- 1二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:37:18
※解釈違い、キャラ崩壊を含む恐れアリ
土曜の午後、練習終わりの部室で、それを口にしたのはスペだった。
「はい!リギルのオペラオーさんから、凄く星が綺麗に見える場所を教えて貰ったんです!スピカのみんなで見に行けたらなーって!」
「行ってきたら良いじゃないか…俺は仕事が…」
「えー!?トレーナーもいこーよー!!」
テイオーが声を上げる。どうやら自分に聞いてきたのがスペというだけで、このお誘いはスピカ全員からのものらしい。
「…場所は?」
「○○○山の頂上って言ってました!道路が続いてるから車でも行けるって!」
「結構遠いじゃねぇか…」
「だからアンタを誘ってんのよ」
スカーレットの言葉で腑に落ちた。成る程、自分を足にしようという魂胆らしい。
「………」
正直、気が進まなかった。今日は夜まで残って仕事を進めるつもりだったし、何より最近寝不足だ。こんな状態でこいつらを乗せての運転は避けたかった。だがそれ以前に…
「お前ら門限は?星見て帰ってくる頃には締め出されてんじゃねーのか?」
「ご心配なく。外泊届けはキチンと出しますので」
「外泊だあ?どこにだよ…」
「お前ん家」
だと思ったよ… - 2二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:39:49
既に日が沈んだ頃、トレーナーは真っ暗な山道で車を走らせていた。後ろには当然スピカ全員が乗っている…もっとも、スズカはいつも通り助手席だったが。
「ごめんなさい、トレーナーさん…無理矢理付き合って貰って…」
「いやいいよ、気にすんな。久し振りに星を見るのも悪くないさ」
何故スズカが謝るのかというと、トレーナーが折れた原因がスズカだったというのが大きい。
あの後暫く教え子達と行く行かないの問答を続けていたが、最終的にスペのスズカさんの為にも、という言葉に負けたのだ。
サイレンススズカ。今の彼女の主戦場は海外だ。一時的に帰国しているとはいえ、来週にはまた日本を発ってしまう。そんなスズカと思い出を作りたいと言われてしまうと、トレーナーはもうお手上げだったし、その気持ちを否定も出来なかった。 - 3二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:44:19
結局足になる事、宿になる事を渋々了承し、早めに帰宅して仮眠をとった。アイツらは気にしないと思うが一応掃除をして、自分の布団をリビングに移した。来客用の布団なんて持っていないので、泊まりたきゃ全員寝袋でも持ってこいとは言ったが、7人のウマ娘が寝袋を背負って校門前に立っている姿は非常にシュールだった。
「…お前ら着替えとか持ってきたんだろーな?」
「大丈夫です!」
「ねぇトレーナー。帰りに薬局寄ってくれない?私達用のシャンプーとか買うから」
「いや持ってこいよ…」
「トレーナーの家に置いといた方が便利でしょ?今後もいちいち用意しなくて良いし」
今後があるらしい。お泊まり会はこれっきりにして欲しいが…
「おいおいトレーナー?シャンプーって単語でアタシらのシャワーシーン想像してないだろーなー?」
「えええ!?トレーナーさんそんな事考えてるんですか!!?」
「き、気を付けろよ!スカーレット!」
「なんで私だけなのよ!!」
「いやらしいですわ」
「スケベー」
「……………」
…こいつらは天体観測をしたいらしいが、星を見て感傷に浸る程の情緒が果たしてこいつらに存在するのか、甚だ疑問だった。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:48:18
「着いたぞー」
「私が一番!!」
「あっ!待てよスカーレット!!」
着くやいなや、スカーレットとウオッカが車から飛び出して行った。一応駐車場があるが、周りを見る限り、今日は貸切らしい。
「なあスペ。オペラオーはなんでこんな所を知ってたんだ?あいつ星が好きなのか?」
「えーとですね、正確にはオペラオーさんのお友達が好きなんだそうです。よく寮を抜け出してランニングがてら見にきてるそうで…」
「なかなか型破りな友達だな…類は友を呼ぶってやつか…」
そんな話をしながら飛び出して行った二人を追うと、丁度開けた場所に出た。そこで二人がいつものようにケンカしている。ブルーシートを敷く位置で揉めているらしい。
「どう考えてもここがベストなポジションだって!お前の場所だと木が邪魔だろー!?」
「フン!素人ね!!こういう葉っぱとのグラデーションを楽しむのが天体観測のコツなんだから!!」
「ここにしよーぜー」
「「あっ!?」」
揉めてる二人を尻目に、ブルーシートを持っていたゴルシがさっさと敷いてしまった。が、悪くない場所だったので、二人はそれ以上何も言わなかった。
その代わり、次はどっちが先にシートに寝転がるかの競争が…始まらなかった。
「さ、トレーナーさん!どうぞ!!」
「ばーん!って寝転がっちゃってよ!」
「え?俺?」 - 5二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:53:20
不意をつかれた。まさか自分が勘定に入ってるとは思わなかったからだ。ブルーシートは小さくはないが大きくもなく、大人の自分が寝転がっては途端に窮屈になる。
「俺はいいよ。立って見とく。場所とっちまうし…ながぁ!!?」
ゴルシに背中を蹴られた。成す術もなくシートに体が不時着し、ついでに靴も取られた。
「寝転がれって言ってんだからさっさと寝ろよ」
「お前なぁ…ったく…」
うつ伏せの状態から、仕方なく体を仰向けに起こし、空を見た。
瞬間。思わず息を呑んだ。
「…………………スゲェな」
思わず出た言葉だった。広すぎる夜空に、数え切れない星達があって、その一つ一つが宝石のように輝いている。
星なんてもう何年も見上げてなかったが、それでも今までの人生で、一番の星空だった。
トレーナーの感嘆を聞いて、ウマ娘達も次々にシートに身を投げ、揃って溜息を吐いた。
「凄ーい……」
「宝石のようですわね…」
「綺麗…!」
シートはギチギチで、寝返りもうてない程だったが、そんな窮屈感もどこかへ飛んでしまうような…そんな夜空だった。
- 6二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 22:57:47
「スッゲー…」
「本当に綺麗ね…」
さっきまで喧嘩していたウオッカとスカーレットも仲良く星を眺めている。夜空には不思議な力があるらしい…その力に、ウオッカは魅せられた。
「なんかさぁ…こうやって沢山の星見てるとさぁ…俺たちがこうやって出会えたのって…なんか、凄いよな…奇跡…じゃないけどさ…」
「…………」
自分でもらしくないと思ったのか、詩的な台詞を言い終えると、ウオッカの顔は夜でも分かるくらい紅くなっていた。スカーレットが堪らず吹き出す。
「なっ!?わ、笑うなよ!!」
「ブフッ…!アハハ!だってウオッカ…!急になんか浸ってんだもの…!フフッ…!」
「わーらーうーなー!!」
「ちょっと二人ともー!こんな時くらい静かにしてよねー!?…ねえスペちゃん?北海道もこれくらい綺麗な星が見れるの?」
「……うーん」
テイオーの質問に、スペは言葉を濁した。
「多分…綺麗さで言えば、負けてはいないんですけど…私、北海道の星空は、あまり見ないようにしてたんです」
「えっ、どうして?」
「私が星空を見上げる時は、お母ちゃんが仕事や用事で居なくて、寂しさを紛らわせる為でしたから…だからあまり綺麗だとかは、思った事無いんです」
「スペちゃん…」
スズカが淋しそうに呟いた。 - 7二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:00:38
「でも、今日は違います。スズカさんが居て、スピカのみんなが居て、トレーナーさんも居て…みんなで見る星空は、凄く綺麗で…!それに、こうやって星を眺めてると、何処までも飛んで行けそうな…そんな不思議な感覚がします…」
「あー…それなんか分かるわ」
「開放感、でしょうか。私も分かる気がしますわ…」
「…………」
何処までも飛んで行けそう。
スペの言葉が、何故だかいつまでも頭から離れなかった。そして、星達を眺めながら、ふと思った。
もし。
もしもこいつらが今、星になってしまったとして。星となって、この夜空に溶け込んでしまったとして。
自分はこいつらを見つける事が出来るのだろうか。
この広すぎる空で、再びこいつらと巡り会う事なんて、出来るのだろうか…
(………何考えてんだ、俺は)
センチメンタルな気分になっているのは、ウオッカだけではないらしい。なんだか小っ恥ずかしくなって、それを誤魔化す為に目を閉じた。
「…トレーナーさん?眠いんですか?」
スズカの問いかけに、いや…とだけ返した。寝るつもりはない。ただ、ずっと星を眺めて目が疲れたのも事実だ。夜風も心地良い。もう少しだけ、目を閉じていよう。そんな事を考えながら、トレーナーの意識は沈んでいった… - 8二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:02:57
「………?」
気付くと。
トレーナーは広い草原に立っていた。昔テレビで見たサバンナのような。とても広い草原だった。
そして突然、後ろから生き物の鳴き声のような音が聞こえ、咄嗟に振り向いた。
見たこともない生き物が、そこにはいた。
長い首に、長い手足。牛と似たような風体だが、牛とは比べ物にならないほどの凛々しさ、華奢さを感じる体。栗色の体をしたソレは、二つのつぶらな瞳で静かにこちらを見つめていた。
「………」
不思議と、恐怖は無かった。自分の数倍はある見たことのない生物が目の前にいるというのに、感じるものは恐怖や焦りではなく、何処か懐かしさを覚えるような、そんな安心感だった。
そして、気付いたら口に出していた。
「……………スズカ」
その言葉に反応したのか、目の前の生き物は戯れるように顔を擦り付けてきた。
なんでそんな事を呟いたのかは分からない。只、ハッキリと言える。スズカだ。目の前にいるこの子は、間違いなく、サイレンススズカだった。
「…ハハハッ。おいおい擦りすぎだぞスズカ」
名前を呼ばれるのが嬉しいのか、トレーナーの言葉とは裏腹に、スズカは嬉しそうに体を擦り続ける。
暫くそうしていると、スズカは急に体を屈めた。何処か痛めたのかと焦ったが、自分の背中を指すように首を振っている。
「………乗れってか?」 - 9二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:05:18
トレーナーを乗せて、スズカは草原を走った。速い。ちょっとでも気を抜くと振り落とされそうだ。
だというのに、やはり恐怖は無かった。風が気持ち良い、もっと風を感じたい。そうか、これがスズカの見ていた景色なんだ。アイツはこの感覚に心を奪われていたんだ。そして、自分もまた、この感覚を知っている気がする。何処か遠い昔に…トレーナーはそれを理解し、気付けば声を上げて笑っていた。まるで童心に帰ったようだった。
トレーナーを喜ばせたいのか、スズカはグングンとスピードを上げていった。風と一体になるのを感じる。何処までも行けそうな気持ちで、事実、周りの景色は一瞬で遥か後方にすっ飛んでいく。いつまでもこうしていたかった。だが、スズカは徐々にスピードを落としていく。気づいて前を見ると、今のスズカと同じような姿をした奴らが、6人いた。
…今更、そいつらの正体を考える必要も無かったが。 - 10二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:07:38
スズカから降りて、そいつらの元へ歩いていく。
黒色の毛をした、凛々しい姿。
「………スペ」
華奢で、しなやかな体は変わらない。
「…テイオー」
ガタイが良く、見惚れるような体。
「随分カッコいいじゃねぇか…ウオッカ」
そのウオッカに劣らず、ガッチリとしている。
「あぁ…負けてねーよ、スカーレット」
美しい、銀色にも見える体はとても優雅だった。
「はは、綺麗だなぁマックイーン」
突然小突かれた。振り向くと、マックイーンそっくりな、だが彼女は決してしないだろう表情で見つめてくる奴がいた。
「ゴルシィ…お前はほんと…フフッ…」
ゴルシ以外の5人は、驚いたような、そんな表情をしていた。
「なんだよ?俺がお前らの事、分かんねーとでも思ったか?」
何人かが声高く鳴いた。
「分かるよ…分かるに決まってんだろ。お前らがどんな姿になっても俺は…お前らのトレーナー、だからな」 - 11二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:09:26
少年に戻った気分だった。スペ達はかわるがわるにトレーナーを乗せて走ってくれた。スペ、テイオー、マックイーン、ウオッカにスカーレット。みんながそれぞれ違う景色を見ていた。…できれば、ゴルシの景色も知りたかったが。
「…なんだよ、お前は乗せてくんねーのか?」
頑なに背中を譲らないゴルシにそう尋ねると、人を小馬鹿にした様な表情でこちらを見つめてくる。それがあんまりにも可笑しくて、思わず笑ってしまった。そうだよな。こいつはこうでなきゃな。
それからスズカに乗せてもらって、8人で色々な場所まで走った。草原にいたと思ったら、いつの間にかとても綺麗な滝を見ていて、そこからふと気付くと、大きな湖畔を眺めていた。森の中も走ったし、浜辺で休憩もした。おそらく、ここはこの世ではないのだろう。だが、そんなことはどうでも良かった。こいつらがいてくれれば…もう、他には何も要らないとさえ思えた。それくらい、夢のような時間だった。 - 12二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:11:38
気付けば、日が落ちようとしていた。
「…そろそろ帰るか」
どこに帰るのだろう?ただ何故か、あの沈む夕日の反対側に行けば良い事は分かっていた。
トレーナーの言葉に、ゴルシとスカーレットは従う素振りを見せた。だが…
「………お前ら?」
残りの奴らは違った。スペもテイオーも、ウオッカ、マックイーン、そしてスズカも、その場から動こうとはしなかった。
「何やってんだよ…ほら、帰ろう?」
そう言って手を差し伸ばすが、反応はない…いや、反応はあるのだが、ただ寂しそうにこちらを見つめるだけで、やはりその場から動かない…
その瞬間だった。
突然、スズカが駆け出した。手を差し伸ばすトレーナーとは、反対側に。あの沈む夕日の方角へ。
「ッ!!おい!?」
スペ達もそれに続く。あっという間に、アイツらとの距離が遠くなっていく。
「待て!!待ってくれ!!そっちはダメなんだ!!みんなで帰ろう!!?」
何故ダメなんだ?分からない。ただ、ダメなんだ。アイツらをあっちへ行かせては…
追いつけるわけもないが、アイツらを追おうと走り出す…前に、再び背中を小突かれた。
振り向くと、ゴルシが背中を屈め、スカーレットが首を振っている。
乗れと言っているのだ。 - 13二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:14:21
風が痛い。さっきまでのアイツらとは違う。本気の走りだった。ゴルシ、スカーレットと共に、五つの影を必死で追った。
ゴルシの走りに遠慮は無く、気を抜くどころか、今この瞬間自分が落ちていないのが不思議な程だった。だが、今はそれが頼もしい。もっと、もっと速く。アイツらをこのまま行かせるわけにはいかない。
だが、ゴルシもスカーレットも相当に速い筈なのに、スズカ達はちっとも近づかない。それどころか、どんどん離されていく。
そのうち、スカーレットの走りから辛さを感じ始めた。足に不安を感じる。
「スカーレット!!無理するな!!」
思わずそう叫ぶと、凄まじい睨みが返ってきた。余計なお世話よ、という聞き慣れたスカーレットの声が、ハッキリと聞こえた。その事に少しだけ顔を緩め、再び前を向く。
五つの影は、さっきよりも小さくなっていた。ゴルシもグングンとスピードを上げる。だが、ダメだ。
俺達は、アイツらに、追いつけない。
「〜ッ!!スペェ!!テイオーッ!!止まれコラァ!!」
叫ぶしかない。嫌だ。アイツらを失いたくない。
「ウオッカァ!!マックイーン!!頼む止まってくれェ!!みんなで帰ろうッ!!?」
もう、見えなくなる。待ってくれ。行かないでくれ…
「…………ッ!スズカァァァァァァァァァ!!!!」 - 14二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:18:24
「………………………あ?」
目の前に、満点の星空が広がっていた。
なんだっけ…あぁそうだ、天体観測に来ていたんだ。そこで、疲れからだろうか、眠ってしまっていたのだ。
…夢を見ていたのか、動悸が激しかった。一体なんの夢を見ていたのだろう。取り敢えず、心を落ち着かせる為、星を眺める…
「あ、目が覚めました?」
突然、星空を見慣れたスズカの顔が覆い隠した。慌てて起き上がる。見れば、スズカは正座の形で座っている。どうやら、スズカの膝を枕にしてしまっていたようだ。
「あ、あぁ…悪いスズカ、重かったろ?」
「いえ…トレーナーさんが、なんだかうなされている様だったから…」
周りを見ると、自分を囲むように、他の奴らも眠りこけていた。
「なんだ…スズカ以外寝ちまってたか」
「いいえ?私もさっきまで眠ってしまっていました…それで起きたら、トレーナーさんがなんだか苦しそうで…」
スズカがこちらを見つめてくる。白状するしかないようだ。 - 15二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:20:38
「…なんか、嫌な夢を見た…いや、嫌では無いんだが…凄く寂しい夢、だった」
「寂しい?」
「自分でもよく覚えてないんだがよ…一人になるような…お前らがいなくなっちまうような…そんな夢だった…」
「…………」
スズカは暫く黙ると、自分の膝をぽんぽんと叩き始めた。
「…なんだよ?」
「どうぞ」
また枕にしろと言いたいのだろうか。それは遠慮したかった。
「いいよ…そういう事、気軽にやるもんじゃないぜ?」
「…………」
黙ってしまった。怒らせてしまったか。
「いやスズカ、違くてな?お前の膝枕が嫌とかじゃなくて、お前の足はもっと大事にしないと…」
そう言い終える前に、スズカの頭が自分の胡座をかいている膝に飛んできた。
「じゃあ、代わりにトレーナーさんのお膝、借りちゃいますね?」
「…………あぁ、いいよ」
少なくとも、自分がされるよりはマシか…そう思い、スズカの頭を軽く撫でた。 - 16二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:23:52
それから暫く、スズカと二人で星を眺めた。特に会話らしい会話もなく、それに気まずさも感じない。心地良い時間だった。…あぁ、だがこれは伝えておかなければ。
「……ありがとな」
「え?」
「今日、俺を誘ってくれてよ。最近俺が仕事ばっかやってるもんだから…お前ら、気ぃ遣ってくれたんだろ?」
こいつらに気を遣われる程に、疲れた顔をしていたのだろう。教え子の体調管理もトレーナーの役目の内だが、その自分が世話されてどうするのか。
「ハハ…悪りぃな。ダメなトレーナーでよ…」
「………どうでしょう?」
「え?」
「みんながそこまで考えていたかは、私には分かりません。案外…みんな、星が見たかっただけかもしれませんよ?」
「そうなのか?」
「えぇ。だって、こんなに綺麗なんですから…」
そう言って、スズカは視線を上に戻した。
「本当に…綺麗…」
「…………」
スズカの大きな瞳は、夜空を映し出すには十分過ぎて、その映し出される夜空は、頭上に広がる夜空の、何倍も美しかった。
彼女の瞳には宇宙があって、見つめていると吸い込まれそうだった。…吸い込まれそうな程、綺麗だった。 - 17二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:26:10
「……トレーナーさん」
「ん………」
「…私もね?夢を見たんです。聞いてくれますか…?」
「……うん」
「私…知らない場所を走ってました。見たこともない場所を。とても気分が良いんです。走っても走っても、疲れない。それどころか、スピードもどんどん上がっていく…」
「…………」
「そのうち…私が私じゃなくなっていくんです。自分と、流れる風の境目も分からなくなって…そのまま消えてしまいそうで…それでも、走る事をやめられない。それでもいいやって、思っちゃったんです」
「…………」
「でも…突然、トレーナーさんの声が聞こえたんです。私の名前を呼ぶ声が。スズカ、行くな…って」
「俺の……」
「そしたら私、急に消えるのが怖くなって…そこで目が覚めたんです。起きたら…ふふ、笑っちゃいました。だってトレーナーさん、寝ながら、本当に私達の事を呼んでたから…」
「あ…………」
「ふふっ…トレーナーさん、私達の、どんな夢を見ていたんでしょうね…?」
「…さぁな。思い出せねぇよ…」
嘘ではなかった。 - 18二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:28:20
突然背中に衝撃が走った。見ると、寝ぼけたスペが頭突きを喰らわしてきていた。その幸せそうな顔から、さぞ良い夢を見ているのだろう。
「ハハ…今、何時だろうな。そろそろ帰らねぇと…」
「………トレーナーさん、あの」
スズカが、不安そうな顔で見つめてきた。どうも、スズカのこの顔には弱いのだ。
「分かってるよ…もうちょっとだけ、ここにいよう」
「…………」
スズカの不安そうな表情は暫く消えなかった。やがて、消えいりそうな声で呟いた。
「……ちょっとだけ、じゃあ、嫌です」 - 19二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:31:53
「スズカ………?」
スズカは星空を見たままだった。
「トレーナーさん。私達、消えたりしません。トレーナーさんを一人になんて、絶対にしません。トレーナーさんを置いてどこかへ行ってしまうなんて、絶対に…だから…」
「…………」
「だから、トレーナーさんも…どこにも行かないでくださいね…?ずっと、ずっと…私達のそばに、居てくださいね…?ずっと…ずっと…」
スズカの瞳は、輝きを増していた。宝石のような瞳から、まるで流れ星のように、涙が零れ落ちる。
スズカが泣いている理由は分からない。けど、それを不思議とも思わなかった。彼女の涙をそっと掬い、頭を撫でた。
「……俺は、ずっとここにいるよ。お前らがどんな道を歩んでも、俺は絶対に傍にいる。絶対に…」
スズカの頭を撫でつつ、空を見上げる。夜も更けて、星の輝きは一層増している。寝ているこいつらを起こして、そろそろ帰るべきだ。
…けど叶うなら、あと一分だけ。あと一秒だけ。
この景色を眺めていたかった。
今日こいつらが俺にくれた、俺だけの景色を。
end - 20二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:33:20
センチメンタルな沖スズが書きたかった…長い上に読みにくくてスマヌ…
- 21二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:43:36
ええやん……素敵やん……
- 22二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:45:29
午前二時踏切に望遠鏡を担いでいくのかと思ってた
素敵なものを読ませてくれてありがとう
聴きながらもう一度読んでくるよ - 23二次元好きの匿名さん21/10/17(日) 23:49:53
いいなこれ。なんかこう、スピカのメンバーと沖野Tが魂レベルで巡り会うべき相手だったのかも知れないと感じる。語彙力無さすぎて上手く言えないがすごくいいよこれ
- 24二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:11:15
こういう神秘的で綺麗な夢うつつ話大好き
こちらが史実馬を知ってるからこそ、ラスト有馬記念のようにゴルシが追いつけず、沖トレが行くなと叫ぶシーンに感情移入して目が潤んだよ
沖スズの関係もしっとりせず、お互いの幸せ祈り合う星空にぴったりな関係性で良かった。長さを感じない本当にいい話だった。何度も読み返したい - 25二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:12:01
正直こう言うのが欲しかった
ありがとうございますありがとうございます - 26二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:16:32
とりあえずSS全文メモ帳に保存した
- 27二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:20:00
これはオペラオーも何かリュージ的な夢を見てたやつだな?
- 28二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:31:40
- 29二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:41:40
- 30二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:42:15
- 31二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:48:41
深夜まで起きてて良かった……素晴らしいSSでした!!
- 32二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 00:57:41
良いな…
なんかこう夜のしんとした空気がこっちまで伝わってくるほんとうに良いssだ… - 33二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 01:00:15
仕事終わりで疲れた体にスゥーッと効いて
私の心が癒やされた…… - 34二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 01:09:15
素晴らしかった、乙です
- 35二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 01:19:35
読んだ後に残るちょっとの寂しさがすごく心地いい
良いものを読まさせてもらった。ありがとう
今夜はぐっすり眠れそう - 36121/10/18(月) 01:20:56
素晴らしい…
天才はいる…悔しいが - 37二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 01:58:10
ダークモードで読むと雰囲気出ていいね…
- 38二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 05:28:32
- 39二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 05:30:24
いいじゃない…
- 40二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 05:36:05
良いよね…。こういうの。とても好き(語彙力)
最初は天体観測と聞いてBUMPのあれかと思ったけど、どっちかというと同歌手の流星群のほうみたいだったな - 41二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 09:18:15
みんな読んでほしいなって……
- 42二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 16:53:51
みんな読んで(語彙力崩壊)
- 43二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 19:19:39
こういうアニメよりの沖スズ好き…
- 44二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 22:07:51
なんか合うbgmないかな…
聴きながら楽しみたい