リコリコ最終話if

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:45:05

    1.不明

     目を覚ますと、胸に鋭い痛みが走った。
     触れるとそこには、真白いガーゼがでかでかと当てられていて、胸を張ると裂けそうな痛みでずきずきする。

    「千束」

     聞きなれた声が耳から入って頭の中にこだまする。
     まだぼんやりとした頭で周囲を見回すと、その声の主が視界に入った。
     辛そうで、泣きそうで、涙を目に湛えて、それでもどこか嬉しそうな、複雑な表情。

    「せんせい」

     大柄なその体格に似合わず、小さく背中を丸めて私に寄り添う、大好きなお父さん。
     その後ろには、珍しく柔らかな笑みを浮かべるミズキも、小さく微笑むクルミもいる。
     どうしたのさ、皆して。
     喋ろうとして体を起き上がらせようとすると、左の肩に熱が籠るような激しい痛み。
     思わず顔を歪めて痛むその場所を手で抑える。

    「無理をするな、傷口が開く」

     先生の大きくてごつごつした手が、優しく肩に添えられる。
     傷。
     そうだ、ここはどこだろう。痛みと熱で浮いた頭を懸命に働かせる。
     見回した時に見た景色は、自分が寝ていたベッドと、その横に縦長の棚、テレビ、周囲を覆う薄ピンクのカーテンと白い天井。
     病院、病室。そう表現するのが、もっとも相応しいだろう。
     なんでそんなところに……?
     記憶を辿っていけば、辿り着いたその場所は……。

    「……真島は!? 延空木は、どうなったの!?」

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:45:29

     先生の表情が……ミズキもクルミも、俯いて顔に暗い陰が差す。

    「……たきなは……?」

     この場所に、あるべき人物の影が一人分足りないことに気がついて、疑問を投げる。
     頭が回らない訳ではないのだろう、ただ追いつかない。
     胸の痛みも、肩の傷も、皆の表情も、たきなも。
     何があったのか、どうなったのか。

    「まず千束。お前の心臓は、手術した」

     え……?
     クルミの言葉に呆ける。
     手術って、何を? 心臓を? 代わりの心臓なんて、そんなの吉さんは逃がしたし、じゃあ他に代わりなんて、あるはずがない。都合良く心臓が生えてきたのでもなければ。
     修理だって取り出してできるわけもない。
     じゃあ、手術って、なに?

    「お前は延空木の展望台で、気を失っていたところを保護されたんだ」

     私は、そうだ。
     延空木で真島と戦っていて、それで……それで、どうなったんだっけ。
     爆弾を止めようとして……確かその時に、肩を撃たれたんだ……。
     この肩の痛みはきっとそれだ。
     その後が、思い出せない……。

    「その時に、お前と一緒に人工心臓の入ったケースが隣に置いてあった」
    「どういう、こと……?」
    「さあな、ただ……」

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:45:51

     ケース。
     旧電波塔で、吉さんが持っていたアタッシュケース?
     あれはたきなが言及した時に、中身は自分に移植したって、吉さんはそう言っていた。
     じゃあ、あれは嘘? だとしても、そもそも誰がケースを、心臓を持ってきたの?
     吉さんは怪我をしていたし、私が人を殺さなきゃだって、渡してはくれないだろう。
     説明されても、さっぱりわからない。
     そして、続くクルミの言葉に、私はさらに思考の迷宮へ迷いこんでいく。

    「現場に真島はいなかった」

     私は、気を失って……真島に、見逃された……?

    「爆弾は?」
    「そんなものはなかった。フェイクだ」
    「そっか……」

     あのクソ野郎、ふざけやがって……。

    「それから、お前を保護したのは、フキとかいう、ファーストリコリスのあいつだ」

     そうか、フキが戻ってきてくれたんだ。
     でも、それなら。
     フキと一緒にいた、たきなが戻ってこない理由が、わからない。
     もしかして、誰か怪我をして、そっちに付き添っていたとか。

    「フキが言うには、エレベーターが停止してから、たきなが先行して千束を助けに向かったらしい。独断でな」
    「……たきなは、どこ?」

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:46:14

     クルミは俯いて、黙る。
     何で、黙るの?

    「たきなは……」

     先生が口を開く。
     その声は重苦しく、次に繋がる適切な言葉を探しているようで、見つからないような。

    「たきなは……いない」

     結局、その言葉は見つからなかったらしく、その一言だけでは私には伝わらない。

    「いない、ってどういうこと」

     わからない、何も、さっぱり。

    「ねぇ、もしかしてたきなは……もう……」

     たきなは私を助けに戻ってきて、そこで気絶した私を守るために真島と戦って……。
     やめてよ、そんなの。
     絶対、いやだ。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:46:36

    「わからないんだ……」

     わからない……?
     たきなは、死んでない?
     どういうこと?
     じゃあ、たきなはどこに消えたの?

    「たきなは、どこにもいなかった……」

     …………。
     真島も、たきなもいなくなって、私と人工心臓だけが現場にあって。
     何がなんだか、わからない。

    「どういう……こと……?」

     その疑問に答えられる人間は、この場に一人として存在しなかった。

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:46:54

    2.明滅

     「いらっしゃいませー!」

     客の来店を知らせる鐘の音に、条件反射で声を出す。
     開店からまだほんの数十分。
     この時間では数少ないお客さんに、注文を取りにメニューを持って駆け寄る。

    「どちらになさいますかぁ?」
    「コーヒーと団子のセット」

     入り口側のカウンター席、その一番端に腰を掛けた、渋い壮年の男性。
     ここ三、四ヵ月で数回ほど店に訪れていて、常連と呼ぶにはこれから、といったところのお客さん。
     顔は堀が深く、額や目元によった皺は年季の入った彼の人生が表面に現れているようだ。口許には縦に一本、深い切り傷が入って、近寄り難い雰囲気を醸し出している。本人はその傷を気にしていないのか、隠すような素振りや格好をしてくることはない。
     なので他のお客さんが少ない時間帯に訪れてくれるのは、ありがたいことだった。
     愛想はあまりないけれど、無愛想なだけで態度が悪いとも感じない。
     顔の厳つさもあって、いきなりプライベートに踏み込む声をかけるのは躊躇われるような雰囲気だけど、そろそろお名前ぐらいなら大丈夫かな。

    「お待たせしました~。お団子セットになりまぁす!」
    「どうも」

     感情の籠らない短い返事。
     それでも、小さくとも感謝の言葉を述べられるのは気持ちがいい。接客をする中で、この瞬間の快感は一種の麻薬のようなもの。
     店員なら当たり前にする仕事に、感謝を述べてくれる人が私は好きだ。人助けもそう。
     見返りがあるかと聞かれれば、報酬が貰えるのは当然、助けた人の笑顔、感謝の言葉。自己満足の欲求を満たすためだと言われても、それも確かに事実。
     けれど、感謝こそ最上の報酬であると私は常に自らに言い聞かせている。
     この仕事も、裏の仕事も。
     誰かに感謝されるということは、それはきっとその人のためになっているということ。
     誰かの笑顔が私の笑顔。
     人生の楽しさはそうやって繋がっていると思う。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:47:18

    「あの~……お客さん、最近よくきて来てくれてますよね?」

     メニュー表で口許を隠し、恐る恐るといった感じで声をかけてみる。

    「ええ、まあ」
    「このお店、気に入ってくれました?」
    「そうですね、好みの雰囲気です」
    「よかったぁ~! ここ、私が始めたお店なんですよ~! これからもいぃっぱい来てくださいね♡」
    「そうだったんですか。若い子なのに、素晴らしい」

     男性は固かった表情をいくらか崩し、口角を少しばかり上げて会話に応じてくれる。
     見かけによらず、その語調は丁寧で柔らかい。

    「よかったらお名前、聞いてもいいですか? あ、私は千束っていいます。千の束って書いて『ちさと』です。珍しいでしょ」
    「千束さん」
    「あーあー、さん付けとか敬語とかそういうの気にしないでいいですよ!」
    「では、千束ちゃん?」
    「オッケーです」

     ぐっと親指を立ててサムズアップ。
     こちらの要求に、あまり困惑している様子もない。案外、人と話慣れているのかな、と少し失礼なことを考える。

    「佐賀です、佐賀圭人《さがけいと》。よろしく千束ちゃん」
    「佐賀さん! お店の看板娘に認知されて、これでもう立派な常連さんですね♡」
    「それは、嬉しいね」
    「なーにが看板娘じゃい」

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:47:35

     こちらが見事な接客でおじさまの心を掴んでいる後ろから、カウンター席の逆の端に腰かけたミズキがヤジを飛ばしてくる。
     暇そうにテレビのニュースを眺めて……ニュースでは、先週どこかの地下鉄で崩落事故があったとかなんとかの話。
     それはそうとミズキも少しは愛想を振り撒いたらもっと人気も出るだろうに。
     私でもそう思うぐらいに、ミズキは美人だ。なのに。
     ミズキは相手を選ぶ。
     お目が高い、と言うよりは目線が高い。
     上から相手を品定めして、気に入った相手に愛想を振り撒くのだ。
     そのお気に入りの最低ラインが高いもんだから、なかなか相手もできないまま、かれこれ長い月日を孤独に過ごして……。

    「おう、哀れんだような目を向けるんじゃねぇ」
    「哀れんでるんだよミズキ……」
    「二人ともその辺りにしなさい、お客さんの邪魔になっているぞ。……すみませんね、うちの子たちが……」

     ミズキは子って歳でも……と思ったが、それを口に出すのはやめておいた。
     先生に制されて、確かに佐賀さんの手は、お団子にもコーヒーにもついていないことに気づく。

    「あっ、ごめんなさい」
    「いいよ、色んな雰囲気が楽しめる、いい喫茶店だ」

     今度ははっきりと、にっこり笑ってくれる。
     佐賀さんが優しい人でよかった。
     他のお客さんが来る気配もないので、座敷席の縁に腰を掛けて、私もニュースに気を配ってみる。
     先ほどの崩落事故の現場付近が映っていて、キャスターは離れた地下の入り口から、当時の様子がどうだったのかとスタジオに伝えている。
     現場はまだ崩落の危険があって近寄れないそうだ。
     カウンターの方からは先生と佐賀さんがコーヒーの味について、大人のやりとりをしている会話がぽつぽつと聞こえてきて、ニュースの不穏さとお店の穏やかな雰囲気が混じりあって不思議な空間が出来上がっていた。
     そんな時、

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:47:53

    「ミカ、ミズキ」

     お店の奥から二人を呼ぶ声。
     小さな人影がこっそりと店内を窺うように覗いて立っていた。
     クルミだ。

    「少し来てくれ、急ぎだ」

     その表情は険しく、声のトーンは普段よりも一段どころか二段は低い。
     そのただならぬ様子に、ミズキは一言も発することなく、佐賀さんと話していた先生も、すみませんと一言だけ置いてクルミの後に着いてお店の奥へと消えていく。
     店内には私と佐賀さんの二人だけが残り、目を見合わせる。

    「何かあったんですか?」
    「はは……なんでしょうねぇ~」

     クルミの様子から察するに、人に言えることではないのは確かだ。
     しかし私を差し置いてとは、何事か。
     気になるし私もついていこうかと思ったが、後で事情を聞けるだろうと思い、ここは残ることにした。
     からんころん。
     来客を告げる鐘の音。

    「いらっしゃいま……」

     反射で上げた声は途切れる。
     入り口に立っていたその姿は、私のよく知る人物。
     低い背丈を赤いリコリス制服に包み、短い後ろ髪と額を大きく晒した髪型は、

    「フキじゃーん、どうしたのこんな時間から」
    「…………」

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:48:15

     返事はない。
     フキの表情は、これまた険しく、しかしそれだけではない、何か怒りや悲しみが複雑にない交ぜになったような表情。

    「なんだなんだー? さっきから皆して重大そうにー。おっ、もしかしてぇ千束さんへのサプライズ企画でもあるのかぁ?」
    「…………」

     ふざけてみたが、それでもフキは反応を示さない。いや、正確には反応はあったのだが。
     まるで、苦虫を噛み潰したように、ことさら険しくなる表情。どうしたの。
     フキは佐賀さんの方へちらりと視線を流す。
     ああ、まあそうか。
     フキが来るってことは、人のいるとこでは話せる内容ではないよな。
     ん、となると。さっきのクルミといい、今のフキといい、何かが起こっている?
     私の知らないところで。

    「ご馳走さま、お会計いいかな」
    「あっ、はーい! ありがとうございます!」

     少しすると佐賀さんが席を立って、会計を申し出てくる。
     今は他に誰もいないので私が対応する他ない。
     あんまりやらないレジ打ちをぱぱっと済ませ、また来てくださいと佐賀さんの背中を見送った。
     そして店内は再び二人きり。
     今度はフキと。
     他にお客さんが入ってこないよう、お店の看板をOPENからCLOSEDへと裏返し、フキに向き直る。

    「それで?」
    「……召集だ、お前に」

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:48:33

     フキは召集令状とおぼしき手紙を取りだし、私の胸に押し付ける。むにゅと沈んで手紙が少しひしゃげる。何しやがる。

    「私に召集って……おおごと?」
    「…………」

     またフキは黙る。
     何なんだ一体?
     召集と聞いて思い出すのは、一年前。
     あの旧電波塔と延空木。
     そして、真島。
     ──たきな。

    「……千束、ああフキも来ていたのか」
    「……先生」

     お店の奥から、話が終わったのか先生が姿を出す。
     その表情は、やはり暗く険しい。

    「それは……DAからか」
    「千束への召集令状です」
    「そうか……やはりか」
    「……それでは先生たちは、もう?」
    「千束は、これからだ」
    「え、なに? なになんなの?」
    「来なさい、千束」

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:48:48

     私にだけ伝わらない言葉で二人が会話する。さっぱりついていけない。
     まるでお説教でもされるかのように先生に呼ばれて、着いていった先はクルミのパソコンの前。
     ミズキもまた険しい表情で私を見る。本当に何が起こっているんだ?
     頭にいくつもの疑問符を浮かべる私に、クルミが頭だけこちらに向けて話を切り出す。
     その言葉に、いくつもの疑問は全て吹き飛び、私は飛び付くようにクルミの下へと距離を詰めた。

    「たきなが……見つかった」
    「ほんと!?」

     一年間、どこにいったのか、足取りも、生きているのかさえ掴めなかった、たきなが!

    「見つかったって、生きてるんだよね!? 元気なんだよね!? どこにいるの!? 私が迎えに行ってくる!」
    「…………」
    「クルミ……?」

     クルミも、ミズキも先生も、誰も何も言わない。
     見つかったんだよね? ちゃんと、生きて。
     死体とか、言わないよね。

    「……たきなは、生きてる」
    「な、なんだぁ……驚かせないでよ、もぉー!」
    「…………驚かせたく、なかったんだがな」
    「えっ……?」
    「 DAのサーバーから、この映像を見つけた」

     クルミが電子のキーボードに指を当てると、ディスプレイに映像が映し出される。そこは見覚えのない、鉄格子が並んだ施設。

    「………………………………」

     そこに映し出された光景に、私は──立ち尽くすことしか、できなかった。

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:49:21

    


     明滅。
     巨大なスクリーンに映し出された映像は、激しい光と煙幕で大きな部屋の中を何度も繰り返し照らし出す。ばばばと弾ける火薬の閃光が煙の中を照らしながら、鉄格子が並ぶ廊下の手前から奥へと突き進んで行く。
     爆音、銃声、雄叫び、悲鳴、断末魔の叫びが映像から響き渡る。

    「先日、 ある収容所が襲撃された事件の監視カメラ映像だ。」

     スクリーンの前に一人の女性が立つ。
     髪を丸くカットした、上背のそこそこある中年の女性。
     その様子は常に落ち着いていて、表情や声のトーンから感情を読み取ることはできない。その立ち振舞いからも、この仕事に長く勤めてきた、その道のプロだということだけが読み取れる。

    「犯人は、この映像に映った作業着の男たち。お前たちもよく知る、一年前の延空木事件の生き残りだ」

     延空木事件。
     ある一人の男によって、この国の暗部が白日の下に晒され、混沌へと足を踏入れかけながらも辛うじて踏みとどまった、事件になり損ねた世紀の大事件。

    「この収容所に捕らわれていた犯罪者五十六名が脱獄し、うち四十二名は発見し再度捕獲、十三名は射殺した」

     つまり脱獄は、一人を残して全滅。
     ただ、一人は取り逃している。

    「残り一名。それが例の、延空木をジャックしたハッカーだ。奴らの狙いはこのハッカーの強奪だ」

     襲撃の狙いは初めから一人。
     一人を助けるために、ダミーとして大量の犯罪者たちを逃がして回った。
     その目論み通り、襲撃犯は目的の人物をまんまと強奪せしめてみせた。

    「犯人は映像を見ての通りだ」

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:49:38

     その監視カメラ映像には、全身を真っ黒に染めたロングコートの男が映っている。
    つばのついた浅い帽子をわざとらしく脱いで、その帽子を持った手をカメラに振る、顔を包帯でぐるぐる巻きにして。

    「この最悪のテロリストを」

     そして、その男の後ろにぴったりと着くように一人、身長差のある細身の人影。
     黒いジャケットに黒い膝丈のスカート。
     長い黒髪を首の後ろでまとめた後ろ姿。

    「そして……消息不明になっていたこのリコリスを」

     その人影が振り向き、カメラに銃を向けて、映像は終了した。

    「井ノ上たきなを……抹殺しろ」

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 11:51:37

    一旦ここまで
    プロットができたので挑戦しようと思います

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 12:04:06

    たきなテロリストスレに入り浸ってたものです。めっちゃ好きですありがとう

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 12:18:21

    おつです
    願わくばちさたき2人の人間としての強さがしっかり描写されると嬉しいです

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 12:45:23

    君の手をどうのこうのと歌い出す時がきたか

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 15:20:16

    ロボ太のためにここまで……さてはまじたきに見せかけた高度なまじロボだな?

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 16:34:12

    たきなテロリスト落ち概念は俺が一番好きなやつ

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 20:06:47

    好き

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 20:15:34

    日常から不穏な空気になっていくのがたまらんね…

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 20:19:26

    >>19

    まぁ元スレはちさたき前提だったし…

    これがどうなるかは知らん

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:44:21

    >>14

    3.暗礁


     わからない、なにも。

     この心臓のことも、あの映像のことも。

     ──たきなの、ことも。

     どうして……。


     召集を受けてから二週間。

     あの映像を見た後、DAに行って楠木さんに映像の真偽を確かめた。

     結果は変わらない、映像に加工の痕跡は一切見られない。

     それは希代の天才ハッカー『ウォールナット』こと、クルミからも聞いていたこと。

     映像は本物。

     たきなが、真島と一緒にいる。真島と一緒に……犯罪に手を染めている。

     悪人は殺すべきだと、許せないと、あれだけ犯罪者を憎んでいた、たきなが、よりにもよって、あの真島と……。


    『お前と一緒に人工心臓の入ったケースが隣に置いてあった』

    『現場に真島はいなかった』

    『エレベーターが停止してから、たきなが先行して千束を助けに向かったらしい』


     以前、病室でクルミから聞いた言葉を思い返す。

     私が気を失っている間、そこで何かあったに違いない。

     現在DAは監視カメラ映像を元に、たきなたちの足取りを追っている。

     それとは別にクルミも独自にたきなを追ってくれている。

     召集に応じてDAに赴けば、そこで言い渡されたのは、たきなを探しだして抹殺しろとの指令。

     フキも一緒に、何か事情があるはずだと直談判してくれていたのだが、聞き入れてもらえることはなかった。

     だからこっちはDAよりも先にたきなを見つけなければいけない。

     私たちはいわばDAとも真島とも違う、第三の勢力とも言える立場……のはずだったのだが。

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:44:49

    「青森アカネです。今回の任務中、千束さんのパートナーとして選抜されました。よろしくお願いします」

     たきなの代わりか、はたまた監視役か。
     DAから派遣されてきたというセカンドリコリスの女の子が、今の私の相棒という立場に収まっている。
     どこかの国のハーフらしく、肩下まで真っ直ぐに伸ばされたブロンドヘアーは、自然なさらさら感と清潔感に溢れ、明るい緑の瞳はきらきらと翡翠のように煌めいている。
     態度は至って真面目ちゃんで、お手本のように従順なリコリスの鑑。
     上司の私に常に指示を仰いで、不審に思うことがあれば本部にこっそり連絡を入れて、悪人を見つければついていってこっそり始末しようとして。
     正直、やりづらい。

    「どうして千束さんは悪人を殺さないんですか」
    「どうしてってねぇ……私は、人の命は奪いたくないってだけかな」
    「私たちはリコリスです。悪人を殺すのが仕事ですよ。そんな聖人みたいなこと……」
    「違うよ、私が人を殺さないのは、情けとか慈愛みたいなものじゃなくてさ」

     いつか、たきなに話したことをそのまま繰り返す。
     気分がよくない。それだけのこと。
     でも、今は少しわからない。
     もしも私が、人を殺していたのなら……真島を殺していたのなら。
     たきなは今、ここに、私の隣にいたのだろうか。
     いや……それはそもそも、たきなと出会う前まで遡って考えることになりそうだ。
     さすがにそれは私の頭ではパンクしてしまうので、考えるのはやめておこう。
     今はとにかく、たきなを救うことが最優先だ。
     それ以外のことは、できる限りの範囲で。
     結局、アカネには私の信条は伝わらなかった。
     たきなを納得させるのも少し時間がかかったし、まあ何度か止めて、むりやり納得させる他ないだろう。
     パトロールを終えてリコリコに戻ると丁度、お店から佐賀さんが出てくるところに遭遇した。

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:45:08

    「佐賀さん! 今お帰りですか?」
    「ああ、千束ちゃんとアカネちゃん」
    「こんにちは」

     アカネはペコリと丁寧に一礼する。こういうところはたきなとそっくりだな。
     アカネが派遣されてきてからは、喫茶リコリコの新人ということで、店員としても働いてもらっていた。
     彼女が働く時に纏うのは青い和装。
     たきなが着ていたリコリコの制服。
     一年間、ずっと大切に保管されていた。

    「先日は、ご迷惑をおかけしました」
    「ん? ああ、コーヒーのことですか」
    「ヤケドは大丈夫でしたか……?」
    「平気ですよ。何ともなかったから、気にしなくても」

     アカネは真面目な性格で何事もそつなくこなせるかと思っていれば、これが以外とドジなのだ。
     コーヒーはこぼすし、お菓子はお客さんの顔に叩きつけるし、階段で足は引っかけるし、果ては二階の手すりから転落しかけたこともあった。
     ミズキは諦めて、クルミは知らぬで、先生は励ますばっかりで。
     なんで私がこの子の世話を見なきゃいけないの。
     たきなは要領さえ掴んでしまえばあっという間に仕事に慣れて、本当に飲み込みの早い子だったのだと思い知らされる。要領を掴むまでに苦労したこともあったけど。
     そういう意味でも、たきなには何がなんでもさっさと戻ってきてもらう。
     どんな理由があろうと、その尻蹴っ飛ばしてでも。

    「たっだいまー! 千束とアカネ、無事の帰還でーす」
    「おつかれさーん、んじゃさっさと着替えてこっちの仕事しなー」

     入り口で佐賀さんと別れ、店内へ。
     店内はそこそこに人が入っているようで、早々にミズキに着替えを急かされる。アカネと二人、更衣室へと急ぎ、制服を着替えて接客へ。
     こうしてたきなの足取りは掴めないまま、私たちは日常を過ごす。
     その日が来るまで。

  • 27二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:45:39

    4.跳梁

     『都内でテロの発生が予測された、現場付近のリコリスは急ぎ対応するように』

     リコリスたちの無線とスマートフォンに緊急の連絡が飛ぶ。
     DA専用の特殊な回線を用いた秘匿通信。
     超高性能人工知能『ラジアータ』による監視によって、この東京都内で発生する事件の大半は事前に予測され、リコリスによって対処される。

    「どうなっている、以前のようにフェイク映像の可能性は?」
    「既に七件が対処済みです、フェイクはありません」
    「真島か」
    「わかりません、しかしこの数は……」

     何件、何十件と連続してテロの予測先をラジアータが弾き出す。

    「足立区内、公園映像、フェイクです!」
    「なに?」

     カメラ映像にフェイクが含まれている。
     それは東京のインフラを支配するラジアータの情報が、何者かに上書きされていることに他ならない。

    「ちぃっ」

     以前の件から、ラジアータの防衛能力は強化されている。
     ハッカー強奪事件の折りに、刑務所所長のPCからラジアータへのアクセスがあった。
     恐らくは外部からのアクセスを可能にする細工。
     案の定、本来内部に存在しないバックドアが作られ、それは即座に対処されていたはずだった。
     にも関わらず、再びラジアータが外部からの干渉を受けている。

    「どうなっている……いや、それは後だ……フェイクでも構わん! 全てのテロ発生予測地点にリコリスたちを向かわせろ! 奴らの好きにさせるな!」

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:45:55

    5.闇黒

     「うひぃ~! さっきから緊急連絡きすぎでしょ!」

     街中をあまり目立たないよう駆け足で移動しながら、無線とスマホに送られてくる情報を元に現場へと急ぐ。

    「そんなこと言ってる暇ありませんよ、ここはフェイクです! 次に近い予測地点に行きましょう!」

     早くとアカネに急かされ、人気の少ない路地裏を通ってショートカットする。
     塀を飛び越えて着地すると、アカネのブロンドの髪がふわりと舞って、きらきらとした軌跡を残す。
     迷いのない迅速な動き、高い運動能力。確かに私のパートナーとして選抜されるだけのことはある。
     それでも、たきなには及ばない。
     何ヵ月も、何度も共に任務をこなしたたきなと、会って数週間の彼女では、息の合わせ方から私への合わせ方まで、何もかもが違うというのは当然のことだが。
     それでも比べてしまうのは、相棒という立場に立たれる以上、仕方のないことだ。
     しかし今、そのたきなはいない。
     たきながいるのは、あの……真島の隣。
     たきなが黙って真島に従うはずはない。気を失った私を盾に、何かされたに違いない。
     だから私は、私の失態で奪われた相棒を必ず取り戻す。
     絶対に許さない。
     真島を、情けない自分を、そして……私に黙って消えた相棒を。
     この大量発生するテロは、間違いなくあの男の仕業だ。
     この中のどこかに、きっとたきながいる。
     そう信じて 、DAから送られてくる指示のままにあちこち走り回っているが、フェイク情報と合わさって効率よく探すことが困難になっている。
     なんだって再びラジアータがハッキングを受けているのか。
     考えられるのは先日、脱獄したというロボ太。
     相手がクルミならまだしも、つい最近まで投獄されていたロボ太とは。
     以前『日本一のハッカー』を自称していたのは伊達ではないということか。
     或いは、ロボ太以外の何者かが存在するのか。

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:46:11

    「っ……! 直近に二件! 千束さん、二手に分かれましょう! こっちは私が!」
    「あいよっ!」

     あまりにも事件の発生予測が多い。
     先ほどから救急車やパトカーのサイレンも遠くから響き、事前対応も追い付かないほど広範囲に被害が広がっているのだと察せられる。
     このままではこちらも手が回りきらない。
     いくら最強のリコリスなんて呼ばれていたって、人間一人で対処できる範囲には限りがある。
     隠密を優先するためアカネが少し離れた街中へ、派手に被害を出しがちな私は人気の少ない港の倉庫周辺へと、別々の行動を余儀なくされる。
     無数に積まれた貨物用のコンテナの隙間を、猫の子一匹見逃すまいと目を凝らして駆け抜ける。
     刹那、微かな隙間の向こうに動く黒い影。
     足を止めて通りすぎたその隙間を再び確かめる。
     隙間の先に影はなく、真っ直ぐに並べられたコンテナの先に海が見えているだけ。
     一、二、三……影が見えたのは何列目のコンテナか。
     動きを走りから忍び足へ、横方向から縦方向の移動に変え、慎重にコンテナの隊列をしらみ潰しに確かめていく。
     人影は見当たらない。
     スマホのマーカーは確かにこの港を指し示している。
     本部と通信で確かめようとしたが、他の箇所の対応に追われているようで、通信は繋がらない。
     …………繋がらない? 対応できないではなく、全く反応がない。
     ラジアータに管理されているDAの通信が?
     電話回線がパンクするのとは訳が違う。全リコリスが同時に通信を入れたって到底そんな数には及ばない。
     何かおかしい。

    「アカネ、聞こえる? アカネ?」

  • 30二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:46:27

     通信先を切り替えて、スマホからも連絡を入れる。
     応答はない。
     当然ながら圏外というはずもなく、画面を確かめてもDAから送られてくる情報は更新され続けていて、電波の受信は間違いなくできている。
     となると、発信だけが封じられている可能性。

    「罠かぁ……?」

     それでも、先ほどの人影らしきものを放ってはおけない。
     私のこの目で見たからには、見間違いはない。
     そして何よりも、この静けさ。
     街中が混乱しているこの中で、この場所には人っ子一人もいやしない。
     明らかな、異常。
     周囲を警戒しながら索敵を続ける。
     全神経を研ぎ澄まし、微かな物音も聞き逃すまいと耳を澄ます。
     遠くのサイレンがいやに大きく聞こえ、自分の呼吸音さえうるさく感じる。

    「…………」

     ゴトン、と何処からか小さくない、確かな物音。
     重いものを動かすような、キィと金属の唸る音。
     ──倉庫だ。
     積み荷の中身が収容される、いくつも並んだ倉庫の扉が開くか閉まるかの音。
     足音を殺しコンテナの列をすり抜けて、倉庫の壁に背をつける。
     耳を当てて中の様子を窺うが、もう物音は聞こえない。
     あるいはこの倉庫ではないのか、今度は倉庫の中を一つ一つ潰して回る必要がある……と思っていたのだが、どうやら杞憂だったらしい。
     大量に並んだ倉庫の正面に向かうと、その中に一つ「どうぞここですよ」と言わんばかりに扉の開いた倉庫が一棟。
     どう見ても、罠。誘われている。

    「お邪魔しますよー」

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:46:48

     警戒はそのまま、倉庫の中を覗く。
     中に窓はなく、暗くて奥までは見渡せない。天井近くまで積まれた大量の木箱と鉄製の足場が入り組んでいるようだ。
     一歩踏み入れれば、木の香りと潮風で錆びた鉄のにおいが鼻をつく。

    「こんな人がいない場所でもテロなんてするわけ?」

     声を張り上げたわけでもないのに、倉庫内で何重にも反射して音が跳ね返ってくる。
     こつんこつん。
     足音に気を遣っても、小さな足音さえ響くほど静かな空間。
     街の音はさらに遠く、ネズミの足音さえも聞き取れそうだ。

    「……真島か?」
    「よお」

     誰かいるのかさえわからない暗闇に銃を向けて、声をかける。
     返ってくると思わなかった返答は、背後から。
     振り向き、倉庫の入り口に立つ姿を確かめる。見紛うはずもない、その憎き姿。
     逆光でよく見えないが、顔にはミイラのような包帯が巻かれているのが見える。
     その男だということだけ分かれば、迷うことはなかった。
     引き金にかけた指にた力を込めて、パァンと乾いた音が響く。

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:47:02

    「っ!?」

     構えた手に、叩かれるような凄まじい衝撃。
     バキン、という金属音と共に銃に何かがぶつかり、手から弾かれて地面を滑る。
     銃を撃ち落とされたのだと理解するのに、二秒。その二秒が、あまりにも致命的。
     ガコンと音を立てて金属の扉が閉じ始める。外に控えがいたのか。
     扉が閉じてしまえば、ここはもう光のない世界。それはつまり、エコーロケーションさえ使いこなす驚異的な聴力を持った、真島の領域。
     手元に銃は無い。そうなれば勝ち目は無い。
     銃が弾かれたのは斜め前方。銃弾は後ろ斜め上方向からの射撃、ならば。
     足に全力を注ぎ、地面を蹴って走る。
     この角度の射撃であれば、動き続ければ射線を切り続けられる。
     私の身体能力ならば、それができる。
     落ちた銃に向かって手を伸ばし、扉が閉まるよりも早く拾って、真島を撃つ。
     狙撃主は無視してもいい。暗闇になれば狙いがつけられないのは相手も同じ。
     銃まであと五メートル。秒があれば届く距離。
     強く踏み込み、一気に距離を詰める。後方の高い位置から乾いた発砲音が聞こえるが、私には当たらない。
     そして、私の手も……銃に届かない。狙われたのは……私ではなかった。
     落ちた銃が火花と共に弾かれて、再び地面を滑って私から離れていく。
     完全に拾うつもりで体勢をスライディングの姿勢に移していた私は、そのまま無防備に減速して真島の近くへと滑り込む。
     真島の足元に転がった銃は、倉庫の外へ蹴り出され、その足はそのまま眼前へ……。

    「ぶぐっ」

     咄嗟に両腕で顔を覆い、防御する。
     めき、とイヤな音を立てて腕が軋み、衝撃と共に顔に押しつけられる。
     辛うじて地面を蹴って体を捻ることで、正面から衝撃をもろに食らうことと、後頭部から地面に叩きつけられることだけは避けられた。
     だが、それだけ。
     ゴゴンと音を立てて扉が閉まり、完全に光が遮られる。
     強烈な力で蹴り上げられて字面を転がった私は、起き上がるのに手間取って自分の位置さえ把握できないまま暗闇に閉じ込められた。
     狙撃主を恐れることはないが、武器もなしに真島と戦うのは、マズイ。

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:47:36

    「……随分お洒落な顔になってるみたいだけど、なにそれ? 流行り?」
    「くっくく……マイブームっちゃそうかもなぁ」
    「自傷癖でもできたわけ?」
    「犬に噛まれたようなもんさ。躾るのに時間かかっちまってな」
    「へぇ、あんたでもペットは飼うんだ」
    「ああ、懐かれりゃなかなか悪くない」

     最初の時と同じように、声が反響して聞こえてくる。
     せめて真島のおおまかな方向だけでも掴めればと思ったが、声は四方八方から反射して聞こえる。
     かつんかつんと、わざとらしく地面を蹴って歩く音も位置を掴むには、常人の耳しか持たない私には不可能に近い。

    「今度はなに? 私に用ならさっさと済ませてほしいんだけど」
    「用事、用事ねぇ。久しぶりのご挨拶……ってのはダメか?」
    「ダメだね」

     かつん、かつん。
     攻撃を仕掛けてくる気配はない。
     真島がかつて延空木で私に望んだのは一対一の決着だった。
     しかし今の状況は一対一とは程遠い。目的は、別にあるはず。

    「収容所の襲撃、今回の連続テロ。何がしたいわけ? あんた目的はもう終わったって言ってたでしょ」
    「仕事は終わったさ。目標の達成はまだだ」
    「そんなにDAが憎い?」
    「憎いわけじゃない、言ったろ? お前らがバランスを崩すからさ」

  • 34二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:48:23

     かつん、かつん。
     足音が反響していくつにも聞こえる。
     囲まれているかのような感覚。
     鞄から懐中電灯とナイフを取りだし、心許なくともこれで戦う他ない。

    「なあ電波塔、今何時だっけかぁ、時計見れるか?」
    「スマホでも見れば?」
    「悪りぃ、今持ってなくてなぁ……十時と、四十分くらいか」
    「はぁ?」

     なんだこいつ。
     今は朝でも夜でもない。昼はとっくに回っていてまだ日も高い。
     ここが暗いのは日の光から遮断され、ところ狭しと荷が積み込まれたが故の……。
     二発の発砲音。
     手に持っていた懐中電灯が砕け、ナイフが弾ける。
     なんで……。
     ……時間、時計の針だ。
     真島が狙撃手に私の位置を伝えた。
     短針と長針で、横と縦の軸を分けて。
     しかしこの暗闇の中で、そんな大雑把な位置情報だけで正確に手元を狙えるわけがない。
     おそらくは暗視スコープのようなものを装備して、より素早く正確な位置を測って視るために、真島の情報が必要だったのだ。
     どれだけ目がよくとも、機械のように肉眼で捉えられない微かな光だけで闇を見通すのは、不可能だ。
     相手にはそれがあるなら、闇の中でも見通す目があるなら、この暗闇の中を狙撃することも、可能なのだろう。
     でも、それでも……。

  • 35二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:48:55

    「随分……腕のいい狙撃手がいるなぁ……」
    「だろ? 自慢のペットだ」

     嫌な予感が、頭から離れない。

    「へぇ……どこかで拾った……?」
    「そうだな、捨てられてたんじゃないか?」

     最初に銃を撃ち落とされたのは、振り向いた直後だ。
     落ちている銃も、暗闇を見通せても、ナイフも懐中電灯も、手の平からはみ出す程度の小さな的だ。
     そのどれも、撃ち抜いた弾は一発ずつ。

    「元の場所に、返してきなよ」
    「ダメだね、拾ったなら責任は取らなくっちゃなぁ」
    「…………」

     小さな的に対して、狙いが『正確』すぎる。
     まるで『機械』みたいに。

    「……いるんだろ、たきな」
    「ああ、『俺の』相棒のことか?」
    「ぶっ殺す!」

     瞬間的に沸いた、自分のものとは思えないどす黒い感情に、反射的に立ち上がる。
     それと同時、耳元でばんっと激しく何かが弾けて、怯む。
     顔にぱらぱらとぶつかる破片は、恐らく積み荷の木箱。
     たきなが──私の邪魔をした。
     何かが駆けてくる音。音が反響しきる前に聞こえてくる、最も大きな音の出所は、正面。
     咄嗟に顔と首を庇うようにして腕を前に出す。
     どす、と腹部に鈍い衝撃。体が浮き上がる。

  • 36二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:49:13

    「かはっ」

     肺の空気が押し出され、息ができない。
     それでも、逃がさない。
     腹部にめり込む腕を掴んで、爪を立てる。
     暗闇で目が利かない今、ここで真島を離すわけにはいかない。
     喉元に喰らいついてでも、ここでこの男を、

    「ぐぁっ」

     発砲音と共に、背後から衝撃。
     防弾鞄の上から、銃撃されたのだ。
     二発、三発。
     弾は外されることなく、正確に背中の鞄に撃ち込まれる。
     さらに正面からは真島が、顔に拳を叩き込んでくる。
     前後から挟まれる衝撃に気合いだけで耐えられるほど、この体に耐久力はない。
     せっかく掴んだ一握りの勝機も、この手から離れていく。ちくしょう、ちくしょう!
     よろめいたところに胸ぐらを掴まれ、立たされる。
     手で顔を覆う間もなく、顔面に強い衝撃が一度。恐らくは、頭突き。
     暗闇で見えない視界が揺らぎ、目の前が白い星で明るく瞬く。
     倒れる体を支えることさえできないまま、ぐらりと頭から後ろに倒れこむ。
     幸い、鞄の厚みのお陰で後頭部を固い地面にしたたかに打ちつけることはなかった。
     だが、もう立ち上がることもできない。
     防御も、受け身すらまともに取ることもできず、クリーンヒットを貰いすぎてしまった。

  • 37二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:49:36

    「悔しいよなぁ」
    「っ……ぅ……」

     耳元で囁く声。
     倉庫内には響かない、本当に至近にしか届かない小さな音。

    「今度は邪魔者も、時間制限も無しだ」
    「……はっ……」
    「返してほしけりゃ、追ってこい」

     それを最後に遠ざかる足音。
     重たい金属音が遠くで響き、視界の端に光が差す。
     頭上からは、カン、カン、カン、と金属の板をゆっくり踏み鳴らす音が響き、転がった地面を伝って、もう一つの足音が近づいてくるのを背中で感じ取る。

    「…………」
    「………………」

     足音はすぐ側で止まり、霞む視界に目を凝らせば、真っ黒な服装に身を包んだ、真島とは明らかに背丈の違う人物が立っているのが見える。
     外から差す光の陰になってその顔は窺えないが、微かな光を含んで光るのは、アメジストのように輝く薄紫の瞳。
     その双眸が、ただ黙って私を見下ろしている。
     すぐ目の前に、手を伸ばせば届くその距離に、誰より焦がれたその人がいる。
     それでも、この体は指さえ動かない。
     名前を呼ぼうにも、声さえ出せない。

    「さよなら」

     ──一言。
     冷たいその言葉だけが、吐き捨てるよう残される。
     翻って離れていくその姿を、視線で追うことさえできないまま、私はそこで倒れ続けた。
     たった一言の言葉の意味さえ、理解できないまま。

  • 38二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:50:21

    一旦ここまで
    予定では全15章前後ぐらいです

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:55:53

    いい…

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 22:59:34

    真島の方が相性いいというかコンビネーション能力高いの皮肉だな……

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:00:52

    本編たきなは千束に合わせてスキルツリー降り直してたからな…

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:02:12

    >>40

    探知最強、精密射撃最強だからね。普通に無敵の要塞すぎる。もっとも暗所じゃなけりゃ千束が単騎で落とせるが

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:06:46

    狙撃手にエコーロケーション持ち観測手はもう反則なのよ、千束は動体視力と観察力寄りで純粋に遠くが見えるわけじゃないし…

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:07:33

    鞄を撃たれるシーン、イッヌがついてると思うとあまりにも辛い……俺は耐えられない……

  • 45二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:13:29

    なんだかんだでたきながいないと対真島負け越してるからな千束
    ハンデ祭りではあるけど

  • 46二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:28:30

    >>44

    コンビネーションや相棒だけじゃなく全面に尊厳破壊がすぎる…

  • 47二次元好きの匿名さん22/10/06(木) 23:40:47

    公式ハピエン後の尊厳破壊でしか取れない栄養素はある
    いい…

  • 48二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 00:27:34

    ラジアー太くんまたボコボコにされてる…

  • 49二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 07:51:22

    6.混迷

    『ラジアータ、都内全域のテロ鎮圧を確認!』
    『被害状況報告、急げ!』
    『新宿でビル火災、複数の逃げ遅れが……』
    『緊急搬送が二百人を越えて病院の対応……』
    『都庁に多数の暴徒が押し寄せ警察が……』
    『複数の線路が破壊され脱線した車両は……』

    「ラジアータにハッキングの形跡はなかったと?」
    「外部、内部ともに第三者からアクセスされた形跡は見られませんでした」
    「どういうことかね?」
    「……現在、調査中です」

     都内の至るところで同時発生した大規模集団テロの対応に追われ、DA内部は混乱していた。
     爆破、銃撃、放火。
     リコリスの存在は以前よりも注目を浴びていることから、対応に遅れが出ることもある。
     二人以上での行動を徹底し、私服警官のように服装をカモフラージュして対応することも増えた。
     それでも、今回はあまりにも被害が多く、大きい。
     対応範囲の広さ、件数の多さに、戦力を分断して単独で行動しなければ対応に追いつけないチームが多数出たことで、単独ではリコリスの痕跡を残さずに、事前にテロを防ぐことが困難な状況に置かれたチームが多かったのだ。

  • 50二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 07:51:41

     結果、多くのテロを未然に防ぐことに失敗し、都内はかつてないほどの混沌に陥っていた。
     リコリス部隊は、ほぼ撤収。
     人命救助や暴徒鎮圧は警察や救急に任せ、テロリスト一派の捜索や追撃のための調査に当てる。
     リコリスがテロリストを処理した現場は、クリーナーに対応させるが、この被害件数ではクリーナーも手が足りず、処理は追いつかない。
     首魁と思われる真島の発見にも至らず、楠木と虎杖のリコリス・リリベルを指揮する両司令は苛立っていた。
     銃乱射などの未然に防げなかった現場は、特殊部隊としてリコリスほど隠密性が問われないリリベルが対応した。

    「司令、苛立ってますね……」
    「…………」

     隣の男がヘッドセットを外して話しかけてくる。
     年齢は二十代前半と言ったところか、まだ若い新人のオペレーターだろう。
     こんな男がプロフェッショナルとして扱われていながらもDAという組織が機能して、あらゆる事件や情報を隠蔽・操作できている。できてしまう。
     それだけに、この組織がいかにラジアータという、それを可能にしている機械に依存しきっているのがわかる。
     データのみを信じ、データに溺れきった人間たちの脆弱性が表れた組織。
     故に容易い。データの表面しか見られない、間抜けな人種。

    「こんな時もクールで、ベテランの風格って感じですね。いつから働いてるんでしたっけ? 佐賀さんは」
    「いいから手を動かせ」
    「……了解です」

     男はそれ以上追求してくることなく、ヘッドセットを装着して仕事に戻る。
     簡単な仕事だ。


    

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 07:52:25

    朝の分にこれだけ

  • 52二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 08:00:44

    乙です

  • 53二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 10:21:57

    Cパート感

  • 54二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 17:12:11

    すごく面白い…

  • 55二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 20:33:44

    ほしゅ

  • 56二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 21:20:46

    時代はまじたきか……

  • 57二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:07:07

    >>50

    7.痛感


     痛い。

     目が覚めて、最初に感じたこと。


    「千束さん!」

    「大丈夫よ、こいつなんだかんだ頑丈だから」


     誰かが私を呼ぶ声がして、私じゃない誰かが勝手に返事をする声がして。

     見覚えのある、知ってる天井が視界に映る。

     ここは、


    「気がついたみたいだね」


     山岸先生の診療所。

     通い慣れた医療施設。


    「わたしは……」

    「しばらく安静にしてな、全身アザだらけな上、鼻は折れてるんだ」

    「っ……いっ……」

    「だから触るんじゃないよ」

    「千束さん、じっとしててください」


     そう言って心配そうに、アカネの顔が覗き込んでくる。

     起き上がろうすると、全身あちこちに痛みが走って、上手く体を動かせない。

     頭だけ動かして周囲を見回し、ミズキが壁際で、誰かと電話で連絡を取っているのを見つける。

     先ほど目を覚ましたばかりの私に代わって、勝手に返事をしたのはこの女だろう。

     ミズキは通話を終えると、こちらに向き直ってへらへらしたいつものニヤケ面を浮かべる。

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:07:32

    「感謝しなさいよ、アカネがぼろぼろになったアンタを見つけて、私が迎えに行ったんだから」
    「二手に分かれてから、全然連絡つかなくて……自分が任された方を対処してから見に行ったら、千束さんが顔から血を流して倒れてて……」
    「……そっか、ありがと」

     アカネは泣きそうな顔で声を震わせている。
     ああ、だんだん思い出してきた。港でのこと。

    「で、アンタがそこまでやられるってことは……」
    「いたよ、真島」
    「本当ですか!?」
    「……アカネ、うるさい……頭が……」
    「す、すみません……」

     突然耳元で叫ばれて、声がきんきん響いてくる。
     慌てて真島のことを本部に報告すると飛び出していこうとするアカネを止めて、二手に分かれてからのことを順を追って説明した。
     何かしらの電波妨害を受けたこと。
     罠だとわかって倉庫に飛び込んだこと。
     真島とその姿のこと。
     …………たきなのこと。

    「……本部に報告してきます」
    「だーから待てっての」
    「どうしてですか、真島は今回の事件の主犯です! それに裏切り者の井ノ上たきなもいたんですよね!? そいつに千束さんはやられて……手がかりが現場に残ってるかもしれない、一刻も早く調査に向かってもらうべきです! 昔のパートナーだったからって庇うんですか!?」
    「……報告はする。たきなのことも含めてね。だからまずは落ち着いて、話が全部終わってからにして」
    「…………民間人にも、リコリスにも、死傷者が大勢出ています。あいつは無差別な大量殺戮に手を貸した、大犯罪者です」
    「たきなはそんな子じゃないよ」
    「そんな奴だから! 実際にこうなってるんじゃないですか! リコリスだったのに、かつての仲間だって平気で殺せるテロリストの仲間だ!」
    「平気なわけない! たきなは優しいから!」
    「優しい人間がなんの罪もない人を殺して回ってるんですか!? 地下鉄の崩落だって……」
    「アンタらいい加減にしろっての」

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:07:55

     ごつん、と鈍い音が二回。
     ミズキの拳骨が炸裂し、アカネと二人で頭を押さえて背中を丸める。
     目の前を星がちらつくほどの衝撃、真島にもらった頭突きに匹敵する威力だ。
     院内では静かにと、山岸先生の呆れる声も追従してきて、共に口をつぐむ。
     アカネは納得できないのだろう、不満そうな顔をしているが、それでも椅子に座って話の続きを聞く姿勢になった。

    「で、真島はアンタに追ってこいって言ったわけだ」
    「……おぅ」

     恐らくは真島は、延空木での続きを求めている。
     あの時は、私が爆弾の解除に気を取られ、真島に背中を見せたことで決着という形になってしまった。
     それを真島は納得しなかったのだろう。
     回りくどいやり方だが、あいつに正面から決闘挑まれて、それを信用して正々堂々受けてたってやるほど私もお人好しじゃない。
     真島もそれをわかってて、今回の大規模テロで私を誘いだそうと挑発してきたというわけだ。
     
    「たきなはそれに利用されてる」
    「テロリストになったのは事実です」
    「……真島に弱みとか、不利な取引を持ちかけられて」
    「そのために犠牲者が出てます」
    「……だから助けないと」
    「大量殺人の凶悪犯を?」
    「……お前なぁ!」
    「もっぺんぶつぞお前ら」

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:08:10

     ミズキに睨まれて、揃って押し黙る。
     口を挟んでくるアカネが悪いのに、たきなのことをいちいち悪く言ってきて。
     リコリスである以上、そういう価値観なのは仕方のないことかもしれないし、たきなのこともよく知らないからそう言えるのだろうけど。

    「アカネはちょっと黙ってな」
    「そーだそーだぁ!」
    「千束も」
    「…………」
    「助けるって言ったって、たきなはあんたにも攻撃してきたんでしょ? 具体的に対策練らなきゃまた同じ目に会うんじゃないの」
    「それは……」

     その通りだった。
     今までは、ただ見つけて連れ戻せばいいと思ってた。たきなさえ見つけたら、協力して真島を倒せるって。
     でも、その肝心のたきなが、私に攻撃をしてきた。
     真島と、連携して……それは、この際おいておく。到底おいておける問題じゃないけれど、引っ掛かっていたらいつまでも前に進まない。
     つまり、たきなさえいれば『なんとかなる』という、ほとんど無策に近い状態。
     対して相手は、旧電波塔の時と同じように暗闇よる視界封じと、暗所でも狙撃が可能な装備、そして真島の聴力を用いたエコーロケーションによる位置の把握と狙撃の連携。
     動けない状況で装備を的確に撃ち抜かれ、肉弾戦闘も的確に妨害され、たきなを敵に回す厄介さを痛感した。
     たきなの射撃精度は、私や真島、フキやサクラといった射撃評価の高いリコリスたちよりも更に精密で、先生を曰く「スナイパーとして育てられないのは勿体ない」と言わしめるほど。
     そのたきなを狙撃手に添えての待ち伏せ作戦など、まともに相手にするわけにはいかない。
     真島は邪魔者無しと言っていたし、延空木では私の心臓の不調に休憩を挟むなど、妙なところでフェアプレーに拘る節がある。
     しかしそれは騎士道精神のように、高潔なものであることには繋がらない。
     こちらが強ければ対抗策を構え、対策を練ればその策に備えて下準備をしてくる。
     バランス。
     純粋な力と力の比べあいをではなく、よりヒリつく、拮抗した死のスリルを味わい楽しみながら戦う男。
     邪魔者も、時間の制限も無い。
     だが、仕掛けや罠を使わないとも言っていない。
     こちらから追いかける以上、向こうは常に万全に備えて待ち構えていると考えて望むべきだろう。
     私一人の実力でなんとかなるという考えは、あいつには通用しない。
     逆に言えば。

  • 61二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:08:24

    「真島のペースには、付き合わない」
    「……というと?」

     アカネがようやくまともな相槌を打つ。

    「あんなやつとの決闘なんて受けるわけないってこと」
    「じゃあ諦めるんですか? 野放しにしておくってことですか?」
    「それも違う」
    「……?」

     真島は以前はDAの転覆を狙った延空木の
    テロを、今回は街全体を混沌に陥れる広範囲の大規模テロを通じて私に接触を図ってきた。一人と戦うために随分な手間をかけてくれる。
     そんなに熱烈なアピールをしてもらって悪いけど、なら私は一人では戦わない。

    「私だってリコリスだし? こっちも、組織らしくやらせてもらうのよ」

     真島の居場所は、DAが見つける。
     それだけの情報は、港の件で掴んでいる。
     そうなれば私との一騎討ちは水の泡。
     ただ、たきなを守るためには、DAより先に見つける必要がある。
     DAが先にたきなのところに辿り着いたら、たきなは殺されてしまう。
     あちらを立てればこちらが立たないのなら。

    「千束が立つ」
    「……え?」
    「はぁ?」
    「………ふぅ」

     ぐっと腕を力を入れてガッツポーズ。
     勢い余って立ち上がり、全身に激痛が走った。

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:08:42

    8.誘引

     巨大なスクリーンに映し出されたのは、はるか上空から地上を捉えた一枚の衛星写真。
     港から沖へ向かう一隻のボートが映っている。
     決して小さくなく、そのボートの上に複数の人間の姿が見える。
     上からの姿でははっきりと判別はできないが。

    「真島と井ノ上を含む、先月の大規模テロの取り逃しだ」

     手下たちらしき乗組員の服装はバラけているが、その中に二つ、漆黒とも言える黒い人影。
     こんな大型のボートで堂々と港から出港していて、なぜ間抜けにも何週間も気がつかなかったのか。
     答えは簡単。

    「何者かの手によって監視カメラの映像が書き換えられ、衛星写真も削除されていたため発見が遅れた」

     それがまた、なぜ発見に至ったのか。

    「当日、錦木千束が港で真島、井ノ上の両名と接触、交戦の末取り逃がしたが、ボートのエンジン音を聞いている。写真は、また錦木千束が依頼した匿名の協力者からの提供で、削除されたデータをサルベージし、解像度を上げて再現したものだ」
    「……錦木さんて電波塔の……」
    「人脈も凄いんだ……」
    「何者なんすかね、あいつ」
    「私語は慎め」

  • 63二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:08:57

     ざわつく会議室を一括する怒声。
     一息に会場は静けさに包まれる。
     だが、その中には顔に不審を浮かべるものもいる。
     無理もない。
     延空木以来、ロボ太の脱獄後に再びラジアータが何者かの妨害で、その機能を十全に果たせなくなっている。
     それが外部からの協力で主犯を見つけられたというのだから、本部への信頼に不信感を抱くものもいる。

    「衛星から追って、やつらの潜伏先が判明した」

     スクリーンの写真が切り替わり、映し出されたのは海原に浮かぶ巨大な船舶。

    「太平洋上、補給を受けながらタンカーで移動を繰り返している。ここに、総力で攻勢をしかける」

     画面は更に切り替わり、作戦概要が表示され、また別の大型船舶と複数の小型船舶が映し出される。

    「こちらも船舶で接近し、小型のボートで接触、突入する。甲板を制圧後、上空から追加の戦力を投入し、タンカー全体を制圧する」

     司令官の女は、チームメンバーの振り分けや、突入時の動きなど作戦概要を事細かに説明していく。
     メモを取るものはおらず、誰もがその内容を全て頭の中に叩き込んでいる。
     年端もいかない頃から鍛えられた、優秀な兵士たち。
     そのせっかくの兵士も、組織の頭から指示を与えられる人形でしかなく、その頭が機械に頼りきり、機械が頼れないとあっては、彼女たちも悲惨な立場だと心ばかりの同情をする。

    「作戦は本日から一週間後、明朝より開始だ。総力をあげて奴らを始末する。全力で任務にあたれ。以上だ」

     解散。
     情報が敢えて残された痕跡だとも知らず、作戦会議は終了した。

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:09:55

    一旦ここまで

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:20:21

    >>63

    明朝と早朝を間違えているので読み替えてください

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/07(金) 22:44:32

    本当に劇場版コピペの流れで作ってあるな…

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 00:50:11

    保守

    楽しく読ませてもらってます

  • 68二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 01:15:29

    このメンタルは千束

  • 69二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 09:24:40

    元ネタのスレってどこ?

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 09:27:06

    15章ぐらいの予定でまだたきながほぼ出てきていないという

  • 71二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 09:31:55
  • 72二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 09:44:47

    >>71

    あ、SSがどうなるのかはしらないけど先の展開のネタバレになるかもしれないから気を付けて

  • 73二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 12:03:06

    >>71

    >>72

    サンクス

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:12:37

    >>63

    9.不信


     鼻のガーゼを丁寧に剥がし、鏡を覗く。

     鏡面に反射して映る顔は、以前と変わらずキュートでセクシーな錦木千束。

     骨折の度合いが絶妙に重く、もしかしたら鼻が変形するかもなんて言われて、もしそうなったらショックだったのだけど。

     うんうん、綺麗に治ってるね。さすがはDAのお抱え医師。

     麻酔のため鼻の中にガーゼを詰めこまれて、そしたら今度は鼻の骨を掴まれて、そのままゴキゴキやられた時はもう私死ぬんじゃないかと思った。

     いや、麻酔で痛みはなかったんだけど。結局、麻酔切れたらめっちゃ痛いし。

     でもまあ、治ってよかった。

     この借りは、絶対返してやる。


    「おはよーございまーす!」

    「おはよう、千束」

    「先生、見てこれ! 鼻なおったよぉ!」

    「おお、綺麗に治ってるな、良かったじゃないか」


     大規模テロから一ヶ月半。

     顔以外の怪我は打撲が大半で、リコリコで接客をする分にはすぐに復帰できた。

     さすがにお客さんたちには顔のことをよく聞かれたけれど、あり得ない怪我ではなかったので、派手に転んだということで言い訳は充分に利いた。

     その間、港での情報を元にクルミに色々と調べてもらった。

     そしてわかったのが、衛星写真で捉えた画像と監視カメラの映像の違い。

     当時の港の監視カメラの映像には、私が不審な人物を探し回っている様子は映っておらず、倉庫に出入りする人物も、港に出入りするボートも、何もなかった。

     そこでクルミは当日、日本の上空を飛んでいた人工衛星の写真を、国内外のあらゆる情報機関にハッキングして──散歩感覚で──その日の東京の衛星写真をあらかた手に入れ、当日の監視カメラ映像と照らし合わせた。

     その結果が写真と映像の食い違い。

     それを匿名の協力者という形でDAと情報を共有したのだ。

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:12:57

    「いらっしゃー……」
    「こんちゃーす」
    「失礼します」
    「なんだぁ、フキとサクラか……」
    「なんだとは失礼っすね、こっちは客っすよ、お・きゃ・く。あ、すんませんパフェください、なんかでっかいやつ」

     からんころんと来客を知らせる鐘に返事をすれば、そこに立っていたのは見知った顔。
     落胆すると、サクラがムカつく表情で煽ってくる。
     先生には普通の態度なのに、なんだってこんなに生意気なんだこいつ。
     本当に先輩に対する態度がなってない。DAの教育はどうなってるんだ、教育は。

    「ほいでー、なにかしらフキさん」
    「作戦の内容と決行日を伝えにきた。詳細はこの指示書に纏めてある」

     先日、作戦説明があったらしい。
     私は顔のことで病院の検診とブッキングしてしまって、顔を優先した。
     作戦説明なら後からでも受けられるけど、顔は一生ものだし。

    「わざわざ紙とは面倒くさいな……」
    「結局は原始的な手法が一番確かなセキュリティなのさ」
    「クルミ」

     小さな人影がとことこ歩いてきて席につく。
     フキとサクラには、クルミが『ウォールナット』であることは知らせておらず、DAの関係者ということにしてある。
     最初はクルミも『身バレ』を恐れて挙動不審な態度で接していたが、延空木での一件もあり、最近ではすっかり慣れた態度だ。

  • 76二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:13:17

    「ネットワークで繋がったデジタル世界に保管されたデータは、究極的に言えば世界中の誰もがどこからでも扉を開くことができる。だがアナログ媒体に保管されたデータは現物が目の前になければ、見ることも触れることもできない。写真でも撮ってネットに上げれば別だがな。この時代になっても……この時代だからこそ、紙媒体にはデジタルに無い確かな秘匿性能があるのさ」
    「はえ~、よくわかないけど凄いんすね」
    「そうだぞ、うちの電脳担当だ、凄いだろ」
    「こいつらにそんな話するだけ無駄だろ」
    「……だな」

     クルミは呆れたような顔でキッチンへ行き、おはぎを一つ、もっもっ、と頬張りながら店の奥に消えた。商品食うな。
     しかし、クルミにもフキにもバカにされているようだ。ちゃんとわかってるぞ、要するに紙とかアナログも捨てたもんじゃないってことだろ。

    「あれだね、読んだ後に手紙を燃やしてゴミ箱に捨てるやつをやれってこと」
    「燃やすんじゃねぇアホ」

     なんだよ。秘匿性がどうとか話してたのに。
     カッコいいじゃん手紙燃やすの。

    「はいよ、うちのスペシャルパフェだ」
    「先生、それって……」
    「ああ、構わないだろう?」

     そうこうしている間に、先生が器用に片手で大きなお皿に乗ったパフェを持ってくる。
     先生がサクラに出したパフェ。
     それはいつか、たきなが自信満々で開発したオリジナルメニュー。
     そのビジュアルのインパクトに、みんなで苦笑いしたんだっけ。
     ネットでなんて呼ばれてるか知ったたきなは嫌がって、メニューは一度終了になったけど、人気でたまーにこっそり提供したりして、たきなに怒られたりした。
     でも、たきなが失踪してからは、このメニューはもう提供しなくなっていた。
     これを見る度に、たきなの純粋な笑顔を思い出すのが、何となく辛くて。
     いつの間にか、記憶の中からこのまま消えていきそうな気さえしていた。でも、今はそんなことはさせない。
     辛いから思い出を忘れるなんて、私らしくない。
     また、こいつでたきなをからかってやろう。
     必ず、連れ戻す。

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:13:34

    「おお! このパフェ、ウンコっすねぇ! ぁいだっ!?」

     空気の読めない後輩の脇腹に一撃、肘を差し込む。
     反対側で少し顔を赤くしたフキがサクラの頭を殴っているのが見えた。やるなぁフキ。こういう時は気が合う。

    「おはようございます、遅れました」
    「おっはよーアカネ。遅刻だぞ」
    「邪魔してるっすよー」
    「すみません、寝過ごしてしまって……」

     からんころんと音を鳴らして、真面目なドジっ子が遅れて登場。
     扉の外から差し込む風と光に、ブロンドヘアが優雅に輝いて舞う。

    「朝から賑やかで……な、なんですかその……それ……う、ウン……」

     アカネはサクラが頬張っているモノを見て、青ざめた顔で絶句する。
     そういえばアカネも『これ』を見るのは初めてなのか。
     わかる、その気持ちはよーくわかるよ。
     アカネと同じ真面目タイプだったのに『これ』が何なのか、わかってなかったたきなが、やっぱり特殊だったんだなと改めて実感する。
     もうサクラがはっきり言っちゃってるけど。こいつのどこが乙女なんだろう。

    「……? こいつは?」
    「あれ? フキ、会うの初めてだっけ?」
    「青森アカネです。今回の真島及び井ノ上討伐作戦の間、千束さんのパートナーを勤めさせてもらっています。フキさんとサクラさんですね。延空木事件の時に活躍されたと聞いています」
    「…………へぇ」
    「おっ、ものを知ってるじゃないすかぁ。私のことはサクラでいっすよ。セカンド同士、よろしくう」
    「わかりました。よろしくお願いします、サクラ」

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:13:55

     フキは特に興味もなさげに、サクラはご機嫌にアカネに手を差し出して握手をしている。
     恐らくサクラ的には握手を『してやってる』立場のつもりなんだろう。座りながらもアゴを浮かせてアカネを見下ろすような偉そうな態度。フキ曰くこれがサクラの自然体らしい、凄いなこいつ。

    「フキさんたちはなぜここに?」
    「作戦説明をサボったバカに、決行日を伝えに来たんだ」
    「ああ……」

     呆れたような眼差しがこちらに向けられる。
     アカネちゃんや、その説明で即座に私のことだと理解するのは違くないかね?
     どんどん先輩としての威厳が無くなっている気がして危機感を抱く。
     そんな態度を見て、たきなを思い出す。
     そういえばたきなも、最初は私のことを大事件を解決した偉大な先輩みたいに言ってたんだっけ。
     懐かしいな……。

    「おいサクラ、さっさと食え!」
    「むぇ! まだ半分も食べてないっふよ~」
    「今日は引っ張ってかないんだねぇ」
    「せっかく先生が出してくださったんだ、残すのは勿体ねぇだろ」
    「一緒に食べてあげたらいいじゃん、先生のお・手・製パフェだよ」
    「なんっ……」
    「あーんしてあげましょうか、フキ先輩」
    「おー、してやれサクラ」
    「ざっけんな!」

     フキは顔を真っ赤にして髪を揺らす。
     けけけ、可愛いとこあるよなぁ。
     結局、フキもパフェを少しもしょもしょと頬張りながら──あーんは私とサクラで一回ずつしてあげた──その様子をにこにこ笑って見ている先生に恥ずかしそうに挨拶をして、お店を出ていった。
     外からはサクラが痛みを訴える悲鳴が響いた。

  • 79二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:14:13

    「あ、私、着替えてきますね」
    「おーう、はよ準備して出てこい、ミズキが買い出し行ってて人手がないんじゃ」
    「急いだって、お客さんいないですよ」
    「…………客寄せすんだよ、店の前とか出て」
    「嫌ですよ、見世物扱いなんて。千束さんがしてください」

     最近わかってきたことの一つに、アカネは真面目ちゃんのようで、あんまり真面目じゃない。
     表面上は真面目に見えるけど、人の見ていない場所では適度に手を抜いて、人の見ている時には真面目に見せる、ずる賢い奴だ。
     そういえば、本部に連絡しているところも殆ど見たことがなく、連絡を入れてくると言って、いつも私に隠れてやっている。
     たきなのことを悪く言っていた時のことも考えると、裏じゃけっこう口が悪いタイプなのかもしれない。
     そうなるとサクラのことも、内心では悪態ついているのかも。
     からんころん。

    「おっと、いらっしゃいませー!」
    「どうも」
    「あ、佐賀さーん! 久しぶりじゃないですかぁ! ほらお客さん来たじゃん、早く着替えてこいって」
    「は、はい!」

     入り口の扉を開けて顔を覗かせたのは佐賀さんだった。
     大規模テロ以降、顔を出していなかったので心配していたのだけど、無事だったようで安心した。
     先生も、ほっとしたような表情を浮かべている。

    「ここのところ忙しくてね、ほら先月の……」
    「そうですよね……佐賀さんは怪我とか、ありませんでしたか?」
    「大丈夫、このお店や千束ちゃんたちも無事でよかった」
    「どうぞ、一杯はサービスしますよ」
    「マスター、ありがとう」

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:14:33

     先生がコーヒーを淹れている間に注文を取って、下ごしらえのされた和菓子を用意する。
     お菓子を運ぶと丁度、熱々のエスプレッソコーヒーがカウンターに出されるところだった。

    「相変わらず美味しいコーヒーだ、とても安らぐ」
    「それはよかった」
    「お菓子はどうですか!? 今日の下ごしらえは千束ですよ!」
    「もちろん、美味しいよ」
    「いひひ~、まいどどうも~♪」
    「……実は近い内……一週間後に大きな仕事があってね」

     佐賀さんは鏡を覗くようにして、物憂げにコーヒーカップに目線を落とす。
     普段から落ち着いた声量の人だけど、一段と小さな、寂しそうな声。

    「その一仕事を終えたら、海外に転勤になるんだ」
    「そう……なんですか」
    「もうこの喫茶店には、来られなくなってしまう。だから今日は、ここでゆっくりできる最後なんだ」
    「だったら! もっと明るくいきましょう!」
    「え……?」
    「最後だっていうなら、湿っぽくお別れするより、もっと楽しい思い出にしましょうよ!」
    「楽しく、か」
    「それにぃ~……人生はまだまだ何があるのかわかりませんよ~? 転勤してから、トラブルでとんぼ返りになったりして……そしたらまたここに来られますよ!」
    「……はは、それはそれで、恥ずかしくて顔を出せないな」
    「そうと決まれば、みんなで派手に送別会やる! ミズキ……は買い出しか。クルミ~、ア~カ~ネ~!」

     フキから預かった指示書は懐にしまって、まずは佐賀さんの送別会を始めよう。
     一週間後。
     私の大仕事も控えたその日への景気づけのためというのも、こっそり混ぜて。
    

  • 81二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:15:13

    一旦ここまで
    15じゃ収まりませんでした

  • 82二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 16:36:12

    最近これと一般人千束概念のSSをモチベに毎日頑張ってる

  • 83二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 17:08:31

    ちゃんとサクラのパフェも回収されてて前置きが丁寧だ

  • 84二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 18:26:10

    フキサクはいい…

  • 85二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:13:31

    >>80

    10.堕落


     「……千束!」


     展望台の扉を弾くように開けて、視界に飛び込んできた光景に悲鳴が飛び出す。

     うつ伏せの千束と、その千束を足蹴に銃を突きつける真島。

     千束は気を失っているのか、ピクリとも動かない。

     迷うより先に銃を構え、その男に向かって走りながら、撃つ、撃つ。

     真島は後ろに飛び退き、その勢いのついでと言わんばかりに千束の体を中央の逆ドームへと蹴りとばす。


    「千束っ……」


     千束か、真島か。

     迷うはずなどない、銃を投げ捨て、千束の体に手を伸ばす。滑り落ちていく千束の体を、寸前。辛うじて足首を掴んで引き留める。だが、


    「またお前かよ」

    「あっ、ぐ……」


     背中にずぐんと押しつけられる痛みと重み。

     今度は、わたしが銃を突きつけられる番だった。


    「真島ぁ……!」

    「毎度毎度めんどくせぇな」


     わたしを踏みつけるその男を肩越しに睨みつけて威嚇する。

     どごん、と音を立てて背中から強烈な衝撃が体にのし掛かる。

     肋骨が軋み、肺が圧迫され、息が止まる。それでも、千束を掴む手は離さない。


    「……はぁ、興醒めだわ。電波塔も、てめぇも。そんなに大事なら一緒に逝かせてやるよ」

  • 86二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:13:45

     引鉄がキリ、と絞られる音。
     目を閉じて、その瞬間を覚悟する。
     ……こない。その時はいつまで経っても。
     体にかかる体重に変化はないが、何が起こったのか。
     目を開けて肩越しに背後へと視線を移す。
     やはり、そこには変わらず真島が立っている。が、銃口はこちらを向いておらず、真島の顔の横で上を向いて構えられている。
     なんだ、どういうつもりだ。

    「そうだ、いいもん拾ったんだったな」

     真島は唐突に口の端を歪ませて、足をどけて展望台の端へ向かう。
     理由はわからないが何だっていい、千束の体を引き上げるチャンスだ。
     両手で足首を掴み、腕と背筋に力を込める。人間一人の体重を引き上げるのは容易ではないが、とにかく急がなければまた真島が戻ってくる。
     全霊の力を込めて千束を引き上げる。その肩からはどろどろと血があふれ、呼吸も小さく弱っているのが確かめられた。
     マズい。
     止血をしなければいけない、だが真島がいる以上はこの場に留まることはできない。
     どうすれば……。

    「おい、黒い方」
    「っ!?」

     千束の容態に気を取られて真島の接近から注意が逸れた……!
     背後にはいつの間にか真島が戻ってきている。その手には、グレーのアタッシュケースを携えて。
     ガシャンと乱暴な音を立ててケースが床に置かれ、真島が目の前にしゃがみこむ。
     これは……この、アタッシュケースは……。

    「これが何かわかるよな」
    「…………」
    「お前らと吉さん……お前には吉松って言やいいか? が騒いでんのは全部、聴いてた」

  • 87二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:14:35

     真島は自らの耳を軽く指で叩く。
     これは、じゃあ……これは。

    「物欲しそうな顔してんな」
    「……っ」

     真島が愉しそうに嗤う。
     全身の神経が苛立ち、咄嗟に飛びついてその喉を噛み千切ってやろうかと思ったが、眼前には小型の拳銃がこちらに顔を向ける。
     落ち着け、今は冷静になれ。ここでわたしが死んだら、千束も死ぬ。何をしにきたのか、目的を見失うな。
     千束を、助けるんだ。

    「助けたいんだろ?」
    「……なん……だと?」
    「そこに転がってる、相棒を」

     思いもしなかった言葉に、思考がフリーズする。

    「やるよ、これ」
    「……何を……考えて……」

     真島がケースを押してこちらへ滑らせる。先ほどの乱暴さとはほど遠い、優しい手つき。
     この中に、千束の心臓が……?
     吉松は、心臓を自らに移植して千束に殺させることで、奪わせようとしたのではなかったのか?
     そんなことは、些末なことで。目の前に突き出されたそのケースを、全身で強く抱き締める。
     これで助かる……? これで、千束が生きられる……千束……千束……。

    「中身は確かめないのか? 吉松が本当に自分の中に心臓を入れてたのか、狂ってたのか、気にならないか?」
    「そんなの……どうでもいい……」
    「そうかい」
    「……わたしに、何をさせる」

  • 88二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:15:01

     顔を上げて真島を見つめる。
     当然、無条件の施しだとは思っていない。
     わたしにこれを渡したということは、何か……わたしに条件を突きつけるはずだ。
     銃口は以前こちらを向いたまま。こちらからは要求も、取引の権利も一切与えられていない。
     真島の顔がさらに歪み、大きな犬歯が夕暮れの光を反射してギラリと光る様に、背筋をぞわりとした感覚が走る。

    「お前さ、俺の仲間にならねぇか」

     ならない。
     わたしは悪人が嫌いだ。
     どんなことがあっても、悪道に堕ちるつもりはない。悪人はすべからく殺すべきだ。
     千束の殺さずの信条がなければ、今でもわたしはそのつもりで引鉄を引く。
     だけど……だけど……。
     だけど────。
     突きつけられる銃口、呼吸が消えかかる千束、この手の中にある────命。

    「戦ってやるほどの興味はねぇが、仲間にいたら便利ぐらいには思ってる」
    「………………それ、で………………千束を……」
    「ああ、見逃してやるよ」
    「…………応急、処置を……」
    「ああ、いいぜ」
    「…………………………………………」

     唇を噛んだ。
     肉が千切れるほど。
     噛み締めた。
     奥歯が砕けるほど。
     無念を、無力を。

  • 89二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:15:16

    「千束……待ってて……」

     意識のない千束に寄り添い、顔を撫でる。紫色に染まった唇が、千束の容態を物語る。サクラに使った救急キットの残りで、千束の傷口を塞ぎ出血を抑える処置をする。塔の電源が復旧するまでは、エレベーターは往復してこない。先に電源を戻せば、カメラの映像からわたしたちの居場所が掴まれる。

    「急いで降りて、電源を戻せ」
    「走れってか?」
    「千束の命が、条件だ」
    「へーへー」

     アタッシュケースを開いて、中身を確かめる。

    「…………」
    「どうだ?」
    「……あるなら、それでいい」
    「ブレねえな」

     体位を整え、鎮静剤を打ち、少し呼吸の落ち着いた千束の隣にアタッシュケースを並べる。

    「千束………………死なないで」

     わたしのことは、忘れてもいいから。
     千束が、生きてさえいてくれれば。

    「急ぐんだろ?」
    「……ああ」

     眠る千束に背を向けた。
     その男の後について、二度と振り返ることのない道へと一歩を踏み出した。
     胸に一つ、決意を抱いて。
     地獄まで、抱えて堕ちるとも。

  • 90二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:15:42

    一旦ここまで
    やっとたきなの出番

  • 91二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:21:04

    たきなかっこいい…

  • 92二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 20:31:59

    >>82

    嬉しい嬉しい!

    作者だよーありがとー

  • 93二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 21:14:12

    チサトさん!→大丈夫よ…
    なん…だと…
    なんだっていい!◯◯するチャンスだ!
    とかパロネタがちょくちょく入ってくる

  • 94二次元好きの匿名さん22/10/08(土) 22:10:24

    千束視点からたきな視点の温度差がすごい…

  • 95二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:37:19

    >>89

    11.


     くさい。

     鉄と硝煙の臭いが、鼻にまとわりついて離れない。指がいやに重い。

     射撃は得意だ。

     的の中心、狙った部位に当てることを何千、何万回と繰り返してきた。

     銃口を向けて、引鉄を絞る。

     ぷしゅっ、と空気を含んだ小さな破裂音と共に真っ直ぐに狙った的へと弾丸が吸い込まれて、真っ赤な花弁を花開かせる。

     そうして何人も何十人も何百人も、この世にあるべきではない人間を撃ち殺してきた。


    「違うだろ?」


     近づいて倒れた的を確認し、構えた銃を下ろす。

     その銃を持ち上げるように、横から手が添えられて、再び的へと向けられる。


    「ほら、しっかりやりな」

    「わたしに、触るな」


     耳元で囁かれた声に、機械的に返事をする。

     足元では、倒れた的が足を抑えて、悲痛な叫びをあげて鳴いている。

     命を乞う音。

     人の音。

     同じだ、今まで何年もそうしてきたじゃないか。この人差し指に力を込めるだけ。それだけで、この音は消える。

     そうやってずっと、不快な音を消してきた、奪ってきた。

     ただ、近頃はそれを奪うことが失くなっていただけで……。

  • 96二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:37:37

     命大事にだからね──。
     頭の中に響く声。
     脳裏に浮かぶ、その声の主、その姿、笑顔。
     たきな。
     たきな?
     たきなー。
     たきな!
     たきな♪
     たきな

    「命、だけは……」

     目の前では人が死ぬのをほっとけないでしょ。
     あの時たきなは仲間を救いたかった。それは命令じゃない、自分で決めたことでしょ?
     私はいつも、やりたいこと最優先!
     誰かの時間を奪うのは気分がよくない。そんだけだよ。
     私はリコリスだけど、誰かを助ける仕事をしたい。これをくれた人みたいにね。
     吉さんを殺して生きても、それはもう私じゃない。

    「家族が……いるんです……」

     困ってる人を助ける仕事だよ。
     だからたきな、力を貸して。
     いざって時どうすんのよ。
     だって注射避けられないし!
     楽しいよ、たきなといればさ。
     受け入れて、全力! だいたいそれでいいことが起こるんだ。
     やるなぁ。

  • 97二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:37:50

     必死に頭を振って、その幻覚を振り払う。

    「子供が……」

     今は次に進む時、失うことで得られるものもあるって。
     誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって!
     居場所はある。
     遅くない、まだ途中だよ。チャンスは必ず来る。その時したいことを選べばいい。
     私は君と会えて嬉しい!
     嬉しい、嬉しい!

    「……………………」










    

  • 98二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:38:27

    









    「よくできました」

     くさい。
     このてが、赤くそまって。

    「才能あるよ、お前」

     まとわりついて、はなれない。
     からだが、おもい。

    「この調子でやろうか」

     きっとこれからも、くりかえす。
     なんにんも、なんじゅうにんも、なんびゃくにんも。
     だいじょうぶ、わたしは、大丈夫。
     決めたんだ、もう。背負っていくと。
     戻ることはしない、目を逸らさない。
     転がった『それ』を見て、受け止める。

     わたしが、殺した。罪の無い人を──。

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:39:09

    一旦ここまで

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 06:49:14

    いいじゃん

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 07:18:51

    絵がつくと悲壮感が増す…

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 07:31:26

    朝から重い…

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 08:52:21

    結局振り払えずに百合ーゴーランドで撃つのお辛い…

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 09:56:07

    盛り上がってきたな

  • 105二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 11:18:39

    千束側が明るいと思った分反動がきたな…

  • 106二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 12:45:14

    思ったよりも出番が増えた青森アカネちゃんのイメージ

  • 107二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 17:37:32

    今日一日の12、13章がまとめて消えたので続きは書き直しで少し遅れます…

  • 108二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 17:41:02

    応援してます!

  • 109二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 22:11:53

    今日中には無理そうなのでとりあえず過去作でお茶を濁します…

    【リコリコSS】重い系千束|あにまん掲示板筆が遅いせいで続き載せる前にスレ落ちちゃったので再掲します千束嫉妬スレから思い付いたSSなのでそっちのネタですオリジナルのモブリスも出てくるので苦手な人は注意してくださいbbs.animanch.com
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  • 110二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 22:16:16

    良いもの書いてんな……
    大好きだよ

  • 111二次元好きの匿名さん22/10/09(日) 23:16:33

    >>109

    また君だったのか、全部名作じゃないか…

    やはり世界に届けられるべき才能だ…

  • 112二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 01:24:39

    恋愛系SSの重い千束ではオリキャラいい感じに救われたけどシリアスではアカネちゃんはどうなるか…

  • 113二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 07:00:36

    一応捕手

  • 114二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 12:49:37

    >>106

    青でも赤でもないのがリコリコっぽい

  • 115二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:08:55

    >>98

    12.不屈


     水を掻き分けて、白波を立てながら海面を船が走る。

     DAが用意した巨大な貨物船。その甲板に立ち、風を全身で感じる。

     海の香り、髪を撫でる潮風、どこまでも続く青い景色が、仄かにバカンス気分へと誘う。

     遥か彼方を見やると、水平線に揺れる蜃気楼のような船影。

     作戦目標となっている、真島の待つタンカー。

     それを見て、隣の人物に確認する。


    「二隻あるねぇ」

    「情報に間違いはねぇってことだ」


     私は今、甲板の上でフキと共に二人、現在の状況を確認している最中だった。

     早朝、出港の直前になって全体に言い渡された、もう一隻のタンカーの存在。

     恐らくは海外から来た、装備と人員の補給用のタンカーとのこと。

     それでも作戦の内容に変更はなく、元々目標の真島側のタンカーを制圧した後、海外側のタンカーも順次制圧すると追加された。

     フキはスマホの画面にタンカーの写真を表示し、その内容を確かめる。

     遠距離から超高画質で撮影され、それをさらに高解像度化したもの。


    「このドローンが……」

    「さすがにこの距離からじゃ、肉眼では見えないなー」

    「当たり前だろ」

  • 116二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:09:13

     写真に映るのはタンカー、だけではなく、その周辺に飛行する小さな複数の物体。
     船と比べれば米粒にも満たない大きさで、並の画質では捉えられない。

    「最初からヘリで飛んでいけたら楽だったんだけどなぁ」
    「近寄ったら落とされるんだ、無理言うな」

     このドローンこそが、先月の大規模テロでラジアータの情報を妨害した敵の正体だった。

     ・・・・・

    「これが例の港の画像だ」
    「マジ? このちっさいのが?」

     DAと情報共有するために、クルミが各所から衛星写真をかき集め、見つけたのはカメラのフェイク映像と違う現場の様子だけではなく、写真に映りこんだ小さな存在。
     真島とたきなに襲われた、あの港の写真から発覚したのは、現場上空を飛ぶ鳥のような飛行物体。

    「ドローンでそんなことできんの?」
    「狭範囲独立ネットワークとでも言うべきか。ドローンそのものじゃなくて、ドローンに積まれた電波の発受信機器の方だな。こいつが出す妨害電波が周囲のネットワーク通信を遮断し、そこに独立したネットワーク回線を展開する。そこから元あったネットに繋いで、書き換えた情報をラジアータに流していたわけだ」
    「……あー、つまり?」
    「ラジアータを一本の巨大な樹だと考えてみろ。そこから無数に延びた枝が東京中に張り巡らされて、ネットワークを繋いでいる。その中の枝を一本折って、代わりに別の枝を繋いで元々の枝のフリをしているのが、このドローンだ。これでラジアータの本体にハッキングすることなく情報操作ができる。それでも、普通は妨害電波で通信を遮断された時点で異常が検知されてバレるだろうが、高度な成り済ましに騙されでもしたか、DAの内部に異常を隠す奴でもいたか」
    「んで、そのドローンを作ったのがロボ太ってわけか」

     大規模テロの直前、収容所のロボ太を強奪したのはこのためだったわけね。

    「いいや違う」
    「あり?」
    「ロボ太は確かに腕の立つハッカーだが、こんな高性能のマシンを作れるような技術屋じゃない。脱獄からテロまでの期間も短すぎるし、この独立ネットワークを作ったのはロボ太とは別の誰かだ。ロボ太はその管理でも任されてるんだろう」

  • 117二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:09:27

     つまり技術の提供者か、或いは技術者そのものが真島側についているということ。
     そんなことができるのは……。

    「アラン機関が噛んでるかもな」
    「うぇ……」

     ただでさえ真島だけでも厄介なのに、さらに高度な技術支援までしてくれちゃって、面倒なことこの上ない。
     こっちのチルドレンにも少しは支援してくれたってバチは当たらないだろ。バランス取れてないじゃん。
     …………そもそも私は返上したんだった。

    「かなり厄介だぞ。外部からの電波を遮断できるならボクに出来ることはない」
    「それを何とかするのが、ハッカーの仕事なんでないのかい?」
    「前にもあっただろ。ネットが繋がってるならどこにだって侵入してみせるが、そもそも電源がなかったり、開ける鍵穴自体がなければボクたちハッカーは無力だ」

     独立ネットワークとクルミは言う。
     周囲の電波を遮断して穴を空け、その空いた穴に自分のネットワークを入れて干渉する。干渉している間はネット同士繋がっていてハッキングも可能らしいが、一度閉じ籠ってしまえば外部からの電波は全て遮断され、内部の独立ネットワークのみでしか繋がらない、閉鎖された空間になってしまう。
     さらにクルミの推測では、無線やスマホの通信は勿論のこと、それだけ強力な電波を出せるのなら、ヘリや船の電子機器も全て狂わされる可能性が高いとのことだ。

    「空は当然落とされるだろ、海上も止まれば狙い撃ちにされる」
    「どうすんのよ、イカダやカヌーでも漕いでいけばいいわけ?」
    「…………」

     ・・・・・

  • 118二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:09:41

    「小型ボートって……マジでこれなんすか……」
    「仕方ねぇだろ、イカダ漕ぐよりマシだ」
    「ゴムボートっすよ! 最初の作戦じゃもっとでかいモーターボートだったんすよ! 撃たれたらおしまいじゃないっすか!」
    「こっちのが的が小さい」

     DAの用意した貨物船に用意されたのは、DA技術半班特製の、後方にモーターを取り付けたゴムボート。大勢のリコリスを乗せるのに、船に積み込みやすく数も用意できるので採用された。
     可能な限り貨物船で近づいた後は、これでタンカーに直接接触して乗り込む。
     ゴムボートと言えども防弾エアバッグ技術が応用されており、実弾の数発程度では穴は空かないらしい。
     しかしそれでもサクラの言う通り、屋根のような遮蔽物は何もなく、タンカーの上から撃たれれば身を守る術はほとんどない。
     数を多く用意するのも、的を小さくする他、少しでも狙いをバラけさせて一チームでも多くタンカーに到達させる狙いがある。
     逆に言えば、全員はたどり着けない算段。

    「的の小ささなら私もウォーターバイクがいいっすー! 格好いいしー!」
    「お前は突入部隊なんだからこっちだ」

     ゴムボートで接近した後は、甲板にワイヤーを飛ばし、忍者よろしく壁を伝って登っていくことになる。
     そうなれば必然、上から狙い撃ちされることになり、全滅は避けられない。
     そこで突入する部隊とは別に二人一組で、ボートよりも小回りが利くウォーターバイクを使って、海上から突入を援護する遊撃部隊も編成された。
     一人がバイクを操り、一人が後ろから射撃で甲板から出てくる敵を狙う。
     乗り込んだ後は甲板を制圧、タンカー周囲を飛行するドローンを狙撃し、上空から追加の戦力を投入して、そのまま船舶全体を制圧する。

    「もう一隻のタンカーに、ドローンによる電波妨害なんて……最初の作戦説明ではそんなこと一言も……」
    「あー、楠木さんと楠木さんが信頼してる一部の人にしか共有されてないからねぇ。極秘の極秘ってわけよ」

  • 119二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:10:02

     私もその中の一人で、指示書がわざわざ紙だったのもそのため……というかクルミが情報を入手したんだから知ってて当然なんだけど。
     海上から近づくもう一隻のタンカーも、改造されたゴムボートも、情報の漏洩を防ぐためにギリギリまで、ほとんどの人間には伏せられ極秘で準備されていた。
     同じチームのアカネも、今朝になって知らされた急な作戦に、困惑している風な様子を私に見せる。
     一チームは四人編成。
     ボートの大きさと乗り込む人数、積み込める装備の重量と諸々の結果、この編成となった。
     ボートの操縦に一人、攻撃に二人、防御に一人。
     防御には今回の突入作戦のため、専用に改造された防弾エアバッグが使われる。通常一秒程度で展開が終了するエアバッグだが、今回のものは通常よりも広範囲に展開され、さらに五秒ほど展開し続けることのできる優れものだ。
     海上を高速で移動するので、五秒も展開できれば相当の距離を安全に移動できる。
     ただしその分、通常のリコリス鞄に詰め込まれているマガジンやサブウェポンなどのスペースが失くなってしまったため、今作戦用の専用装備というわけだ。
     これだけ大がかりな突入作戦、リコリコの仲間たちだけでは不可能だっただろう。
     その為にDAと情報を共有して、私個人ではなく『リコリスの錦木千束』として作戦に参加する道を選んだんだ。

    「あーあー、こちらチームアルファわーん。つーすりーふぉー、準備オッケーでぇーす」
    「千束さん、もう少し真面目にやってください」

     真面目系不真面目に言われたくないわい。
     各チームが次々にボートの横に立ち、出撃の準備を整える。
     格納庫のシャッターが開いて、船の後方に白い飛沫をあげる海面が眼前に広がる。

    「いいですか千束さん! 今回は私と二人きりじゃないんですから、勝手な行動はしないでくださいね!」
    「わぁかってますよー、千束さんはチームリーダーですからねー」

  • 120二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:10:20

     するけどね。
     真島は私を待っているなら、確実にリコリスが乗り込む側のタンカーにいる。
     そして真島がいるということは、たきなもそこにいる可能性が高い。
     たきなはDAから抹殺対象にされているままだ。
     私よりも先に他の誰かが見つければ、たきなの身が危なくなる。
     だからその前に私が見つける。
     突入して、誰よりも先に見つけて、捕まえて、連れ戻す。当然、敵も倒す。
     それは私一人ではできないことで、DAの立場からでもできないこと。
     両方の立場にも属する私、『錦木千束』にしかできない。
     両方の立場とも使って、私にしかできない道を選ぶ。

    「頼むぞ、フキ」

     誰にも聞こえない大きさの声で呟く。
     次々とボートが海面に飛び出していき、モーターエンジンが唸りを上げて前方へと消えていく。
     自分の両頬を叩いて、かつてないほど気合いを入れる。
     この海の先に、たきながいる。
     待ってて、たきな。

     ────ミッション、スタート。

    

  • 121二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:10:42

    13.悲痛

     机を挟んだ先で、顔を包帯に巻かれた男が足を組んでコーヒーを啜っている。
     その背後には作業着をまとったサングラスの男たち。
     わたしはその対面で銃を握り、両足の間に手をぶら下げる。
     いつでも、撃てる。
     真島の仲間に下り、日本各地でテロリストとしての活動を続けて一年。
     既に引き金を引くことにも慣れ、汚れた手を見ることも当たり前の日常となった。
     鏡を見れば笑うことも無くなったわたしの心は、とうにどこかで擦りきれたのだろう。
     そんな風に思うことにも慣れた。慣れて、しまえた。
     初めの頃は、返り血も浴びない銃での人殺しなのに、この手が血に染まって見えて、何度も必死に手を洗って、時にはたわしで擦ったりもしたものだったのに。
     人間の脳とは、つくづく自分に都合良くできているものだなと自嘲する。

    「次は東京だ」
    「……東京には千束がいる」

     次のテロの標的に真島があげたのは、東京。
     わたしが千束と出会い、共に過ごした第二の故郷。

    「そりゃそうだが、DAの総本山は東京だ。それをどうにかしなきゃ、この国のバランスは崩れたままだ」
    「千束の命が協力の条件だ、千束を巻き込むな」
    「わかってるさ、俺からは手を出さない」
    「…………」

  • 122二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:11:01

     千束から向かってくる場合は、その限りではない、か。
     銃を握る手に、僅かに力を込める。

    「そうだな、手始めに地下鉄なんてどうだ?」
    「地下鉄でなにをする」
    「そりゃ電車がホームに入ってきたところをばーんと派手に撃ちまくるのさ」
    「単純だな」
    「前々から東京に戻ったら、まずはこれをやるつもりだった。俺にも懐かしい思い出があってな」

     真島はにたにたと口の端を歪めて嗤う。
     この男の思い出など、どうせろくなものでもない。そんな心にもない、小綺麗な言葉で飾りながら人の命を奪う方法を考えている姿に反吐が出そうになる。

    「……わかった、準備は任せる」
    「おー、活躍期待してるぜ、『相棒』」
    「…………」

     席を立ち自室へと向かう。
     去り際にかけられたその呼び名に、嫌悪の感情を微塵も抑えることなく表情に出して一瞥する。
     真島はそれを気にする素振りも見せず、コーヒーを飲みながらニュースが流れる小さなテレビ画面を眺めていた。

  • 123二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:11:20

    
     ────翌週、東京近郊。
     地下鉄のホームで真島と二人、仲間の到着を待つ。
     周囲には不自然なほど人気がなく、時間と共にまばらな人影もホームから消えていく。
     しばらくすると、大きなバッグを抱えた作業着の男たちが階段から現れ、わたしたちの目の前に大量の荷物をがしゃがしゃと音を立てて広げていく。
     バッグのファスナーを開くと、そこに入っていたのは、海外の戦地でも使われている自動小銃。
     別のバッグには交換用のマガジンがいっぱいに詰め込まれ、弾薬に困ることはまずありえない。
     海外のテロリスト仲間たちから支援された、治安が維持される日本ではそうそう手に入らない強力な銃火器。
     手に構え、ずしりとくる重みに体を馴染ませる。

    「んー、いいにおいだ。懐かしいこの感じ」

     真島が深く息を吸って天を仰ぐ。
     不審な男たちがこれだけの大荷物を抱えて、これだけ大量の銃火器をここまでバレずに運んでこられたとは、思っていない。

    「来る、来るぞ」

     線路の先、壁に電車のライトが当たり、ぼんやりと明るく照らされる。
     ごとんごとんと線路を踏み鳴らす音。

    「頼りにしてるぜぇ、相棒」
    「黙れ」

  • 124二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:11:35

     陽気に『相棒』とわたしを呼ぶ声に虫酸が走る。
     手下の男たちが小銃を正面に構え、わたしと真島だけは、銃口を正面に向けずにその場で立ち続ける。
     わたしはぶら下げるように銃口を下に向けて、真島は担ぐように肩に乗せて。
     車両が減速し、正面に滑り込んでくる。
     同時、地下鉄のホーム内を激しくフラッシュが瞬く。がががと激しく銃声が鳴り響き、バキバキと音を立てて金属片とガラス片が砕けてホームの床へと飛び散っていく。
     ぎきぃっと金属が強く擦れる音を立てながら車両が停止する。
     壁面はぼろぼろに崩れ、窓ガラスは粉々に散って一枚も無くなったスクラップが静かに佇む。
     小銃を構えて、沈黙。
     瞬間、車窓から飛び出す、いくつも黒い銃身、光る銃口。
     白服と紺服をまとった複数の少女たち。
     引き金を絞りながら素早くホームの柱に身を隠し、銃弾の雨から身を守る。
     仲間の何人かが逃げ遅れて蜂の巣にされているが、知ったことではない。
     むしろ幸いと、柱の近くに倒れかかってきた男の背を片手で押さえて盾にし、足の間から銃口を出して、車両から飛び出してきた白服に向けて引鉄を引く。

    「ぎゃっ」
    「ぐあ」

     銃声に紛れて二つの悲鳴があがる。
     その隣を駆け抜けて、柱の逆側に回り込む紺色の制服。
     銃を構えて飛び出してきたその制服の腕に、下から捲り上げるようして蹴りを叩き込む。
     銃を蹴り飛ばされた少女は、驚きの表情を浮かべてフリーズ。その胸に小銃を押し当てて、指に力を込める。
     華奢な体はいとも簡単に後方へと吹き飛んで数回の痙攣の後、ピクリとも動かなくなった。

    「いい調子だな」

  • 125二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:11:49

     二つ隣の柱を見ると、既に真島が紺服を二人、足元に転がしていた。
     立て続けに五人もやられたからか、車両内に残った少女たちはそのまま、車窓から腕と顔だけを覗かせて牽制の射撃を繰り返す。
     追い詰められている焦りから、無駄弾が多い。

    「お前んとこから二時に二人、十二時に一人だ」

     こちらにぎりぎり届くぐらいの声で真島が叫ぶ。
     ポケットからコンパクトミラーを取り出し、柱の影から車両を覗く。
     白服が三人、一度撃ったところに留まらず、射撃の後に数歩位置を変えて牽制を続ける。
     その立ち回りから、紺服に近い実力だろう。

    「耳を塞げ」

     こちらは声量を調整する必要はない。
     普通に話しかけるように声を出せば、真島の耳には声が届く。
     ジャケットの内側から、わたしの握りこぶしよりも大きなグレネードを取り出し、軽快な金属音を出してピンを引き抜く。
     そのままレバーから指を外して、一……二……三、今。
     勢いづけて腕を振り、ガラスの無くなった車窓へと向けて放り投げる。
     あっ、と小さく息を飲む音が聞こえたと同時、鼓膜を激しく揺らす凄まじい爆音。
     床に飛び散った電車の残骸が、爆風に煽られて転がっていく。
     顔を出して車両を覗くと、開け放された扉から焼け焦げた左腕だけが、車内の床に転がっているのが見えた。

    「…………」

  • 126二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:12:02

     銃声は止み、様々な破片や空の薬莢が転がる音だけが静かな空間に響く。
     柱から身を出して、周囲を確かめる。

    「正面に一人だ」

     声と同時、扉の影から雄叫びと共に、片腕を失くした白服がナイフを構えて飛び出してくる。
     腕を犠牲してに頭部を守ったのだろう。
     きっと優秀で有望な……リコリスなのだ。
     この瞬間までは。

    「けぅっ」

     ぱぱぱっ、と銃声が響き、悲鳴ともつかない情けない音を鳴らして少女は人の形をした肉に変わり果てた。
     わたしが、変えた。かつて、仲間だった者を。
     味方殺しと、後ろ指を指されたことがあったことを思い出す。
     あの時と違い、今はもう、何も感じない。

    「お見事、やるなぁ相棒」
    「…………」
    「お前らも少しは見習えよ? ガキにばっか頼りっぱなしじゃバランス悪いだろ」
    「ぐ、うぅ……」
    「すみません、真島さん……」

  • 127二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:12:24

     生き残った男たちは腕や足から血を流し、歩けない仲間に肩を貸して助けあう。
     既に息のない者は気にもかけず。仲間思いなのか割りきっているのか。
     どうせ真島は消費した人数の比率が、釣り合いをとれているかぐらいにしか考えていないだろうが。

    「そんじゃあ仕上げといくか」
    「まだ何かあるのか?」
    「ん? 爆弾」
    「……いつの間にそんなもの……」
    「準備は俺に任されたはずだぜ」

     真島はコートの内ポケットから、手の平に収まる程度のリモコンらしき機械を取り出して、ぷらぷら揺らす。
     このまま地上に出れば、外で待機している別のリコリスたちに包囲されて、仲間は殲滅されるだろう。
     階段は使わず、線路伝いに作業員用の通路へと避難し、扉を閉める。
     それを確かめ、真島が機械のスイッチに指をあて、カチリ。
     背後から轟音が響き、扉の隙間から塵煙が通路内に入り込んでくる。
     現場の惨状は想像に難くない。
     薄暗い通路の中、真島だけが一人、愉快に笑っていた。


    

  • 128二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:12:44

    お待たせしました
    一旦ここまで

  • 129二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 18:37:23

    ああああああ続きがきになるぅぅ

  • 130二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 19:48:53

    ついにリコリスまで…

  • 131二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 19:52:40

    既に今までのどのssよりもエンドがお辛いものになりそうだし、そもそも連れ戻した後のたきなのメンタルケアの方がキツそう

  • 132二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 20:04:02

    最初の方の地下鉄崩落ニュースの真相か…

  • 133二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 20:05:23

    >>131

    リコリスに戻れるわけないしね…

  • 134二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 20:11:26

    千束の方は味方として会話はまともだけど新しい相棒とは噛み合ってなくて
    たきなの方は会話は嫌々だけど味方の相棒としては相性がいいっていう対象なのがなんとも…

  • 135二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 20:13:28

    >>134

    バランス取れてるなぁ…

  • 136二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:53:33

    保守

  • 137二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:56:08

    本編でもたきなは本来の適正ぶん投げて千束のインファイトに合わせたスキルツリー構築をしてるからな

  • 138二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 00:00:48

    東京攻撃するのに四話の地下鉄襲撃を踏襲してるのか

  • 139二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:28:32

    >>127

    14.変容


    『甲板に敵影!』

    『撃ってくるぞ! 回避行動!』

    『遊撃部隊は突入開始まで弾を温存、突入部隊は自力でタンカーに取りつけ』

    「無茶言うよ」

    「千束さん、防御しっかりお願いしますよ!」

    「操縦は任せてください!」

    「うぅ……吐きそう……」

    「おいおいおーい……」


     モーターエンジンが勢いよく唸りをあげて、ボートが激しく海面を蹴る。

     十……二十……三十……。

     周囲には大量に散開したゴムボートの部隊と、そのさらに外側からウォーターバイクの部隊がタンカーに向けて海上を疾走する。

     私の率いるチームアルファは、先頭の防御役に私を置いて、射撃手にアカネと、三つ編みのセカンド・リコリス、津々美《つつみ》。操舵手に眼鏡をかけたショートカットのサード・リコリス、真凛《まりん》の四人。

     私が防御を勤めるのは目の良さと、私の使う非殺傷弾では遠距離狙撃が不可能な点から。

     セカンドのアカネと津々美を射撃手に添えて、サードの真凛に操舵を任せる編成。なのだが……。


    「ぉうえぇ……」

    「危ないから顔を外に出すなってぇ」

    「ボートの中に吐かれる方が最悪です!」

    「射撃、変わりましょうか……?」

    「この状態で操縦される方が困る」


     射撃手の津々美が激しい揺れにやられて顔面真っ青で、とてもじゃないが射撃どころじゃなく、このチームは実質ほぼ三人編成になってしまった。

     仕方なく津々美は射撃手から装備の交換などのサポートに回ってもらい、真凛は変わらず操舵に専念。射撃はアカネは一人で頑張ってもらうことにした。

  • 140二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:28:49

    「うおっ」

     目の前の海面から小さな水柱がいくつも跳ねあがる。
     タンカーの甲板には何十人もの人影が並んで、海上に向かって銃を乱射しているのが見える。
     敵も味方も、既に射程圏内。

    「船の横に回ります! 気をつけて!」
    「了解、狙い撃ちます!」

     真凛は射線を切るようにボートをタンカーから横向きに変え、回り込むように移動させる。
     アカネは狙撃銃を前方に構えてスコープを覗き込む。激しく揺れるこの船上では、体勢を固定することも難しく、正確な狙撃は困難だ。
     それでも、ボートが跳ねて浮き上がった揺れの少ない瞬間を狙って、アカネは甲板の上に並んだ敵を射ぬいていく。
     三発に一人は当てる腕前は、相当な射撃精度だ。
     私もボートの側面からエアバッグを展開し、仲間が被弾しないよう盾になる。
     一つ使い終われば、背中から津々美が替えのエアバッグを渡してきて、次に備える。

    「うわっ、うわうわうわ、やばいってアカネ! あれ撃ってあれ! 赤いコンテナの上!」

     甲板に並んだコンテナの上に、男たちが登っている。
     背負っているのは、ロケットランチャー。それが三門。
     もしあんなものを食らったら、エアバッグごと木っ端微塵になって海の藻屑だ。
     こちらの的は小さいが、絶対に当たらない保証はどこにもないし、的の数が多い以上はどこかのチームに当たる可能性は充分にある。

    「っ……揺れっ、るぅ……!」
    「真凛! 揺れなんとかならない!?」
    「なんともなりません!」
    「なんとかしてぇ……」

  • 141二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:29:04

     切迫した状況だからか、アカネの射撃はなかなか当たらない。
     五発目でようやく一人当てたが、残りは二人。
     男が膝をついて肩にランチャーを担ぐ。こちらではない、どこかのチームへと狙いが定められて……。
     発射……される刹那、男の頭から赤い飛沫が飛び散る。
     弾頭は斜め上のはるか明後日の方向へと飛び、彼方の海へ消えていく。

    『よっしゃ! 余裕っすよこんなもん!』
    「サクラかぁ! ナイス!」
    『お前の声が無線でうるせえんだよ』

     繋ぎっぱなしの無線から聞こえる声に、歓声をあげる。
     さらに残りの一人も、直後のアカネの射撃でなんとか止めることに成功した。

    『全隊に通達、まもなく妨害電波圏内に突入。無線による連絡は不可能になる。各自、肉眼で確認して周囲との連携を密にしろ』

     どうにか大半のチームがタンカーへと接近し、作戦は次段階へと移行する。
     援護のため、遊撃部隊が加速をつけて甲板の縁に立つ敵に向かって射撃で牽制し、その隙に突入部隊がボートをタンカーの横腹につけて、侵入用のワイヤーを次々に上へと飛ばす。

    「津々美~、大丈夫かー?」
    「私も……役に立たないと……」
    「アカネは私と先行して甲板に。真凛は津々美についてて、回復し次第突入」
    「わかりました」
    「了解しました!」
    「んじゃいくよ」
    「あっ、待っ」

  • 142二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:29:21

     私もワイヤーを取りつけ、甲板を目指して船体に足をかける。
     もたもたしている暇はない、ワイヤーを掴み、駆け上がるようにして一気に船体を蹴って登る。
     そのまま飛び上がるように甲板の上へ飛び出し、周囲に待ち伏せていた敵へとすかさず銃弾を叩き込む。周囲に赤い煙が上がり弾頭の欠片が散らばる。
     これでこの付近のリコリスたちは安全に登って来られるだろう。
     勿論、このまま呑気に甲板全体を制圧するのに勤しむつもりはない。
     他のチームが上がってくるまでに、船内に突入し、たきなを見つけて取っ捕まえる。
     甲板の方はみんなが何とかしてくれと信じて任せる。
     空になった弾倉を交換し、船内に繋がる扉へと走りながら、まだ残る敵にすれ違いざま非殺傷弾と打撃を撃ち込んで気絶させていく。

    「ちょっと千束さん! どこいくんですか!?」
    「お、思ってたより早いね」

     後ろからアカネの叫ぶ声が背中に追いついてくる。
     アカネもまた左右に射撃をまきながら、確かな足取りで私についてくる。

    「勝手な行動はしないって約束ですよ!」
    「だから指示は出してからきたでしょ」
    「そういう問題じゃ……だああもう!」

     ブリッジの下まで辿り着き、扉を開けて船内を確かめる。
     上から下に吹き抜けた通路が狭い階段によって繋がっている。
     階段にはパイプの手すりがついているが、隙間が大きく大人の体も簡単に通り抜けられてしまいそうだ。
     通路の下までは五、六メートルはあるだろうか。飛び降りるには少し、高い。
     クリアリングをそこそこに船内に足を踏み入れると、船内の様子はなんだか静かだ。
     戦力は軒並み甲板に回しているのだろうか。

    「真島たちはどこにいるんでしょう?」
    「さあね、高いとこにでもいるんじゃない?」
    「じゃあこの上のブリッジに……」

  • 143二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:29:39

     ゴゴン……と背後から音が響く。
     振り向いて確かめると、入ってきた扉が独りでに閉じて、外と分断されていた。

    「これ……電子ロックです! 開かない……!」
    「……ロボ太だな」

     通路の角に監視カメラがある。
     この船周辺の電子機器はおそらく、例の独立ネットワークによってロボ太が全て管理して、遠隔操作が可能になっているのだ。
     敵の巣窟に突入するのだから、何か備えがあるとは思っていたが、この様子なら他にも罠は仕掛けられていると思って間違いはないだろう。
     電波を出しているドローンの破壊を急ぐべきだったか……いや、優先順位はたきなが最優先だ。
     それは、絶対。
     それから……、

    「仕方ありません……ここは大人しく真島を探しましょう」
    「アカネさ、ちょっと聞きたいことあるんだよね」
    「……なんですか、こんな時に」

     せっかく二人きりになったのだ。
     普段は話せないことを、腹割って話そうぜ。

    「たきなのこと、どう思ってる?」
    「本当になんですか……前に喧嘩した時言ったじゃないですか」
    「あぁ、そうだった。そんなこともあったねぇ」

  • 144二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:29:51

     アカネは扉の前で呆れたような表情を浮かべる。
     あの時アカネは、たきなに酷いことを言っていた。

    「仲間殺しとか地下鉄のこととか、言ってたっけ」
    「もしかしてそのこと、まだ怒ってます?」
    「んー、怒ってるって言うか、聞きたいだけ」
    「何をです?」
    「その時言ってた地下鉄の崩落ってのをさ、DAのサーバーを調べてもらったんだ」
    「…………」

     アカネが口を閉じて、こちらを見据える。

    「私、地下鉄の崩落ってのニュースでしか見てなくて、たきなとどう関係があるのかピンとこなくてさ」
    「…………」
    「そしたらサーバー内で保管されてた地下鉄の監視カメラ映像に、テロの様子が映ってたって」
    「……そうです、そこで井ノ上がリコリスたちを……」
    「でもその映像、不鮮明でたきなも真島もほとんど映ってなかったんだよね」
    「…………」
    「だからDA内でも、不確定情報として極秘だったんだって。たきなと真島のことが全体に通達されたのは、その後の収容所襲撃事件だ」
    「…………」

     アカネの顔から、表情が消える。

    「フキにも聞いた、DAの施設内でアカネのこと一度も見たことないって。楠木さんにも確認した、私にパートナーなんかつけてないって」
    「…………」
    「アカネ、なんで地下鉄のこと知ってた?」

     アカネは黙ったまま。

    「アカネ……お前、誰だ?」

  • 145二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:30:19

    一旦ここまで

  • 146二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 07:47:28

    えっ、なにこれ凄い好きヤバい

  • 147二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 08:16:27

    たきな視点からの温度差がすごいと思ったら突入後の緩急がすごい

  • 148二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 09:01:05

    衝撃展開

  • 149二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 09:17:42

    見直したら2章の伏線なのか…

  • 150二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 10:00:17

    おおお
    そうくるかああ

  • 151二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 12:32:10

    地下鉄の失言だけじゃなくて千束を港に誘導したりフキに怪しまれたりして伏線張ってあったのか

  • 152二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 14:32:22

    アカネちゃんやっぱりか
    多発テロの時ピンポイントと真島と当たるので?ってなってファーストのフキが見たことないってので確信したわ

  • 153二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 15:50:39

    そっか
    実際は転属とかもあるけどフキはDAに10年間いるんだもんな

  • 154二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 16:22:51

    突入前にボートで明るいノリがあるのがリコリコ感ある

  • 155二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:01:57

    >>144


    0.夢間


     子供が泣いている。

     独りでうずくまったまま。

     手を伸ばして、肩に触れようとすると、見えない壁が邪魔をして近寄れない。

     ──どうしたの?

     壁に手をつけてその子に話しかける。

     声は届かないのか、その子はうずくまって泣いたまま。

     ──どこか痛いの?

     より強く、声を張り上げてみる。

     それでもその子には届かない。

     見えない壁に触れながら、壁伝いに回り込む。

     壁はぐるりとその子を囲んでいて、どこからも入り込むことはできない。

     どうしたものか。

     こんな時、壁を壊せる道具はないか。

     背中にずしっと重みを感じる。

     いつの間にか、鞄を背負っていた。

     これは──。

     慣れた手付きで鞄を叩くと、サイドのポケットから銃が飛び出す。

     驚くぐらい手に馴染むそれを壁に向けて、引鉄を引く。

     弾は壁に弾かれて、どこかへ消える。

     壁が傷ついた様子はない。

     力ずくでは、駄目みたいだ。

     他に打てる手はないだろうか。

     腕を組んで思案する。

  • 156二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:02:25

    「どうしたー? なに泣いてんのー」

     壁を挟んだ向かいから、人影が歩いてくる。
     何故だろう、その姿は靄《もや》がかかったように朧気で、はっきりと確かめることができない。
     その人は、見えない壁など無いように、その子に近づいて優しく頭を撫でる。
     子供は顔を上げて、その人影に抱きついて泣きじゃくる。
     ずきん──。
     胸の奥をナイフで刺されたような、鋭い痛み。

    「大丈夫、もう泣かないで」

     まるで母親のように子供を抱き締めるその姿は、顔が見えなくとも優しく微笑んでいるのだと、不思議と確信できた。
     それは──あなたのことを知っているから──。
     泣いていた子供は安心したのか大人しくなり、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。
     寝転んだ子供の顔が、やっと見える。
     黒い髪の少女。
     あれは、
     ──あれは、わたし。
     靄のかかった人影がこちらを見つめる。
     その顔は、やはり見えない。
     手を伸ばし、触れようとする。
     その人影も、応じるように手を伸ばす。
     わたしたちの間には、未だに見えない壁が閉じたまま、その手が触れあうことはなかった。
     きっとこの手も、声も、届かないまま。
     嗚呼……そうか……。
     壁の、中にいたのは────


    

  • 157二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:02:49

    15.潜伏

     ホワイトボードに貼り付けられた写真を眺めながら、真島と向かいあわせに座り次の襲撃目標を確かめる。
     真島は相変わらず、その背後にサングラスの男たちを引き連れながら、埃っぽいソファに深く腰を落としている。
     指定したのは、高い塀に囲われた罪人収容施設。
     そこは警察が管理する施設の中でも、特に強いDAとの繋がりを持つ、警備の厳重な収容所。

    「この施設にロボ太が収容されている」
    「確証はあんのか?」
    「佐賀からの情報だ、間違いない」
    「ああ、DAに潜り込ませたアランのおっさんだっけか」
    「……お前が雇ったんだろう」
    「しばらく会ってねぇからなぁ、連絡も全部お前さんがやってくれてるから……ま、助かってるぜ」
    「はぁ…………襲撃のリスクは大きい、そんなにロボ太が必要か?」

     今回の目標は破壊活動の類いではなく、警察に身柄を捕らわれているロボ太を解放し仲間に引き入れること。
     半年ほど前からDAに潜入している工作員、佐賀圭人によって明かされた情報から、その身柄の所在が判明した。
     東京都内でも特に警備が厳重で、重犯罪者が収容されているその場所は、DAの息がかかっている。
     地下鉄の時と違い、この収容所を襲えば間違いなくこちらの正体を掴まれることになる。
     だが真島は……、

    「必要だね、俺のハッカーは次の目的に必ず役立つ。DAの連中に邪魔させないためにな」

  • 158二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:03:04

     真島は綽々と答える。
     次の目的。
     延空木の一件以来、東京での犯罪率は増加傾向にあった。
     しかし真島が離れて以降は、大規模で組織的なテロはなく、全体を通しては表向きの死傷者、行方不明者にはそうそうの差は出ていなかった。
     だからもう一度、今度は民衆を煽るのではなく、もっと直接的な方法でDAの支配から解放しようというのが、真島が以前から計画していた『広範囲大規模テロ』らしい。
     佐賀という男をDAに潜り込ませたのも、その事前の準備だという。
     わたしにその計画を明かせば、千束がいる東京に多くの被害を出すことを反対されると読んで、わたしに黙って勝手に雇った男。
     海外から人員を斡旋する組織を通じて紹介されたのだというその男は、千束や真島と同じ……世に『アランチルドレン』と呼ばれる天才であり、アラン機関なる組織から特別な支援を受けて、その才能を発揮する者たちの一人。
     本名は無く、国籍も住所も持たない。海外から補充のテロリスト仲間たちと共にこのテログループに加わった、『佐賀圭人』という男。
     佐賀はその驚異的な技術力によって、世界各地にネットワーク技術を提供してきた男で、自らの技術が活用されるのであれば、善悪関係なしに雇われ、その技術を惜しまずに提供する。
     今回は小型のドローンに積んだ機器で、一時的に完全に外部から独立した無線ネットワーク空間を作り出す技術を提供してきた。
     このドローンが放つ電波妨害機能だけでも、地下鉄のカメラを機能不全に陥らせて、不鮮明な映像にし襲撃後の追跡を振り切った。ラジアータの監視にも障害を及ぼせる高性能のマシン。
     テロを行うだけならば、それで充分に監視の目は誤魔化せる。
     しかし、わたしたちでは、そこまでだった。
     せっかくのネットワークを構築しても、そのネットワークを使った電脳戦を行える人材が今わたしたちの仲間にはいない。
     より広範囲に、大規模に行うとなれば、一ヶ所二ヶ所のカメラを塞いだだけでは、作戦は失敗に終わる可能性が高いと結論が出た。
     そこで真島が提案したのが、ロボ太の救出。
     そのための作戦会議が今というわけだ。

  • 159二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:03:25

    「リスクを犯さずとも、また紹介組織から人員を補充するのは駄目なのか」
    「あいつには一年前の実績がある、お前もわかってんだろ?」
    「それは……一理、ある」
    「だろ? それにあいつの腕は日本一らしいからな」
    「自称だろう」
    「なら今度こそ、その日本一の夢を叶えさせてやらねぇとなぁ」

     真島は暇そうにスマホを指の上で器用に立たせながら返答に応じている。
     日本一というならば、クルミ……ウィザード級ハッカーの『ウォールナット』がいる。
     だが確かに、そのウォールナットに対抗しうる人材となれば自然と数は限られるだろう。
     ロボ太は一度、自動車の自動運転機能をハックして、クルミを含むわたしたちを窮地に追いやったこともある。
     そのロボ太ならば確かに、佐賀が提供してきた技術を十全に活かすことができるだろう。
     妨害だけでもわたしたちよりも上手くやるだろうし、情報操作や、佐賀とのより安全な連絡手段の確保にもなる。

    「それにこの間の地下鉄はほんの挨拶だ。今度は宣戦布告さ。また勝負だ、ってな。気づいてもらわなきゃ困るんだよ」
    「……わかった、方法はどうする」
    「面会ぐらい正面から行くさ。DAの息がかかってようが、結局は平和ボケてるままの奴らだ。それに、頼れる『相棒』もいるしな?」

     真島は指に乗せたスマホをキャッチし、こちらを向いてニヤリと口角を上げる。

  • 160二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:03:44

    「…………日本の警察組織が腑抜けていても、施設の破壊には相応の装備がいる」
    「今度の東京用に海外から引き寄せた武器があるだろ。それ使えばいいんじゃねぇの? 管理任せてたよな」
    「ここで武器を使うなら、また後で追加の支援をしてもらう必要がある。テロの日程は後ろにずれ込むぞ」
    「あー、任せる」

     何でも押しつけてくるこの男に代わって、スマホを取り出し予定表に変更を入力する。
     カレンダーに詰め込まれた予定に書かれているのは、どこを襲撃するかの日程、武器の取引、船の補給予定日……。
     その他に書き込むことは、特にない。

    「……DAに知られれば、千束にも情報がいく」
    「ん? ああ、だろうな」
    「千束はきっと追ってくる」
    「それは俺の知ったことじゃねぇ」
    「……監視を、つける」
    「ふぅん、好きにすりゃいいんじゃねぇの」

     わたしの考えに、特に興味も引かれないといった風に、低い調子で真島は答える。
     佐賀と共に海外から斡旋され、テログループのメンバーに加わった『彼女』。

    「アカネを使う」

  • 161二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:03:59

    一旦ここまで

  • 162二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 19:46:28

    真島もたきな手に入れて全部任せてるのか…

  • 163二次元好きの匿名さん22/10/11(火) 22:44:32

    たきながお辛い…
    オリキャラを使った繋げ方が上手い

  • 164二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 04:41:22

    保守
    200見えてきたけど終わるかな?

  • 165二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:35:13

    >>160

    16.三様


    「よお、久しぶりだなぁ……マぁイ、ハッカー?」

    「ひ、ひいいいい!」


     通路前の監視カメラに堂々と姿を映し、それをDAへの挑戦状として叩きつける。

     真島はカメラに向けて、不敵に手を振って挨拶を送った。後はこの映像がDAの元に届けられるだろう。

     カメラを撃ち抜き、砕く。


    「へぇ、お前そんな顔だったのか」

    「あっ、あっ、顔……顔はやめて! 見ないで!」

    「なんでだよ、減るもんじゃないだろ」

    「おい、真島。モタモタするな」


     ロボ太が捕まっていた牢の前に立ち、戯れにしゃがむその背中に声をかける。

     この施設でやるべきことはまだ終わっていない。

     仲間たちは他の牢を解放して回り、わたしたちはロボ太を連れてやるべきことがある。


    「え? お、お前、リリ、リ、リコリスの……!?」

    「ん? ああ、覚えてたのか。心配すんな、こいつは今はもう、俺の相棒だ」

    「…………」

    「え、えぇ……!? どどど、どうなってそう……」

    「んじゃいくぞロボ太」

    「どこに!? その前に顔、顔! な、何か隠すものを……」

    「……これでも被ってれば……?」

    「あ、どうも……」

  • 166二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:35:31

     喧しく喚きたてるロボ太に、着ていたジャケットを手渡して黙らせる。
     ニュースで警察に連行される犯人よろしく、頭から上着を被った囚人服の不審者が出来上がる。
     静かになったロボ太を引き連れて、向かう先は施設の最高管理者が使う所長室。
     DAに近いこの施設のPCからなら、ロボ太であればラジアータへのアクセスが可能だと踏んだ。
     当然、そのままハッキングすればすぐに見つかり、対処されるだろう。そのために既にDA内から佐賀が、この所長室のPCへとバックドアを用意してサポートする準備を整えている。
     あとはラジアータのサーバー内に、リコリスを一人……『青森アカネ』のデータと所属先を書き加えておくだけ。
     それでアカネはリコリスの一員として、ラジアータから送られる情報を受けとることが可能になり、千束の……相棒として、リコリコに潜り込むことが、できる。

    「こ、これでいいんだな? リコリス……」
    「ああ」
    「そ、それじゃあ、ボクはこれで……」
    「まあまあ、待てよロボ太」
    「うひぃ……」
    「これからまたでかいことをする。お前のハッカーとしての腕が欲しいんだよ。ってわけでついてくるよなぁ? ここから出してやった分にはまだまだバランス、取れてないよなぁ」
    「……は、はいぃ……」

  • 167二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:35:46

     ・・・・・

    「どういうつもりだ! 千束は巻き込まない約束だろう!」
    「仕方ねえさ、お前が報告を受けたんだろ? 電波塔がお前を探して回ってるって」

     収容所襲撃以後、アカネは喫茶リコリコへ、千束のパートナーとして潜入した。
     そのアカネから報告で千束はやはり、カメラの映像に映っていたわたしたちを探してパトロールを繰り返しているらしい。

    「それがどうして今度の作戦で千束を襲うことになる!」
    「お前の口からちゃんと伝えてやれよ、追ってくるなってな。でないとずっと探して追ってくるぞ、あいつ」
    「……っ!」
    「諦めさせるには、なぁ?」

     真島は東京に大規模テロ仕掛ける日に、千束を誘い出して襲撃すると言い始めたのだ。
     テロ計画の邪魔になりうる単独での戦闘力を持つ千束に、あちこち走り回られては困ると。
     わたしも、共に襲撃に加われと……。

    「落ち着けよ、俺はなにも殺そうなんて言ってないぜ。約束だもんなぁ、お前との」
    「真島……!」
    「『元』相棒から、はっきりお別れを伝えるチャンスを用意してやるんだ。しっかりやりな」
    「…………っ」

     ・・・・・

  • 168二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:36:07

    「お、おい! DAの連中がこのタンカーを嗅ぎつけたらしいぞ!」
    「なんだ、ロボ太か」
    「なんだって、なな、なに落ち着いてるんだよ! は、早く逃げないと……」

     東京都内全域に大規模なテロを仕掛けてから一ヶ月以上が経過した。
     作戦室で銃の手入れをしていると、ロボ太が頭のランプをびかびか回しながら部屋の中に飛び込んでくる。

    「……あ、あれ? ま、真島はいないのか……」
    「今の時間ならシャワーだな」
    「へー、よく知って……じゃない! このままだと、このアジトは攻撃されるぞ!」

     ファンファンと被り物のサイレンが鳴って鬱陶しい。ランプの部分だけでも撃ち抜いてしまおうか。

    「それは真島の計画に織り込み済みだ、衛星画像のデータも完全に消さないで見つかるようにしてある」
    「なんで!?」

     アカネから報告を受けて知った。
     千束は諦めるどころか、より強くわたしと真島を追う意思を見せていると。
     その理由の一つに、真島が「追ってこい」と港で千束に言ったらしい。港の倉庫で、離れた位置にいたわたしには聞こえないように、そう伝えたのだ。
     真島は最初からそのつもりだった。
     わたしを利用して、千束が自分を追ってくるように仕向けて、改めて決着をつけるつもりなのだと。わたしの考えが甘かったのだと、痛感する。

    「なんだぁ、騒がしいな」
    「あっ! おま……!? ぱぱぱ、パンツ!?」
    「あー、暑ちぃからな。少し涼む」
    「な、何考えてるんだよ女の子の前で……! せめてズボンぐらい履いて……」

  • 169二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:36:27

     今度はシャワーを終えた真島が、下着一枚の格好で部屋に入ってくる。股間に密着した、黒い布製の下着。
     そのままソファに大股開きでどかっと腰をかけて、手近なファイルをうちわ代わりに扇いでいる。
     ロボ太はそれを、わたしと真島を交互に見ながら、慌てた様子で手を振り乱す。
     わたしは無視して解体したパーツを手に取り、手入れを続けた。

    「ああ?」
    「……あ、あれ? 気にしないの……?」
    「アホかお前、中学生かよ」
    「…………」

     頭のランプが消えて、ロボ太は目に見えて項垂れる。
     その後、ロボ太は我に返ったようにまた騒がしく「DAに襲われる」と、わたしの時と同じようなやりとりを真島と繰り返して、やはり説得に失敗した。

    「やっぱりついてくるんじゃなかった……」
    「日本一のハッカーなんだろ? ここらで面目躍如といっとこうぜ」
    「はぁ……」
    「ウォールナットに勝つ自信がないのか」
    「な、なにぃ!?」
    「なら別の人材を探すだけだな」
    「ぐぬぬ……わかった、やるよ! やってやるよ!」

     扱いやすいやつだ。真島よりはこういうタイプの方が楽かもしれない。

    「……ところで、ずっと気になってたんだけど……その顔の傷って」
    「ん、これか……」

     ロボ太は包帯の巻かれていない真島の顔を見て、興味本位からだろう質問を投げかける。

  • 170二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:36:45

    「そこの犬っころに夜な夜な襲われてできた傷さ」
    「え、えぇ……」
    「最近は全然襲ってこなくなったな?」
    「…………」
    「も、もしかして……シャワーの時間を把握してたり、パンツが平気だったり……お二人は、そういう間柄に……?」

     組み立て終わった銃に弾倉を込めてロボ太に向ける。やはり一度ぐらいはその被り物を撃ち抜いておくべきだろう。

    「ひ、ひひいぃぃぃ! すす、すみません! すみませんすみません!」
    「はぁー……ロボ太」
    「すみません!」
    「お前ロリコンか?」
    「え……」
    「性癖は自由だと思うけどよ、ガキで妄想する前に、年齢のバランスは考えた方がいいと思うぜ」
    「ぼ、ボクはそこまで言うほどの歳じゃ……」
    「ま、程ほどにな」

     そう言うと真島は涼み終わったのか、立ち上がって部屋から出ていった。残されたのは、土下座の姿勢で固まったロボ太と、わたし。
     ロボ太の頭がこっちを向いて、目が合う。被り物のせいで目線はわからないが。
     タンカー内は部屋数と人数の都合で、部屋割りにある程度の制限がある。部屋割りの管理もわたしがしているが、ロボ太はアカネが抜けた所に入ってきて、わたしと同室になっている。

    「…………」
    「…………」
    「ロボ太」
    「はい……」
    「ロリコンなのか?」
    「違います……」

     撃ち殺すことは、なさそうだ。

  • 171二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 06:38:35

    一旦ここまで
    まだバトルパートが丸々残ってるので終わるのは次スレになります

  • 172二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 07:03:36

    まじたき、ロボたきの絡みは見たかった

  • 173二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 08:44:31

    まじロボ、まじたき、ロボたきの三種が同時に遍在する…

  • 174二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 09:37:16

    たきなの敗北ヒロイン感が強まってきたな
    挽回のチャンスはあるんだろうか……

  • 175二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 09:59:15

    ロボ太という癒し枠

  • 176二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 12:57:05

    あの臆病さもバレないためにはいい気質だよ

  • 177二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:41:56

    真島さんのサービスシーン。

  • 178二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:52:52

    >>170

    17.思惑


     小型の船影が、無数の白波を立てて海上を疾走してくる。

     甲板に男たちが並び立ち、海上に向けて銃を乱射して迎え撃つ。

     甲板を見下ろすブリッジの上から、わたしはその様子を確かめていた。


    「さてと、俺もそろそろ準備しとくか」


     壁際に置かれたソファに寝転がっていた真島が、気怠そうに肩を回して起き上がる。


    『こっちは準備万端だ!』

    「便りにしてるぜハッカー♪」


     ロボ太は事前にもう一隻のタンカーに移動し、そちらからドローンと、こちらのタンカー内の各種装置を制御する算段。

     コンピュータで制御される電子扉の他、事前に艦内には遠隔で作動させられる罠が複数仕掛けられている。

     今朝方、佐賀からの情報で、DA側の作戦に変更があり、ドローンが単なる監視用ではなく、電波兵器だという情報は知られていると連絡があった。

     アカネは既にリコリスとして作戦に参加していて連絡は取れないが、その情報が確かなら、奴らはドローンの破壊を狙ってくる。

     上空を飛行するドローンを撃ち落とすためには、デッキの高い位置へと登ってくるだろう。


    「わたしはブリッジ周辺を防衛する」

    「いいんだな?」

    「…………」


     作戦には千束も参加している。

     千束がわたしと真島、どちらを優先して探してくるのかはわからない。

     真島と別行動を取れば、千束を守ることから遠ざかる可能性がある。

  • 179二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:53:19

    「DAの作戦は失敗させる」
    「ま、頑張れよ」

     単純に、それだけのこと。
     ドローンを防衛し、乗り込んできた戦力を削って制圧はさせずに、撤退させる。
     無線の妨害も、こちらから任意に解除させられる。
     真島が千束と決着をつけるか、わたしがDAを撤退させるか。

    「競争だな」
    「ああ」
    「終わったら晩飯楽しみにしてるぜ、お前のは栄養バランスが取れてていい」
    「食材が無事に残っていたらな」

     自分が勝つと、敗北を疑うことすらない言葉。
     迎撃に備えた位置につくため、真島に続いてその場を後にする。
     海上を走るボートの中に、大切な人の姿を見つけられないまま……。

  • 180二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:53:35

    18.愚行

     アカネの表情からは、驚きも、怒りも悲しみも感じない。
     何の感情も含まない無表情。
     私の言葉を黙って聞いているその姿は、生きているのかさえわからない。作り物のように流れるブロンドの髪と合わさり、まるで西洋人形のように美しいとさえ思う。

    「…………ふっ」

     その顔が、口の端を歪めて崩れる。

    「くっくふ、いひ、ひ……」

     アカネは顔を隠すように手で覆って、普段の彼女からは想像できないような、気味の悪い引き笑いをあげる。

    「……千束さんって、見た目の割に結構いろいろ考えてますよね」
    「……褒められてるのかな」
    「馬鹿にしてるんですよ」
    「だろうね」

     その手を下ろした先にあったアカネの顔は、口角が激しく吊り上がり、目はぐにゃりと細められて、年頃の少女が浮かべるものというには、あまりにも醜く歪んだ表情。
     アカネは片手に握った銃をこちらに突きつけて、そのまま引き金に指をかける。

    「本当はこのまま真島さんのところに連れてく予定だったんですけど」
    「あいつとはやらない、私はたきなを探す」
    「それじゃ困るから、着いてきてくれます?」
    「やなこった、たきなはどこだ?」

     私の返答に、アカネは大袈裟な身振りで深い溜め息を吐き出す。

  • 181二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:53:58

    「状況わかってます?」
    「おー?」
    「ここ、狭ぁい通路ですよ。千束さんでも避けられませんよね」

     その通りだった。
     横には半歩程度しか動けない、ひと一人すれ違うだけでもやっとの狭い通路。
     通路の外に飛び出せば、吹き抜けの階下までは少なくとも五メートルはあり、無事に着地しても頭上を取られて防戦一方になる。
     パイプの手すりも遮蔽物にはなり得ず、正面から避けるには、少々厳しい立ち位置だろう。

    「わかってたなら、最初から銃を構えておけばよかったんですよ」
    「……かもね、じゃあ質問ぐらいはさせてもらっていい?」
    「どうぞ」

     私は手をぶらさげ、腰のベルトに指を掛けて無抵抗の意思を示す。
     アカネはそれを見て、勝ち誇ったような表情を浮かべ、手を差し出すジェスチャー。

    「その制服、どこで手に入れた? リコリスから奪ったにしちゃ、綺麗だけど」
    「ああ、これ? これはたきなさんのおさがりなんですよぉ、ほらぁ、あの人もうリコリスじゃないからぁ、こんなの必要ないでしょ?」
    「…………」
    「だから私がこうやって有効活用してあ・げ・て・るんですよぉ。それにこれ、使いやすくてけっこう気に入ってるんですよねぇ♡ どうです? 似合うでしょ、可愛いでしょお?」
    「…………」

     アカネは空いた手でスカートの裾をつまんでひらひらと揺らしながら、今度は無邪気な笑顔で楽しげに軽いステップを踏む。

  • 182二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:54:33

    「脱げよ」
    「は?」
    「たきなのだろ。脱げ」
    「え、やだなに、千束さんってそっちの人? 女の子脱がして楽しむ趣味とかあったんですか?」
    「…………」
    「趣味は人それぞれだと思いますけどぉ」
    「もういいわ、力ずくで」

     その言葉にアカネは一瞬、呆けた顔をして、ぷっと吹き出す。

    「できるもんなら、やってみてください、よぉっ!」

     こちらを向いた銃口から火が吹かれる寸前、腰のベルトの外しながら手すりに足をかけ、迷うことなく通路の外、斜め前方に向かって飛び出す。
     予想外の出来事だったのか、アカネは呆気に取られて固まり、顔だけがこちらの動きを追ってくる。
     そこに銃口を向けて、間髪を入れずに引鉄を三回。顔、胸、脇腹に赤い花が咲いて散り、その体は後方によろめいて倒れる。
     私は飛び出した勢いの浮遊から落下へと移行する間に、外したベルトを鞭のごとくしならせて手すりに叩きつける。金具部分が勢いよくパイプにぐるぐる巻きついて、空中ブランコのように宙吊りになる。
     そのまま勢いをつけて、通路の天板裏側を蹴って後ろ向きに跳ね返る。手すりのパイプを膝裏に挟んで体勢を維持。
     そこから腹筋に力を込めて、手すりに座る形に復帰すると丁度、鼻を手で抑えながら頭を起き上がらせたアカネと目が合った。
     私がそのまま通路下にでも落ちたと思っていたのか、目の前に突きつけられた銃口を見て、その表情は驚愕の色に染まっている。

    「よっ」
    「ぃ、ひぃっ……」

  • 183二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:54:50

     鼻を覆った手の上から顔面にさらにもう一発。
     ぶぎゅと空気が漏れるような音と共に頭が後方へ仰け反り、がつんとパイプにぶつかってアカネは再び床に伏せる。

    「前言撤回、やっぱその制服着てていいわ」

     痛みに呻くアカネの背中と後頭部に、残りの弾を叩き込む。
     アカネは潰れた蛙のような音を出して二、三度痙攣すると、ピクリとも動かなくなった。

    「お前が着たやつなんて、もう使えないから」
     
     気を失ったアカネの制服に、発信器をつける。
     捕獲対象の証。偽リコリスがDAの情報をどこまで引き出していたのか、聞き出す必要がある。
     これでドローンを破壊して通信が復活すれば、近くの誰かが捕獲してくれるだろう。
     後は動けないよう手足を拘束して、船内の探索へと向かう。
     ついでに、もう一発だけ顔を殴っておいた。

  • 184二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:56:03

    一旦ここまで
    このスレはあと一回短めのを投下するぐらいだと思います

  • 185二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 15:56:59

    と思ったけどキリがいいので続きはやっぱり次スレから投下します

  • 186二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 16:59:26

    真島に手料理振る舞っていたのか、たきな。
    千束に知られたら大変だな。

  • 187二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 17:58:26

    アカネちゃん…瞬殺でしたな…

  • 188二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:10:29

    まあ一年も共同生活してれば色々慣れるか…
    茜の花言葉は『私を思って』『媚び』『誹謗』『傷』『不信』らしいな

  • 189二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:18:13

    たきな視点だともう他のところに行く気ないし、千束を守り続けるために関係維持しないとだからな…ただ真島にやられっぱなしなのは勝手に悔しい

  • 190二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:26:32

    救いはあるのだろうか

  • 191二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:32:52

    >>189

    本編たきながこのまま泣いて助け出されるだけのヒロインかっていうと違う気はするよね

    ただ解釈は作者さんの自由だから、どんな展開になってもケチつけるのはダメよ

  • 192二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:46:15

    仮に真島を殺してもたきなは千束のとこに戻る資格ないと思ってるだろうしなあ

  • 193二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:46:26

    千束はやっぱり強いのが格好いいな…
    本編3話のサクラに対してといいキレると口調が命令形になるのがいい

  • 194二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:47:31

    千束も自分の命がたきなの犠牲の元になりたってるって知ったら…

  • 195二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 18:50:30

    ミカやクルミはたきなが真島側にいるって知ったら状況的に心臓のためにたきなが真島と取引したのピンときそう

  • 196二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:02:48

    >>191

    お話があまりにも迫真の出来なんで本編見てる感じででいろいろ思っちゃうのもわからないではない

  • 197二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:09:12
  • 198二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:18:49

    たきなが着ていたジャケットを羽織っていたロボ太君「何か恐ろしい寒気が」

  • 199二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:31:13

    >>198

    そういえばロボ太は小柄だったな

    たきなのきれそう

  • 200二次元好きの匿名さん22/10/12(水) 19:37:33

    オリキャラ二人の劇場版限定キャラ感がすごい

オススメ

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