「おいシリウス」SS

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:17:02

    少し真剣な、怒りを孕んだ口調でトレーナーが私を呼ぶ
    いつものように、わざとぶっきらぼうに返す
    「なんだよ?」
    「お前またグラウンド無断占拠したらしいなァ」
    「こっちにまで話が来て面倒なことになってるぞ」
    いつも私がからかって遊んでいる時の、困ったような、優しく諭すような口調とは少し違う。
    そんな様子に少し戸惑いながらも、いつものように言葉を返す
    「ハッ それは承知のうえだろ?なんたって私のトレーナーになってるんだからな」
    「私の境遇も、あぶれたウマ娘とつるんでることも知ってて申し込んで来たんだからなァ」
    「それにお前が怒られるだけじゃねェか、私には関係ねェ〜よ!」
    「やめて欲しいんなら、相応の頼み方ってのがあるんじゃねぇか?」
    いつものように挑発的な態度をとる。私のトレーナーは不思議な男だ、どれだけ私にバカにされようといつもヘラヘラしている、まるで私のことを全部見透かしているように。
    「まぁシリウスのためなら俺の頭なんざいくらでも下げるけどなぁ」
    「そのうちお前退学なるよ?」
    全くなんなんだこの男は、優しいのか?何も考えてないのか?
    「退学なんてなるわけないだろう、あの生徒会や理事長がそんな大それたことできるわけ無ェじゃねぇか」
    「お前なぁ、舐めてるといつか痛い目見るぞォ?まぁいいや、とりあえず俺怒られてくるから、自重トレーニングでもしてて」
    私の代わりに怒られてくれるのはありがたいが、いまいち真偽は測りかねる。最近では、私の取り巻きの面倒も一緒になって見てくれている。それも当たり前のように。多分底抜けにお人好しなんだろう。そんなことを考えていると、すでにトレーナーの姿は無かった。
    「…行っちまったよ」
    無人になったトレーナー室で、一人茶をすする。あんなトレーナーでも居なかったら暇なもんだなぁ。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:18:26

    あのあとトレーナーは例のごとくヘラヘラしながら帰ってきた
    「お前トレーニングしてないだろ。自由か」
    「…えらく遅かったな。説教はどうだった?げんこつのひとつでも貰ったか?」
    「いや…でもクソ厳重注意くらったわ。ついでにスーツを着ろだの、ピアスは外せだの、タバコをやめろだの、いつもの説教もおまけ付きでな。」
    それはその通りだろう、と思う。この男はトレーナーのくせにいつもパーカーかジャージで、髪の毛プリンで、喫煙者で、左耳に4つのリングピアスをつけている。なんなら右耳にも1つ開けている。少し首を動かすだけでピアスが触れあってかちゃかちゃと音をたてるし、近寄ると、あの独特な匂いも香ってくる。
    「遅くなったのはタバコ吸いだめしてきたからだね。トレセン学園でタバコ吸えないから。近くのコンビニまで行ってまとめて吸うのよ」
    「へェそうかい」
    「シリウスは俺に文句言わないから楽でいいね」
    まぁ文句が無いわけではないのだが。煙草に関しては目の前で煙を出しているわけではないし、ウマ娘だって耳飾りをつけている者もいる。キチンとトレーニングしてくれるのなら、なんだっていいのではないかと思う。
    「まぁそれはそれとして、しばらくは大人しくしてろよ?謝罪の言葉のレパートリーも少なくなってきたし」
    「はいはい」
    全く、不思議な男だ。

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:24:19

    それから半月ほどたった頃、暇を持て余していた私の元に1人のウマ娘が走ってきた。いつも私とトレーナーが面倒を見ている、いわゆる取り巻き、落ちこぼれと呼ばれる類のウマ娘たちのうちのひとりだ。息も絶え絶えでなので、どうしたのかと聞くと、同じく私たちが面倒を見ているウマ娘が喧嘩沙汰を起こしてしまったらしい。
    「しょうがねェなぁ、案内しろ」
    そう言って連れてこられた場所は、想像をはるかに超えて凄惨な状況だった。話を聞くと、同じレースに出た5着のウマ娘と6着のウマ娘が、1着のウマ娘に暴力行為をしたらしい。1着を取ったウマ娘はそこそこに有名な娘で、最近はGIにも出走していたはずだ。今は鼻血を出してぶっ倒れているが。だが問題はそれ以上に、他の二人だった。
    「ウチらみたいな落ちこぼれを相手にして楽しいか!?裏ではいつもバカにしてるんだろ!!」
    「ワタシたちの努力を嘲笑って!絶対に許さない!!」
    そのふたりは、半ば狂乱状態で、罵詈雑言を並び立てていた。
    「お前は救護班を呼んでこい!!」
    私を呼びに来た娘に指示を出す。
    また走らせて悪いなぁ、と少し冷静な自分がいた。そして2人を宥める。
    「待て!落ち着け!2人とも!」
    興奮状態の2人をなんとかなだめると、ぽつぽつと話を始めた
    「シリウスさん、ごめんなさい、」
    「わたしたち、嬉しかったんです。こんな落ちこぼれでも、シリウスさんとそのトレーナーさんがちゃんと相手してくれて、それで、」
    「ちゃんと練習して、強くなった気がしたんです、それでも、勝てなくても、楽しくレース出来たらいいなって、思って、それで、」
    涙でぐしゃぐしゃになりながら、2人は話す
    「でも、無理だったんです、あの娘が一着をとって、それで、わたしらに向かって、」
    「所詮落ちこぼれ、落ちこぼれ相手にお山の大将してる奴と3流トレーナーの練習ならこと程度か、って」
    「それで、わたしたち、落ちこぼれで、バカだから、どうしたらいいかわかんなくなっちゃって、」
    「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
    気がついたら周りが騒がしい、救護班が到着したようだ。私は、2人の頭をそっと撫で、話しかける
    「そうか…」

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:24:48

    いや、話しかけたというのは違う、これ以上言葉が出ないのだ、2人の気持ちはわかる、だがこんなことは望んでなかった、このふたりは退学?元を正せば私のせい?私とトレーナーのせい?思考がまとまらない、なんとか言葉を出そうとしていると、何やら委員が来て、二人を連れていった、二人の瞳は私に向かっていたが、その視線に応える勇気は私にはなかった。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:27:12

    「聞いたかシリウス、あの2人しばらく謹慎だって」
    「…そうか」
    あの日から二日経っている。が、ずっと考えている、何が悪かったのか。私?トレーナー?煽った娘?それとも本人たち?何も答えが出ない
    「お前めちゃくちゃ思い詰めてんなァ」
    そのトレーナーの一言で、何かの糸が切れた
    「そりゃそうだろう!!何もかも納得行かない!あの二人は結果が出なくても努力してた!私も!お前も!サポートをして!やっとレースが好きになって!やっと出たレースで!結果が出なくても楽しいって言ってたんだ!それをバカにされて!私達までバカにされて!お前は悔しくないのか!?何も感じないのか!?納得できてるのか!?」
    思いのまま言葉をぶつけてしまう、このトレーナーはいつもヘラヘラしているだけだ、と、つい辛く当たってしまう

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:30:32

    「そりゃ俺だって思うところはあるよ」
    「でも今回みたいなのはなァ、まぁ言ってしまえば誰も悪くないんだよ」
    「あの二人に手を貸した俺らはさァ、学園からサポート受けられない娘達に手を貸してるけど、それは悪いことじゃないだろう?まぁ手段は別としてね?」
    「で、レースに出てた2人もさぁ、やっと前向けるようになって、後味は悪くなっちゃったけど気持ちいいレース自体はできたじゃんね?」
    「で今回ボコボコにされた娘もさぁ、ま、発言は悪かったかもしんないけど、俺らが面倒見てる娘達とは比べもんにならんくらい努力してたわけよ、腐らず、諦めず、ひたむきに、前向きに。GIは才能だけじゃあ行けないからね。幸い後遺症もなかったみたいだし」
    「じゃあ今回の件はさ、何が悪かったと思う?」
    そう言われると、言葉に詰まる、何よりあのヘラヘラトレーナーからこんな思慮深い言葉が出るとは思っていなかったので、正直驚きも含まれている。
    「……私は、何が悪くて何が良かったとしても、こんな結果は受け入れられない。」
    子供じみたワガママな答えだと、自分でも思う。だが、これが本心なのだ。自分に腹が立つ。
    「そっか」

    「シリウスは優しいね、それに真面目だ。」

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:31:51

    予想外の言葉に戸惑う私に構わず、トレーナーは言葉を続ける。
    「この話は誰も何も悪くない、シリウスも含めてね、それなのにシリウスはずっと悩んでる。言ってしまえば他人のために。ここまで人のことを想えるのはシリウスが優しい証拠。そして今回の件には答えなんかない、ちょっと歯車が狂っただけさ、それなのにシリウスはどうすればみんなが幸せだったかを考えている、自分が納得できるまで、答えなんかないのにね。真面目、大真面目だよ、そして優しい。優しすぎるくらいにね。」
    「あまり一人で背負いすぎるなよ。俺だって一応トレーナーなんだから。二人三脚で行こう。話ならいくらでも聞くよ?」
    肩の力が抜けるのを感じた。まさかこのトレーナーから安心感を感じるとは。
    「ハッ 二人三脚か 私の足を引っ張るなよ?”トレーナー”君?」
    「おっ いつもの調子に戻ったねェ、いいこといいこと。 肩の力抜いてさ、ゆる〜く行こうや」
    「ハハッ そんなんじゃついてこれねェだろ」
    「フフン 確かにね」
    何かわだかまりが取れた気がする。今日のところは素直にトレーナーに感謝しとこうか。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:33:48

    〜2日後〜
    「シリウス」
    トレーナーがいつにも増して真剣な、それでいて何か含みがあるような声で呼ぶ。多少の不安感を覚えつつ、いつも通り返事をする。
    「なんだ?」
    「こないだの件の話なんだが…」
    いつもはヘラヘラペラペラと話すのに、今日は歯切れが悪い。少し苛立ちを覚え、急かす。
    「それがなんだ?」
    「二人の責任所在が、少しだけ俺らにあるってなっちゃった…」
    「つまり…二人が事件を起こしたのは、俺らのせいでもあるってことでクソ問題になっとる…」
    「はぁ!?」
    と言いつつも、少し筋が通っているとも思う、が、納得はできない。
    「どうなるんだ、私らは。学園追放か?」
    「いや、理事長、理事長代理にはもう報告書書いて出してるから、そういうことにはね、ならないと思うんだけど…」

    「シリウス、お前の父親がきてなんか話をするらしい」

    「シリウスの父親ってレース界隈のお偉いさんじゃん?こんな事件があったら黙ってないんだよね…しかも自分の娘の名前が出てるとなるとね…。やっぱり来るよね…。こんな学校には置いておけないから、ってシリウスを連れ戻す気満々らしい。あと俺をこの業界から追い出すとかなんとか言ってるって。」

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:37:51

    ??????????

    なんて? あの父親が?来る?連れ戻しに?
    しこうがおいつかない。
    頭が真っ白だ。
    トレセン学園にきてやっと解放されたと思ったのに。
    …心臓の音がやけにデカい。全身から嫌な汗が吹き出る。
    「それは…いつの話だ?」
    少しでも猶予が欲しい、逃げ出してしまいたい。
    「今日の19時からって聞いてる。」
    そんなの、あと3時間もないじゃないか。聞いてない。だれかたすけて。あいたくない。
    「大丈夫か?シリウス。」
    へんじができない
    「呼吸も変だし汗もすごい出てるぞ」
    「もしかして父親となんかあるのか?」
    「もし嫌なら俺だけで行っても​────
    「ぅゔるさいッ!!少し黙れッ!!!」
    肩で息をし、拳は手のひらに食い込むほど強く握っている。心配するなと言う方が無理なくらいだ。ましてやこの私のトレーナーなんかはよく人を見ている、さらに異常な状態だと思うだろう。だがもうどうしようもないのだ。私の父親は1トレーナーが意見なんかしていい人ではない。大人しく帰ろう、また昔に戻るだけだ。そうやって考えているとだんだん諦めがついてきた。この感じは、前にもあった。私がどうしても出たかったレース。私が目標にしていたレース。それを直前で父親に出るなと言われた時の、アレだ。汗も、荒い息も引いていく。せっかくこれからトレーナーと二人三脚が始まるところなのに。私はどこまでも「不自由」だ。

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:39:10

    「おいシリウス…」
    トレーナーが心配してくれる。こんなやつでも、いざ離れるとなると寂しいもんだな。
    「トレーナー」「今まで」
    言いかけたところで、両の手を優しく握られた。そして、真剣な目で、私の目をまっすぐ見据えて語りかけてくる。
    「シリウス、父親と何があったかとかは言わなくてもいい。だからこれにだけ答えてくれ、”お前は父親の所に戻りたい”か?」
    今まで、横暴で、舐めて、バカにして、からかってきたのに、なんでこんなに私のことを気にかけてくれるんだろう。優しさで、いっぱいいっぱいだった心のグラスに、少し余裕ができる。
    そしてふりしぼる。
    「……戻りたくない」
    「ィよし任せろ。俺がなんとかしてやる!」
    「安心して良き良き〜!」
    自分のキャリアも危ないと言うのに、とことん私のことが心配らしい。そんな胆力が頼もしいし、少し羨ましい。
    「ふふっ」
    自然と笑みが零れていた。
    不思議とこのトレーナーならなんとかなりそうな気がしてきた。そんな謎の説得力がこの男にはあるのだ。

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:45:01

    18時50分。
    社会人なら十分前行動だろう!とトレーナーが言うので早めに会議室に来てみたが、父親の姿は見えない。
    「はぁ〜〜〜〜っ!!やばいお腹痛くなってきた!」
    少し前まで頼もしかったのに、なんだこの体たらくは。
    「立ってたら出るヤツ!先入って座って待っとこう!」
    とりあえず立って待ちぼうけは嫌なので、私もトレーナーに続いて会議室の扉をくぐる。
    なかなか来る機会が無いので分からなかったが、だいぶ内装が凝っている。応接室も兼ねているのだろう。
    相変わらずトレーナーはうるさい。私の緊張を解してくれているのか、本当に漏れそうなのか、判断に困るところだ。
    と、気が緩みかけていた瞬間、扉がノックされた。
    一気に緊張が走る、背筋がゾクゾクと震え、下腹部の辺りが熱くなる、トレーナーのことをバカにできないな、なんてことを考えていると、扉が開いた。
    「おや、待たせてしまって悪いね」
    何度も見たあの顔。何度も恨み、憎み、父親として尊敬など出来もしない男。
    萎縮する私に発破をかけるように、背中を平手で少し、ポンポン、というふうに叩かれる。トレーナーだ。
    「とりあえず立って挨拶だ」
    めちゃくちゃ小声だが、すごい当たり前のことを言っている。
    二人で立ち上がり、頭を下げる。本当は屈辱なのだが。緊張で声が出ない。あそこまで言ったんだ、ここはトレーナーに任せよう。コイツのトークと気遣いはかなり信用できる

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:46:51

    そんななか、トレーナーが既におかしい。
    「はじめまして!!!!!!!シリウスのお父様!!!わたくし、シリウスの担当トレーナーをしているものです!!!!!!」
    「このたびは!!!!!御足労いただきありがとうございます!!!!」
    「今回は私の監督不足ということで!!!
    誠に申し訳ありませんでした!!!!!」
    「これは私のお詫びのしるしです!!!!」
    声がデカすぎるだろ。まぁこういう会議の場では声がでかい方が良いとは言うが。というかお詫びの品なんてなかっただろ。このトレーナーは何をするつもりなんだ。
    そんな私の目に、信じられないものがうつった。

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:48:28

    「これは誠意の土下座です!!!これからはキチンと指導をおこなっていきますので!!!今回はこれに免じて!!!穏便に済まして頂けないでしょうか!!!!」

    トレーナーがいつか言ってたっけ、シリウスのためならいくらでも頭下げるって。でもこれは、ダメだろ。私のトレーナーが、私のことを第一に思ってくれているトレーナーが、あの父親に土下座をしている。私の事情なんか考慮したことがない、あの父親に。怒りが湧いてくる、今すぐにでもトレーナーを止めて、父親を怒鳴りつけてやりたい。お前なんかより、トレーナーと居たいんだと。お前の元に戻るなんてイヤだと。だがそんな私の考えは、実行されることはなかった。その時見たのだ、酷く冷たい顔をした、父親を。あの、人を人だと思っていない目、私が何度も見てきた、恐怖の象徴。それを見た瞬間、私は自分の心を守るので精一杯になってしまった。そして父親が口を開く。

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:49:37

    「君は声が大きいなぁ。わたしがそんなに耳が遠いような年寄りに見えたのな?」
    「それに、監督不足ではなく実力不足だろう。トレーナーとしてのね。君みたいな3流トレーナーがわたしのシリウスの担当なんぞしないで欲しいんだがね」
    「そして君のような木っ端トレーナーの頭なんぞ私の前では価値なんてないよ。私の一声で学園をクビにすることだってできるんだから。もう一度言おうか?君には価値は無い。」
    相変わらず皮肉も含んだ物言いに吐き気がする。
    「予定通り君はトレーナー業界から追放、二度とウマ娘に関わるなよ。」
    なんなんだこの父親は。血が通ってないのか?そんな父親の顔がこちらを向く、嫌な予感がする。
    「シリウス、君はうちに戻れ。トレセン学園よりも整った環境で君にはレースに出てもらう。」
    最悪だ、考えうる中で最悪が起こった。
    「まってください!シリウスはトレセン学園でも上手くやれています!戻る必要はないはずです!」
    「君はだまっていたまえ。君はもうトレーナーではない。ただの無能の無職になったんだ。」
    「そんなのはどうでもいい!シリウスの自由だけは奪わないでやってください!」
    トレーナーがかばってくれる。初めて見る、必死なトレーナー、私のために、土下座までして。この人のように自由に、奔放に、生きてみたかった。いや、この人と一緒に?だがもうそんなものは叶わない夢なのだ。名残惜しいなぁ、と思う。
    「返事はどうした?シリウス。」
    イヤだ、うちには戻りたくない。はっきりイヤだと言いたい。いつもどおり、傲慢な態度がとりたい。だが、体に刻み込まれた恐怖が、それを許さない。知らぬ間に頭の中で言い訳をしている、反抗しなくていい理由を探している。結局私の口から出たのは、酷く震えた声。
    「はい……わかりました…」
    恐怖に負けた、もう後戻りはできない。
    「そうか、では荷物をまとめてこい。一時間後に迎えが来る。一緒に帰ろう。わたしはここで待たせてもらうよ。」
    「あとそこの土下座トレーナー君は、あと2日もしたら無職だからね。今のうちに次の職場を探しておくといい。なんならうちの家政婦にでもなるか?広くて掃除のしがいがあるぞ?ハッハッハ」
    何が可笑しいんだ、私とトレーナーの人生をグチャグチャにしておいて。だがもう何をしても無駄だ。
    棒のようになった足で、トレーナーと部屋を出る。これが二人での最後だと思うと、悲しい。

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:52:24

    女子寮に荷物を取りに行く。社員寮も同じルートにあるので、トレーナーと二人で歩く。会話はない。重い二人の間の空気を、涼しい秋の夜風が吹き流して行く。少し歩いたところで、三女神の像の前の、ちょっとした休憩スペースに出る。ベンチに腰掛け、思い出に耽ける。今日でこの景色も最後かぁ。そうだ、最後に、トレーナーにお礼を言わなきゃな。なんてことを考えていると、不意にトレーナーが口を開いた。
    「おいシリウス」
    「お前らしくないぞ。どうした?」
    「俺はまだ納得してないからな。さっきは言わなくてもいいって言ったけど、聞かせて貰うぞ、お前と父親に何があったのか。」
    いきなりのことに驚いたが、これで最後だと思うと、なんでもいいから話しておきたくなる。少し長くなると前置きし、私はこれまでのことを話した。
    小さい頃に所属していた育成クラブと父親の間で意見が割れたこと、そんな自分と関係の無い大人の事情で目標にしていたレースに出られなかったこと、同じシンボリであるルドルフと比べられていたこと、父親に全てを決められ過ごしてきたこと、自由になりたくて半ば家出のようにトレセン学園にきたこと。途中の方からは勝手に涙が出てきてボロボロだったが、トレーナーは背中をさすりながら、何も言わず、静かに優しくきいてくれた。

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:53:46

    そして最後に、一番大事な、一番言わなきゃいけないこと。息を整え、トレーナーと目を合わせ、伝える。
    「お前を担当トレーナーにしたのは、お前が自由だったからだ。」
    「私にとって大人は、不自由の象徴だった。」
    「あれをしろ、これはするな、ってな」
    「でもお前は違った。お前は、今まで見てきた誰よりも自由に生きてた。仕事も適当だし、ピアス大量につけてるし、トレーナーなのにタバコ吸ってるし、スーツじゃなくてパーカー着てるし」
    「そんなお前が、私を肯定してくれた。問題行動ばっかりする私を見て、それもいいんじゃない?って言ってくれた」
    「嬉しかったんだ、私も自由になれるんだって」
    「だから…」
    「だ…だから゙ぁ…………」
    「ゔぅぅ〜〜〜〜…」
    涙と鼻水が止まらなくなる。トレーナーが胸を貸してくれる、ひとしきり泣き終わった頃には、パーカーがぐしょぐしょになっていた。
    「ごめん…トレーナー。パーカーぐしょぐしょにしちまった…」
    「でも本当に感謝してるんだ」
    「もう時間もないし、行かなきゃないけねェな。」
    ここで別れたら、もう二度と会えない。
    最後に、キチンと感謝の言葉を言っておこう。
    「トレーナー、今まで」
    「いや待て!!なんだその今生の別れみたいな雰囲気!」

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:55:24

    あまりに突然だったので、思考が固まる。だってそういう最後のお別れの感じだったじゃん。実際そうだし。涙も鼻水も出したし。そんな私にお構いなく、トレーナーは続ける。
    「そんなの俺は認めん!シリウスが言った通り俺は自由が好きだ!!トレセン学園に来た理由も結構緩そうだったからだ!」
    「でも周りからは白い目で見られて来た!自由にかまけてやりすぎだ、って!」
    「でもそんな俺をシリウスはトレーナーだと認めてくれたんだ!俺の自由に意味を見出してくれたんだ!」
    「そんなシリウスがまた不自由な場所に戻るなんて俺は許せない!!」
    「…俺も父親とは仲悪くてなぁ、ある日クソバチギレしてやったんだよ」
    「そしたら親父、俺にビビるようになっちゃってさぁ」
    「俺らを下だと思ってるヤツに反抗するのも自由への1歩だ!」
    「行くぞシリウス!ついてこい!」
    一も二もなく腕を引っ張られる。連れてこられたのは、さっきの部屋だ。中に父親がいる。トレーナーは何をするつもりなんだろうか。

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:56:52

    そう思った束の間、トレーナーは扉を蹴り破った。静かな廊下に破壊音が響き渡る。そして
    「オ゙ラァ!!クソ親父!出てこんかいィ!!!!」
    こっちから来たんだが
    「好き勝手言ってンじゃ無ぇぞこのボゲ!!」
    ズカズカと進み、父の胸ぐらを掴む
    「シリウスはなぁ、てめぇの所有物じゃねぇんだよ!!」
    「何でもかんでも勝手に決めくさりやがって!!何様のつもりじゃ!!」
    「親だからってシリウスの全部をお前が決めンなよ!!」
    「シリウスは絶対に帰らせねぇからな!!」
    めちゃくちゃ言っとるこの人。こんなに感情を出しているところは初めて見たかもしれない。少し心配が心を襲う。こんなことをしてトレーナーはこの後どうなってしまうんだろう。多分無職よりも酷いことになるかもしれない。だけど、それでも、私は、嬉しかった。こんなに私に真剣になってくれる大人がいることに、安心をした。そして、あの父親がここまで言われているという事に、胸が空くような思いだった。どれだけ感謝してもし足りない。だがこれで父が考えを変えるとは思えない。やはり私はあそこに戻るしかないのだ。最後にありがとうを言おうと、口を開こうとした時。
    「シリウス、お前も言ってやれ!!」
    思いもよらない言葉が、トレーナーから飛んできた。
    「一番こいつに文句があるのはお前だろ!?」
    「俺がついてるから!安心して文句を言え!ぶちまけろ!!」
    一瞬、思考が止まる。今まで逆らったことがない、しようともしたことが無い、恐怖の象徴のような父親に、文句をぶつける?
    全てが終わった後のことを考えようとして、やめた。
    私のトレーナーが、私のために、ここまでしているんだ。どうなっても構わない。私はこのトレーナーのウマ娘、二人三脚なのだから。意を決して、覚悟を決めて、何を言うなんてことは具体的には決まってなかったけども、感情任せに父親に向かい直し、今度こそ口を開く。

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:58:36

    「お……お前の言う通りになンか絶対にしねェからな!!!」
    「小さい頃からいろいろ縛り付けてくれやがって!」
    「私はなぁ……あのレースに出たかったんだぞ!!」
    「それをお前は、勝手に出走停止にしやがって!」
    「ふざけンなよ!!!」
    「そんでやっとここで自由になったと思ったら!!」
    「何がうちに戻ろうだ!!縛り付けていいように扱いますの間違いじゃねぇのか!?!!」
    「父親だけどなぁ!!お前のことは嫌いだ!!」
    「私は絶対うちには戻らねぇ!!トレーナーも辞めさせねぇ!!!」
    「いろいろあったけどなぁ!!!」
    「一生許さねぇからな!!!!」
    言ってしまった。もう私もトレーナーも終わりかもしれない。この父親は権力だけはあるのだ。どうなるのかは想像にかたくない。そんなことを知ってか知らずか、トレーナーはこっちを見てガッツポーズをしている。それに近づいてきて肩を組んできた。よくやった!じゃないんだよ。今それどころじゃないのになぁ。でももうひとつ。思うこと。確実に言えることがある。そう、今、私の心は、間違いなく晴れ晴れとしている。まるでひとつの後悔もないみたいに。死ぬ前ってこんな感じなのかなぁ、と、よく分からないことを考えていると、今まで呆気に取られていたのか、思うところがあったのか、だんまりを決め込んでいた父親が立ち上がり、言葉を発した。

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 05:59:22

    「同じシンボリでも、ルドルフとは大違いだな。」
    「シリウス、もうお前を娘とは思わん。二度と私に関わらないでくれ。もう私に、娘などいない。」
    冷たくそういい残して、父は一人で帰っていった。
    その言葉は短いが、様々な思いが込められていた、呆れ、怒り、少しの動揺、そして、諦め。要するに、私みたいな言うことを聞かない、さらには反抗してくる娘など、もう自分の子供ではないということだろう。それは、私たち親子の絆や縁が切れることを意味していた。普通の人にとってそれは、酷く悲しいものだろう。だが私にとっては、呪縛から解き放たれることを意味していた。もう父親に縛られなくていい、大人の事情で、がんじがらめにされなくて良いということ。
    トレーナーに肩を組まれたまま、しばらく二人で固まっていたが、そのことにようやく実感が湧いてきて、さっき枯れるまで出したと思っていた涙が、次から次へ溢れ出てくる。それを見たトレーナーが、ハンカチを差し出しながら私に話しかけてくる。なんでこんなに適当なのにハンカチは持ってるんだろうと思う。
    「シリウスお前!!!やったな!!!」
    「めちゃくちゃかっこよかったぞお前!!シビれたぜ!!」
    「シリウスの覚悟とかいろいろ伝わってきた!なんか知んないけどお礼言いたくなるような感じだった!」
    「実際シリウスが勇気出してくれたおかげで俺も無職にならずに済んだしな!」
    「マジで感謝だわ!」
    そんな、お礼を言うのはこっちだ。だけど嗚咽で上手く言葉にできない。既にトレーナーから受け取ったハンカチはびちゃびちゃだ。だけど、これだけは、絶対に伝えなきゃならない。鼻水を一気にすすり、涙を袖で荒く拭う、ゴワゴワとして、少し痛かったが、意に介さない。深呼吸をして、息を整える。そして、伝える。今日何度も言おうとして、結局言えなかった言葉。軽く言うことはあっても、ここまで心の底から言うとは思ってもなかった言葉。本当はね、初めてトレーナーに会った時に、心の底から言いたかったんだけど、なんか意地になっちゃって、結局お前も他の大人と同じだろうって、それで、言いそびれていた言葉。
    やっと言える。
    「ありがとう、トレーナー」
    「こっちこそ、ありがとう、シリウス」

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:00:16

    それからしばらく、応接室の大きなソファーでトレーナーに慰めてもらって、部屋に帰った。ナカヤマフェスタにからかわれると思ったが、察してくれたのか何も言ってこなかった。その日はトレーナーのことを思いながら、沈むように眠った。


    次の日の朝、アラームの音で目が覚める。少しうとうとした後に、昨日のことを思い出す。心臓が暴れそうになるが、アレはもう終わったのだと、これからはなんのしがらみもないのだと思うと、心臓は落ち着きを取り戻し、少し心が浮つきだす。いつもより10分早く部屋を出て、校舎へ向かう。鳥のさえずりが、耳に心地よかった。

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:01:22

    その日の放課後、トレーナーは酷くやつれた顔で私の元へやってきた。
    「いやァ〜昨日の全部理事長にバレちゃってさぁ」
    「あの後から今の今までずぅ〜〜〜〜〜っと説教アンド説教アンド反省文よ。あと扉の修理。」
    「理事長代理クソこえぇ〜のよ!ありゃ鬼だね、鬼」
    いつもより明るい口調で、トレーナーは話す。理由はどうあれ父親と縁を切った私のことを、気遣ってくれているのだろう。どこまでも私のため、優しい男だ。私はもう大丈夫だ、と言うふうにニヤリと笑い、いつも通りに会話を返す。
    「ハッ そりゃ大変だったな。また土下座でもしたのか?」
    トレーナーも、わかったのだろう。私には後悔みたいなものはない、どちらかと言えば、スッキリしているということが。トレーナーは、ふっ、と優しく微笑み、こう返す。
    「お前なぁ、俺の心配をかえせよ。勿体ない。」
    「そンなもん1円でも売れ残るだろ」
    「おいおいおいおい!!てめぇ許さんぞ!今日のコース周回2倍だからな!」
    いつもの他愛ない日常、胸に残る小さな小さなしこりには気づかずに、今日も過ぎてゆく。

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:02:36

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  • 24二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:03:51

    例の件から、十日後。
    「シリウスさん、トレーナーさん、今日もよろしくお願いします!」
    「わたしたちのために、いつもありがとうございます!」
    元気よく挨拶しているのは、私達が面倒を見ているウマ娘達。ざっと見るだけでも20人はいる。私とトレーナーは専属契約を結んでいるので、この娘達にとっては正規のトレーナーでは無いのだが。様々な事情があり、思うようにトレーニング施設を利用できないウマ娘、いわゆる落ちこぼれと呼ばれる娘たちを、私とトレーナーでボランティアのように、面倒を見ているのだ。さすがに毎日ではないが、それでも意欲があってここにきているのだ、着実に実力をつけてきている。様々な事情と言うのは、遅刻や、補習などだ。一般的に見れば自業自得なのだが、トレセン学園はその裏の事情、在り来りなところで言えば、年寄りの荷物を家まで届けてたから遅刻しました、みたいなやつを考慮せず、遅刻は遅刻として処理する。傍から見れば、そんなことが続けば遅刻常習犯だろう。不良と言われても仕方ない。そんなウマ娘たちの面倒を見ているので、私たちは”問題児たちの王”と呼ばれているらしい。どちらかというと女王だろ。それだとトレーナーだけになっちまうじゃん。そんなことを思っていたら、トレーナーから今日の練習メニューを告げられる。
    「まずは30分アップしようか。その後はまぁ、適当にいろいろ。あとタイムも測ろう。」
    適当に、と言いつつも、トレーナーは毎回真面目な練習メニューを考えて来ている。ただ言うのがめんどくさいのか、それとも裏で努力しているのがバレるのが恥ずかしいのか、毎回雑にやってる感を出している。
    だが、実はちょくちょく深夜まで練習メニューを考えているのを私は知っている。レース前は特に念入りに研究・分析もしていることも。まぁトレーナーの方は気づいてないが。もっとちゃんとしていることをアピール出来れば、今よりも評価されるだろうに。
    「じゃあ始めるぞ〜〜」
    「まずはストレッチして、軽くコース一周しようか」
    なんだかんだ言って今回もちゃんと内容決めて来ているじゃないか。いつもこんな感じで最終的には全部トレーナーが考えた練習メニュー通りに進んでいるのだ。ストレッチが終わり、コースのスタートラインに立つ。その時、凛とした声がグラウンドに響き渡った。

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:05:51

    「お前たち!何をしている!」
    「この時間のグラウンド利用許可は出ていないはずだぞ!」
    エアグルーヴだ。生徒会副会長のカタブツ。特に規則や時間に厳しいウマ娘で有名だ。個人的には気に食わない。一番気に食わないのは皇帝サマだが。エアグルーヴは散れと言わんばかりに、私たちとトレーナーに向かい合う。そんなエアグルーヴに、トレーナーは語りかける。
    「あのねエアグルーヴちゃん」
    「この娘達にも事情があんのよ…深ァ〜い事情がね」
    「そんな中でね?この娘達は練習しようと、強くなろうと頑張ってるのよ」
    「そんなひたむきな姿勢を否定するのは、トレセン学園生徒会としてどうなのかな〜?って、俺は思うよ?」
    「それにね?いい?」
    「グラウンドとかコースとかの利用許可はね?」
    「まぁ…取ってないのは、悪いなぁって思うよ?」
    「けど今誰も使ってないじゃん?もったいないじゃん?使わないと。で、今から手続きに言ったらタイムロスじゃん?時間は限られてるんだからね」
    「申請に行く時間も練習に当てた方が、いっぱい練習できて良いと俺は思うんだよね」
    「それでこの娘達がさぁ、ちゃんと結果を残せるようになったら、トレセン学園の為にもなるじゃん?」
    「だから無断で使ってるのは、トレセン学園のためなんだよ。わかってくれるか?」
    「エアグルーヴちゃん、わかってくれ!これはトレセン学園の未来のためなんだ!」
    「事後報告はするつもりだったしね!」
    私のトレーナーは半分詐欺師だ。なんの根拠もない詭弁に説得力を持たせるのが異常に上手い。端的に言うと言いくるめるのが上手いのだ。周りの娘達も、これはいけるのではないか、と言う顔をしている。だが相手はエアグルーヴ、皇帝サマの右腕だ。そんなのが通用するほど甘くない。

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:06:45

    「なるほど…、よくわかりました」
    「あなたがシリウスシンボリと上手くやれている理由が」
    ため息混じりにエアグルーヴが話す。
    「まず、あなたはトレーナーなので、ウマ娘にちゃん付けはなるべくやめてください。」
    「それと深い事情と言っても遅刻のしすぎや成績不振による補習で時間が無いのがほとんど。つまり自業自得でしょう。」
    「そもそもキチンと学園生活をしていればこんなことにはならないはずです。」
    「あと手続きはしてください。あとから面倒を被るのは全て会長なんですから。」
    「トレーナーのあなたがウマ娘に負担をかけるなどあってはなりません」
    「即刻立ち退いてください、このことは上にも報告します」
    「然るべき申請をすればグラウンドは誰でも使えます。まずはこの娘たちの生活から変えるように指導した方が良いのでは?」
    ド正論を食らってトレーナーが泣きそうになっている。ちょっとぷるぷる震えてるし。なんかちょっと小さい声ですいませんって言ってるのも聞こえる。そんな姿を不憫に思った訳では無いが、私のトレーナーが言われっぱなしなのも癪なので、私も口論に参加する。

  • 27二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:08:04

    「おいおいなにか?」
    「じゃあ”今”コイツらはどこで練習すればいいンだよ」
    「遅刻しなきゃいけない理由があったかもしれない」
    「勉強よりも優先しなきゃいけないことがあったかもしれない」
    「そうだろう?」
    「学園側がウマ娘の意欲を無下にするのはいただけないなァ」
    「今のルールのままじゃあ一回落ちぶれたらそのままだ。這い上がることは出来ない」
    「実力不足と言っても、その実力をつける機会が無いんだからなァ」
    「お前らみたいな才能と環境に恵まれたヤツばっかじゃあないんだよ、世の中は」
    これに関しては、少し私情も入っている。私はトレーナーのおかげで解放された。とはいえ、私と同じ、環境に恵まれなかったヤツらは他にごまんといるのだ。自分の好きなようにレースに出たり、走ったりすることができないヤツらが。理由がなんであろうと、私はそういうヤツらの味方でありたい。そう思って私は”問題児たちの王”をしている。多分トレーナーも似たような感じだろう。そんなことも知らない恵まれた連中が、自由にできないヤツにさらなる不自由を強いるのは嫌いなのだ。そんな、二人の話を聞いたエアグルーヴは、少し困ったように短くため息をつき、校舎へ戻って行った。その背中を見届けて、緊張の糸が緩む。

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:08:48

    「怖かったァ〜〜〜。エアグルーヴちゃんめっちゃ圧あるよね?マジで怖かったわァ。てか俺また説教なん?」
    「おおかたお前の屁理屈に呆れて帰ったんだろうよ。なんだアレは?ゴリ押しもいいとこだぞ?あとはお前がまた土下座するだけだ。もう慣れてきた頃なンじゃないか?」
    「マジィ〜〜〜〜??ダルぅ〜〜〜〜。あ、シリウス今からスクワット100回ね」
    「そんなムキになるなよ…」
    そんな会話を交わして、練習が再開する。ちなみにスクワットはちゃんとやった。そして大体のメニューが終わり、私も、他のウマ娘達もラストスパートにかかろうかという時、校舎からこちらへ向かってくる影がひとつ。速さからしてウマ娘だろう。しかも結構速い。皆、足を止めてそちらを見る。またエアグルーヴか?とも思ったが、違う。アレは。私が結論を出すより早く、そのウマ娘は私たちの前に到着し、立ち塞がるように、立ち止まる。ソイツは、私が一番気に食わない、私が一番意識している、私の、因縁以上の因縁の相手。
    「練習するのは良いことだが、それ以外は褒められたことでは無いな」
    トレセン学園生徒会長
    「公正明大なのが大事だ。規則を破ってトレーニングをしても、心までは鍛えられないぞ」
    シンボリルドルフ

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:09:41

    その顔を見ただけで虫唾が走る。他のウマ娘達にも動揺が広がる。会長自ら注意に来るなんて、滅多にない事だからだ。まぁいい。一番気に食わない相手が自らやってきたのだ、私が食ってかかろうとした時、それより少し早く、トレーナーがルドルフに語りかけに行った。
    「あっ、ルドルフちゃんじゃ〜ん」
    「もしかして注意にきた感じですかね?」
    「エアグルーヴにも言いましたけどこっちにはちゃんとした理由があるんですよォ〜」
    「もうすぐ練習も終わりますしね?説教ならその後俺がいっぱい聞きますから、ね?」
    「とりあえず今練習ラストスパートなんで、終わるまで待ってもらっていいすかね?ね?」
    なんで敬語なんだコイツは。言う前だったとはいえ私の発言を遮られたことと、あの父親にも動じなかったトレーナーがルドルフには敬語を使っていることが気に入らず、思わず眉間にシワが寄ってしまう。なんなら舌打ちもする。そんな私に、トレーナーは穏便に済まそうとでも言いたげなアイコンタクトを送ってくる。他のウマ娘も、正直ルドルフよりも練習の方が気になっているようだ。確かに、ここはルドルフよりも練習の最後の詰めを優先した方が懸命なのだろう。だが私には、どうしても我慢することが出来なかった。とにかく、ルドルフのことがとにかく気に食わないのだ。全てを無視して、ルドルフに食ってかかる。

  • 30二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:10:50

    「よォ 皇帝サマじゃねェか」
    「何しに来たんだ?わざわざ自ら出向いてよォ」
    「業務の間のひまつぶしかァ?」
    「まさか注意しに来たわけじゃねェよなぁ?」
    「私らは練習してるだけなんだからなァ」
    「それとも何か?私達を嘲笑いに来たのか?」
    「落ちこぼれが無駄な努力してるよ、って」
    昔からの付き合いだ、ルドルフがそんなことをする訳がないのは知っている。だが、私の口は止まらない、ルドルフ、どうしてもコイツに、私を見上げさせたいのだ。口調はさらにヒートアップする。
    「そんなワケねェか。皇帝サマは落ちこぼれには興味ないもんなァ」
    「だってトレセン学園自体が強者に優しくできてるんだからな」
    「レースで結果を出せば、さらにいいサポートを受けられる。そしてまた強くなる。負けたヤツは、そのまんまだ」
    「そんな学園で生徒会長やってるお前が、何しに来たんだ?」
    「もしかしてビビってんのか?自分より強いウマ娘になるかもしれないって」
    「ハハハ!そりゃケッサクだ!七冠馬の皇帝サマも心配になることがあるんだなァ!」
    脳がじんわりと熱くなっている感覚がする。頭に血が昇っているのだろう。自分でも半分何を言っているのか分からない。ただ、私は、コイツを、コケにして、引きずり下ろして、見下したい?いや、見上げさせるのだ、何故?決まってるだろう。いや、でも。思考がまとまらない私に、ようやくルドルフが口を開く。
    「確かに、練習の邪魔になってしまったようだ。私は戻るとしよう。」
    「あとシリウスのトレーナー君、練習が終わったら、理事長代理がお呼びだ。アレは早く行った方がいい」
    そう言い残して、ルドルフは立ち去ってゆく。

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:12:05

    私たちに残された、誰も話さない、話そうとしない重い空気の中を、トレーナーのやけによく通る声が駆け抜ける。
    「みんなごめん!!もう時間だ!次の予約した人が来るから、今日の練習はここまでな!はい解散!」
    周りのウマ娘達から、不完全燃焼だというふうなため息が漏れる。
    「まだし足りないやつは自主練をしてくれ!次はもっといい練習メニュー組んでくるから!ごめんなあ!」
    その呼びかけを聞いて、大半のウマ娘は自主練に行ってしまった。
    二人になった時を見計らって、トレーナーが心配そうな顔で私の傍に寄ってくる。
    「シリウスどうした?なんかお前らしくなかった。ルドルフにつっかかって行くのはいつも通りだけど。今日はなんか、余裕ない感じだったよ?」
    やっぱりこの男は人をよく見ている。実際、ここまで熱くなったのには理由がある。だが、それは私個人の問題。トレーナーに言う理由は無い。
    「ハッ 私より自分の心配をしたらどうだ?また怒られるんだろう?毎回毎回ご苦労なこった」
    「怒られすぎてアホになったか?私はいつも通りだよ。余計なお世話だ。さっさと行ってきな、土下座トレーナー君?」
    私の心の中を見透かされたようで、いつもより辛くあたってしまう。私のことを思ってくれているのに。
    「相変わらず口が悪いねえ〜〜君は。まぁ何事もないならそれが一番よ。」
    「でも忘れるなよ?前も言ったけど俺とお前は二人三脚、相棒なんだ。なにかあればすぐに気づく。なるべくシリウスの意思は尊重するが、俺の方が大人なんだ。なんでも言ってきていいんだ。悩みがあるんなら抱え込むべきじゃない。俺じゃなくてもいいから、相談するべきだと思う。」
    「…さて、じゃあいっちょ土下座しにいきますか!」
    トレーナーも、行ってしまった。なんだか酷く寂しい気持ちになったので、それをまぎらわせようと少し歩くことにした。

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:13:46

    目的地があった訳では無いので、ただ学園の敷地内をぐるぐると回るだけだった。今は、正門の前辺りか。だがそれが逆にいい気分転換になったようだ。さっきのような、世界に私が一人になってしまったような孤独感は、だいぶ薄れていた。それにしても、長い時間歩いていたようだ。練習が終わった時、夕焼けで真っ赤に染まっていた空は、もう暗くなっている。そろそろ門限だ。と、寮へと足を向ける。その時、私を呼び止める声があった。
    「待ってください!シリウスさん!」
    声の方を振り返ると、そこには今日の練習に参加していた娘達が立っていた。
    「シリウスさん、どうしたんですか?」
    「今日のシリウスさん、ちょっと様子が変でした。何かあったんですか?」
    コイツらにも分かるということは、相当だったんだろう。やはりアレは、一人で抱えるには大きすぎるのだろうか。だが、言うわけにはいかない。
    「お前らみたいなヒヨっ子に心配されるほど、私は落ちぶれちゃいねェよ」
    「それよりも早く寮に戻りな。また練習出来なくなるぞ?良い子ちゃん達?」
    なんとか自分を取り繕う。正直、早くこの場から立ち去りたい。このままだと、ボロが出てしまいそうだから。
    そして、一人のウマ娘が、意を決したように言う。
    「シリウスさん、正直、今日みたいなのが続くんなら、私たちはついていけません。」
    「シリウスさんとルドルフさんの間になにかあるのは分かります。でも今日のは、明らかにいつもとは違いました」
    「これからもあんな感じで練習を潰されるんなら、私たちは私たちでやります。」
    「今日、初めてみんなで自主練して、自分たちだけでもやれるんじゃないかと思いました。」
    「私たちは、あなたの為にルドルフさんの注意を引く道具じゃないんです。」
    いきなり何を言ってるんだ?コイツらは。いや、言っていることは分かる、理解はできている。今日の私の態度は、確かに悪かった。そのせいで練習を潰してしまったことも、その後のトレーナーへの態度もだ。だが、今の私に、それに納得するまでの余裕はなかった。どんどんと考えが後ろ向きになっていく。コイツらは私とトレーナーから受けた恩を忘れて、見限ろうとしているのだ、トレーナーにも酷いことを言ってしまった、もう見放される、こうなると、もう止まらない。悪い考えが次々に私の心に満ちてゆき、ある一定のラインを超えた時、確かに、私の心が壊れる音がした。

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:15:25

    ああ、もうどうでもいいや。自嘲気味に返す。
    「あーはいはい、ルドルフ以下の私達なンかよりも自分たちで練習した方が確かにいいか。」
    「トレーナーにも言っとくよ、もうルドルフ以下の私達は用済みだって」
    「じゃあなお前ら、達者でやれよ」
    「頑張ってたら今日みたいにルドルフが来てそのまま一緒に練習してくれるかもしれないなァ」
    それを聞いて、心から軽蔑したような顔をしながら、ウマ娘達は去って行った。失望しましただの、捨て台詞を吐きながら。アイツらがこうなるんだから、トレーナーもきっと私のことを嫌いになったんだろうなぁ。せっかく、信頼出来る大人ができたと思ったのに。私はいつもこうだ。本当に欲しいものは、いつも手に入らない。少し泣きそうになる。だがこれは、私自身が招いたことなのだ。トレーナーを信じられなかった私が悪い。後悔しかない。あの時も、この時も、相談するタイミングはいくらでもあった。トレーナーなら真剣に聞いてくれたただろう。だが、どうしても言い出せなかった。信用しきれなかった。私のことを、私以上に想ってくれているのに。また、トレーナーに助けて欲しい。それはわがまま過ぎるか。ぐちゃぐちゃになった頭の中を整理しようとベンチに座る。そのとき
    「おいシリウス」
    「大丈夫、……ではなさそうだな」
    「これでも飲んで落ち着きな?」
    ペットボトルの暖かいお茶を差し出しながら、私の横にトレーナーも並んで座る。いきなりだったので、一瞬思考が止まる、そして、一気に湧き出る。
    なんで、どうして、なんでここに、それより、あんな酷いこと言っちゃったのに、なんで優しくしてくれるの?それに、説教は、抜け出してきたのか?そんな私を待ってくれているのか、トレーナーは無言のまま、自分用のお茶を飲みながら、星空を見上げている。私が落ち着きを取り戻したのを見計らったように。トレーナーが一人話し出す。

  • 34二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:17:24

    「見てたぞ、さっきの。」
    「まぁ〜今日のシリウスはだいぶヤバい感じだったもんな」
    「どした?なんかあったか?大体見当は着いてるけどね」
    「シリウスがど〜〜〜〜しても一人で解決したいんなら、俺からは言わない。もう寮の門限も近いしね。」
    「どうする?帰る?」
    何も言えない。何も無かったように優しく接してくれるトレーナーに、このまま頼ってしまいたい。だけどそれは、あまりにもわがままで自己中心的すぎる。でも、もう限界だった。既に半泣きになっていた。とりあえず、まずは言わなきゃ行けないことがある。震える声で、言う
    「トレーナー…さっきはごめんな…言いすぎた」
    「ん、シリウスが辛辣なのはいつものことじゃん!」
    「大丈夫大丈夫!気にしてないよ〜!」
    トレーナーは続ける
    「……もう言っちゃうね?」
    「…シリウスさ、アレが気になってんでしょ?」
    「父親から言われた、ルドルフとは大違いだ、ってやつ」
    言われてしまった。バレていた。あの父親の、言うならば呪いの置き土産みたいなもの。ずっと私の心を蝕んでいたものに、その言葉がトドメを指したのだ。あの言葉を意識しだしてから、それはどんどん私の心を支配していった。そして、元々あったルドルフに対してのコンプレックスと混じりあって、歪んだものになってしまったのだ。
    「俺は気にしなくていいと思うけどなぁ。それ。」
    「お前の親父の、いわゆる負け犬の遠吠えってやつだ。シリウスが気にする必要はないよ。」
    そのとき、私の中のなにかが限界を迎えた。立ち上がり、トレーナーの胸ぐらをつかみ、まくし立てる。

  • 35二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:18:55

    「お前はいいよなぁ!お気楽で!!だって実際に言われたのは私だもんなァ!昔っからそうだ!みんな私のことなンか駒にしか思ってない!!なにが『シリウスの方はダメ』だ!!なにが『ルドルフの方はモノが違う』だ!!なにが『ミホシンザンがいたら負けてた』だ!!なにが『海外挑戦は失敗』だ!!なにが『海外挑戦するルドルフのオマケ』だ!!しまいにゃ実の父親すら私とルドルフを比べてルドルフをとった!!私が!!どんな思いでいるかなんて考えてもねェンだろ!!大人はいっつもそうだ!!私の事情なんか考えもしねぇで好き勝手しやがる!!!どうせお前もその一人なんだ!!私を利用してもっと偉いヤツらに取り入る気だろ!?お前みたいなのを信用した私が馬鹿だった!!自分より上のヤツらには相手にされず!!落ちこぼれ達で承認欲求満たしてるだけ!!どうせ私はひとりぼっちのイキリ不良モドキなんだよ!!もう放っておいてくれよ!!!」
    ふーっふーっ、と息を切らしながら、もう後戻り出来ないということだけが、頭の中でハッキリとしていた。あんなに優しいトレーナーに、ここまで言ってしまったのだ。きっと愛想も尽かしただろう。現にもうトレーナーはベンチから立ち上がっている、今はお互い向かい合っているが、きっと何も言わずに立ち去って行くだろう。いや、コイツは底抜けに優しいから、私に、最後の挨拶なりはするだろうな。だが、そんな予想は、軽く飛び越えられた。

  • 36二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:26:47

    トレーナーが、抱きついて来たのだ。肩に手を回すように。ぎゅう、っと、抱きしめられる。いきなりのことで動揺して、しどろもどろになる。体は緊張して動かない。でもそれは、とても優しいハグだった。身長が近いので、トレーナーのうなじ辺りに顔が近づく。シャンプーと柔軟剤の混じった、トレーナーらしい、落ち着く匂いがする。そんな私に構わず、トレーナーが耳元で、優しく、囁くような声で話しかけてくる。耳に息がかかって、少しくすぐったい。
    「放っておくわけがないだろう、シリウス」
    「ごめんな。シリウスの自主性を尊重したつもりだったけど、ここまで思い詰めてるとは思ってなかった。」
    「俺の責任だ。何を言われても仕方ないよ。」
    少し間を空けて、トレーナーが続ける
    「ちょっとだけ俺の話するね?」
    「前にも少し触れたけど、俺の家庭も大分酷かったんだよ。特に父親が。死別したとかではないよ?両親は二人とも生きてた。……でも俺の心は常に一人だった。この四つのリングピアスは、昔父親につけられた傷痕を隠すために開けてんのよ。そんな感じの家庭だったんだよね。そんで、ついに父親の元を離れた時、それまでの分、誰よりも自由に生きようと決めたんだ。タバコもそのときに始めた。」
    「そんな感じの家庭だったから友達もいなかったし、トレセン学園に来てからも自由すぎるって言われてそれは変わらなかった。」

  • 37二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:29:38

    「だからシリウスを初めて見た時すぐわかったよ。あぁ、コイツもいろいろ抱えてんなぁ、って。」
    「今になってわかるよ、家庭事情も、友達いないのも、似た者同士だったんだな。」
    「そしてお前は、自分の心を守るために戦ってる最中だった。」
    「お前の迷惑行為には、全部裏があった。」
    「まだ若いのに、がむしゃらに、やりかた間違ってたりしてたけど、確かに立ち向かっていってたんだ。」
    「だからシリウス、お前のトレーナーになろうと思ったんだよ。昔の自分を見てるみたいで、助けてやりたくなったんだ。」
    「そして俺は、シリウスのトレーナーになって救われた。学園で煙たがられていた俺を、トレーナーとして認めてくれたんだから。」
    「そしてこの間の父親の件の時、シリウスも救われてたってきいて、嬉しかった。」
    「こんな俺が、自由に好き勝手やって煙たがられてる俺が、人の役に立てたんだから。」
    「俺は、シリウスが本当の意味で自由になるまで付き合うよ。」
    「だから、ひとりぼっちなんて寂しいこと言わないでくれよ」
    「俺がついてる。何があっても、俺はお前の味方だ。」
    「今まで一人で頑張ってきたんだ。たまには人に頼ってもいいと思うぜ?」

  • 38二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:30:29

    気づけば、私もトレーナーを抱きしめ返していた。
    私は大バカだ、ここまで言ってもらわないと、他人を信用できないなんて。初めて聞いた。私のトレーナーになってくれた理由。また泣いてしまうじゃないか。絞り出すように、言葉を返す。
    「私も、お前が、トレーナーになる、って言ってくれて、嬉しかった。」
    「ありがとう。トレーナー。」
    「私、バカだから、やり方わかんなくて、」
    「練習の時も、さっきも、ごめんなぁ…」
    「私は結局、お前に頼りっぱなしだ…」
    トレーナーが私の頭を優しく撫でてくれる。大人の男性から、初めての、安心感や、優しさを感じる。
    「いいよいいよ!いっぱいいっぱいで辛かったんだから!」
    「それにしても驚いたなぁ、俺ら結構いいコンビじゃねェか」
    「はみ出しもん同士、ワガママに生きて、傷舐め合って行こうよ」
    私は、この人と出会うために生まれてきたのかもしれない。トレーナーを抱きしめ返す手に力が入る。涙が、溢れる。でもこれは、悲しいからじゃない。嬉しいから。これまでの私の人生、嫌だったこと、辛かったこと、ずっと虚しいままだった私の心、それと、ほんの少し、楽しかったこと。その全てが、トレーナーに会って、今こうして分かり合えて、初めて意味を持ったんだ。トレーナーの胸で、わんわんと泣く。恥ずかしいなんて思いもしなかった。トレーナーのことを、この人のことを、心から信頼できるようになったから。私の中の悪いものが、涙と一緒に流れ出ていく感じがする。なんなら鼻水も出ている。月明かりに照らされて、私は泣き続けた。

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:31:59

    「もう落ち着いた?」
    トレーナーがハンカチを差し出しながら聞いてくる。私が泣いている間、トレーナーは何も言わずに、私を抱きしめたまま、頭を撫で続けてくれた。
    「あぁ、だいぶ落ち着いたよ。ありがとうな。」
    目の下と鼻の下は赤くなっているが、もう涙も鼻水も落ち着いた。
    「じゃあシリウスもだいぶ吹っ切れたみたいだし。行きますか!」
    いきなりの提案にも慣れてきた
    「行くって…どこにだよ」
    「決まってんンだろ!?シリウスが自由になるための最後のピース、ルドルフのところだよ!」
    「実はもう作戦は練ってある!」
    「でもこれは俺もシリウスもかなり頑張んなきゃいけない作戦だ。」
    「でも今のシリウスなら大丈夫!俺が保証する!」
    「あと俺の方も大丈夫!シリウスのためならなんだってしちゃうからね!」
    さすがに今の今からというのはいきなりすぎると思う。が、何故かいける気がする。それに私はもう決めたのだ、この人を心から信用すると。
    「じゃあ、行こうか。シリウス」
    トレーナーが手を差し伸べる
    「おう!半端な作戦だったら容赦しねェからな?」
    そう言ってその手に応える。
    今ならなんでもできそうな気がする。

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:33:01

    十分後
    私たちは、生徒会室の前にいた。中では、会議の真っ最中。生徒会の三人、ルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアン、そしてその三人のトレーナー、理事長、理事長代理、たづなさんがいる。何だこのイカついメンツは。恐らく相当大事な会議なのだろう。作戦のことを聞こうとトレーナーの方を向くと、何やら覚悟を決めた顔でひたすら深呼吸している。と思うと、生徒会室の扉の前に立つ。なんか見たことあるなコレ。嫌な予感がする。そしてそれは的中した。トレーナーがいきなり、
    「オラァ!!」
    とか言いながら、生徒会室の扉を蹴り破ったのだ。
    「どーも皆さん!会議中失礼致しまッす!」
    「今日はね、お願いがあって参りましたァ〜」
    またやりやがったコイツ。多分いつもうだうだ怒られていることの憂さ晴らしも兼ねているのだろう。本人はニッコニコだ。いつも偉そうなヤツらの呆気に取られた顔が新鮮で、思わず私も笑ってしまう。
    「ハッハッハ!めちゃくちゃするなぁ!トレーナー!」
    トレーナーが振り返って、いつもの笑顔で言う。
    「俺はね、シリウスの為なら何でもするよ。後怒られてる時の鬱憤を晴らすっていう私情もある」
    そして生徒会室の真ん中に歩を進める。
    「まぁそれはそれとしてだねぇ…」
    「君たちは来客にもてなしのひとつもしないのかい?トレセン学園ともあろうものが、茶のひとつもないとは…俺は悲しいよ」

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:33:45

    そこでようやく、理事長代理が口を開く
    「どういうつもりですか?これは」
    たづなさんが続く
    「誰かが怪我してたらどうするつもりなんですか!」
    エアグルーヴと生徒会トレーナー達も参加してくる
    「さすがにこれは看過できません。昼間といい、なにが目的なんですかあなた達は!」
    「さすがに俺らもさ、トレーナーでもふざける時はあるよ?でもこれはあんまりだろ」
    「正直ウマ娘にもトレーナーにも迷惑だ、これは」
    「俺らまで巻き込まれて評判さがるんだから」
    やはりと言うべきか、ほぼ全員かなりキレている。当たり前と言えば当たり前だ。私も、私のトレーナーも、今まで散々学園に迷惑なことをして、白い目で見られてきたのだ。だがそんなことは今のトレーナーには些細なことらしい
    「なんかめちゃくちゃ言ってくんなァ」
    「でも俺が用があるのはルドルフと理事長なんだよね」
    「俺らの事情を知らない外野はさァ黙っててくんない?」
    私のトレーナーめっちゃ煽るやん!?さすがにそれはマズイだろう。ルドルフと理事長以外みんなもう、なんか、今にも襲いかかって来そうな顔してるもん。場の緊張がMAXに到達した時、今まで静観していたルドルフが口を開いた。

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:34:51

    「私に頼みがあると言ったな。用件はなんだ?」
    一見いつもと変わらないが、その口調には、静かな怒気が含まれていた。
    「ルドルフちゃんお願い!今からうちのシリウスと勝負してやってくれ!」
    は???聞いてないぞ、そんなの。まさか、そのためにここまでやったのか?困惑する私をよそ目に、トレーナーは言う。
    「俺のシリウスが自由になるには、これしかないんだ!頼むよ!」
    「後理事長にもお願い、今から使えるコース準備しといて!」
    限界が来たのか、怒号に近い反対意見が飛んでくる
    「会長!こんな勝負受ける必要ありません!今は会議の方が大事です!」
    「予定にない走りをするのは担当として見過ごせないなぁ」
    「こんなことがまかり通ると思っているその精神が気に入りませんね」
    だが、そこに予想外の言葉が飛んで来た
    「いいだろう、シリウス、そのトレーナー君。」
    「君たちにはそろそろお灸を据えなきゃと思ってたんだ。その勝負、受けようじゃないか」
    「承認ッ!!今から使えるコースは一つだけある!」
    予想だにしない展開に、みなあっけに取られている。もちろん私自身も。だがトレーナーは予定通りだと言うふうに、笑っていた。
    「そう言ってくれると思ってたよ!!ありがとう!ルドルフ!理事長!」
    「じゃあ勝負は1時間後ね!グラウンド集合で!」
    「じゃあ一旦解散!」
    そう言って、ルドルフと理事長が部屋を出る。その後を追うように、ルドルフのトレーナーとたづなさんが、そして、呆気に取られている他のメンバーを尻目に、私のトレーナーがこっちへ歩いてくる。いい笑顔で、ピースをしながら言う。
    「作戦せいこ〜〜う!」
    「ハッ これがか?肝が冷えたぜ。最初からこうなるのはわかってたのか?」
    「当たり前だろ?理事長とルドルフは、例えどんな問題児でもウマ娘を見捨てることはしないって確信があったからね。もし無理そうだったら、土下座して駄々こねまくってた。」
    「ハッハッハッ 私としてはそのブザマな姿、見てみたかったけどなぁ?」
    「後でいくらでも見せてやるよ。全力のヤツをな。」
    「じゃあ俺らもグラウンド行ってアップするか!」
    そう言って、トレーナーは歩きだす。それを追いかけるように、私も。

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:38:05

    グラウンドに到着すると、理事長から説明があった。今から走るのは、2400 芝 左回り。日本ダービーと同じコースだ。と言ってもグラウンドなので高低差はないが。というかこんな短時間でコースの整備なんてできるのか?底知れなさに驚いている間に、彼女はまたたづなさんと共にどこかへ行ってしまった。ちなみにたづなさんは見たことないくらい目がキレてた。

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:39:17

    コースから少し離れた場所に移動し、アップの内容をトレーナーに仰ぐ。いつになく真剣な面持ちで、彼は言う。
    「今回はいつもの模擬レースとは違う、本気で勝ちに行くぞ!」
    と思うと彼はいつものへにゃへにゃした笑顔に戻る。
    「と言っても、アップはいつものレース同様でいい。軽くストレッチして、流しで走る。それだけ。」
    「よし、行っといで!」
    言われた通りにアップを済まし、トレーナーの元へ戻る。レースまで、あと十五分だ。そこで、トレーナーは、もういいだろう、というふうに語り始めた。
    「あのね、シリウス」
    「この話を最初にしちゃうと、アップに支障が出そうだから言わなかったんだ、モヤモヤしてたんならごめんな?」
    「なんで今、この状況でルドルフとレースしなきゃならないかって話。」
    確かにそれは私も気になっていた。アップに支障が出た訳では無いが、レース前にはこっちから聞くつもりだったのだ。トレーナーは続ける。

  • 45二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:40:31

    「シリウスがルドルフを気に入らないって思うのは、アレでしょ?」
    「ルドルフは家庭も円満で、自由になれる環境がある。なのに、出来もしない理想に囚われて、不自由になってるのがムカつくんだろう?」
    さすがに私の境遇を知ってたら、そこまでは想像がつくか。
    「まぁ、そンなとこだよ」
    「だろ?だからシリウスが全てを吹っ切るためには、なんのしがらみもないルドルフと、真剣勝負をする必要があるんだと思ったんだんだよね。だから今日、作戦を決行する必要があったんだ」
    「ハッ 今のルドルフに理想から離れるなんて、できやしねェよ」
    「そうでも無いぜ?お前がこれから勝負するルドルフを見てみろ」
    「やるべき仕事を放棄して、ムカつく俺らを叩き潰す為にレースをするんだ。全てのウマ娘を幸福にするとか言ってるルドルフがだ」
    「…お前まさか…」
    「そう、今のルドルフは、なんのしがらみもない一人のウマ娘だ。昔お前と遊んでた頃みたいにな」
    「なんならこの時間にコース使うのも普通ならアウトだ」
    ここまで考えていたのか。作戦全部、私のため。誰に何を言われようと、嫌われようと、とことん私のため。感謝してもしきれない。何故ここまでしてくれるのか、疑問をぶつける。
    「なぁ、お前はなんだって、私のためにここまでしてくれるんだ?父親の時も、今回も。」
    「そりゃお前、アレだよ。シリウスは、俺がトレーナーになってくれて、認めてくれて、救われたって言ってただろう?そんで俺も、シリウスが担当契約してくれて、俺のウマ娘になってくれて、認めてくれて、嬉しかったんだ。」
    「俺たちは似た者同士だろ?父親に因縁があったり、自由を欲してたり。」
    「そんで俺の方はもう自由を手にしてるし、父親とは縁を切ってる。あと大人だ。でもシリウスは今、自由のために闘ってる最中だ。」
    「そんなの見過ごせるはずないだろう。シリウスには、自由に生きて欲しい。」
    「俺が手を貸すのは。そんな理由」
    「よし!時間だシリウス!ルドルフに思いっきりかましてこい!!」
    よし行けと言わんばかりに、背中を叩かれる。もう迷いは無い。全力で、あいつを負かすだけだ。

  • 46二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:41:37

    ウマ娘達はみんな、寮に戻っている頃だ。さっきの会議メンバー以外観客のいないグラウンドで、スタート位置に着く。ルドルフも、さすがは七冠馬と言ったところか、昔とは違う、圧倒的な威圧感がある。
    「シリウス、やるからには本気で行かせて貰う。」
    「ハッ 当たり前だろ。負けても言い訳すんなよ?」
    ここで、終わらせるんだ。何もかもを。
    短い会話が終わったのを確認し、たづなさんが合図をする。
    「位置について!!!!!」
    始まる、私の因縁に、決着をつける闘いが。
    「用意!!!!!!」
    極限まで集中する。なにも、感じない。
    どん!という号砲と共に、両者が駆け出す。二人きりのレースだ。位置取りなんかはあまり意味が無い。ただの速さと力を比べるだけのレース。ルドルフは後方から捲るタイプの走りをするので。必然的に私がルドルフの前を走ることになる。が、リードによる精神的余裕など微塵もない。後方からの威圧感が、ピリピリと私の背中を刺激する。それは、ルドルフが本気であることの証明。そのプレッシャーに負けてミスをしないようにするだけで精一杯だ。そして差しかかる第一コーナー。まだ勝負は動かない。だが、私の後ろをカーブでもしっかり捉えているところから、異常な体幹と体重移動の技術が伺える。そのまま第二コーナーも膠着状態で終わる。そのまま直線へ。その半分をすぎた頃。だんだんとルドルフがギアをあげてくる。差を縮めまいとこちらもペースをあげるが。ルドルフはぐんぐんと距離を縮めてくる。そして第三コーナーに差し掛かった頃。ついに並んだ。私の外から、ルドルフが追い上げてくる。コーナーで追い抜こうとスピードを出したのだから、もうあまり足は残っていないだろうと、私もスピードを上げる。だがその考えは甘かった。ルドルフは軽快に、もう一段階踏み込んだのだ。それが当たり前のように。そして第四コーナー。つきつけられた私とルドルフの、差。ルドルフの背中に追いつこうと、さらにスピードを上げる。そこで、何かが聞こえてくる。芝を踏みしめる音では無い何かが。そちらの方に目を向けると、信じられない物が目に映った。

  • 47二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:42:31

    「シリウスさん!さっきはごめんなさい!言いすぎました!」
    「シリウスさんとトレーナーさんへの恩を忘れて、酷いこと言っちゃいました!!」
    「勝手ですけど、みんなで応援させてもらいます!!」
    「シリウスさん頑張ってください!!絶対勝ってください!!」
    さっきのヤツらだ。結局戻ってきたのか。こっちはあんまりいい環境じゃないぞ?だがなぁ、ここまで言われたら負ける訳には行かねェよなァ!?
    さらに足を回す。ルドルフの背中が、確かに射程距離に入る。そして最終直線。ここが最後の正念場だ。残り400、ここで、予めゴール前で待機していたトレーナーと目が合う、ここまで来たら、言葉はいらない。限界を超えて、がむしゃらにルドルフの背中を追う。
    そして200。ついに、ルドルフの真後ろまでつくことができた。ここからはもう技術とかではない。根性とか、気合いとかの領分だ。がむしゃらに、最後の力を振り絞り、いつしかゴール前、ついに今度は私がルドルフと並ぶ。いける!このまま行けば!……だが私は甘かった。ルドルフは、そこから更に加速したのだ。踏み込む力から見て、相当余力があったに違いない。そのまま、勝負はルドルフの勝ちで幕を閉じた。

  • 48二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:43:07

    全力を出した。いや、全力以上を。だが負けた。完敗だ。息が上がっている。立っていられないので、芝生に倒れ込んでいる。負けた。いつか負かして、見上げさせてやろうと思っていたのに。ここまで差があるとは。だが、何故か心は晴れ晴れしている。憑き物が落ちたようだ。そこに、ルドルフと、さっきのウマ娘達が駆け寄ってくる。
    「シリウスさん!凄かったです!」
    「もしかしたらルドルフさんに勝っちゃうんじゃないかって!とにかく凄かったです!」
    「トレーナーさんにも謝ってきたんです。シリウスさん、さっきはすみませんでした。あの、もしければ、またお世話になってもいいですか?」
    私は、上体をおこしながら、息を整える。そして
    「ハッ トレーナーが良いってんなら別にいいんじゃねェか? 」
    そして、一息間を明け
    「こっちこそ今日は悪かったな 許してくれるか?」
    ウマ娘達がとびきりの笑顔になる
    「もちろんですよ!!!」
    そう言って彼女達は!寮長に怒られる!と、何度もありがとうを言いながら、慌ただしく帰っていった。
    そして
    「ふふ、仲良きことは美しきかな、か」
    「ルドルフ…」
    あんだけ走ったのに、息切れひとつしてない
    「お前、本気で走ったのか?」
    「ああ、私は本気だったよ。そこまで無粋ではないからね。」
    「じゃあ私の完敗って訳か。」
    「いや、そうでも無いさ。」
    「今回の私の立場では、ウマ娘たちの応援など貰えなかっただろう。そういう点では、今日はシリウスの勝ちだな」
    そう言って、ルドルフは笑う。そうか、ルドルフが夢見ているのは、今回の私のような、それが全てのウマ娘で起こるようなものなのか。途方もないな、と呆れる。やはりルドルフは気に食わない。だが、こんな夢なら、実現して欲しいと少しでも思ってしまった私の負けなのだろう。
    「おい、ルドルフ」
    「次は負けねェ、吠え面かかせてやるからな」
    「ふふっ それは楽しみだな。待っているよ、シリウス」
    そう言ってルドルフは、生徒会メンバーとそのトレーナーを連れて、学園に戻っていった。
    残るは…

  • 49二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:44:08

    「おいシリウス」
    「なんだ?トレーナー」
    「はいこれ、スポドリ。飲んどきな?」
    本気で走って疲れていた。トレーナーから渡されたスポーツドリンクをがぶがぶと飲み干す。
    「シリウス」
    「ん?」
    「今、迷いはあるか?」
    ありがとう、トレーナーのおかげだな、これは
    「いや、雲ひとつ無ェよ」
    「私は今、心も、体も、確かに自由だ」
    「そりゃあ良かった!」
    二人の笑い声が、誰もいないグラウンドに響く。
    空には雲ひとつなく、星が煌めき、月が優しく私たちを照らしていた。

  • 50二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:47:53

    1ヶ月後
    「はァ〜〜〜〜〜〜ようやく終わったよォ〜」
    「多すぎるよォ〜〜〜反省文がァ〜〜〜」
    「あと扉の修理ダルすぎんよォ〜〜〜〜」
    あのレースのあと、私とトレーナーはみっちり指導と説教を食らった。生でトレーナーの土下座が見れたのは儲けものだったが、もう二度とごめんだ。
    「おい、もうすぐ時間なンじゃないのか?」
    「やっべ!!急ぐぞ!」
    グラウンドに到着すると、既にウマ娘達がアップを始めていた。
    「シリウスさん!トレーナーさん!今日もよろしくお願いします!」
    さすがにあれからは、利用許可をとってグラウンドを使用している。次怒られたら多分とんでもない事になるから。
    トレーナーがメニューの説明をしていると、一人のウマ娘がこちらに近づいてきた。
    「あの…今時間大丈夫ですか?」
    コイツは、前にうちの取り巻きと一悶着あったヤツだ。GIの、鼻血出てた娘。
    「あーーっ!!お前!私たちバカにしてきたヤツじゃん!」
    「今更なんの用!?」
    当事者の二人がすぐに気づく。まぁ当たり前か。
    「あの…あの時はすいませんでした…」
    「配慮が足りてなかったのを…謝罪に来ました」
    「…すみませんでした」
    「では私はこれで消えますので…」
    そう言って、そいつは踵を返す。その時
    「待てよお前、まだやることあんだろーがよぉ!」
    「ウマ娘ならレースで語れや!」

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:48:24

    「え…?」
    「あれはわたしたちにもわるいところがあった!」
    「こっちこそ殴ってごめんな!」
    「だからレースだ!今日はみっちり一緒に練習してもらうからな!?」
    「いいんですか…?」
    「わたしたちみたいな落ちこぼれにGIのテクニック教えたってくれや!」
    「シリウスさん!トレーナーさん!いいっスよね!?」
    いきなりこっちに降るな、だが断る理由はない
    「ああ、いいぜ。いい子ちゃんにはちょっと厳しいかもしれないけどなァ?」
    トレーナーも了承する。
    「まぁ〜〜いいんじゃない?」
    彼女らは目を輝かせている
    「ありがとうございます!」
    「よっしゃあっ!トレーニング行くぜ!」

  • 52二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:50:47

    「ありがとうございました!」
    一通りトレーニングが終わると、周りが妙にザワついていることに気がついた。何やら、トレーナー陣がこちらを見ている。すると
    「君、いいねぇ、うちのチームにはいらないかい?」
    「あなたすごいわ!GIも夢じゃない!私と専属契約結びましょう!」
    「ぜひうちに入ってくれ!君なら大歓迎だ!」
    いきなりスカウトが始まった。恐らく、GIの彼女が練習に参加していたので、人目を引いてしまったのだろう。そんな中、私も声をかけられる。
    「あの、シリウスさんのトレーナーさんはどこに?」
    「この娘達すごいしっかり基礎ができてるの、君のトレーナーの練習のおかげだと思う!」
    「自由にしすぎるのが玉に瑕だけど、結構ちゃんとしてるのね!彼!」
    確かにトレーナーの姿が見当たらない。行先に心当たりはあるが、アイツはこういうの嫌いだろう。適当に濁しておく。

  • 53二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:51:57

    そして、私はトレーナーの元へ行く。制服に着替え、トレセン学園から徒歩5分のコンビニへ。やはり、喫煙所にいた。
    「よォ、トレーナー」
    「うわ!シリウス!なんでここに!?」
    そう言いながらあわててタバコを消そうとする
    「別に吸ってるままでいいぜ?」
    「じゃあ…お言葉に甘えて…」
    「で、シリウスは何しに来たんだ?」
    「トレーナー、お前全部わかってたんだろ?私らが面倒見てる子がスカウトされるのがよォ。」
    「まぁ〜〜そうだね。みんなポテンシャルはあった。それが正当に評価されただけさ。」
    「ハッ どこまでお人好しなんだテメェは」
    「いいだろォ!?たまにはいいことしたくなるもんさ」
    …そして、無言になる。話すことがないのでは無い。切り出し方が分からないのだ。トレーナーがタバコを吸い終わったのを見て、口を開く。

  • 54二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:52:42

    「なァ、トレーナー」
    「ん?」
    「お前さ、前に言ってたよな。『シリウスが自由になるまで付き合う』って」
    「私は今、自由だ。お前のおかげでな。」
    「自由になった私と、まだ一緒にいてくれるのか?」
    聞くのが、怖かった。態度はいつもと変わらないようにしているが、私はもうトレーナーなしでは生きていけない。ここでお別れだって言われたら。私は、私は。
    「あのなぁシリウス」
    「そんな寂しいこと言うなよ?」
    「俺ら二人、普通じゃない環境で、普通じゃない経験して、自由を求めてきたじゃないか。」
    「もうシリウスがいない人生は考えられないよ。俺は。」
    「前もいっただろ?相棒で二人三脚だ、って。」
    「いやか?シリウス」
    嫌なもんか。私は。もう。お前とじゃなきゃ。いけないんだ。最近気づいたんだ。本当の気持ち。でも。それを言うのはなんだか癪だ。だんだんなんも考えてなさそうなコイツに腹が立ってきた。いつも通り、イタズラしてやろう。
    トレーナーの口から、吸いかけのタバコを取り上げる。
    「ハハッ タバコは体に悪いんだぜ?コイツは私が預かる。」
    「おいおい犯罪でしょうが…」
    「じゃあ取り返してみな?不健康クン?それ相応の頼み方ってのがあるだろ?」
    いつも通りの、日常。何にも縛られないのが、ここまで清々しいとは。自然と笑みが盛れる。
    「ハッハッハッ ホラホラどうしたトレーナー?」
    「あのなァ〜…」
    トレーナーが、困ったように、けど、確かに笑顔で言う。
    「おいシリウス!」

  • 55二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 06:53:04

    おわり

  • 56二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 07:12:19

    大作すぎる…

  • 57二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 07:19:11

    俺のあにまん初コメを捧げるよ
    すげぇ好き…朝からとんでもねぇ大作に巡り会えたわ

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 08:51:01

    ざっと50レス、4万字ぐらいか?なんてもん読ませやがる最高だよ

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 11:01:29

    面白かったセンクス

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 11:51:56

    なんでそんな時間に投稿したんだ

  • 61二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 16:43:04

    >>60

    ねむれなかったからです

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 19:18:34

    おまけ
    「おいトレーナー」
    「ん?」
    「お前今ピアス何個開いてんだ?」
    「えっとね〜。左に4、右に1。です」
    「1個増やしていいか?」
    「えっ」
    「ピアッサーはもう買ってきてるから、耳だせ」
    「シリウス、一回待とうか」
    「なンだ?ビビってんのか?」
    「いや、消毒とか色々あるじゃん。あとピアッサーについてるピアス嫌いだし。付け替える用のピアス買うまで待ってよ」
    「わかったわかった。消毒はしっかりしてやるよ」
    「あと付け替え用のピアスは私が用意してある」
    「ほら行くぞトレーナー!右耳だ!」
    「ヒィ〜〜。素人のピアッサーこえぇ〜!」
    バチン!!
    「ほら、終わったぞ」
    「シリウスとの思い出の穴かぁ。塞がらないよう気をつけとこう 」
    「いい心がけじゃねェか。……ほらよ、私からのプレゼントだ」
    「これ……シリウスの耳飾りとお揃いのピアス?だから右耳に開けたの?」
    「んふふ…ちょっとかわいいじゃん。シリウス」
    「うるせェな!付け替えたら見せに来いよ!」
    「おう、ありがとう、大事にするよ」
    クソッ心が乱される。らしくないことしちまったなぁ

  • 63二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 19:34:24

    シリウスの何がお前をそこまでさせるんだ

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 20:40:26

    めちゃくちゃ胃もたれするかと思ったらそうでも無い
    いい感じの文章で良かった

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 21:42:18

    とんでもない熱量を感じる

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/03(月) 23:41:12

    こういう独特のキャラクターで不快感を出さずしっかり熱量と愛を感じる良作書けるのほんと才能だと思う
    なんでこんなとこでその才能を無駄にしてるんだよ

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 01:52:28

    ちょっとイジってレース要素加えたらそのまま育成ストーリー行けそう

  • 68二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 03:58:03

    とんでもないSS出てて草
    どこかで発表するべきじゃない?

  • 69二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 05:41:36

    「よォ、トレーナー。待ったか?」
    「いや?それにしても人気者は大変だなァ」
    午後12時15分。学園では、ちょうど昼休みが始まったばかりの時間だ。普通のヤツなら、この学園にある食堂で昼飯を済ます。が、私の場合そうはいかない。どこに行っても取り巻き達が私を囲んでくるからだ。それじゃあ飯も食えたもんじゃねェ。結局食堂は一回も使わずじまいだ。最初の頃は教室とかで食ってたが、それでも視線は気になる。なるべく静かに食事をしたいのだ、私は。そんな理由で、コイツと専属契約してからは、トレーナー室で二人で食事を摂るのがお決まりになっていた。そんな中、トレーナーはやけに高いテンションで自分の昼飯を取り出す。
    「見てみろシリウス!今日からコンビニでおでんが出てたんだよ!」
    「ヘェそうかい。良かったじゃねェか。最近、おでんが食いたい〜ってうるさかったもんなァ」
    「念願のおでんだぜ?テンションも上がるってもんよ。そういうシリウスは、いつもの弁当か?」
    「ああ」
    そういって、私も自分の昼食を取り出す。私の昼食は、もっぱら自分で作った弁当だ。食堂が利用できないとなると、取れる選択肢は二つになる。コンビニで済ますか、自分で作るかだ。コンビニでも良いと言えば良いが、栄養バランスを考えるとどうしてもコンビニ食材は高くつく。学生には少し厳しい。それに比べて、見た目に目をつぶれば、私の作った弁当は栄養・価格共に優れている。最初は初めての自炊で戸惑ったりもしたが、今はもう慣れた。自販機のお茶を取り出し、少し茶色が多い弁当箱を広げながら、ふと、昔のことを聞いてみる。

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 05:42:27

    「なァ 覚えてるか?私が初めてここに来た時のこと」
    「そりゃあもちろん憶えてるよ。当たり前のように入ってきて、すげぇビビったんだから」
    「おれのトレーナー室かなり僻地にあるのに。今では毎日来てるからなァ」
    私のトレーナーは、他の職員からはよく思われていない。理由は、まぁ、沢山ある。ピアス大量に開けてたり、喫煙者だったり、スーツ着てなかったり、髪の毛プリンだったり、そのうえパーマあててるからちょっと汚い感じになってたり。私が見ただけでもこんだけあるんだから、同職の人から見たらもっとあるのだろう。仲がいいのは用務員さんくらいだ。そんな理由で、トレーナー室も学園の校舎内の端の端、誰も寄り付かないようなところになっているのだ。
    「まァ私としちゃ好都合だったからなァ。誰かが来る心配も無ェし、一応電気も通ってるし」
    「お前を専属トレーナーにした一番のメリットかも知れねェな」
    「いやもっとあるでしょ。イケメントレーナーと二人っきりで嬉しい!とか」
    「ハッ そのジョークは面白くねェなァ」
    「いや、結構本気だったんだけど……」
    そうは言いながら、当のトレーナー本人は笑っている。相変わらず自信があるのか無いのかわからんヤツだ。だが、まァ、私としては、コイツと二人きりは悪くないと思っている。トレーナーの隣は、居心地がいいのだ。無言の時間が、苦にならない。私が悩んでいるとか、機嫌が悪いとか、そういうのをよく見ている。踏み込むべき会話のラインをよくわきまえてるとでも言うのか。私のことを、一人のウマ娘として、対等に、気遣ってくれている。思えば、私の周りにはそういう人はいなかったなぁ。やっぱりコイツがトレーナーで、良かった。顔を言うほど、悪くないし。そう思っていると、トレーナーがレジ袋をあさり、何かを出した。

  • 71二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 05:43:09

    「よし!おでんと言えばコレよ!」
    「おい……お前それ酒じゃねェか」
    トレーナーが出したのは、ワンカップの酒。日本酒だ。
    「ああ、シリウスは知らんか。あのな、おでんと、日本酒は、めちゃくちゃ合う」
    「そういう話じゃねェよ お前今、一応仕事中だろ?」
    「大丈夫大丈夫。酒飲んでても、ここにゃ誰も来ねぇよ」
    「それに、俺に仕事なんてほぼ振られないからね、午後は暇だよ」
    「……じゃあ、いいんじゃねェか?」
    「だろ!?」
    そう、私はコイツの、こういう自由なところが好きなのだ。問題行動を起こして、同じはみ出しものの私が、ひとりじゃない、って思えるから。
    「じゃあ、おでん。いただきます」
    トレーナーに続き、私も。
    「いただきます」
    「あ!待ってシリウス」
    一口目を食べる前に、トレーナーに呼び止められた。
    「なンだよ」
    「はい、シリウス」
    優しくそう言って、カップを差し出してくる。そういう事か。私も、ペットボトルのお茶で返す。
    「「乾杯!」」
    酒の匂いを逃がすために開けていた窓から、秋の香りが、風と共に入ってきていた。

  • 72二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 05:43:55

    おまけ2おわり

  • 73二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 06:59:36

    投稿時間がはえぇんよ
    しゅき…

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 09:36:40

    上げ

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 19:13:39

    保守していい?これ好き

  • 76二次元好きの匿名さん22/10/04(火) 20:45:52

    たづなさんだけ「さん」付けなの可愛い

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 00:49:44

    おまけ3はないのか!?

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 04:10:12

    「シリウスヤバい!!たすけて!ねぇやばいって!!!」
    「なんだ!うるせェな!!どうした!?」
    トレーナーのあまりの剣幕に、こちらまで緊張が走る。
    「紙で手ぇ切っちゃった……」
    そう言いながら、トレーナーは人差し指をこちらに見せる。血は出ているが、正直、ありきたりな傷だ。
    「そんなもんツバ付けときゃ治るだろ」
    「大の大人がみっともねェなァ」
    「だって…血ぃ出てるもん……ねぇどうしよう……」
    涙目になりながら、トレーナーが訴えかけてくる。
    そういえば前に聞いたことがある。コイツは、打撲とかの傷は平気だが、切り傷がどうしてもダメだと。包丁すら握れず、子供包丁で料理しようとして失敗したとか、未だに注射が嫌いだとか、そんな話を聞いた気がする。
    「…ったく。しょうがねェな。とりあえず傷口洗ってこい。んで血をなるべく絞りだせ」
    「はい……」
    見るからに元気の無い姿で、とぼとぼと蛇口まで行き傷口を洗っている。ここまで弱っているトレーナーは珍しい。少しからかってやろう。

  • 79二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 04:10:58

    「おいトレーナー!ちゃんと洗わないと傷口からバイ菌が入って酷いことになるぞ!ゴシゴシいけ!」
    「そんなぁ…流水が当たるだけでも痛いのにぃ…?」
    そういってトレーナーは、半泣きになりながらもしっかりと傷口を洗い始めた。その情けない背中がなんだか面白くて、笑いを堪えるのが大変だ。
    「もういいかなぁ……?」
    「血が止まったんならOKだ。あとは消毒して絆創膏貼っときゃ大丈夫だろ」
    「わかった…………」
    そういってトレーナーは消毒液と絆創膏を取り出す。が、傷に動揺しているのか、いつもからは考えられないくらいもたついている。そのちょっと情けない姿に、少しかわいいと思ってしまった自分に腹が立つ。
    まぁ、私もちょっとからかいすぎたかな。手伝ってやろう。
    「おい貸せ」
    そういって、手際よく消毒液をかける。そして絆創膏を貼ろうとした時、傷口から少し、残っていた血が溢れてきた。
    「あ」

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 04:12:39

    気づけば、私はトレーナーの人差し指を咥えていた。理由は、分からない。からかったことを少し申し訳ないと思っていたのか、血がこぼれそうだったからか、とにかく、今、椅子に座っているトレーナーの指を、私が跪いて加えている。そんな状態だ。少し経って、やっとその事に気づく。傷口の血を舌で舐めとって、ゆっくりと、トレーナーの指の傷口に歯が当たらないように、口を離す。ちゅぱ、という音がして、私の口からトレーナーの指が、唾液で繋がったまま離れる。その唾液のアーチがゆっくりと途切れていき、完全に切れた時。私はようやく、事の重大さに気がついた。
    「おい……今のはアレだ、ナシだ。」
    「事故だったんだ。忘れろ。いいな?」
    多分私の顔は真っ赤だろう。そんな私を見て、今まで黙っていたトレーナーがついに口を開いた。
    「……シリウスの口の中、暖かくてぬるぬるしてたよ」
    ニヤケづらでトレーナーが言う。マジで腹が立つ。
    「だああああああ!!だまれ!!切り傷ごときにビビってるくせに!!」
    そういって、トレーナーの指に乱暴に絆創膏を貼り付け、バシンと叩く。痛い痛いとトレーナーが喚くが、とにかくやり返さないと気がすまなかった。しばらくしてようやく落ち着いたのか、トレーナーが屈託のない笑顔で言う。
    「シリウス、治療ありがとうな」
    「……うるせェな。次からは気をつけろよ」
    「気をつけるのはシリウスの方じゃない?」
    ムカついたので怪我している指をぎゅっ、と握る。
    「ごめんて!ごめんて!本当に感謝してんのよ!」
    「ヘェそうかい。」
    さらに力を込める。この私に指を咥えさせたんだ。このくらいでも軽いもんだ。でも、咥えたことに、あまり悪い気はしなかったなぁ。

  • 81二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 04:12:53

    おまけ3おわり

  • 82二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 04:21:56

    なんかウマシコみたいになっちゃった
    深夜だからね、許して欲しいんだ
    シリウスはかわいいなぁ 早く実装されんかなぁ

  • 83二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 05:02:36

    もうこんなシナリオでいいんじゃないかな

  • 84二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 07:23:35

    なんか見た事ある気がするなあ

  • 85二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 09:41:55

    >>84

    スレ爆破しようかと思った

    なんかのパクリみたいになってたら恥ずい

  • 86二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 10:12:48

    ちょっとエロくなったらめちゃくちゃ筆乗ってて草

  • 87二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 15:42:36

    他のウマ娘と絡むのもみたい

  • 88二次元好きの匿名さん22/10/05(水) 19:11:46

    官能小説みたいな表現好き

  • 89二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 00:18:34

    開けろ!ウマ〇コ警察だ!!

  • 90二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 03:56:12

    「ねぇシリウス見て!髪切った!」
    トレーナーがやけに陽気に話しかけてくる。まぁ確かに髪はスッキリしてきているが、そんなに変わりはないように思える。前のボサボサパーマからスッキリパーマになったくらいだ。
    「それだけじゃないぜ。ほらよォ!見てみなァ!」
    そういってトレーナーは横髪をかきあげる。パーマで隠れていたが、ツーブロックにしたらしい。が、問題はその短い方の髪だ。明らかにラインを超えている。ほぼスキンだ。
    「お前それ……何ミリでイった?」
    「これはねぇ、1ミリ」
    「いくら隠れるところだからって、短くしすぎじゃねェか?」
    「まぁ美容師さんにもちょっと引かれたけどぉ……」
    「どうせ隠れるしいいじゃん!」
    「それに坊主頭ジョリジョリすんの好きだからさァ俺。あと伸びるまで期間があるから楽」
    そう言いながらトレーナーは自分の頭をジョリジョリと撫で回している。私は今まで女所帯だったから、その気持ちよさは分からない。ちょっと気になってきてしまった。
    「おい、…私にも少し触らせろ」
    「お、シリウスもジョリる?ほれ」
    そういってトレーナーは頭を差し出してくる。ジョリるってなんだよ。まぁいい。とにかく触れてみる。いや、ジョリってみる。トレーナーの側頭部を、正面から両手で挟む形だ。頭皮マッサージみたいに。
    「どうだ?シリウス」
    「これは……クセになるな」
    「だろぉ?いつでもジョリっていいよ〜」
    そのまましばらくジョリっていると、トレーナーが何かに気づいたように言う。

  • 91二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 03:58:32

    「シリウスばっかに触られるのもアレだなぁ……」
    「俺も触ろっと」
    言うやいなや、トレーナーは私の頭を撫で始めた。
    「おい……これはどういうつもりだ?」
    「シリウスが両手でいっちゃってるから俺がジョリれないんだよ。だからかわりに俺がシリウスの髪触ってる」
    「私はもうよしよしされて喜ぶ年齢じゃねェんだ。やめろ」
    「いやシリウスめっちゃ髪艶いい!サラサラ!気持ちよ!」
    「聞けよ!」
    「ん〜、そうか?誰だって褒められたら嬉しいもんだぜ?」
    「ほら、よしよし。シリウスはいっつも頑張ってて偉いね」
    「たまにはお兄さんが労ってあげよう」
    そう言いながら、笑顔で私の頭を撫で続ける。シリウスはいつもすごいだのなんだの言いながら。なんだか小っ恥ずかしくなってくるが。心がほだされる感じがする。しばらくの間、私たちはお互いの頭を撫で続けた。
    そして
    「もう満足?」
    「ああ、ジョリはもう満足だ」
    「そっちじゃなくて、よしよしの方」
    「……ああ、満足したよ」
    「ありがとうな、トレーナー」
    笑顔で、私はそう返した。

  • 92二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 03:58:56

    おまけ4おわり

  • 93二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 04:24:35

    「シリウスってはちみーとか飲むのかなぁ…?」
    「ちょっとおにーさん!買わないんならどいてよ!ぼくがはちみー買えないじゃん!」
    「ああ、すまんな」
    「……ってお前、ルドルフんとこのガキじゃん」
    「あーっ!!シリウスのトレーナーじゃん!何してんの!?」
    「いや…シリウスがはちみー飲むのかわかんなくて悩んでたんだよ」
    「シリウスがはちみーなんて飲むワケないじゃん!絶対ブラックコーヒーとかの方が好きだよアレは!」
    「だよなぁ…」
    「シリウスにはコーヒー買うことにするよ。アドバイスありがとう」
    「ふふん!担当のこと分かってないなんて、まだまだだね!」
    「そうだなぁ。あ、もういいよ、頼んでも」
    「うん!おねーさん!はちみつ硬め、濃いめ多めで!」
    「ああそうだ、アドバイスのお礼だ、奢るよ」
    「ホントに!?ありがとー!」
    「はい、はちみーどうぞ」
    「やったぁ!」
    「やっぱりはちみーは美味しいなぁ!またね!シリウスのトレーナーさん!はちみーありがとう!」
    「おう、またな。ルドルフにもよろしく言っといてくれ」
    「……………」
    「……行っちゃった……」
    「はぁぁ〜〜〜〜〜……」
    「テイオーかわいいぃ〜〜……いっぱい飯食わせてあげたい……」
    「ズルいだろあんなん…無邪気で…娘に欲しい……」

  • 94二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 04:25:16

    おまけ5おわり

  • 95二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 04:38:21

    だから投稿時間が早すぎるって

  • 96二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:39:21

    シリウスなんてむしろ苦手なキャラだったのにさぁ……好きになっちゃうだろ……

  • 97二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:57:33

    今更だけどルドルフの勝ち方がすごいルドルフしてて笑っちゃった

  • 98二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 20:52:57

    これもっと伸びてくれ

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:56:02

    シリウスと一緒にいたらテイオーみたいな子に癒されるのはめちゃくちゃ分かる

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 00:10:24

    お互い口調は淡白だけど距離感近いのがなんかこう…良いんだよ 熟年夫婦みたいで

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 00:36:03

    「あぁ〜…風が気持ちいいなぁ〜…」
    「たまには屋上もいいなぁ。人いないし。タバコ吸えないとこ以外完璧じゃん。シリウスも連れてくれば良かった」
    「ふふ、相当シリウスに入れ込んでるみたいだね」
    「おお…めちゃくちゃビビった…」
    「シービーちゃんいつからいたの?」
    「ん?君がすごい独り言言ってた時から」
    「恥ずゥ〜」
    「恥ずかしがることは無いよ。こんなにいい天気だと、お話しのひとつでもしたくなるものさ」
    「それにしても、シリウスちゃんと一緒にいるのはどうだい?大変そうだけど」
    「そりゃあもう。大変も大変よ。気難しいし、急に居なくなるし、猫の面倒見てる感じ。」
    「あははっ!猫かぁ、言い得て妙だね。」
    「ねえ、ひとつ聞いてもいいかい?」
    「なんでシリウスちゃんのトレーナーになろうとおもったの?」
    「と言うと?」
    「君めんどくさいの嫌いそうだし。なんでかなーって」
    「ん〜、理由……理由かぁ。」
    「まぁ、強いて言うなら…無理してたからだね」
    「シリウスのさ、カリスマとかそういうのは本物だけど、なんか背伸びして無理してる感じがしてさぁ」
    「だからこう…支えてやりてぇなって、思った」
    「理由はそんな感じ…です」
    「ふぅん…なるほどね」
    「ありがとう、いい話が聞けたよ」
    「シリウスはいいトレーナーを持ったね」
    「じゃあ私はこれでお暇するよ。シリウスにもよろしくね」


    「やっぱりシービーはめちゃくちゃ自由だなぁ」

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 00:36:22

    おまけ6おわり

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 00:37:41

    >>96

    好きになっちゃえよ!シリウスをよォ!一緒に実装待とうぜ!!

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 01:34:05

    「猫だ!おいシリウス猫がいるぞ!」
    「うるせェな。見りゃわかる」
    二人で学園内を散歩していると、猫をみつけた。まァどこにでもいる、普通のキジ猫だ。
    「うわ、え、めっちゃかわいい。え、逃げないんだけど。シリウスなんか猫が食べるもんもってない?」
    そう言いながら、トレーナーはポケットを漁っている。私も探してみるが、あいにく猫が好みそうなものはない。
    「私がそんなモン持ってるように見えるか?」
    「というかお前、そんなに猫好きだったのか?」
    そう問いかけると、いつの間にかしゃがみこんで猫を撫でているトレーナーが答える。
    「猫めっちゃ好きよ俺」
    「なんか自由なとこがいいよね、気分屋というか」
    「あと毛がもふもふな感じとか」
    「シリウスみたいでかわいい」
    はァ?今なんつった?コイツ。少しイラつきながら言う。

  • 105二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 01:35:59

    「おい、どういうことだ今のは」
    「私が猫みたいでもふもふで気分屋でかわいいとでも言いたいのか?」
    「うん」
    なんの迷いもなくコイツは言う。どちらかと言うと猫みたいなのはお前の方だろ。というかいいのか?それは私のことをかわいいって思ってるのを認めたんだぞ?その事に気づいて、私の怒りはいつの間にか消えていた。なんでだ。というか私はそんな柄じゃない。かわいいとか、そんなんじゃないハズだ。
    「おい、こっちを見ろトレーナー。お前は私のことをわかってないらしい。」
    「私は学園のアウトロー。問題児たちの王だ。」
    「そんな私のことをかわいいだと?なんかの冗談か?」
    「いや?冗談じゃないよ」
    「気分屋で、髪もふもふしてて、自由で、そんなシリウスがかわいいと、俺は思ってる」
    「ダメか?」
    トレーナーがはにかんだような笑顔で言う。
    ダメじゃない。むしろ​─────
    「はぁ、わかったよ。好きにしろ」
    「…あと私にも猫撫でさせろ」
    かわいいの先の言葉まで言ってほしかった自分に少し戸惑いながら、私も猫を撫でた。

  • 106二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 01:36:36

    おまけ7おわり

  • 107二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 01:47:18

    今日は早いじゃん
    ありがとうございます

  • 108二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 02:08:44

    シリウスの解像度がかなり高くて読みやすい
    スレ主のシリシリのイメソン聞いてみたい

  • 109二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 12:00:27

    まぁ確かにシリウスの後ろ髪はモフりたい

  • 110二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 23:52:44

    素晴らしいですね

  • 111二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 23:53:36

    >>108

    ヒステリックナイトガールです

  • 112二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 02:11:13

    このトレーナーはふつうにシリウスオカズにしてそう

  • 113二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:13:40

    ちょっと見ない間にめちゃくちゃおまけ増えとるやん
    感謝

  • 114二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:50:39

    しゅき...(語彙力喪失

  • 115二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:54:59

    「めちゃくちゃ遅くなっちゃってるなぁ」
    「しょうがねェだろ。明日の公欠届出し忘れてたんだから」
    「その出し忘れてたのはシリウスでしょォ?」
    私たちは今、大阪でレースを終えトレセン学園へと帰っている最中だ。今日が日曜日で、明日が月曜日。いや、もう月曜日になってるか。こういう、次の日に授業がある前日のレース遠征の時は、レースの疲れを取るため、そもそも一日で学園まで戻ってこれないなどの理由で、学園に公欠届を出すことで次の日を休みにできる。だが私はそれを出し忘れていた。別に普段から授業をサボったりはしているのだが、流石に丸一日欠席はマズい。トレーナーにそのことを伝えたら、それ俺も反省文じゃない?と言ってガチ焦りし、今に至る。
    「いや〜流石にビビったね。シリウスが公欠届け出し忘れたって言った時は。」
    「たこ焼きの味もう思い出せないもん」
    「……すまん」
    「いやいいよいいよ。責めてるみたいになっちゃった。ごめんな」
    「おう」
    「まったくもう、シリウスは素直じゃないねぇ」
    「それより、お前運転しっぱなしだろ。休まなくて大丈夫か?」
    「ん。ちょっと眠くなってきた……かもしれん」
    トレーナーと観光して飯を食ってたのが22時頃。気づいて車に戻って高速に乗ろうとしたが、通行止めで結局下道で帰ることにしたのが23時頃。今が深夜1時なので、4時間運転していることになる。

  • 116二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:56:45

    「でも行けるとこまで行こう」
    「無理になったら全部諦めて寝る」
    「事故が一番怖いからね」
    「ああ、そうだな」
    「なぁ、もし事故にあって私が走れない体になったらどうする?」
    「それは…一生かけてでも償う」
    「ハハッ!それはそれでいいなぁ。そうなったら一生こき使ってやるよ」
    「ならないのが一番良いんだけどね」
    深夜のドライブで、深い話がしたくなる。少しからかうように、私は言う。
    「じゃあ、もし私が死んだら?」
    「……それはマジで嫌」
    「あなんか怖くなってきた。やばい」
    そう言って、トレーナーの運転する車の速度が見るからに落ちていく。安全運転では無い。むしろ他の車がいたら迷惑になりそうな速度だ。
    「ちょっと止まっていい?」
    そのまま、トレーナーは、近くにあった公園の駐車場に車を停めた。深夜なので、当然私たち以外の車は見当たらない。そして、車のライトとエンジンを切ったことで、暗闇と静寂の中、二人きりだ。まさか私を襲う気か?いや、コイツに限ってそんなことは無い。とりあえず口を開いてみる。
    「おいおいどうした?まさかもうおねむの時間か?」
    「いや……シリウス…手ぇ握ってくれ……」
    震えた声で、トレーナーは言う。何か違和感を感じ、差し出された右手を、両手で優しく包む。
    「…これでいいのか?」
    「うん…ありがとう……」
    その手は、小刻みに震えていた。
    「おい、何があった。言え」
    「なんか…シリウスが走れなくなったらって話聞いて、怖くなった」
    「ねぇシリウス、大丈夫だよね?ケガとかないよね?死なないよね?」
    「シリウスいなくなったら俺…」
    手も、声も震えている。半泣きになりながら、トレーナーはきいてくる。心配性とも取れるが、コレはそういうんじゃない。もっと深いヤツだ。
    「大丈夫。大丈夫だ。私はここにいるし、そんなヤワじゃねェ」
    そこで気づく。

  • 117二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:57:34

    「おい、お前晩飯のあと薬飲んだか?」
    「……バタバタしてて忘れてた…」
    「まっっったくお前は。早く飲め」
    「うん……」
    そういってトレーナーは、リュックから錠剤を取り出す。私も初めて聞いた時は驚いた。こんなちゃらんぽらんなヤツがうつ病だなんて。実際にコイツがうつになっているところは初めて見た。このことはトレセン学園には隠しているらしい、バレたら資格が無くなる可能性があるとか言って。だからこのことを知っているのは、私とトレーナーの二人だけ。周りのヤツらはまず私たちには近づかないので、知る由もないだろうが。
    「飲んだか?」
    「ああ、すまん。迷惑かけたな」
    「じゃあ、出発しようか」
    そういって、トレーナーは車を出そうとする。無理しているのがバレバレだ。こんな早くに薬の効果が出るわけが無いのに。

  • 118二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:58:50

    「まて、今日はもう寝ろ。」
    「でもシリウスの授業が…」
    「お前よりは大切じゃねェよ」
    「私も事故りたくは無いしな」
    そう言いながら、無理やり車のキーを抜き、運転席のシートを倒す。かなりトレーナーに密着してしまっているが、気にしている場合ではない。
    「横になったら一気に眠くなってきた……」
    トレーナーは体を丸めて既にうとうとしている。
    「じゃあ私も寝るかな」
    そう言って、私もシートを倒す。足を曲げたままなのは気持ち悪いので、私も体を丸める。
    「シリウス、寒くないか?」
    「ハッ、お前は自分の心配だけしてろ」
    そうは言うが、今は秋の終わり。正直少し寒い。
    「シリウス、はいこれ。」
    トレーナーがタオルケットを私に掛けてくる。
    「おい、お前の分は」
    「俺は大丈夫だよ。寒くない」
    「それよりも、シリウスが風邪引いたりしちゃいけないから」
    どこまでお人好しなんだ。さっきまで、いや今も少し震えているくせに。
    「じゃあ、おやすみシリウス」
    そのまま、トレーナーは寝ようとする。こんな弱ってるヤツに気を使われるのは、後味が悪い。それに私はコイツの担当ウマ娘なんだ。少しくらい恩返ししたっていいだろう。元々は私が公欠届け出してなかったのが原因だし。色々言い訳を頭の中で並べながら、行動に移す。
    「おい、後ろ向け」
    「あ?ああ」
    そのまま、トレーナーを背中から抱きしめる。バックハグの状態だ。
    「おい……どうした?シリウス」
    「別に。こうした方が効率がいいってだけだ」
    「……うん。あったかい。ありがとう、シリウス」
    「私も、あったかくなったよ」
    「それじゃあ、おやすみシリウス」
    「ああ、おやすみ」
    そうは言ったが、寝れるはずがない。トレーナーから、前に抱きしめて貰った時と同じ、優しい匂いがする。私の心臓の音が、トレーナーに聞こえていないか心配になる。そんな私をよそに、トレーナーはもう寝息をたてている。それだけ疲れていたのだろう。すこし、申し訳なくなる。いや、私にここまで密着されているんだ。自慢じゃないが、身体には自信がある。これで安眠出来なかったら、逆に失礼というものだろう。だが、私も疲れていたらしい。いや、最後のでどっと疲れた、という感じか。気がつけば寝ていて、朝日で目が覚めた。時間を確認すると、朝の9時。結構寝たなぁ。そう思いながら、トレーナーを叩き起こす。

  • 119二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:59:28

    「おい、起きろ。朝だぞ」
    「ん〜〜……もう……?」
    「二度寝すんなよ?」
    「マジかぁ……」
    そこで、思い出したようにトレーナーが言う。
    「そうだ、昨日はありがとう、シリウス。よく眠れた」
    「ヘェそうかい。そりゃよかった」
    「あと、シリウスに起こしてもらうのも悪くないね」
    「おい、そりゃどう言う意味だ?」
    「そのまんまだよ、そのまんま」
    車の外に出て、二人で朝日を浴びながら、伸びをする。車で寝て固まっていた体がほぐれていく感覚が、気持ち良い。
    「じゃあ、帰るか!」
    「ああ、そうだな」
    特別な夜を過ごし、二人で学園へと戻る。ゴキゲンな朝だ。
    その後二人でめちゃくちゃ反省文書いた。

  • 120二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 03:59:52

    おまけ8おわり

  • 121二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 04:11:06

    生活リズムと脳をシリウスにぶち壊されてますね…

  • 122二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 05:11:23

    もうお互いが必要不可欠になってるじゃないか……

  • 123二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 09:40:42

    二人ともいい感じに闇深くて共依存みたいになってる…

  • 124二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 11:43:29

    医療職とかは精神疾患あると資格取れないからね……トレーナー資格がどうか分かんないけど、バレたら追い出しにかかるのは間違いない 隠していいのかは別として

  • 125二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 22:42:13

    保守

  • 126二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 22:59:45

    「失礼する」
    「おわーッ!!ルドルフ!何!?反省文はもう出しただろ!?」
    「そんなに慌てなくてもいいだろう…今日はシリウスに用があって来たんだ」
    「あぁ〜…またシリウスが迷惑かけちゃった感じ?」
    「いや、実家から面白いものが送られてきてね」
    「なにそれ?アルバムっぽいけど」
    「ああ。私たちが幼い頃のアルバムだ」
    「え、見たい!見せて!」
    「本人がいない所で見せるのはいささか気が引けるが…」
    「君はシリウスのトレーナーだ。知る権利はあるだろう」
    「うわめっちゃ楽しみ!ガキのシリウス初めて見るわ!」
    「今とそんなに変わらないぞ」
    「……ルドルフ一個聞いていい?」
    「なんだい?」
    「なんで俺には敬語使ってくんないの?」
    「シリウスと一緒に問題を起こしすぎだ。」
    「ごめんなさい…」
    「そんなシリウスの幼い頃だ。気を取り直して、見てみようか」

  • 127二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:00:17

    「これは?」
    「わたしとかけっこをしているところだな」
    「あぁ〜〜〜……!やんちゃの面影あるなぁ。でもまだかわいいが勝ってる」
    「これはわたしの眼鏡を勝手にかけてるシリウスだな」
    「似合ってねぇなぁ。かわいい」
    「こっちはお遊戯会で王子様役をしているシリウス」
    「昔からこんな感じかぁ…かわいい」
    「懐かしいなぁ、お姫様は私だった」
    「幼馴染なんだっけ?」
    「ああ。親同士の親睦が深くてな。よく一緒に遊んでいたよ」
    「仲良かったんだ」
    「いつからか今のような感じになっていったが、昔は違ったな…」
    「いつもシリウスに振り回されていたよ」
    「そこは変わんないんだね」

  • 128二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:01:11

    「ん、ルドルフこれは?」
    「シリウスぎゃん泣きしてるけど」
    「これは……アレだ。私の家に泊まりに来た時に、お気に入りのぬいぐるみを忘れて泣いてる時だ」
    「ええ!?!!?!?シリウスにそんなかわよエピソードが!?!?!!?」
    「たしか、クジラのぬいぐるみだったはずだ。」
    「クジクジという名前もつけていたな。結構大きいぬいぐるみで、それを抱かないと眠れなかったんだ」
    「そんなかわいすぎる子がああなんのかぁ…」
    「それにしてもクジラのクジクジは独特すぎん?」
    「当時のシリウスはシリシリと呼ばれていたからな。そこから取ったんだろう」
    「シリシリ!?!?!」
    「ああ。周りからはそう呼ばれていた」
    「すごい面白いこと聞いちゃったなぁ…」
    「ふふ。この時は大変だった。シリウスの母が、家までクジクジを届けてくれたんだ」
    「おかげでみんな寝不足だったよ」
    「ヘェ〜。今クジクジはどうしてんの?」
    「それはわからない。本人に聞いてみたらどうだ?」
    「絶対キレるだろアイツ」
    「ふふっ、間違いないな」

  • 129二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:01:42

    「それじゃあ、私はこれで。シリウスによろしくと言っておいてくれ」
    「ああ。ありがとうルドルフ。いいもん見れた。今度は三人で話そう」
    「私のトレーナーも入れて四人ではどうだ?」
    「ルドルフのトレーナーよく知らないんだよなぁ」
    「ふふ。きっと仲良くなれるさ。」
    「それでは。失礼したね」
    「おう」
    「……クジラのぬいぐるみかぁ」

  • 130二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:03:05

    数日後
    「お前から呼び出すなんて珍しいじゃねェか」
    「もうすぐ寮の門限なんだ。しょうもない用事ならすぐに帰るからな」
    「いやね、シリウスにプレゼントがあるんだよ」
    「はいこれ」
    「なンだ?これ……クジラのぬいぐるみ……」
    「……おい、誰に聞いた」
    「クジクジがいないと寝れないんだろォ?シリシリちゃん?」
    「シバくぞ」
    「…はァ〜…ルドルフのヤツだな…」
    「しかもちゃんと同じメーカーのヤツじゃねェか…」「わざわざ水族館行って来たからね」
    「その努力に免じてシバくのは勘弁してやるよ」
    「……………ありがとな」
    「なんか言った?シリウス」
    「なんもねェよ。用はこれだけか?」
    「うん」
    「じゃあ寮に戻る。ベッドが狭くなっちまったけどな」
    「ああ、おやすみシリウス」
    「じゃあな」
    「……嬉しいのがめちゃくちゃ顔に出てたなぁシリウス」
    その夜
    「クソッ…二つになっちまった…」

  • 131二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:03:26

    おまけ9おわり

  • 132二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 23:15:45

    明日日曜だからか投稿時間早くなっとる

  • 133二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 00:33:28

    「はー寒い」
    「お前から外に出たいって言い出したんだろ?」
    「そうだけど〜…こんな寒いと思ってないじゃん?」
    「十月の深夜なんだ、寒い時はとことん寒いに決まってるだろ」
    「で?何をする気だ?」
    「ねぇシリウス」
    「シリウスってどれ?」
    「…どういう意味だ?」
    「星の方のシリウスを見たくてさ」
    「あぁ、なるほどな。…アレだよ」
    「……どれ?」
    「あの一番明るい星だ」
    「あ〜アレか。すげぇな。めっちゃ明るい」
    「そりゃそうだろ、太陽の次に明るい恒星なんだから」
    「マジで?シリウスハンパないじゃん」
    「褒めてんのか?それ」
    「褒めてるよ。」
    「…シリウス、キレイだね」
    「………そりゃどうも」
    おまけ10おわり

  • 134二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 00:40:27

    寒いせいでシリウスのほっぺも鼻も赤いですね
    寒いですからね仕方ない

  • 135二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 01:24:45

    謎の文才をこんな掲示板で使うな
    支部に投稿して欲しいの♡

  • 136二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 03:59:58

    続き欲しい保守

  • 137二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 04:02:06

    ガチ上げ

  • 138二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:36:14

    口の悪さを制御できずに後で後悔するのわかりみが深い

  • 139二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:33:21

    「シリウス、助けてくれ」
    いつになく真剣な表情で、トレーナーが言う
    「まずは何をして欲しいのか言えよ」
    「とりあえず来てくれ」
    そう言って連れてこられたのは、トレーナーの部屋。いわゆる社員寮だ。トレセン学園の社員寮には色々種類があるらしいが、ここはいわゆる1LDKのつくりだ。五階建ての、二階の角部屋で、隣と下に住人はいないらしい。結構いい条件揃ってんなぁ。私のトレーナーのクセに。
    「ヤツは中にいる。お前なら何とかできると思って呼んだ」
    「とにかく頼むぞ」
    きいい、と音をたてながら、扉が開く。
    「先に入ってくれ。俺もあとから続くから」
    「わかったよ。…まったく、なんだってんだ」
    少し不安に駆られながら、足を踏み入れる。それに続き、トレーナーも。スリッパのパタパタという音が、静かな廊下に響く。そういえば、コイツの部屋に入るのは初めてだなぁ。そんなことを思っていると、トレーナーが小声で話しかけて来る。
    「さっきは台所にいた。多分まだいるから、気をつけてくれ」
    「お前それゴキブリだろ」
    「言うな!!ヤツに感づかれてはいけない……!」
    「大げさすぎだろ…」
    話している間に、台所に着いた。意外と綺麗だ。というか、物がない。調理器具が。全く無いのだ。どういうことだ?疑問に思っていると、どうやらヤツが現れたらしい。

  • 140二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:34:05

    「イヤアアァァァアアァァァ!!!!シリウス!!出た!!ヤツだ!!」
    「うるせェ!!どこだ!?」
    「……俺の真上です…」
    見ると、トレーナーの真上。天井にヤツはいた。今にも落ちてきそうな雰囲気で。トレーナーはもう九割泣いてる。
    「まぁとりあえず叩き落とすか」
    「まって!コッチに飛んで来るんじゃないの!?」
    「じゃあそこからどけよォ!いちいちうるせェなァ!!」
    コイツはもう使い物にならない。とりあえず部屋の隅に移動させ、ヤツと対峙する。私の得物は、レース資料を丸めた棒一本。それなりに硬いが、少し心もとない。
    「おい、なんかスプレーみたいなのはないのか?」
    ヤツから目を離さずに言う。
    「あったんだけど…最初にソイツ見た時に全部使っちゃった…」
    「で?結局倒せず終いと」
    「はい…」
    どれだけ情けないんだコイツは
    「よし、見とけ。そんなモン無くても十分だってことを教えてやるよ」
    まずは、資料棒をヤツに投げつける。命中だ。そして落ちてきたところを、スリッパで一撃。スパァン!と、ヤツを倒した。かなりスマートに行ったな、と、自分でも思うほど綺麗に決まった。
    「おお!すげぇシリウス!マジありがとう!神!女神だ!ゴキブリの女神だ!」
    はしゃぎながらトレーナーが抱きついてくる。うるさいし鬱陶しい。ゴキブリの女神は失礼なんじゃねェのか?
    「ジャマだ。離れろ」
    「用はこんだけか?」
    「ああ、ありがとう。お礼は必ずする」
    トレーナーにとっては一大事だったのだろう。本気の感謝を受ける。お礼をされるほどではなかったが、いい機会だ、めちゃくちゃふっかけてやろう。いや、待て。その前にアレについて聞いてみるか。

  • 141二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:34:35

    「じゃあ。お礼にと言っちゃなんだが、質問に答えてくれ」
    「なんで調理器具が一個もねェんだ?」
    「あるのはコンロの上に灰皿が一つだけだ。一応冷蔵庫はあるが…」
    「飯はどうしてる」
    「ああ、それね。俺自炊しないのよ」
    「昼飯はね、最近はほぼコンビニのおでん。腹にたまるし、美味いし、太らんし、日本酒に合うし」
    「夜飯はね、たまに学食のまかない貰ったりしてる。あとは外食行ったり。ちなみに朝はプロテインで済ましてる」
    「紙皿と紙コップと割り箸が最強なのよ」
    呆れて声も出ない。言われてみれば、最近こいつは昼におでんしか食べてない。その上朝はプロテイン?まともなのは晩飯だけじゃないか。いや、まかないと外食なら栄養バランスなんてあったもんじゃない。カロリーは控えめだが、全体的にヤバすぎる。他の生活もぐちゃぐちゃなんじゃないか?コイツ。こうなれば徹底的にチェックしてやる。まずはこのリビングからだ。キッチンから全体を見渡してみると、とにかく漫画とフィギュアが目立つ。というかそれしかない。
    「お前これ…リビングとして機能してないだろ」
    「リビングは自重トレする時に使うくらいかな。あと冷蔵庫はプロテイン冷やしてるだけ」
    「好きな物に囲まれて筋トレするのが一番テンション上がる」
    「まぁ、飯は基本寝室で食うしね。んでそのまま寝る」
    コイツはリビングのことを”なんかちょっと広い空間”としてしか認識していなかった。自分が好きな物を飾っているだけだ。その分綺麗だが。それじゃあ、コイツの生活の基本は寝室と言うことになる。
    「……おい、お前の寝室見せろ」
    「それはダメだ。絶対ダメ」
    遮るトレーナーを押しのけ、寝室に入る。
    「まって!ねぇ!」
    「……うわぁ…」
    リビングとは打って変わって、汚すぎる。敷布団、PC。そして、散らばった資料!カップ麺や弁当のゴミ!酒の空き瓶!ぐちゃぐちゃのコード!そりゃゴキブリも出るだろうよ。
    「なんか恥ずかしいなぁ」
    「そんなこと言ってる場合じゃねェぞ」
    「たしか明日はオフだったよな?」
    「うん。明日はなんもないよ」
    「片付けるぞ。これ」
    「いやでも…」
    「やるぞ」
    「はい…」

  • 142二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:35:29

    「おい!開けろ!」
    チャイムを連打し、扉を叩く
    「はい…どうも…」
    いま起きましたという感じで、トレーナーが出る。よれよれの寝巻きに、ボサボサの髪。少し新鮮に感じる。トレーナーらしいと言えばらしいが。
    「お前なァ、さっき電話しただろ?今から行くって。起きとけよ」
    「いやなんか、シリウスの声落ち着くから眠くなるんだよね」
    「入るぞ」
    「聞いてよぉ」
    ねぼすけの言い分は聞かずに、部屋の中へ入る。問題の、コイツの寝室だ。
    「ほら、何してる」
    「え、何が?」
    「お前も手伝うんだよ!」
    そう言って、ゴミ袋を手渡す。今からの作業量を考えると頭が痛くなるが、これは見過ごせない。まずは見るからにいらない物をゴミ袋に放り込んで行く。トレーナーには、空き瓶をまとめさせる。部屋自体があまり広く無いので、思ったよりも早く終わりそうだ。

  • 143二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:36:23

    「あぁ〜疲れた」
    「何言ってンだ。まだ資料が片付いてないだろ」
    「はい…」
    「これはいつのだ?」
    「それは半年くらい前の」
    「捨てとけよ!これは!?」
    「それは一年前のかなぁ」
    「いらんだろ!!」
    結局ほぼ全ての資料がゴミとなった。
    「うわ…俺の部屋めっちゃ綺麗…」
    「お前が散らかしすぎなンだよ」
    二時間ほどで片付けは終わり、寝室はなかなかに綺麗になっていた。
    「マジありがとうねシリウス」
    「今はなんもお礼出来ないけど」
    「これからはこの状態を維持するンだぞ?それを約束してくれるならお礼なんぞいらん」
    「努力します」
    「よし」
    「じゃあトレーナー、車出せ。買い物行くぞ」
    「今から!?」
    「ちょうど昼飯時だろ?私が作ってやるよ」
    「いやいや、シリウスの世話になりっぱなしじゃん。悪いよ」
    「私の手料理が食べられないって言うのか?」
    「いや、お願いします!」
    「素直でよろしい」

  • 144二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:37:09

    「あぁ重たい。料理ってこんなに食材使うの?」
    「そりゃお前、調理器具一式が入ってるんだから重たいだろ」
    「明日の朝飯の分までの食材もあるしな」
    「え!?ああもう…シリウスいい子…!」
    買い物を終え、家に帰ってくる。スカスカの冷蔵庫に食材を詰め込む。エプロンを着て、昼飯を作り始めるが、トレーナーがうるさい。
    「うわ、シリウスのエプロン姿ヤバすぎる」
    「まて、めちゃくちゃかわいい。ギャップがすごい」
    「え、それは何を切ってるですか?」
    「え、なんで油を引くんですか?」
    「え、なんでフライパンを無駄に熱するんですか?」
    「すげぇ!プロだプロ!」
    うるせェなコイツ。
    「いいから、黙ってみてろ。危ねェから」
    「わかった」
    見られながらの料理ってのは、案外緊張するなぁ。

  • 145二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:37:47

    「おい、できたぞ。皿出せ」
    「紙皿しかないけど」
    「それでいいから。早くしろ」
    用意した料理を、小さなテーブルに並べる。
    「食っていい!?」
    「ああ、よく味わって食うんだな」
    「いただきます!」
    「お!めっちゃ美味い!ヤバい!」
    「お前、ちゃんとした手料理食うのいつぶりなんだ?」
    「三年ぶりかなぁ。めちゃくちゃおいしい」
    「ハッ、そりゃよかった」
    自分が作った料理を笑顔で食べてくれるのは、素直に嬉しい。
    「じゃあ私も、いただきます」
    うん。なかなか良くできているじゃないか。良かった。

    「ご馳走様!ありがとうシリウス!」
    「ご馳走様でした。後片付けは自分でしろよ?」
    「やりますやります!」
    そう言ってトレーナーが洗い物を始めるが、下手くそすぎる。
    「おい、やっぱ一緒にすんぞ」
    私たちの午後は、緩やかに過ぎていった。

  • 146二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:38:46

    「じゃあ、私は帰るよ」
    「えぇ〜。もうちょっと一緒に居ようよぉ」
    「おいおい、ガキじゃねェんだから。わがまま言うな」
    「それと、合鍵よこせ」
    「合鍵?」
    「ああ。お前が散らかしすぎてないか、抜き打ちでチェックしに来てやるよ」
    「あと飯も作ってやる」
    「やったぁ!はい合鍵!」
    トレーナーとウマ娘という関係からしたらだいぶヤバいことだが、分かってないのか素直に合鍵を渡してくる。危機感無さすぎて不安になる。
    「おい、色んなヤツにそうやって合鍵ほいほい渡してんじゃねェだろうな?」
    「いや、シリウスだけだよ」
    「自分の家に他人来るの嫌いだし」
    そういう割には自分から私の事呼んでただろ。
    「シリウスはやっぱ特別だね」
    「ッ……!」
    「今日はありがとう。お礼は絶対するから。気をつけて帰ってね」
    「……ああ。また明日な」
    「おう!」

  • 147二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 18:39:52

    「特別……か」
    「ふふっ。」
    おまけ11おわり

  • 148二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 19:05:23

    トレーナーが野菜の好き嫌いをするので矯正する為に苦労するお母さんシリウスが見える見える…

  • 149二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 19:33:50

    ヤバい、だんだんコイツ(トレーナー)の事も好きになってる気がするわ

  • 150二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 00:17:16

    このトレーナーは好き嫌いヤバそうだけどシリウスが作ったのならなんでも食べそう感もある

  • 151二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 02:15:45

    「よおトレーナー」
    「…なんだよ。寝てんのか」
    いつものようにトレーナー室に来ると、トレーナーは机に突っ伏して寝ていた。
    「さて、どうしたもんかな」
    寒くなってきているので、トレーナーにタオルケットをかける。かけてはみるが、こう無防備な姿を見せられると、ちょっかいを出したくなる。
    「……おい」
    とりあえず、頬を人差し指でつついてみる。起きる気配はない。というか無駄に肌がすべすべもちもちで腹立つ。
    「おっと」
    トレーナーの手元を見てみると、スマホの電源が着いたままになっていた。ロックが外れていて、すぐにでもイジれる状態だ。
    「…………」
    正直、少し迷った。が、前に私のアルバムを勝手に見られていたことを思い出し、スマホを手に取る。
    ホーム画面の待ち受けは、私がコイツの担当になって初めて勝ったレースの写真。というかその時の私のドアップの写真だった。私だけを見てくれているような感じがして、少し嬉しい。そして入っているアプリの中から、写真フォルダを開く。私の昔の写真をみたんだから、コイツの写真も見てやろうと思ったのだ。他のものを盗み見るのは、流石に罪悪感がある。

  • 152二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 02:16:36

    フォルダを開き、一番昔の写真までスクロールする。どうやらこのスマホは、ここに入ったのと同じ時期に買ったらしい。トレセン学園の入社式の看板の写真がそこにあった。そこから先は、他愛もないものばかり。心無しか野良猫の写真が多いくらいで、道端の花や、桜並木の写真が並んでいた。トレーナー自身を写したものは、一つもない。自撮りはもちろん、旅行や飲み会のものもだ。悲しいヤツだなぁ。と思う反面、少し違和感を覚える。まぁ写真撮られるのが嫌いな人はそこそこいるらしい。コイツもそうなんだろう。そして日付が、私と出会った頃に差し掛かる。
    「……マジか」
    ヤバい。私の写真しかない。それまでにあった、風景の写真などは全く無く、ただただ私の写真がそこにはあった。私のレース中の写真。私が練習している時の写真。私が飯を食っている時の写真。私がインタビューを受けている時の写真。私が初めて勝負服を着た時の写真。量は多くないが、とにかく、シリウスシンボリだらけだ。そういえば、記念だから、とよく写真を撮られてはいた。撮られてはいたが、私以外の写真が一切無いのだ。
    何か見てはいけないようなものを見た気がして、怖くなる。その時。

  • 153二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 02:17:11

    「んぁ…寝てた…」
    「あれ?シリウスじゃん。どしたの」
    いきなりトレーナーが起きた。最悪のタイミングだ。驚いて、手に持っていたスマホを落としてしまう。
    「シリウス、ケータイ落としたよ」
    そう言って拾い上げる。
    「……ん?これ俺のじゃん」
    こうなったら仕方ない。本人に聞いてみる。
    「なァ、トレーナー」
    「勝手にスマホを見たのは謝る」
    「だがなんで自分の写真が無いんだ?」
    「それに私と出会ってからは私以外の写真が無い」
    「理由を聞かせてくれ」
    トレーナーは少し考え込んでから、話し始める。
    「あぁ〜…そういう事ね」
    「俺の写真フォルダみたんだ?」
    「……すまなかった」
    「いや、全然気にしてないよ。大丈夫」
    「…で理由なんだけどね」
    「俺の写真がないのは、シンプルに俺がトレセン学園に馴染めなかったから」
    「まぁ今も馴染めて無いんだけどね。まぁあとは実家にも帰らないし、旅行も行かないし。飲み会とか誘われたことすらない。俺の写真撮ってくれる人がいないってことだね」
    「いっこめの理由はそういう事」

  • 154二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 02:17:52

    「シリウスの写真の方は……まぁ、シリウス以外に興味無くなっちゃったからだね」
    「元々あんまり写真は撮らない方なのよ、俺は」
    「でも、思い出とか、心に響いたものはさ、写真撮って見返したいじゃん?」
    「シリウスに出会う前は、なんかたまにね、これいいなぁ、っていうのがあったんだけど」
    「シリウスに出会ってからは、シリウスが俺の中で一番になったんだ」
    「シリウスのこと以外考えてない」
    「だから、シリウスの写真しかないってわけ」
    「……じゃあこの写真はなんだ?両方私が練習してるだけじゃないか」
    「それはね、シリウスが初めて坂路に行った時と、初めて並走トレーニングした時だね」
    「もしかして、全部覚えてるのか?」
    「もちろん。記念写真しかないからね」
    ……コイツ私のこと好き過ぎるだろ。自分で気づいてないのか?悪い気はしないが、少し罪悪感が湧く。トレーナーという、一人の人間の人生を狂わせてしまった気がして、落ち着かない。それに、コイツが私を一番だと思うように、私だって​​─────

  • 155二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 02:18:29

    「おい、じゃあこういうのはどうだ?」
    トレーナーからスマホを奪い、素早く自撮りモードにする。
    「…もっとコッチ来い」
    そう言ってトレーナーの肩に腕を回し、ぐいっ、と寄せる。
    「なに?なに??」
    「私とお前が、初めて自撮りする記念だ」
    そう言って、シャッターを切る。画面には、マヌケ面のトレーナーと、笑顔の私が写っていた。


    おまけ12おわり

  • 156二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 07:05:26

    アッ……(語彙喪失)

  • 157二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:50:16

    結構シリウスっぽいなコレ

  • 158二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:44:46

    続き読みたい支援

  • 159二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 03:30:38

    ゆっくりでいいから続いて欲しい
    ここまでシリウスに対しての熱量ある人そうおらん

  • 160二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 09:52:03

    取り巻きからなんか察せられてそう

  • 161二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:07:40

    age

  • 162二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 03:32:35

    あの…今書いてたら2連続で写真ネタになっちゃったんですけど…
    あげていいですか……?

  • 163二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 03:35:47

    一応別の考えて書きます
    カフェインでえいえいむんします

  • 164二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 03:52:14

    このレスは削除されています

  • 165二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 11:06:20

    好きに書いたらええやん…

  • 166二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 22:59:29

    age

  • 167二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 01:44:30

    「うわっ また割れた」
    「うわ血も出てきた!さいあく〜」
    そう言いながらトレーナーは絆創膏をさがす。理由は、指が乾燥で割れたからだ。まだ十月だというのに。
    「おい、ちょっと見せてみろ」
    「血出てるけど大丈夫?」
    「いいから」
    相変わらず酷い乾燥肌だ。
    「なんか塗ってンのか?クリームとか」
    「いや……まだいいかなって……」
    「お前なぁ、去年言っただろ?絶対塗れって」
    「どうせ皮膚科も行ってねェんだろ」
    「はい……」
    「これも言ったよな?行けって。ちゃんとしたとこで薬貰った方が良いってよォ」
    「なんでお前はそうめんどくさがりなんだ」
    「だって怖くない?めっちゃ滲みて痛くなったら、俺、耐えらんないよ」
    「そんなことなるわけないだろ」
    見ているこっちが痛くなるくらいの乾燥肌、本人はきにしてないようだが、絶対に痛いハズだ。

  • 168二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 01:44:58

    「はぁ……おい、これやるから。塗っとけ」
    カバンから、自分の使いかけのハンドクリームを取り出す。半分以上残っているので、病院に行くまでは持つはずだ。
    「いいの?」
    「ああ、早く受け取れ」
    「ん」
    そう言ってトレーナーは右手を差し出す。
    「どンだけ甘えてんだ。お前は」
    「え?」
    そう言って、ハンドクリームを自分の手に出し、両手に伸ばす。
    「次からは自分でするンだぞ?」
    「え?」
    差し出された右手を包み込むようにして、クリームを塗りつける。が、コレは……なんかアレだな。ちょっと、良くないけども、少しだけ、いやらしいというか、なんかアレだ、ガッツリ言うと、エロい。ぬるぬるとしたクリームによって、いつもよりトレーナーの肌を繊細に感じる。細くて小さい、私と同じくらいの大きさの手。こんなにひび割れて、少し可哀想に思える。念入りに、指の先から、手首までクリームを塗る。私の指とトレーナーの指が絡まり、解け、また絡まる。まるで踊っているようだ。と、そこで違和感に気がつく。

  • 169二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 01:45:39

    「あの、シリウス。普通に渡してくれたらね?そのまま右手で受け取ってたんだけども?」
    「この感触と絵面は、ちょっとね、良くないかなって」
    「なッ……!」
    やっちまったァ!!あの右手は、普通に受け取る右手だったらしい。恥ずかしさで死にそうになる。
    「もう大丈夫だよ、ありがとうシリウス。後は自分でやるから」
    少し、名残惜しく感じるのが悔しい。
    「……いや、いい。このままシてやるよ」
    「……じゃあ、お願いします」
    そのまま続きをする。結構な時間が経った。右手はもういいだろう。
    「ありがとうね、シリウス」
    「おい、左手が残ってるだろ」
    「いや、あの、これ以上は……」
    「その……お願いします…」
    「お利口だな、偉いぞ」
    そのまま左手を始める。私の両手で、トレーナーの左手を包み込む、お互いの手のひらを擦り合わせ、指の一本一本を握りこむ。次は、手を重ね合わせるように、指の間を。右手と同じように、進める。二人とも黙ってはいるが、僅かな指の、手の動きで、考えがわかる。示し合わせたように、無言でも。

  • 170二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 01:46:06

    「……よし、こんなもんだろ」
    「ぜってェ病院行けよ。んでなんかクリームか薬か貰え、わかったか」
    「うん」
    「ありがとうシリウス。気持ちよかったよ」
    優しく、トレーナーが言う。この言葉だけ聞くとアレだが。
    「ああ、次からは一人だぞ?できるか?」
    「ふふっ、流石にできるよ、シリウス」
    「でも、シリウスに手でシてもらうの気持ちよかったなぁ。マッサージみたいで」
    ……私もだよ、トレーナー。
    「ハッ、じゃあキチンと”お願い”できたらシてやらんこともないぞ?」
    「その時はお願いね、シリウス」
    「ああ、お前のブザマな姿を見るのが楽しみだ」
    秋の初め、少し涼しい風が吹く午後。手に残る感触が、何故か心地よかった。

  • 171二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 01:46:27

    おまけ13おわり

  • 172二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 02:06:17

    またウマシコみたいになっちゃった
    深夜だからね 許して欲しいんだ

  • 173二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 02:37:39

    やっぱりエロくなると筆乗ってるじゃないか!!(歓喜)

  • 174二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 11:53:27

    もしかして指フェチかあ?

  • 175二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 21:56:10

    ワァ……ア……

  • 176二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 22:10:08

    >>175

    泣いちゃった!

    ◇何故​────!?

  • 177二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 10:04:47

    なんか文学的でセクシーなんだよなぁ

  • 178二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 19:33:34

    これは…ギリギリウマシコじゃないかもしれないですね

  • 179二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 03:58:23

    「シリウスって小型飛行機操縦できるんだよね?」
    「ああ」
    「じゃあ今は陸・空を制してるワケだ」
    「後は海だけだな」
    「なんだ?漁船にでも乗れってか?」
    「いや、泳げればいいでしょ。海行くぞ!」
    「本気で言ってんのか?」
    「おうよ。車出すから、待っててね」
    「……マジか」

  • 180二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 03:58:59

    「さみぃ!これじゃ泳げんわ」
    「アホなのか?今十月だぞ?」
    「完全に頭から抜けてたわ……」
    「俺がアホでした……」
    「気づくのがおせェよ」
    「……なんか叫ぶ?」
    「そンなことするように見えるか?」
    「ふふっ、俺も叫ぶ元気は無い」
    「……波の音が気持ちいいなぁ」
    「ああ、そうだな」
    「…………」
    「…………」
    「……帰るか」
    「……ああ」
    互いにほぼ無言だったが、何故か心が落ち着く一日だった。無理に話さなくてもいい相手ってのは、いいもんだなぁ。

    おまけ14おわり

  • 181二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 05:39:38

    怖ろしく早い投稿時間 オレ(年寄)じゃなきゃ見逃しちゃうね

  • 182二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 11:47:13

    いつまで続くんだろう

  • 183二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 19:42:01

    >>182

    もうすぐおわり

  • 184二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:14:36

    「だからなシリウス。タラバガニはヤドカリの仲間なんだよ」
    「……寝ちゃってるわ」
    「なんか俺も眠くなってきたなぁ。ひとりごとヤバいし、かと言って口動かしてないと居眠り運転になっちゃうし。ははっ」
    「どっかパーキングエリアで止まるかぁ」

    「疲れたぁ。ガチで疲れた。眠すぎてテンションおかしいわ。ずっと一人で喋ってる」
    「……はぁ、コーヒー買ってこよ」
    「んん、まって、トレーナー」
    「お、起きたかシリウス」
    「あやまるから私のことみすてないで…おいてかないでよ……」
    「……寝言かぁ」
    「大丈夫だよ、シリウス。ずっと一緒だ」

    「結局なんも買ってねーよマジで」
    「んあぁ……まだ運転してたのか?」
    「お、今度こそ起きたね」
    「あ?今度こそってどういうことだ?」
    「いや、シリウスめっちゃ寝言言ってたよ」
    「……内容は?言え」
    「いや、ヒミツだよ」
    「クソッ、気になるなぁ」
    「まぁいいか、私もトレーナーの寝言聞いたことあるし」
    「マジで!?恥ず!!」
    「ハッハッハッ!これでお互いにイーブンだぜ?」
    「それより事故ンなよ?ずっと寝てないだろ」
    「大丈夫。シリウスの寝言で元気出た」
    「……そうかよ」

  • 185二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:14:53

    おまけ15おわり

  • 186二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:45:28

    「クソッ、こんなことになるとはな……」
    「だから言ったじゃん。夜の山道トレーニングは辞めとこうって」
    「うるせェ。あの落ちこぼれ達に新しいトレーニング教えたいって言ったのはそっちだろ?」
    「だからって、シリウスが無茶して脚捻挫してたら元も子もなくない?」
    「ぃよしっ!とりあえずテーピング終わったから。山下って車戻るよ」
    「ほら、おいで」
    「……お前におんぶされろってか?」
    「大丈夫大丈夫。道整備されてるし結構平坦だし、イけるよ」
    「はぁ……じゃあ乗るぞ」
    「よしこい!」
    「……ん、結構軽いね。減量がちゃんといってる証拠だ」
    「そりゃどうも」

    「トレーナー、大丈夫そうか?」
    「あー、余裕余裕」
    「そういう割には結構息切れてきてんなぁ」
    「しょーがないでしょ喫煙者なんだから!」
    「……私は自分で歩いてもいいんだぜ?」
    「それはダメ。俺だってトレーナーなんだから、わかる。シリウスは今歩いちゃダメだよ」
    「へいへい」

  • 187二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:45:59

    「があああっ!着いたァ!」
    「はい、助手席乗って」
    「どっか脚に違和感とかない?痛みとかも」
    「ねェよ。大丈夫だ」
    「ありがとな、トレーナー」
    「いえいえ。とんでもないですよ、お姫様?」
    「それなら最初からお姫様抱っこしろよ」
    「それもそうか…じゃあ出発するね」
    「ああ」
    いつもはガキっぽいが、コイツはたまに”自分が大人の男”で”私のトレーナーなのだ”ということを改めて認識させてくる。おんぶされた時の、ちょっとだけ広い頼れる背中。テーピングとかの知識。なんかちょっと腹立つ。腹立つが、同時に少しだけ、年上の男性としての魅力を感じる。いつもからあんな感じでハードボイルドだったらかっこいいのに。いや、それだと私のトレーナーなんかやれないか。やっぱりいつものあいつが1番だな。うん、トレーナーはこのままが1番いい。

  • 188二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:46:31

    おまけ16おわり
    つぎのでがちでおわりになります

  • 189二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:47:16

    「よおトレーナー。終わったぞ」
    「もう!?いろいろ早すぎるやろ」
    「そうだなぁ」
    今日は、トレセン学園の卒業式。私が卒業する日だ。
    「なんで式に来なかった?」
    「いやぁ、そういうの出る柄じゃないよ。俺は」
    「ああいうの眠くなっちゃう」
    「確かにな。まずスーツのお前が想像できねェ」
    「だろ?」
    「で、どうだった?式は」
    「どうもこうもねェよ。普通の卒業式だ」
    「ルドルフの答辞のギャグがウケてたのは凄かったけどな」
    「それは見たかったなぁ」
    こんなやりとりも、今日で最後だ。
    「シリウスはこれからどうすんの?進路とか」
    「ああ、もう決めてるぜ」
    「まじ!?偉すぎ」
    「聞いてもいい?」
    正直、言いたくない。言ってしまったら、本当にコイツとはお別れだ。寂しい。

  • 190二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:47:41

    「……海外で走るンだよ」
    「フォワ賞も、凱旋門も、あのままじゃ終われねェからな」
    「だから私は日本を出る。お前ともお別れだ」
    「…………そうか。」
    「いいじゃん、それ。負けっぱなしはシリウスらしくないもんなぁ」
    言ってしまった。今まで誤魔化してきた。私の進路。自分の口で言うと、その重みを実感する。海外レースのこともあるが、一番大きいのは​────。
    「明日の今頃はもう飛行機の中だ。それじゃあ、世話になったな。トレーナー」
    「もう行くの!?」
    「ああ、長居する理由はねェからな」
    これ以上はつらくなるだけだ。早めにここを出よう。
    ……いやだ。引き止めて欲しい。一緒に着いてきて欲しい。そんな女々しい想いが、私の心を埋め尽くす。コイツと、離れたくない。もっと一緒にいたい。ずっと一緒だったじゃないか。扉にかけた手が、固まったように動かない。お願いだから、こんなお別れにしないでくれ。いつもみたいに、もっと話しかけてくれ。二人での思い出が、走馬灯のように私の脳内をよぎる。勝手に涙が、鼻水が、溢れてくる。トレーナー。私はどうしたらいい?トレーナー。トレーナー。トレーナー!
    「……シリウス、どうした?」
    「お前、もしかして泣いてんのか?」
    気がつけば振り返り、駆け出し、トレーナーに抱きついていた。言わなきゃいけないことが、沢山あるんだ。

  • 191二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:48:22

    「おぉ、よしよし。いっぱい泣け。な?」
    嗚咽で言葉がでない。その分、何度も頭を縦に振る。私が泣き止むまで、トレーナーは無言で、でも優しく頭を撫でてくれた。背中もさすってくれた。
    ようやく涙がおさまってきた。前を見ると、いつもと変わりない、困ったような笑顔。その顔を見て、私の心が、堰を切ったように口から溢れる。抱きついたまま、伝える。
    「トレーナー。今までありがとう。こんな私の、面倒を見てくれて。」
    「嬉しかった、本当に。嬉しかったし、楽しかったんだ」
    「色んなことがあったけど、その全部が、私の大切な思い出だ。一生忘れない」
    「態度が悪くて、迷惑かけて、レース勝てなくて、ごめんな」
    「お前も、私のこと、忘れないでくれ」
    「お願いだ」
    トレーナーが答える。
    「確かに、いろいろあったなぁ」
    「ほとんどシリウスに振り回されてた気がする」
    「けど、本当に楽しかった。」
    「シリウス、ありがとう」
    「俺の、ウマ娘になってくれて」
    お互いに、抱きしめる腕に力が入る。出来ればこのまま、時間が止まってしまえばいいのに。この幸せな時間が、永遠に続いて欲しいと、心から願った。

  • 192二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:48:46

    そのまま、どれくらいの時間が経っただろう。もう外は、暗くなっている。もう、明日に向けて準備を始めなくてはいけない。自然と、二人が離れる。ありがとう。トレーナー。私の心を、解してくれて。
    「……おい、今度こそ、本当にお別れだ」
    「明日の見送りには来なくていいぞ?日本にも届くような走りを、嫌という程見せつけてやる」
    「お前はここで、指くわえて見てろ」
    やっぱり最後は、いつもらしく。また明日会うかのように。これが、私たちには一番似合っている。

  • 193二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:49:11

    「いや、シリウスの走りを指くわえて見るなんて、俺ができると思うか?」
    ………ん?
    「言ったはずだ。二人三脚で、相棒だと」
    「俺を狂わせた三本目の脚、かけがえのない相棒」
    「シリウス、お前の方も、同じのハズだ」
    「そりゃあ、どこまでもついて行くさ」
    …………これは。
    「……おい、どういう意味だ?」
    「じゃーん!見てみろ!パスポートと明日の飛行機のチケットだ!ちなみに座席はシリウスの隣」
    「……はァァ!!?」
    「こんだけ一緒にいて、お前の考えに気づかないわけないだろ」
    「いやでもお前、トレセン学園の仕事は…」
    「海外赴任ってコトになるな」
    「俺日本語以外話せんけども」
    そう言ってトレーナーは笑う。頭が追いつかない。

  • 194二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:49:35

    「……じゃあ結局、どうなるンだ?」
    「ん?シリウスと一緒に海外に行く!レース頑張る!以上!」
    「ほんとはね、明日空港でバッタリ!みたいにしたかったんだけど。そんな感じじゃなくなっちゃったから、今言っちゃった」
    「……………ハッハッハッ!」
    数秒間を置いて、笑いが込み上げてくる。やっぱり、私の隣はコイツじゃなきゃなァ。
    「…あぁ笑った。じゃあ、これからもよろしくな」
    「私の最高のトレーナー」
    そう言って右手を差し出す
    「おう。よろしくな」
    「俺の最高のシリウス!」
    窓の外では、月明かりに照らされた夜桜が、淡く輝いていた。

  • 195二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:50:15

    明くる日
    「シリウス待って!空港とか飛行機とか俺初めてなんだけど!」
    「お前はいっつもテキトーすぎるンだよ。いいから私の言う通りにしろ」
    私達は、予約していた飛行機に搭乗しに来ていた。が、トレーナーが初めてというのもあって、かなりグダグダになっている。
    「シリウス助けて!ゲート引っかかった!」
    「ピアス外せよ」
    「シリウスめっちゃ大荷物だねぇ」
    「お前まさかスマホと財布だけで行くつもりか?」
    「シリウス!これすげぇ!」
    「それは別の機の搭乗口だ!」
    「シリウス、最後に日本食食っとこうぜ!」
    「そんな時間はねェ」
    「えぇ〜〜」
    「誰のせいだと思ってんだ!」
    結局、時間ギリギリになってようやく乗ることができた。
    「俺機内食食ってみた〜い」
    「勝手に頼めよ。私の分も頼む」
    「うわ!雲の上じゃん!」
    「当たり前だろ」
    「寒い…タオルケット貸して…」
    「フツーに貰えよ…」

  • 196二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:50:55

    「着いたァ〜〜!!バーガー!フィッシュアンドチップス!麻婆豆腐!」
    「混ざってるだろ…」
    色々あったが、なんとか無事空港に到着することができた。
    「うわ!すげぇ!外国人しかおらん!」
    「そりゃここが外国だからな…ここでは私たちが外国人なんだ」
    「そっかぁ」
    「ハッキリ言ってどアウェーだ。やれるか?トレーナー」
    「シリウスと一緒なら、なんだってできるよ」
    「ハッ、そりゃ頼もしいな」
    そう言って、タクシーを停める。もちろん英語でだ。トレーナーはぽかんとした顔でコチラを見ているが、気にしない。卒業式の時のやり返しがまだだからな。私の恥ずかしいところ見やがって。話がついたので、そのまま乗り込む。アイツはもう置き去りにしてやろう。
    「え、待って!なに!なに話したの!?」
    「ちょ、発進しないで!お願い!ちょっと!待って!」
    「ほら、おいてくぞ!ハッハッハッ!」
    相変わらず、面白いヤツだ。コイツと出会えて、本当によかった。
    「へい!止まれ!待てよ!!」


    「おいシリウス!!」

  • 197二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:51:39

    ほんとにおわり
    ふたりのストーリーはこれからもつづくよ

  • 198二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:51:54

    [ウマ娘] タマモクロスVSシリウスシンボリ

    タマモ「こ、こいつ……」

    シリウス「早くやれよ。跪いて額を地面に擦り付けるんだよ」

    シリウス「そのチビな背丈をちょいとばかし低くするだけだろ?」

     タマモ「い、イヤや……」


    幼少タマ「お、おねがいしまず……ゆるぢでください……」

      農家「いいわけねぇだろ! おらの作物盗みやがって!」

      農家「大喰らいのウマガキがよぉ……畑を根絶やしにする気か……?」

    幼少タマ「ぁ、ぁぅけ、あうけで……なんでも、じまずから……」

      農家「ヨネ、クワ持って来い! このガキに大地の痛みを教えてやっぺ!」


     タマモ「貧乏は……いやや……ずっと、アタマ下げて生きて来たんや……」

     タマモ「でも、えっぐ……ウチは、アタマ下げるしか出来へんから……」

     タマモ「シリウスシンボリ様……お願いしまず……一言、言ってやってください……」

    シリウス「ふん、解ればいいんだよ。おい、その後輩のところまで連れて行きな」

    シリウス「その前に、泥まみれの顔を洗って来い」

     タマモ「ありがどう、ありがど、ございばず……うぇ、えぐ……」

    シリウス「汚ねぇんだよ、貧乏人。擦り寄って来るんじゃねぇよ!」


         グシャッ!


    シリウス「チッ、5万もしたローファーが汚れちまった……」

    シリウス「またゴロツキ共から金を巻き上げるとするか」

  • 199二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:55:18

    >>198

    虚しいなぁ

  • 200二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:55:35

    ちゃんと読んでくれた人ありがとう

オススメ

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