- 1二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:20:11
ーー骨折が告げられた時、ただただ不安でしかなかった。三冠の夢が、幼いボクがずっとずっと欲しかった称号。それが、骨折ひとつで叶わなくなるという絶望。
そんなことを考え続けた日々の中。入院中の病室で、不思議な生き物と出会った。ネコでもウサギでもないそれは、「キュウべえ」と名乗った。
窓辺に立つキュウべえは問いかける。
「トウカイテイオー。君に願いはあるかい?」
ボクは「それを聞いてどうする」と聞き返
す。
「僕ならその願いを叶えられる。ひとつだけ、どんな奇跡だって起こせる。...願いの代償に、魔女と戦う使命を背負うけどね。」
「僕と契約して、魔法少女になってよ。」
「...何言ってるの?そんなの、叶うわけーー。」
叶うわけない、と言おうとして言葉を飲み込む。目の前の状況ですら馬鹿げているのに、願いを叶えられるというさらに夢物語のような提案をされたのだ。もしかしたら、これは現実なのかもしれないし、ただの夢かもしれない。なら、試してみよう。
「だったら『ボクの怪我を治して』よ。」
ダメ元でそういった。本当に治るはずない。しかし、目の前のキュウべえはこう言った。
「契約成立だ。足の怪我は、明日には完治してるだろう。」
直後、胸元に違和感を感じた。何かが迫り出してくるような。そして、光を放つ宝石が、胸から飛び出てきた。
「それは『ソウルジェム』だ。君の命そのものであり、魔法少女の証。これからキミは、魔女と戦う運命にある。明日また来るよ。」
キュウべえが去っていくと、不意に足が軽く、動くようになっている。痛みも違和感もない。
「本当に、治ったんだよね...?」 - 2二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:20:42
次の日の診断で、完治したと言われたボクは、検診期間を経て、トレーナーと学園へ戻った。毎晩キュウべえが現れ、魔法少女とはなにかを教えてくれた。魔女と戦うこと、魔女の見つけ方、魔力の管理...。
外を歩く時に見つけた使い魔には驚いた。あんな恐ろしいものが、今まで存在していたのだから。でも、負けなかった。魔法少女としての力ーー「自己回復の魔法」で、ずっと戦っていられた。
もしトレーニング中に怪我をしても、魔法で治せた。トレーナーの目を盗んで、「なんでもないよ」って言うだけ。
そして、訪れた菊花賞。ボクは勝って見せた。無敗の三冠ウマ娘。会長に追いついたんだ! - 3二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:21:13
でも、その後。足に異常が見つかった。心配したトレーナーに「大丈夫」と言っても、無理やり病院に連れていかれた。寸前でいつものように魔法を使い、なんとか診断を終えた。綺麗だったソウルジェムは、いつの間にか黒く濁っていた。
「魔女を倒して、グリーフシードを手に入れないと...!」
夜。門限までに魔女を見つけようと、夜の街を走る。もちろんキュウべえも一緒だ。
すると、近くから聞き覚えのある声がする。
「...マックイーン?」
足踏みをしながら近づくと、向こうから声をかけてきた。
「テイオー、こんな時間にどこへ行くのです?」
「ちょっと探し物。マックイーンこそどうしたのさ。」
「...ちょうど良かった。これを見てくださいまし。」
マックイーンは新聞を見せる。大見出しには『トウカイテイオー、無敗の三冠達成』と書かれている。事実だし、何も無いと思っていたのだけれど。
「...有り得ない話です。あの怪我は、そう易々と治るものでは無かったはずです。3日。たった3日で回復するなら、入院なんてしなくてもいいでしょう。」
「で、でも!治ったんだから良かったじゃん!」
マックイーンは疑いの眼差しを向ける。理由を考え始めるより前に、キュウべえが割り込んできた。 - 4二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:21:37
「メジロマックイーン、君も魔女探しかい?」
「やはりいたのですね。キュウべえ。」
そうか。マックイーンも魔法少女で、だからキュウべえを知っていて。ボクの怪我が治った理由に勘づいていて...。
「テイオー、ソウルジェムを見せてください。」
返事をし、黒く濁ったソウルジェムを手に載せる。マックイーンが黒い結晶を押し当てると、ソウルジェムは元の空色に戻った。
「次からは気をつけてくださいね。ソウルジェムは私たちの命そのもの...完全に黒くなった時、どうなるか分かりませんから。」
「ありがとうマックイーン!よーし、帰るぞー!」
季節は流れ、ボクは無敗を積み上げる。
魔女とも戦い、魔法少女としても調子がいい。
そんな中、訪れた天皇賞・春。
「今日はボクとの対決。負けないよ、マックイーン!」
「ええ。必ずや盾を手に入れますわ!」
世間はボクとマックイーンのどちらが勝つかで盛り上がっていた。無敗を貫くか。それをマックイーンが阻止するか。...しかし、事態は思わぬ方向へ進む。
1着でゴールしたのは、ボクでもマックイーンでもなく、メジロパーマーだった。
唖然とするマックイーン。声をかけても、「
大丈夫」と上の空で呟くだけだった。 - 5二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:22:04
ある夜、マヤノが寝たのを確認して、ボクはマックイーンの部屋へ向かった。あれから声をかけても反応がない。レースでは入着することも、無くなった。
「マックイーン、入るよー!おーい!」
鍵のかかっていない部屋。入るとそこには「出かけます」と書き置きが。部屋の窓の外で疾走するマックイーンを見つけ、急いで後を追いかけた。
そして、近くの公園で立ち止まり、マックイーンはボクにこう言った。
「私の願いを、聞いていただけますか。」
「いいけど、どうしたのさ!困ってることがあるなら相談に乗るのに!」
「...私の願いは『メジロ家が天皇賞を勝ち取ること』。結局、メジロなら誰でも良かったのです。そして、天皇賞以外であれば、負けてもいいと。」
...天皇賞以外、どうでもいい?
「...何言ってんの!天皇賞が全てじゃない!他にも沢山のレースがあって...。...どうしちゃったのさ!」
「そうキュウべえに願って、魔法少女になったのです。そしたら、パーマーもドーベルも、ブライトもライアンも。私も負け続きでしたわ。そしたら、天皇賞だけに勝つようになって。...世間でメジロは『負け組』だとか。」
「そんなの...よくある事じゃーー!」
「気づいたのです。私が願い続ける限り、メジロ家は勝てない。誰も見向きしないと。」
その目は虚ろで、首元にかけたソウルジェムは黒く澱んでいた。
「テイオーは夢を実現できます。私は...『絶対』に出来ないんですよ。」
やがて黒い煙がマックイーンを包む。結界が現れ、出ることも出来ない。そこはまるで地下牢のような場所だった。
「ーー!マックイーンを助けなきゃ!」
魔法少女に変身し、奥へと進む。使い魔をなぎ倒し、階段をかけ登り。そして、魔女のいる拷問部屋にたどり着いた。 - 6二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:22:26
目の前の魔女は、聞き取れる言葉で「大丈夫、大丈夫」と言い続ける。
「まさか...マックイーンなの?!」
「テイオー...ユメが叶ゥうマ娘。羨ましい、羨マシい...!」
徐々に針だらけの天井が降りてくる。
「...っ!目を覚ましてよマックイーン!」
「うっふふふふふ!アッハハハハハ!」
攻撃しなければならないのに、剣を握った腕は動かない。このままでは死ぬと分かっていても、動かないのだ。
「テイオー、ていおう!貴方は強いですワよねェ!」
...そうだ、ボクは強い。
怪我をしても治し、使い魔相手でも負けない。無敗の三冠ウマ娘なんだ。だったら、救えるはず。マックイーンの目を覚ませるはず!
「ーー勝負だぁぁあ!!」
...そして、長い戦いは終わった。マックイーンはグリーフシードになって、結界は消えた。
「流石だねトウカイテイオー。」
「...キュウべえ。」
「魔女の討伐、おめでとう。」
「...そういうのいいよ。ねえ、魔法少女は魔女になるの?」
「結果的にはそうなるね。魔法少女が絶望した時、魔女に変化する。」
「...そっか。じゃあ、ボクももう少しだ。」
「どうしたんだい?グリーフシードを使いな
よ。無敗の君を、みんなが待ってる。」
「無敗なんていらない。菊花賞だって、この力が無かったら挑戦もしていない。憎いんだよ、怪我を治すだけを願ったボクが。」 - 7二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:22:44
「もう奇跡は起こせないから。」
- 8二次元好きの匿名さん22/09/25(日) 23:34:24
30分で書きました、質問あればどぞ