【閲覧注意】手錠うるティとページワン

1二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:37:46

「ぐっ……ふんっ……！！」
姿を見つけた姉貴は、なにやらクイーンの前で唸り声を上げていた
手にはまっているのは、手錠？　なんでまた…
「無理だっつの、このクイーン様が新開発した特製手錠だぜ？」
サングラスで目は見えないが、葉巻をくわえた口をニヤニヤしながらクイーン
「何をしてるんだ二人共？」
「あっぺーたん！これ壊すの手伝うでありんすよ！」
じゃら、と手首の手錠をオレに見せつける
無骨な作りで、姉貴の手首は若干赤くなっていた
「ムハハ！ぺーたんに手伝わせちゃ意味ねぇだろ…いや別にいいけどよ」
「なっ…上等だよォォ！！」
「……なんだそれ」
「非能力者用の手錠の試作品だよ
　海楼石の手錠は能力者は無力化できるが、
　ただ馬鹿力な連中はどうにもならねぇだろ？
　だからとりあえず試しで、とにかくド頑丈な手錠を作ってみたんだよ」
「……なんで姉貴がそれを付けてるんだ？」
「ジャックの奴に付けてみたらあっさりぶっ壊しやがったんでな
　それ話したらまあ大看板サマに対抗意識燃やしてコレってわけだ」
「うるさい…っこんなのぉぉぉ…」
みしみしと音を立てているが、それは手錠じゃなく姉貴の腕の方だ
額に血管を浮かせて凄い形相で手錠を睨みつけているが、
まあ手錠ってのはそれで動じる物でも無い
「落ち着けよ姉貴……クイーンも、もうこんなの外してくれよ」
「おれはさっきから外してやろうとしてるんだぞ
　うるティがムキになってんだよ……ホレ鍵だ」
オレに鍵を渡すと、姉貴がなにか言う前に立ち去ってしまう
結構長い時間手錠と格闘する姉貴に付き合ってうんざりしていたのかもしれない

2二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:40:04

「ほら、外すぞ姉貴」
「邪魔すんなっ！こんなのぶっ壊してやるっ！」
びんっびんっ、と今度は鎖を伸ばす勢いで引きちぎろうとしているようだが、
壊れる様子はまるでなかった、流石クイーン製といったところか
「血が出てるじゃねえか……そこまでしなくてもいいだろ？」
「ジャックにはできたんだから、私達にだって…ぇ…！！」
「ジャックは大看板だろ？　飛び六胞のオレたちとは…」
ここまで言って、しまった、と思った
普段はオレにベタベタとしてふざけてるようだが、
姉貴は向上心と出世意識が実力主義の百獣海賊団の中でも人一倍強い
そしてそれをオレにも求めている
自分が大看板を超えるためにあがいているのに、その姿に対して
あいつらは格が違うんだ、だから諦めろ、
なんてオレが口にするのは禁忌と言っていい
姉貴の目には、今までとは質の違う怒りの色が見えた
「ぺーたん、これ外して？」
ヤバい、目が座ってる
手錠を外せば、不甲斐ない弟の根性をまさに”叩き直す”ことだろう
オレの体はどうこうと考える前に、姉貴の前から逃走を選んでいた
「ゴラァァ！逃げるなァァ！！」
ドスの効いた声を出して、姉貴も即追いかけてくる
普段ならあっさり捕まるところだが、
両腕の自由が効かない姉貴の走りはオレよりもずっと遅い
むしろなんだか妙によたよたとして危なっかしくも見える
それがオレの心に大きな余裕を生んでいた
…オレがカギを持っている以上、完全に逃げ切るわけにもいかない
こんな競走誰にも見られたくはないし、とりあえず城の外に逃げる事にした
姉貴の怒りが、多少殴られる位までに収まったら追いつかれてやろう…
この時はそんな呑気な事を考えていた

3二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:41:31

姉貴の様子がおかしくなったのは、外を結構走ってからの事だ
怒りというよりも、どこか必死さが見える
姉貴はちょっと後ろを見てから、何かを図るような感じで…
ぴたりと足を止めた
それに合わせてオレも足を止め…
流石にたたごとじゃない気配を感じ、姉貴に近づく
「ぺ、ぺーたん、これ、外して…お、お願いだからぁ……」
股をもじつかせながら、手錠をオレの方に差し出してくる
流石にこれで察せない程オレもバカじゃない
最初から走り方がおかしいとは思っていたが、なんてこった…
「ぜ、全力で走ったら間に合いそうか！？」
「多分なんとか……早くしてぇ……」
慌ててポケットからカギを探ると……
「な、無い……」
「は……う、ウソだよね……？」
走って紅潮していた姉貴の顔から、さっと血が引いていくのが見えた
多分オレの顔も同じように変わっているはずだ
パンパンとポケットを叩くが、出て来ないものは出て来ない…
走って逃げる最中に落としたのは間違い無いだろう
「そ、そのへんでなんとかならないか！？小ならっ！？？」
「バカ！！バカじゃないの！？？ほんっとに……あぁぁぁもうぅぅ！！」
ままならない腕をぶんぶんと振り回してオレをしばらく叩いていたが、
流石にもう選択の余地など無くて…

4二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:42:53

「お、降ろしてっ」
「え？」
「パンツ……！早く…っ」
「わ、わかった！………
　は！？いやこ、ここでやるつもりかよ！？
　どっか物陰……」
言ってから、周りにそんなものが無い事に気づく
いや、少し遠くには茂みやら小川やらがあるのだが、
多分もう間に合わないんだろう…ガチガチと歯が鳴って、
全身を小刻みに震わせている…オレを殴ってる間に移動していれば…
今更そんなことを言ってもどうにもならない、しゃがみこんだ姉貴に、
せめて、外套を広げて姉貴の体を隠すように覆ってやる…
本当に気分的にはマシ、って感じだ…

姉貴はきょろきょろと周りを見回して…顔が絶望色に染まった
「クイーンが来る…」
オレの視界には見えない
姉貴は見聞色で遠くにいるクイーンを察知したのだろうが…
「なんでこっちに来るんだよ！？」
「知らないっ！！　も、もう、もう限界だよぉ…ページワンん……」
やばい、姉貴が泣きそうだ
こんな状況、見られたらマズイ、なんとか、
オレがクイーンをなんとかしないと……

5二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:44:14

・・・・
「あ？　ぺーたんお前なんで変身してんだ？」
部下どもにこの姉弟の走っていった方向を聞き向かっていたおれは
巨大なスピノサウルス、ページワンのゾオンの姿を目にしていた
恐竜の中でも大型の部類に入るそれの特徴は巨大な口
噛みつけばこのキュートな巨体にもでかい歯型を残せる事だろう
歯が立てばの話だがな
すこし周りを見渡すが、敵らしい姿も見えない
もしかして、あの手錠壊そうと姉と頑張ってんのか？
「スマン！あの鍵ジャックの奴がぶっ壊した手錠の方のカギでよ…
　こっちがうるティの手錠のカギなんだわ！」
ちゃら、とスピノサウルスの手に小せぇカギを渡す
全く喋らない態度と姉貴の方の姿が見えないのは気になるが、
こんなミスであのやかましいのに文句を言われても面倒だ
おれはさっさとその場を後に城に帰った
・・・・

6二次元好きの匿名さん22/09/26(月) 20:44:51

クイーンがいなくなった後、オレは口内をどんどんと叩かれた
もう周りに近づく者の気配を感じなくなったのだろう
口を開けて、姿を隠していた姉貴を吐き出した
なんだかぐったりしているのは、まとわりついた唾液や
口内の圧迫感のせいだけじゃなく…
「あー…………姉貴、その、アレは……」
「も゛う゛い゛い゛っ！」
泣きじゃくり始めた姉を見て、
しかしオレは、なんとか姉貴の名誉をギリギリで守りきれた……
多分、多分守りきれた事に少しの誇りを感じながら
近くの小川で口をすすいだ

完