【SS】トットムジカの出生

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 21:01:52

     昔々、とある国の少女のお話です。
     特別な才能は無く、家族は至って普通の家系、歌う事が大好きで街中を練り歩き、綺麗な歌声を響かせる事が日々の楽しみでした。
     国民達も少女の奏でる歌声を毎日心から楽しみにしており、暖かく見守っているのです。

    「──ちゃんの歌声は相変わらずキレイね」
    「聴いていて癒されるよ…」
    「今日は何歌うのー!?」

     老若男女問わず、少女は皆から愛されていました。もちろん少女も皆の事が大好きです。
     少女の国は決して裕福とは言えませんが、互いで助け、支え合い、人と人との繋がり強く、笑顔で溢れる国でした。
     そんなある日、転機が訪れます。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 21:03:23

    ムジカのSSは珍しめだから楽しみ

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 21:08:07

    (今日は海辺に行こうかな)

     新しい歌を考える時はいつも海辺を歩きながら想像力を掻き立てているのです。
     足で水飛沫を上げたり、大海原に向かって発声してみたりと解放された気分を味わいながら様々な声を奏でていると…どこから流れ着いたのか、古びた宝箱が漂着しているのを発見し恐る恐る近付きます。

    (宝箱…?もしかしてお宝!?)

     年相応にはしゃぐ少女はすぐに宝箱の元へ駆けつけ力一杯振り絞って開けてみると…
     ──そこには、音符の形をした鮮やかな色の不思議な果実が入っていました。

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:04:25

    「わァ…きれい!」

     その果実に一目惚れの少女はまるで”惹かれる”かのように大きな一口で齧り付きます。

    「ゔぇ〜っ!!まっずい!!!」

     果実の味は見た目に反して耐え難いものでしたが、食べ物を粗末にする事無くしっかりと全部食べました。
     そこから歌声に変化が表れます。

    「──ちゃん前よりお歌が上手になったわね」
    「幸せな気分だ…」
    「まるで夢の世界にいるみたい!!」

     国民達は今まで少女の歌声に癒されていましたが、果実を食べたその日から貧乏で辛い思いも忘れるくらいの歌声に魅了され、"癒される"存在から"頼られる"存在になりました。

    「今日はどこで歌ってくれるんだ?」
    「あそこで歌ってくれないか!」
    「──ちゃんの歌は聴いていて幸せになれるよ!」

     少女もまた皆から頼られる事に喜びを感じ、ますます歌に磨きが掛かります。
     しかし、食べる前と違ってすぐに疲れてしまい途中で寝てしまう事が多くなりました。
     それでも苦に感じず、寧ろ国民達を幸せな気分にしてあげる為少しでも長く歌える様、必死に歌い続けました。

    (私が皆を幸せにしてあげる!!)

     それから数日後……この国に旅人が訪れます。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:05:24

    >>2

    ありがとうございます支部中心ですが興味本位で初スレ立てです

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:14:44

    続き楽しみ

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:17:51

    旅人の青年は白髪でゆらゆらと不思議に揺れており、とても感情豊かで笑顔が絶えない人でした。
     旅人がやってくるのは珍しいので少女も興味津々で青年に近づきます。

    「ねェ、名前はなんていうの?」
    「ニカって呼んでくれ」
    「ニカ!!旅の話してよ!」

     "ニカ"と名乗る青年はこれまでの冒険談を話してあげると少女は目を輝かせながら「もっと聞きたい!」と話に夢中でした。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:21:56

    「お礼に私が街を案内するね!」

     話のお礼にと、歌を奏でながら彼と一緒に街を歩き回ります。
     少女の歌声に感動した彼は笑顔で一緒に歌いながら歩く事にしました。二人が仲良くなるのもあっという間で、お互い楽しい日々を過ごす事ができました。
     しかし、別れの日もあるのです。

    「もう行っちゃうの…?」
    「寄り道だ。またここに戻るから」
    「私も一緒に行きたい!」
    「もう少し大きくなったら連れて行ってやるよ!」

     そう言い残した彼は次の島へと足を運び、少女は「またここに戻る」という言葉を信じ、姿が見えなくなるまで涙を堪え見送りました。 

     ──それから悲劇は起こる。

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:28:24

    「ここに流れ着いてるはずだろ!?不思議な果物が入った箱がよォ!?」
    「そ、そんなものなんてな…うわァ!」
    「ないなら探し出すかねェよな?」
    「──この国の財宝も奪いながらよ!!!」

     海賊が略奪しにやってきたのだ。少女が以前見つけたあの果実を取り戻しに。
     火の手が回り、逃げ惑う国民、それ笑いながら追いかける海賊達…少女の目には地獄の光景が広がっていた。

    (ど、どうしよう…あの時私が食べなければ…)
    「にげて!!──っ!!」
    「ママ!!パパ!!」
    「お城の地下に逃げるんだ!!」

     裕福では無い国の為、国民や王を守る兵力、武器が不十分だった。
     なされるがままに弄ばれる命。国王は「有事の際にはお城の地下に避難する事」と日頃から何度も国民に伝えていた為、皆そこへ向かって走り出す。

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:35:02

    「もう…いやだ……」
    「これ以上おれ達から奪わないでくれ…」
    「おとーさん!おかーさん!どこにいるの!?」

     ──お城の地下では悲痛な叫びが響き渡る。
     皆、大事なものを奪われながら命から柄逃げ出したのだ。

    「すまない…私がもっと皆を守る為にお金を使っておけば…」
    「謝らないでください国王…私たちの為に商船を呼んでくれたりしたじゃないですか!」
    「国王は悪く無い!」
    「悪いのは全部…アイツらだ…」
    「そう!海賊よ!!」

     ──少女は言えなかった。自分のちょっとした好奇心で果実を食べてしまった事、もしあの時食べずに取っておけば皆助かっていたかもしれないと。
    心の中で謝るしかなかった。
    "ごめんなさい"
    "私が皆を危ない目に合わせてしまった"
    "あの時食べなかったらパパやママも生きてたかもしれないのに"
    "大好きな歌で皆を幸せにしたかったのに"

    「ごめんなざい…」

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:41:55

     嗚咽が溢れ出る。少女の小さな泣き声に皆が振り返る。

    「泣かないで…──ちゃん。」
    「お前も両親を失って辛いはずなのに…」
    「おれたちが塞ぎ込んでどうするんだ。」
    「なァ、──。辛いかもしれないが君の歌でどうにかできないか?」
    「ぇ?」

     ある男の問いかけによって空気が変わる。

    「君の歌で皆を幸せにできたんだ…もし……もしも、あの海賊達を追い払う強い願いで歌う事ができたら…」
    「そうだよ!──ならできるよ!」
    「私たちもお祈りするわ」
    「──!」
    「──ちゃん!」
    「おねがい……──!」

     少女に正義感が芽生える。齢九つにしては重た過ぎる強い正義心が。

    「……わかった。わかったよ皆、私頑張るからね」

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 22:51:37

    あの海賊どもを追い払う強い憎しみの歌を、皆を外から守れる頼もしい歌を、そして私が起こしてしまった惨劇を…悲しみを…皆の思いを無駄にしない…死をも転がす救いの讃歌を!!!
     私は文字通り"全身全霊"で四枚の楽譜に歌を刻み込んだ。

    「私が守るから…こんな悲劇忘れさせて上げる」

     ──轟音が近づく。城内も海賊達によって火の手が回り始めてる。
     少女は恐れる事なく海賊の前に立ちはだかる。

    「ガキ……?」
    「宝の場所しってるよなァ!?」
    「………」

     すべての想いよ、恐れよ、悲しみよ、憎しみよここにすべて集え!怒れ!歌え!
     "トットムジカ"と名付けられた楽譜は少女が歌うと共に怪しげに輝き出す。

    「な、なんだこれ……ギャアアアアア!!!」
    「船長!?グワっ!!」
    「に、にげろ!!怪物だ!!」
    (ワタシガ…ミンナヲ…タスケルンダ)

     歌の勢いは止まる事は知らず、城の外壁を吹き飛ばし国のありとあらゆるものを海賊が消えるまで破壊し尽くす。

    (ミンナ……イキテル…ヨカッタ…)

     残った海賊達も蹂躙し少女は「皆に応えられて良かった」よ安心する。振り返って国民の安否を確認すると。

    「──消えろ化け物!!!」
    「幸せの存在じゃねェ……お前はただの怪物だ!!!」
    「おとーさんとおかーさんを返せ!!!」
    (……ドウシテ?)

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:21:24

     皆の少女を見る目が段々と変わっていく。あれだけ暖かく見守ってくれたのに、「癒される」「幸せになれる」と認めてくれたのに……憎悪と恐怖の視線が突き刺さる。石を投げつけられる。「早く消えろ」と辛辣な言葉が突き刺さる。

    (ヤメテヨ……ヤメテ!!!)

    罵詈雑言に耐えれず少女は暴力で訴える。唯一何も言わなかった国王を除いて。

    「──。すまなかった…お前に背負わせるべきでは無かった……」

     少女の背後にある青年が現れる。

    「ニカ……!」
    「………」


     ニカ、きてくれたんだね。

     ──私、がんばったよ?それなのに、皆して私を悪者扱いするんだ。

     ……なんでニカも皆みたいに怖い顔をしているの?こんな私を嫌いになったの?やめてよ、寂しいよ、認めてよ、嫌いにならないで!!!

     ──少女の視界が暗くなる。目覚めた時には彼の腕の中にいた。

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:39:26

    「来るって信じてた……」
    「あァ」
    「ねェ、ニカ」
    「どうして泣きそうなの?」
    「なんでだろうな」

     ──笑ってよ。
     少女にはもう喋る気力も無かった。段々と力も入らなくなり、視界が霞んでく。
     思いが伝わったのだろうか、最後に見た光景は大きな涙粒を流しながら眩しい笑顔を見せる彼の顔が。
     少女の遺体を抱き抱えた青年が国王に話しかける。

    「遅くなってすまねェ」
    「いや……私があの子を止めるべきだったんだ……それなのに私は…!怖くて…!すまない……──!!」
    「アイツを忘れないでおこう……おれ達に出来る事はそれくらいだ」
    「うぅ……私は…決めたぞ……」
    「この国を世界一の音楽国家にする!!あの子がこれ以上寂しい思いをしないように!!大好きな歌で鮮やかにする!!」

     ──人の恐れ、人の迷い。トットムジカの名の下に。怯えよ。逃げよ。
     少女が大好きな人たちを必死に守ろうとした想いは無駄にしない。あの子が安心して眠れる様に音楽の国として栄えよう。
     国王は残された四枚の楽譜を石碑と共に封印した。


     ──この国の名をエレジアとする。

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:46:07

    こんな感じで生まれたのかな~って思いながら書きました読んでくれてありがとうございます
    SS書ける方には頭が上がりませんね・・・もっと上達してからまた立てたいと思います

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/10(月) 23:46:21

    面白かったです!
    ウタウタの実と共にある感じと寂しいという言葉とうまく馴染んで違和感なく入ってきた
    個人的には映画見たときから島の名前がエレジア(悲歌)なのが気になってたんだけど
    このお話で勝手に補完された気分です
    良SSありがとう

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