【ss】スカーレット「契約解除届…?」

  • 1二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:15:09

    トレーナーから連絡があった。
    トレーナー室においてある書類をグラウンドまで持ってきてほしいとのことだ。
    それほど手間でもないし、しょうがないから持って行ってあげることにしよう。
    トレーナー室のあいつの机を見ると特に書類らしきものはない。
    周辺を見渡すと一枚の紙が落ちているのを見つけた。これだろうか。
    大事な書類でしょうに雑なんだからまったく、などと愚痴りながらその書類を拾い上げる。
    何の気なしに内容に目を通してみると……そこには『契約解除申請』の文字があった。
    ──頭が真っ白になる。何が書いてあるのか理解できない。
    いや、理解はしていたのだろう。なぜなら私はその瞬間その場にへたり込んでしまっていたのだから。
    契約解除?誰が?何を?決まっている、私とあいつのトレーナー契約のことだ。なんで?そんな素振り全くなかったじゃない。最近は私も上り調子で今までじゃ勝てなかったようなレースにも勝てるようになってきていたのに。アイツと一緒に行けば私は一番のウマ娘になれるって信じていたのに、なんでなんでなんで!
    アイツとの日々が頭を駆け巡る。最初にスカウトされた時のこと。レースで勝って2人で祝勝会をやった時のこと。負けた時には落ち込む私に黙って寄り添ってくれた。それから、日々の何気ない練習風景。これからも続くと信じて疑わなかった毎日の…。
    気が付いたら私は、子供のように声を上げて泣き崩れていた…。

  • 2二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:15:34

    ─――化粧室でメイクを整える。
    目元がまだ赤いがあまり時間もかけていられない。しょうがないからこのぐらいで妥協しよう。
    化粧室を出た私はグラウンドに向かって歩き始めた。
    …右手には、ぐちゃぐちゃに握りつぶされたのを無理やりに延ばした、例の書類を持って。
    アイツが決めたことなら仕方ない。私にそれを拒否する権利はないだろう。
    もともとアイツに声を掛けられなければ、一人でやることも考えていたのだ。元に戻るだけのこと。何も問題はない。
    だけど、せめて理由だけでも聞き出してやらないと気が済まないわ!

    それよりさっきのような醜態をアイツの前でさらすわけにはいかない。
    アイツの前ではスカウトされた時にもやらかしている。最後の時くらい毅然とした姿で別れたい。
    グラウンドについてからのことをシミュレートする。
    書類を渡し、黙っていたことに少し怒り、理由を聞きだして、今までの礼を言って、毅然とした態度で別れる。
    …うん、私ならできる。
    大丈夫、さっき泣いたおかげで気持ちも落ち着いている。
    私は一番のウマ娘になるの、これくらいなんてことないんだから!

  • 3二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:16:03

    グラウンドでアイツはいつものように練習の準備をしていた。
    深呼吸して近づいくと、こちらに気が付き笑顔で手を振ってくる。
    ─ヤバい。心がざわめく。とっさに顔を伏せ、奥歯を食いしめる。毅然とした態度で!
    目の前まで行くと、悪かったなありがとう、なんて笑うアイツの声。
    ばれないように改めて呼吸を整える。
    さっきシミュレートした通りに言えばいいだけだ。
    大丈夫、私ならできる。落ち着け、落ち着け、落ち着け!
    怪訝そうなアイツに書類を突き出し、予め決めていた通りの言葉を吐き出す。
    「ほら゛あ゛っ…」
    あ、ダメだ
    「こ゛れ゛ぇっ…も、も゛って…」
    出たのはびちゃびちゃの涙声。
    同時に目からもまた涙があふれ出てくる。
    …さっき泣きつくしたと思ったのに、まだ残っていたなんて。
    「う、うああああぁぁぁぁ…これっぇ…な、なんっで…う゛ぅぅ、私ぃ…一番、アンタとぉっ…!ああああぁああぁぁぁぁああっっ…」
    決意もむなしく、その場に座り込んでわんわんと泣き声をあげる。
    髪が地面につくのが気になり巻き上げようとするが、手から滑り落ちる。
    …自分の髪すら思い通りにならないなんて。
    突然泣き出した私にアイツは驚いたようだが、黙って私を抱きしめ、背中を撫でてくれた。
    ああ、アンタはどこまで優しくて…残酷なのだろうか。
    ごめんなさい、いつもわがままを言って。
    ごめんなさい、気性難な性格で。
    ごめんなさい、思い通りレースに勝てなくて。
    ごめんなさい、あなたの一番のウマ娘になれなくて。
    ごめんなさい、最後までこんな風に迷惑をかけて。
    でも、これが最後のわがままだから。もう少しだけあなたの胸で泣かせてちょうだい。
    今まで本当にありがとう。…さようなら。

  • 4二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:16:21

    ───アイツの話によると、契約更新の際に契約更新届と契約解除届のどちらもウマ娘に渡したうえで説明する必要があるそうで。
    アイツがカバンから出したのは、アイツのサインが記入された契約更新届だった。
    つまり、契約解除は私の早とちり。アイツはちゃんと契約更新を考えてくれていたのだ。
    お前を一番のウマ娘にするって約束したじゃないか、そう言って頭を撫でるアイツに対して、嬉しいやら恥ずかしいやら。
    顔と耳が熱くなる。何か言おうと口を開けるが何を言っていいのかわからない。
    安心感からまた涙が出そうになる。…涙には限界量などないのだろうか。
    流石にこれ以上泣き顔を見られたくないので、またアイツの胸に顔をうずめた。
    「…本当に私を見捨てないわよね?」
    「絶対に見捨てたりしない。こんな優秀なウマ娘を手放すトレーナーがいるもんか!」
    …もう少しこのまま頭をなでてもらおう。
    落ち着いたら、今までの感謝の気持ちをちゃんと伝えることにしよう。
    そうして、明日からはいつも通り、一番のウマ娘になるための練習をして過ごすんだ。
    昨日と同じ、これからもずっと続く、いつも通りの一日を…。

  • 5二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:16:35
  • 6二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:18:26

    とてもよかった

    契約更新と解除の書類分けるのは婚姻届と離婚届が一枚にはなってないようなもんやでたぶん

  • 7二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:39:51

    ダスカ曇らせは健康にいいからもっとやれ(ただし最終的に晴れることを前提とする)

  • 8二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:45:31

    寝る前にいいもん見れたぜ
    助かる

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:49:21

    これはもっと評価されてほしい…

  • 10二次元好きの匿名さん21/10/16(土) 21:50:24

オススメ

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