[オリジナルSS]旧き街にて悪夢に惑う[怪奇小説風]

  • 1◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:01:58

    夢見る者

    夢果てぬ者

    永久に続く夢幻の中

    満たされぬ空腹が

    少しずつ満ちてゆく


    幾層にも重なる闇の果て

    目覚めの刻は

    すぐそこに

  • 2◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:03:47

    1.帰郷


    鼻につく埃と黴の匂い、不快な湿った空気

    空は晴れているはずなのにどこか暗く重苦しく感じ、まるでスモッグに取り囲まれているかのような錯覚すら覚える

    ここは山に囲まれた古錆びた田舎町。現代から隔絶され、顧みられることの無い忘れ去られた過去の遺物

    所狭しと建てられた建築物は旧王朝時代のゴシック様式をモチーフとしており、当時こそ洒落た様相を呈していたであろうことを思わせるがロクに手入れされておらず、剥がれかけた外装とこびり付く汚れがおどろおどろしさすら醸し出していた

    大通りから一歩でも外れれば迷宮のような路地に入り込み、黒い壁と錆びた鉄パイプに圧迫された道をネズミと共に長々と彷徨うことになるだろう

    町ゆく人々に表情は無く、ブツブツと何事かを呟きながらギョロついた目だけを異様に動かし続けているか、オドオドと何かから身を隠すように周りを警戒しながら歩いているかの二種類のみだった


    そんな現代日本とはとても思えないこの町を歩きながら私は考える

  • 3◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:15:19

    私がこの寂れた田舎町に戻ってきたのはつい数日前のことだ

    思えば何故都会から離れ、こんな不便極まりない場所に棲家を変えようとしたのか。それすらも判然としないまま新居に居着いてしまった

    この数日間はある種の奇妙な感覚にずっと囚われていた気すらする。それはまるで夢の中を彷徨っているかのような感覚

    はっきりとした意思も無く、ただ導かれるまま、いざなわれるまま、電車すら届かないこの町まで来てしまっていた






    かえってこい

  • 4◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:22:30

    そんな夢うつつの感覚の中、懐かしい父の声を聞いた気がした


    …父、父の家系はこの町の旧家の一つで何百年と続く由緒正しい家柄の末裔なのだそうだ。私にもその偉大な血が流れているのだと、自慢気に何度も何度も語っていたのを覚えている

    それもあってか私が良い成績を収める度――誰々にかけっこで勝っただのテストで良い点を取っただのーーそんな度に褒めてくれるのは父の役目だった

    そしてその度にこの身に流れるという「尊い血」を褒め称えるのだ


    逆に母といえばその話に懐疑的であり、「血なんて才能には関係無い」だの「成功もすれば失敗もする、そうして大きくなってゆくんだよ」だのと諭すような言葉が多かった気がする

    思えばある意味で子育てにはバランスの良い両親だったのだろう

    だが、それも10歳になろうかというあの日までの話だった


    両親が大喧嘩し、母が自分を連れて出て行ったあの日

  • 5◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:36:50

    ……

    ふと、物思いにふけっていた顔を上げれば自宅に着いていた。買ってきた食材や日用品を仕舞い、一息つく

    この家は私が幼少期を過ごしていた家だ。もちろんこの町に越して来る時に契約したのだが、丁度良く賃貸として空いていたのは嬉しい偶然だった

    どこもかしこもあの日のまま…家具の配置も、いたずらで付けてしまった傷も、何もかもが記憶のままだった

    …ただひとつ、居間のテーブルに描かれた赤い紋様だけが記憶と違う点だ

    流石に自分達がこの家を出た後に誰も住んでいなかったわけではないのだろう

    それでもこれは不可解だ、落書きにしては精巧に描かれている気がする


    丸いテーブルいっぱいに描かれた"円"

    その内側には幾何学的な模様が敷かれ、見たことの無い文字の様な物がウネウネと書かれている

    まるで…魔法陣のような


    ……私はちょっとした気味悪さを感じてそのテーブルを端に退けた

    ご飯は今日の所は別の部屋で食べたっていい、居間のテーブルはまた今度買い換えるとしよう

  • 6◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:54:06

    夜、天井を見上げながら眠りにつく

    結局のところ両親が何故大喧嘩したのかは最後まで謎のままだった

    母は私がそのことに触れると「ごめんね…ごめんね…」と泣くばかりで一切を教えてはくれなかった


    ーートトトトト


    ……そして…そしてつい先日亡くなった。何てことはない、ここ数年世界で猛威を振るっている疫病、それに引っかかってしまっただけのこと

    もちろん悲しくはあるが、別れはいつかは訪れるものだと理解している。それでも、最後に一言ぐらいは父に触れてほしかった


    私にとっては良い父だった…それだけに不可解なのだ。何せ私は、父があれからどうしているか、生きているかすら知らないのだから

  • 7◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:54:41

    ーートトトトトトトト


    そうか、私がこの町に来た理由はそれか……無意識に、父との繋がりを求めていたのだろう


    ーートトト、トトトトト


    ああ、煩い、天井裏をネズミが駆けている


    ーートトトトト


    10歳になろうかというあの日、両親が喧嘩した

  • 8◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:55:07

    ――トトト


    両親の怒号、啜り泣く声、罵声
    うるさい

    ーートトトトトトトトトト

    ネズミがうるさい
    夜逃げするように私を連れて出て行く母


    ーートトトトトトトトトトトトトトト


    嗚呼!うるさいうるさい!



    ドン!ドン!ドン!ドドドドン!

  • 9◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:55:59

    続く

  • 10◆ZBltfK5Cl222/09/28(水) 21:59:37

    1レス足りないので自己保守
    続きは明日

  • 11二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 07:01:16

    保守

  • 12二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 11:44:37

    保守

  • 13二次元好きの匿名さん22/09/29(木) 19:56:37

    保守

  • 14◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:00:03

    2.夢中

    「はぁ、はぁ……っ」


    荒い呼吸を吐きながら起き上がる

    空には既に日が昇っており、時計は朝を示している

    いつの間に、寝ていたのだろうか

    布団に入ったのは覚えている。目を閉じたのも覚えている

    しかし、しばらくは物思いにふけっていたはずだ。考え事をしていた時に聞こえた音は現実だったのか、夢の中だったのか

    ネズミの足音、何かを強く叩く音…あれは、いったい…

    屋根裏に何か空恐ろしい存在が潜んでいるような気がしてゾッとする

    だが、早々に気のせいだと結論付けて現実に思考を引き戻す


    さて、今日は何をしようか
    幸いお金は母がかなり残してくれた、仕事はそれを切り崩しながらのんびり探せばいい

  • 15◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:06:57

    一先ず屋根裏は確かめておこう。昨日の夢がどこまで夢だったのかも分からないが、ネズミがいるなら対策は取るべきだ

    押し入れの天板を外し、懐中電灯片手に屋根裏を覗き込む


    そこには死体を食い漁るネズミが!!!!

    …ということも無く、何の気配も感じなかった。耳鳴りがするほどの静けさだ

    埃も降り積もり、虫一匹這った形跡も無い

    やはりあれは夢だったのだろうか


    ――トトト


    余りの静けさに昨日の音が再生される

    だがそれは脳内での話、実際に聞こえたわけではない

    ーートトトトト


    嗚呼、鳴り止まない…

    もう下に降りよう、狭く暗い空間は嫌なものを想像してしまう

  • 16◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:14:50

    ……


    混沌と絶望に満ちた暗黒の都

    嘗てより絶える事無き絶叫が響き

    闇夜に於いて蠢く者は生命を持たぬ


    黄金の鐘楼に鐘は無く

    得体の知れぬ咆哮が時を刻む

    嗚呼、ここは我等が故郷

    いつかそうなる、いつかこうなる


    望むべくして、望む間もなく

    原初の果てに、最終は来る


    備え給え
    備え給え
    備え給え


    ……

  • 17◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:26:01

    ……


    私は夕暮れの道をひた走る

    まずい、まずい。もうすぐ日が暮れる

    日が落ちれば奴らが動き出す。その前に我が家に、安全な我が家に


    さっきまで在った太陽が見えない、何時の間にか夜になってしまったのか


    病的までに青白い、歪んだ月が空の上で睨めつける


    街灯の中の目が嘲笑い、影がケタケタと嗤い出す

    建物の窓がバタン!バタン!と音を上げて次々と閉まっていく

    ドロりとした影が溢れだし、光りに照らされた逃げ道を塞いでゆく

  • 18◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:40:52

    顔の無い彫像の人混みが道を阻む

    通してくれ、通してくれ


    悍ましい笑みを貼り付けたカラスがガアと嘶く

    足元をうねる小山羊の群れ、無数のムカデが這い回る路地をかきわけて

    走る、走る


    血に塗れた暗いサナトリウム

    得体の知れない家屋

    人体が鈴生りに実る樹海

    地面に転がるはゲラゲラと嗤う顔、顔、顔


    見知った景色を探して記憶を彷徨うも、現れるは混沌とした惨景のみ


    トトトトト


    嗚呼、ネズミの足音がする

  • 19◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:55:57




    差し込む朝日、霧掛かった空

    布団の上で上体を起こす。酷い寝汗だ

    安堵と共に唸る鼓動を落ち着ける

    時間としては多めに寝ているのに疲れを感じたままの体

    水を飲もうと立ち上がると立ちくらみが襲う


    …最近、夢見が悪い

  • 20◆ZBltfK5Cl222/09/29(木) 22:56:07

    続く

  • 21二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 07:26:45

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 12:57:06

    保守

  • 23二次元好きの匿名さん22/09/30(金) 20:29:31

    保守

  • 24◆ZBltfK5Cl222/09/30(金) 22:59:12

    3.胡蝶


    買い物帰りの袋を持って路地を歩く

    また色々買った、少しずつ生活用品が整っていく

    最近の夢見の悪さも生活が落ち着けば少しは改善するだろう

    スマホを見ると友人からの近況報告が淡く光っている

  • 25◆ZBltfK5Cl222/09/30(金) 23:00:09

    今日は何となく人通りが多い気がする

    誰も下を向いて暗い顔ではあるが、異様に目を蠢かしながら通りすぎてゆく

    大通りに差し掛かり、信号の前に立ち止まると人々も集まり、都会の真っ只中の様な喧騒を生み出す

    ザワザワとした雑音、話し声、車の駆動音、信号機の古いメロディ


    その中に


    混ざって


    ――トトト―


    聞き覚えのある何かが聞こえた気がした

  • 26◆ZBltfK5Cl222/09/30(金) 23:02:21

    密度の高い人混みの奔流は押し流し押し流され、信号が変わると共に一気に流れだした

    目線が埋もれるほどの人、人、人

    歩いたというより運ばれるように渡った横断歩道の先で人混みの流れは散開し、自分一人が置き去りになる


    古いメロディが霧掛かった夕焼けの中に融けてゆく
    頭上でカラスがカァと鳴き、黒い羽を落としていった


    嗚呼、逢魔が時だ

  • 27◆ZBltfK5Cl222/09/30(金) 23:18:28

    夕焼けの朱と夜の藍色が混ざる時間

    境界線は融け、存在と非存在が絡み合う

    日に照らされた道は徐々に消え失せ、何処へと誘う影の道が建物の隙間へ伸びている

    不吉な雲が空で渦巻き、虚ろな目をしたカラス達が喚き立てる

    古錆びたガス灯が点々と灯り始め、風もないのに揺らめく火が不気味な影を作り出していた


    私といえば早く帰らなければならないというのにフラフラと、特に暗い路地の一つへと

    手を引かれるようにして入り込んでいた

  • 28◆ZBltfK5Cl222/09/30(金) 23:29:22

    暗く狭い路地を進む

    空を見れば月が昇っているというのにこの路地に光は届いておらず、足元すらも闇に呑まれている

    ただの数歩先も見通せず、何処へ続いているかも判然としない

    ただひたすら闇に続く道、だがしかし私は歩む

    何かに引かれるように、誘われるように

    この道を

  • 29◆ZBltfK5Cl222/09/30(金) 23:54:44

    どのくらい歩いただろう

    どのくらい経っただろう

    時間に対する感覚が鈍い

    足を動かす感覚すらない

    それでもこの身は進む

    進み続けている


    病的な斑点を浮かべた悍ましい月が闇の中に浮かんでいる

    星一つ無い夜空の真ん中に、中心に

    異様なまでに膨らんだ、歪な月が浮かんでいる


    歪な道は拗れ曲がり、下へと、上へと、平衡感覚すらも捻じ曲げて続いてゆく

  • 30◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:00:50

    …どこをどう彷徨ったのか、私は高台から町を見渡していた

    磨かれた黒い玄武岩で造られた石造りの建物群が犇めく見知らぬ町

    窓は無く、扉すら無い原始的な建物

    それでも一つ一つが巨大で荘厳なそれは見る者を圧巻する何かを感じずにはいられなかった

    まるで、神殿のような

  • 31◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:11:13

    やがて建物から住人が出てくる

    "大雑把な人型をした黒い不定形の何か"

    そう形容するしかない存在がゾロゾロと、ゾロゾロと

    押し合い、へし合い、あの建物から無限に湧いて出てくるように数を増やしていく

    やがて道は彼等で埋まり、密集しすぎたそれ等は大雑把な人の形すら保てなくなる

    個々の境界すら失い、黒い粘性の水となって、町を飲み込んでゆく


    嗚呼、我らが故郷よ

    原初に飲まれる最終の都よ

  • 32◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:21:26

    「はっ…」


    私はベッドの上で目が覚める

    全て夢だった、また悪夢を見た。それだけのこと


    だが何処から夢だった?私はいつ寝た?

    何も思い出せない、昨日は買い物に出て、帰り道に黄昏を見て…それで…それで…?

    寝た記憶が無い。どんなに思い出そうとしても昨日の記憶はシームレスに夢に移行している

  • 33◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:26:32

    割れた窓から日が差し込み、部屋が緑色に染まる

    見ると蝕まれた空の向こうで歪んだ太陽が脈打つように明滅し、毒々しい緑色の光を放っている

    入道雲がまるで生きているかのように蠢きまわり、嘴が異様にでかい怪鳥が建物を啄んでは人を穿り出す


    これは…

  • 34◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:34:43

    テレビがひとりでにつく、蠢く死体の山の上で女性が口をこれでもかと大きく開いて笑っている

    耳を劈く甲高い声、それがテレビからラジオからパソコンからゲーム機から、ありとあらゆる機械から発せられている

    耳を塞いで蹲りながら理解する


    まだ、夢の中だ


    テレビの画面が膨れ上がり、叫ぶ女がこちら側へ身を乗り出してくる

  • 35◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:45:25

    目覚めなければ、この夢から脱出しなければ

    テレビから苦痛に歪んだ顔がいくつも浮かび上がってはこちら側に侵入してくる


    逃げようとするも瞬間的に足を捕まれ、ズルズルと引き寄せられる

    自分を摑まえているその腕はドロドロに溶けきっており、泥に素肌を埋めているような不快感を覚えずにはいられない


    どうにか抜けだそうともがくも意味は無く、すぐさま視界までが泥で埋まる

    鼻に、口に、全ての侵入口からそれ等が入り込み、呼吸出来ない苦しさの中で意識すらも薄れてゆく……

  • 36◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:53:43

    「はぁ…はぁ…」

    目が覚める、呼吸が荒い。心臓が張り裂けるように痛む


    ……

    自分の頬をつねってみる。古典的な方法だが…

    ボロ…

  • 37◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:54:19

    指でちぎり取るように簡単に皮膚が剥がれた

    ポロポロと剥がれ落ちた肉片の中でウネウネとウジ虫が蠢いている


    いる

    自分の体の中にもこいつらがウニョウニョと這いずり回っている

    耳の中でガサガサと動き回る音がする

    皮膚がボコボコと脈打ち、薄皮の下を這いまわる姿が見える

    眼球の中を泳ぎ回っている

    内蔵が内側から食われてゆく

    骨の髄まで、指の先まで食いつくされる


    ……

  • 38◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 00:56:37

    目が覚める


    窓すら無い部屋の真ん中に腐臭を放つ死体が一つ

    死体が分裂するように増える

    一つが二つに、二つが四つに、四つが十六に

    全て同じ顔をした"自分の死体"に部屋が埋め尽くされ、喩えようのない悪臭の中で体積に押しつぶされた

  • 39◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 01:01:20

    目が覚める

    赤いドロドロとした血が天井から滴り、部屋を満たしていく

    溺れ死ぬ


    ……

    目が覚める

    知らない人間が私の顔を覗き込みながら大声で笑い続けている

    ……

    目が覚める

    暗闇の先に白い扉が見える

    だがいくら走っても届かない

    無限回廊の先は延び続ける

    ……

    目が覚める
    死ぬ
    目が覚める
    何かに見つめられている
    目が覚める何を持っているのだろう目が覚めるまだ夢は続く目が覚める波間の目が覚める扉の先に

  • 40◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 01:02:00

    目が覚める闇の中で彷徨い続けて数千日災厄の渦に飲まれて海の底に深く放置されたさざれ石は宵越しに醒めない永遠の中言葉のサラダが読む必要の無い言葉の濁流となって雪崩れ込む世界を食らう光の中破滅的望の獅子が吠えた先に見える花の中の暗黒が口を開けて揃えるヒキガエルと空に満ちた千羽の鴉宵が嘲笑いし本の篝火が燃え盛る水の満ちた都が滅びし跡地に産まれる星々の導く先の絶海の滝を登りて死者が積みあがる落ちて落ちてその天に眩く天を刻んで時を持たない骸は今まだ目が覚めないに王座を奪われん混沌たる這い寄りし者が嗤うこの世に貴様を求めて止まぬ疫病が振りまかれん人々は陰謀と虚実に害せし我が身を石と成す我こそは災厄さあ今そこにその身を捧げ大いなる意志が燦然と燃え上がりし炉に焼べられる光に目を焼かれし亡者共で築き上げた理想郷の下に積み重なり夢はいつまで続くんだし咎人の罪と厄-匂う-がその身を焦がす柵に囚われし茨の一段が目指すは悠久の愚者の旅立つ果てに凶器に満ちた卵の-見つけた-産み落とされた外郭は果てに全てを内包する散財の王と抜け殻に息絶えた亡き神々を安定せし夢々の漣に全てを位置づけてなべての存在達に--受け入れよ--そうあれかしと声が轟く山塊と光に焦がれし憐れなる妄執共さあ我こそは主なりと羊達が騒ぎ立てる眼前の暗闇に誰が為に世界は喰らわれし「讃えよ」か弱き炎を纏いし機械仕掛けの生命が揺れ動く舞台に贖う我が名は忘れられた彼方の呼び声に現実に戻してくれ掻き消されん運命よ黒き暗雲が飲み込まれし星団の向こう側に燻る太陽の空洞は蟲達が食い荒らした弥果ての旅路に「我を讃えよ」鼠が齧りつく噛み跡は融け合って中に累積する災禍を眼下に見リセットされ得ぬ教会の王座に大空をひっくり返して門を開けど定義され得ぬ存在は記憶を意味を成さず死を持って演じる子らの最盛期に衰退する邪なる者達に追随する最「我を崇めよ」大の篝火が囲いし病の街に私はどこだ叶う事の楽器が主を「我が主だ」柵人は茨を焼き払い十字架を担ぎし家畜が鉾を穿くも難を逃れし愚衆は決起し海の底に都を築く事無く散り散りに霧散するまだ続く終ない終わらない円環する事象の中にきっと栄華を誇る最盛「血族よ」の都太古の幾陸物言わぬ黄金塔鐘楼の燦然光し栄華を栄華を泡が導く果ての向こうはきっと眩く介在する意志が混入「我を崇めよ」「我に捧げよ」「我を讃えよ」「我を讃えよ」「我を讃えよ」

  • 41◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 01:03:03

    大量の言葉と文字と情報の濁流がようやっと収まってくる

    何度も目覚めを経験し、何回も夢を自覚した

    それでもまだ続く夢のループ

    幾重にも重なる入れ子構造の夢。それがあとどれだけ続くのか、もはや何を以って現実と判断すれば良いかも分からない

    胡蝶の夢とは、どこが果てとなるのだろう

  • 42◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 01:03:32

    無限に続く扉の向こう、貌の無い老人が恭しく一礼する

    老人から聞き覚えの無い言語が放たれる

    「お受け取りください」と古々しい封筒を手渡される

    その封筒にはまた見覚えのない言語が書き込まれていた

    しかし、その意味は何となく理解出来る。読み方も発音も分からないのに意味だけは理解出来た


    「招待状」


  • 43◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 01:03:47

    続く

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 08:40:24

    保守

  • 45二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 13:17:24

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 17:22:21

    保守

  • 47◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 22:55:37

    4.饗宴


    目が覚める

    まだ夢の中なのか、現実なのか、一切が分からない
    もはや判断が付けられない

    だが一つ、この手の中に封筒があることだけが確かなことだ


    ……


    昨日見知らぬ言語だと思っていた印字された文字は何てことは無い、よく知っている言語だった。発音も出来る

    意味だけは変わらず「招待状」を指している

    封は溶けた蝋によって閉じられており、その蝋には複雑な意匠が施されている。所謂封蝋というやつだ

    本来ならばペーパーナイフ等を使うべきであろうが生憎私は持っていない。仕方なく出来るだけ丁寧に、破いてしまわぬよう少しずつ開けてゆく


    中には確かに招待状と受け取れる手紙が一枚入っていた

  • 48◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 23:09:24

    とても達筆な字と丁寧な文章、恭しく畏まったその内容は、要するに

    二十歳を迎えた、もしくは迎える者達を招いての血族の宴。だそうだ

    つまりこれは、ようやく私も血族として迎え入れられるということになるのだろう


    私はそう考えると今までになくワクワクしてしまった

    ついに血族の方々と会える。父が語っていた素晴らしい血を受け継ぐ私の親類たちと!

    いや、父本人ともようやく再開できるかもしれない

    開催日は数日後となっているのがとてももどかしい

    嗚呼、早くその日が来ないものか


    ――その数日間、悪夢と言える夢を見ることは無かった

  • 49◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 23:22:46

    ついにこの日が来た

    招待状には屋敷への地図が細かく記されており、かなり複雑ではあるもののしっかりと道筋を辿ることが出来そうだ


    大通りを外れ、昼間でも暗い路地に入り込む

    曲がりくねった狭い路地はいつの間にか古い空間へと繋がってゆく

    舗装された道は石畳へと変わり、古錆びたガス灯と旧王朝時代の建物がひた並ぶ

    大通りの塗装が剥がれた旧い建築物と違い、まるでつい最近建てられたかのようなそれらは、荘厳さと気高さを纏って街路を彩っている

    そしてそれ等の建物に挟まれた街道が延びる先、小高い丘の上に、一層な華やかさと物々しさを語る巨大な屋敷が聳えていた

  • 50◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 23:28:58

    屋敷にインターホンの類は無く、獣の意匠を象った古めかしいドアノッカーのみが来訪を知らせる唯一の手段となっていた

    ひやりと冷たいそれに触れ、やや強めにドアに打ち付けるとゴォォ…ン、ゴォォ…ンと想像していたのとは違う低い鐘のような音が響き渡った


    程無くして扉が開き、皺だらけのローブで顔の上半分を隠した老爺が出迎えた

    夢では顔こそ見えなかったものの、あの時の老人で間違いない


    「お待ちしておりました。さぁさ、お入りください……」


    そう言いながら老爺は燭台を片手に迎え入れる

  • 51◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 23:37:49

    屋敷の中は立派なシャンデリアが吊り下げられ、複雑な意匠の装飾がそこかしこに見て取ることが出来る

    中でも一際目を引いたのは階段の踊り場に明かりを取り込む巨大なステンドグラスだ

    角ばった都市の中、建築群に囲まれる中で沢山の人々が空を仰ぎ見て何かに祈りを捧げている

    ある者は心酔する表情で、ある者は畏れに満ちた表情で、ある者は絶望の表情で

    その視線の先を追うと頭上に続き、天上一杯に描かれた巨大な絵を見上げている構図になっていた

    そこに描かれている存在がどんなものか見たかったのだが、案内してもらっている身で足を止めるわけにもいかず全体像を把握する前にその場を後にしてしまった


    そのまま客室の一つに案内される

    後ほど、夜の宴の時刻になったら迎えに来るとのことだ

  • 52◆ZBltfK5Cl222/10/01(土) 23:48:36

    …部屋にノックが響き渡る

    宴の準備が出来たと老爺が迎えに来たのだ

    …いったいいつの間に寝てしまったのだろう。正直まだ眠く、夢見心地に近いぼんやりとした感覚のままだ


    そんな状態のまま目にした饗宴の大広間は正に夢のような光景となって広がっていた

  • 53◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 00:00:22

    大広間を照らすいくつものシャンデリア

    美しいステンドグラスがいくつも嵌めこまれ、血族の歴史を絵にして物語っている

    天井には荘厳なる神々が描かれ、取り分け大きく我等の主が中心に存在している


    テーブルの上には様々な料理が並べられている

    見覚えのある物からまったく見たことも無い奇妙な食材まで、全世界のありとあらゆる料理が揃っているかのように思えた

    それらはどれも舌がとろけるように美味で、一口食べただけで幸福に身が包まれるような気分だった

    まだそれほど酒を嗜んでいない私だったが飲みやすいそれに心奪われてしまい、食事と交互にではあるものの次に次にとどんどん飲み続けてしまった

  • 54◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 00:06:23

    頭がふわふわする

    世界がちかちかと眩き、彩度が鮮やかに見える

    耳に入ってくる声や音もくぐもって聞こえ、平衡感覚すらも失われつつある


    血族の何かについて説明してる人物がいるが私の耳には殆ど入ってきていない

    それよりも、ふと目に入った美しい女性を見つけて私は心惹かれてしまった






    どう話しかけたのか、どういう経緯なのか、私はその女性と踊っていた

    ふわふわした頭のまま、女性に手ほどきされ、情けなくもリードされ、それでも華麗に、自然に踊ることが出来た


    なんと、なんと幸せな日なのだろう

  • 55◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 00:10:09

    …その日、私は女を知った

    女体の柔らかさ、鼻をくすぐる柔らかな匂い、艶やかな嬌声、人肌の暖かさ

    肌を重ねる心地よさと快感


    窓から差し込む青白い月の光に照らされた彼女の肢体はまるで芸術品の様に美しかった

    私は興奮を更に昂ぶらせ、彼女に自分を重ねる

    境界線が曖昧になるほどに

    身体が融け合うほどに




    私はこの日、人生の絶頂を味わった

    私の全てを吐き出し、彼女に全てを宿らせた


    ………

  • 56◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 00:13:02

    目が覚める

    彼女はいなかった

    だが、あれが夢ではないことは確信している


    それより


    "行かなければ"

  • 57◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 00:13:16

    続く

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 00:13:43

    なぜあにまんでssを?

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 09:52:23

    保守

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 12:54:05

    保守

  • 61◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 19:09:08

    終章.謁見


    広間で見かけた血族の新入りたちが列をなして歩いている

    もちろん私もその内の一人


    誰も口を利かず、誰も表情一つ変えず、行き先さえ知らぬまま歩き続ける


    それぞれの客室から出て、裏口から館を後にする

  • 62◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 19:49:42

    光を失った太陽が墜落している

    病的な斑点に覆われた歪な月が毒々しい光を放射している

    崩れた尖塔、崩壊した都市

    黒い大理石で出来た瓦礫の山

    暗闇を劈く呻き声が谷の底から聞こえてくる

    私達は歩き続ける

    蠢く闇が上空で渦を巻いている

    永遠の夜空の向こう側で海が膨張する

    遠い空で雷鳴の間に巨大な影がかすかに揺らめく

  • 63◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 20:02:21

    道は更にうねり、歩き辛いものとなる


    剥がれていく建物の外装の下から脈打つ有機物が見える

    第三の尖塔が崩れゆき、最期の鐘楼が亡き鐘を鳴らす

    目の前に現れる黒い山脈

    黒い森へと続く一本の道

    この中だ

    この中に

  • 64◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 20:22:43

    黒い森の中を私達は歩き続ける


    一筋の光も入らぬ完全なる暗闇の中、迷う事無き足取りで

    呼んでいる

    呼ばれている

    何処へ向かっているかも分からぬまま

    何処へ向かうべきかは分かっている


    道はやがて洞窟へと、その地下へと続いてゆく

  • 65◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 20:40:34

    長く深い手掘りの洞窟

    闇に蠢く者共がより一層忙しなくなる

    不揃いの段差に地下へ地下へと導かれ

    奇怪な鳴き声、奇怪な音

    一向に終わる事無き下降の後に途方もなく広い空間が口を開ける


    急な無音、完全な無音


    生命の存在出来る最期の境界

    足音すらも置いてゆく

  • 66◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 20:53:09

    黒き玄武岩、彼の者達の最期の都

    石造りの栄えた廃墟

    糜爛と腐敗の都市群

    水の中の荘厳な瓦礫

    月光を信仰する壁画


    嗚呼これらは過去の者

    暗闇の中に投棄された存在し得ぬ者

    我が血族は先にいる、何よりも先に、全てを超えて

  • 67◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 21:06:22

    嗚呼、音が聞こえてくる

    唾棄すべきフルートの音、悍ましい太鼓の連打

    単調なリズムで、心臓の鼓動を狂わせるあの音が


    今や我らの足元に地面は無く

    虚空を踏みしめ、虚無をゆく


    矮小なる者達が、未完成の者達が、拙く細い手足でそれを奏でる

    憐れなる奏者の群れ、盲目盲唖の踊り子達


    思いも及ばぬ暗黒の房室

    この世ならざる壮大な神殿


    その最奥に彼の存在がいる


    降り注いだ原初の混沌の一柱、永遠の暗黒の只中に鎮座する者

    永久の退屈に身悶えし、狂おしく蠢く、目覚め果てぬ悪夢の王

    それこそは、あれこそは、ああ、我らが血族の主なり

  • 68◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 21:15:27

    我が主が触手を伸ばす

    一人また一人と同胞が主に取り込まれてゆく

    なんと光栄なことなのだろう、なんと喜ばしいことなのだろう、我らは直接主の一部になれるのだ

    途轍もない苦悶の表情も苦痛の悲鳴も主への捧げものだ、この肉体も意識も感覚器官も、全てを我等が主へ!

    いあ!いあ!嗚呼もうすぐ私の番だ!私に向かって主の慈悲深い御手が伸びてくる!

    触れられると共に想像を絶する苦痛が私の内側で爆発する

    有史以前、時が生まれる前にすら遡る主の物理的接触は我々矮小な人類には有害以外の何者でもないのだろう!

    それでも!それでも嗚呼私は今幸福の絶頂にいる!いあ!全宇宙全歴史なべての痛みと苦しみが私の中で渦巻いている!主よ!これが主が与え給うものなのか!

    いあ!くれう!くせす いあ くんがぎあ なぐあ ぎぐぐ…

  • 69◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 21:32:18

    あぁ…主よ、この身を、私の全てを受け取り給え!

    血族の傍系を生贄とし、直系の方々に繁栄を!久遠の繁栄を!

    我が傍系の血は血族の直系の為に!我々の命は今この日の為に!


    いあ!いぐぐ…ぐあ…あぎいぃぃ…


    血族に!繁栄!を!繁栄を!


    繁栄ヲぉぉォぉォぉォォォ………

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:41:20

    こういうののオチのクトゥルフ率の高さよ

  • 71◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 21:50:30

    ……



    .

  • 72◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 21:51:04





    「混沌の宴は終わり、町はまた平穏に包まれる」

    「十年の区切りの日に傍系の子らを集め、再び眠れる者に捧げるその日まで」

    「我等血族に繁栄を、恵みを」




    「そして願わくば、永久にあの暗がりの底で夢見続けんことを……」



    「決して、目覚めるるなかれ」

  • 73◆ZBltfK5Cl222/10/02(日) 21:51:17

オススメ

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