【SS】転生したらオロチの姉だった

  • 1122/10/01(土) 23:35:30
  • 2黒炭キズナ22/10/01(土) 23:36:43

    ★☆★

    「ご機嫌よう。九里の侍衆殿……本日はどのような御用向きで?」
    「クシナ……」

     花の都、その外縁にて。
     私と赤鞘の侍達は対峙していた。

    「……我々にはわからんよ。貴様、なぜこんなことをする? こんな横暴に何の意味がある」
    「言ったところで意味がありません。私が止まることはなく、あなた達もまた止まることはないのだから」
    「っ……!」

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:37:22

    待ってました!!

  • 4黒炭キズナ22/10/01(土) 23:38:01

     眉を顰めて問いかける綿えもんに、私は突き放すように言った。
     それに納得できない、と菊の丞が歯を噛み締めて私に詰め寄る。

    「私は……! あなたのことを尊敬していた!
     あなたが居なければ九里の政治はもっと遅れていたし、いつも民に優しく接している人だったから!」
    「私はそんな人間ではないのだと何度も言ったはずですよ。優しい者と冷酷な者は、その振る舞いにさしたる違いは出ないのですから」

     九里に勤めていた頃の私は、市井にも赴いて色々な立場の人間と言葉を交わした。
     貧しい子供と遊んでやったことも、年老いた老人の手伝いをしてやったことも、荒れ地の開拓作業に参加したこともあった。
     なぜなら、そうすることでこの身を苛む呪いの熱さを忘れることができるかもしれないと思ったから。

  • 5黒炭キズナ22/10/01(土) 23:38:28

     その全ては無意味だった。

     むしろ炎は燃え盛るばかり。
     なぜ殺さない、なぜ苦しめない、なぜ呪わないのか……と、怨嗟の声がそうする度に増していく。
     そうして確信したのだ。
     この国がある限り、私は死んでも呪いから解放されることがないのだと。

     私を救えるのは私しかいない。
     私は私なりのやり方で、このワノ国を焼き滅ぼすとその時誓ったのだ。
     例え何を、どれだけ犠牲にしたとしても。

  • 6黒炭キズナ22/10/01(土) 23:39:03

    「全ては私の〝計画〟の内。それを阻むと言うのなら、私は何の躊躇いもなくあなた方を踏み潰す」
    「クシナさんっ……」
    「もうやめいや、菊の丞……こいつはもう落ちるとこまで落ちとんぜよ。
     ならせめてこれ以上くだらん罪を重ねんうちに、ワシらの手でカタをつけるんが筋ってもんやろがい」
    「……そうですね、ネコちゃん。あの人は私達の手で——斃す!!」

     航海を経て、以前とは体つきも眼光も鋭く、逞しくなったネコマムシがそう諭した。
     覚悟を決め、般若面を被った菊の丞を合図に赤鞘達が一斉に抜刀。
     四方に散開し、確実に私を殺すべく突貫する。

  • 7黒炭キズナ22/10/01(土) 23:39:39

    「おめェ、おいどん達が情で殺せんと舐めて一人でノコノコ来ちゃあおらんか!? あいにく全員揃って荒くれモンじゃあ!!!」
    「お前をのさばらせておくのはおでん様の面に泥を付けるのと同じこと! 家臣として、これ以上ワノ国を好きにはさせん!!」
    「お前に任せる国などない! ここで死に晒せ、クシナ!!」

     流桜を纏った刀が迫りくる。
     赤鞘の侍達は強い。
     完全武装の7人同時ともなれば、例え各郷を治める腕利きの大名やヤクザの頭領でも凌ぎきれる者はいないだろう。

     どんな猛者だとしても、たいてい腕は二本のみ。
     両手に二刀を構えたところで、7人相手に囲まれればそこには必ず死角が生まれる。
     全ての一撃が致命のものならば、その時点で命はない。

  • 8黒炭キズナ22/10/01(土) 23:40:18

    「……舐めているのは、あなた達の方ではないのですか?」
    「なにッ……!?」

     しかし、私は例外だ。

    「剣の生えた尾が……8本!? 貴様、妖術使いだったか!!?」
    「幻獣種——ヘビヘビの実 モデル〝八岐大蛇〟
     八頭八尾、毒と洪水の大蛇、そして……最強の宝剣をその身に宿す厄災の神」

     八岐大蛇。
     知らぬ者はいないというほど有名な神話の怪物。
     八頭八尾はもちろんのこと、八つの山谷に跨る程の巨躯、猛毒の息を吐き、水害の象徴ともされる正に災害そのものの化身である。

  • 9黒炭キズナ22/10/01(土) 23:41:08

    「ぐうっ、びくともしねェぞ!! どんな膂力だ……!?」
    「動物系の悪魔の実、モデルが巨大な怪物です。達人とはいえ人間の範疇に収まる者がいくら群れようと、我が五体を動かせると思い上がることなきように」

     曰く、八岐大蛇は須佐之男命に討伐された際、その尾から対峙の際に使用した神剣〝天羽々斬〟すら刃毀れさせる〝草薙剣〟を露わにしたという。

     この悪魔の実が八岐大蛇の再現であるというのなら、その尾に草薙剣を持つのもまた当然の理屈。
     そしてどの尾から剣が獲れたのか定かでない以上、全ての尾に草薙剣を持つ可能性があるのと同義である。

  • 10黒炭キズナ22/10/01(土) 23:41:39

     故に〝草薙剣〟8本による神剣八刀流こそが私の最大戦力。
     大業物21工〝天羽々斬〟さえをも凌ぐ破壊力を秘めたる宝刀の暴虐。

    「っ、皆の者! 距離を取れ!! これはまず——」
    「ワノ国を取り戻すのなら諦めなさいませ、赤鞘の九人男よ。カイドウなど出る幕もなく、貴殿らでは……私の足元にすら及ばない」
    「ぐっ、おおおォォ!!!?」

     その暴虐を、峰すら跨ぐ怪物の膂力で振り回したらどうなるか。
     察した赤鞘達が離脱のために駆け出すが、時既に遅し。

  • 11黒炭キズナ22/10/01(土) 23:42:14

    「——〝都牟刈大蛇〟」

     八尾に備えた神剣の嵐が風も、土も、岩も草木も何もかも、全てを薙いでとぐろを巻く。
     暴威は討ち入りに参じた赤鞘の侍達を呑み、遥か彼方へと吹き飛ばした。

    「……私に歯向かうにはまだ四半世紀早かったでしょう。次に顔を合わせるのは、きっと処刑場になる。
     それまでせめて薪の上に臥し、苦い肝を嘗めていてくださいな」

     私は能力を解き、悠々とした足取りで城へと戻る。
     赤鞘達を追うことはしない。
     まだ彼らには、殺す価値などないのだから。

  • 12122/10/01(土) 23:43:57

    今日のところはこれでお終いです。
    次回は明日になると思います。
    あと、今気づいたけどスレタイにPart2って入れるの忘れちゃった☆
    すまん

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:44:29

    クシナちゃんかっこいい…

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:44:34

    お疲れ様です!!明日も楽しみにしてます!!

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:44:59

    クシナちゃん頑張れ!!!!!ワノ国滅ぼしてもいいぞ!!!

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:46:06

    全てを理解した時の赤鞘が見たくてたまらないえ〜!!!クシナちゃんかっこいいえ〜!!!

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:47:44

    >>16

    クシナちゃんが黒炭でカン十郎も黒炭ってわかった時の赤鞘の顔...見たい(o_o)

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/01(土) 23:55:12

    強いっすねぇ…でもこれさ、赤鞘七人衆に七尾切られて最後の尻尾はおでんに切られるっていう感じがしちゃうなぁ…不安な予感は絶えず続くけど、とりあえずクシナちゃんが強いのはよかった。このまま突っ走って行ってほしいわ

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 02:51:57

     四半世紀早かった
     このセリフだけで考えたんだけど、クシナの復讐譚に米津玄師のLoserすごい合うなって。
    「もうどこにも行けやしないのに、夢見てお休み」
    「踊る阿呆に見る阿呆、我らそれを側から嗤う阿呆」
    「どうせだったら遠吠えだっていいだろう?」
    めちゃくちゃ合う…

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 08:39:51

    >>19

    めちゃくちゃ似合う...

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 11:00:13

    保守

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 16:39:12

    なんかクシナちゃんって全身をかきむしってるイメージがある…呪いから逃れたいけどできないし国民と接するたびに自分の家族やオロチみたいな無実の罪で死んだ黒炭家の人間のことを思い出してかきむしってる

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:28:31

    保守、今夜も楽しみ

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:42:34

    保守

  • 25122/10/03(月) 01:15:06

    遅くなりましたが始めていきまーす!

  • 26黒炭キズナ22/10/03(月) 01:15:42

    ★☆★

     それから半年、赤鞘達が九里から打って出てくることはなかった。
     裏から手を回し、赤鞘襲撃と同時刻におでん城を襲わせたのもあり、彼らは攻勢よりも守備に回ることを選択したのだ。
     いずれ帰還するはずのおでんを待ち、雪辱を晴らすために。

    「ウォロロロ! なんだお前強かったのか、クシナ!!」
    「まぁ、それなりですけど。カイドウには及びません」
    「そうか? おれは実際見てねェからわこんねェな。手合わせでもしてみるか?」
    「やめてくださいよ。結果は見えてます。それにもし私だけで十分だったならあなた方に頼っていませんよ」
    「あァ……それもそうか。しかし、侍も期待外れか? おでんの奴は強ェといいんだが」

  • 27黒炭キズナ22/10/03(月) 01:16:25

     カイドウと花の都の城内で酒を飲む。
     酒は好きだ。
     特に八塩折の酒はするすると飲めて美味いので好んで飲んでいる。
     酒に酔っているこの時間は、少しだけ炎の熱さを感じなくなるから。

    「心配することはないと思いますよ。おでんは強い。幼少期から彼の武勇伝は底を尽きません。
     間違いなくこのワノ国最強の侍です。他の有象無象の侍達とは強さの次元が一つも二つも上にある」
    「ウォロロロ……そりゃいいな。期待させてもらおう」
    「ええ。それに、もうそろそろでしょうから」
    「なに?」

  • 28黒炭キズナ22/10/03(月) 01:16:57

     カイドウが訝しげに眉をひそめる。
     ちょうどその時、音もなく参上した福ロクジュが伝令を伝えに来た。

    「ご報告します、クシナ様。つい先程、九里の伊達港にて海賊船を確認。下船したものは一名……容姿から推測して、光月おでんであると思われます」
    「ようやく、ですか。すぐにここに攻め入ってくるでしょう。あのおでんが身内に手を出されて、一日でも黙っている筈がない」

     私の強さも並以上ではあると自負しているが、流石におでんには敵うまい。
     あれはビッグ・マムと似たような生まれついての怪物だ。
     才能、鍛錬、修羅場の数、全てを凌駕する相手にどうして勝てると思うだろうか。
     私は比我の戦力差を見誤る程の愚者ではない。

  • 29黒炭キズナ22/10/03(月) 01:17:31

    「ウォロロロ! 予想的中じゃねェか、クシナ。あれか、未来でも見てやがんのか?」
    「まさか。私に見通せる未来などたかが知れていますよ。
     ……私は、その未来を変えるためにここにいる。誰にも邪魔はさせませんよ。例えそれがワノ国一の侍であろうと、蟻のように踏み潰すまで」
    「ウォロロ、いい覚悟だ。お前のような強ェ女は好きだぜ」
    「はぁ、ありがとうございます?」

     もうすぐ、ここにおでんがやって来る。
     もし彼が将軍の座に就いていたら、この国はどんな国になったのだろうか。
     ワノ国は変わらずワノ国のままなのか。
     それとも、たとえどうしようもない荒くれ者さえ持ち前のカリスマで真っ当な人間にしてしまえる彼ならば、身分差も差別もない平和なワノ国に変えられるのだろうか。

    「……まぁ、そんなことはどうでもいいか」

     すでに私はこの国で生まれ育った人間に何の期待もしていない。
     私は私のやり方で、この国の全てを滅ぼすだけだ。

  • 30122/10/03(月) 01:18:53

    今日はここまで。短くてすんません!
    また明日も投稿できればしたいけど、明日は忙しいからできんかも

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 01:30:24


    スレ主のペースで続けてもらえればええで

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 07:05:37

    保守、楽しみにしてる

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 07:31:30

    都牟刈大蛇ってこんなんになるんかな支援

  • 34二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 10:38:11

    >>33

    神絵師!!!

  • 35二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 10:40:52

    カン十郎はここでもクシナちゃんに仕えてるのか....なんか同じ痛みを共有できる黒炭家の人がいてよかったなクシナちゃん

  • 36二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 10:42:13

    ここの時空だけどカイドウに切り殺されるようにはならない気がするなクシナちゃん、覚悟持って鍛錬してるしカイドウさんポイント稼ぎまくってる

  • 37二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 18:50:14

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 21:02:26

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 23:11:56

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 01:25:17

    保守

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 06:19:36

    保守

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 09:22:57

    保守

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 13:07:00

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 17:53:19

    保守

  • 45122/10/04(火) 21:24:18

    今回はほぼ原作と展開変わらないの許しておくれ。
    では投下していきます。

  • 46黒炭キズナ22/10/04(火) 21:24:54

    ★☆★

     おでん帰郷から一夜が明け、つい先程彼が花の都に討ち入ったと報告が入った。
     城の階下では人と人が争う剣戟の音が響き、大きな気配を垂れ流す存在が天守にまで駆け上がる。

    「クシナァァァーーー!!!」
    「お逃げくださいクシナさ……ぎゃあああーー!!?」

     烈火の如く怒りに震え、天に轟く雄叫びをあげるおでんが私の前に姿を表す。
     その五体から放出される覇気に当てられるだけで側使えの者達が泡を吹いて倒れてゆく。

  • 47黒炭キズナ22/10/04(火) 21:25:44

    「〝桃源——」
    「セミ丸、バリアを」
    「十挙〟ァァァーーー!!!」

     おでんの渾身の一撃は、私の鼻先三寸で受け止められた。

    「何だこれは……!?」
    「お久しゅうございます。おでん様」
    「てめェ、どういうつもりだ……! 出てこい、クシナァ!!」

     おでんは防がれてなお執拗に攻撃を加えるが、鎮座するバリアに傷一つ付くことはない。

  • 48二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 21:26:02

    待ってました!

  • 49黒炭キズナ22/10/04(火) 21:26:21

    「バリアは何者も寄せ付けぬという理屈じゃ。お前の強さは無意味だおでん!」
    「貴様、能力者か!」

     おでんは鬼のような形相で睨みつけながら問いかける。

    「父がお前を将軍代理に押したそうだな……おれが帰ってくるまで!
     だったらすぐにおれにその座を明け渡せ!! そんな偉いものになる気はなかったが、お前よりいくらかマシな国にできる!!! 」
    「ああ……その先代将軍スキヤキの言ですが、それには何の効力もありませんよ」
    「何ィ……!?」

  • 50122/10/04(火) 21:30:06

    操作ミスってコピーした部分消えちゃったのでちょい待ってて

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 21:30:26

    りょうかい!!!

  • 52黒炭キズナ22/10/04(火) 21:32:04

     私は側に控えるひぐらしに目配せする。
     彼女は性悪に顔を歪めて、マネマネの実の効果でスキヤキそっくりに変身した。

    「父上!? なぜ……!?」
    「ニキョキョキョ! 大名達バカ共が信じたのは全てワシがスキヤキに化けて言った〝虚言〟だ!!
     つまり、クシナがお前に将軍の座を明け渡す義理はねェってことさ!!!」
    「何だと……てめェら父に何をした!!?」
    「それをあなたに言う必要が?」

     奥歯を噛み潰して怒るおでんに、私は手を叩いて襖の奥の部屋を見せる。

  • 53黒炭キズナ22/10/04(火) 21:32:46

    「! これは!!」
    「カイドウへ流す武器、それと食いぶちがなくなり路頭に迷った民衆が数百人。
     売るか遊ぶか殺すか、と言ったところです。少なくともこのままでは、人としてまともな一生を送ることはないでしょうね」
    「堕ちたなクシナ……! てめェを城へ遣ったおれの節穴を呪ってやりてェぐらいだ!!」

     そう言っておでんは再び渾身の力を込めた斬撃を放とうとしたが、突如として天井を破壊ひ現れたカイドウによって阻まれた。

    「ウォロロロ!! お前がおでんか! 確かに噂に違わねェ覇気だ!!!」
    「てめェがカイドウか!! 人の国で好き勝手してくれやがったようだな!!!」

  • 54黒炭キズナ22/10/04(火) 21:33:20

     おでんとカイドウ。
     共に常軌を逸した怪物達は、武器を一度振るうごとに周囲の全てを薙ぎ払う。

    「なぜワノ国を地獄に変える!? おれは昔からお前の考えてることが何一つわからねェ!!
     将軍になって何がやりてェんだお前は! 一体何を企んでいやがる!!?」
    「ニキョキョキョ! この娘にとってはワノ国そのものが罪人なのさ!
     その昔、黒炭の長がお前達光月に切腹させられた! おかげでワシら黒炭はお家断絶! 残された親族は寄る辺も食いぶちもなく、見ず知らずの〝正義の味方〟に追い回され殺された!!」
    「なに!?」

     カイドウと鍔迫り合いながら問い詰めるおでんに、ひぐらしがこれ見よがしに自らの身に起きた〝悲劇〟を語る。
     あの日の炎は、未だ勢いを衰えさせることなく私を燃やす。

  • 55黒炭キズナ22/10/04(火) 21:34:18

    「特にこの娘は哀れでねェ……たった1人残った家族である弟を焼き殺され、両の瞳を抉られ凌辱された!
     『黒炭』の名が付けばガキでも罪人になるらしい! この娘の目的はその〝復讐〟!! ワノ国の滅亡に他ならない!!!」
    「……!!」

     息を呑むおでん。
     予想だにしていなかったのだろう。
     今まで片時も緩むことなく握りしめられていた刀の柄が揺れるのが見えた。
     正確には私は復讐がしたいわけではないが、境遇を憐れんで付け入る隙をくれるのならば、それを突かない理由はない。

  • 56黒炭キズナ22/10/04(火) 21:34:47

    「では、こうしましょう。毎週定時刻、『黒炭家』への謝罪の〝裸踊り〟をすれば、ここに軟禁している者のうち100名を解放します」
    「! それは本当か!?」
    「はい。期間は5年。現在建造中の戦艦が完成した暁には、この国を出港することを約束しましょう」
    「……わかった。条件を呑もう」

     おでんは顔を伏せ、怒りに身体を震わせながら刀を鞘に戻す。
     そして一度もこちらを振り返ることなく、無言で城を出て行った。

    「……つまらねェな。期待外れだ」
    「あなたといえど、今彼と事を構えるのは得策ではないのでは?」
    「ああ。戦っていたら分の悪い勝負になっただろう……だがな、これァそう簡単に収まるもんじゃねェんだよ」

     そう言ってカイドウは腰に備えた瓢箪を自棄のように呷り、城の奥へと消えて行った。

  • 57122/10/04(火) 21:35:43

    今日はこれで終わり。
    あとカッコイイ支援絵ありがとうね! マジやる気出たわ! これからも応援よろしく!!

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 21:37:03

    お疲れ様です!毎日の楽しみです!おでんはついにクシナちゃんの目的を知ったからあと残るは赤鞘が知るのとカン十郎の正体を知るダブルパンチだな...光月家の未来は暗い....

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 23:11:56

     いいなぁ。特にクシナが一言も動機について話さずに淡々と要求だけを述べてるところが。クシナ自身ですら『復讐』の火に焦がされている罪人に他ならなくて、弟たち一族の恨みを晴らすために『使われてる』感じがする。

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 05:35:18

    保守

  • 61二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 07:27:44

    保守

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 14:02:18

    h

  • 63二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 16:25:25

    保守

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 16:32:27

    オロチは復讐者だけど豪遊したりしてそれなりに楽しんでいた。でもクシナは楽しみがなさそう

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 16:47:55

    まさかスレタイから黒炭の文字がなくなってるとは思わなんだ!
    これからも楽しみにしてますぞ!

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 00:01:11

    保守

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 07:25:34

    保守

  • 68二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 07:34:49

    保守

  • 69二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 07:54:30

    だんだん地獄の濃度が上がってきたな

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 13:03:32

    ほっし

  • 71二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 17:49:40

    保守

  • 72122/10/06(木) 22:05:23

    今週ちょっとバタバタしててあんま書き進められてない!
    とりあえず今日は無理なんで明日には上げれたらいいなー、と思ってます。
    ごめんね!!

  • 73二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:46:49

    >>72

    自分のペースで自由にしてくれたらええやで

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 02:06:12

    >>72

    乙!

    私生活優先でええんやで

    楽しみに待ってる

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 09:27:50

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 15:13:40

    保守

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 21:14:54

    ほしゅ

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:22:38

    保守

  • 79122/10/07(金) 23:13:16

    すまん、今日無理かも
    明日には必ず!

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 02:03:52
  • 81二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 09:47:34

    保守

  • 82二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 13:29:20

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 17:23:25

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 21:29:11

    オマエは語り継がれなければならねえ……

  • 85122/10/08(土) 23:21:59

    遅くなってごべーん!
    とりまキリいいとこまで書けたから投稿するねー!

  • 86黒炭キズナ22/10/08(土) 23:22:55

    ★☆★

    「九里のバカ殿光月おでん♪ ヘビににらまれ腰抜かす♪ 笑たら負けよ♪ あっぷっぷ♬」

     破天荒に育つも〝九里〟の大名となり、海へ飛び出し世界屈指の海賊達と肩を並べ、また何倍も強くなって帰郷した男。
     天下無双の〝光月おでん〟——悪の力に苦しむ故郷で人々の救世主となる筈だったが、今となっては週に一度都に現れ、城の前でおどけてわずかな金を貰い、笑う私の子飼いやカイドウの部下に媚びへつらって去っていく。

  • 87黒炭キズナ22/10/08(土) 23:23:24

    「バカ殿だー!!」
    「あんな男になるんじゃないよ……みっともない!」
    「クシナの犬になるくらいなら武士として腹を切れー!」

     ワノ国の正当な世継ぎ光月おでんの帰還は言わば国中の最後の希望であったが、その想いは見事に裏切られ、人々は大きく失望し、やがてそれは怒りへと変わっていった。
     それは時が流れど、土地が変われど、人が変われど、立場が変われど、ワノ国の民達の気質が何一つ変わってなどいないことの証左であった。

  • 88黒炭キズナ22/10/08(土) 23:24:05

    「嘆かわしいですね、おでん」
    「! クシナか……冷やかしにでも来たのか?」
    「ええ。少し町の空気を吸いに」

     将軍職は暇を持て余す。
     今まで一部の空きもなく時間を費やしてきた身としては、鍛錬を続ける以外に味気のない日々だ。

    「しかし、ますますわからねェな。お前のことが」
    「ふむ。何か疑問でも」
    「ああ、おれには全く腑に落ちねェよ。お前がこんなことをする理由がよ」

     今日も今日とて、天守から彼を見下ろしてひぐらしやセミ丸、侍、海賊、民衆達はその痴態を嘲笑っている。
     そんな中、おでんは褌一丁、裸一貫のまま私に向き直って言った。

  • 89黒炭キズナ22/10/08(土) 23:24:38

    「理由らしきものは先日ひぐらしが語っていたように思いますが」
    「お前の口からは聞いてねェだろう。
     それに不思議なんだ。さっき嘆かわしいと言ったな、なぜお前は笑わねェ?」

     どかり、と地べたに座り、鉄すら斬れるほどの眼光が私を射抜く。

    「お前に付いた腰巾着は皆おかしそうに、我が世の春とばかりにおれを嗤い、贅沢三昧だが……お前だけは違う。
     目的はとうに果たし、もはや全ては思うがまま。正に天下を取ったってんのに、今まで一度もお前の口端が上吊るのを見たことがねェ。これは一体どういうことだ?」
    「……」
    「お前の目的は一体なんだ!? 何を目的に支配する!!? てめェの口からはっきり聞かせろ、クシナ!!!」

  • 90黒炭キズナ22/10/08(土) 23:25:12

     なるほど、流石は九里の大名にして本来ならば次期将軍。
     人のことそれなりに見ている。
     思えば彼もまたロジャーのように見聞色にも特別優れた者だったか。
     他人の機微にも聡いのも道理である。

    「さて……どうなんでしょう? 私にもわからない」
    「なに……?」
    「私は、本当は復讐なんて考えてもいない。
     ただこの身を焼き焦がす〝呪い〟がほどければそれで良いと、それだけを考えて生きてきましたが、もはやそれすら曖昧になりつつある」
    「〝呪い〟ィ?」

     私はもう見えなくなった青空に手をかざす。
     もはや届かぬ安息に手を伸ばすかのように。

  • 91黒炭キズナ22/10/08(土) 23:25:52

    「文字通り何でもやりました。
     殺戮、拷問、処刑、強奪、飢餓、疫病、姦淫、飽食、遊戯……ありとあらゆる非道で国を痛ぶり、遍く全ての贅を貪った」
    「……」
    「それでもなお、記憶にも残らぬほどに、何一つ心に響くものはなく、何一つ心を満たすものはなく。
     炎を鎮めるような〝何か〟は見ることも能わず、ただ全てがさらに火を昂らせる薪へと変わっていきました」

     伸ばした手は力を失い、ぽすんと膝の上に落ちてゆく。
     まるで燃え尽きた黒炭のように。

  • 92黒炭キズナ22/10/08(土) 23:26:30

    「私は、私自身でさえ私を救えないことを悟ってしまいました。
     もはや何をしても手遅れ。一生、いや死んでも、何度生まれ変わっても、この〝呪〟は私を捉えて離さぬだろうと。
     もう私の目には、自分の目指す場所さえ灰のように燃え尽きて見えなくなってしまったのです」
    「……ならは今すぐにでも止まれ。これ以上くだらん犠牲を出す前に」
    「それもまた能わず。燃え広がった業火の勢いを、どうして炎自身で消し去れましょう」

     殺すことで、呪うことで、苦しめることで、痛めつけることで、ようやく未だに正気を保っていられるのだ。
     それを放り投げれば確かにワノ国は今よりマシになるかもしれないが、私にとってそれほど恐ろしい選択もない。
     この身を蝕む灼熱が真に私を包んでしまったら、きっと想像を絶する苦痛に全身を蹂躙され発狂死してしまうだろう。

  • 93黒炭キズナ22/10/08(土) 23:28:02

     光月おでんならば、できたかもしれない。
     赤鞘の侍達になら、それを呑み込んで潔く死ぬことができたかもしれない。
     この地に真に根付いた人間ならば、こんな理不尽でも受け入れて死ぬことができたのかもしれない。

     けれど私には無理だ。
     そんな恐ろしい選択、できようはずもない。
     どこまでいってもこの世界にとって〝異物〟でしかない私には、一度〝死〟を体感した私には、目の前で人を殺す〝炎〟を見た私には。
     〝炎〟に焼かれて死ぬ勇気など、湧いて出てくるはずもない。

  • 94黒炭キズナ22/10/08(土) 23:28:35

    「——ですから、あなたの問いに私は答えを持たない。だってもう、そんな目的なんて焼き尽くされてしまったのだから。
     誰にも私を救う術もなく、また殺す術もない。
     もはや私はただ炎に焼かれながら、それでも小指程に残った自我だけは燃え尽きぬよう懸命に抱えて災禍を撒き散らして暴れ回る〝災害〟へと成り果てました」
    「……なんだ、そりゃあ」

     おでんは私の言葉に絶句したようだ。
     何の目的もなく、ただ国を殺すためだけに生きる〝化け物〟に成り下がった私に言葉を失っている。
     ……話したいことは話せたか。
     本当は全て胸の内にしまって、諸共焼けて燃え尽きようと思っていたのだけれど、私も彼に絆されてしまった者の一人ということなのかな。
     そう考えると、まだ私にも人間性と呼べるものが欠片たりとも残っているようで、少しホッとした。

  • 95黒炭キズナ22/10/08(土) 23:29:08

    「それではご機嫌よう、光月おでん。
     結局あなたも、私を救ってはくれなかった」
    「……! 待て、クシナ!! 最後に一つ聞かせろ!!!」

     背を向けた私に、おでんは大声を張り上げて問いかけた。

    「……おれから見りゃあ、お前は既に限界だ。心が完全に死んじまってる音がする。
     なのになぜ、てめェはまだそこまで〝まとも〟でいられる?」
    「ふふ、本当に鋭いお人ですね」

  • 96黒炭キズナ22/10/08(土) 23:29:35

     確かに私はもう限界だ。
     身も心もほとんどが燃え尽きて、グズグズの炭になって今にも崩れてしまいそう。
     それでいてなぜ、小指程とはいえ〝私〟を保っていられるのか。
     答えは一つ。

    「……こんな私にも、まだ最後の希望が残っているから、ですよ」

     私は豪奢な着物の上から、母親のように腹をさすってそう答えた。

  • 97122/10/08(土) 23:30:19

    今日はここまで。
    明日……上がれたら……いいなぁ……

  • 98二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:30:50

    めちゃくちゃ気になるところで終わるなお前ェ!!!
    今日もすごく面白かったぞありがとう!!!!

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:31:14

    これはこれは、意外な展開ですね……
    面白かった!!!

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:36:16


    本当に身籠ってるのか、それとも…

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:36:38

    今夜も面白かったです
    おでんはクシナちゃんのことも救うべき民の一人として見てそうだなあ
    身重の身であることも知ってしまったし、もう攻撃でき無さそう

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 02:05:46

    うん?災害ってことはこれクシナちゃん大看板になったのかな?てかこれ身籠ったなら相手誰!?めっちゃ気になる!?

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 09:11:50

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 16:44:31

    しゅ

  • 105二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 21:59:56

    保守

  • 106122/10/09(日) 23:12:26

    今日は書けた。
    というわけで投稿開始〜

  • 107黒炭キズナ22/10/09(日) 23:13:28

    ★☆★

     おでんが都での裸踊りを続け、5年近くの月日が流れた。
     その間、海賊が攻めてきたり、出産だったりと色々あったが、特に大した問題はなく順調に事は進んでいる。

    「将軍様が〝九里〟にー! クシナ将軍だァー!!」

     御輿にしなだれかかりながら、私は眼下に平伏するおでんに語った。

    「外の世界はこれからさらに荒れるでしょう。〝ワノ国〟を武器の生産国にし、戦乱に乗じてさらなる富を貯えることとしました。
     よってこの九里に新しい武器工場を幾つか建設する。速やかに取り掛らせなさい」
    「いや待ってくれ、将軍! 船の方は……!? カイドウと……」

     低頭したまま、へつらったような笑みを浮かべて問いを投げるおでんに、頬杖をつきながら告げる。

  • 108黒炭キズナ22/10/09(日) 23:13:55

    「最近は特に物忘れが激しい……故に、何の話か見当もつきません」
    「!!!」
    「ああ、それと都の侠客達ですがあまりに言うことを聞かないもので、カイドウに譲ることにしました」
    「え……」
    「ついでのようで申し訳ないが、あまりに縋り付いてくる老婆が邪魔で仕方なく、その場で打首にしました」
    「……」
    「それでは、事の方をよろしくお願いします。さようなら」

     そうして私は立ち去った。
     背後からおでんの慟哭が響き渡るが、既に燃え尽きた心に沁み渡る情もなく。
     一度も振り返る事なく城へと御輿を進ませた。

  • 109黒炭キズナ22/10/09(日) 23:14:33

    「奴らを……クシナとカイドウの首を討ち取るぞ……!!!」
    「そのお言葉ずっと!! お待ち申し上げておりました!!!」

     家族と家臣の大方予想通り、5年間一人で国民の命運を背追い込み続けていた偉大な侍の張り詰めていた糸がついに切れ、大粒の涙をこぼしながら、国に巣食う悪逆の下へ討ち入ることを決意した。
     彼に拾われ武士となった九人の男もまた揃い踏み、夕刻の真紅に色づく太陽は戦い勇む男達を炎のように赤く照らし、腰に差した刀も然り、燃ゆる命を映し込む。

     後世に語り継がれる『光月おでんの最後の一戦』

  • 110黒炭キズナ22/10/09(日) 23:15:02

    「5年前の約束は……全てウソってことでいいんだな!? カイドウ!!!」
    「ウォロロロ、そうさ! それとも何か? 契約書でも持っているのか?
     あの時おれ達は分が悪いと踏んだ。お前が帰還しヒョウ五郎と手を組めばワノ国中の侍が敵に回る。まだ部下も少なかったおれ達にとっては苦しい戦いになっただろう」

     おでんと赤鞘は、内通者の情報により待ち構えていたカイドウと思わぬ遭遇をしながらも、動揺などはすぐに鎮めて毅然と対峙する。

    「あの時お前が何の犠牲にも動じねェ前評判通りのイカレた男だったなら、また違った未来もあったろう。
     だがお前は誰も傷つかねェ方法を選んだ。ニューゲートやロジャーも確かにそんな海賊だった。強ェがどこか甘い奴ら……!
     お前も同類よ! バカは裸になって笑われ蔑まれながら踊り続け、お前にはもう〝光月〟の威厳と何もねェ!!」
    「あの日の判断はあれで良かった。——話を未来に進めようぜ」

  • 111黒炭キズナ22/10/09(日) 23:15:54

     立ち上がった侍11人に対し、敵は千人の海賊達。
     だが戦いは長期戦となり、光月おでんの強さは敵の想像遥かに超えた。

    「ウォロロロ! クシナの奴の言った通りだ——おでん!!」
    「クシナか……思えばあいつも哀れな娘だ。先日会ったが、もう心が完全に擦り切れていた。ああなってはもはや一思いに殺してやるのが情けだろうよ」
    「なにィ……!?」

     二刀と金棒で鍔迫り合いながら、2人の男が異次元の戦いを繰り広げる。

    「ウォロロ、あいつは強ェ女だぜ。人を殺すにも虐げるにも眉一つすら動かさねェ。人間である以上、人を殺す時はどんな奴でも必ず心が動くもんだ。おれですらそうだ。
     だがあの女はそこに悲嘆も恐怖も歓喜も高揚も浮かべねェ! あの心を失ったかの如き冷酷さこそがあいつの〝強さ〟よ!!」
    「カイドウ、お前は何一つわかっちゃいねェ。
     あいつは心を殺されただけだ、この国に……おれ達に! 普通の娘として生きる道もあったろうに、あろうことかその道をおれ達自身で塞いじまった」

  • 112黒炭キズナ22/10/09(日) 23:16:41

     おでんはカイドウの金棒を弾き飛ばし、もう一方の手に持つ刀で斬りつけ、吹き飛ばす。

    「ぐお!?」
    「この5年、おれがあいつにしてやれる事はねェかと考えたが何も浮かばなかった。
     だが、これだけはわかる。あいつは冷酷で強い女なんかじゃねェ。……ただ背負いすぎちまっただけの、本当は優しい普通の娘だ」

     おでんの怒涛の剣戟がカイドウを襲う。

    「おォ……!?」
    「これ以上は痛ましくて見ていられねェ。こんなこと、あいつも本心じゃやりたくねェんだ。
     だからせめて、一度は面倒を見てやったおれが、主君として首を斬って終わらせてやる。バカなおれにはこれぐらいしか思いつかねェ。
     おれにも誰にもあいつを救えねェんなら、殺してこれ以上苦しめねェのがおれにできるあいつへの、ただ一つの手向けに他ならねェ……!」

  • 113黒炭キズナ22/10/09(日) 23:17:24

     思わず守りを固めたカイドウを意にも返さず、圧倒的な覇気と斬撃で防御の上から崩すおでん。

    「これはおれ達と、あいつと、この国の問題だ……! 外様のお前にゃ関係ねェよ!!」
    「!!」
    「二度と来るな!〝ワノ国〟へ!!!」

     体勢を崩し、致命的な隙を晒したカイドウを逃さず、おでんはトドメとなる一刀を繰り出す。
     これでワノ国は救われる——その筈だった。

  • 114黒炭キズナ22/10/09(日) 23:17:53

    「父上! 助けて父上!」
    「モモ!? なぜ——」

     刹那に生じた心の隙は、しかし勝敗を決するに余りある。

    「おでん様ァーーー!!!」
    「……!!」

     カイドウの咄嗟に放った一撃により、おでんは志半ばで倒れることとなる。
     壮絶な戦いにより燃えた〝兎丼〟の深い森の火の手は、5日後の雨の日まで消えることはなかった。

     捕らえられた〝九里〟の大名光月おでん以下九名〝花の都〟で投獄され、〝将軍への謀反人〟として処罰の決定を待っていた。
     理由も知れぬ事件に民衆からの目は冷たい。

     それから3日後、公衆の面前にて光月おでんのその家臣九名の〝釜茹での刑〟が執行されることとなった。

  • 115122/10/09(日) 23:19:09

    今日の投稿はこれで終わり。
    明日はワンピ最新話のネタバレ避けのためにネット断ちするんで投稿はできないかも。

  • 116二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 23:20:37

    乙だぜ
    保守は任せてくれや

  • 117二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 04:18:58

    >>ワンピ最新話のネタバレ避けのためにネット断ちする

    それはしょうがない

    誰だってそーする

    おれだってそーする

  • 118二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 04:47:39

    ネット経ち出来るの偉いな
    俺もう中毒だから毎日どっかしらの掲示板に入り浸ってるよ

  • 119二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 13:40:13

    保守

  • 120二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 20:18:48

    保守

  • 121二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 00:05:40

  • 122二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:06:48

    🫕

  • 123二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 11:35:26

    ほしゅ

  • 124二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 16:55:39

    グツグツ

  • 125122/10/11(火) 19:13:34

    すまん、今日忙しくてジャンプ買えなかったから投稿明日にします。
    まだうっかり開いたYouTubeでおすすめトップにきた今週の扉絵しかネタバレ食らってないのでセーフ!

  • 126二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:27:29

    出産したんだねクシナちゃん、おめでとう!!
    一つ思ったんだけどこれ光月側詰んでないか?
    クシナちゃんが前世でどこまで知ってるかはわからないけどトキのことを知ってるってことは能力もわかってるしルフィ達を求めて錦えもんがトキトキするのもわかるし日和と傳ジローが小紫と狂死郎になるのもわかるしアシュラが酒呑丸になるのもわかってるし作戦が丸見えだし...

  • 127二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 22:18:00

    よかった、、子供無事に産まれたのか、
    いや本当に流産とかにならなくてよかった!
    子供はワノ国で育てるのかな?
    でもこれからのこと考えると百獣海賊団に預けた方が良いのか?

  • 128二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 00:10:59

    テレグラフで前スレから今までのSSまとめた

    レス毎の区切りを改行で示してるので改行の位置とかはちょっといじった

    それとテレグラフは半角の数字が変な表示になるので数字も全角にした

    いらなかったら消してクレメンス


    「転生したら黒炭オロチの姉だった」まとめ1「姉上ェ〜……! 腹が減って減ってしょうがねェんだ……助けてくれェ〜……」

    「うん。じゃあ、この林檎はオロチにあげよう」

    「ありがとう……! ああ、うめェ!!」

     日本の一般貧乏庶民として暮らしていた私は、ひょんなことから焼死して転生した。

     今世においての私の名前は「黒炭クシナ」。

     前世ではワンピースだけが唯一の楽しみであり、ワノ国編まで読破済みである。

     それ故に自分の姓が「黒炭」で、かつ弟の名が「オロチ」とわかった時点で転生を確信した。


    「姉上、どうしておれ達はこんなに貧乏なんだ?」

    「それは私達のお祖父様が罪を犯し、お家が潰れたからさ。この国では先祖のどうしようもない罪は孫子も背負うのが正しい〝しきたり〟なんだよ」

    「じゃあおれ達が石を投げられるのも、父上や母上が殺されたのも正しくて、仕方のねェことなのか?」

    「……うん。その通りだよ」

     このオロチという少年はワノ国編において、虐げられた過去を免罪符に民衆に悪逆の限りを尽くす人間になる。

     それが数え切れない悲劇を生み、多くの悲しみと苦しみ、そして怒りをこの国にもたらした。


    「いいかい、オロチ。人は悲劇を繰り返す生き物なんだよ。

     私達のお祖…
    telegra.ph

    「転生したら黒炭オロチの姉だった」まとめ2 数ヶ月経ち、私は〝白舞〟の霜月康イエの下を訪れていた。

     ひぐらしに言いつけられた、金を貯めて武器を増産し、カイドウを引き入れる手筈を整えるために。

    「クシナと申します。野盗に襲われ、家族が皆動けないほどの大怪我を負ってしまったのです」

    「おお、それは不憫だな……」

    「いえ……私は盲目ですが熱を感じることができ、動きに支障はございません。

     薬も作れますし、ある程度は戦闘もこなせます。言われたことは何でもやります。だからどうか、小間使いとして雇ってはいただけないでしょうか」

    「うむ、よかろう。ここで働くといい」

    「はっ、ありがたき幸せにございます!」


     未だなお、身を焦がす熱は私を離してくれはしない。

     一刻も早く、この苦痛を取り払いたい。

     その一心で私はあらゆる技能を貪欲に取り込んだ。

     〝呪い〟に追い立てられるように何かをしていなければ、身も心も炎に包まれて発狂死してしまいそうだったから。

     偶然にもその姿勢が康イエにも評価されたのか、小間使いの身ながら一目置かれ、重宝されるようになった。

     そうして康イエの下で働くこと数年、ついに〝花の都〟で〝山の神騒動〟が勃発。

     それによって都を追放された光…
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    「転生したら黒炭オロチの姉だった」まとめ3「これより、ワノ国は武器の生産国とする。よって各郷の男衆を速やかに武器工場へと移住させなさい。

     逆らう者は一族郎党皆殺しにして構わない」

    「な……!? 何を言っておられる将軍代理殿!」

     私の発布した新政策に城の老中達が驚き、反対の声を上げる。


    「何か?」

    「何か、ではござらん! 一体そんな横暴がまかり通ると思っているのか! あなたを信じてこの国を任せたスキヤキ様のご遺志を愚弄する気か!!?」

    「なるほど」

     当然予想できたことだ。

     だからこちらが言う言葉も決まっている。

     私は立ち上がって刀を取り、筆頭老中の頭上に刃を振り上げる。

    「つまり、叛意と取って構いませんね?」

    「な……ギャッ!!?」

     銀光が一閃し、断ち切られた首から噴水のように噴き出した鮮血が大広間を朱に染める。


     一瞬の間に広間に響めきが伝わるが、しかしこれでも国の重鎮を担う侍達を集めた。

     直ぐに動揺は収まり、刀を抜いて臨戦体勢に移行する。

     平時のワノ国ならば、こんな事態に陥ったとて直ぐ様事態が収束するのだろう。

    「な!? 正気か貴様っ」

    「覚悟はできておろうな!?」

    「頭の足りぬ者も多いですね……。カイドウ様!」

     だが私がこ…
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    「転生したら黒炭オロチの姉だった」まとめ4 おでん帰郷から一夜が明け、つい先程彼が花の都に討ち入ったと報告が入った。

     城の階下では人と人が争う剣戟の音が響き、大きな気配を垂れ流す存在が天守にまで駆け上がる。

    「クシナァァァーーー!!!」

    「お逃げくださいクシナさ……ぎゃあああーー!!?」

     烈火の如く怒りに震え、天に轟く雄叫びをあげるおでんが私の前に姿を表す。

     その五体から放出される覇気に当てられるだけで側使えの者達が泡を吹いて倒れてゆく。


    「〝桃源——」

    「セミ丸、バリアを」

    「十挙〟ァァァーーー!!!」

     おでんの渾身の一撃は、私の鼻先三寸で受け止められた。

    「何だこれは……!?」

    「お久しゅうございます。おでん様」

    「てめェ、どういうつもりだ……! 出てこい、クシナァ!!」

     おでんは防がれてなお執拗に攻撃を加えるが、鎮座するバリアに傷一つ付くことはない。


    「バリアは何者も寄せ付けぬという理屈じゃ。お前の強さは無意味だおでん!」

    「貴様、能力者か!」

     おでんは鬼のような形相で睨みつけながら問いかける。

    「父がお前を将軍代理に押したそうだな……おれが帰ってくるまで!

     だったらすぐにおれにその座を明け渡せ!! そんな偉いものになる気は…
    telegra.ph
  • 129二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 00:32:48

    >>128 、ありがとうございました

  • 130二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 07:34:46

    保守

  • 131二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 14:09:24

    保守

  • 132二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:48:52

    >>127

    クシナちゃんのことだし百獣に預けてそうだよな、ワノ国で育てるのはいろんな意味で危険すぎる、それに自分が経験した苦しみは絶対子供に経験させたくないだろうし

  • 133二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:49:30

    これヤマトが頭おでんにならないように処刑に来させないと頑張るクシナちゃんとかいるかな

  • 134122/10/12(水) 22:55:17

    ちょっと今日は投稿無理かもしれん。
    明日には多分いけるから待っててくれ!

  • 135二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 05:32:53

  • 136二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 07:33:00

    保守です

  • 137二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 09:22:12

    ホシュウ

  • 138二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 15:17:30

    保守

  • 139二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 15:55:47

    ほしゅ

  • 140二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 21:16:52

    保守

  • 141二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:11:15

    ...思ったんだがこれ子供の父親って誰だ?もしかしてカイドウさん?

  • 142二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:15:54

    >>141

    そもそもクシナ子作りできるような精神状態じゃなさそうだけど、本当に子供作ったのか?

  • 143122/10/13(木) 23:45:42

    保守ありがと! あとまとめてくれた人もありがとう! 感謝です!
    というわけで始めていきまーす

  • 144黒炭キズナ22/10/13(木) 23:46:46

    ★☆★

    「これより光月おでん並びにその家臣九名の〝公開処刑〟を執り行う!!!」

     将軍のお膝元〝花の都〟の公開処刑場。
     この日のため特別にあつらえられた巨大な釜。
     そこに煮えたぎる油の熱気はそれだけで人を殺すほどである。
     それを取り囲むように敷かれた竹の柵の外側から、ワノ国の民達は〝バカ殿〟の惨たらしい処刑を今か今かと待っている。

    「結局カイドウに勝てなかったんだな〝バカ殿〟でも……」
    「強さだけは本物だと思ってたのに……何だったんだ? あいつ……」

     彼らの光月に対する信頼はすでに地に落ち、せめて日頃の鬱憤程度は晴らさせてくれと言わんばかりだ。
     私はその様子を上座にあぐらをかいて頬杖をつき、心底つまらなそうに見下ろしていた。
     この公開処刑はカイドウ達が持ち込んだ映像電伝虫により、ワノ国中、例えどんな辺鄙な村でも周知されるように展開している。
     今日この日のことを、ワノ国の全ての人間に刻みつけるために。

  • 145黒炭キズナ22/10/13(木) 23:47:21

    「チャンスが欲しい! おれは生きねばならない」

     矢面に立つ光月おでんは、それでも尚一切揺らぐことなく毅然と言い放った。

    「十人全員で釜に入る。もしお前達の決めた時間耐え切った者がいたら、解放してくれ!!」
    「時計を持ってこい……一時間だ!! ウォロロ、耐えてみろ。風呂でものぼせる時間だぜ」
    「二言はないな?」

     おでんの要求をカイドウは了承した。
     私もそれに否やはない。

    「往生際の悪い……!」
    「最期までみっともねェな……」

     しかし民衆はおでんの覚悟を知らず、口々に罵倒の言葉を放つ。
     おでんはそんなことなど意にも介さず、無言で釜に飛び込んだ。

  • 146黒炭キズナ22/10/13(木) 23:48:28

    「グォオオオ……!!!」
    「主君を一人にするな! 続くぞ!! あの世で会おうぞお前達!!!」
    「そのまま橋板に乗ってろお前達……!!!」
    「え!!? おでん様!!!」

     彼は続く赤鞘を静止し、燃える油の火の海の中、九人を支えて釜に仁王立ちした。

    「ウォロロロ!! 確かに十人全員釜に入ってやがる!!!」
    「どうなってんだ奴の皮膚は……!?」

     彼の尋常ではない姿にどよめきが広がったものの、その困惑は最初の一分程度。
     5分経つ頃には処刑を見る者皆がだんだんと飽きはじめていた。

    「一瞬で終わるって聞いてたのに」
    「意外とつまらねェ……」
    「もっと悲鳴が上がったり、派手に死ぬもんだと思ってた」
    「先急ぐんだよなー〝バカ殿〟にこれ以上付き合ってられねェよ!!」

  • 147黒炭キズナ22/10/13(木) 23:49:03

    「……!!!」

     堪えきれなくなった民衆がついにその言葉を発した時、彼らの中に紛していた女忍者しのぶが、堪忍袋の緒が切れたとばかりに掴みかかって激情を露わにする。

    「誰がバカ殿だ!! もう一度言ったら殺してやる!!! 本物のバカはお前達だ!!!」
    「!?」

     しのぶの剣幕に民衆が怯み、或いは困惑の表情を浮かべる。

    「誰のお陰であんた達が今平和に生きていられると思う!? ここでおでん様を失ったらみんな思い知ることになる!! どれほどの不幸が食い止められていたか!!!」

  • 148黒炭キズナ22/10/13(木) 23:49:37

     そして彼女はおでんがワノ国に帰還し、城に討ち入った時のことを公衆の面前で暴露した。
     毎週定時刻に黒炭家への謝罪の裸踊りをすれば、城に幽閉されている民を百人ずつ解放すること。
     おでんが各郷をいつも見回り、人知れずワノ国を守っていたこと。
     ひぐらしが語った私の身に起きた過去。
     私が〝将軍〟でも〝独裁者〟でもなく、〝復讐者〟であるという眉唾も。

    「く、クシナ将軍! どうかこの処刑を取り止めてください!」
    「お願いします!」
    「私からも!」
    「拙者からも!」

     しのぶの発言に最初は困惑を示していた者も、今までの〝長引いている処刑〟こそがワノ国で唯一残った〝希望〟だったと気づき、口々に処刑の取り止めを懇願し始める。

  • 149黒炭キズナ22/10/13(木) 23:50:15

     私は民衆の内、初めに声を上げた男女四人へ向けて〝悪魔の実〟の力を解き放ち、飛ぶ斬撃によって首を刎ねた。

    「痴れ者……」
    「……!!」

     血飛沫を噴水のように撒き散らしながら倒れる者達の末路を見て、にわかに喧騒に包まれていた処刑場が静まり返る。

    「そこなくのいちはよくわかっている。この期に及んで、罪を持たないバカ者がいないなどという幻想は捨てよ。
     この処刑は叛逆者光月おでんとその家臣への誅罰ではない。お前達ワノ国の民への罰だ。よって取り止めることはない」
    「おれ達への……罰!?」
    「然り」

     そのためにワノ国全土、全国民へこの公開処刑の有様を中継しているのだ。
     途中でしのぶによる暴露があることも、すでに知っているため織り込み済みである。

  • 150黒炭キズナ22/10/13(木) 23:51:22

    「この国の民は愚かに過ぎた。真に敬うべきが誰かすらも判せず、自ら動くこともなく、されども自分達よりも〝下〟の者には鬱憤を晴らすようなことしかしなかった。
     〝九里〟は変わったと皆は言うが、馬鹿馬鹿しい。我々は一歩も歩みを進めてなどいない。
     この国は何一つ変わらず、愚かなままだった」

     私は感情一つ見せずに告げる。

    「この国の全ては間違いだった。よってワノ国の全てを滅ぼし、ゼロにすることにした。
     光月おでんの処刑はその狼煙に過ぎない。これによりワノ国最後の希望は潰え、滅びの道以外の全ては失われる。
     〝黒炭〟の怨念はそうしてこそで真にみそぎ祓われる。自業自得の炎に焼かれて燃え尽きるのが沙汰である。自らの愚行、愚昧さを悔いながら、ただ無為に薪として死ぬが良い〝ワノ国〟よ」

  • 151黒炭キズナ22/10/13(木) 23:51:57

     ここに至ってワノ国の住民全ては察した。
     〝怨念〟の恐ろしさを。
     自らの蒔いた火種より燃え広がった炎の大きさをようやっと理解したのだ。
     これより始まるのは、何の希望も許さない地獄であると。

    「……光月おでん。あなたには今日確実に死んで頂く。ワノ国の希望はこれによって幕を下ろす」
    「ハァハァ……ははは、そうだろうな。ここで死ぬってこたァよ、おれのやり方は間違ってことだ」
    「……」
    「救ってやれず……すまねェな、クシナ」
    「おでん様? 何を……」

     おでんはそう言って謝罪した。
     赤鞘達は怪訝そうにして主の心配をし、民衆には薪の爆ぜる音にかき消されてその声は届かない。

  • 152黒炭キズナ22/10/13(木) 23:52:23

    「だがな、おれの命が尽きワノ国の幕が閉じようと、人々の〝希望〟は次の世代に受け継がれる。
     20年後だ。あと20年もすれば……世界を分かつほどの巨大な戦争が幕を開ける。その戦の主役達がこの新世界へと押し寄せるだろう」

     この世に生まれて、私自身を一番理解してくれたのは他ならぬこの人であったろう。
     私を燃やす黒炭の恩讐はこの人を殺せと囁くが、私個人はこの人のことを悪く思ってはいなかった。
     だからこそ、全ての基点となるこの日を礎にすると決めたのだ。

    「長い冬の時代がやってくる……その時、すでにお前はお前でなくなっているだろうが、その最期にせめて一筋の〝救い〟があることを願っておいてやるぜ」

  • 153黒炭キズナ22/10/13(木) 23:53:13

     もはや熱気すら殺傷能力を得た地獄。
     煮えたぎる油がおでんを燃やす——しかしおでんは死ななかった。

    「お前達!!!」
    「おでん様……!!」
    「おれはこの国を〝開国〟したいんだ……! ワノ国は……いや、世界は800年の時を超え現れる〝ある人物〟を待っている!! その時に、そいつを迎え入れ協力できる国でなきゃならん!!」
    「あんたの夢なら拙者達の夢でござる!!!」
    「——よく言った!!!」

     そして約束の一時間、ついにおでんは釜の灼熱を耐え切った。

    「頼んだぞ、お前ら……! この国を〝開国〟せよ!!!」

  • 154黒炭キズナ22/10/13(木) 23:54:11

     おでんはそう言うやいなや、橋板を渾身の力で投げ飛ばし、赤鞘の侍達を〝九里〟へと逃した。

    「いいのか?」
    「解放すると言ったのはあなたでしょう? カイドウ。私は約束は守ります」

     私は電伝虫を手に取り、九里へ続く道中に追手を手配させる。

    「ですがまぁ、約束はあくまで〝解放〟のみ。始末しないとは言っていない」
    「ハァハァ……相変わらず屁理屈だけは達者だな、クシナ」
    「……見事な死に様だと、お前は語り継がれる」

  • 155黒炭キズナ22/10/13(木) 23:54:36

     カイドウがおもむろに銃を構える。

    「忘れてくれて構わねェ。おれの魂は生きていく!!」
    「ババアの件は悪かったな。殺しておいた」
    「真面目だな……せいぜい強くなれ」

     今際の際においてさえ、彼は笑ってみせる。
     窮地ほど笑い、笑うほどに強くなる。
     私が見ていた間、彼はいつでも笑っており、確かにそれだけ力強い益荒男だった。

    「〝一献の酒の肴になればよし〟」

     もし、オロチが生きていた時におでんと出会っていたのなら……違う未来もあっただろうか。

    「〝煮えてなんぼのォ〜〟」

     彼こそが〝ワノ国〟だった。
     彼を殺して、私はこの国を焼き滅ぼす。

    「〝おでんに候〟!!!」

  • 156黒炭キズナ22/10/13(木) 23:56:22

     この日のことは語り継がれなければならない。
     人々の記憶に、たとえ世代が移り変わろうと根付く鮮烈な記録として。
     国は終わり、地獄が始まる。
     本当の演目はこれからだ。
     この身に巣食う〝呪い〟の業火を鎮めるために、私はワノ国史上最悪の将軍にして、最後の国主となってやろう。

     広場を取り囲む民衆、その中に紛れて処刑を見ていた2人の子供に視線を移す。
     一人は般若面の裏で涙を流しながらも、おでんの勇姿に感服を示した少女。
     そしてもう一人、多くの民が涙を流しておでん死を悼む中、一滴の涙も見せることなく何かを決意する少年。

     未だ私の掌の上。
     20年後にこの国は真に滅びを迎える……。
     その時こそ、この身を焼き尽くす〝呪い〟に終止符を打つ時。

    「早く来い〝新時代〟……。
     願わくばその荒波が、渦巻く業火を消し去らんことを」

  • 157122/10/13(木) 23:58:14

    今日はこれでおしまい。
    明日は投稿できるかわからんが出来るだけ頑張ります

  • 158二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:59:08

    おでんは優しくて本当に良い男だな
    クシナちゃんの絶望を見抜き、最期に救いがあると良いと願ってくれている
    クシナちゃんもおでん本人には好感を持ってそうなのが辛い

  • 159二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 00:01:24

    お疲れ様です、やっぱヤマトはおでんルート行くか...
    男の子がもしかしてくしなちゃんの子供かな?
    しのぶのスピーチを知ってるってことは居残り組の居場所も完全に把握してる可能性が高いなくしなちゃん...
    カン十郎というスパイもいるしこれマジで光月家詰んでないか?

  • 160二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 00:03:22

    乙な物語でした

  • 161二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 00:10:58

    毎日の楽しみです、子供の父親が気になる...

  • 162二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 01:19:52

    お疲れっす!マジで面白かったです!
    これからどうなるかマジで楽しみ
    ''動物系’’の悪魔の実には意志があるらしいけどクシナちゃん大丈夫かなぁ
    心がもうボロボロだし乗っ取られはしないだろうけど精神蝕まれてそう

  • 163二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 02:09:42

    くっそ関係ないけどクシナちゃんってRED見たんかな?

  • 164二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 09:37:50

    今更次スレ来てるの気づいた
    いつも楽しく読ませてもらっております

  • 165二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 16:16:47

    保守

  • 166二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 17:25:54

    しのぶちゃんがクシナちゃんをちゃんと復讐者って理解して説明してるのが良い

  • 167二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:07:39

    ho

  • 168二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 00:21:02

    保守

  • 169二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 07:23:47

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 09:36:17

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 16:02:45

    保守

  • 172二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 20:16:11

    保守

  • 173二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 23:26:34

    クシナちゃんはこの先の未来をある程度知ってるけどやっぱ鬼ヶ島でカイドウに一回処刑されるんだろうか..?カイドウはオロチよりクシナちゃんのことを気に入ってそうだけどやっぱ新鬼ヶ島計画には邪魔な存在だよね...

  • 174122/10/16(日) 01:22:50

    すんませんちょっと予定が立て込んでるので火曜日ぐらいまで更新できないかも
    レポートと実習とバイトでちょっとキツキツ

  • 175二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 06:35:31

    リアル重点よー

  • 176二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 08:52:44

    保守です

  • 177二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 14:02:54

  • 178二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:04:21

    保守

  • 179二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 20:28:17

    保守です

  • 180二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 05:25:57

    保守

  • 181二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 07:47:29

    保守

  • 182二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 16:21:13

    保守

  • 183二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:15:50

    保守

  • 184二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 06:28:18

    保守

  • 185二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 11:45:28

    保守

  • 186二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 17:53:12

    保守

  • 187二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 19:00:02

    保守

  • 188122/10/18(火) 23:43:12

    更新遅くなってすまない!
    そろそろ投稿したいと思うんだけど、スレの残りが少ないので続きは次スレ立ててやりまーす!

  • 189二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 23:50:29

    了解です!展開が楽しみ!

  • 190二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 00:52:18

    埋め

  • 191二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 01:11:26

    追いついた!
    めっちゃおもろいな

  • 192二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 02:08:06

    うめ

  • 193二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 02:09:08
  • 194二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 09:16:58

    うめ

  • 195二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 09:57:59

    うめ

  • 196二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 11:47:32

    うめ

  • 197二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 14:01:36

  • 198二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 16:02:37

    うめ

  • 199二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 16:07:27

  • 200二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 16:12:17

オススメ

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