- 1二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:40:27
- 2二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:40:55
『今日の勝負はね〜、プレゼント対決!!』
『プレゼントォ〜?』
『そ!今から夜までの間に、プレゼントを用意してマキノにプレゼントするの!それで喜んでもらえた方の勝ち!』
『プレゼント、かァ……』
『なーに?負けるのが怖いからやりたくない?』
『そんなわけねェだろ!やるぞ、プレゼント勝負!』
『そうこなくちゃ!じゃあ、いくよ!せーの』
『『3、2、1!!』』 - 3二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:41:52
まつ
- 4二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:44:09
『さあマキノ!』
『私かルフィか、どっちのプレゼントが嬉しかった!?』
『えっと……ごめんね、ルフィ』
『ええェ〜!!何でだよマキノ!?』
『ふふん、当然でしょ!私のプレゼントは前からマキノが欲しいって言ってたやつだもん』
『なんだよそれ!先に知ってたってことか!?』
『もちろん。勝つためには何だってするんだから』
『ズルじゃねェかそんなの!!』
『出た、負け惜しみィ。そうやって言ってるうちは私には勝てないよ』
『なんだとォ!!』
『もう、二人ともいい加減に――あらルフィ、それは何?』
『ん?あ、忘れてた!』
『キレイなお花ね。採ってきたの?』
『そう!これ、ウタにやるよ!』 - 5二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:45:37
『え……。私?マキノじゃなくて?』
『おう!なんとなく、これはウタの方が良いと思う!』
『そ、そっか……。そこまで言うなら貰ってあげようかな……』
『ふふ。ウタ、こっちにおいで』
『え、何ーーわっ』
『動かないでね。ーーはい、出来た』
『これ……髪に挿したの?』
『ええ、よく似合ってるわよ。ね、ルフィ』
『ああ!』
『……あ、ありがとう』
『それにしても、ルフィが女の子にお花なんて。一体どうしたの?』
『ベックマンが言ってたんだ!花が嫌いな女なんていないって!』
『もしかして、私へのプレゼントの相談?』
『おう!そうしたら花が良いだろって!花もらって嫌なヤツはいないってさ!』 - 6二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:46:13
『そっか。でも結果的には良かったかも。ね、ウタ』
『別にそんなに嬉しくないけど。せっかくだから貰ってあげるだけだし』
『なにィ!?いらないなら返せ!』
『いらなくない!それに、これはもう私のだもん!!』
『なんだとォ!?』
『何よ!?』
『やめなさい二人とも!ーーねえ、ルフィ』
『なんだ?』
『また、ウタにプレゼントしてあげてね』
『ウタが変なこと言わなきゃやる!』
『変なことなんて言ってない!』
『言った!!』
『言ってない!!』
『ーーもう!二人とも!いい加減にしなさい!』 - 7二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:48:22
『いつかきっと、これがもっと似合う男になるんだぞ!』
- 8二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:49:41
「ーーーーーー!」
勢いよく体を跳ね起こす。ウタワールドが消える直前、彼女から貰った言葉が尚も胸に残っていた。
跳ね起きた衝撃で飛んだ帽子が、ゆっくりと手の上に落ちてくる。優しく掴んで頭に乗せると、横から不意に声がした。
「起きたか、ルフィ。お前に客だとよ」
「客?」
ゾロの声に視線を横に向ける。仲間がいるエレジアのライブ会場、その枡席に“麦わらの一味”ではない男が、一人いた。
長い灰色の髪を後ろに流して、煙草を咥えた男。その鋭い眼差しに、ルフィは確かな見覚えがあった。
「ーーベックマン?」
「久しぶりだな」
ベン・ベックマン。
赤髪海賊団の副船長。それでいて、ルフィにとっては尊敬する男の一人。
彼は“麦わらの一味”とは少し離れた岩に腰掛けていた。
咥えた煙草を手に持ち替え、煙をエレジアの空へと吐き出すと、そのまま彼は再度口を開く。
「ルフィ、お前に頼みがあって来たんだ」
「頼み?おれに?」
「ああ」
深く頷いて、ベックマンは僅かに押し黙った。口にしたくない言葉を何とか選んでいるような気まずい沈黙。それでもやがて、彼は『頼み』を、ルフィに告げる。
「アイツに、花を手向けてやってくれねェか」 - 9二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:50:31
「ーー」
一瞬、沈黙が辺りを支配した。言われたルフィは当然、その言葉を口にしたベックマンでさえ。何も続けられなくなる程に、重い響きだった。
彼女があんなことを言った時点で何となく分かっていたことだけど、他の人から突き付けられた現実は、余りにも辛く、悲しい。
帽子を深く被り直し、視線を上げることはなく。それでもルフィはベックマンの『頼み』に是を返した。
「わかった」
「……悪ィな」
「いいさ。おれだって、アイツにちゃんとお別れしてェ」
表情は見せず。ただ、僅かに肩を震わせる船長にゾロが後ろから声をかける。
「ルフィ。おれたちは先に戻ってるぞ」
「ああ」
最低限のやり取りだけで、ルフィは仲間たちから離れた。既にベックマンは枡席の階段を下り始めていて、すぐに彼の後を追う。 - 10二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:51:13
ぁ…ァ…アァ
- 11二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:51:31
先を行くベックマンの背を見つめる。
大きな背中だ。
何時だったか、あの背中に縋り付きながら、涙を流したことがある。強くなりたいと願ったことがある。その時、ただ受け止めてくれる彼を大きく思ったし、彼のあり方に憧れた。
恩人であるシャンクスとはまた違う、憧れの人。しかし、その背中は今は小さく見える。
自分が成長したことも要因の一つではあるだろう。ただし、それ以上にきっと、今の彼が放つ沈鬱な空気がそう見せている。
ーー赤髪海賊団が何よりも大事にしていた娘が喪われたのだから、それも当然ではあるが。
ふと、その船が見えてきた頃に、ルフィが尋ねた。
「……なァ、シャンクスは?」
「部屋にいるそうだ。お前と顔を合わせるワケにゃいかねェってな」
「そっか」
それ以上会話はなく、やがて二人は一隻の船にたどり着く。
レッド・フォース号。
赤髪海賊団の船だ。
憧れの船だった。
いつか乗りたいと願っていた。
だけど、まさかこんな形でこの船に乗るとは思ってもみなかった。
甲板へと続く階段に足をかけ、ベックマンは先に上っていく。僅かに遅れて、ルフィも後を追いかけた。 - 12二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:52:02
もう涙が止まらんし嗚咽がすごい…
辛い… - 13二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:52:14
かなしい
- 14二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:52:39
レッド・フォース号の甲板に笑顔は無かった。ルフィの知っているこの船は、何時だって楽しそうな笑い声に包まれていたのに。
唯一の例外は彼女がいなくなってしまった、あの日だけ。
皮肉なことに今日この船に笑顔がないのも同じ理由だった。
ルフィはぐるりと視線を巡らせる。見知った顔もある。知らない人もいる。
だけど、誰の顔にも笑みは無い。皆一様に俯いて、肩を震わせている。
その時、一人がベックマンとルフィに気付いた。人の波が割れていくように『そこ』への道が出来る。
重い足を何とか動かして、ルフィは近付いていく。
大きな箱。
人が一人、横に収まる程の箱。
亡き人を送り出す為のーー悲しい箱。
それは、棺だった。
そして、そこに『彼女』がいた。
眠っているかのように安らかで。楽しい夢の中にいるように柔らかく。
既にその心の臓が動きを止めていることなんて分からない程にーーウタの亡骸は綺麗だった。 - 15二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:53:51
「ルフィ」
ベックマンから差し出されたのは、一輪の花。何処までも真っ白なーー穢れを知らない彼女が如き美しさの花だった。
震える手で花を受け取る。改めて、棺の中のウタと向かい合ってーー花を手向けることが、出来なかった。
手が震える。
視界が滲む。
声が揺れる。
受け入れるしかない現実を、受け入れたくないと体が叫ぶ。
何度も口を開きかけて、でも何も声には出来なくて。
そんな時、再びベックマンが口を開く。
「ルフィ、無理はしなくていいぞ」
「ーー無理、なんて……ッ!」
「泣いても良いんだ」
意識が。
途切れた。
彼の言葉が頭に染み入るような奇妙な感覚。
「今は、泣いても良いんだ。後で乗り越えりゃそれで良い」
何かが壊れるような感覚。
上手く言い表せないけれど、最後の一線を超えたような。 - 16二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:54:58
「……タ」
掠れるような声。
何とか絞り出した、小さな声。
でも、それが引き金だった。
「なんで死んじまったんだよ、ウタァ!!」
レッド・フォース号の甲板で、ルフィの悲痛な叫びが響く。
「“新時代”を作るって言ってたじゃねェかよ!!やっとシャンクスと仲直り出来たじゃねェかよォ!!」
ルフィの声に釣られるように、赤髪海賊団の船員が涙を流した。枯れ果てたと思っていたけれど、後から後から溢れてくる。
「お前を応援してくれるやつだっていっぱいいたじゃねェか!!おれだって!!おれだって……!!!」
棺の淵に縋り付くように。
でも、彼女の装束を汚すことがないように。
「お前がやりてェことやってて嬉しかったのによォ……!!なんで……!!なんで死んじまうんだよォ!!!」 - 17二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:56:19
どれだけ泣いただろう。
時間の経過はさっぱりだけど、とりあえず涙は流しきった。
ぐす、と鼻をすすって乱暴に涙を拭う。
思うことはある。
言いたいことも、たくさんある。
だけど、もう彼女には届かないから。
だからせめて、こちらから一方的に言葉を送ろう。
手にした花をゆっくりとウタの顔のすぐ隣に供える。まるで、いつかの日に彼女にあげた花のように。
赤い髪の隣の白い花はとてもよく似合っている。
「じゃあな、ウタ。今までありがとう」
万感の想いを込めて呟いて、棺に背を向ける。
ベックマンをはじめ、赤髪海賊団は誰もルフィに声をかけなかった。
でも、きっとーーそれで良い。 - 18二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:56:57
サニー号に戻ってきたルフィを見つけ、ゾロが声を挙げる。
「もう良いのか?」
「ああ。もう大丈夫だ」
ルフィがサニー号に戻ってくるまでの間に、レッド・フォース号は既に島を離れていた。
遠く彼方へと霞み行く船を見つめながら、サニー号はそちらとは違う方向へと舵を切る。
やがて完全にレッド・フォース号が見えなくなって。
サニー号の頭ーーいつもの特等席に立ったルフィは深く息を吸う。
深く、深く、全身に染み渡らせる程に吸い込んで。
両の手を突き上げながら、大きく叫ぶ。
「見てろよ、ウタァ〜~~!!!」
遥か空の向こうまで。
きっと見守ってくれている『彼女』に届くように。
「海賊王に!!おれはなる!!!」 - 19二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:58:48
その声が届いたかどうかは分からない。
ただ、美しい白い花が笑うように小さく揺れた。
- 20二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:59:32
- 21二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 19:59:56
おわりです
お付き合い頂きありがとうございました - 22二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:00:08
- 23二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:00:39
すごくきれいなお話でした。
- 24二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:01:34
読めて良かった
- 25二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:02:38
REDのウタの最期が確定したからこそ、こういうssが読みたくなってた・・・・・・、ありがとう
- 26二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:03:24
ありがとう
- 27二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:06:47
感謝
- 28二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 20:07:33
素晴らしい…しんどい
- 29二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 21:18:57
つれェ…でもよかった
- 30二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 21:44:39
好き...
プレゼント対決から話が始まるところ良き - 31二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 06:41:34
辛い、が読めて良かった!!
- 32二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:20:10
- 33二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:22:28
何だろう凄い悲しいし辛いんだけど、前を向けるというか
ルフィの作る新時代をウタもエースも待ってるぞ - 34二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:22:50
ありがとう
おれの傷は開いたがどちらにしろ助からねェ