【SS】悪魔祓い?

  • 1二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:41:55

    扉を開けると、そこはトレーナー室であってトレーナー室ではなかった。
    「えらく凝った飾り付けだな……」
    カーテンは隙間なく締め切られ、天井の照明も消されて足を踏み出すのも躊躇われる程。ピンクやブルーの不気味な電灯だけが頼りだ。
    目が慣れてくると、至る所にパンプキンの頭が並べられていることに気づく。どれも大きな口をぽっかり開けて、こちらを嘲笑っていた。天井から吊るされたコウモリの人形を避けつつ、なんとかデスクに辿り着いた。
    「……さてと、仕事でもするかな?」
    口に出したのはわざとらしすぎたか。しかし、ここは既に俺の部屋ではなくなっている。
    新たな『部屋の主』が仕掛けてくるまで、か弱い迷い人に為す術はない。電源ボタンに手を伸ばし━━━

  • 2二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:42:18

    「っ!?」
    一瞬にして視界が0になる。ひんやりとした掌に瞼が触れる。どこに潜んでいたのやら、目隠しされ頼れるのは耳と鼻だけとなってしまった。
    背中から首筋へ、気配は明らかな感触へと変わる。
    薄い布越しからでも分かる柔らかな人肌、そして耳元にかかる温い吐息に背筋が震えた。
    「━━━ようこそ、迷える子羊さん♪」
    絡みつくような低く、艶やかな囁き。よく見知った声であるはずなのに、そうでない別人のようでもあった。
    「……君は、誰だい?」
    「ふふ……♪私は『悪魔』だよ。今の君は私の手の中だ。抵抗は無駄だからね」
    悪魔ときたか。なんとも恐るべき存在に目をつけられたものだ。
    「なるほど…その悪魔さんが俺に何の用で?」
    「分かりきったことを聞くんだね。私達がすることといえばただ1つ……対価を貰いに来たんだ」
    「取引をした覚えは━━━いや、そんなこともあったな」
    富も名誉も求めてはいないが、そういえば確かに背後の『悪魔』と契約したのだった。もう何年も前のことが、まさかここに来て返ってくるとは思わなかったが。
    「そう……君は契約してしまったのさ。私という恐ろしい悪魔とね。ならば契約に従い代償を貰うのは必然。逃げられはしないし……逃がさない」
    逃がさない━━━その呟きはやけに重く腹の底へと沈み込んでいった。
    扉向こう、廊下の喧騒は既に遠く、鼓動と泥のような静寂が心地よい。

  • 3二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:42:49

    「なら……どうする?」
    「━━━命をもらうよ」
    語気は強く鋭く、胸に刺さる。目を覆っていた手が離される。久々の景色、けれど後ろを向く気は起きなかった。見慣れないネイルが、気になって仕方なかったから。
    手は頬を撫で、顎を下り、首まで降りてくる。
    長い爪が喉仏に痕をつけた。
    これが、命を握られている錯覚。妙な高揚感に包まれる。

    ……さて。このまま流されては本当に生を捧げかねない。それも悪くはないのだが……ここで終にするには、まだ惜しい。
    「辞世の言葉を残す時間くらいはあるかな?」
    「……?あ、えっと━━━ふふ、悪あがきかい?まあいいだろう」
    少し漏れ出た素に笑いを堪え、できるだけ……平静に。
    「君の素顔を、見せてくれ」
    「……えっ?今はその、ちょっと恥ずいってゆーか、あっこらストップ━━━」
    振り向くと、そこには普段と全く装いの異なるパーマーの姿があった。角の飾りを頭部に身につけ、黒を基調とする艶めかしい衣装。彼女の健康美を存分に発揮させる、正に最上のコスチュームだろう。
    「あ、その……あんまりじろじろ見られるとさ……」
    先程までの空気はどこへやら、パーマーは両手を突き出し縮こまってしまっている。
    「うん、やっぱり最高に似合ってるよ」
    「あっありがと……じゃなくて、その……」
    「こんな自慢の担当を置いてあの世へ行ってしまうなんて……俺にはとても耐えられないんだが、どうだろう、悪魔さん?」

  • 4二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:43:16

    「ああ、うぅ……こ、降参!参りました!」
    パチッと音がしたと思うと、照明が光を取り戻した。
    そこにいるのはもう悪魔などでは無い、いつもと変わらない……俺の担当ウマ娘。
    「ひとまず命が無事で安心したよ……で、なんだったんだ今のは?」
    「それは、ハロウィンコスでアガッちゃって、勢いのまま、というか……」
    照れたように頭を搔く。確かに、今はハロウィンということで学園もやけに賑わっている。祭りを楽しむのは大いに結構なことだ。
    「……怒ってる?」
    「いいや?かなり楽しかったぞ?」
    時にはスリリングに、これくらい型破りな方が楽しい。長いことトレーナーをしてきて、考え方もパーマーに似てきたのかもしれない。自分がお堅い考え方をしてしまう分、彼女の明るさや気配りが身に染みて助かっている。

  • 5二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:43:37

    「そ、それなら良かったよ!全くトレーナーったらちっとも驚かないんだからさ。なに?こういう小悪魔シチュ、好きだったりして〜?」
    「いやパーマー好きだからだよ」
    「え?」
    「え?」
    考え事をしていたせいかよく練りもせず口に出してしまったが……今、なんと言ったか?みるみる真っ赤になっていく彼女の顔が不安を誘う。
    「……と、トレーナーの」
    「す、すまんパーマー、今俺何か失礼な━━━」
    「トレーナーのインキュバス〜!!!」
    なんとも不名誉な叫びを残し、レースも真っ青な快速で部屋を駆け出してしまった……。

    「……トリックオアトリートのお菓子は奮発するか」
    追いかけるにも大逃げの脚に追いつけるはずもないので、物思いに耽ける。
    さて、お詫びの品は何がいいだろうか……。

    その後、しばらく誤解を招くあだ名が広まり肩身の狭い思いをすることとなったのは、また別のお話。

  • 6二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 21:46:27
  • 7二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 22:00:00

    よくやった、良いものを続けて見れて嬉しい

  • 8二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 22:02:20

    其方に褒美をやろう
    そのサポカ絵をスマホに表示しながら枕の下に置くと良い
    あとは楽しめ

  • 9二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 23:18:53

    こんなんなんぼあってもいいですからね

  • 10二次元好きの匿名さん22/09/28(水) 23:20:04

    もっと欲しいと思ったところに……ありがとう……

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