- 1二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:21:04
長かった1年も気付けば10月の中旬。夜の虫たちの大合唱も鳴りを潜め始めた頃、トレーニング終わりにスイープトウショウは俺に頼み事をしてきた。
「使い魔。次のお休み、お出かけするから付き合いなさい」
「ああ、それは構わないけど…成人同伴じゃなきゃいけない所なのか?」
どこに行くかはわからないけど、もしも魔法の触媒探しで山に突入するとか言い出したら流石に止めていたがそうでもなさそうだ。にしてもお出かけ…友達と行った方が楽しいのではないのだろうか?
「んーん、ここ最近レースばかりで全然息抜き出来てなかったじゃない。で、アタシがレース詰めならアンタも同じでしょ?だから、優しいスイーピーが息抜きがてら使い魔のにも付き合ってあげるって事!感謝しなさい?」
「ああ、そういう事か…うん、じゃあお言葉に甘えようかな」
彼女の担当を続けて長い時間が経ち、わかったことがある。よくイタズラ好きのワガママ娘という印象を受けるがそれだけではなく、不器用だけど他者を慮る優しさを持ち、必要とあらば激しい檄を飛ばし、再起を図れるように促してくれる。俺も、彼女の不器用な優しさには何度も救われた。
「それで、どこ行く?」
「うんうん、最近の使い魔は話が早くて助かるわ。でね?アタシ、ここに行きたいんだけど」
パンフを渡されたので確認すると、ちょうど次の週末に商店街と神社通りで秋祭りが開催されるとの事だった。思い返すと、夏休み期間も合宿に行ってたから山や海、そうでなくても魔法のお家付近には川はあったから遊ぶ機会はあった。
だが、俺もスイープも夏の終りはヘバッてたのと9月はレースに向けた準備もあって、休みの日は時折俺の自室に襲来してゴロゴロしてるくらいだったので、こっちでの催し物は下手にお出かけしにくいのもあって休みを満喫しきれずにいた。彼女も、相当溜まっていたのだろう。
「わかった、今週末はお祭り行って羽根を伸ばそうか。アレなら友達を誘ってもいいぞ?多い方が楽しいだろうし俺が居ればとりあえずは問題ないんだろうし」
「ホント!?なら、声をかけてみるわ!」
というわけで、今週末は彼女とお祭りに行くことになった。浮かれすぎて鼻歌を歌うくらいなので、案外結構前から楽しみにしてたのかなと思うと可愛いなあと笑ってしまうのだった。 - 2二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:21:26
迎えた当日。彼女に合流出来る時間をLANEで伝えてから自室でも出来る書類作業を消化し、集合時間の1時間前になったので身支度を整えて部屋を出る。金木犀の香りを鼻腔内に取り込み、集合場所に向かうと一人の少女が佇んでいた。
「あ、使い魔!もうっ、来るの遅いわよ!」
「…え?スイープか?」
そこに居たのは…浴衣を着たスイープ。どちらかと言うと可愛い系の顔だとは思っていたが浴衣に着替え、普段結っている髪を解き、おろした姿はいつも見ている彼女とは違く見えて、思わずこんな言葉が口をついて出た。
「…綺麗だ」
「?なんか言った?使い魔」
呆気に取られて思わず出た言葉に困惑しつつももう一度言い直す。
「あ、いや…うん、似合ってるなって。そのカッコ」
「えっ!?ほ、ホント…?いつもと違って変じゃない?」
「うん。もっと気の利いたことが言えればいいんだけど…綺麗だなって言葉しか出てこない」
「え、えへ、えへへ…!ま、まあ?スイーピーチェンジを使ったからトーゼンだし?さっすがスイーピーね!」
照れるスイープを見て我にかえる。こんなに変わるものなのか…。彼女が着てる浴衣は全体が紫に寄った藍染に淡く赤がかった朝顔が散りばめられた意匠で帯から勝負服にもあるアクセサリーが垂れており、どうも少しアレンジを加えたもの。なかなかデザインも秀逸だったからあんな言葉が出るのも無理はない。
「ほらほら、ボーッとしてないで露店全制覇するわよ!スイーピー、お腹ぺこぺこなんだから!」
「うっし、今日は楽しもう!」
「トーゼンよ!まずは焼きそば買いに行くわよー!」
その後もスイープと色々な店を回った。金魚掬いがなかなか上手く出来なくて2人並んでぐぬぬと唸ったり、型抜きでは器用なスイープがガンガン上手く切り抜いて野次馬の視線を独り占めし、ドヤ顔するスイープを写真で撮ったり、かき氷をどっちが早く食えるか勝負して2人して頭がキーンとしたり…スイープはもちろんだが俺自身、久々のお祭りを存分に満喫した。
道中、折角来たのだからと浴衣のレンタルをして、スイープが気に入るコーディネートに仕上げてもらう。流石にセンスある彼女の見立てのおかげか、普段よりかは多少は伊達男になった…と思う。なお、スイープの評価はマシにはなったけど着せられてる感が尋常じゃないとの事だった。手厳しい…。 - 3二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:21:50
一通り回った俺たちは、神社のベンチに腰掛けて今日の戦利品を手に休む。そんな折、神社側の厚意で参詣者に無料で線香花火を一つ配ってるそうなので一本ずつ貰い、花火に火をかける。
音を立て、弾ける花火を眺めながらスイープは話しだした。
「ねえ使い魔、何で今日、アンタを誘ったかわかる?」
「そりゃ、お互いの息抜きだろ?スイープが言ってたじゃんか」
「それもあるわね。でも、1番は…この浴衣をアンタに見せたかったの。これを着てるアタシをね。ホントはキタサンや仲の良い子たちも連れてくるつもりだったけど、この浴衣を選びに行った時に使い魔にも見せたらきっと喜ぶって言って、見せるまではお祭り行かないなんて言いだしたのよ!?あり得なくない!?」
「そ、そりゃまた難儀だな…」
友人たちからけしかけられたのか。そういえば今日はスイープだけだったし彼女が押し切られるのも珍しい…と思ったが、キタサンの目論見通り、文字通り化けたスイープに魅せられていた。もし走りやすいのならば和装版の勝負服として検討したくなるほどに全体のバランスも良く、彼女の可愛い系の快活さが少し影を薄め、代わりに女性美を全面に押し出していて…綺麗だった。その変わり様はまさしく…
「魔法みたいだった」
「えっ?何が?」
「今日のスイープを見た時、正直人違いかな?て思ったんだ。あんな雰囲気じゃなかったよなって。でも、君とわかった瞬間本当に驚いたよ。髪と服だけでここまで印象変わるんだなって。だから、俺は君にまた魔法をかけられちゃったみたいだなって」
「ふふん、みたいじゃなくて、掛けたのよ?アンタがスイーピーにメロメロになる魔法をね!」
「はは、恐れ入ったよ」
「…ねえ」
得意げになっていたかと思えば突然真剣な面持ちに変わる。
「ホントに今日、アタシ綺麗だった?」
「…ああ、誰よりも輝いて見えた」
「イヤ。さっきみたいにもっとわかりやすく言って」
「ええ?なんか改まって言うと照れるな…君が一番綺麗だったよ」
「…あっそ、ならいいわ。ふふん、顔真っ赤にしちゃって。使い魔もウブね♪」
いたずらっぽく小悪魔のような笑みを見せる彼女は、祭りだけあって色んな人やウマ娘とすれ違ったけど間違いなく唯一、一瞬でも見とれたと言えるのだが…省みると年頃の少女に何言ってんだと後々になって顔を青くするのだった。 - 4二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:25:09
浴衣って不思議と女性にしても男性にしてもかっこいいや可愛いを綺麗や男前という別の評価に押し上げる魅力があるよなあとこの前行った秋祭りで一緒に回った友人を見て思ったので書きました。
文が長い所があって読みにくいと思いますがどうか許し亭 - 5二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:28:57
素晴らしい
ありがとう
この言葉しか出てこない - 6二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:32:07
スイープSSは良いぞ
- 7二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:33:18
- 8122/10/13(木) 19:37:01
- 9522/10/13(木) 19:44:40
- 10二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 19:55:24
友人たちの後押しがグッジョブすぎて目頭が濡れた
- 11二次元好きの匿名さん22/10/13(木) 22:16:03
最後の使い魔をからかうスイープが惑わす魔女みたいにスーッと入って来てこれは…
- 12二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 06:16:34
この二人はいつも美しいな
- 13二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 07:57:56
てぇてぇよぉ・・・朝からてぇてぇよぉ・・・元気でた・・・
- 14二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 10:15:11
許し亭氏の新作助かる
たしかにスイープは目鼻立ちが美人系というかキレイ系な感じだし、そこに浴衣が合わさったら「綺麗だ……」って感想になるよね - 15二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 17:22:17
かき氷をどっちが早く食えるか競争して2人して頭がキーンとなってるところを想像して仲の良い兄妹みたいで和んだ