お見舞いとか行った方がいいのかな……トレーナー、一人暮らしなんだし……

  • 1◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:41:43

    ~Trainer's View~

    「うげっ、やっぱ熱あるか……」

     早朝。気怠さに目を覚ましてみれば、案の定熱を出していた。体温計の数字は38.2を示している。
     喉の違和感から察するにまあ風邪だろう。体調管理には気を付けていたが掛かってしまったものは仕方ない。

    「今日は休むしかないとして、ドーベルの事を考えないと……」

     勿論、俺が見ていなくても大丈夫なトレーニングメニューにして対応する、という事も十分考えられる。というかその方法が一番堅実だろう。
     ただ俺の都合で彼女の練習に穴を開けて足を引っ張りたくない。寝起きと発熱で上手く回らない思考を無理やり動かす。

    「頼るならあの人、かなぁ……」

     枕元に置いてあったスマホに手を伸ばしアドレス帳を開く。
     数人浮かんだ、代わりに練習を見てもらうトレーナーの候補の中から、最も適任そうな人物の電話番号をタップする。
     数回のコール音の後、まだ早朝だというのにはっきりとした声で応じられた。

  • 2◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:41:56

    『はい、もしもし』
    「あ、お疲れ様です」
    『ああ、お疲れ。……声しんどそうだけど体調でも崩したか?』
    「ええ、風邪をひいてしまいまして……。それで」
    『ああ大丈夫、言いたい事はなんとなく分かった。メジロドーベルのトレーニングを見てあげればいいの?』
    「……察しが良くて助かります。お願いできますか?」
    『勿論、同じメジロ家のトレーナーのよしみだ。それくらいどうってことないよ』
    「すみません……ありがとうございます」
    『……結構辛そうだけど本当に大丈夫かい?』
    「あはは……まあ、薬飲んで寝てれば治ると思います」
    『……そっか。取り合えずドーベルの件は了解したよ』
    「はい、それではうちのドーベルをよろしくお願いします」
    『は~い、お大事にね』
    「はい。それでは、失礼します」

     通話が切られ、スマホをそのまま枕元に置く。

    「……ふぅ。心配事は消えたな」

     取り合えず懸念事項であったドーベルのトレーニングをどうするか、に関しては早々に解決した。

    「頼るべきは同じメジロ家のトレーナー、だな」

     同僚の女性トレーナーもいるにはいるが担当の子を代わりに見てもらうほど仲がいい訳ではない。
     かと言って仲のいい男性トレーナーになると、今度はドーベルが緊張してトレーニングに集中できないだろう。
     という訳で選択肢がかなり絞られていた訳だが、幸いにも一番適任そうな人が引き受けてくれた。

  • 3◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:42:09

    「ああ~、怠い……! 薬飲んで寝るか……」

     気怠い身体をなんとか起こし、常備薬を冷蔵庫から取り出した水で流し込む。

    「……冷蔵庫の中すっからかんだな」

     食料が全くない、とは言わないが朝食べるような惣菜パン程度で、とてもじゃないが昼と夜食べるには物足りないだろう。大体、高熱を出している病人が食べるものでもない。
     こんな事なら昨日買い物をして帰るべきだったと思うが後の祭りだろう。今更どうする事も出来ない。

    「まあ最悪今日一日食わなくてもなんとかなるか……食欲もあんまりないし……」

     少なくとも今の体調ではとてもじゃないが買い物になんていけない。近くのコンビニでどうにかするとしてももう少し熱が下がってからにした方がいい。
     そんな諦めと共に再び布団の中へと潜り込む。……熱を出しているからだろうか。寝不足だという訳でもないのにすぐに眠気が襲ってきた。

    「っと! その前にドーベルにLANE送っておいてあげないと!」

     一番大切なことを忘れていた。眠ってしまう前に慌ててLANEでメッセージを送る。

    『風邪をひいてしまいました』
    『それで今日のトレーニングなんだけどメジロアルダンのトレーナーに見てもらうように頼んでおいたから』
    『彼女と出走するレースの距離も似通ってるし、彼とも面識があるみたいだから』
    『そういうことで、よろしく』

  • 4◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:42:23

    ~Dober's View~

    『は? 風邪ひいたって本当なの?』
    『熱は? 大丈夫なの?』
    『ねぇ』
    『返事してよ』


    「はぁ……」

     朝起きるとトレーナーからLANEでメッセージが入っていた。朝練がなかったとは言え、アタシが起きる前に今日のトレーニングに手を回してくれたのは流石だなぁ、と思う。
     ではなくて! そんな事に感心してる場合じゃなくて。アタシのメッセージに一向に返事が来ない。寝てるだけだとは思うんだけど……。
     授業が終わるたび合間合間に送ってたんだけど、結局今日の授業は全て終わってしまった。
     ……風邪をひいたとしか送られて来てないから、どの程度の症状なのかも分からない。

    「本当に大丈夫なのかな……」

     正直に言ってしまえば少し。いや、かなり心配。どうせトレーナーの事だし、アタシに心配を掛けまいとして熱が酷くても大したことないとか言ってきそうだし。

    (お見舞いとか行った方がいいのかな……トレーナー、一人暮らしなんだし……)

     日頃お世話になってるからこういう時くらい頼って欲しい。料理は……得意という訳でもないからレトルトのものになってしまうだろうけど。ちょっとした家事程度なら代わりに出来るだろうから。

    (でもきっと迷惑だよね……気を遣わせちゃうだろうし……)

  • 5◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:42:34

     担当ウマ娘が自分の部屋に上がり込むのもあまりいい気分はしないだろうし。やっぱり今日のところはちゃんとトレーニングに打ち込むしかないか……。
     取り合えずアルダンさんのトレーナーさんにトレーニングを見てもらう、という事自体は大丈夫。トレーナーのメッセージの通り、以前アルダンさんがお屋敷に連れてきた時に面識はあるし。まあ、メジロの子を担当してるトレーナーとは全員面識があるんだけど。
     お昼をアルダンさんと一緒に食べた時、折角の機会だから併走トレーニングをするという事は教えてもらった。
     ……男性が苦手なアタシだけどその中でも特にあの人は比較的大丈夫。だってあの人、基本的にアルダンさんの事しか見てないんだもの。お屋敷に来た時にメジロ家の皆が察してたんじゃないかな。
     そういう訳もあってあんまり見られてる、って感じがしなくてアタシでも最低限のコミュニケーションは取れる。一対一だと分かんないけど、今日はアルダンさんと一緒だからその辺の心配はないはず。
     そんな事を考えているとホームルームが終わっていた。カバンに荷物をまとめてトレーニングへ行く準備をする。

    「ドーベル? ひとまず一緒にトレーナー室に来ていただけますか?」
    「あっ、はい!」

     丁度支度も終わった頃、アルダンさんが迎えに来てくれた。そのままトレーナー室へと連れられる。

    「それじゃあ今日はよろしくね、メジロドーベル」
    「はい、よろしくお願いします」

     トレーナー室に入ると柔和に微笑まれる。こういうところはアタシのトレーナーとは全然違うな、と思う。
     もうちょっとこう、子供っぽいし、アタシのトレーナーは。年齢的に年下だからその辺りも絡んで来るとは思うけど。
     それでも数年後のトレーナーがこの落ち着いた感じを出せてるかと思うと……多分無理だと思う。
     そんなトレーナーさんはアタシを見て何かを思案している様子。

    「う~ん。……ねぇアルダン、どう思う?」
    「私はそれでいいと思いますよ?」

     アルダンさんと何かを相談してるみたいだけど何を相談してるんだろう。会話の内容が抽象的過ぎてアタシには何も伝わってこない。

  • 6◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:42:46

    「じゃあ、そうしよっか。……ドーベル、これからトレーニング、と言いたいところだったんだけど。単刀直入に聞くね?」

     ……アタシ、何か変な事でもしたのかな? 部屋に入っただけだから気にし過ぎだとは思うんだけど、やっぱり迷惑だったのかなと不安が募る。

    「君のトレーナーの事が心配?」
    「えっ……まあ、多少は」

     こんなところで嘘をついても仕方ないし、正直に答える。

    「ああ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。怒ってる訳じゃないし心配するのは当然だと思うから。……そうだね、君は今どうしたい?」
    「どうするも何も、トレーニングするんじゃ……」

     だって練習に穴を開けない為にもアルダンさんのトレーナーさんに見てもらう事になってるんだし。だったらトレーニングしないと。
     そんなアタシの返答にどうしたものかとトレーナーさんが困り顔を浮かべている。

    「ドーベル? 貴方は今トレーナーさんのお見舞いに行きたいのではありませんか?」
    「えっ、でも……」

     それじゃあ今日のトレーニングが出来ないんじゃ……。そんなアタシの困惑を見透かしたかのように、トレーナーさんが言葉を繋げる。

    「トレーニングの方は……そうだね、君のトレーナーの方針とは異なってしまうかもしれないけど。ただ俺の見立てでは今の君はとてもトレーニングに集中できる状態には思えない」

     ……実際、その通りなんだと思う。理屈をこねて無理やり納得しようとしてるけど、感情に従うならばお見舞いに行ってあげたい。
     でも、それはそれでトレーナーが折角気を遣ってくれたのに、それを無駄にしてしまう事が気がかりになってしまう。

  • 7◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:43:05

    「大丈夫。俺の方でちゃんと連絡は入れておいてあげるから。俺の信条は担当ウマ娘の今したい事を大事にする、でね? 今無理やりトレーニングをさせようものならそれに反してしまうから」

     はじめて会った時からお似合いなふたりだな、とは思っていた。ただ担当ウマ娘と担当トレーナーとしてのふたりの姿はあんまり知らなくて。
     ……なんとなく、アルダンさんのトレーナーがこの人な理由が分かった気がする。

    「彼に連絡はしてみた?」
    「はい。授業の合間に。でも返信が全然なくて……」
    「何やってるんだあいつは……」

     アタシの言葉に、トレーナーさんがわざとらしくため息を吐く。

    「電話掛けるか……」
    「え!? ちょっと!?」

     流れるようにスマホを取り出したかと思えば、恐らくアタシのトレーナーへと電話を掛け始めた。
     風邪ひいてるんだし、大人しく寝てるだろうに起こすのは悪いんじゃと止めようとするも、逆にトレーナーさんのしっー、という動作で静止される。

    「もしもし?」
    『──様です』
    「ああ、お疲れ。体調はどう?」
    『──朝よりは──けど』
    「そう。なら良かった」
    『それで──』
    「ああ、そのことなんだけどね」
    『何か問題がありましたか!?』

     断片的に会話がこちらにも聞こえて来てるけど今の声だけははっきり聞こえてきた。というかトレーナーさん眉をひそめながら耳からスマホを少し離してるし……。どんだけ大きい声出したのよ……。

  • 8◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:43:19

    「君風邪引いてるんだからもう少し大人しくしなよ……」
    『──せん……』
    「まあ問題はあると言えばあるね」
    『やっぱり────ありますし……』
    「あーいや、そうじゃなくてね? 君の担当ウマ娘は君の事が心配で心配でたまらないみたいだけど?」
    「『はぁ!?』」

     通話越しのアタシの声とトレーナーの声が、綺麗に重なる。それがどこか面白かったのか、アルダンさんがくすくすと笑ってる。
     いや、でもほら。そこまでじゃないから。心配は心配だけど、なんだかその言い方だと誤解を招きそうというか……。

    「いや、だからもう少し声抑えなよ、熱ぶり返すよ……。というかそんな驚くことじゃないでしょ……」
    『──どういう……』
    「はぁ~……。君、さっきまで寝てたでしょ?」
    『──るので』
    「……電話切った後でいいからドーベルにメッセージ入れてあげなよ」
    『え!? ドーベルからメッセージ送られてきてたんですか!?』

     ねぇ。トレーナー、本当に風邪ひいてるの?

    「だから……まあ、いいや。それでなんだけど。そうだな……。2時半過ぎくらいに君の可愛い担当ウマ娘がお見舞いに来てくれると思うから」
    『いや、流石に──』
    「病人は病人らしく看病されなさい」
    『──』
    「そういうことだから。玄関の鍵を開けておいてくれると助かるかな」
    『あっ──分か──』
    「じゃあ、よろしくね」
    『──とうございます』
    「はーい、お大事にね」
    『はい、失──』

  • 9◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:43:29

     スマホをしまい終えた後、こちらを向きにこやかに告げて来る。

    「という事だから。お見舞いに行ってもいいみたいだよ?」

     行ってもいいというか、いいという事にさせたというか……。

    「ありがとうございます……」
    「気にしないで。これくらいしないとアルダンに怒られてしまうからね」
    「もう……トレーナーさん?」
    「ごめんごめん。でも俺が言い出さなかったらアルダンから切り出したでしょ?」
    「ええ、昼食をいただいている時から物憂げな表情をしておりましたので」

     ……そんなとこまで見られてたんだ。自分が思っている以上に表情に出ていたみたい。
     取り合えずお見舞いに行ける事になったのはアタシとしては予想外というか。きっと自分だけだったら踏ん切りがついてなかったから。
     それと共に成り行きとは言え寝ているところを無理やり起こす事になってしまった事に罪悪感を覚える。

    「寝てたのに大丈夫だったのかな……」
    「いいんじゃない? まあ、担当の子をここまで心配させるやつが悪いよ」
    「トレーナーさんはあまり人の事を言えないと思いますよ?」
    「……そうかな?」
    「はい、そうですよ?」
    「……まあ、気を付けるよ」
    「はい、そうしてください♪」

     ……トレーナーという職業に就く人は、大体担当ウマ娘の為に身を削っているらしい。

  • 10◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:43:48

     その後。「お見舞いに行くのに手ぶらじゃ悪いでしょ?」と近場のスーパーまで車を出してくれた。
     なんなら、今買い物かごを手にしているのはトレーナーさんで、アタシは並んで歩いているふたりの後ろをついていってるだけになってしまっている。

    「おかゆとうどんとスポーツ飲料と……おかゆよりかは雑炊の方が良いか」
    「トレーナーさん。リンゴはどうでしょう?」
    「いいね、買っておこうか。ねぇドーベル、料理はどれくらいできる?」

     姉夫婦の買い物に付き合わされる妹ってこんな気持ちなのかなぁ、とぼんやりと考えていたら唐突にこちらに話が振られてしまった。
     慌てて思考を取りやめて返事をする。

    「え!? え~と調理実習でやった程度なら」
    「普通に包丁を使ったり、鍋を使ったりは大丈夫かな?」
    「多分、簡単なものなら」
    「ああ、そんなに不安がらなくても大丈夫だよ。難しい事をさせようとしてるわけじゃないから。……思ったよりは元気そうだったし、かけうどんじゃ寂しいか……」

     一通りの品物をかごに入れ終えてレジへと向かったものの、そのままトレーナーさんが会計を済ませてしまった。

    「あの、お金まで払ってもらうのは」
    「ああ、気にしないで。どうせあいつの事だし君が払った、って知ったら遠慮するでしょ? だから俺が払っておいた方が丸く収まるよ。先輩からの差し入れ、って事で」

     助けを求めるようにアルダンさんを見るもニコニコ笑っているだけで助けてくれそうにもない。むしろトレーナーさん側に加勢しそうな雰囲気すらある。

    「あ、ありがとうございます……」

     結局、素直に甘えさせてもらうしか出来なかった。
     買い物を終えた後、トレーナー宿舎の前で降ろしてもらう。

  • 11◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:44:07

    「では、頑張ってくださいね? ドーベル♪」
    「ありがとうございました」

     窓から手を振ってくれているアルダンさんを見送ってひとりトレーナー宿舎の前に佇む。
     ここまでお膳立てしてもらったんだもの。トレーナーの事、しっかり看病してあげないと。
     そういえばトレーナーの部屋に来る機会ってあんまりないな、と思いつつ部屋のある階を目指す。そりゃ担当ウマ娘がわざわざトレーナーの部屋に行く理由なんて、トレーナー室に忘れ物をしたとかそんな事でもないとないだろうけど。
     そんな事を考えていると目的の部屋番号の前まで辿り着いた。鍵は開けてくれているみたいだけど勝手に入るのも悪いしインターホンを鳴らす。ピンポーン、という軽快な音が響いたものの、十数秒の間反応がない。

    「トレーナー? 来たよー?」

     インターホンに語り掛けてみるも応答はない。

    「入っていいのかな……」

     電話をした後寝ちゃったのかな……。ならわざわざ起こすよりも勝手に入っちゃった方がいいかな?
     と、思っていたらなにやらドタドタと部屋の中が騒がしい。どうやら今起きたみたい。そうして数十秒も経たずにドアが開けられる。

    「来てくれたんだね、ドーベル」
    「アルダンさんのトレーナーさんが電話したと思うんだけど」
    「あ~、うん、そうだね。……荷物も重いだろうし取り合えず上がって?」
    「あ、うん。お邪魔します」

     いつもより髪がぼさぼさなトレーナーに迎え入れられ、部屋へと入る。

    「冷凍食品とかあるから冷蔵庫借りるよ?」
    「ああ、どうぞ」

     ひとまず買ってきた冷凍うどんや長ネギ、卵などは冷蔵庫にしまってしまう。
     ……明らかに冷蔵庫にモノがなさ過ぎじゃない? これお昼とかちゃんと食べたの?

  • 12◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:44:18

    「ねえ、ご飯は? 食べたの?」
    「…………」

     アタシから気まずそうに視線を逸らす。……そうだと思った。だって食べるものがほとんどないんだもの。

    「食欲は? 食べられそうなの? 無理そうなら仕方ないと思うけど」
    「あ、全然大丈夫。朝はどうしようもなかったけど今は食欲も湧いてきたから」
    「そう、じゃあ雑炊作ってあげるから。それ食べて」
    「ありがとう、そうさせてもらう。……ごめんな、わざわざ買ってきてもらって。後で掛かったお金は払うから」

     ……ものの見事にトレーナーさんが言った通りになった。

    「それなんだけど。これ、トレーナーさんが払ってくれたの。だからあんまり気にしなくてもいいみたいだよ?」
    「え?……ったく、あの人は」
    「……ふふふっ」
    「なんで笑うんだ?」
    「だって、トレーナーさんが言ったとおりだったんだもの。アタシが買った、って知ったら遠慮するだろうから払うよ、って」
    「むぅ……」

     一応先輩にあたる相手とは言え、気遣いを先回りされたのがどうやら不服な様子。いつもはアタシに対して先回りしてるし、いいようにやられてるトレーナーは貴重かもしれない。

    「そういえば熱は? 測ったの?」
    「朝測ったっきりだね……。もう一回測っとくよ」
    「じゃあその間に雑炊作っておくから」

     といってもパックのご飯にフリーズドライのスープを混ぜるだけの簡単なものだけど。
     お湯を沸かせつつご飯をレンジで温めながら現在時刻を確認する。……もう3時前か……。
     昼食と言うにはかなり遅い時間になってしまっているけれど何も食べないよりは多分マシだと思う。お腹に何も入れてない状態で薬を飲むのもダメだろうし。
     そうこうしているうちに出来上がった雑炊をリビングの方へと運ぶ。……やっぱりいつもより覇気がないし、アタシが目の前にいなかったからかかなり怠そう。

  • 13◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:44:29

    「はい。簡単なものだけど」
    「いやいやいや、助かるよ」
    「それで、熱はどうだったの?」
    「37.7°だったね」

     玄関で出迎えられた時は思ったよりは元気なのかな? と思ったけどさっきの様子から見ても実際はそこまで良くないんだと思う。
     アタシに心配を掛けまいとやせ我慢してる、と見た方が自然な気がする。

    「アンタ、なんでそんな熱があるのに元気そうなの?」
    「え? ドーベルが来てくれたかな?」

     ほら……。やっぱりそういう事言う……。

    「そういうのいいから……アンタ、アタシが来てるから、って無理してない?」
    「そんな事は……」
    「それ食べたらちゃんと体を休めて。だってさっきもアタシがリビングに来るまで怠そうな顔してたでしょ」

     トレーナーが見られてたのか、とでも言いたげなバツの悪そうな顔をする。
     そして数秒の逡巡の後、少しだけ困ったような笑顔を浮かべる。

    「じゃあ、お言葉に甘えて」

    (結局気遣わせちゃってるな……)

     懸念していた通り、やっぱりアタシの方が気遣われている気がする。
     前にアタシが看病してもらった時はそうじゃなかったはずなのに……。やっぱりトレーナーみたいに上手くいかないな……。
     雑炊を食べ終え、薬も飲んで食器を片付けようとしたところを「アタシが片付けるから」と静止して、寝室の方へと押し込む。

  • 14◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:44:48

    「でもさっきの、ドーベルが来てくれて嬉しい、ってのは本当だから」
    「そういうのは元気な時に言ってちょうだい」
    「あははは……そうだな、そうするよ。じゃあ、ごめん。俺は寝てるから。くつろ……げないかもしれないけど。ゆっくりしてて」
    「分かった」

     寝室の方へと入って行ったのを確認してアタシはリビングの方へと戻る。
     ここで家事とかパパっと出来ればいいんだろうけど……。生憎、アタシに男の人の洗濯物を畳む度胸はない。シャツとかはなんてことはないと思う。だってトレーナーのものだし。
     ただ……その……下着とかは、どうしても……。トレーナーだって流石にそれは嫌だろうし、アタシだって抵抗がある。だったら中途半端に下着以外を畳むよりかはもう放っておく方が良い気がする。
     掃除も……ぱっと見部屋の中はそこまで散らかってないし、下手にアタシに部屋の中をつつかれるのも嫌だろうからやる事がない。取り合えず食器はもう洗ってしまったし。

    「何しに来たんだろ、アタシ……」

     いや、実際冷蔵庫の中に何もなかったし食料を届けに来た、というだけでも十分仕事はした。とは思う。
     ただ実際来てみると思ったよりもトレーナーの為にしてあげられることが少なくて。

    (もっと近い関係だったら。少しは違ったのかな……)

     担当ウマ娘とトレーナーという距離感が今はどこか、もどかしく感じた。

  • 15◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:45:17

    ~Trainer's View~

     まだ寒い季節が続くのか、制服の上にカーディガンを羽織ったドーベルが目の前に佇んでいる。
     手にはワニ柄の黒い筒。という事は今日は卒業式だったのだろう。
     いつものように……。いや、いつものものじゃなくなってしまうトレーナー室でのひと時を共に過ごしている。
     今の時刻は……どれくらいなのだろう? 色彩の薄い世界では窓から差し込む日差しでは時間を判別できない。
     そろそろトレーナー室を出るのであろう。ドーベルが席を立ち扉の方へと歩いていく。
     しかし何か伝え忘れた事があったのだろうか。こちらに振り向き、瞳を潤ませて何か覚悟を決めたように喋り出す。

    『アタシ、トレーナーの事が……』

     続く言葉を告げようと口を開くものの、結局その先は出て来ず、苦々しげに口を噤むだけだった。

    『ううん……なんでもない。忘れて?』

     そうして寂しげに笑って、トレーナー室を去ろうとする。
     あんな表情をしておいて、なんでもないはずがない。
     その次の言葉に、本当に告げたかった大切な言葉があった事なんて、今まで担当をしてきたんだからはっきり分かってしまう。
     扉に手をかけたドーベルを引き留めようと声を出そうとするも。

    (声が出せない……!?)

     そもそも今俺の口は開いているのか? それすらも分からない。
     でも引き止めないと。ここで引き止めないと、きっと俺は。

    (ドーベル……!)

     だったら! 声が出せないのなら……!
     どうしようもない焦燥感に駆られながら、ぼんやりとした景色は遠のいていった。

  • 16◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:45:34

    ~Dober's View~

     時刻は18時前。
     カバンに入っていた本で暇を潰していたものの、そろそろ晩御飯を作り始めないとアタシが門限に間に合わなくなってしまう。
     取り合えずトレーナーに晩御飯をどうするか聞く為にも起こさないと。寝室の方に入り、ベッドで眠っているトレーナーを揺り起こす。

    「トレーナー? 晩御飯どうするの?」

     トレーナーの目が薄く開き、むくりと身体を起こす。寝起きだからかまだ意識がぼんやりしている様子。
     しばらくぼけー、っとしていたかと思うと話しかけるアタシの姿を認めたのか、こちらの方を向いてくる。

    「ねぇ、晩御飯は──」

     再度質問を投げかけようと思ったその瞬間。
     ──完全に不意打ちだった。背中に手が伸びてきて唐突に抱き寄せられる。

    (え、な、なに!?)

     いとおしげに、背中に当てられた手に力がこもる。

    (なんでアタシ抱きしめられてるの!?)

     状況が全く飲み込めない。だって今までそんな素振りなんて見せて来なかったから。看病されてアタシを少しでも女性として意識しちゃったとか?
     いやいやいや、流石にそれはアタシの都合よく考えすぎでしょ。悪い夢を見て不安になっちゃったとか? それでもトレーナーにしては大胆だと思う。レースに勝った時だってスキンシップなんてハイタッチ程度なのに、いきなり抱きしめて来るなんて。
     トレーナーにここまでさせた理由は正直アタシからはよく分からないけど。でもトレーナーから抱きしめてくれてるんだから。

    (アタシからこれくらいしても、許されるよね……?)

     そんな言い訳を心の中でして。アタシもそっと、抱きしめ返すようにトレーナーの背に手を回し。

  • 17◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:45:46

    「ほんっとにごめん! 寝ぼけてた!」

     たものの、瞬時に肩に手が置かれ引き離される。目の前で驚くような速度でトレーナーがベッドに頭を擦りつけている。
     残されたアタシの手はトレーナーを抱き寄せることはなく、所在なさげに宙を彷徨うだけだった。

    (そ、そうだよね!? トレーナーにとってアタシはただの担当ウマ娘なんだし、そんな事ある訳ないよね!?)

     案の定というかなんというか……寝ぼけてただけだった。でもいきなり抱きしめて来るなんて誰と間違えたんだろう? 実家とかで飼ってたペットとか?
     ……ペットに間違われてたらそれはそれでなんだか癪だな。

    「いきなり抱きしめて来るなんて何と間違えたのさ……。というかそんな激しく動いたら熱上がっちゃうよ?」
    「え? あ、ああ」
    「別に、怒ってないから。アンタにされても、嫌じゃないし……」
    「ほ、本当に?」

     心なしか顔が赤い気がするんだけど。本当に熱上がってるんじゃないの……?
     病人相手にそこまでキツく当たる気も起きない。……気にしてない事を伝えたかっただけなんだけど、アタシ、今言わなくてもいい事言ったな。

    「本当だから。だからその捨てられた仔犬みたいな目はやめて。……で、晩御飯はどうするの? 食べるの?」
    「本当にごめん。寝ぼけてたとは言えセクハラ紛いの事を……。って晩御飯? 作ってくれるの? ドーベルが?」

     寝ぼけていたという言葉に嘘偽りはないのか、やっぱり本題の方は全く頭に入ってなかったみたい。

    「他に誰がいるのよ……。大体、作る気なかったら食糧持ってきた時点で帰ってる。で、どっちなの? 門限だってあるんだし早くして」
    「是非!」
    「声大きいんだけど……」

  • 18◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:46:00

     通話してた時のアルダンさんのトレーナーさんが苦言を呈してた理由がよく分かった。少なくとも今日熱を出した人が出していい声量じゃない。
     苦笑しながらもキッチンスペースの方に向かう。まあ、晩御飯を作ると言っても看病食だし大したものじゃないんだけど。
     レシピに関しては……アルダンさんが送ってくれていた。

    (本当に……ふたり揃って世話焼きなんだから……)

     ……あれ? 食材を決めてたのってトレーナーさんの方だよね?
     なのになんでアルダンさんがレシピを知ってるんだろう。
     ……まあ、普通に口頭でアルダンさんに伝えただけか。まさかかごに入れてた食材だけで何を作るつもりだったか伝わってた訳ないだろうし。

    「めんつゆとかは使わせてもらうよ?」
    「ああ、好きに使ってくれ」

     一応めんつゆ、みりん、片栗粉とか。調味料なども含めて使う材料は一通り買ってくれていたみたいだけど、その辺りはトレーナーが普段使っていたものが残っていた。買ってきたものはストックにしてもらう事にしよう。
     アタシの料理スキルが未知数だったからか、切る具材は長ネギだけで後はおうどんを茹でたり最後に溶き卵を入れて閉じるだけの簡単なもの。

    「はい、そんなに凝ったものじゃないけど」
    「おお~!」

     10分程度で出来上がった卵のあんかけうどんをリビングの方へと運ぶ。帰ってからだと夕飯は食べそびれちゃうだろうし、アタシの分も一緒に作っておいた。

    「簡単なものだからそこまで感動されても困るんだけど……」
    「いや、やっぱり誰かが作ってくれた、ってだけで嬉しいものだよ! いただきます!」
    「そういうものかな……いただきます」

     流石にそのリアクションはオーバーじゃないかな、と思いつつも素直に喜んでくれているのを見ると悪い気はしない。

  • 19◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:46:12

    「すっごい美味しい!」
    「もう……だから声……」

     アルダンさんの送ってくれたレシピだから美味しいのは間違いないだろうし、味見もちゃんとしたけどアタシでも上手に作れていた事に安堵する。

    「明日からまた頑張れそうだよ!」
    「はぁ!? アンタ明日からすぐに仕事するつもりなの!?」
    「え? そうだけど。さっき測ったけど熱だってもう微熱だったし」

     確かに熱は微熱かもしれないけど、アタシとしてはここで無理をして欲しくない。
     いつも頑張ってくれてるんだから、こういう時くらいはちゃんと休んで欲しい。

    「明 日 も 休 ん で !」
    「え、でも」
    「でもじゃない! ちゃんと休んで! ……返信来なかった時、不安だったんだから……」
    「あっ、いや……ごめん。そうだな、明日も大事を取ってちゃんと休むよ。それでいいか?」
    「うん……」

     何気なく零れてしまった一言。ただそれがトレーナーをちゃんと休ませる一押しになったみたいで。
     ……そっか。アタシが心配するから休んでくれるんだ……。そんなトレーナーの判断基準が、どうしようもなく嬉しい。
     会話は途絶えてしまったものの、気まずいという訳でもない。不思議な沈黙に包まれながら二人で夕食を食べ終える。
     流石に食器くらいは……と洗い物を手伝ってこようとしたトレーナーをリビングに押し戻して、洗い物を済ませてひとまず今日の目的は達成。
     ちゃんと看病できたと思う。……正直心配するほどでもないくらいに割と元気だった気もするけど。
     とはいえまたすぐに体調を崩されても嫌だから、さっき言った通り明日は大事を取って休んでもらう。

  • 20◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:46:22

    「それじゃあアタシは帰るね。明日も来るから」
    「あ、うん、気を付けて……え? 明日も来るの?」
    「アンタ、冷蔵庫の中何もなかったじゃない! ご飯どうするつもり!?」
    「そりゃ買いに」 

     トレーナーが言葉を最後まで言い切る前に、思いっきり睨みつける。

    「はい……。家で大人しくしてます……」
    「ん。お昼の分くらいは今日買ってきた残りがあるだろうから」
    「あ、うん。じゃあそれをありがたくいただく事にするよ」
    「そうしてちょうだい。……じゃあ今度こそ帰るから」
    「ああ、気を付けて。って、あ、ごめん! ひとつ伝え忘れてた!」
    「なに?」

     部屋を去ろうとカバンを持ち上げたところで再び声を掛けられる。

    「ありがとう。知っての通り冷蔵庫の中すっからかんだしさ、凄い助かった」
    「……お礼はあのふたりに言ってよ。アタシ、大したことしてないんだし」
    「いや、そもそもドーベルが気にかけてくれてなかったらお見舞いに行かせようとは思わなかったでしょ。それに最悪今日飯抜きになってただろうし。誰かに頼れると思うと心強かったよ」

    (普段からそれくらい頼ってくれてもいいのに……)

     トレーナーは大人だから。まだ学生のアタシに頼るのは情けないとか思っちゃうのかもしれないけれど。
     それでもアタシは日頃お世話になってるんだから、ちょっとくらいは寄り掛かって欲しい。普段から無茶しがちな性格してるんだから……。

  • 21◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:46:37

    「だからさ、体調もしっかり戻ったらお礼させてくれ」

     今日のお見舞いだけじゃ到底返しきれないほどアタシの方がお世話になってるのに。
     でもここで言い返しても上手い事言いくるめられちゃうんだろうな……。まだ完全に熱が下がってる訳じゃないんだし、押し問答になる前に大人しく受け入れておこう。
     日頃の感謝は、普段から頑張って返していけばいいんだから。

    「……じゃあ、期待しとく」
    「ああ、期待しておいてくれ。ってごめんな! 門限あるんだしあんまり引き止めちゃ悪いよな! 気を付けて!」
    「あ、うん。じゃあまた明日、放課後来るから」

     まだ19時を少し過ぎたくらいで、寮までそこまで遠くないし間に合わないなんてことはないだろうけど、余裕があるに越したことはない。
     明日も来る約束をして、トレーナーの部屋から出る。外に出ると空気は澄み切ってて、口いっぱいに息を吸い込む。

     午前中のもやもやした気分は嘘のようで。
     爽やかな気分で行く寮への帰り道は、街灯と、優しい月明かりに照らされていた。

  • 22◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:47:02

    ~Epilogue~

    『ドーベルへ お見舞いお疲れ!』

     寮へと帰宅して、取り合えず何か飲もうと寮の共同冷蔵庫を開けると、メモ書きと共にヒシアマさんが用意してくれたであろう作り置きのおにぎりが入っていた。
     トレーナーのお見舞いに行ってるから帰りが遅くなる事を、アルダンさんが伝えてくれていたんだと思う。……流石におうどんだけだと物足りないな、とは思っていた。

    「もう……」

     なんだか今日は皆に気遣われてばっかりだ。レンジで温めてからおにぎりを口に運ぶ。
     美味しいとは評判だけど、基本的に夕飯を食べそびれた子の為のものだから、今までお世話になる機会はあまりなかった。自分の為に用意してくれたものという事も相まって優しさが身に染みる。

    (今度教えてもらおうかな……)

     今回みたいな事があった時に、やっぱり出来る事は多い方が良いと思うから。
     まあ、体調を崩さないに越したことはないのだけど。
     それでもこれから料理を振る舞う機会があった時の為を思、う……と……。

    (次料理を振る舞う機会なんて早々来ないよね!? もう!)

     思考を振り払うように手元のおにぎりを夢中で口に運ぶ。
     それでもおうどんを食べてくれた時のトレーナーの満面の笑みだけは、鮮明に浮かんできて。
     おにぎりが美味しいからという言い訳を心の中でしながらも、口元はどうしようもなく緩んでいた。

  • 23二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:47:05

    待て待て待て待って
    いいのか?
    これこんな掃き溜めみたいな場所で出しちゃっていい作品なのか!?

  • 24◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 20:47:13

    みたいな話が読みたいので誰か書いてください。

  • 25二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:48:04

    もう書いてるじゃねーか
    良い作品だよありがとう

  • 26二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:50:40

    なんでこう毎度毎度クオリティ高いものをお出ししてくるのか、アルダンも相変わらずな様で…

  • 27二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:54:45

    これに続いて書けってのは一種の拷問だと思うの

  • 28二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:55:08

    ああ~~すき!!!
    次に料理を振る舞うチャンスが待ち遠しくなっちゃうんだね そわそわしちゃうね ベルちゃん乙女だね

  • 29二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 20:57:14

    最近新作更新の頻度早くて助かる

  • 30◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 21:09:19

    介抱された話を書いたらそりゃ次は逆が思い浮かぶよね、という事でドーベルが看病する側の話でした。
    ドーベルはお見舞いに行きたい、と思いはするだろうけど行動に移すのは難しいでしょうし、ベルトレもベルトレで心配なくていいよ!みたいな感じで断ってきそうだしで誰か間にいないとこれ成立しませんね?という事でアルダンとアルトレペアに任せました。
    トゥインクルシリーズ最初の3年間を先に走った、という体で先輩後輩という事にしています。そうでもしないとベルトレ突っぱねてきそうなので……。
    後、ドーベルが帰宅する際夜道を女の子一人で返すの危なくない?と思いましたがネイチャのシナリオとかでは一人で宿舎まで来てますしどうなんでしょうね?距離的にも寮までどの程度か分からない……。
    最悪ウマ娘ですし何かあったら走って余裕で逃げ切れるでしょうけど。違和感あったら渋に格納する際アルトレに迎えに来させるようにしておきます。
    ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 31◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 21:10:24
  • 32◆y6O8WzjYAE22/09/19(月) 21:14:27

    そういえば投下している際に気づきましたがリンゴのフラグを回収するのをかんっぜんに忘れておりました……。
    書き上げるまでに落ちてなかったら放り投げます……。

  • 33二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 21:25:38

    ベルトレとドーベルもあるしアルトレとアルダンのトレウマも摂取できるとか最高か?

  • 34二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 23:34:25

    もう書いてある!定期

  • 35二次元好きの匿名さん22/09/19(月) 23:47:02

    幸せ…

  • 36二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 00:11:48

    メジロドーベルが好きです!
    ドーベルのトレーナーが好きです!
    だから!この2人が大好きです!
    ありがとうございます!

  • 37二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 10:46:44

    ありがてぇ

  • 38二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 11:00:52

    クオリティもボリュームも高品質すぎて変な声出ちゃったわ

  • 39二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 18:07:25

    イイ!

  • 40◆y6O8WzjYAE22/09/20(火) 21:00:39

    ~Trainer's View~

     ドーベルが部屋を出て数分後。ピコン、とLANEの通知音が鳴る。

    『冷蔵庫の中、リンゴ剝いてあるから』
    『食後に出そうと思ってたんだけど忘れてた』
    『おやすみ』

    「リンゴか……」

     いくら熱を出していたからと言ってももう微熱に下がっているし、食欲もそれなりにある。
     もう少し何かしらお腹を満たせるものがあれば、と思っていたので丁度いい。
     冷蔵庫の中に入っているとのことなので早速中を覗く。

    「おっ、あった」

     ラップのかかったお皿を取り出して見ると、綺麗にうさぎの形に切られたリンゴが盛られていた。
     1個丸々、という訳ではなさそうだからドーベルもいくらか食べたのだろう。流石に1人で全部食べ切るのはしんどいから正直助かった。

    「しかし……俺より切るの上手いな……」

     以前ドーベルがファン感謝祭に向けて生徒会の手伝いをしていて、無理が祟って倒れた時のことを思い出す。
     色々あって彼女の部屋に上がり込むことになってしまったのだが、その時にお見舞い品のリンゴを切る事になった。
     結果はまあ……ドーベルからうさぎと判別されないような出来だった訳だが。

  • 41◆y6O8WzjYAE22/09/20(火) 21:00:50

    (いや、あの時はまな板とかなかったしな?)

     ……手先が器用な方ではないのは自覚しているから、あっても出来るかは知らないが。
     折角切ってくれたものだし一切れ口に運ぶ。

    「美味っ」

     口に入れた瞬間、リンゴ独特のサクッとした瑞々しい食感と、甘い果汁が口内に広がる。
     見たところ買ってきたリンゴはひとつのようだし、選んだのは目利きが出来る人だったのだろう。
     うちに来る前に買い物をしてきていたみたいだから、あの人も一緒だったとすると……メジロアルダンだろうか、この手の事が得意そうなのは。
     全部は厳しいかなぁ……と思っていたがすぐに半分ほど減ってしまう。

    (ドーベル、今日の事気にしてるかなぁ……)

     晩御飯を食べるか確認しに起こしに来てくれた時、寝ぼけていたせいというのもあるが思いっきり抱きしめてしまった。
     抱き寄せた彼女の体は思っていたよりも華奢で。どうしようもない……庇護欲と言えばいいのだろうか。強い衝動に駆り立てられた事は寝起きながら強く覚えている。

    (いやいやいや、何を思い出しているんだ俺は……)

     俺がどう思ったかはどうでもいいだろう。それよりも彼女が恐怖を感じなかったかどうかの話だ。
     男の一人暮らしの部屋で唐突に抱きしめられるだなんて、恐怖を感じない方が無理な話だ。
     幸い離れた後の表情や声音からは怒った様子や怯えた感じは見られなかったが。

  • 42◆y6O8WzjYAE22/09/20(火) 21:01:03

    (流石に気にしてるよなぁ絶対……。また今度ちゃんと謝らないと)

     正直何故あのような行動に及んでしまったかは自分でも覚えていない。
     誰かと間違えた訳ではないのは確かだ。実家で犬や猫を飼っている訳ではないし、気軽に抱きしめられる相手がいるわけでもない。
     ただただ抱き寄せないとどこかに行ってしまいそうで。お見舞いに来てくれていただけなのに、どうしてそんな事を思ってしまったのだろうか。
     ……本人は気にしてない、と言っていたが正直俺の気は収まらない。
     体調が良くなったらお見舞いしに来てくれた事も兼ねて、目一杯お礼をしよう。

    (ドーベル、何なら喜んでくれるかな)

     いつもは少し強引に振り回してしまう事も多いが、今度は彼女の希望を聞くのもいいかもしれないな、と。

    『リンゴ、美味しかったよ』
    『ドーベルリンゴ切るの上手いんだな』
    『可愛かったぞ』
    『おやすみ』

     LANEに返信を打ち、残り少なくなった、うさぎの形をしたリンゴを頬張りつつ思うのだった。

  • 43◆y6O8WzjYAE22/09/20(火) 21:02:09

    完全に拾い忘れていたリンゴのくだりの回収です、お納めください。
    やるなら絶対このネタ入れたいって思っていたはずなんですけどね……。
    渋に格納する前に気づけて良かったです……。

  • 44二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 21:11:48

    >>43

    あなたが神か……

  • 45二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 21:15:01

    この2人の話を読んでると甘くって、もう胸がギュンギュンなんよ

  • 46二次元好きの匿名さん22/09/20(火) 23:01:36

    追加やと!?

オススメ

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