- 1二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:00:44
何時になく歯切れが悪く、いかにも話を切り出しにくそうな様子の彼女を見て俺はそう言った。相対した彼女は少し考えてから、意を決したように口を開く。
「いいえ、引退という訳では。ですが……そろそろ第一線は退こうかと」
「第一線を退くって、どうして急に?」
「力の衰えは分かっています。先月の模擬レースも最近のタイムも今ひとつですから」
「それは確かにそうだ。でも去年は一回も掲示板を外して無いし、スプリンターズステークスだって勝てたじゃないか。GI二勝目だぞ? まだまだこれからだって周りも言ってるし……」
「ええ、一族やファンの皆様にはこれからも期待されています。それに応えていくのが私の責務だと。今でもそう思っています」
年が明けてしばらくして。世間がバレンタインだ何だと浮き足立つ最中のある日、俺はいつも通り彼女とトレーニング前のミーティングをする……はずだった。
普段なら雑談も挟まずに今日のトレーニングのメニューを確認し、ライバルの近況や事務的な連絡といったやり取りがあって終わりだ。真面目な彼女との距離感はこれくらいが互いに心地好いものだと理解している。
しかし、今日もそうやってウォーミングアップに移るものだと当然のように考えていたのは、俺だけだったのかもしれない。
「なら、今は次のレースだけを考えるべきだ。そうだろう? 来月のマイラーズカップにはダイタクヘリオスも出走する。楽に勝てる相手じゃないのは知ってるよな」
「ええ、とても。あの方はレース以外では喧し――いえ、少々賑やかな方ですが、マイルでの実力は私より上。世代のトップと言ってもいいでしょう」
「……ルビー?」
ダイタクヘリオス。ダイイチルビーのライバルにして、マイルから中距離で活躍しているウマ娘だ。特に秋GIのマイルチャンピオンシップでは連覇を成し遂げている。
確かに強い相手だ。
でも。だけど。
彼女が、そんなにあっさりと認めるなんて。
「なあルビー、最近どうしたんだ? なんというか覇気が無いっていうか……闘争心が足りない感じがするよ。らしくないぞ?」
「闘争心、ですか」
「そうだ。何かあったのか? 悩みがあれば聞くから遠慮しないでほしい」 - 2二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:01:52
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- 3二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:02:05
思わず指摘してしまうくらい、今の彼女からはレースで絶対に勝つという気迫が感じられなかった。こんなのは普通じゃない。
……いや、今思えば予兆はあったかもしれない。そうだ、去年のクリスマスあたりからだろうか。彼女は丸くなった気がする。ストイックで冷めた性格から角が取れたような。出会った頃からは考えられないくらい俺との雑談やトレーニングと関係ない休日の予定が増え、友達付き合いも良くなったし笑顔も見せるようになった。それ自体は嬉しいのだけど……もしそれが彼女から闘争心を奪ってしまったのなら、複雑だ。
「悩みというよりは、今後の事ですね」
「今後?」
「はい。レースを……引退した後の事です」
引退という言葉。現役のウマ娘にとって口にするのも憚られるタヒと同義の言葉だ。彼女は、自分からそれを言ったのだ。
しかしそれが彼女にとって良い変化――成長であるなら、俺は受け止めなければいけない。トレーナーである前に、一人の大人として。どんなに洗練された所作と優雅さを備えた令嬢であってもまだ子供である彼女の、教育者として。
「話してごらん」
そう促すと、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
「私は、この一族に生を受けました。期待の下に育てられ、才能を育むことを許されました。ですから、私はレースで結果を残すための努力は何一つ惜しみませんでした」
「ああ、君は誰よりも努力している。俺が一番知ってるよ」
「でも……このままでいいのか、と考えたのです」
このままでいいのか。彼女が何を気負う事があろうか? ダイイチルビーはその名に恥じぬ結果を残してきたではないか。
そう思ったが、沈黙する俺に彼女は意志を持って告げた。
「私の勝利は、私だけのものではありません」
ハッとした。そうだ。彼女は、俺よりも自分の走る意味を理解しているんだ。
「この才能は一族の血筋と歴史の賜物。いくら結果を残そうと、それを享受するだけでは足りないのです」
「要するに、君も……」
「ええ。母や祖母がそうしてきたように、私も後進を育てるべきだと。そう思ったのです」 - 4二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:02:34
そう述べた彼女の顔つきからは、母親のような優しさを感じ取った。彼女はよく知っているのだろう。偉大なウマ娘であった母や祖母の姿を。
彼女は決して夢や憧れをただ失った訳ではない。自分の未来の使命をはっきりと自覚したのだ。――例えそれが、自信の選手生命を断つ程の心の変化だとしても。
「わかった」
ならば、俺がやるべき事は一つだ。
「これからは引退を視野に入れよう。レースの予定は夏までは入っちゃってるから、それまでは無理のないトレーニングで。それ以降の事は……俺に任せてくれ」
「ありがとうございます」
彼女が指導者として大成するかは分からない。良い競技者が必ずしも良いトレーナーになれるなんて保証は無い。いや、実際そうならない方が多いだろう。それでも……彼女の望みを叶えるのが、トレーナーとしての俺の仕事だ。
「家の方に報告するのは任せるけど、俺も伺った方が良いよな?」
「はい。母も貴方のことは認めていらっしゃるので。その際は宜しくお願い致します」
まずは一つ、大事な予定が増えそうだ。いつでも大丈夫なように準備をしておかないとな。
そう思ってスケジュール帳を開いた俺は――気付くことが出来なかった。
「後進を育てる」……その意味の更に先を。「母や祖母のように」という言葉に含まれた未来を。
そして、彼女が俺に向ける視線の意味を。 - 5二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:03:49
短いですが、以上です。ダイイチルビーの史実と絡めてエンディング的なのを妄想してみました。最終的にどうなるのかはご想像にお任せします……
- 6二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:05:27
トレーナーがダイイチにされる
- 7二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:09:09
まあ実際に実装されたら、これからは後輩の指導をしますみたいな感じで下の世代のウマ娘に慕われてる描写で終わりって感じがする
誰かのストーリーもこんな風だったな。キタちゃんだっけ? - 8二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:18:22
今まで普通のトレーナーとウマ娘の関係だったのに引退が近付いた途端に牝バの本能が炸裂したお嬢に襲われたい……
- 9二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:22:58
- 10二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:29:25
いきなり生贄に捧げられるマックイーン、一体何をしたというのか
- 11二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:32:46
良いのを見た
実装はよ - 12二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:34:02
- 13二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:35:57
- 14二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:10:43
- 15二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:17:04
そう言えばロリお嬢様って今まで意外と無かったな?
こんな子が子供欲しくなってトレーナーに掛かって引退するのか……サイゲは史実に忠実にするべき - 16二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:20:20
確かカフェもそんな感じだったな
- 17二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:40:18
- 18二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:45:21
おせいそロリお嬢様に下心丸出しで襲われてぇなあ
- 19二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 21:53:56
親子3代制覇に意気込むところにヘリオスとミラクルが絡んできて解されていく展開なら私性合
少なくとも本当にヘリオスに興味がないならパリピ語理解する必要もないのに、勉強したかその場その場で頭フル回転させてニュアンスを汲み取ったかで返事してるの、流石に全く意識してないと言うには厳しいところあるよねって。だからルビーのストーリー中ヘリルビは間違いなくあると思うし、矢印も相互に出てるんじゃないかなと
- 20二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:00:12
いや気が早すぎるだろと思ったけど高等部だったわお嬢
- 21二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 22:00:58
高等部だから3年経ったら……ね?後は分かるよね
- 22二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 23:43:09
原作がえっちすぎる
- 23二次元好きの匿名さん22/09/27(火) 00:15:21
他の子のストーリーでも引退仄めかすのはあるけど、原作で明確な理由付けがあるから割とガッツリ描写されそうだな