気になる?

  • 1◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:10:45

     トレセン学園を卒業して大学に進学し、数か月経ったある休日の昼下がり。

    「あっ、そういえばこの間告白されたんだ」

     ふと思い出した学校での出来事をトレーナーに話す。
     まさかアタシが告白される身になるとは思ってもみなかった。

    「……は? え? 告白……?」

     何その鳩が豆鉄砲を食ったような反応は……?
     大学生なんだから、そういう色恋沙汰はトレーナーの時だってあったんじゃないの?
     やっぱりトレーナーにとってアタシが告白されるのって意外な事なのかな……。愛想はあんまりよくないし、可愛げもないし……。

    「うん、学部は違うけど学年は同じ男の子に」
    「…………へぇ~、そうなんだ……」

     何をそんなに考え込んでいるんだろう。
     少なくともそこまで考える事のある出来事ではないでしょ。何か気になる事でもあるのかな。

    「気になる?」
    「え? あ、いや、そういう訳じゃないよ。……そうだよな……ドーベルは美人だし、告白くらいされたって不思議じゃないよな……」

     ……特に聞かせるつもりのない独り言のようなものなのだったんだろうけど、ばっちり聞こえてるよ、トレーナー。
     美人……。そっか、トレーナーから見て、アタシはちゃんとそういう風に映ってるんだ……。

  • 2◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:10:59

    「その……さ? 付き合うのか? その子と」
    「え? ううん、断ったけど?」
    「あ? え? そうなの?」
    「うん」

     告白された経験なんてなかったから、それ自体は嬉しかったし、こんなアタシでも好きになってくれたという事実は嬉しい。
     でも致命的だったのが、未だにアタシは男性がそんなに得意ではなくて。もし仮にお付き合いをしたとしても上手くいく未来が到底見出せなかった。
     それに、アタシには既に好きな相手がいて、その相手は今目の前にいるから。

    「あっ、そう……」
    「だってアタシ、今でも男性が苦手だもの」
    「あ~……そうだね。俺の陰に隠れるほどじゃなくなったとは言え」
    「だから、お付き合いしたとしても上手くいってないと思う」

     さっきまで強張っていたトレーナーの表情が、いつもの緩んだ顔に戻る。
     何をそんなに安心しているんだろう。少なくともアタシが誰かとお付き合いを始めてもトレーナーが困る事はないでしょ。

    「大体、お付き合いを始めてたら告白された~、じゃなくてお付き合いを始めた~って言うでしょ、普通」
    「……それもそうだ。そっかぁ、ドーベルもそういう年頃かぁ」
    「そういう年頃も何も。一応アンタと会った時からそういう年頃ではあったはずなんだけど」
    「まあ、そうだけどさ。でもドーベルが誰かと付き合い始めたらうちに来てくれる事もなくなるのか」
    「……そうなるのかな」

     けれどそうなる予定は当面ない。だってトレーナー以外の誰かとお付き合いをする気なんてないんだもの。

    「それはちょっと……寂しいな」

  • 3◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:11:11

     ふと、トレーナーから零れ落ちた呟き。いずれ来るかもしれない未来を想ってか、少し寂しげな笑顔を浮かべている。
     ……アタシだって。トレーナーと会えなくなったら寂しいよ。だからこうして、関係を繋ぎ止める為にも遊びに来てるのに。

    (アンタから告白してくれたら、全部解決しちゃうのに……)

     そんな、叶わない願いを抱えても。

    「だったらアンタだって彼女作ればいいじゃない。アンタ顔はいいんだしモテるんでしょ?」
    「モテる、って……ドーベルから見て俺はどんな印象なんだよ……。まあ、ドーベルが大学を出て落ち着くまでは作らないかなぁ」
    「……誰目線なのそれ?」
    「……保護者?」
    「……ふふふっ、アタシたち一回りも歳離れてないでしょ?」
    「いや、やっぱりトレーナーとして教えた身だからさ。そういう情もちょっとはあるよ」
    「子供扱いしないで欲しいんだけど……」
    「してないよ。君はもう、俺の目から見ても魅力的な女性だよ」
    「──~っ! 面と向かってそう言われるのは、それはそれで無理!」
    「ははは! やっぱり可愛い教え子だよ、ドーベルは」

     いつかは、振り向いてくれると信じて。

  • 4◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:12:00

    勝手に始まってしまった脳内シミュレートを吐き出さないと眠れなくなってしまったので……
    続いてトレーナー視点投下します。

  • 5◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:12:16

    ~Trainer's View~

     ドーベルがトレセン学園を卒業して大学に進学し、数か月経ったある休日の昼下がり。

    「あっ、そういえばこの間告白されたんだ」

     ふと思い出したように、衝撃の内容を話される。
     ドーベルが……告白……?

    「……は? え? 告白……?」

     いや、何もおかしな話じゃないだろう。
     ドーベルは元担当トレーナーという贔屓目抜きで見ても、とても美人な子だ。
     壁を作るような事もあるが、彼女の優しさに触れたら好きになってしまう人物が出てきても当然だ。
     むしろ今までこんな話が一切なかった事の方が不思議である。

    「うん、学部は違うけど学年は同じ男の子に」
    「…………へぇ~、そうなんだ……」

     ……そうか。……同じ年齢の男の子か。

    「気になる?」

     いつの日か、バレンタインにした気がするやり取りをそのままドーベルに返される。
     特に意識しての発言には見られないが、昔少しの悪戯心で同じことを言った身からするとドキリとする。

    「え? あ、いや、そういう訳じゃないよ。……そうだよな……ドーベルは美人だし、告白くらいされたって不思議じゃないよな……」

     嘘だ。気になるに決まってる。……ドーベルに告白した子はどんな子だろうか。
     ちゃんとドーベルの事を大切にしてくれる、優しい子だろうか。

  • 6◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:12:27

    「その……さ? 付き合うのか? その子と」

    (……いや、どんな子であろうと嫌なのには変わりないな)

     大人げない独占欲が、沸々と湧き立つ。
     叶うなら、他の誰にだって渡してやりたくない。ドーベルの隣にいるのは、自分がいい。
     とてもじゃないがドーベルには悟られたくない、黒い感情が心の中を満たす。

    「え? ううん、断ったけど?」
    「あ? え? そうなの?」
    「うん」

    (──……ッ! なんで俺は付き合い始める前提で考えてるんだ……)

    「あっ、そう……」
    「だってアタシ、今でも男性が苦手だもの」
    「あ~……そうだね。俺の陰に隠れるほどじゃなくなったとは言え」
    「だから、お付き合いしたとしても上手くいってないと思う」

    (嫌になるな、自分が……)

     告白を断ったと聞いて。内心安堵してしまった自分がいる。
     少なくとも告白した子はフラれて悲しんでいるはずだろうに。

    「大体、お付き合いを始めてたら告白された~、じゃなくてお付き合いを始めた~って言うでしょ、普通」
    「……それもそうだ。そっかぁ、ドーベルもそういう年頃かぁ」

  • 7◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:12:40

     油断、していたのだろうか。少なくともトレセン学園は実質女子校な為、同年代での男女の恋愛という事柄にはあまり縁がない。
     その為無意識にドーベルが誰かとお付き合いをする事はない、と心の中で決めつけていたのかもしれない。
     ……油断? 何にだ?

    「そういう年頃も何も。一応アンタと会った時からそういう年頃ではあったはずなんだけど」
    「まあ、そうだけどさ。でもドーベルが誰かと付き合い始めたらうちに来てくれる事もなくなるのか」
    「……そうなるのかな」

     当たり前の話である。自分以外の男と付き合った場合、付き合ってもいない男の家に頻繁に遊びに来る事なんてなくなる。
     そんな、来るかもしれない未来を想うと。

    「それはちょっと……寂しいな」

    (……ああ、そうか。俺はこの子の事が……)

     今、気付いた。
     少し前までは、トゥインクルシリーズを共に駆け抜けた、大切な教え子だと思っていた。
     しかしとんだ勘違いをしていたようだ。彼女が卒業してプライベートで共によく過ごすうちに、彼女への感情はいつの間にか変わってしまっていたらしい。

    「だったらアンタだって彼女作ればいいじゃない。アンタ顔はいいんだしモテるんでしょ?」
    「モテる、って……ドーベルから見て俺はどんな印象なんだよ……。まあ、ドーベルが大学を出て落ち着くまでは作らないかなぁ」

  • 8◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:12:52

     卒業式の日にもしかしたら告白されるかもしれないな、とはなんとなく考えていた。
     ……まあ、今付き合ってない時点でされてない訳だが。
     ただ、もし告白されていても、あの時の自分はきっと明確な答えを出せていなかったと思う。

    「……誰目線なのそれ?」
    「……保護者?」
    「……ふふふっ、アタシたち一回りも歳離れてないでしょ?」

     ……それ以降も。なんとなく彼女の好意に気づきつつも、大学を卒業するまでは。
     ドーベルは俺しか男性とあまり関わった事がないから。せめていろんな人と関わって、それでもまだ俺を好きでいてくれるのなら、選んでくれるのなら。
     その時は俺から告白しようと、そう思っていたのに。

    「いや、やっぱりトレーナーとして教えた身だからさ。そういう情もちょっとはあるよ」
    「子供扱いしないで欲しいんだけど……」
    「してないよ。君はもう、俺の目から見ても魅力的な女性だよ」
    「──~っ! 面と向かってそう言われるのは、それはそれで無理!」
    「ははは! やっぱり可愛い教え子だよ、ドーベルは」

    (君から告白してくれたら、いっそ楽なんだけどね……)

     この想いを、本当に俺から伝えてしまってもいいのだろうかと。
     己に課した誓約は、自分を縛り付けて苦しめるのには十分過ぎた。

  • 9◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:13:16

    みたいな両片思いで苦しむベルトレが見たいので誰か書いてください。

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 04:14:13

    もうそこにありますね

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 04:15:13

    もうあるのに必要ありますか???

  • 12◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 04:20:03
    ……今のだけじゃ、悪戯かどうか分かんないから|あにまん掲示板『あのさ……トレーナー……』『何?』『もうここに通うこともなくなるから……だから……』『……うん』『だから……──~っ。……進学しても、アンタの部屋、遊びに行ってもいい?』『……え? まぁ、もちろん。…bbs.animanch.com

    一応こちらの前作の世界線で過去にあった話、みたいなイメージで書いてます。


    気になる?の意趣返し見たい~!ベルトレがドーベルへの気持ちが変わってるのに気づいて苦しみもがく様が見たい~! という思いのみで書きました。

    自分で色んな人と関わるまで待とう、って決めた癖に本当は自分を選んでほしくて他の誰にも渡したくない独占欲を抱えたまま、己に課した誓約で苦しむ様が見たかっただけなんですよ、本当に。

    いい男の独占欲を剥き出しにする様がたまらなく好きです。

    ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 04:20:59

    あ〜〜〜!!!!貴方か!!!!!

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 04:25:07

    感謝します

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 04:27:05

    このレスは削除されています

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 08:01:08

    >>4

    もっと吐け!吐いてくださいお願いするます。

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 13:07:55

    うう…支部がどこかにまとめて投稿してくれ…

  • 18◆y6O8WzjYAE22/10/13(木) 22:47:30

    >>17

    一応渋に過去作は投稿しているのでトレベルタグあたりでそれっぽい人物を見つけていただけたら……。

    掲示板にリンクまで貼るのはちょっと烏滸がましいかな……と思うので……。

    それとこれに関しては息抜きみたいなものなので多分渋には格納しないですね……。

    するとしても何かしら短いものをまとめる時にやるくらいかなと。

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:01:36

    ベルトレのパート、凄く良い…

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 23:06:13

    トレーナーからの独占欲がまた良いんだよな…それくらい持ってても良い

オススメ

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