおれも嫌だなぁ〜。けど、シャンクスの気持ちも分からなくねぇなぁ、おれ」
    「私の味方してくれないんだ、ルフィ」
    「おい、怒るなよぉ〜」

    再会するまでにあったことを話したり。

    「ねぇ、ルフィ。アンタの冒険の話、また聞きたいな」
    「良いぞ、まずな──」

    ルフィの冒険の話を聞く。私は彼の話を聞き、ある計画を立てていた。

  • 137二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 01:51:03

    「腹減ったなー。弁当食うか」
    「たしかに、お腹空いたしね」

    サンジから受け取ったらしいお弁当をふたりで広げる。とても美味しそうだ。

    「ウヒョー、うまそ~」

    ふと、邪念を抱く。いけないことだと分かってはいるが、私は策略を練った。

    「ねぇ、ルフィ」
    「どうした?」
    「食べさせて」
    「え」
    「だめ、かな?」

    私は自分の分のお弁当を持ち上げ、彼の前に差し出す。寂しそうな表情を浮かべ、ルフィの反応を待つ。…こちらから下手に出て、相手の反応を伺う。
    ルフィは困った顔をしてから。

    「…良いぞ、はい」

    私のお弁当から具材を取り、私の口元へ運んでくれた。美味しい。よく噛み、飲み込む。…最低なことをしている。ルフィの優しさに付け込んで、邪な願いを叶えている。それでも、この想いを抑えきれなくなってきている。

    「サンジの飯、美味ぇだろ?」

    ルフィは嬉しそうに笑いかけてくる。

    「うん。とても美味しい」

    けど、この美味しさは彼と一緒にご飯を食べているから、ということもあった。
    私達は笑顔で食事を続けた。

  • 138二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 02:22:57

    支援じゃ

  • 139二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 08:12:13

    ほs

  • 140二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 15:42:31

    ウタが乙女してるねー

  • 141二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:48:19

    保守

  • 142二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 22:13:07

    ご飯は美味しかった。食事を済ませた私は、ルフィにお願いする。

    「ルフィ、歌いたいんだけど、聞いてくれない?」
    「良いぞ、久しぶりに聞きてぇ」

    笑顔で承諾してくれた。
    あと少し…。

    「あと、さ。ウタワールドに来てほしいんだけど、良いかな」
    「…まぁ、1回ぐらいなら別に良いぞ」

    不安だったが、頷いてくれた。…よし。

    「じゃあ、歌うね」
    「〜♪」

    歌い出し、その直後に崩れ落ちるルフィの身体を抱き留めた。温かく、筋肉とゴムの感触が私に伝わってくる。

    「…ゴメンね」

  • 143二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 22:25:57

    ウタワールドに取り込まれたルフィの現実の身体を横たわらせる。頭を膝に載せ、服を捲りあげる。包帯の上からでも分かる筋肉や傷跡に触れる。

    「海賊、だもんね。傷付くのは、当たり前だよね」

    家族も海賊であり、同じくらい古傷を持っているが、それでも私の中での幼馴染と今のルフィを照らし合わせるのは、苦労するときがあった。もう、身体も心も大きくなっている。私が歳上振って過ごしたあの頃から、私は遠く置いていかれてしまっている気がする。
    それでも、ルフィは変わらず私に笑顔を向けてくれている。ただ、私自身よくわからない焦燥感が私を急かせる。
    ルフィは新時代を作るため、未だに走り続けている。同じく誓いを交わした私には、背中を見失ってしまうのではないかと思うくらい、遠ざかってしまっている気がする。さっきの勝負だってそうだ。私が、横槍を入れなければ、ルフィに追いつくことは出来なかっただろう。妨害しなければ、もう彼と並べないのか。

  • 144二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 22:44:03

    新時代を創ることを諦める気はない。けど、手探りだ。私は置いていかれているような不安感を拭えず、横たわり、ルフィの身体に抱き着いた。胸に耳を当て、心臓の鼓動を聞き取る。このリズムが私は好きだった。ずっと聞いていたい。独り占めしたい。
    ──彼の視線も、耳に届く声も、触れるものも、向ける笑顔も、愛情も、すべて。何もかもが私だけを占めてほしい。他に向けないでほしい。
    違う船に乗る者同士、ずっと一緒には居られない。私には私の、ルフィにはルフィの航海がある。違う旗を掲げている以上過度の馴れ合いはご法度なのは分かっている。それでも…。

    「家族もいるのに、もっとって思ってしまうのは贅沢だよね…。けど、欲しいよ」

    独占など、ルフィの愛する自由じゃない。彼は自由と冒険を愛する海賊だ。特定のものだけに集中し続けるなど、しないだろう。
    やりきれなさを感じながら、私はルフィの温もりと心臓の鼓動を感じ続けた。永遠にこうしていたいと、叶わぬ想いを抱きながら…。

  • 145二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 23:39:53

    「…ベック、もうちょっと下がれ。ウタとルフィに見つかるッ!」
    「…来いと言われて着いてきてみたら、何をしてるんだお頭。ウタに嫌われるぞ」
    「うるせぇっ。万が一ってことがあるだろうがッ!あぁァァァ、ウタッ!お前たちにそういうコトはまだ早いッ!」
    「何してるんだ、この人は…」
    「若いおふたりにちょっかい掛けるのは良くないと思うんですがね…」

  • 146二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 00:40:52

    私は身体をルフィの全身にくっつける。ルフィは未だにウタワールドの中に居る。太陽を思わせるような彼にイケナイことをしていることへの背徳感を抱き、罪悪感と少しの興奮が私の身体を支配する。海賊ならば、欲しいものは奪っていくものと言う思考に支配されかけるが、何とか振り払う。

    そろそろウタワールドが解除され、彼が目覚める。私も深い眠りに落ちるが、このままでいたい。幼馴染の温もりを全身で感じていたかった。

    「大好きだよ…」

    その言葉と共に、私の意識は落ちた。

  • 147二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 01:57:32

    このssめっちゃ好き
    独占欲強めのウタちゃんは可愛いなぁ

  • 148二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 10:07:59

    保守

  • 149二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 14:40:56

    保守

  • 150二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 17:52:29

    ルフィと同じくウタワールドに連れ込んで何する気だと不安になったが、
    やった事と言えばただ全身くっつけただけだった……疑ってごめんよ……
    それにシャンクス達も影にいるなら安心だな

  • 151二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 21:26:29

    保守

  • 152二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 01:00:54

    保守!

  • 153二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 05:59:13

    保守

  • 154二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 12:12:23

    私はルフィを椅子に縛り付けていた。
    手元にはナイフがある。ただ縛られるだけならあっさり抜け出せると思うが、そうはいかない。私が、彼の上にいるからだ。もし、彼が強引に動こうとすれば私を傷付ける可能性がある。その不安から、私を説得するだけに留めようとしている。その優しさが、私を次の行動に移させる。

    『ウタ、どうして…ゔっ』
    『大好きだよ、ゴメンね…』

    私は彼の首に切り傷を付け、そこから流れる液体を舐め取る。ルフィが私の中に入ってくる。嬉しい。
    ──ずっと欲しかった。ずっと、こうしたかった。精神の幸福を感じることが最大の喜びだが、肉体あってこその充実とも言えると思う。嬉しくて少し涙が出てきた。

    『ウタ…こんなのおかしいぞ』
    『何もおかしくないよ。美味しいよ。ルフィは独りじゃないからね』

    彼から向けられるのは困惑と少しの恐怖、私への心配だった。悪意を持って彼を傷付けてるわけではないというのが、更に困惑させる要因になっているのだろう。彼の優しさが心地良い。駄目だ、こんなの、深みに嵌る。もっと欲しい。

    家族とも違う、もう1つの特別。その関係性を強固にし、永久に揺らがないものにしたい。繋がりが欲しい。
    ずっと、そばに──

  • 155二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 12:24:10

    私は揺られながら、起きた。

    「え」
    「起きたか。今、おれがいた建物に向かってる。もう少しで着くからな」

    ルフィに背負われていた。硬い背中に身を預けながら、進んでいる。おんぶされていた。密着しているのが、少し恥ずかしい。もう歩ける、と言おうとしたが、このままでいたいと思い、彼にしがみつく。
    それと同時に、少しの邪念が芽生える。気付かれないように彼の首元に顔を埋め、こっそり吸う。

    そして、先程の夢を思い返す。何という夢を見ているのだ。いくらなんでもおかしい。いくらルフィが優しくてもやっていいことに限度がある。けど、

    「…し…った」
    「どうした、ウタ?」
    「な、何でもない。それより、ゴメンね」
    「良いぞ、軽いしな」
    「やっぱり?」
    「おう」
    「昔は私がアンタをこうやって運んだ時もあったよね」
    「あったなぁ。今はもう出来そうに無さそうだけどよぉ」
    「なんですってぇ?」
    「やめほ、ウハ。やめへふれ」

    私は彼の頬に手を伸ばし、頬をつね、引っ張る。グニグニして、面白い。

  • 156二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 12:58:49

    先程の夢をまた、思い返す。
    私には、たぶん、おぞましい一面がある。

    私は世界のことを少しずつ学んでいる。そして、私への愛情を注いでくれた家族。私のために必死に動いてくれた幼馴染は私の中で特別な地位にある。
    世界を広げることで、歌で幸せにする方法を探求し続けるのは変わらない。けど、私への愛を注いでくれる人達の想いも手放したくなかった。今はもう遠いもうひとりの父の愛情はある。そばにいるシャンクス達赤髪海賊団の愛情もある。けど、ルフィとは幼馴染であり、同じ人に憧れた者同士でもあり、友だちでもあり、夢を誓いあった同士でもある。それが揺らがないとしても、彼とはもっと先を求めてしまう。最低な手段を使ってでも。

    そう考えてしまうの、私が、ルフィのことを──

    「着いたぞ。ウタ」
    「え、うん。ありがとう。もう、歩けるよ」

    背中から降ろしてもらう。その前に一度だけ、思い切り彼の背中に抱き着く。どうか許してほしい。現実での再会は、私にとっても大事なものになっていた。離したくないと願ってしまうほどに。

    「ウタ?」
    「ごめん。大丈夫だよ。今日はありがとう。楽しかった」
    「おれもだ。また明日なッ!ししし」
    「…うん。また明日、ね」

    明日も会おうとしてくれるのか。私は心が弾み、スキップしながら帰宅したくなったが、人目もあるので自重する。建物からホンゴウさんが現れ、私と付き添ってくれる。

    「ウタ。今日は楽しかったみたいだな」
    「うん。久しぶりにルフィと過ごせて、すごく嬉しい」
    「分かるよ。顔がニヤけてる」
    「え、ハァァァァ!?」

    ホンゴウさんにからかわれ、私は顔を無理矢理戻そうとした。

  • 157二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 16:39:18

    ちょっと不穏だけど可愛いからよし!

  • 158二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 17:18:21

    不穏すぎんよー
    どうか健全な関係でいられますように…

  • 159二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 18:36:46

    不穏なんだけど、先が気になる

  • 160二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 18:51:48

    多分ウタが望むならルフィ血くらいあげそう

  • 161二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 19:31:35

    このレスは削除されています

  • 162二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 21:36:40

    保守

  • 163二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 00:34:43

  • 164二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 08:58:10

    保守

  • 165二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:48:39

    保守
    重い女の子はいいぞ〜

  • 166二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 22:36:48

  • 167二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 01:37:58

    保守

  • 168二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 09:34:06

    h

  • 169二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 16:31:37

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:27:12

    age

  • 171二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:37:16

    『ねぇ、起きて。起きてってばっ!』
    『起ぎでよ゛ぉッ!』

    必死に声を掛け、揺さぶるが、目を覚まさない。こんなはずじゃなかった。

    新時代を創る。
    計画は失敗した、それでも、もう少し現実を生きようと心が傾いたのに、その切っ掛けの1つである幼馴染が命を落とした。
    まだ、彼には目指さないといけないことがある。やらねばならない、背負わなければいけないものがあるのに、『麦わらのルフィ』ではなく、私の知る『フーシャ村の少年ルフィ』として、死んでしまった。
    海賊としての象徴である、麦わら帽子を失い、それでも命を懸けて抗った末の死。
    その原因は、帽子を奪った私にある。

    こんなことしなければ──
    もっとよく考えれば──
    私なんかと出会わなければ──

    必死に声を掛けても、動かない。これは夢なんだと自分に言い聞かせるも、苦痛と冷たい遺体が私を現実に引き戻す。

    私はただ、涙を流し続けた──。

  • 172二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:46:46

    私の意識が浮上する。

    「ッ…ハァッ…ハァッ…」

    恐ろしい夢を見た。
    ボタンが掛け違っていれば、あんな未来があり得たかもしれないという事実に、私は頭を抱える。
    肉体の死は問題なくても、心まで持っていかれたら、意味が無い。いや、彼にとっては肉体で直に感じ取ることこそが、大事だったはずだ。

    時計を見れば、まだ目覚める時間より早い。
    何とか寝ようと再び横になる。
    しかし、寝付けないので、部屋に灯りを付け、照らす。机の引き出しから紙を取り出し、作曲活動を行おうとしても、上手くいかない。

    私は、壁にかけてあるルフィ人形を抱き締め、再び寝ようと寝具に横たわった。

    ──あんな夢、もう2度と見ませんように。

  • 173二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:54:26

    シャンクス達に心配されるが、寝不足なだけだと言い、やり過ごす。
    もう一度、ルフィのところに行きたかった。
    生きているという事実を噛み締めたかった。

    準備を済ませ、船を降りる。
    今日も、護衛が着いていてくれる。
    感謝と申し訳無さを感じながら、私は歩みを進めた。

    ■■■

    ルフィやその仲間たちと再び出会い、ライブのときの謝罪と感謝を改めて、言う。

    私は今も、罪悪感と目の前の現実に向き合うのが苦しいが、それでも家族と共に生きていくことを支えにし、頑張ることが出来ている。残り僅かだが、幼馴染とも過ごすことができ、在りし日のように過ごすことも出来た。
    ずっと永遠には続かない。私達は違う船に乗る者同士。それでも、今この瞬間だけは、喜びを分かち合いたい。

    ──そして、最終日。

  • 174二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:12:41

    「ウタ、話ってなんだ?」

    私とルフィは再びあの塔に来ていた。
    どうしても見せたいものがあった。
    もしかした、彼を怒らせるかもしれない。それでも、やると決めた。

    「新曲作ったんだ、聴いてくれる?」
    「ほんとかぁー!?聴くよッ!」

    ルフィは目を輝かせながら、聞く準備をした。
    あとは──

    「けどよ、おれ以外にも連れてこなくて良いのかよ。おれの仲間やシャンクス達にも聞かせてやったほうがいーんじゃねぇのか」
    「…うん。大丈夫。アンタに聴いてほしかったから」

    私は、一度心を落ち着かせ、唄い始める。
    そして、再び崩れ落ちるルフィを抱え、膝に頭を乗せる。絶対に、この決意は邪魔させない。

    ■■■

    「これ、は」

    ウタワールドに展開されているのは、ルフィの冒険を一部再現した風景だった。直接知った部分と彼の言葉から上手く混ぜ合わせ、再現し続ける。
    歌詞の内容は、彼の冒険を表現している。
    とても、悩んだが、それでも伝えたい。肉体での体験を重視する彼にとっては無意味かもしれなくても、どうしても届けたかった。
    ──できれば、私の、気持ちも伝えたい。

  • 175二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:26:22

    「…終わったよ」

    私は歌い終え。ルフィの反応を待つ。
    少し怖かった。自分の冒険を侮辱するな、と激昂されるのではないか、と。

    「ウタ…」
    「……」
    「…スッゲぇよッ!」
    「…え」
    「懐かしーなー。そういや、だいぶ遠くまで来たなぁ」
    「けど、よく出来たな。まるで、実際に見たように流れてたぞ」
    「あ、うん。ルフィの話を聞いてさ、あと本とか読んで色々頑張ったんだ」

    言えない。あのウタワールドにいたとき、アンタの人生と私への想いが流れ込んできたなんて、ルフィには恥ずかしくて言えなかった。

    「けど、やっぱりもったいねぇなぁー。みんなにも見せてやりたかったのになぁ。なぁ、今からでもゾロ達呼んできて良いか?」
    「ご、ごめん。もっと今以上に良いもの考えてるからさ、その時見せたいなって」
    「そうか。じゃあ、その時を楽しみにしてるよッ!」

    彼は明るい笑みを浮かべ、そう言ってくれた。
    受け入れてくれたみたいで、嬉しかった。
    あとは、もう1つの目的を果たす。
    私は、覚悟を決め、ルフィに近寄る。

    「ウタ?」

    座っているルフィに触れ、彼に抱き着く。

    「ルフィ、あのね──」

  • 176二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:59:16

    私はそれから、ルフィに想いを伝え続けた。

    12年間のこと、エレジアの悲劇、ファンへの感謝と罪悪感、シャンクス達への想い、ルフィに会えて本当に嬉しかったこと、そばに居てほしかったのに意地を張ってしまい取り返しのつかぬ事態を引き起こしたこと、ルフィに置いていかれて心臓が抉られそうになったこと、そして──

    「私、さ。新時代を創るのを諦めてはいないんだ。…けど、世界を知れば知るほど、難しいってのが分かった」

    ルフィは黙って聞いてくれている。
    私を抱きしめ返してくれた。嬉しい。

    「もちろん、諦めないよ。けど、何をすればいいか、何年掛かるか、分からなくて、ちょっと途方に暮れちゃってるんだ」

    私は自嘲しながら、語り掛ける。ルフィは、ずっと、聞いてる。
    彼の抱き締める手が、強くなる。
    暖かい。太陽の様な温もりで安心する。

    「…それでさ、お願いがあるの」

    ここが、本題だ。

    「ルフィ、新時代を創るのを、絶対に諦めないで」

    「私、さ。本当に分からなくて、悩んだ。けど、その時、浮かんだのが、ルフィだった。私、すごい置いていかれちゃったんだ、と思ったけど、同時にルフィの背中を追い続けることが出来ると思ったんだ」
    「どれだけ、掛かるか、分からない。けど、あの日誓った新時代を作るために走り続けてるアンタが妬ましいと同時になんだか、すごく嬉しくて」
    「あの日フーシャ村で過ごしたのはほんの僅かなのに、アンタはたくさんのことを経験をしてきたのに、それでも、私のことを、私との誓いを忘れないでいてくれて」
    「あんなに、酷いことしたのに、それでも私のために、動いて、ぐれで」

    涙が、零れた。

  • 177二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 00:32:36

    がんばれウタ

  • 178二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 00:45:02

    「私、絶対に追いつくから。どれだけ掛かっても、またアンタと隣り合って笑いあいたいから」

    しがみついて、彼の肩に顔を埋める。呂律が回らなくなり始める。それでも、止まりたくない。
    背中を撫でてくれている。この優しさにずっと浸っていたい。それを、我慢する。

    「だからッ」
    頭に手が載る。フーシャ村にいた頃より、大きくなっていた。
    「任せろ」
    「絶対に、海賊王になって、新時代を創る」
    「おれは、諦めねぇ」
    「ウタ、お前が追いつくのも。待ってるぞ」
    「約束だからな」
    「…うん」
    抱きついた状態から、離れる。
    …もう少しだけくっついていたかったのは、内緒だ。

    突然、ルフィが笑顔を浮かべる。
    「けど、のんびりしてると、おれが先に新時代を創っちまうからな〜」
    「なんですってぇッ?!もしそうなっても、すぐ私が塗り替えてやるわよ。アンタの新時代より私がもっとみんなを熱中させられるもの創り上げてやるからッ!」
    「何を〜。おれの方はもう走り続けるだけだぞッ!」
    「出た、負け惜しみ〜」

    …本当は、私の方が、負け惜しみを言っているんだ。
    けど、昔みたいなやり取りに応じてるくれるアンタの存在が本当に嬉しくて。
    実は、もう1つだけ、伝えたいことがある。けど、今は伝えちゃいけないとも思う。この想いは、新時代のその先で、届けたい。

  • 179二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 01:06:39

    よく頑張った‼︎
    新時代を誓った同志として、大切な幼馴染としてお互いを想い合ってる二人のやりとりが本当に尊い…

  • 180二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 01:43:25

    ウタワールドで笑いあうことに充実と少しの寂しさを感じながら、私は現実のルフィの寝顔を撫でる。
    …いけないことだと分かっているが、気持ちを抑えられなくなってきた。
    …駄目なのも分かってる。それでも、

    「──してるよ、ルフィ。いつか、アンタも私を──してほしいな」

    その言葉を告げ、彼の寝顔に私は顔を近づけて──

    ■■■

    ルフィ達が出航する日が来た。
    私は最後にルフィと言葉を交わす。

    「ウタ、久しぶりに会えて、本当に嬉しかった」
    「私もだよ。絶対に海賊王になってね。その帽子が似合うほどの」
    「当たり前だろ。ウタも、絶対に追いついて来いよ、待ってるからな」
    「うん。あ、言っておくけど、余裕ぶってたらあっという間に追い抜くからね」
    「抜かされるわけねーだろ」
    「ハァッ?!昔は可愛かったのに、ルフィの癖に生意気〜!」
    「やめほ、ウハ。やめへふへ」

    ルフィの頬を抓り、頬を伸ばす。
    …この感触とも、お別れだ。寂しくなる。

  • 181二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 01:48:44

    「ルフィーッ!もう出るわよーッ!」
    「分かったッ!今行くぞーッ!」

    麦わらの一味の航海士であるナミさんの呼ぶ声が聞こえる。
    彼は私に笑顔を向ける。

    「ウタ。じゃあ、“またな”」

    その言葉を聞き、私は笑顔を返す。

    「うん。“またね”、ルフィ」

    再会を誓う言葉を送る。
    …少し、悪戯心が芽生える。
    私は、ルフィの肩を掴み、背を伸ばす。

    「ウタ、何を…」
    「ん」

    彼の頬に、口付けをした。

  • 182二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 01:48:56

    向こう側の、ルフィの船からあらゆる声が聞こえる。
    怨嗟の声や、からかいなど、色々だ。
    私の背後からは、家族の口笛が聞こえる。
    …あと、絶叫とか、それを笑う声も。
    困った。少し、恥ずかしい。
    それでも。

    「頑張れッ!未来の海賊王ッ!」

    私は笑顔と共に、声援を送る。

    「…あぁ、行ってくるッ!」

    ルフィは少しだけ、照れたように笑う。そして、背を向け、船に向かって走り出した。

    ──別れに涙は見せない。笑顔で彼を見送りたいから。
    ──置いていかれる恐怖は無い。家族がそばに居て、彼と再び交わした約束が、私の心臓として鼓動を奏でる。
    ──本当は、彼の──が欲しい。だけど、私が──したのは仲間と共に、自由と冒険に心を躍らせる彼だから。

  • 183二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:00:31

    からかいと怨嗟の声などに囲まれながら、麦わら帽子を被った海賊は、船首に座る。

    ふと、空を見上げる。蒼く、どこまでも広い。この海のように。この先の冒険に胸を踊らせる。
    再び交わした約束を思い返す。
    背負うものが増えたが、それでも、やるべきことは変わらない。

    ただ、信じて進み続けるのみ。
    風が吹く。自分達を祝福し、背中を押してくれているような気がする。
    誓いを口にする何度でも。
    死んで骨になる、その時まで。

    「──海賊王に、おれはなるッ!」

    この夢は、誰も奪えない。

  • 184二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:25:35

    眼から零れた涙を拭い取る。
    もう一度、約束を思い返す。
    再び交わされた誓いが、私を生き返らせる。
    …大丈夫。あの鼓動は、私の中にも高鳴っている。

    「ルフィイッ!あのクソガキャアッ!」
    「ギャハハッ!やられちまったなぁ、お頭ァッ!」
    「若いおふたりの事情に首を突っ込むのは野暮だと思うんですがね」

    家族が私のそばで騒いでいる。
    この騒々しさが心地良い。

    「ウターッ!おれにもやってくれェェ!」
    「シャンクス、髭ジョリジョリするから嫌ーッ!」
    「そんなこと言わずによーッ!」

    涙目で私を見てくる父。それを笑いながら見守る家族。…いつかは、別れの日が来るのだろうか
    そうだとしても、今はこの場所を守りたい。まだまだ、たくさん学び、私は新時代を創るために再び走らなくてはいけない。

    ──もしかしたら、追いつけず、藻掻き苦しみ、朽ち果てるのかもしれない。
    ──報復を受け、再会を果たせずに沈むのかもしれない。
    ──現実を前に、膝を折り、再び夢の世界に逃避するのかもしれない。

    それでも、今はこの幸福を噛み締めたい。
    私には、愛してくれる家族と、約束を交わしてくれた幼馴染がいる。
    大丈夫。私は最強だ。

  • 185二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:26:08

    「ねぇ、シャンクス」
    「どうした、ウタ」
    「ルフィ達と海賊同盟組もうよッ!」
    「さっき別れたばかりだろうがッ!それに実はルフィの子分がうちの旗燃やしたんだ。面子ってもんがッ!」
    「シャンクスのケチーッ!」
    「お頭。以前、酒の席で『ウタの望みは何でも叶えてやりたい』って言ってたじゃねぇか。あれはもう嘘になるのか〜?」
    「うるせーッ!お前ら、うるせーッ!」
    『ギャハハッ!』

    誓いの象徴を天に掲げ、見上げる。

    ──新時代はこの未来にある。

    ──完──

  • 186二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:31:52

    まじで良かった‼︎最高だった‼︎
    このssを書いてくれてありがとう
    不穏な場面もあったけど、やっぱハピエンはいいもんだ
    本当に感謝…‼︎

  • 187二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:33:18

    読んでいただき、本当にありがとうございます。
    見切り発車で終われて本当に良かった。
    長い間お待たせして申し訳ありません。

    エミュって難しいですね。
    ルフィのこと、何も知らない、一味のこと、何も知らないってなりました。

    ウタ、あの終わり方が綺麗なのは分かってますが、もう一度、シャンクス達やルフィと笑顔で過ごしてほしかったなぁ…。

    一人の少女が最後に一本筋通して…やっぱり辛いっすね。

  • 188二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:36:05

    不穏な描写は読者へのサービスです。
    考察してくれたっぽい方すみません。

    強いて言うなら、ルフィに置いていかれる不安が夢のカタチで出た、という感じですかね。置いていかれるくらいなら、いっそ…みたいな。

  • 189二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:40:49

    すごいよかった。書いてくれて本当にありがとうございます。

  • 190二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 02:46:21

    割とまじで最近の楽しみでした
    エミュも上手くて凄く読みやすかったです
    REDは観てる側としては辛いけど、悲しいけど、綺麗な終わりだから何故か何度も観ちゃうんですよね…
    でもこのssを読むとやっぱ自分はウタとシャンクスとルフィが笑ってまた自分達の冒険を続けていく姿が見たかったんだなぁって思わされました
    自分からも、このssを書いてくれたことに最大限の感謝を

    正直言います。ウタちゃんの不穏な描写、めっちゃ良かったです笑

  • 191二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 10:13:42

    REDって家族がテーマの映画だなー、と思いました。

    赤髪海賊団とウタ、ゴードンさんとウタ。
    実父に思うところが多少あったウソップとサンジ。
    ビッグマムの兄弟であるカタクリとブリュレ、オーブン。

    あと、ルフィとウタは幼馴染であり、大事な友達であるけど、同時にあの頃、血縁がガープしかいないルフィにとってはどこか擬似姉弟愛の様な想いがあったんじゃないかな、と観てて思いました。

    個人的な感想です。

  • 192二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 10:29:07

    〜もしも〜

    「当てる気も、ないくせに…」
    「ゴムゴムの、味方ロボッ!」

    ルフィは私の視線を置き去りにするほどの速度で私の背後に回り込み、ゴムの身体を利用して全身に巻き付いてきた。というか、ちょっと、待って──

    「ど、どこ触ってんのッ?!アンタッ!助平ッ!、変態ッ!、セクハラッ!」
    「ウタ、おれはシャンクス達が来るまで離さねぇッ!」

    串刺しにしようと思ったが、そうしたら巻き付かれている私も被害が出る。治せるが、無駄な怪我は負いたくない。
    背中から筋肉の感触が伝わる。冒頭で再会したときの抱擁とはまた別に感じる感触が私を混乱させる。

    「わーッ!は〜な~し〜て〜ッ!」
    「絶対に、離さねぇッ!」

    ■■■

    「久しぶりに、お前の歌を──」
    「助けてッ!シャンクスッ!ルフィにエッチなことされてるッ!」
    「うちの娘に何してくれてんだ、このクソガキィイッ!」
    「お頭ァッ!ルフィには何か考えがあるかもしれねぇぞッ!」
    「そう怒るなってッ!」
    「うるせーッ!」

    その後、どさくさに紛れて薬を飲み救助され、海軍は怒りのとばっちりで放たれた赤髪のシャンクスの覇王色の覇気により、壊滅状態。撤退することになった。

  • 193二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 12:41:42

    ありがとう、良いSSでした!
    映画の終わりは、あれ以上のモノはないと思うけど、それはそれとして幸せな終わりもやっぱいいよね

  • 194二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 20:38:48

    良かった

  • 195二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 01:05:42

    重い感情を持ちつつもお互いの目指す新時代のために一時別れる、ここにウタが改めて一歩を踏み出す覚悟をできたことが表れてて格好よかったし、終始シャンクスとルフィが幸せそうなのも読んでてこっちまで嬉しくなった
    素敵なssをありがとう!

  • 196二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 01:13:59

    神に感謝

  • 197二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 09:50:25

  • 198二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 10:07:09

    保守

  • 199二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 17:44:16

    一気読みしたけど尊いわぁ

  • 200二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 17:46:22

    素晴らしいssだとお前は語り継がれる…

オススメ

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