[SS]いつかスミレは咲くだろう

  • 1二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 18:02:54

    「トレーナー。少し遊ぼうぜ」

     トレーナーが仕事を切り上げたタイミングを見計らい、私はそう言って5枚のトランプを取り出した。
     それぞれのスートのエースが4枚と、ジョーカーが一枚。

    「ルールは簡単。この中からジョーカーを見つけるだけだ。どうする?」

    「よしっ、やるか」

     本日分の仕事を終えたばかりのトレーナーは、上機嫌でそれに応じた。
     机を挟んで向かい合うと、私は念入りにカードをシャッフルする。

    「さて、どれだ?」

     横一列に並べられたカードを見て、トレーナーは少し考える素振りを見せると、吸い寄せられたように左端へと手を伸ばした。

    「なるほど。それでいいか?」

    「ああ」

     カードを捲ると、彼の予想はズバリ的中した。描かれた道化師の姿を見て、得意げにガッツポーズをしてみせる。

    「よし、当たりぃ!」

     だが私のトレーナーは、お世辞にも勘が鋭い方ではない。
     彼が一発でジョーカーを引き当てられたのには理由がある。
     私はトレーナーの手からジョーカーのカードを取ると、そのカラクリを明かした。

  • 2121/10/18(月) 18:35:10

    >>1

    「ほら、嗅いでみろ」


     私はジョーカーをトレーナーの鼻先に押しつけた。

     カードから仄かに香る甘い匂いに反応して、トレーナーが不思議そうな表情を浮かべる。


    「……なんかいい匂いする」


    「このカードにだけ香水を吹き付けたからな。アンタは無意識のうちにその匂いに反応して、こいつを選んだってわけだ」


    「なるほどなぁ」

    「じゃ、私はそろそろ寮に戻るとするぜ。また明日な」

    「おう、また明日」


     私はトレーナーと別れて、寮の自室へと戻った。

     同室のシリウスシンボリへの挨拶もそこそこに、先程のゲームについて振り返る。


    「手応えは上々。後は明日、もう一回あのゲームをすれば……」

    「さっきから何ブツブツ言ってんだ?」


    「……いや、トレーナーはちゃんと私を見てるのか、少し気になっちまってな」


    「へえ、ナカヤマもそんな事考えるんだな」


    「あいつの事は相棒だと思ってるが、それでもたまに考えちまう。トレーナーが、他の連中と同じように私を見限る可能性を」


    「まあ、お前は難儀な生き方してるからな」


     侮蔑も擁護もないシリウスの返事が有り難かった。

     その夜は日付が変わるまで、シリウスとポーカーに興じていた。

  • 3121/10/18(月) 18:58:59

    >>2


     翌朝、私は手筈通りに再びゲームを持ちかけた。

     例の香水は、スペードのエースに吹き付けてある。


    「なんだ、またそれやるのか?」


    「別にいいだろ。さ、やろうぜ」


     私は昨日よりも念入りに、絶対に当たりを引かせないという気迫すら込めてカードをシャッフルした。

     机の上に横一列に並べて、選ぶように言う。


    「見てろ、今回も当ててやる」


     トレーナーは得意げに手を伸ばして、迷いなく真ん中のカードを選んだ。

     あまりの潔さに、思わず声をかけてしまう。


    「おい、本当にそこでいいのか?」


    「ああ!」


     即答だった。単なるヤマカンなのか、それとも根拠があるのか。


    「何故そう思う?香水か?」


    「いや違う。根拠は……お前だ」

  • 4二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 19:09:51

    ナカヤマフェスタSS助かる

  • 5121/10/18(月) 19:16:12

    >>3


     どこぞの探偵のように左手で私を指すトレーナー。

     彼は確信めいたものを滲ませて、己の推理を披露する。


    「お前と何回トランプしたと思ってるんだ。お前のクセは完璧に分かってる。それが例え、お前自身でも気付いてないものだとしてもな」


    「なら教えて貰おうじゃねえか。私自身でも気付いてないクセってやつを」


    「……お前は手札をシャッフルする時、本命のカードを動かさない」


     昨日のもそれで引き当てた、とトレーナーは続ける。

     面白いじゃねえか。その推測が正しいのか、そしてアンタは、私の相棒に相応しいのか。


    「全ては、こいつに聞くとしよう」


     私達は、ゲームの勝敗をただ一枚のトランプに委ねた。

     そこに描かれていたものは––




     ––道化師だった。

  • 6121/10/18(月) 19:16:27

    >>5




    「……どうやら俺は、つくづく切り札に縁があるようだぜ」


     全くだ。私は軽く拍手をして、このゲームの勝者を称える。


    「すげえな、参ったよ。私の負けだ」


     確かに負けたが、不思議と悔しくはなかった。

     この男はちゃんと私を見ていた。それが証明されただけで嬉しかったのだ。


    「今度は負けねえぞ」


    「いいや、次も俺が勝つ」


     負けず嫌いの私達は、二人揃って清々しく笑う。

     軽くなった心で、私は思った。

     今度はあの香水を、私自身に振りかけてみよう。

     私という切り札を選んで貰えるように。

  • 7121/10/18(月) 19:18:53
  • 8二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 19:20:42

    このトレーナーはお出かけする時は帽子をカッコつけて被ってそう いいね...

  • 9二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 19:24:40

    トレーナーも勝負師なのいいね

  • 10二次元好きの匿名さん21/10/18(月) 19:25:15

    カッケ〜!

  • 11121/10/18(月) 19:36:59

    >>9

    今までのトレーナーは生真面目な仕事人間だったけど今回はちょっとキャラを変えてみた

  • 12121/10/19(火) 00:04:39

    >>8

    ぶっちゃけるとかなり左翔太郎入ってる

  • 13二次元好きの匿名さん21/10/19(火) 00:08:25

    >>12

    左翔太郎好きだから問題なし!ナカヤマフェスタから「あんたは本当にハーフボイルド(甘ちゃん)だな」なんてニヤつかれてたら面白い

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