彼岸花ちさたき概念

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 21:59:09
  • 2二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:01:28

    彼岸島に見えた

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:02:47

    どの時代でもちさたきはちさたきしてる

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:03:02

    錦木千束と井ノ上たきなの前世である錦千沙と井上滝

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:03:32

    >>2

    全裸で注射器回避する千束か

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:03:36

    この世界で心臓悪くしたら終わりだな…長時間運動できないレベルの弱さにしとくか

  • 7二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:04:36

    >>6

    沖田総司みたいに結核とかの持病持ちでもありだと思う

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:05:13

    >>6

    前世設定を取り込むなら彼岸花で心臓刺されて死んで呪いみたいになってるとかどうか

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:05:20

    6話のロボ太の説明「明治政府樹立以前に組織された暗殺部隊」
    って言い方だと倒幕側の勢力の可能性もあるんよね
    どっちでも美味しいけど

  • 10二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:06:03

    ウォールナットとか妖術使いになるのかな?

  • 11二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:07:15

    ミカは時代背景がブレるけどそのまま黒人の同性愛者でいいか、そして強い

  • 12二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:07:32

    明治編の不殺の誓いをする井上滝

  • 13二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:08:52

    >>11

    >>10

    その辺りは出さなくてもアリではあると思う

    あくまでもちさたきはどこでもちさたきするのをピックアップするために

  • 14二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:09:14

    敵の頭をかつての相棒ごと斬りころしてしまった絶望で消えない傷痕を残すたきな

  • 15二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:10:30

    とりあえず2人は添い遂げて死ぬオチは確定でいいか

  • 16二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:11:47

    彼岸花幕末浪漫譚

  • 17二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:15:06

    千束が弾丸を斬るって言われてたけど、それはどっちかというと剣技の正確さという意味でたきながやりそうなんよな
    千束は普通に避けて相手本体を斬れるから、防御に回ってるたきなより一枚上手って感じのイメージ

  • 18二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:35:19

    なんかこっちのちさたきは末路が悲惨な気がする

  • 19二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:37:42

    どうしたってるろうに剣心がちらつく…

  • 20二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:38:50

    千束は言い方が悪いけど猿みたいにトリッキーな動きしてそうだなぁ

  • 21二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:51:14

    >>18

    でもお互い血みどろの中でキスするの見たくない?

    俺は見たい

  • 22二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:51:23

    前世では救えなかったけど今世では相棒を救えたたきな(滝)とかどうよ?

  • 23二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:54:44

    >>20

    宗次郎の瞬歩みたいなの使いそう

  • 24二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 22:56:26

    >>21

    彼岸花の花畑の中で血まみれキスしてそのまま……

  • 25二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:00:30

    >>17

    狂犬モードになると全部弾き返しながら突っ込んでくるから相手からしたら恐怖心ヤバそう

    千束(千沙)はガチると早すぎて恐怖とか覚える前に昏倒させてそう

  • 26二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:10:23

    >>22

    お互いに全幅の信頼を置く一見理想の関係だったんだけど、それが仇となって単独行動を任せた千束が深手を負ってしまうんだよね…

  • 27二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:27:34

    >>14

    そこで百合ーゴーランドよ

  • 28二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 00:43:07

    「子孫」じゃなくて「生まれ変わり」だもんね
    時代設定もあるし絵になる(悲惨な)死に方をしてくれると美しい…

  • 29二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 01:15:49

    室内戦で軽やかに動くためにあえて脇差を多用する千束概念をよろしくお願いします。

    長い刀が天井に引っ掛かってしまったたきなを助けてやってくれ

  • 30二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 01:33:12

    大勢の武士を相手に二人で戦うけど
    千束は戦いの最中に病気の内蔵が限界を向かえて吐血して死亡
    残ったたきなが千束の刀と二刀流でどんどんボロボロになりながらも鬼神のような気迫で大勢に恐怖を植え付けながら暴れて最後は刀が何本も刺さった状態で千束の亡骸の隣に倒れて…というイメージ

  • 31二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 06:21:02

    幕府側でも攘夷側でも天才剣士はいるから実戦描写は映える

  • 32二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 10:59:29

    人殺しはしたくないけど殺さなければならなくなって四大人斬りぐらい殺してる千沙はアリ?
    で死ぬその時まで人斬りそのものを後悔してるとか

  • 33二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 11:09:01

    >>32

    夜1人になった時に今まで殺してきた人が立ってて夜通し泣きながら謝り続ける千沙そして翌朝いつも通りに振る舞う

  • 34二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 11:12:03

    刀二刀流で弾丸を避ける千束と、刀と短筒で弾丸を切るたきな。

    最後は2人で討死もいいけど、ハワイ→アメリカとかに逃げ延びてそこでウェスタンなサムライガンマンとしてお助け用心棒をするとかもですね……。

  • 35二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 11:12:42

    千沙は小太刀を使った戦法で出来る限り鞘に入れたまま殴る
    滝は拳銃と刀の龍が如く維新の坂本(斉藤)みたいな戦法なイメージ

  • 36二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 11:15:17

    生存エンドなら引退になるのかな

  • 37二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 11:16:36

    >>36

    幕末を生き残った者達の会話とか気になる

    特に斎藤一とか

  • 38二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 11:24:57

    >>36

    「まさか引退できると思わなかったしなんなら生き残れるとも思わなかった〜」

    「そうですね……」

    「あのさ!ずっと思ってたんだけさ2人で茶屋ひらきたいなーってどうかな、」

    「いいですよ」

    「えっ!いいの!やったー!」

    「でも会計は私がやります」

    「いいねいいね!楽しくなってきた!」

    「お店の名前とかどうするんです?」

    「ふっふっふ実はもう決めてあるんですよ!その名も『茶屋ヒガンバナ』!!」

  • 39二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 12:04:33

    >>38

    不吉では?とツッコミ入れられてそう

  • 40二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 13:43:27

    真島はどんな役だろう?

  • 41二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 14:43:02

    >>40

    この国の均衡を真に憂う者である!

  • 42二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 17:41:13

     薄暗い部屋の中を、蝋燭の明かりだけが仄かに照らして揺らいでいるのが、薄い紙を隔てた先で見て取れる。
     ごそごそと衣擦れの音に混ざって小さく啜り泣く女性の声が微かに聞こえ、男らしい大柄な体躯を思わせる人の影が何かに覆い被さるように体を揺らして蠢いている。
    「お館様も好き者だ、あんな小娘に」
    「しっ、聞こえたら首が飛ぶぞ」
     部屋の前、見張りに立つ二人の男が小声で言葉を交わす。身なりこそ小綺麗な着物だが、無造作に伸ばされた髭や手の入らない様子の乱れた髪は、高貴な雰囲気とは程遠い。荒々しく険しい顔つきは、男たちの人柄がそのまま表に現れたかのようだった。
     それぞれ腰には二振りの刀。身の長い打刀と脇差しが構えられている。その刀に手をかける様子はなく、暢気に柄の上に肘を乗せながら会話を楽しんでいる。
     その男たちを見るように、廊下の角から人影が歩み出る。滑るように静かな足どりは床板を軋ませることもなく人影を運び、明かりのない廊下の影から月明かりの下へとその姿を晒け出させる。
    「! なにも」
     暗がりに月明かりだけを反射して、獣のような眼光が浮かぶ。男の片割れが、もう一方の男の背後に浮かぶそれに気付いた時には既に遅く、その喉に飛んできた短刀が深々と突き刺さり、断末魔の声をあげることさえできずに絶命した。もう片割れは状況を飲み込むことさえできないまま、その身体は頭部のない不完全な人体へと変わり果てる。
     ごと、ごとんと並んで出来上がる二つと一欠片の骸を跨ぎ、廊下から現れた人影は微かな明かりの灯る部屋へと繋がる障子を無作法に開く。
    そこにいたのは、まだ齢十にも満たないほど小柄な幼女と、その幼女に覆い被さる醜く肉のついた身体の、初老の男。
     男は突然の物音と、乱入してきたその人影に驚きの表情を浮かべて、口を開き叫んだ。
    「    」
     誰だ、という言葉は言葉になる前に、男の首は単独で跳ね上がり、残された胴体から吹き出た鮮血が、床に壁に天井に、赤黒い彼岸の花が咲き誇るように飛び散り、蝋燭の火は鮮血に塗りつぶされて、部屋の中は暗闇に包まれる。
    暗闇の中、人影は残された幼女を見下ろし、その生存だけを確かめて身を翻す。
     部屋の外、月明かりに照らされた漆黒の髪と着物に、恐ろしく映える赤のヒガンバナを纏った麗人が一人。
    今しがたの惨劇を振り替えることさえなく、彼女は夜闇に姿を消した。

  • 43二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 17:41:26

    「やってくれたな、たき」
    「やっておきました」
     翌の朝、出会い頭に投げ掛けられた言葉に、昨晩果たした仕事の成果を報告した。
     その結果、どういうわけか顔面に強烈な拳撃を浴びせられることとなり、町中にある川の水でその部分を冷やしている最中のことだった。
    「おわ、ひっでぇ顔」
    「…………」
     隣から聞こえてきた声に顔を上げると、なんと言えばよいのだろう、色のついた白髪のような、奇抜な髪をした女人が桶に水を汲みながらこちらを見つめていた。
     異国の者だろうか、しかしその身は鮮やかな赤い着物に包まれていて、着こなしや立ち振舞いが異国の人間ではありえないほどに自然だった。
     先ほどの言葉もこの国の言葉だ。
    「お馬さんにでも蹴られた?」
    「…………」
     こちらから返す言葉はなく、それからは向こうから声をかけてくることはなかった。
     去り際、小さく一言「お大事に」と聞こえたのは、気のせいではなかっただろう

  • 44二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 17:41:45

    「付き人……わたしがですか」
    「ああ、楠木様からだ」
     屋敷に戻ると、入り口にふきどのが立っていた。
     一通の文を手渡され、その内容を確かめる。
     それはわたしが付き人として、もう一人の『ヒガンバナ』と行動を共にしろという上意であった。
    「なぜわたしが……」
    「決まってんだろ、昨晩のお役人を殺した件だ。てめえは実力はあるが、勝手が過ぎる」
    「ヒガンバナ隊には斬殺手形があります。人を斬り殺すのが役目です」
     あの役人は町人たちから不当な税の徴収を行い、払えぬものには相応の財を払えと年端もゆかぬ子供たちを連れ去り、自らの情欲の捌け口にして何人もの命を奪っていた。わたしたち『ヒガンバナ』は、そういった悪人たちを斬り、町の安寧と秩序を維持するために存在する組織。
    「あのお役人は例の武器商人と通じていた。泳がせろと言われたはずだ。どうして斬った」
    「…………」
    「まただんまりか……」
     そうすべきだと、判断した。
     生かしておいてはいけないと。
    「……ふきどのよりも弱い者に付き従うつもりはありません」
    「……なら心配いらねえ。そいつの階級も『花』だ」
     ふきどのと同位の階級。つまり、隊を束ねる最高位の剣士。
     ならば、手合わせの一つも願いたいものだ。
     わたしは少しでも強くなりたい。悪人をより斬り殺すべく、正しき刀を振るうべく。
    「……ちょうどいいから言っておくぞ」
    「……?」
    「〝それ〟だ」
     指差された場所は、わたし。ではなく、その後方。
     振り返って確かめると、鮮やかな赤と奇抜な白髪が視界に入る。
    「千歳だ」
    「どもー、ちとせでぇす♡」
     その女人は、両の手に何本も串団子を握って、歯を見せて笑う。
     これが、わたしと千歳の出会いだった。

  • 45二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 17:42:04

    みたいな導入の妄想

  • 46二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 17:59:09

    >>42

    誰か、こやつに袖の下を渡しておけ

    良いものを見た

  • 47二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 18:09:38

    千束に千歳という名前…

  • 48二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 19:51:50

    よき!

  • 49二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:09:34

    >>47

    地名の方だけど

    千歳は多くの鶴が空を舞い、川辺は鶴の生息地となっており、「鶴は千年、亀は万年」の故事にちなみ「千歳」と命名されました。

    千歳いいね・・・

  • 50二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:15:05

    この時代の西洋人ってどのくらい珍しいんだろう

  • 51二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:26:03

    >>49

    残酷なようでもあり希望のようでもある…

  • 52二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:47:46

    確かにこの時代で千束が金髪だったらすごい目立ちそうだよね
    三度笠とか被らされてそう

  • 53二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:53:26

    初期のたきは千歳に毎回勝負挑んでボコボコにされる

  • 54二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:56:40

    時代的に西洋人と遊女の落胤とかそんな感じなのかもしれんな明治千束…

  • 55二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:17:59

    >>54

    で要らなくなって親に捨てられた時に刀を杖代わりにしてる老剣士に拾われるんだよね

  • 56二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:20:06

    斬撃を飛ばす天才とかいそう

  • 57二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:29:39

    >>45

    素晴らしい…

  • 58二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:49:47

    ワイも別なの書いていいか

    「罠だったのか!」
    「囲まれています!」

    赤と紺色の服を着た女が幾人か、山間の少しばかり窪んだ場所で銃声にまみれている。
    背の高い木々がこの女らにとって展望を隠す障害ともなり、飛んでくる銃弾から身を守る心強い盾ともなる。
    笹の騒ぐ音がする。遠くから自分たちを狙う者どもの来襲を示す。

    「瀧! そっちは頼んだ!」
    赤い袖をはためかせながら、紺色に怒鳴る。
    「御意! エリカはこっちへ! 私が先に行く!」
    エリカ、と呼ばれたこれまた紺色の者も瀧と一緒に駆けだす。
    泥濘の中を踏みしめて、夕暮れの山中を息もつかずに。

    その先は、銃を構えた男の群れ。ざっと五人は居ろうか。伝来の火縄銃とは異なり、何度も何度も弾を込めずに撃つことができる舶来物と聞く。そう、これこそが彼女らがここへ来た理由だ。

    この頃都で銃を大量に集めてどこかへ送っている、という不穏な知らせが彼女らを統括する者の許へ来た。情勢は昨今不安定であるが、更にこれを刺激して益を私する者どもの影があちらこちらに歩いている。幸いにも斯かる者どもは、素振り稽古もせぬ不逞の浪士。捕縛も口封じも毎度容易い。これもその一件のはずであった。密使が調べた時間と場所にその取引現場はあり、半ば揚々と乗り込んだがそれが間違いだった。

  • 59二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:52:03

    >>58

    まんまと彼女らは低い位置に誘い出され、高い場所から銃の乱射に遭ったということだ。

    耳のすぐ横を、肩の後ろを銃弾が駆けていくような錯覚がする。

    一歩でも動けば心の臓に中り、また動かざれば眉間を貫くのではないか、という恐怖に震える。


    瀧は刀を抜き、生い茂る笹、若竹、その他名の知れぬ草を薙ぎ、自らの短銃を何度か放つ。

    それは幾つか目標に中り、自身に目がけてくる弾は減ってくる。


    ふと、片目の端に共連れが映る。

    「大丈夫ですか、エリカ!」

    エリカと呼ばれた女は右腕を押さえて蹲る。握っていた刀の柄が自身の血で染まる。近くに人はない。ならばと瀧は見上げる。スナイドル銃と呼ばれるそれは複数の弾を放てるもので、エリカを貫いた弾が何発目のものかは知らぬが、瀧を狙っていることには相違なかった。


    「瀧! 来ちゃダメ!」


    「なっ――!」


    エリカが向かおうとした先、笹で隠れたその躯体に見覚えがある。


    ――ガトリング。


    たった一人で数十人分の働きをする自動銃。一度だけ訓練で見たことがあるが、あれがすべてエリカに中ったとしたら?

    だめだ、心臓の一拍、瞬きの間も惜しい。瀧は自ら握っていた刀を大きく振りかぶってガトリングの後方目掛けて投げる。


    瀧の手から離れたそれは、ほぼ姿勢を変えずに操作手の胸に深々と刺さり、呻き声とともに倒れる。

  • 60二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:53:29

    このレスは削除されています

  • 61二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:54:08

    >>59

    「蕗(フキ)!!」

     瀧は声を張るが返事は来ない。先ほどより少し収まった銃声。もう撤退だろう。エリカの刀を鞘に仕舞わせ、手早く包帯する。

    「私なんかほっといていいのに! 瀧が危ない!」

    「黙ってください。行きますよ!」

     エリカの右手を止血の代わりなのか、力強く握りしめ、元来た道を戻る。

    「瀧! そっちに首魁が行った! 生け捕りにしろ!」

     蕗の鋭い声。どこにいるかは分からないがはっきりと聞こえる。

    「首魁……どこだ」

     瀧は乱れた前髪を後ろに流しながら辺りを窺う。

     ……小屋? あんなところに小屋なんかあったか? 倉庫はもしかしてアレか。

     脱兎のごとく瀧はその小屋に駆け出す、数十歩先の小屋など一瞬だ。蹴りを入れて扉を破ると確かにそこにいた。

     これが倉庫か。農機具小屋に見せかけて、筵に巻かれた銃がわんさとある。

     爆弾の入っているだろう箱も天井まで積まれている。

    「疾く投降せよ。命までは取らない」

    「クソ、邪魔者が女だって話、マジだったんだな」

     首魁は短銃を構えて撃った。その瞬間短銃の砲身がパン! はじけ飛び、木製の銃身に火が付き、散った火花が小屋の荷物に降る。その火花が乾燥した筵(むしろ)を燃料として大きく燃え上がった。

    「なっっ!?」

     二人とも同じような声を出しながらその筵が掛けられた箱を見る。

     たきなは咄嗟に小屋から飛ぶようにして離れる、がその瞬間。鼓膜を焦がすような音が轟く。


     夕暮れを一か所に集めたような光景だった。



    「江戸送りですか」

    「そうだ。支給武器の紛失。首魁を生け捕りにするどころか焼き殺す、周囲に気取られるやもしれぬ家事騒ぎ。斬首でないだけありがたいと思え。それに井ノ上瀧よ、そなたの頭(かしら)から毎度非行を申し伝えられておる。もう京ではやっていけまい」

    「……有難き仕合せでございます。江戸ではいかにしてお勤めを果たしましょう」

    「ふむ、それはな、ひとつ薬湯屋に行ってもらおう。安堵せよ、そこも彼岸花の居るところだ。赤の者のな。ちと生意気だが優秀な者だ」

  • 62二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:58:21

    時代に合わせた文章撰びとか大変そうなのにたいしたものだ…

  • 63二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:20:44

    すげぇめっちゃいいわこれ超ワクワクする導入

  • 64二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:38:53

    今続きかいてるわ、まっててな

    >>61

  • 65二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:46:29

    前世の記憶を夢で見てしっかり覚えてないけどさりげなく
    「千歳」「たき」
    と呼び合うのはアリ?

  • 66二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:51:34

    >>65

    たきなはともかく千歳は「誰よその女!」ってなりそう

  • 67二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 23:06:15

    夢で前世の記憶を見るのはロマンチック
    超便利設定だな…

  • 68二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 23:08:54

    >>61


    秀でたるは京にこそ居るべけれ。

    瀧はそう教わってきた。天子様のおひざ元でこの平穏と安寧とを守るのが彼岸花の務め。この薬湯とはなんだろうか? 薬師なのだろうか? 殺す専門の彼岸花がそんなことをするのか? あ、いや手負いの彼岸花を治療するのか?

    出立する前にその赤い彼岸花のことについて楠木に訊く。


    「都大火を御したりし者だ。ただの一人でな」


     なんでも、都一面を火の海に変えようとした者らがいたという話は、青袖ともなるとチラホラと噂程度だが聞いたことがある。あまりにも畏れ多く、口にすることすら憚られるような事件、大逆。

     これを事前に察知し、これを討った者がいるとは知っていたが、それが何故、江戸に下り、しかも薬湯って何?

     

     そんなことを考えながらも足は幾つもの関を抜けさせ、いくつかの川を下るとそれはあった。


     意外に大通りに面している。地代も高かろう事よ。などと思いながら地図とそれとを見比べる。


     莉紅麗可 と朱書きされた看板。りくれこ……?


     こんな珍奇な名前はここにぐらいしかあるまい。

  • 69二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 00:12:13

    >>68

    なるほど喫茶じゃなくて薬湯屋なのか

  • 70二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 00:14:14

    でもこれ本編のまんまなぞっていくとたきなの本領発揮されるまでが長すぎんか?

  • 71二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 07:34:01

    >>65

    夢共有で見てるオチか

  • 72二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 10:32:45

    >>71

    必殺仕事人とか2人で見てたのかね

  • 73二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 10:35:53

    >>72

    京都旅行中に昼寝してしまって前世の記憶を夢共有で見たとか?


    なんでもアリだな

  • 74二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 12:46:37

    >>68

    また後で書くわ

    まってな

  • 75二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 17:26:47

    >>74

    待ってます

  • 76二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 18:51:17

    >>70

    銃が得意の代わりに投げナイフとか?

  • 77二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 19:48:36

    >>72

    夢共有ホント便利

  • 78二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 21:05:13

    なんか千歳彼岸花のレリーフが刀身に入った刀使ってほしい

  • 79二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 23:45:49

    >>68


    「御免、錦木殿は居られるか」


     瀧はそう言って暖簾をくぐる。なかなか洒落ておるななどと辺りを見回す。

     障子紙はただの油紙や半紙ではなく、色のついたもので、太陽の光を浴びて室内を鮮やかに照らす。

     調度はどうも唐人、西洋風だ。割と値が張るのもあるだろう。

     瀧はあまり詳しくはないが、要人の警護をした際に、このようなものが飾ってあったような気がすると思い返す。

    「あ、お客さんだ~いらっしゃ~い」

     店の奥から出てきた女を見て瀧は一瞬言葉を失う。髪である。白に近い金色の髪は先ほどから室内を走る光線に当たりキラキラと周囲に乱反射する。

     髪の色に合わせたような白い肌に、対照的な紅色の瞳。

     紅色の着物に白の襷掛け。生成りの前掛けなども十分に目を惹くだろうが、彼女のその髪と目には勝らないだろう。


    「わたしはその……彼岸花で」

     

     自己紹介をするにも一瞬たじろいでしまう。彼岸花、その名が出された瞬間にその女は帳場から勢いよく出て、瀧の手を取りにじり寄る。


    「あ! 聞いてるよ! よろしく相棒! 千沙です!」

    「井ノ上瀧と申します」

    「瀧! 初めましてよね!」

    「はい。京から下ってきまして」

    「本丸! 優秀なのね! 齢は?」

    「十六です」

    「私が一つお姉ちゃんか~でも、殿とか様とかいらないからね! 千沙でいいよ~!」

    「はぁ……」

  • 80二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 23:47:04

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  • 81二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 00:02:56

    >>79

    なんだこの人は……。滅茶滅茶顔を近づけてくる。馴れ馴れしい……が不思議とそこまで不快にはならなかった。勧められるがままに席に座り、所在なさげに周囲を見回すほかに仕事はなかった。

    自分の上位の者がいそいそと動いているのにこのようにしていてもよいのだろうか? という不安が瀧にはあったが、千沙は瀧と目が合うたびににっこりと微笑み、「そこにいて」と示す。

    まあ、亭主が客人をもてなす茶室のような趣なのだろうと自分を納得させる。


    「コゥヒィ、淹れたの。飲むでしょ?」

    「コウヒィ?」


     瀧は目の前に置かれた取っ手付きの湯飲みの中身を凝視する。

     なんだか焦げ臭い……。焦げを集めて湯に溶かしたのだろうか?


    「あの……錦木殿」

    「千沙ね」

    「千沙……さま、どの……ぁ……さん」

    「もー。まあいいよ、もしかして珈琲初めてだった?」

    「あ……何かの本で読んだことがありますが、喫するのは初めてです」

    「そう? じゃあ砂糖がいるかも! はいどーぞ!」

    「こんなに砂糖を……」


     砂糖が入った壺をずいと差し出す。なんともまあ、豪気なものだ。こんなに白くきれいな砂糖を

    集められるとはかなり実入りがいい商いなのだろうか。

    「にが……ぃ」

     そうだ、ここは薬湯屋。これも何かの薬なのだろう。薬とは苦いものだ。

    「これは何の薬なのでしょう、わたしは今の所、特に患っているところなどは」

    「これはね、お茶みたいなー? 唐茶って呼ばれることもあるね、異人さんはこれをお茶代わりに飲むらしいよー」

     匙でドボドボと砂糖を入れてくれる千沙。こんなもんかな? と言いながら瀧に目で「飲みなよ」と促す。

    「……いくらかマシになりました。こんなものを飲むのですね、唐人は」

    「らしーねー。これね、何度も飲んでるとクセになるのよ」


     ずずず、と千沙も自分の分を啜る。莉紅麗可(リコリコ)にようこそ。と彼女は笑った。

  • 82二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 05:59:02

    千歳と滝は千束とたきなとは違って
    やりたいことをやりたいけど出来ない上不殺も結局やりきれずに裏では後悔し続ける千歳
    ここぞというところで決断や判断を間違えて大切なものを取りこぼしてしまう滝

    だから来世の千束とたきなはそんなことにならないようになった

  • 83二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 07:31:13

    >>81

    「え、それは酷くない?」

    「そうでしょうか?」

     瀧がここに来た顛末を千沙に話すと、千沙は頬を膨らませて一気に珈琲を胃に流し込む。

    「酷い。『斬首にならないだけありがたいと思え?』カーッ! 分かってないねぇ、楠木さん! ったく、そんなんで斬首になってたら私は首が何個あっても足りないわ! あと蕗! なんなの、隊長でしょ? なんで部下を守らないの!」

     そう言って千沙は奥に引っ込む。ちょっとして折りたたまれた紙をひっ掴んで、店から出ていく。

     ……がそれもまた殆ど一瞬のことで、すぐに帰ってきた。

    「どうしたのですか?」

    「抗議の文を送った、頭の固ーい楠木さんと蕗に」

     当然でしょ? のように瀧を見つめる。

    「そこまでしなくても……」

     遠慮と同じような感覚が生まれる。瀧が生涯に一度も行ったことがないような反抗に千沙の身も心配になる。毎回こんなことをしているのだろうか?

    「早飛脚だから二日もあれば届くよ」

    「高いのに……」



    「さぁて、珈琲も飲んだし、仕事に行こう!!」

    「はい!」

    「あ、ちょっと待って着替えてくる~」


    「蕗、決して悪人ではないんだけどね、融通が利かないだけ。命令にあまり逆らえないからたきなのこと守ってやれなかったんだとおもう」

    「共連れだったことがあるのですか」

    「んー昔ね、組を作ってた。起居も一緒でね」

    「昨日までわたしもそうでした」

    「ひーそれは残念、歯ぎしりと寝言凄いでしょ、あと寝相が本当に悪い」

     寝てるときは規律違反ばかりだよね、と言ってケタケタと笑う。

     ……瀧は笑っていない。

  • 84二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 07:31:50

    >>83


    「その取引自体はあったのに、惜しかったね」

    「はい。でも大体燃やし尽くしてしまったからそれはそれでいいかと」

     あの倉庫に入っていたのは検査の結果、事前情報よりは大分少なかったが一応、悪人の手に渡る

    総量は減っているのだから、まあそれもよいか、と瀧は考えている。

    「まあね、そしたら大手柄と言ってもいいじゃん!」

    「生け捕りに失敗したわたしが悪いんです……」

    「ぇーそうかな」

    「千沙さんはなんで江戸なんかにいるんですか? 最優等の彼岸花と伺っています」

    「ええっ、楠木さんがそう言ってた?」

     キラキラとした目で訊く。先ほどまで非難めいたことを言っていた者とは信じられないぐらいの変わり身。

  • 85二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 09:33:46

    新政府確立に伴って旧来の彼岸花などを一斉処分することになりそこから逃げようとする展開はあり?

  • 86二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 19:42:54

    >>85

    追手から逃げ切れずに来世での仲を誓いながら心中とかはさすがにバッドエンド過ぎるか

  • 87二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 19:43:06

    幕末エミュ上手い野生のSS作家さんはすごいなあ

    ちさたきは無限の可能性秘めてて妄想がはかどるねえ

  • 88二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 19:47:53

    >>86

    心中じゃなくても

    >>30のような展開でもあり


    血の湖に咲く二輪の彼岸花となるのだ

  • 89二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 20:54:09

    >>84

    つづき

    >>85

    それもいいなぁ!!


    >>87

    ありがとう! そう言ってくれて嬉しい嬉しい!

    あいつらが脳内で騒いでいるんだ


    「でどこに行くんですか」

     刀の柄に左手を置く。紺色の糸で編まれた柄は、すぐにでも鞘から飛び出して仕事をしてやろうと

    意気込んでいるような佇まい。

    「そうだね、今日はねー算盤の先生です!!」

     寺子屋の前で堂々と腰に手を当てカッカッカと笑う千沙。

    「彼岸花は算盤もやるよね?」

     小さな子供たちが、千沙の訪問を声で察知したのか障子戸の奥から沢山出てきて、千沙を取り囲む。

     わーわー千沙おねーちゃんだー。あれーこっちはー。

    「まあ……それなりには」

     と瀧が答えると、千沙は満足そうに口角を持ち上げ、ハイこっちみてーとお姉さん振る。

    「こっちはね、新しい先生の、瀧さんだよ、仲良くしてね!」

    「はーーい!」


    「Hoe gaat het?」

    「O Chisa Het gaat goed!」

     今度は唐物屋ですか……と瀧は胡散臭そうな目でその店主を見る。

    「こちら、相棒の瀧さん。あ、瀧、蘭語はできるよね?」

    「Natuurlijk」

  • 90二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 20:54:46

    >>89


    「お控えなすって!」

    「お控えなすって!」

     なにやら門構えの立派な屋敷で仁義を切り合っている千沙と何者か。

     様子を見るにやくざ者だろう。ここで斬り殺しておくのがよいはずと瀧は刀の柄に手を掛けるが瞬時に後ろを向いた千沙に柄頭を押さえられ、どうどう! と言われる。わたしは馬じゃありませんよ! という抗議も、まあまあと流され一緒に門の中に入る。

     なんでも、珈琲の挽いたのを渡しただけらしい。なんとも人騒がせな。


    「あの……」

     何度か飲み込んだ問いをもう我慢することはできずに吐き出す。

     この人の様子ならいきなり無礼と激して斬ってくることもないだろう。という無意識の信頼もあった。

    「どしたの瀧ぃ」

    「ここは何をする役を負っているんでしょう……」

    「えっ?」

  • 91二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 07:09:34

    >>90


    「あーいや、京で聞いてきたか、それとも先生から聞いたと思ったんだけどな、ごめんごめん」

     錦糸堀の近くには、川の水を汲んできて冷やして売るという商売があり、千沙はそれを好んで飲んでいた。しかも、砂糖が混ぜてあって甘い。


     桜が満開のその川沿いの開けた場所は、花見宴会の集まりからは少し離れていて、景色がよいのにも関わらず、そう人が多くもない千沙お気に入りの場所だった。

     そこにぽつんと一つ置いてある縁台に二人肩を並べて座った。

    「なーにするところか、改めて聞かれると考えちゃうなー」

     ぐいいっと水の入った丼を傾けて飲み切る。瀧にも勧めたが、「甘いものはもう頂きましたので」と

    断られる。

    「寺子屋に、唐物問屋の通弁にヤクザ。なにも筋が通ってはいません。わたしたちはそこいらの使い走りや人足じゃないはずです。名誉と誇りある――」


     彼岸花だ、と続けようとするが千沙に制せられる。その名を白昼の往来で言うなと。

    「わかるよ、瀧の言いたいこと。私だって伊達にこれ持ってるわけじゃないもん」

     千沙は自らの刀を示す。柄を飾る色はその小袖の深い赤、彼岸花の名を冠するに最も相応しき最高位の持ち物であることを雄弁に、そして静かに語る。

     よく見ると柄を飾る糸と鮫革はほつれて毛羽立っている。

    余程強い力で長く使われてきたのだろうことが伺われ、瀧はこの千沙という少女の言葉をもう少し黙って聞くことにした。

  • 92二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 07:11:37

    >>91

    「困っている人を助ける仕事だよ」

    「……民草のための彼岸花ということですか」

    「そそ、珈琲の配達や通弁、寺子屋の先生なんかもたくさん喜んでもらえるよ」

    「……天子様とその御代の平和と安寧を守るために生かされているのが我々ではないのですか」

    「そう言うとなんだかやっぱり位が高そうだね、だけど~」

     ぐいーーっと伸びをして言う。


    「ただの辻斬り御免、公儀夜盗って言われてる……しねぇ?」

    「……ああいうことが起きる時代ですからわたしたちは、よりその任を重くされるはずです」

     異国船が港に入り込み、要人は襲われ、沢山の武器が密輸される。そんな時代。

     昨日までの常識があっさりと塗り替わる。

    「そーねー、そうなんかもねぇ……」

    「そうえば、どうして江戸なんかに下ってきたか、聞いてませんでしたね」

    「ちょーちょちょちょ、江戸なんかって、大権現様の悪口は良くないよォ」

     おどけて腰をくねらせるが、瀧は一向に笑わない。

     縁台に座り直す。二人の間を蝶が舞い、暫しの時間が過ぎた。


    「んーそうだね、問題児だからだよ」

    「問題児……ですか。都の危機を事前に救ったあなたがですか?」

    「あー。それねぇ……でも結局焼けちゃったところもあるし」

    「それでも、嘆息すべきですよ」

     あははは……と息を漏らしながら千沙は天を仰ぐ。

    「うーん、まあともかく、本丸が興味を持たなくても困ってる人は一杯いてさ、助けを求めてる。だから瀧、力を貸して」

     ひょぃっと立ち上がり、瀧の方を向く。右手を差し出して――握手のつもりなのだ。

    瀧は逡巡したが、その手を取った。千沙は自分からそうしておいて存外に喜ぶ。

    「何か質問ある?」

    「……ありすぎますね」

     遠くで遊ぶ子供たちの声が聞こえる。

  • 93二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 12:55:58

    保守

  • 94二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 13:18:00

    天然のちさたき作家だ……

  • 95二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 21:54:21

    >>92

    次はいったい何だろうと呆れ半ば、期待半ばで千沙についていくと、

    おおこれは同心屋敷ではないか。

    江戸の警備の役に立てるのならと瀧は心滾る。


    門番に挨拶をして屋根付きの門をくぐると、

    きれいに掃除された飛び石を渡って座敷に入り、少し待つ。


     整った身なりの中年が現れる。少なくとも、今日会った人たちの中で一番きちんとした人だろう。

    どっこいせ、と上座に陣取る。

    「いやあ、千沙。今日はご足労であったな」

    「安倍さんもお元気そうで何よりです、こちらは京から来てくださる井ノ上瀧さん。私の相棒なの」

    「井ノ上瀧です。どうぞお見知りおきを」

     深々と礼を取るが、安倍と呼ばれた男は軽く制する。どうも江戸の人間は礼を好まないようだ。

    「いや、また莉紅麗可に行く愉しみが増えたな、私は定町廻り同心の安倍だ。今日はまた折り入って頼みたいことがあってな」


    「蘭方医の警護ですか?」

    「瀧、嬉しそうじゃん」


     安倍から依頼されたことを復唱すると、隣にいた千沙が肘で突いてくる。

     勿論これは喜ぶべきものだ、配達や教師、通弁よりも自分の本領が発揮できるものだ!

     個人の警護……というのは幾分か仕事の格が落ちるのは仕方がないが、それでもさっきのものより

    余程いいだろう。

  • 96二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 21:56:39

    >>95

    「ふむ、そうだ。今日、江戸に到着する予定でな。

    しかし護衛の者が一時、一家の不幸があったとかで離れなければならぬようになった。

    江戸に入った後に患者の家に一泊し、朝方手当をするとのことだ。

    手当てが終わったらその際には江戸から出ていく。そこまで警護してもらいたい」


    「警護でもなんでもお任せあれ、と思っていますが、

    こういうのは安倍さんのところのお仕事ではないですか?

     俺たちの仕事を取ったな、って親分さん(岡っ引き)に絡まれたくないので」

     千沙は一応、という体裁をとって聞く。


    「なに、同心は立場上、西洋の医術を身に着けた蘭方医を表立って警護できないわけでな、

    御用聞き(岡っ引き)も、あまり気乗りがしないのさ。まあこんな時代だからなぁ」

  • 97二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 21:57:45

    >>96

    「千沙さん、ありがとうございます。これで評価も上がってわたしもまた本丸に帰れる日も遠くないです」

    「……評価……?」

     屋敷を出て、千沙に向き合って礼を述べる。

    これも自分の窮状を慮って少しでも評定の高くなる仕事を探してくれたのだろうと思って。

     しかし、当の千沙はというと、きょとん、という音が似合う表情を浮かべるだけだった。

  • 98二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 22:39:08

    うおおお今日も千沙瀧感謝!

  • 99二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 01:14:05

    素晴らしい

  • 100二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 07:17:23

    >>97

    「活躍を評価をあげて早く京へ戻りたいねえ……」

     食べ終えた団子の串をくるくると皿の上で回しながら千沙は考え込む。

     二人で茶屋に入ってなるべく奥の方に陣取る。

    外からの光があまり入ってこないそこはいかにも

    潜伏中と言った趣によく似合う。


    「戻りたいのかぁ……」

     はぁぁぁ……と温かい溜息が口から吐き出される。

    「私への人事は正当だと思えないのです」

    「なら、なんでああいう風にしたの?」

     ぞく、と一瞬声が変わったように瀧は感じた。いままでより一段階は低い声のように。

     千沙自身もそれに気づいたようで慌ててかき消すかのように両手を顔の前で振った。


    「あ、いや違う、責めてるわけじゃないよ、揉めたくないなら他の彼岸花を気にする必要なかったよね」

     そう、戦闘中に負傷した彼岸花など最早役には立たないのだから、その場で捨て置かれても誰一人悔やむ者はいないし、花自身、そうされても文句はない。そんなように育てられている。


    「……あの状況に於いて、最も敵を生け捕りにするためには、人手がいると思ったんです。

    敵はどんどん増えていきましたし、どんな最新兵器を持っているかもわからない。

    一本でも多くの花があればと。それがあんな騒動に……」


    「まあね、でもきっと騒動になんかなってないよ」

     ずずっと煎茶を啜る。瀧はその目元に注目してしまう

    さっきまでまんまるに見開かれていたそれは

    今や長い睫に縁どられて物憂げ。低い声で質問したと思えば鈴の転がるようなそれで説明する。

     捉えどころがない――。

  • 101二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 07:18:59

    >>100

    「事件は事故になるし、悲劇は美談になる。表向きは別のことになってるよ」

     そうでしょ? と千沙は笑う。頬だけの笑い。


     事実そう、だった。山中と言えど村落にほど近く、街にもすぐ出られる場所だ。

     むしろそうでなければ、大規模な銃取引はやりにくい。

    あまりにも本格的な山であると、銃を大八車に載せて持ってくるのでさえ一苦労だ。


    噂好きの人々が農機具小屋の火事について特に何も騒いでいなかった、銃の乱射音について

    噂している様子もなかった。当時は何も気にしてはなかったが今更ながらその不自然さを覚える。


    「都大火も今だと、青、赤袖ぐらいしか知らないんじゃないかな? 瀧もそうだったでしょ」

    「……はい」

     正直そこまで深く知っている訳ではない。実際、京の都の碁盤の目は崩れてないのだから。

    そこを狙った大逆人の存在も今は知る人はいない。京のゴミの掃除人たる彼岸花の中でも数少ない。


    「だとしたら……わたしはいったい何をしたのでしょう」

     自身がやったことが、自身らを窮地に追い込んだ事が、

    この世界では「なかったこと」に帰される。

    この世界に対してわたしは、瀧はいったい何ができたのかという問いだった。

     

    「なーにいってんの! 仲間を救った! カッコイイって!」

     びしっと人差し指で瀧を指す。

     瀧はその意図が掴みかねる。

    「わかった! 私、瀧の復帰に協力するよ、錦を飾ろう!」

  • 102二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 07:20:55

    >>101

     あ、お医者さんきた~ おーいこっちでーす!


    「お医者さんがどうして恨まれちゃうんでしょうね」

     自己紹介が済み、三人は茶を飲む。

     医師はまだ若く、三十代ほどで、気さくな様子の人であった。

     重そうな治療道具を運んでいたため、是非にと奥に通す。


    「私にもよくわからないのです、『江戸には来るな』なんて言われても患者がいるのなら来ない訳には」

     彼は数枚の書状を示してくる。

     断ってそれを開くと、確かに『こっちくんな、医者を辞めろ』みたいなことが書いてある。

     差出人は当然ながら不明だ。

     特徴的な用語、文面、花押などもなく、ただの悪戯と言ってしまってもいいかもしれない。

     字も極端に上手いとか下手というのもなく、何とも言えない。

    これだけだと、同心も役人も動かせないと言われても仕方がない。

  • 103二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 07:21:30

    >>102

    「飛脚で来たんですか?」

     もし、飛脚ならそこから辿れるかもしれないと千沙は思うが、医者は申し訳なさそうに首を振る。

    「いや、門を飛び越えたような感じで庭にあってね、どうしたものかと」

    「お仲間というか、同業者でこういうの回ってきたとかありませんか? 他の人は?」

    「いやぁ、聞いたことがないねえ……」

     うううむ、すると個人的な恨みか。

    「治せなかった患者さんの……ご家族とかでしょうか」

     内容を念の為、手帖に写し取りながら瀧は予想する。

     医者が恨まれるといったらそれぐらいしかないだろう。と思うが彼はふぁむと天を仰ぐ。


    「まあ、私とて万能ではないから治せないこともありましたが……そうなると心当たりがありすぎるともいえる」

    「そんな、お医者さんに診てもらって少しでも長生きできたのならとってもうれしいことじゃないですか。感謝されることはあっても恨まれることなんて」

     千沙はそう言う。どこか縋るように。

    「そんな風に言ってもらえるなんて望外の喜びだよ。でも、もっと腕を磨きたいからね、また長崎にいくんだが」

    「そうなんですか」

     三人は取り敢えず茶屋の外に出て用のある患者の家に赴くこととなった。

  • 104二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 10:37:28

    そろそろ戦闘か…

  • 105二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 20:39:37

    >>103


    「そうか、君は薬屋もやっているんですね」

     日が微妙に傾き、人々の影が長くなる頃。千沙は医師とまるで旧知の仲のように接している。


    「はい、長崎やら色々な所から本場の珈琲も仕入れているんですよっっ。どうですか?」

    「珈琲も素敵だが、どんな薬を取り扱ってるのか気になってね」

     実は、今日診る患者も結構な難病でね、と零す。

     どんな症状なんですか? と千沙は訊き出し……うーんと瞑目して腕を組む。


    「あ、もしかして型録要りますか? あと、試供品もよかったら」

    「有難い」

     瀧を置いてけぼりにして話を進めていく。

    「というわけだから、瀧、先生を宜しくね、あ、無茶はしないように。いのちだいじに、だからね!」

     すぐに戻るからーー! と言って踵を返して走っていく。

    「ちょっ、千沙さん!」

  • 106二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 22:52:53

    保守

  • 107二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 10:18:33

    >>105


    「なるほど……京に戻りたいと」

    「はい……ちょっとした行き違いでして」

     行き違い、という言葉で表現していいのか迷うが、

    「しかし、あの千沙という人は中々利発そうで、何かを学べるかもしれませんよ」

    「……そうでしょうか、あまりそうは見えません」

     こうやって警護中に店に戻ってしまうし、そんなにお金が大切ですか? まったく……。

     

     彼岸花は基本的に館に住み込みだし、必要とあらば金銭も支給される。青のわたしですら

    そこらの家族を養えるぐらいなのだ、赤なのならばここで医師に営業しなくてもいいだろうに。

    そもそも、あんな店なんかやらなくていいはずだろう?

     などと思いながら医師の左後ろを歩く。


     なるべく明るい道、人通りの多い道を選んだため、幸運にも患者の屋敷までは

    誰にも襲われることなく到着できた。

  • 108二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:25:49

    >>107

     それにしても……と瀧が口を自分から開く。珍しい。

    「赤坂ってことは……なかなかの方なんでしょうね」

     すると、もう既に屋敷内は警護が固いはず、わたしは念の為ということか……。

     あまり名誉挽回の機会もないだろう。

    「幕臣でいらっしゃる。そんな方に指名されるとは実に名誉でございます」


    「やぁ、先生。わざわざ来てもらって悪いね」

     幕臣と紹介されたが、町人のように軽い挨拶だ。さっきの同心の方がどちらかと言ったら

    重々しい。

     綺麗な刺繍の入った布団に丁重に寝かされていて、身分が高いことは伺えるが。

     瀧は脇に控えながらその診察を待つ。

     脈を取ったり、なにやら筒のようなものを胸に当てていたり、忙しそうである。

     時折何か喋ったりして、笑い合うが、あまり重病には一目では見えない。

     ただ、声の端々が歪み、体が実は辛く、弱い状況であることは推測できる。

  • 109二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:26:16

    >>108

    疾うに日は山の向こうに落ちて、行燈の光がゆらゆらと四隅を照らす。

    この場にいる三人の影がふわりと重なり、そして離れる。

    「そこなお侍さんはどう思うかね、現在の状況を」

     すこし気を抜いていたところをその奥の患者に訊かれる。

     まったく予想していなかった方面からだ。


    「状況……ですか?」

    「そうだ、幕府の連中は何もわかっちゃねえとか、いろいろ言いたいこともあるもんじゃないか?」

    「幕臣の方に対してそのような大それたことは申せません」

    「ふふっ、まあじきにわかるってもんだなあ」

     状況、もなにも彼岸花はそのようなことを気にするような場所ではない。

     過去多くの為政者が交代したが、そのどれに与することもなく、ただ菊の周りを囲い咲いて散っていくのが定めだからだ。

  • 110二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:26:55

    >>109

    「まあ、俺ァ、いまこうやって動けないけど、治ったらバリバリ働こうと思うんだ」

    「それがよろしいかと、お声は元気そうですが、どうも疲れがたまっているようですね」

     よかった……。という空気に包まれている最中、部屋の四隅からガタっという音がする。

    「見てきます! いや! 来る!」

     横に置いた刀を押っ取り、すっくと立ち、左足を下げ、右手で刀の柄を握る。


    「天誅!!」

     襖、障子を蹴っ飛ばし七、八人の男が既に刀を抜いた状態で医師と患者と、そして瀧を囲む。

    「ち、護衛がいたか」

     男の一人が、吐き捨てるがその瞬間にその者の首が飛んだ。

     瀧の右手には血走った刀。


    「ぐっ!」

     周囲の男も流石にざわつくが、舐めんなぁぁぁ!! 

    と誰かが叫び、突きを下す。それに勇気づけられたように、羽織をはためかせ撃剣の音が響く。

  • 111二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:27:56

    >>110

     多対一の戦いでは、どうやっても正攻法では勝てない。

    だから一旦狭い場所に入り、疑似的に一対一で戦うこととなる。

    しかし、大体八畳の場所で、七、八人の男たちから医師を守りながら戦うのは至難の業。


     瀧は一番近くにいた男の胸を突き、回り込み、襟首を掴んで盾のように構える。

    注意を惹いているうちに、胸元に隠していた銃を抜き、撃鉄を起こし、放つ。

     見事眉間に孔が開き、一人うつ伏せで倒れる。

     発砲音に驚くも、一人また一人と果敢に瀧を、そして奥で寝ている患者を狙う者ども。

    男の死体を盾にして、あらゆる剣を防ぐが左手が痺れてくる。


     ……今回の依頼は、「医師の護衛」だ。患者は……。


     瀧はその死体を投げ捨てると医師を背で守りまた一発、また一発と患者側に来た男を撃つ。討つ。

     腹や、胸に中るが、弾かれるような音がして彼らは倒れない。

     武装済みか。


    「派手なことしてんねぇ」

     さっき聞いた声。

     その暢気そうな声の持ち主を瀧は知っている。

  • 112二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:28:38

    >>111

    「千沙さん!」


     千沙は袂に手を入れ刀の柄には全く触れていない。実に物見遊山さながら。


    「まったく瀧はもう……患者さんにも中っちゃうでしょ、いのちだいじにって言ったじゃん?」


    「『にも』……?」

     瀧の疑問そうな声には耳を傾けず、千沙は


    「暗殺に来たなら帰ってくれるかな」

    と、立っている五人に言った。


    「だれだこいつは……」

    「護衛の仲間だろう」

    「構わん、殺せ!」

     

     そう合意がとれたようで、そのうちの一人が上段の構えで千沙に斬り掛る。

    身長八尺以上。千沙よりも三尺は高いその男の一撃をまともに食らったら命は……ない。

     

     倒れたのは男の方であった。

     低く短い呻き声の後、その男は膝をついて前のめりに眠った。


    「悪いけど、ちょっと寝ててもらうよ」

     千沙は小太刀の方を抜く。奇妙なのは、鞘ごと袴から抜いたからだ。

     白い刃はいまだ仕舞われたままだ。

     その場にいた全員が千沙を化け物を見るような目で凝視していたのには相違なかった。

  • 113二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:30:01

    >>112

     猿の叫びのような高く鋭い声が発せられ、千束を刃の身で捉えようとするが

    いつの間にか千沙には避けられ、柄頭で顎の下を突かれ、嗚咽を挙げて蹲る他なかった。

    「ごめんね、ちょっと静かにしてて」

     いつの間にか、閉じた扇を第二、第三頸椎を狙って振り下ろした。

     薄く、静かな呼吸音がするだけの肢体へと変わっていく。


    「貴様……っ! 武士同士正々堂々と戦え!」

     一人がそう吠えるが、千沙は意に帰さず、

    「そのうちにね」


     プッ! と何か口から吐き出す。その瞬間千沙の前に立ちはだかっていた男はよろめく、

    その瞬間を千沙は見逃さない。

     崩れた体に潜り込んでその男を廊下の方に投げる。

     綺麗な背負い投げだ。が、投げ切る前にその手を襟から放し、

    廊下から庭園の方に派手な音と共に追い出す。


     その屈んだ状態でもう一人の脳天に鞘ごと面を極める。酷く鈍い音がしてそれも倒れた。

  • 114二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 14:31:07

    >>113

    「こ、殺さないでくれ!」

     一人は刀の先を振るわせながら、慈悲を乞う。

    「あれ、あと一人いるよね? 瀧の方……のが来たのか」

     八人いて、私が四人いま倒したじゃん? 既に三人瀧が殺してて……。と冷静に指を折る。


    「あきらめちゃだめだよ!!」

     千束が対峙しようとした瞬間に銃声が鳴る。

     さっきまで命乞いをしていた男が表情を固めながら横座りになって畳に沈む。

     耳の横からどくどく血が流れているのを見るしなかった。


    「あちゃ……」


    「あ、生き残ったのは四人だね、みんな大丈夫だと思う。んーそこの先生から薬貰って付けたし、うん」

     闇夜に何を呼んだのだろう。瀧は気になってそのやり取りを聞く。


     縁側で捕縛された武士らを何か黒い服の男たちに引き渡している。大きな樽の中に一人ずついれて

    蓋をしているようだ。

     味噌醤油を入れる樽の他に死体を詰める棺桶の役割を果たすけれど、今回は全員まだ死んではない。

     両手両足を縛られ口には手ぬぐいで栓がされて、ふごふごと何か言っていた。

  • 115二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 22:02:31

    鞘ごとで戦うのか

  • 116二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 22:05:13

    >>115

    できる限り殺したくないのが千沙/千歳だから

    なお殺した数は・・・

  • 117二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 00:27:24

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 04:18:55

    保守

  • 119二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 09:45:51

    >>114

    「大丈夫でしたか? 先生」

     千沙が声を掛ける。二人ともくるりと千沙の方を向いて「大丈夫だった」「大丈夫でした」と

    言ってくるので面食らったようだ。

    「あああ……両方とも先生って呼ばれてましたよね、すみません」

     あははーと横頭を掻く。

     さっきまで出していた重い圧というか気、がすっかり晴れてしまっている千沙。

     ずずず、と出された茶を啜る。


     いゃあ、一仕事した後のお茶ってうまいなぁ? ね、瀧? などと横にいる瀧に話しかけるも

    ええ、と生返事。

    「幕臣の癖に開国を推進してるってんで恨まれてるからなあ……巻き込んでしまってすまねえ」

     患者は頭を下げる。

    「いぇ、仕事ですからね」

     大丈夫ですよ、と千沙は謝罪を止める。


    「それにしても、二人とも強いなぁ、青い方の銃捌きは見事。赤いあんたはそもそも抜かなかったな」

     元気そうに見える患者は、少し興奮したように二人を称える。

    「いのち大事にですよ、殺しちゃダメです」

    「ちげぇねえ、ああそういえば、俺は勝っていうんだ。よろしくな」

  • 120二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 12:50:40

    >>119


    朝になって、勝邸を出る。

    江戸から送り出すまでが仕事だ。

     江戸の朝は早い。夜明けが過ぎたぐらいには、湾の漁師が波に漕ぎ出して、

    竈には火が入れられ、パチパチと音がする。春の朝は温かく、そして冷たい。


    襲われた医者は、また他の患者を診るという、ここまで命を狙われていても止めないとは

    瀧は呆れながら見送る。


    「あ、これドタバタしちゃって渡せなかったですけど! ぜひ持ってってください!」

     風呂敷包み――深紅のそれは結構な大きさで、多分三段のお節料理を詰めておけるほどのものだ。

     この間言っていた型録と試供品だろう……。が、どれだけ詰めたのか。

  • 121二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 12:51:12

    >>120


    「こんなにか? いやぁ命を守ってもらった上にこのようなご厚情、感謝の言葉もない」

    「いいんですよ、行った先で役に立ててもらえたら嬉しいです!」


     お達者でぇ~と手を振る。

     医師はたびたび振り向いて礼をとるが、次第に小さくなって視界から消えた。

     おそらく内藤新宿の方に向かったのだろう、宿場から宿場、家から家というのは大変なものだ。

  • 122二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 17:53:47

    >>121

    「ふふ、瀧! お礼思ってたより一杯貰っちゃったから少しお茶飲んでいこうよ!」

     千束がくるりと瀧の方を見て言う。

     その笑顔は初対面の頃と変わらずの無邪気さだ。

     昨晩、眉一つ動かさず、四人を制圧していた者のそれとは思えない。


    「千沙さん、質問があります」

    「な……なにかな」

     なにかな、とは言うものの、その内容は既に予想できていた、知っていたかの様子だ。

     生来鋭い目をしている瀧の目が、今回は更にそれを増す。

     朝の白い光を味方につけて、真っすぐに千束を射抜く。


    「命大事に、と仰いました。それは敵に対してもですか」

    「そうだよ」

    「何故そんなことを」

    「……その方がいいでしょ、依頼は護衛だよ。殺しじゃない。ねえ瀧、こっちも聞いていい?」

    「なんですか……」


     千束の声は優しい。

     姿形にも尖ったところはない。

     ただそれが時折恐ろしい「気」を孕んでいることを瀧は会って一日で体で感じていた。

     今回は「そう」だった。

  • 123二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:57:42

    >>122

    「勝先生、患者さんを守ろうとはしなかったでしょ、最悪死んでもいいと思ってたでしょ」

     何と答えようか、瀧は一瞬迷う。やがて見つけたのか薄い唇を微かに震わせる。


    「……依頼は、医師の護衛でしたから。患者じゃない」

     自分の放った言葉が同じように返される。千束は予想外のようで、目を伏せる。

     

    「そか……そだね」

     瀧は叱責を覚悟していたが、千沙がすぐに引っ込んでしまい驚く。

     しばらく二人は無言のまま、ザラザラとした砂地を踏み固めていく。

     中心市街地はもう目覚めていて、棒手振り、飛脚が闊歩し、商人は店先で呼び込み、

    武士は馬に乗って地を震わせていく。

     

     そして出し抜けに明るい声で、

    「たー。ごめんね? なんか湿っぽくなっちゃったわ! ささっお茶屋さんいこか!」

     千沙はお気に入りの茶屋に瀧を引っ張っていった。

  • 124二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:17:35

    勝って勝海舟だろうか
    自分は時代背景全然詳しくないけどすげー本物っぽくてすごい

  • 125二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:11:08

    >>124


    楽しんでくれたら嬉しい!


    >>123


    「瀧の字ぃ、箸が進んでおりませんぞぉ」

    「いや、食べてますよ。千沙さんが早いんですよ」

     ガブガブという音がするぐらいの食らい様はいっそ豪快である。

    「っていうか、お茶って聞いたんですけど、なんでぶぶ漬け食べてるんですか?」

    「え、お茶が入ってるから……?」

    「そもそもこれお店で出すようなものなんですか?」

    「え、出ないの?」

    「そもそもこういうのは人に出すようなものではないですね」

    「えっ、そうなの? みんな小腹が空いたときにどうするわけ?」

    「いや、食べますけど家で作るものじゃないですか。なんで外でわざわざお金使って」

    「……? おいしいからかな? 具も入ってるし」

  • 126二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 10:30:47

    保守

  • 127二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 18:31:41

    保守

  • 128二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 23:00:56

    >>125

    「ただいっまー。あ、私ちょっと二階で探し物してるね!」

    「はい」

     千沙と瀧はリコリコに着く。そのころには朝方の険悪な雰囲気が幾分か薄れて

    瀧自身も緊張感が程よくほぐれていく。


     客席の一番奥に浅く腰掛け、室内を見渡す。あの少々がさつな彼女が営んでいるにしては

    とても綺麗に纏められているんだなあと少し感心してしまう。


     そんな中、瀧の耳がガサ……。厨房の奥からの音を捉える。

     今、千沙は二階にいるはず、するとここにいるのは……。


     ちら、厨房を覗く。

     案の定何者かが蹲って戸棚を漁っている。この不届き者め。

     瀧は音もなく刀を抜くと上段に振り構え、一刀の下に!

  • 129二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 23:16:04

    >>128


    「ちょーちょちょちょ! 瀧! やめて落ち着いて! うぉぉぉあぶねぇ!」

     後ろから千沙が抱き着くように抑える。


     華奢な体の瀧とはいえ、よく鍛えられた剣士のものだ、後ろからでも抑えるのは難しく、

    二人でよろよろよたよたと厨房を擦り足で移動しまくる。


     ガシャンガシャンと積んであった籠、蒸篭、皿、箸が土間に落ちる。

    「こいつは賊ですよ! 放してください!」

    「ちがうって! この人はここの店長!!」

    「えっ」


    ……

  • 130二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 01:54:53

    ミカもいるのか…

  • 131二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 06:48:20

    >>129

    「申し訳ない、驚かせてしまったな」

     ミカと名乗る大柄の店主は瀧に謝る。

     瀧はその大柄さよりも、風貌に驚く。浅黒い……という図も超えていて

    中々に見たことがない様相だった。


     これは目立つ。目立ちすぎて逆に盗賊になれないだろうと瀧は結論付ける。

    「いえ……こちらこそ、お世話になっている身で店主に対して刃を向けるなど……」

    「いや、私も初日に挨拶できずにすまなかった。君も彼岸花だね、楠木から話は聞いている」


     単に「楠木」と呼び捨てにしたミカという男をまじまじと見る。

     言葉に京都の香りも、また異国のものもない。

     どういう繋がりなのだろう。瀧は質問したかったが、またしても千沙に後ろを取られる。

  • 132二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 12:56:22

    保守

  • 133二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 19:26:02

    >>131


     二人のじゃれつきがひと段落したころ、ミカは重々しく切り出す。

     薄い和紙を広げ文字を辿る。


    「千沙、京都からの密使からの文だ。このところ攪乱作戦が相次いでいる。

    恐らく瀧らが陥れられたのもこれの所為だろう」

    「なるほど……」


     時間と場所の偽情報が彼岸花内に流れ、ハズレばかりか、罠に陥れられる。敵も中々のつわもの。

    瀧も、ミカにつられたわけでもないが硬い表情をして腕を組む。

  • 134二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 19:31:58

    >>133

    「じゃあこれを解決すれば瀧も京都に戻れるんじゃない? いっしょにやろうよ!」

     とても軽いその声。瀧は一瞬「そんな簡単に言わないでくださいよ」と零しそうになるが、

    その瞬間に先ほどの千沙の戦いぶりを見て思い直す。

     この人なら……もしかして。


    「そして瀧! とっても大事なことがあるんだよ」

     いつになく真剣な顔。なんだろうかと瀧の背筋も伸びる。


    「それは~! 瀧! 瀧も制服着ようよ! 瀧は青いのだよ~」

    「分かりました! 着ます、着ますから!」


     この千沙という者はすぐに抱き着き、頬を擦りつけてくる。

     これは恐らく、断ったらなんどもベタついてくるのだろうと瀧に予感させる。

  • 135二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 19:33:01

    >>134

    「チョー似合う! うひょー別嬪さんやん!」

    「ただの小袖じゃないですか……袴履いてないだけですよ」

    「いいの! どっちも可愛いんだから! あ、瀧! 胸に短刀と銃隠すのやめな~」

    「ぐっ……」


     千沙は目がよく、そして動きも早く瀧の異変によく気づく。

     胸元の膨らみが先ほどと異なることを鮮やかに見抜いたのだろう。

     瀧は渋々ながら短刀と愛用の回転式銃を卓に並べる。


     それを見て満足そうに千沙は笑い漆塗りの木箱に納めて瀧に渡す。

     手紙を入れる文箱のようで、なるほど偽装には最適だ。

    「ほい、奥の部屋においとけよ」

  • 136二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 19:41:39

    >>134

    この辺で、デデッデデッデデッって入ってるな


    >>135


     深紅の暖簾が青い空に映える。

     莉紅麗可、人員一名追加し、今日も一日が始まる。

     

     窯はやかましく湯気を立て、豆は挽かれ、粉は練られる。

     日常を愛でるが如く。


    「ほらほら、お客さんだよ! 練習通りに」

    「うっ……」

     

     無理に愛想よく口角を上げ、今日一番の客に二人並んで挨拶を。


    「いらっしゃいませー!」

  • 137二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 19:44:13

    すげぇ…1話丸々明治バージョンになった…

  • 138二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 20:00:50

    >>136

    第一話: 虚心坦懐


    おしまい

  • 139二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 20:02:05

    乙です!めっちゃよかったです!

  • 140二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 20:02:46

    >>130

    ミカがいない千束(千沙)の精神がちょっと……わかんなくてな……


    とても重要だと思っていれた。

  • 141二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 20:45:37

    >>138

    「こんちゃー! 千沙です、いつも来てくれてありがとう!

    今日は新人を紹介しちゃいます! はい!」


    「井ノ上瀧です。以後お見知りおきを」

    「瀧ちゃん! うへぇぉ可愛いよぇぉ~! ご趣味は?」


    「趣味?」

    「そー。一人の時なにしてる?」

    「言っていいんですか?」

    「なんでもいいから」


    「仕事道具の分解清掃ですね」

    「ぶ、分解……。あ調理器具とかぁ?」

    「ちがいます、拳銃や刀」


    「ぁーは! ァハゴホ、それはいいわ……。じゃあ特技は?」

    「射撃には自信が」

    「あなたの心を狙い撃ち! ってえ、あははースゴイナー」

    「え、心の臓はダメ……?」


    「休日の過ごし方は?」

    「いや、ちゃんと答えてください!、殺していいんですか、悪いんですか!?」

    「あーん! ったく! こんな瀧ちゃんが気になったあなたは、莉紅麗可にkom op! 次回! 彼岸花第二話!」


    「多多益弁」


    「あー、そこ私がいうとこなのに……」

  • 142二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 22:56:02

    >>141

    二話以降も書こうかな……

  • 143二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 06:36:20

    一応保守

  • 144二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 07:52:54

    >>142

    是非お願いします!

  • 145二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 17:12:18

    お願いします!

  • 146二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 18:07:42

    >>144

    >>145

    おっけーじゃあ書くね!〜

  • 147二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 00:13:00

    >>141

    ――第二話 多々益弁


    「千沙さん……あなたにはがっかりですよ……」

    「どうしたー瀧? 私の何にがっかりしたって?」

     

     じり……。と二人は刀を構えながら間合いを測る。

     何人もこの間には挟まれないような緊張感。

     触れるだけでズタズタに切り裂かれそうな張り詰めた空気。


    「えい!!」

    「ほっ!」


     バシーーン! 高い音が一発だけ響いた。

     

     二人は別に真剣で戦っていたわけではなく、最新の剣術、つまりは防具と竹刀を使った

    撃剣をしていたのだが、それに瀧は不満の様子。


    「もうちょっとちゃんと相手をしてください! 手を抜き過ぎです!」

    「えーだって一発で十分じゃん」


     瀧が斬りつける前に千沙はその場から瞬時に消え、いつの間にか面を取られているという状態。

     最初食らったときには何も言えなかったぐらいの衝撃が心身共にあったが、

     こう何度も同じようにやられると舐められているようで気分がよくない。

  • 148二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 08:11:57

    保守~

  • 149二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 12:32:10

    ほしゅ!

  • 150二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 18:36:55

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 19:43:37

    >>147


    「なーに? 怒ってるの? 可愛いな~瀧は~」

    「この!」


     両手で構えた刀は、左手の引く力によってその勢いを増すのだが、それよりも速く

    千沙は動いていることになる。


     自分の全身全霊を軽くいなされて、あまつさえ可愛がられるなんて自分の無力に腹が立つ。

    青袖を誇っていたが、彼女には勝てないと暗澹たる思いが頭を曇らせる。

    「よし、じゃあ、瀧は薙刀でやろう! 私は竹刀でいいから」

     ここまで言い出される始末。通常、薙刀は刀より遠くから攻撃ができるため、

    強い武器として認識されているが……。

     瀧は諦めが入る。


    「……今日はありがとうございました。精進します」

    「うむ、頑張ってくれたまえ~」


     ヒラヒラ~と手を振ってこちらを背にして道場から出ていく。

     はぁ……と瀧は床にぺたりと倒れ込むように座る。

  • 152二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 21:21:28

    保守

  • 153二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 21:23:22

    >>151

    瀧はどうしようもなく落ち込んでいる。


     自分は出来る彼岸花だと思っていたし、事実、京にいたころは剣の腕も余人の追従を許さない

    ものだったし、新しく手に入れた回転式拳銃にもすぐに慣れて、ほぼ狙ったところにすぐに

    中てられるようになった。

     それなのに、この千沙という者には一本も取れない。


     なんということだ。


     京に帰るためにはこの人より強くならなければならないのだがら……道が遠い。


    「素振りを……しましょう」

     瀧は竹刀から木刀に換えてえいと振る。

     先ほどより重く、そしてより手に馴染む。やはりわたしにはこれしかない。と思い直し

    千沙の頭を砕く想定で振り下ろす。


     想像の中の千沙ですらひょいと避けてくる気がして瀧もいつの間にか歯ぎしりする。

      

  • 154二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 03:07:11

    保守

  • 155二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 07:20:34

    >>153


    「迷子の捜索ですか……」

     瀧は受け取った人相描きをまじまじと見る。

     どんなご注文もおまかせあれ、と千沙が銘打っているせいで、

    珈琲を売るだけではなく、様々な仕事が舞い込んでくるが、

    迷子探しも頻繁にある依頼のようだ。

     なにせ、江戸だ。全国中から沢山の人が訪ねてくるのだがら

    その中で何人かが迷い子になってもおかしくはない。


    「そうなんですよ……うちの姪でしてな」

    「昨日一緒に来たんですが、はぐれちゃったみたいで」


     老夫婦が心底心配という様相で千沙たちに打ち明ける。

    二人とも身なりがよい。きっとお礼も悪くないだろうと瀧はひそかに考えている。

    どうせつまらない仕事なら、実入りがいい方がマシだ。

  • 156二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 12:13:01

    保守

  • 157二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 19:24:33

    保守

  • 158二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 19:24:54

    >>155


    「はいはーい! みんなたちーこの子は見かけなかったかなー?」

     寺子屋に通う子供を集めてきて人相書きを見せる。

     なんですか、みんなたちって……と瀧は思うが、そっとしておく。

    「みたとこねえ……」

    「なぁ」

     空振りのようだ。


     ここに来る前に、千沙は瀧に


    「ふふん、わたしだって伊達に寺子屋周りをしているわけじゃないんですよ瀧さん」

     と胸を張った。

    「どういうことです?」

    「街で怪しげなく動けるのは私たちもだけど、もっと小さい子もそうなのだー!」

     と説明されるから、瀧もなるほど一理あるかもしれない、と思ってついてきたわけだが……。


    「伊達や酔狂で先生やってるんじゃないんですよね?」

    「ぎくっ……いやぁ……こういうときもあるよね」

  • 159二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 23:07:07

    子供とはまさか?

  • 160二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 07:25:53

    保守。

  • 161二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 10:22:25

    >>158

    「まあ……こういう迷子は天狗の仕業って言いますよね、江戸では言わないんですか?」

     アテが外れたので二人は仕方なく、近所の版画師の所へ出向く。

     さっき貰った人相書きを増やして配るのである。たった一枚だと紛失すると厄介だ。


    「あー言うねぇ、たまーにそうなるらしい」

     京にはそういう伝説が多くあって、人々は山の深くとか、海の方にはあまり行かない。

    尤も、運が悪いと街にいても天狗はやってくるらしい、といのうが中々たちが悪い。

    「でも、七日間は探す約束だから、天狗さんの所為にするのはそのあと!」

     千沙はぐぃーっと伸びをする。

  • 162二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 10:32:23

    >>161


    「お店の広告も入れたんですか……」

     出来上がった紙束を瀧は胡散臭そうな顔で見る。

     真新しい紙とまだ乾ききっていないような墨の香りが芳醇に広がる。


     ずずず、と砂糖を二匙いれた珈琲を二人で向かい合って飲む。

     ……店員であるのだが。

     

     江戸っ子が珍しもの好きというのは有名な話だが、それよりも旨いものが好きなのだ。

    珈琲とここで出す甘味はどうも万人受けするとは言い難く、常連も少ない。


    「あ! 違うの、別にそういうわけじゃなくてね? もし迷子を見つけたらお店に連れてきて

    欲しいって言うか? そうそう、他意はないよ? ホントだからね?」


    ――へぇ、そうですかぁ。おいしい珈琲と甘味のお店とか書いてあるし、

    お品書きも載ってますよね。


    という瀧の無言の視線による抗議に千沙はたじろぐ。


    「み、見つけてくれた人が甘味目当てに連れてきてくれるかもしれないでしょ? うん」

    「はぁ……」

  • 163二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 11:01:16

    >>162


     珈琲の無料引換券が主役みたいになっている人相書きを手にとりあえず配り歩く。

    岡っ引きやら干物屋やら貸本屋、床屋に湯屋、鍛冶屋とまぁなんでもどうぞである。

     その行く先々で千沙は歓迎を受ける。瀧はなんともまあ……といった顔でそれを眺める。

     

     彼岸花としてはまったくよくないのではないか、とさえ思う。

     目立ちすぎる。こんなに顔が知られている人間が任務に駆り出されるのは

    不都合の極みではないか?


     まあ……今回の迷子探しに限っては悪くなさそうではあるが。

  • 164二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 11:02:42

    >>163


    /*あんまり1レスに長文詰め込むと読みづらいかなーと思って結構分割してるわ、あと遅筆ですまね……*/


     江戸一円はとりあえず見て回れたことにはなる。

     八百八町というぐらいだ、ちょっと脇道に逸れると趣が違う。

     お店が立ち並ぶ華やかな通りがあると思えば、鉄を打つような甲高い音が聞こえる職人街もある。


     瀧は思わずそれらの仕事に目が奪われる。


    「京とはやっぱり違う?」

    「ええ。いろんな情報が集めやすそうで便利です」

    「ふふふ、そっか」

  • 165二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 11:53:32

    >>164


    「しかしー二日も探していないんじゃ、もう江戸にはいないんじゃないですかね」

    「うーん、そんな気はしてきた」

     わかる、結構歩いたしもう顔見知りの所はだいたい回った。

    それなのに見つけられないとはどういうことか。

    「……あるいは」

    「なんだよ瀧、怖いこと言うつもりかよ」


     二人は言問橋の上に立っている。

     びゅう、と風が吹き少しふらつく。欄干から下を見ると、沢山の荷物を積んだ船が

    ゆったりと流れている。


    「江戸は川ばかりですし……あながちあり得ないというわけでもないとは……思います」

    「そうだね。わりと……あるかもしれないね」

     キラキラと光る水面。それに吸い込まれてしまう子はいなくはない。

    奥に見える魚や金属の破片が無邪気に子供を呼び寄せてしまう。


    「あのおばさんたちも、愛しい姪っ子のことを心配で夜も眠れないと思うよ。ダメならダメで

    ちゃんと伝えようか」

     二人連れだって川での事件を調べようと一旦リコリコに戻る。

  • 166二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 12:30:54

    不穏になってきたな

  • 167二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 17:31:55

    ほしゅ

  • 168二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 22:43:18

    >>165


    「この人相の人を探しているっちゅう話だったかな?」

     リコリコに戻ると、二人を待っていたのは薪切りだった。山に登って燃料となる薪を

    取ってくる仕事。その仕事柄、あちこちの山や街道を歩き回るから、ふむ、確かに

    新情報を持ってくる人間だと考えると妥当である。


    「ええ、そうなんですよ……迷子みたいでして……」

    「昨日見たぞ、あのなーどこだったか」

    「え! 本当ですか?」

    「そうそう、山の方だよ、内藤新宿の方」

    「宿場町ィ? 全然江戸じゃないですね」


     江戸に来たばかりの瀧には少し把握はしづらかったが、だいぶ離れた場所で見たらしい

    ことは分かった。

  • 169二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 05:03:19

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 10:53:03

    おっと?

  • 171二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 13:09:26

    >>168


    「よしじぁあそこ行くか!」

     店長に告げて二人は出る。まったく、結構な徒歩だというのに、と瀧は内心不満。

    京の都はそこまで広くはないから管轄も一人分が少ない。

     勿論訓練はしているが、あまり徒に体力を消耗すると戦闘に差し障りがある。

    「せっかく見つけた手がかりですし、やはり行ってみたほうがいいですよね」

     とはいえ、職務には忠実。二人で連れだってそちらを目指す。


    「いやぁ、結構来ましたね~」

    「そうですね、賑わってますし、ちょっと脈ありです」

    「ちょっと見てみるか」


     新しく人相書きを配る。この人見てないですか?

     あ、別にただの引き札(広告)じゃなくてですね、あのー。

     あーそうなんですよ! 江戸で一番の銘菓でして、あ、いや違う!


     とか言いながら千沙と瀧は周りを歩く。

  • 172二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 20:53:04

    保守

  • 173二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 21:45:10

    >>171


    「ああ! このガキ見たことある!」

    「本当ですか!!」

     

     一刻程ビラ配りした甲斐があった。たしかにこの迷子はこの辺にいたことがあるのだ。

     しかし、辺りはもう夕闇。この時間に探しに山に分け入るのは事実上不可能。

    追いはぎにでも遭ってしまう危険性が高まる。


     このあたりには攘夷志士やらなんやらが潜伏しているという話だから

    悪いことは言わないから泊っていけ、という営業半分、親切心半分の提案をたくさん受ける。


    「……どうします、千沙さん」

    「……危ないのは確か……だよね……」


     ちら、と後ろの方を見る。先ほど通ってきた道の先がもう見づらい。

     このまま進むべきか、いや……。と千沙はかぶりを振る。

  • 174二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 21:46:28

    >>173

    「あと半刻だけ探さない? 危険な所だって言ってけど、そんなところで迷子になってたら心細くて死んじゃうよ……。それに、冗談ではなく本当に何かに巻き込まれて死んじゃうかも……」


     川の件の不幸せな予測がなくなって小躍りしていたのを瀧は横目で見ていた。

     瀧があの仮説を提示していた時の千沙はまるで肉親を亡くしたような目をしていた。


     尤も、みなしごである彼女らには肉親などは抑々いないが。

     ただの金銭と引き換えの依頼にここまで文字通りの命を懸けるような人間、それが千沙だ。


    「……わかりました。灯りを用立ててきます。本当に危険ですから半刻とは言わず、それより前に帰ることも想定しておいてください」


    「瀧……! うん! ありがとう!」


     瀧は木賃宿(素泊まりだけの宿で食費などは別途請求)の門をたたき、提灯を二つ借りてくると

    千沙に渡す。

  • 175二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 04:16:25

    保守

  • 176二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 15:31:46

    クルミか?クルミなのか?

  • 177二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:39:22

    >>174


    「いないねぇ……」

    「……まあ……分かり切ったことですが……」

     夕方、鴉も寝静まる、最早夜に近い頃

     草深い山の奥に二人はいる。宿場町から殆ど離れていないそこですらこんな

    未開の地みたいな雰囲気を漂わせているのだから、これ以上奥に行った場合など

    補償しかねるということだろう。


    ガサ……。奥で音がする。

    二人が進もうとする方向にて笹が揺れる音だ。

    乾いた木が踏まれてパキと鳴る。


    「……」


     二人は止まる。相手方が提灯を持っていないことを不審に思う。

    いや、不幸にも火が消えてしまうことは多々あるのだが、その場合は

    火を分けてもらいたいと挨拶するはずなのだ。


     何も言わずにそこに立っているだけ、というのは怪しい。


    「帰りましょう、千沙さん」

    「……うん」


     二人は踵を返して今までの道を辿る。

  • 178二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:49:59

    ほっしゅー

  • 179二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 12:54:27

    保守!

  • 180二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 21:21:38

    >>177


     実は、瀧は千沙がこんなに素直に提案に遵うとは思ってもみなかったのだ。

    ――やっぱり心配だから! と言って引き続き捜索をしてしまいそうなそんな雰囲気があったというのに。いったいどうしたんだろうと少し首をひねる。

     彼女とはもう一月の付き合いだ。その素っ頓狂ささえ慣れ始めてきた頃なのに、その

    「慣れ」に反する行為をされるのは少し調子が狂う。それとも、彼女ほどの剣技を持つ者でさえも

    あの先は危険と判断するのか。


    「戻ってよかったんですか?」

     瀧から思わず零れたの言葉に千沙は少し驚いたような顔をする。

     提灯から立ち上る仄かな、しかしこの当たりでは空に輝く月の次に頼りになるそれに彫りの深い顔

    で浮かび上がる。


    「……まあ、心配だけどね。もし私たちが負傷したらこの先の捜索は続行不可になってしまう。他の彼岸花はこういう仕事を請け負わないしさ。私の身体って……私だけのものじゃないっぽいしね」


    「身体……ですか」

    「そう、なんていうか、私たちの仕事って、自分の身体を使って極限まで危険なことするじゃない?

    他の人には任せられないようなさ。 そしたら、私が死んだらその人たちの願いって叶えられないんだよ」

  • 181二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 21:22:24

    >>180


    「……それは考えたことはなかったです」

     確かに訓練は過酷だ。氷が張った湖を泳いだり、何日も飲まず食わず眠らずの状態で戦う訓練もした。真っ暗な道場の中で真剣で斬り合うことすらやった。

     さっきまで隣で談笑しつつ共に飯を食った者が、夕暮れには筵で巻かれて埋められていた。

     でもそれは瀧にとっては逆の認識になる。


     ああ、わたし一人ぐらい死んでも他に咲く者がいるだろう。


     気軽に死んで、気軽に新入りが来る。そういう環境で育てば無理もない。


    「……そういう心持なら日ごろから色々気を付けてもらいたいことが山のようにありますよ、千沙さん」

    「ヴぇ! 藪蛇だぁ~。ちなみに何?」


    「砂糖を食べ過ぎです。珈琲に何匙も入れる上に、それと一緒に砂糖菓子も食べますよね? 砂糖は薬かもしれませんが、薬も過ぎれば毒になるのですよ? それからですね、買い食いも多いですし、夜更かしするのもですね……」


     二人は提灯を借りた木賃宿にたどり着く。

     千沙が瀧を先に中に入れてしまう。これ以上お小言を貰いたくないのかどうなのかは知らぬが

    前払いで燃料と米代を支払う。女将がちょっと驚くような金額で、すぐさま支度が為された。

  • 182二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:35:50

    >>181


     二人の布団は少しばかり離れて敷かれていて、すぐによく眠れた。


     朝靄のかかるその時間帯から彼女らは動き出す。

     

    「おーい! おーい」

     呼びかける声は木霊として帰っては来るが、返事としては何も来ない。

     木の下とか木のうろとか人が隠れられそうな所は重点的に見る。

    けれど、特に何かあるわけでもない。

     

     いや、二人を取り巻く環境には変化がある。

     ざわざわと鳴る熊笹の擦れる音、それが遠くで鳴っているものから徐々に

    近くへと詰められていく。


    「千沙さん……!」

    「わかってる。瀧」


     二人は少し開かれた場所まで行って背中を合わせて待つ。

     それら、二人を囲うように編み笠を被った男が五人、何も言わずに姿を現す。

    「おはようございます、みなさん」

     千沙は明るくその中の一人に声を掛ける。

    「……無視とかよくないよね」

     その千沙の声は大分明るく朗らかではあるが、彼女も歴戦の勇士、相手方の出す

    雰囲気を察せられない訳もなく、左手で腰の刀を構え始める。

     瀧に至っては既に左手の親指が音もなく刀の鍔を持ち上げていて、あとはもう抜くだけ。

  • 183二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 07:01:51

    >>182


    「皆さんも朝の散歩とかですか?」

     

     千沙の「この場から離れれば見逃してやる」という含意を感じて受け取るか

    受け取らないかはその男たちに委ねられている。


    ――残念だが受け取られなかった。



     一人が声もなく白刃を朝靄に晒すと、それを見習ったかのように次々と刃が抜かれる。

     叫び声もそこそこに、だっと駆け出され、その刃のどれもが二人の首を狙うに相違なかったのである。



    「えやっ!」

     瀧は抜刀一閃、向い来る男を切り捨てた。

     一人目は弱い。切った手ごたえすらない。

     だがそれは囮、本命はその後ろの者、一撃が重い。


     撃剣は技というよりも体格の勝負であることも多い。

     瀧より一尺は大きなその刺客は、重い一撃を瀧に食らわせ、圧倒する。

     しかし、瀧とて弱くはない、あの一撃を刀で受け流して、一気に後ろにすっ飛び間合いを開ける。

    腰に隠した銃を抜き、撃鉄は既に起こされていたそれを一発。

     どこでもいい、腰でも、頭でも。


     取り敢えず彼の動きが止まればいいのだ。

     どこかに弾をしたたかに受け止めてしまったそれは、一瞬、短い呻き声と共に

    腹部を押さえる。しかしその短い間で十分だった。


     瀧の正確無比な刃が男の首を刎ねるのには。

  • 184二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 07:02:22

    >>183


    「あー、みなさん、無駄な戦いしたい方なんだ、私は残念だけど違くてね」

     千沙が何かを懐から出して対峙する一人に投げると、それは相手を一人転ばす。

     

    「大丈夫、脚に絡まってるだけだから、じっとしてて」

     転ばされた方に駆け寄り、また例によって鞘ごと首をぶっ叩く。

     

     駆け寄る最中に二人が千沙を挟み撃ちにしようとしたが、そんなものに目もくれず、

    当たり前のように迫りくる刃を避けて柄頭の一撃を一人に、

     突かれた方は呻きながら蹲る。さてもう一人も千沙の足払いによって仰向けとなりその瞬間に

    鞘で殴打される。



    「お、瀧ぃ~。やってるねぇ」


     瀧が二人を処分している間、千沙は三人を捕縛してその場に囲っていた。


    「……早いですね、しかも生け捕りなんて」

    「え、なんか怒ってる?」

    「いいえ別に」



    ここまで

  • 185二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 12:39:54

    保守

  • 186二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 20:08:12

    >>184

    「瀧ってよく首刎ねるよね」

    「その方が確実なので」

    「なるほどね~。って、うちの相棒が言ってるよ? 怖い目見たくなかったら私たちを襲う理由教えなさーい」


     縄で親指同士結わかれた男三人を見下ろして千沙はニヤニヤとしている。


     しかし、三人とも意志が固いようで口も堅い。ふむ。どうしようかと千沙は考える。


    「ほら! さっさと吐かないと私も怒るよ! いい?」

    「……」


     尋問が下手くそな千沙、それを見て瀧は呆れて首を横に振る。

     こういう時は瀧の獲物なら、なんとでもするのだが……。いかんせんこの三人は千沙が

    捕まえたものなのだ。あまり手出しをするとまた「いのちだいじにだよ!」とお説教が始まる。

  • 187二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 20:08:24

    >>186


    「見ろ」

     さっき刎ねた首を三人に示す。儀礼的に目を閉じされられたそれは、眠っているかのように見える。


    「今吐けば、首は二つでいい。わたしが殺した分」

     そう言いながら、瀧は首の口を開けた。そうすると筋肉の支えがなくなった舌がデロリと出てくる。

    「あ、千沙さん、やっとこあります?」

    「え、あるけど何すんの?」

    「え、あるんだ……。まあ見ててください」

     やっとこ、物を抓む大型のはさみみたいなものだ。主な用途としては歯科医が治療の為に

    抜歯することが挙げられるが……。


    「お前らの首を刎ねて、こうしてやる」

     死体の口にやっとこを突っ込み、ゴリ……という肉を削る音共に、

    無理やりに奥歯を抜いて三人の眼前に掲げた。

     神経がその奥歯にふらりと纏わりついているのも見える。

     ちょんまげの部分を瀧が左手で握ったため乱れてもうそれは落ち武者のよう。


    「なんなら今からこうしてやろうか? 刎ねてからだと抜きづらいんだ」

     

     三人の男たちは静かになってしまった。黙秘ではなく気絶という形で。

  • 188二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 22:25:27

    >>187

    「結局単なる追いはぎだったな……戦って損した」

    「まあ……奥歯一本での収穫なんかこんなもんですよ」

    「いや、首! 首二つだから! っていうかあれマジで歯医者用なのにー!」

     血まみれのやっとこを「ありがとうございました」と返された千沙の気持ちは

    まあ、なんとも描写しがたい。

    「ちゃんと拭いたじゃないですか!」

    「そ、そういう問題じゃないの! ったく……最近の若い者は……」

    「一個しか違わないじゃないですか」


     がさ、とまた二人の前の笹が揺れる。

    「はぁ……」

     もはや面倒くさくなって、瀧は袂から拳銃を取り出しぞんざいにそこに銃口を向ける。

    「ダメだって! はい仕舞う!」

     撃鉄を起こす瞬間、回転弾倉を押さえられ下に向けさせられる。

    「何するんですか! またどうせ追いはぎですよ!」

    「違ったらどうするの!」

    「彼岸花は斬奸御免の権を持っています! 放してください!」

     二人は銃を巡って揉み合う。

    「撃たないでくれー!」

     飛び出てきたのは、少女。

     明るい色の髪の少女、身の丈、顔の特徴が、まったく同じだ、二人が探し回っていたものと。

    「……! そうだ! え、君は……」

     千沙は瀧の手を放して、その子の顔をむにゅ、と手で包む。

     懐から人相書きを取り出して、ひょい、ひょい、と見比べる。

    「あなた名前は?」

     瀧の声にその少女はぽつりと言う。


    「クルミ……」

     人相書きに書かれている名前と合致した。

  • 189二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 22:35:59

    今日はここまで

  • 190二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 08:32:02

    保守〜

  • 191二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 08:36:23

    次スレまでいきそうだね

  • 192二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 12:49:14

    次スレ行くか……

  • 193二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 20:32:58

    >>188

    「じゃあ、そのおばさんを名乗る人は嘘ってこと?」


     叢や茂みで話すのはあんまりだとクルミが騒ぐので

    二人は渋々といった体でまた宿場町に戻る。

     その間、クルミは重そうな行李を背負って、後ろにのけぞりながら

    よいせよいせと歩く。適当な茶屋の二階に陣取りまずは一服。


    「そうだ、あいつらの狙いはこれだろう多分」

     クルミ……と名乗る少女はなんとも偉そうにその持っていた包みの中から

    ごそごそと一冊の本を取り出した。

    「本……? ですか?」

    「面白そうなやつじゃないじゃん」

     千沙は普段は貸本屋から軍記とか忠臣蔵を借りてきてキャイキャイ言いながら読んでいるのだが

    見るからに詰まらなさそうな表紙に興味を失う。

    「日記だ、ボクが古道具を一式買ったらついてきてな、大して気にも留めなかったんだが」

    「クルミってなにしてる人なの……?」

    「なんでもだ、まああいい。これを見てくれ」

     ペラ、とめくる。新しい紙と墨のようでそれぞれ白く、そして黒黒く文字が躍っている。


    「! なんですこれ?」

    「……穏やかじゃないね……」

     普段は物事に動じない瀧までもその日記を食い入るように見つめ、ついには

    クルミの手から奪って一枚一枚めくり始める。


    「……まったく、倒幕に関わる会合の覚書なんか売るなよな」

    「で、この計画の参加者たちがクルミとこの日記を狙ってるってこと?」

    「そうだ、日記だけなら別にやってもいいけど、それを読んだボクまで殺そうとするから逃げたってわけ」

    「じゃあ……どうするの? 一回江戸に来たんでしょ?」

    「来たけどな、世話になったところに隠れようかと思って。でももうダメっぽいから別の所に逃げようとしてたら……お前らに会った」

  • 194二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 22:08:46

     千沙と瀧は二人顔を見合わせてこそこそと話す。
     クルミの気を逸らさせるためにたくさんの甘味を頼んだことは内緒だし、とても痛い出費だった。
     旅の財布を預かる瀧は残金を見てげんなりとする。
     あの流行ってない店から必死に搔き集めた金なのにと。

    「どうします? この人の言う事信じますか?」
    「でも日記っていう現物あるしなぁ」
     公儀を憚らない無法者から狙われているのなら、確かに保護すべきというのは
    宮仕えとしては妥当な判断である。
     しかし瀧の顔は渋い。

    「わたしたちはあくまで依頼人の為に仕事をすべきなのでは?」
    「お、言うようになったねえ~。でもそうすると御公儀(幕府)が倒れちゃうよ?」
    「別に……天子様さえご無事ならなんでも」
    「……そうかい。ま、私はこっちの味方に着くけどね! デコの方に」
    「……どう報告するつもりですか」
     あの親戚を名乗る者たちにである。
     七日後にはもう一度来るという話になっているが。

  • 195二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 22:09:23

    >>194

    「決まってるよ! ごめんなさい! 七日間探しましたけど見つかりませんでした! 天狗様の仕業です! って言うだけじゃん?」

    「ああ、今回はその手がありましたね」

    「そーそー。本丸の方は酷い失敗したら打ち首だけど、こっちは停止条件がある~。それに、あの依頼人たちだって私たちが実は見つけてたなんて知りっこないんだし、あとでどっか逃がしちゃおうよ」


    「着手金しか貰えませんよ? いいんですか?」

    「人の命とお金どっちが大事だとおもってるのかな~瀧の字は~」

     千沙に茶化されるが、手に持っている財布の重みが一日ごとに減っていくのを

    実感している瀧はぐりっと奥歯を噛む。


     瀧の思考回路としては、このクルミという女には別に特に思い入れもないのだから

    さっさと引き渡して金を貰った方がいい。彼岸花としての活動資金が入れば

    もっと効果的に活動できる、と考えているのだが、千沙はそれを戒めている。

  • 196二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 22:10:43

    ここまで 遅くてすまんな

    >>195

  • 197二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 08:40:59

    保守~

  • 198二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 19:18:39

    保守なのよ

  • 199二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 21:15:34

    >>195


    「千沙さんの所為ですからね」

    「え、何が?」

    「こんな厄介な風になったのは」

     

     とりあえずこの子、クルミをもっと遠くの方まで送って、そこで解散ということにしておく。

    ここから行くと次の宿場町まではだいぶ先だ。日暮れまでにたどり着けるだろうか?

     まあ、このクルミと名乗る少女は、体躯は小さく重い荷物を背負っているが、足取りは軽い。

    すぐに疲れるような人間ではないだろうから、現実的ではあるのか。

     そこで別れてから、千沙と瀧はまた一泊して戻ってくる……という計算になるが、

    手持ちの資金が持つかどうか。

     昨晩は木賃宿で費用を浮かせたが、ここに来て甘味をバカスカ喰らう小動物に遭遇してしまったからなあ……。

  • 200二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 21:15:59

    >>199


    「うーん……」

     瀧が財布を覗いて唸っていると、クルミがひょい、と覗いてきて

    「そうだ、ボクの護衛をしてくれるんだったら金を積まないとな」

     ぞんざいに懐からグルグルと巻かれた財布を取り出し、瀧の前にいくつか中身を置く。

     ゴト、ゴト、ゴト、と塊が三つ。三つ、なのだ。三枚ではない。

    「これでいいか?」

    「ひっっ!」

    「わっ!」

     二人は飛び上がって、いすまいを正す。


    「死力を尽くしてわたくし、警護に当たります」

    「お、おうよ!」


     斯くして、このクルミなる少女を無事に江戸から離すことが任務へと相成った。

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