- 1二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 17:48:07
「格闘技を習いたい? 舐めてんじゃねえぞ! ガイ ジン野郎!」
「アウッ」
雨が降り盛る日、レムコ・ヤーコブはレスリングジムに門前払いを受けていた。
「ここもダメネ……」
レムコは力士だ。いや、力士だった。
所属していた相撲部屋で暴力沙汰を起こし、自ら出ていったのだ。
その後デビル・ファクトリーで受けた投薬の副作用により、以前の恵体が嘘のようにやせ細ったレムコを、誰も助けようとはしない。
宮沢熹一、キー坊に敗れて数年。まともな治療も受けなかったレムコの身体はもう限界だった。
「もう……おしまいネ……」
行く当てもなく彷徨ううちにたどり着いた街で、彼は力尽きようとしていた。
(このまま死ぬなら……せめてもう一度だけ..ママに会ってから死にたかったヨ)
そんなことを考えながらふらつく足取りで歩いていると、 背の低い老人にぶつかる。
「あッ、ソーリーネ……」
「おっと、こっちこそすま……レムコ?」
思わず謝罪して気づく。
「お……親方?」
目の前の老人は、レムコをハワイで見出し、必ず横綱にすると約束してくれた──そして、他でもないレムコが、その想いを踏みにじった親方だった。 - 2二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 17:49:42
読ませろ 早く読ませろ
- 3二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 17:58:57
「レムコ……お前、あんなとこで雨に打たれて、なにしとったんや」
親方の相撲部屋で、ずぶ濡れになった身体を拭いている最中、不意にそう尋ねられる。
「それは……」
レムコは言葉を詰まらせた。
相撲を辞めて人体改造を受け、あまつさえドーピングの副作用で死にかけていたなど言えるはずがない。
「……デビル・ファクトリーか?」
「!」
親方の言葉にハッとする。
「だからあの男には関わるなとあれほど言ったやろうが……」
親方の声音からは、怒りよりも悲しみの色が強く感じられた。
「……本当に申し訳ないネ。もう親方に迷惑はかけられないヨ」
そう言って立ち上がろうとするレムコだが、思うように力が入らない。
「おいおい、どこに行くんや。今更どこへ行こうと変わらんやろがい」
「……」
親方の言葉にも、レムコの心は揺らぐばかりだ。
「……ワシの元で相撲を取る気はないか?」
そんな彼に、親方は再び声をかける。
「ワッツ?」
思いもよらぬ言葉に戸惑うレムコ。
「ママさんのために横綱になるんやろ? お前はまだ、やり直せるんや」 - 4二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:09:06
「でも……ボクは同部屋のみんな傷つけたネ。きっと大問題になってるヨ」
大勢の力士を病院送りにしたとなれば、新聞の一面を飾っていてもおかしくはない。
そう懸念するレムコの肩を、親方はポンっと叩く。
「その件に関しては大丈夫や。幕下以下の力士にボコボコにされたなんて、恥ずかしゅうて誰にも言えんもんや」
確かに、格闘家であるからこそそんな話は表に出したくないのだろう。
「それに……お前が誠意をもって一からやり直すなら、あいつらも認めてくれるはずや」
親方の言葉を聞きながら、レムコはかつて自分が犯した罪を思い出す。
「アイム……バット…………」
母国語で呟くレムコに、親方は続ける。
「相撲は実力だけでは勝てんスポーツや。強いだけでは上には行けへん。周りの人間との人間関係を築くことも大事なんやで」
その言葉を聞いたレムコの目尻には涙が浮かぶ。
「どうじゃ、やってみるか?」
改めて問われたレムコは、深く深呼吸をしてから答えた。
「イエス! プリーズ!」 - 5二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:22:54
「お……お前はレムコ!」
相撲部屋に入ると、かつての同部屋仲間だった力士たちが驚愕する。
「おどれ……どの面下げて戻ってきたんや」
かつてレムコが打ちのめした一人、関取である神魔関が詰め寄る。
「神魔関……ボクは……」
「今更何を言うても遅いで」
しかし、そんな神魔関に対して親方は言う。
「レムコは反省しとる。どうか許してやって欲しい」
「ボクは一からやり直すネ、ちゃんこ番もやるヨ」
親方に続き、レムコも頭を下げる。
「なんだあっ、そんな程度で許されると思ってんのか、あーーっ」
周囲の力士たちが野次る中、神魔関は静かにレムコを見据える。
「ふんっ、まあええわい。親方に免じて水に流したるわ」
「神魔関……」
「勘違いすな。わしらは別にお前を許したわけじゃないで」
「わかってるネ……」
そう言いって、レムコは深くうなずく。
「ほんならまずは雑巾掛けからや」
「はいヨ!」 - 6二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:31:23
神魔関が誰なのか教えてくれよ
- 7二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:33:36
初日の作業を終えた後、レムコは親方と今後について話をしていた。
「レムコ、お前は長い間休場扱いで番付から名前を消されとるんや」
「えっ」
大相撲番付は十段階に地位が分かれており、以前レムコが相撲部屋に所属していた際は幕下──ちょうど一人前とそれ以下の分岐点の階級だった。
しかし、長い休場により番付を下げられ、ついには番付外にまでなってしまったという。
「つまり、前相撲……お前は忘れとるかもしれんが、試験を受けなあかんのや」
「オーケー」
「まあ、それはお前なら問題ないやろ。ただその前に……」
そう言って、親方はレムコの痩せ細った身体に目を向ける。
「そないに痩せた身体じゃあ相撲どころやあらへん」
「ハウッ」
「やから、肉体作り、そして薬の後遺症について詳しい人間を呼んである」
「リアリー!?」
親方の言葉に驚くレムコ。
「まあ、今日の所はもう寝え。明日も早いんや」
「ラジャー」
- 8二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:52:49
翌日、まだ陽も上がりきらない朝にレムコは起き上がる。
周りを見ると、今のレムコと同じく番付が下の力士も次々と目を覚ましていた。
そして、たっぷり一時間はかけて四股やすり足で汗を流すと、親方が稽古場に現れる。
「みんなおはようさん」
「おはようございます!」
挨拶を交わした後、親方はレムコの方へ近づいていく。
「レムコ、昨日話しとった先生が今日来る。それまでしっかり稽古をやっとくんや」
「ラジャー」
親方の呼びかけにレムコは元気よく答える。
その後、レムコは先輩力士たちと共に土俵上で廻しを付けずに取組み、ぶつかり稽古を行う。
そしてそれが終わると、風呂場へ向かっていく関取たちを尻目にちゃんこ鍋を用意する。
以前のレムコは、稽古の時間を削って兄弟子の世話をするということに耐えられなかった。
だが今日は、母のため、そして親方のためになんとか耐えぬく。
そうしているうちに、長い一日もほぼ終わり、自由時間を迎えたレムコは親方を待っていた。
「レムコ、先生がきよったで」
「はいっ」
親方に連れられてやってきたのは、白衣を着た小柄な男だった。
「はじめまして。私が筋肉の専門家……立川博士です」 - 9二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:53:50
それはダメだろ(ガッ
- 10二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:54:31
なにっ
- 11二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:54:36
あうっ
いきなり始まるのかあっ - 12二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:54:54
あかん(あかん)
- 13二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 18:55:59
ふざけんなっ良SSかと思ったら猿SSやんけっ
- 14二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 19:06:13
「なにっ」
思わずレムコが声を上げる。
それもそのはず。立川博士と名乗ったその男は、デビル・ファクトリーにいた研究者とよく似た気配をまとっていた。
「この立川博士に、今日から自由時間を使って治療してもらうんや。失礼のないように頼むで」
「い、イエス……」
不安を感じつつも、親方の紹介した人物であるならと、レムコは渋々施術を受け入れる。
「それではその椅子に座って」
言われた通りに座ると、立川は注射器でレムコの血を採取する。
「その……」
「はい?」
「ドクターは……デビル・ファクトリーの人間ネ?」
レムコの質問に、立川は少し驚いたような顔をして、質問に答える。
「デビル・ファクトリー……懐かしい名前だが、生憎私はもう裏とは関係がない」
「それは……? リーズンを答えてほしいネ」
「まるで尋問だね。……懲りたんだよ」 - 15二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 19:54:47
「懲りた?」
「まあ、色々危険な目にあったということさ」
そう言うと、レムコの身体の調査に戻る。
「ただ悪いことばかりでもなくてね……外道を働いた私でも、助けてくれる人間がいたんだ」
その言葉に、レムコはある少年を思い出す。
薬で得た強さに溺れた自分を打ち倒し、道を示してくれた少年──キー坊を。
「さっきも言った通り私は筋肉、大きく見ると人体の専門家だ。だからそれを……他人を助けるために使ってみようと思ったんだ」
「……」
正直に言って、レムコは立川のことが信用できない。
だが、親方が紹介した博士であり、そしてどこか自分に似たこの人物を信じないということは、自分自身を信じないということかと思ってしまった。
だから、レムコは立川の言葉を信じることにする。
「なるほど……大方状態は見えてきました」
「ドクター、ボクは治るのネ?」
「はい、薬の副作用は治療薬を支給しますので問題ありません。肉体作りに関しては……力士の筋肉は専門外ですが、少しずつ食事の量を増やしていけば問題ないでしょう……タチカワ・スペシャルを打てばすぐなんだけどなあ」
最後に何を言ったかは聞こえなかったが、立川の言葉にレムコはホッとする。
まだ相撲で成り上がるチャンスがある。それだけで、気力がわき上がってくるかのようだった。
その後立川と別れ部屋に戻ったレムコは、久しぶりにぐっすりと朝まで眠った。 - 16二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:08:17
何故か所々の単語にラリーを感じて戸惑ったのは俺なんだよね
- 17二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:12:09
なんじゃあ、この付け合わせのミックスベジタブルみたいなキャストは
- 18二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:14:43
- 19二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:16:32
なんじゃあ、この神SSは
- 20二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:17:08
- 21二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:30:37
「おおおっ」
「な……なんだあっ」
翌日からのレムコの気合の入りように、同部屋の力士たちは驚愕する。
誰よりも早く起き稽古に取り組み、よく食べ、よく眠る。たったそれだけではあるが、尋常ではない気迫が宿っていた。
そして、稽古が一段落するとまたちゃんこ鍋の準備をし、兄弟子の力士たちの世話をする。
それは、以前のレムコでは考えられない光景であった。
そうして数カ月が経過し最盛期に近い体型を取り戻したレムコは、前相撲に楽々と合格し、最も下の番付、序ノ口へと成った。
「やったネ親方!」
「よくやったでレムコ! ……やが、本番はこれからや」
険しい顔で親方が言う。
番付を上げる方法はいたってシンプル。奇数の月に行われる本場所で一定以上の勝ち星をあげること。
「でも、関取でもないやつにボク負けないネ」
「アホっ、それがそうとも言えんのや」
「えっ」
親方はレムコに記事を見せる。
「ここ数年怪我で休場しとった怪物力士……剣山が復帰すんねん」
力士剣山。レムコが休場している間、圧倒的な強さで暴れまわり、いよいよ幕内へとなるか……と思われた矢先、事故により膝を壊し休場していた力士。
「やつはな……はっきり言って、実力だけなら横綱に近いもんをもっとる。レムコ、お前壊されてまうぞ」 - 22二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:41:06
「親方……」
親方の言葉に、レムコは身震いする。
「でも、ノープロブレムネ親方。ボクは横綱になる男だヨ。心配ないネ」
「レムコ……」
自信満々に言い放つレムコを見て、親方はため息をつく。
正直なところ、力士の肉体を取り戻したばかりのレムコには荷が重い相手と思っていた。
だがレムコは、大きな目標のためならばと、その難敵に立ち向かうことを決めたのだ。
「わかった、レムコ。次の本場所まで、限界まで鍛えたる」
「ゴッツァンです!」
そして一カ月後、ついに本場所の時が訪れた。 - 23二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:42:57
レムコと立川博士をどう噛み合わせるんだよあーっって思ってたらいい感じに纏まってて驚いたのは…俺なんだ! 見事やな…
- 24二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 20:54:58
「久しぶりの本場所はどうや?」
「神魔関……」
グラビアアイドルを表紙にした雑誌を携え、神魔関がレムコに話しかける。
「もちろん緊張してるネ。でもそれ以上に……」
レムコの身体から闘気が漏れ出し、その身体を包む。
「鍛え上げたスモウの技を奮いたくてウズウズしてるネ」
「……ふん」
神魔関が鼻で息をする。
「やっぱりお前は半人前や」
「えっ」
「ええか? 相撲は神事や。他人を傷つけるもんやあらへん」
そう言われハッとする。
レムコはまた強さに囚われ、力を振るうことしか考えていなかったことに気がついた。
(そうだ……ボクは強くなって何がしたかったんだ)
レムコの脳裏に、母親の顔が浮かぶ。
(ボクは……強くなってママのために生きるネ)
レムコは改めて、己の使命を思い出す。
「サンキューネ神魔関。ボクは、大切なことを思い出せたネ」
「ふんっ」
鼻で息をして、神魔関は続ける。
「お前のちゃんこはマズイんや。はよ上にあがって雑用なんてやめてまえ」
「!」
思わぬ激励に、レムコは目を見開く。
「ごっつぁんです!」
頭を下げるレムコを背に、神魔関は手をぶっきらぼうに振りながら国技館へと向かって行った。 - 25二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:29:59
本場所は十五日にかけて取り組みを行うというものだ。
現在レムコが所属する序ノ口が行う取り組みは二日ごとに一回ずつ行い、計七回の取り組みを行う。
その中で必ず剣山とぶつかるという確証はないが、強者と対決しないことを祈っているようでは、横綱になるなど夢のまた夢。
レムコは気合い十分で土俵へと向かうのだった。
そして、レムコは順調に白星を重ねた。
しかし最後の取り組み。そこで、全勝同士である剣山とぶつかることが決定する。
「レムコ、大丈夫なんか?」
「うん、全然平気ネ親方。親方が鍛えてくれたおかげで、この程度の相手余裕ネ」
強がりではなく、本当にそう思えた。
「それじゃあ行ってくるネ」
「待ってくれ! レムコ!」
「ドクター?」
そう言って現れたのは立川博士だった。
「ど、どうしてここに?」
「水臭いねえ。私も君の肉体改造の成果が知りたいんだよ」
相変わらずの立川に、レムコと親方、兄弟子たちは苦笑いする。
「それじゃあ、最後に気持ちよく勝ってくるネ」
そうしてレムコは土俵入りの準備をする。
勝負の前の儀式を慣れない動きでこなすと、剣山と互いに向かい合う。
「お前が左竹親方の弟子かい」
「なにっ」
「あんなジイサンに相撲を習うとは物好きやのお」 - 26二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 21:50:43
「お前なんぞよりワシのほうが上っちゅうことを教えたるわ」
親方を愚弄され、レムコの頭に血が上っていく。
「二人とも、構えなさい!」
土俵の上で私語を出す二人に、審判が口を挟む。
「レフェリーの言う通りネ。強い弱いは言葉じゃなくスモウで決めるネ」
「おおっ、上等やん」
そう吐き捨て、互いに腰を落とし仕切り線に拳をつく。
「はっけよい……のこった!」
「おおおっ」
レムコが吼え、渾身のぶちかましを放つ。
超重量級であるレムコと、まともにぶつかって勝てる人間はそういない。それが、たとえ力士であっても。
しかし、今回は違った。
「なにっ、レムコと互角!?」
互いに勢いよくぶつかりあい、大きくのけぞる。
「ぬうっ、掌爆!」
レムコ渾身の張り手、鉄にも手形をつける“掌爆”が剣山へと襲い掛かる。
だが、それは身体を傾けることにより回避される。
「こんどはこっちの番やでっ!」
剣山の張り手がレムコの胸を打つ。
「ぐうっ」
「どうや俺の張り手は! 骨を通して内臓に響くやろ」 - 27二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:11:30
「これはまずいで」
「神魔!」
観戦していた親方たちの横に神魔関が腰かける。
「レムコは確かに頭抜けた身体能力を持つ……やけど、それが原因で同格に弱いんや」
「ど、どういうことです?」
相撲の素人である立川博士が尋ねる。
「身体能力だけで十分以上に強いレムコは、同格の力士との取り組み経験に欠けとるんです」
レムコは強すぎた。関取である神魔関でさえ相手にならないほどに。
だがそれ故に、自分以上の力士を知らない。つまり、本番で投げ技を受けた経験がない。
それは、260kgの巨体を投げられる相手に廻しを掴まれてしまえば、敗北がほとんど必定ということだ。
「ああっ、あれ!」
力士の声に、思わず親方たちは土俵へと振り向く。
「剣山の代名詞……悪魔の小指が廻しにかかっている」 - 28二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:16:51
- 29二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:21:54
◇このスモウ・知識の量は…?
- 30二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:23:30
待てよ 懐かしい名前 も撃ち込まれてるんだぜ
- 31二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:36:49
「これで終いやっ」
剣山が叫ぶと、レムコの巨体が宙に浮く。
「「「な……なんだあっ」」」
あわや地面に叩きつけられてしまうのか、そう皆が思った時、異変が起きる。
「うおおっ」
「なにっ」
空中で回転し、そのままつま先で土俵に着地する。
レムコ天性の格闘センスと、立川博士による繊細なバランスの肉体作りが、奇跡を生んだのだ。
「な、なんやおのれ、曲芸師にでも目指しとるんか!?」
「違うネ。ボクが目指してるのは横綱だけヨ」
決死の状況をやり過ごしたレムコに、立川博士は感嘆する。
「おおっ、これなら勝てますよ!」
「いや、そう簡単にはいきませんで」
「ううん」
神魔関に親方が同意する。
確かにレムコの動きには驚かされた。
しかし、レムコの体重を支えた足には尋常ならぬ負担がかかったはず。何度も使える技ではない。
それに、剣山は投げだけではなく突きも一流だ。
(今のレムコが剣山に勝つには……やつの休場の原因……膝の爆弾を突くしかない!) - 32二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:56:34
聞いたことがあります……力士の小指の力
某格闘漫画の某柔術家もそれで不覚を取ったと…… - 33二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 22:58:08
「うおおおっ」
レムコが下段から掌爆を放つ。
(またそれかい! 何回でも避けたるわっ)
身体を反らしてなんとか回避する。だが、無理に避けた反動で右膝に痛みが走る。
「はうっ」
そして、レムコの攻撃はまだ終わっていない。
「おおっ、“デーモン・スラップ”!!」
右手での下段からの左手による振り下ろし。デビル・ファクトリー時代に編み出した掌底のコンビネーションが、剣山の身体に炸裂する。
「な……なんだあっ、あの技は!?」
兄弟子たちが驚愕の声を上げる。
(デビル・ファクトリーで覚えた技……最初は嫌でしょうがなかったけど、今は違うネ)
レムコは、殺人術を扱いながらも心優しかった少年、キー坊のことを思い出す。
(技に善悪はない。だから……)
「ママからの愛情、親方からの信頼、兄弟子たちの厳しさ……そして、デビル・ファクトリーでの苦しみも、全部血と肉と骨に変えて、ボクは強くなるネ!」 - 34二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:47:35
うーっ続きを読ませろ
- 35二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:49:11
「しゃあっ」
掌爆で怯んでいる剣山の廻しを掴み、思い切り土俵際へ押し出す。
「ふざけんなっ、こんなとこで負けてたまるかいっ」
押し込まれながらも、剣山は必死に抵抗する。
「“うっちゃり”じゃいっ」
「なにっ」
土俵際まで追い込まれた剣山は、自分ごとレムコを投げ出しにかかる。
「はうっ」
そして二人は、ほぼ同時に土俵の外へ倒れこんだ。
「は……判定は!?」
審判たちがビデオを確認し話し合いを始める。
「おい、おどれ……」
それを眺めていたレムコに、剣山が声をかける。
「おどれ、俺の……ワシの膝を庇って自分から下になったやろ」
「そっか、バレちゃったカ」
レムコは苦笑する。
「どうしてそんなことをした? ワシに負けたくなかったんとちがうか?」
その問いに、レムコは笑顔で答える。
「相撲は神事ネ。相手を壊すのが目的違うヨ」
「……ふんっ、ワシの完敗やな」
そう剣山が言った瞬間、審判が声を上げる。
「これは……剣山が先に手をつけている! ヤーコブの勝利です!」
「おおおっ、レムコが勝った!」
親方と立川博士が手をとりあって喜ぶ。 - 36二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:49:25
それを尻目に、剣山が再度レムコに問いかける。
「なあ……おどれは、どないしてそないに強いんや」
その言葉に、レムコはたった一言で答える。この上なくシンプルな理由で。
「そんなの決まってるネ。……ボクを支えてくれた人、みんなグッドファイターだからネ」
そう言って、レムコは親方達の元へと駆け寄る。
横綱へなるための第一歩を、快調に踏み出したことを祝うために。
この先にどんな苦難が待っていても乗り越えるために、レムコは強く、強く今を生きている。
~おわり~ - 37二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:52:30
見事やな…ニコッ
- 38二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:55:08
俺…また素晴らしいSSに出逢っちゃったよ
- 39二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:55:15
真正 “支援”
- 40二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:56:30
爽やかで良いっスね
- 41二次元好きの匿名さん22/10/02(日) 23:56:45
うまっ
それに…おもしれーよ - 42二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 00:00:28
おもしろっ
けど…(所々に挟まったラリー節で)集中できねーよ - 43二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 00:01:11
俺はSSを書ける奴は無条件に尊敬する
神聖なる猿漫画から聖なるエッセンスを抽出し紡ぎあげるのはマネモブに与えられた最上の能力だからな