【SS】ゴードンの手記

  • 1◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:04:29

    私の名はゴードン。
    かつて存在していた国「エレジア」の最後の国王だった男だ。

    あの事件から少し時間もたった。
    今、私はこのエレジアに身寄りのない子供を集めて音楽を教え始めた。
    かつてこの島で培われていた知識と技術を、少しでも未来に残していくつもりだ。

    この手記は日記代わりに使おうと思う。
    かつて私がともに暮らした「彼女」も日記のような事をしていた。

    未だあの子のことを思うと胸が張り裂けそうになる。
    だが、いつまでも立ち止まってはいられない。
    せめてあの子の愛した音楽を少しでも残せるよう、努めようと思う。
    それがずっと逃げ続けていた、臆病な私のせめてもの罪滅ぼしだ。

  • 2◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:08:25

    今日、この島で暮らすことになる子供たちが来訪した。
    みな家族を失った子供、または家族で養うことのできない子供たちだ。
    この時代にはそのような子供が多いが、まずはこの数名から始めていこうと思う。

    ありがたいことに、この挑戦に頼もしい支援者がいてくれる。
    彼らのおかげでこの島は海賊の心配はあまりしなくてもいい。
    それに物資も分けてくれた。これでこの子たちはひとまず不便は少ないだろう。
    まずは彼らの住む場所を教え、旅路の疲れをとってもらうことにした。
    時間はある。ゆっくりと歌や音楽に触れてもらえばいいだろう。
    いつかこの子達が世界に羽ばたければ素晴らしいことだろう。

  • 3◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:12:40

    早速今日からこの子達に音楽を教えようと思う。
    まずはこの子達が何をしたいか聞いてみた。
    音楽と言っても様々だ。
    曲を作る。演奏する。歌う。向き不向き含め考えなければならない。

    意外にも、全員歌を歌いたいと言った。
    理由と聞いてみたところ、どうやら「彼女」の曲に憧れたらしい。
    世界で今もなお、様々な形であの子の残した歌は流れている。
    この子達もそんな歌に憧れているらしい。

    思わず涙ぐんでしまったが、今の私はこの子達の先生だ。
    この子達が歌いたいと言うなら、いつか世界に愛される歌い手にしてみせると決意した。
    その日は皆で簡単な曲を何曲か歌った。
    明日からはしっかりとしたメニューを考えないと活けないだろう。
    いつか私以外の人手もいるかもしれない。
    今度彼らが来たら相談してみようと思う。

  • 4◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:17:43

    今回集まってくれた子は皆熱心だ。
    どこで習ったのか、自分達で時折発声練習をしているのを見る。
    休憩時間などにも各々で歌ったり、書庫の本を読んで学んだりしている。
    あとで分かりやすい本を見繕って持ってきてあげようと思う。

    この子達はまだ若いおかげか外が好きらしい。
    だから歌を歌うときは青空教室にすることが多い。
    今日は子供達のリクエストで、あの子の歌を歌ってみることにした。
    アルバムとしてある程度は浸透しているとはいえ、やはり難しいらしい。
    それでも一生懸命に歌う姿には、つい心が温まってしまう。
    一緒に歌ってみたところ、絶賛されてしまった。
    また歌ってほしいとのことだ。
    私も後で練習することにしよう。

  • 5◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:24:12

    その日は昼過ぎから雨が振り始めた。
    怪しい空模様だったのでその日はずっと中で過ごしていて正解だったのだろう。
    この子達も本を読んだりたまにということで楽器に触れたりと退屈はしていなかった。

    夜、雨は酷くなり、やがて嵐になった。
    子供たちも嵐におびえてしまっている。

    やがて子供達が眠りについたが、私は何故か眠れなかった。
    自分の寝室で子供達のメニューを開きながら、外を見る。
    嵐は酷くなるばかりだ。

    何故か嵐の海が途方も無く気になってしまった。
    当然船影など見えない。人の姿などあるわけがない。
    …なのに、謎の胸騒ぎがする。
    これ以上はいけないと、流石に眠ることにした。
    あまり無理をしても子供達にも悪いだろう。

    …その日、夢を見た。
    空を包む雲と雷。火に包まれる町。人の悲鳴。
    あの日の夢だった。
    …なぜ、今更。
    そう思う私の前に、あの忌々しい姿が降り立つ。

    …何故か、怒りは湧いてこなかった。
    私から、国民から、彼らから、何よりあの子から多くのものを奪ったそれに。
    …なぜ私は、寂しさなどを感じたのだろう。
    それを考えるよりはやく、目が覚めてしまった。

  • 6◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:30:28

    翌日、目覚めた私は地下の書庫にいた。
    あの子達には、まだこちらの書庫は場所を教えていない。
    上の書庫に本を集めてある。

    先日、再び封をされたその場所に手をかざす。
    今度こそ燃やそうと思ったそれは、しかしできなかった。
    何故私がそれを躊躇ってしまったのか、自分でも分からない。
    ただ、もうあんな悲劇は繰り返さないようにするしかない。
    ただそれだけは決意していた。

    上に戻ると、子供達がすでに起き始めていた。
    すぐに朝食を用意し、彼らとともに済ませる。

    まだ昨日の嵐が残っている。
    あの子達に万が一があると危ないので、今日も建物の中で教えることにしようと思う。

    その前に、海岸の様子を見てくることにした。
    万が一何かあったら大変だということで、一人外に出る。
    …今思えば、このとき自分の中で何か胸騒ぎがあったのだろう。
    海岸に何かがある。そんな予感が。

  • 7◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:35:45

    波の荒れる海岸をゆっくりと見て回る。
    あの子もかつてこうして島を歩いていた。
    あのときのあの子の気力のない目を思うと心が締め付けられる。

    そんなのとき、あの子はこの海岸であの電伝虫を拾った。
    あの電伝虫のおかげで彼女は再び心を癒やすことができた。
    だが、あの電伝虫によってあの子は救世主となってしまった。
    ただ歌を愛しただけの彼女に、偏った外の世界はあまりに辛いものだった。
    果たしてあのとき、私はどうすればよかったのだろう。
    今でもその答えは出ることがない。
    きっと一生迷い、悔い続けるのだろう。

    頭の中に浮かぶその思考を振りほどく。
    今の私はいつまでも後ろを向いてはいられない。
    あの子達にも心配をかけてしまう。
    そう思ってそろそろ戻ろうと思ったとき


    それが、目に入った。

  • 8◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:39:18

    海岸にあったのは、残骸だった。
    船の名残と思われる木片や帆の切れ端、箱、樽が流れ着いている。
    だがその中に置いて一際目を疑ったのは


    一人の、少女だった。
    すぐに駆けつけて脈を確認する。
    …ちゃんとある。呼吸もしている。
    だが気を失っているようだ。頭部をぶつけたのか血が流れている。
    それに全身が海水で冷えてしまっている。
    このままでは万が一になりかねない。
    すぐにその子に来ていた服を被せて背中に背負う。
    もしかしたら他に生き残りがいるかもしれない。
    それなら今見つけるべきだ。

    だが、その子以外に人はいなかった。
    これ以上はこの子が心配だ。
    一度戻り、看病することにしようと思う。

    その子を見たとき、私はなぜか、誰かを思い出しそうになった。

  • 9◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:47:32

    戻ったとき、子どもたちも突然のことに驚いたが、すぐに手伝ったくれた。
    体を洗い、海水を流し、濡れた服を着替えさせる。
    その後すぐに用意できるベッドのある部屋で彼女を寝かせた。
    あとは目が覚めるまで様子を見るため、今日は各自自習にしてもらうことにした。
    だがあの子達も何かできないかと、濡れタオルや水などを用意してくれている。
    本当に優しい子どもたちだ。

    この子の介抱に、かつてのあの子の残したものを使わせてもらった。
    一部は彼らが持っていったが、多くはここに残されている。
    あの子の思い出とともに残してほしいとの要望だった。
    こんな形で使うことになるとは思わなかったが、きっとあの子も許してくれるだろう。

    その後、一応あの子の服を確認した。
    若い子にしては珍しく、スーツのような服を着ている。
    残念ながら身分の分かるものはない。
    少し子供達に見てもらいもう一度海岸に向かった。
    もしかしたらあの子のことが分かるものがあるかもしれないと思った。

    結果だけ言えば、めぼしいものは見つからなかった。
    だが、帆の切れ端をいくつか集めてみたところ、あることに気づいた。
    帆に描かれていたのは、世界政府のマークのようだった。
    つまり彼女は政府の関係者なのだろうか。
    そんなことを考えながら、みんなの元へ戻った。

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 16:50:06

    期待

  • 11◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 16:54:43

    戻ると、子供達が駆け寄ってきた。
    どうやら例の子が目覚めたらしい。

    部屋に向かうと、まだ少し顔の赤い彼女がベッドから立とうとしていた。
    まだ無理はしなくていいと言えば、ゆっくりとベッドに戻っていく。
    頭からの出血もあったのだ。
    止血したとはいえ、無理に動ける状態ではないだろう。

    まずここがどこかを聞かれた。
    エレジアだと答えると、彼女は分からないというような顔をした。
    今度は私が聞くことにした。
    君は誰なのか。どこから来たのか。何があったのか。
    すると彼女は少し頭を抑え、しばらく考えてる素振りをして…私に聞いてきた。

    自分は誰なのかと。
    驚いた。どうやら彼女は記憶喪失らしい。
    自分が誰で、何者で、どこから来たのか。
    一切が抜け落ちているらしい。
    悩み続ける彼女を、放っておく気にはなれなかった。
    しばらくここで暮らすといいと、そう言った。
    彼女も少し悩み、承諾してくれた。
    子供達にも伝えたが、皆喜んで了解してくれた。
    自分達より年上のお姉さんが出来たと喜んでいる。

    こうしてこの島での音楽教室に、また一人新しい子が来ることになった。

  • 12◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 17:01:26

    そうなると一つ考えなければならない。
    彼女をなんて呼ぶかだ。
    名前がないあの子をどう呼ぶか皆で考えた。
    一人、楽器の名前を提案した。彼女は複雑な顔をした。
    一人が作曲家の名前で呼んだ。また複雑な顔をした。

    ある子が本を持ってきた。好きな名前を探すといいということらしい。
    その本をしばらく読んでいたが、いい名前はなかったらしい。
    思春期なのかな。一人の子供がそう言った。

    その時、何故か彼女が閃いたような顔をした。
    何故か自分の名前にビビッときた…らしい。
    思春期の意味を持つその言葉から、彼女の呼び名が生まれた。

    こうして彼女…〇〇〇は、まず名前を手に入れた。
    〇〇〇は、なんだか喜んでいた。


    (続きはまた後程)

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 17:02:46

    ひょっとしてウタの生まれ変わり?

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 17:20:15

    期待

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 17:32:18

    >>13 ウタの生まれ変わりにしては『事件から時間が少ししかたってない』『元々スーツみたいな服を着てた』『乗ってた船には世界政府のマークの帆があった』『思春期の女の子』という要素が見えるから、多分違うかな

  • 16◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 19:54:00

    英語って同じ意味でも色んな単語があって色んな難しいよね

    というわけでポツポツ投げます

  • 17◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:02:11

    次の日、また子供達の音楽の時間が来た。
    一応嵐の後の様子見ということで今日も屋内での練習にした。

    やがて〇〇○がやってきた。
    今日から彼女も見学しつつこの教室に参加することになる。
    とはいっても回復したばかりだ。
    ひとまずゆっくり見ているといいといえば、彼女は壁際に座った。

    話してみて一つ分かったことがある。
    あの子はかなり人見知りのようだ。
    まだ積極的に人と関わるのが少し怖いのか、少し距離を起きがちのようだ。
    ここにいる小さな子たちは積極的に人と関わろうとする分、
    あの子も迷いながら色々と考えているようだ。

    「彼女」は人と関わることが少なかったが、それでも配信では
    積極的に他人と関わろうとしていたのを考えると、
    あの子とはまるで反対なのかもしれないと考えた。

    それでもこの日は子供達の歌に合いの手を合わせるなど、彼女なりに頑張って共にいようとしてくれていたのは嬉しかった。

  • 18◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:10:14

    その日の夜、夕食などを済ませ、子供達を寝かしたあとだった。
    次の日のメニューを考えていたとき、あの子が部屋を訪れた。

    どうやら自分は本当にここにいていいのか、別のところに行ったほうがいいのではないかと確認しに来たらしい。

    無理に去る必要はないのだと伝えた。
    記憶のない少女一人、安心して送り出せる環境など今の世界にはほとんどない。
    そして安心できる場所に送るツテがあるわけでもない。
    子供達も喜んでいるから、いつまでもここにいてくれて大丈夫だと伝えれば、
    彼女は頭を下げていた。

    それから少しゆっくり話をすることにした。
    話していて思うが、やはりこの子は元々恥ずかしがり屋のように感じる。
    この点においては記憶が仮に戻っても変わりはしないだろう。
    それならそれでいい。ゆっくり慣れていければいいだろう。

    会話の途中、城に建てられた「旗」について聞かれた。
    それについては少し悩んだが、ちゃんと説明することにした。

    彼女が船に乗っていて遭難したのだとすれば、それは嵐か、あるいは海賊だろう。
    そんな彼女に話すのは少し躊躇ったが、それでも話しておきたかった。
    この島を2度も救ってくれた、心優しき彼らのことだけは。
    ○○○は、最後までゆっくりと聞いてくれていた。

  • 19◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:17:12

    〜〜

    あの子が来てから一週間が経とうとしている。
    あの子はだいぶ体力が戻ってきたようだ。
    それと同時に、少しずつ人見知りも緩和されてきたらしい。
    今では積極的に子供達と関わろうとしている。
    他の子供達も年上の女の人ということでかなりあの子と話しているし、
    あの子自身もだいぶ楽しそうだ。
    もしかしたら子供好きだったのかもしれない。

    まだあの子自身は音楽の時間に歌ったことはない。
    今までは体力の回復や精神の様子見で見学だったが、
    そろそろ彼女にも参加してみるか聞いてみようと思う。
    様子を見て、○○○も音楽は好きだというのは分かった。
    きっとすぐに馴染めるだろう。

  • 20◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:27:30

    その日の夜。
    私はいつも通り明日の予定を考えていた。
    たまには何か難しい音楽でも見せてあげようかなどと考えて棚を開くと、ふとそれが目に入った。

    「彼女」の歌が入った音貝。
    思えば最近はあまり聞いていなかったように感じる。
    久々に机において音楽を流す。

    懐かしい歌声が流れ始める。
    まだあの子が外の世界と繋がってそれほど立ってない頃に生まれたこの曲は、
    彼女を象徴する一曲だった。
    元気のこもったこの曲は、多くの人々に愛されていた。

    つい聴き入ってしまい、筆が止まってしまっていた。
    これではいけないと姿勢を直すと、ふと扉に違和感を感じる。
    先程まで締めていたはずのそれが微妙に開いていた。
    扉に歩み寄ると、廊下から物音がする。
    様子を見てみると、何故か転んでいる○○○がいた。

    申し訳無さそうにする彼女を部屋に入れて話を聞いてみる。
    どうやらトイレに起きたところ、歌が聞こえてきて気になって来たところ、
    つい扉を開けて聞き入ってしまっていたらしい。

    ごめんなさいと謝る彼女だったが、私はむしろ嬉しかった。
    記憶のない少女にとっても、この歌はやはり魅力があるらしい。
    「あの子」が褒められているようで誇らしくなった。

  • 21◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:32:17

    そんなとき、ふと彼女があることを聞いてみた。
    この歌の楽譜を見てみたいけどあるだろうか、と。
    彼女がこの歌に興味を持ってくれるのならば、それは嬉しかった。

    彼女の暮らす部屋、その棚にそれはあった。
    本来「あの子」が使っていたこの部屋には、今でも彼女自身の書いたものが残っている。
    この子には、まだこの部屋の前任者のことを伝え忘れていたようだった。

    彼女は楽譜をまじまじと見ている。
    それだけで分かるほど難易度の低い曲ではないと思われるが、一生懸命な視線がつい気にいってしまった。
    楽譜に合わせて聞いてみると効果があるかもしれないと、
    曲も流してあげることにした。
    手に持っていた音貝を再生する。
    やがて曲の前の聞き慣れた雑音が終わり、曲が始まるというところに入って─


    ─私は、自分の耳を疑った。

  • 22◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:37:47

    「あの子」の音貝は、私の手の中にある。
    そこからは確かに、あの歌が流れている。


    ─では、私の目の前から聞こえるこのもう一つの歌はなんだ?

    彼女が歌う。
    目の前の○○○が、楽譜を手にそれを歌っている。

    はっきり言って、この子は天才と呼んでよかった。
    一度聞いた曲を、一度見た楽譜だけで、
    綺麗に歌を合わせ続けている。
    いくらなんでもこれをやり遂げる人間はそういるはずがない。
    まさに天与の才能と言うべきレベルだ。
    ひょっとしたら、記憶を失う前は歌を歌っていたのかもしれないとすら思える。


    だが、私はそれ以上に驚愕していた。
    今まで全く気付きもしなかった。
    人見知りの彼女からは全く想像もつかないその声は。
    その歌は。
    その歌声は。


    ─「彼女」に、「ウタ」にそっくりだった。

  • 23◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 20:43:56

    曲が終わる。
    どこかすっきりとした顔で、彼女がどうだったかと聞いてくる。

    とても良かった。そう返した。
    今はそうとしか返せなかった。
    私の心のうちは幸いにも読まれなかったようで、歌を褒められた彼女は可愛らしく照れていた。
    明日からは、自分も歌の勉強に参加したいと言ってくれた。
    勿論承諾した。
    彼女は鼻歌交じりに就寝の準備に入ったので、私も部屋から出ようとする。
    その時、ふと机の上が目に入った。
    見慣れないものがある。
    彼女に聞いたところ、どうやらポケットに入っていた私物のようなものらしい。
    奇妙な首飾りだった。一見すると普通に見える。
    だが、本来飾りの宝石があるようなそこには、謎の棒がついている。
    彼女にもそれが何か分からないらしい。
    そのまま彼女はベッドに入ろうとするので、私も部屋を出た。

    その日はしばらく寝れなかった。
    考えたいことが多すぎた。

    記憶を失ってこの島に来た、あの歌声を持つ彼女。
    果たしてこれは偶然なのだろうか。

    不思議な胸騒ぎの中、夜は過ぎていった。


    (続く)

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 20:53:15

    面白くなって来たぞー

  • 25一般ラインハルト22/10/14(金) 20:55:08

    関係ないけど思春期は英語で
    「pubescence」とか「adolescence」って言うんだよね

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 21:08:42

    >>25 「スーツ着た女の子」ってのでAdo似の子と思ったら「adolescence」で確信犯だ!?

  • 27◆.pitCM.Fow22/10/14(金) 22:49:33

    十六分音符…八分音符の半分の長さで演奏される音符

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 01:56:20

    期待の保守

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 06:38:04

    保守ー

  • 30◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 14:05:54

    翌日、早速あの子が本格的な参加を始めた。
    まず最初ということで、軽い合唱曲を用意しておいた。
    全員で2つに分かれて合唱を始める。

    結果だけ言えば、合唱は大成功だった。
    やはり、あの子は天才的な才能を持っている。
    彼女の歌が、周りにいる子供達の中でも一際強く輝いていた。

    合唱が終わったとき、子供達が一斉にあの子に飛びかかる。
    皆音楽の好きな子たちだ、あれ程の歌声を聞いて興奮しているのだろう。
    彼女自身も、好きな子供達に歌を褒められて嬉しそうだ。
    この様子なら、きっと良好な関係になれるだろう。

    そんな子供達を、私は遠目にみつめていた。
    曲は違えど、確かにあの子の歌声は「ウタ」そのものだった。
    普段の喋り方や性格から、全く結びつくことがなかった。
    これはどういうことなのだろう。
    血縁関係も考えたが、彼女とウタは全く結びつかない。
    赤と白が特徴的なウタと比べると、目の前のこの子はまさに真逆と言ってもいい。
    色々と考えてしまう私をよそに、子供達は皆で発声練習をして楽しんでいた。

  • 31◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 14:10:21

    その日の食事はとても盛り上がっていた。
    子供達は前より増してあの子と話すことが増えた。
    今度は何を歌いたいとか、楽器も触ってみてほしいとか、
    様々な話題を話し続けている。
    あまり話し上手ではない彼女も、あたふたしながらも子供達と楽しそうに話してくれている。
    記憶がないと不安な様子を見せていたあのときと比べると、とても明るくなってくれたようだ。

    皆が寝静まったあと、私は一人考えていた。

    …このことを、「彼ら」にも伝えるべきだろうか。

    分かっている。あの子がどのような歌を歌おうとも、
    あの子は「ウタ」ではない、○○○だ。
    それでも、あの歌声が偶然とは思えない。
    もし彼らに教えたら、彼らは会って聞きたがるだろうか。
    それとも遠慮するだろうか。
    その答えはまだ出せそうにないだろう。

  • 32◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 15:17:03

    〜〜

    あの日、あの子が来てから一月程度がたった。
    あの子に釣られて他の子供達もすくすくと成長を感じる。
    今日はいよいよ、ウタの歌をみんなで練習してみた。

    やはりと言うべきか、あの子はウタの歌をほぼ完璧に再現していた。
    周りの子たちも、目を輝かせて感動していた。
    「まるで本物のウタみたい」という子もいた。
    ウタのことを知らない彼女はよくわからないまま照れていた。

    私も一つ、あることを決心した。
    近いうち、また彼らに連絡を取ろうと思う。
    記憶のない彼女のこれからについても相談したかったし、
    新世界にいる彼らなら知識も多いかもしれない。
    …何より、彼らにも彼女の歌を聞いてほしい。

    そんな日の夜だった。
    あの出来事があったのは。

  • 33◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 17:28:57

    その日の夜、私が片付けを終え、自室に戻ろうと思った時だった。
    何か物音がしたのを感じ、そちらに向かう。
    すでに皆眠っている時間だ。
    ネズミか何かか、あるいはこんな時間にトイレか何かと思ったが、
    それにしては何か腑に落ちなかった。

    向かった先に、彼女がいた。
    トイレに赴くでもなく、寝間着でもないいつもの服装でどこかに向かおうとしているようだ。
    …何より、異常だったのは彼女の目だ。
    普段の大人しさに隠れた人の良さが見えない
    ─虚ろな、目だった。

    少しずつ後を追いかける。
    やがて外に出て、廃墟の町を進んでいく。
    気づかれないよう進んでいたが、彼女が本当に気づいていないのかすら分からなかった。

  • 34◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 17:44:12

    ただひたすらに、静かに廃墟の町を進み、森を進み…やがて彼女が出たのは、あの海岸だった。
    かつて彼女を見つけたあの海岸に立ち尽くしている。
    何をしているのか全くわからないまま、近くの木々に隠れて様子を見ている。

    突然彼女が歩き始めた。
    波の触れるところに膝をつき、彼女は突然砂を掘り起こし始めた。
    何をしているのだろう、そんな疑問にはすぐに答えが出た。

    すぐに、彼女はそれを掘り起こした。
    それは、人が抱えられる程度の小さな箱だった。
    黒く染められたそれに文字が書かれているのが分かった。

    すぐに彼女は開けようとしたが、それは開かないようだった。
    鍵でもかかっているのだろうか。そう思っていたときだった。
    彼女は首元に手をやった。

  • 35◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 17:49:14

    ゆっくりと、首にかけられたそれを外す。
    あのとき見た、あの首飾りだった。
    首飾りにつけられたその棒を手に取り、
    彼女が箱に向き合う。
    どうやら箱にあったらしい穴に、彼女がその棒を指した。

    その時、箱が光り、謎の電子音のような音とともに上部が開いていった。
    中から煙が溢れてくる。
    どういう仕組みなのか全く分からなかった。

    ……やがて煙が晴れ、彼女が箱の中の物を取り出した。






    ─その手にあったのは、奇妙な果実のようななにかだった。

  • 36◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 17:55:56

    ─私は、音楽以外の知識などたかが知れていた。
    それでも、それが何なのかはなんとなく分かった。 

    『悪魔の実』。海の呪いと引き換えに、超人的な力を得ることができる魔の果実。

    何故そんなものがあの箱にあったのか。
    何故あんな箱があったのか。
    何故あの子がそれを知っていたのか。
    疑問は多くあった。
    だが、それ以上に私の中に芽生えたものは…本能的な、警鐘だった。

    それを食べてはいけない。
    なんとなく、そんな予感があった。
    すぐに飛び出し、彼女を止めようとする。
    やめるように、彼女に向かって叫ぶ。

    だが、私の手が届くより先に、彼女の手の中のそれが口に運ばれ…
    一口、その果実が齧られた。

    間に合わなかった。が、止まることはしない。
    すぐにかけより、今食べたものを吐き出すように言う。
    彼女の様子は変だった。
    それまで何の感情もなかったその目に、光が戻ったように感じ…
    次の瞬間、彼女は砂浜に盛大に嘔吐した。

  • 37◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 18:03:34

    一通り吐いた彼女を掬った海水で口の中をある程度落ち着かせ、
    それからゆっくり話を聞いた。
    驚いたことに、彼女にはここに来るまでの経緯の記憶がなかった。
    その日の晩、いつも通りに入浴を済ませ、その日の復習をしたあと眠りについたはずのようだ。
    それが気づけばこの砂浜にいて、しかも物凄く吐き気がしたらしい。
    どうやら悪魔の実は噂に違わずそうとう不味いらしい。
    ひと先ず、彼女は他に体に異常は内容で一息つく。

    彼女に目の前の箱に指されていた棒を見せる。
    こんな用途があったことすら、やはり知らなかったようだ。
    次に果実の入っていた箱を見る。
    遠目ではなんて書いてあるのか分からなかったが、
    箱の側面に「SSG」と書かれている。
    この文字列には見覚えがあった。ウタの使っていた新種の電伝虫と同じ文字だ。
    つまりこの果実と箱は、あの電伝虫と同じところから来たということなのだろうか。

    最後に、果実を見る。
    悪魔の実に詳しくはないが、随分と可愛らしい見た目の果実だった。
    だが齧られたあとからの匂いを考えるに、確かに味は酷いものそうだ。
    果実についた茎を見る。
    …なんとなくだが、その緑が音符のようにも見えた。
    形を見るに、16分音符だろうか。
    …何故肌の部分だけ色が違うのだろうか。
    考えても仕方ないため、一応箱の中に戻し持ち帰ることにした。
    未だ気分の優れない彼女を連れて家に戻る。
    …波の音が、何故か不穏に感じた。

  • 38◆.pitCM.Fow22/10/15(土) 18:08:43

    その後、覚えのない自らの行動に不安がる彼女がなんとか眠りにつくのを見届けたあと、
    私はすぐに電伝虫を用意した。
    私の知識だけでは、悪魔の実については分からない。
    より知識のある人たちに聞きたかった。

    彼らはすぐに出てくれた。
    それまでの話をしたところ、すぐに来てくれるらしい。
    実際に来るのには少し時間はかかるだろうが、少し安心することができた私も、眠りについた。


    再び夢を見た。
    今度はあの日…ウタのライブの日の夢だった。
    五線譜に張り付けにされた私に、あの子があの楽譜を見せる。
    止めても止まらず、彼女は背を向けて光に歩み続ける。
    そのまま彼女の影に手を伸ばしたのを最後に、再び目が覚めた。

    また新しい一日が始まる。
    言い拭えない不安は、未だ胸の中に渦巻いていた。


    (続きはまた後ほど)

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 18:23:51

    >>35 SSGが再現して作ったウタウタの実かな? そしてどっかで見たことのある袖口だ・・・・・・。

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 20:25:32

    ところでウタウタの実ってこんな感じのはずなんですけど

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 22:11:59

    16分音符なんてあるんだ…(音楽無知)

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 23:54:39

    ほなウタウタの実ちゃうがな

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 02:13:14

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 07:12:51

    セラフィムが作れるんだ、人工的にトットムジカが制御できるようなものを作っててもおかしくは……

  • 45◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 13:09:41

    翌日、また音楽の勉強は天気は良かったが諸事情で屋内でやることになった。
    一時は大丈夫か不安だった彼女も無事に回復したようで、
    しっかり参加できているようだ。

    その日は趣向を変えて、各々の好きな歌を歌うことにしていた。
    それぞれが自分の歌いたい楽譜を予め持ってきている。
    ある程度は合わせられるので、ピアノに座り伴奏の準備をする。

    順調に一曲ずつ進んでいった。
    みんな自分の好きな歌を歌っている。
    どこかの海の民謡やこの国にあった歌、ウタの歌を歌う子もいた。
    そして最後、あの子の順番が回ってくる。
    恥ずかしがり屋なあの子も、ここにいるメンバーの前でなら大分歌えるようになったのが成長を感じる。
    あの子が選んだのは、「新時代」だった。
    伴奏と共に彼女の歌が始まり─


    ─景色が、様変わりした。

  • 46◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 13:15:30

    あまり綺麗とは言えない壁が彩られる。
    少し古い照明が鮮やかな光を灯す。
    場を包む空気が温かみを持つ。

    やがて私達の周りに、色とりどりの音符が現れる。
    あの子達はその幻想的な現象に興奮していたが、私はそれどころではなかった。
    この能力は、私自身もよく知っていた。
    かつて、「あの子」の歌が見せていたそれとそっくりだった。

    光の中心に彼女がいる。
    その顔には困惑と、そして興奮が混ざっている。
    何故こんなことになっているのか自分でも分からないという気持ちと、
    最高のパフォーマンスが現れたことへの喜びが感じられる。
    そのまま彼女はその中心で歌い続け…曲が終わると同時に、景色が戻った。
    すぐに辺りを見渡すと、いつの間にか寝転んだ体勢から起き始める子供達と…入れ替わるように眠っているあの子が見える。


    間違いなかった。
    この現象は、「あの子」と…ウタと同じものだ。
    ウタの悪魔の実……ウタウタの実の能力、そのものだった。

  • 47二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 13:19:07

    まさかベガパンク…つくりやがったのか…?

  • 48◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 13:23:21

    その後、起き上がった彼女に駆け寄る子供達を一旦止め、私は彼女に聞いた。
    どうやら歌った途端、不思議な感覚に包まれ、気づけばあの光景があったらしい。
    恐らく、まだ彼女自身も自分の能力を分かっていないのだろう。
    私自身もまた全てを把握している訳では無いが、彼女に教えられることは多いだろう。
    ひとまずその日はそれで教室を終え、全員に休むように伝えた。
    しかし子供達はまだ興奮したまま彼女に色々なことを聞いている。
    しばらく二人で話す時間は取れないだろう。


    夕食後、やっと二人で話す時間が出来た。
    私は彼女に自身の得た能力について教えた。
    彼女の歌を聞くと別世界に精神が行くこと。その世界では歌の力で何でもできること。
    とりあえずそのことを伝えた。
    現実で眠る人間を操れることは伏せた。彼女には不要だろう。
    最初は困惑して聞いていた彼女も、そんなに危ないことではないと認識したのか少し安心したようだ。
    ひとまずこれから歌うときはより安全に気をつけること、ある程度力をコントロールできるよう頑張ることを約束してくれた。
    そしてもう一つ、何よりも大事な「約束」を、彼女と結んだ。

    笑顔で立ち去る彼女を見送り、私は天を仰いだ。
    楽観視などできるはずがない。
    彼女があの能力を得たということは…それすなわち、再び 「あの存在」が現実に現れる手段を得たということだ。
    私はすぐ、地下の書庫へ向かった。

  • 49◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 13:32:10

    地下の書庫の「それ」の封印を確認する。
    しっかりと、緩むことなく封印は続いている。
    どうやらまだ異常はないと知り、ひとまず安心した。

    あの子との最大の約束、それは「私の許した曲以外は歌わないでほしい」というものだった。
    仮に歌いたい曲があれば、まず私にそれを教えて大丈夫かどうかを確認する。
    音楽の自由を奪うようで心苦しかったが、彼女は承諾してくれた。
    その能力をまだ把握仕切りておらず、多少の不安があるのが不幸中の幸いだろう。

    あのとき楽譜の封印が解けたのは、島中の人々が歌を聞いたからだ。
    次の時は、ウタ自身がこの楽譜を探してしまった。
    今回は歌を聞くものは少ない、あの子がこれを探すこともないだろう。
    しばらくは安泰のはずだ。

    本当ならこんなもの処分するべきなのだろう。
    だが、私にはまだその勇気が湧かなかった。
    だから、先日呼んだ彼らが来るのを待つことにした。
    彼らともになら、この楽譜を処分することも決心が着くだろう。
    そう思い、私はその場をあとにした。
    彼らにも、また連絡をして置かなければならない。

    ─後に、私はこの時、己の独断で楽譜を燃やさなかったことを…
    心の底から、安堵することになった。

    (続きは後程)

  • 50二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 13:34:34

    ウタベースのセラフィムかな?
    見た目はAdoぽいけど。

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 13:46:11

    やっぱあいつやることがひどいシュロねェ…

  • 52二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:32:32

    SSGの人造悪魔の実ってことはなにかしらの欠落があるのかな?
    とりあえず全身がピンク色になる副作用はないみたい

  • 53二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 19:51:26

    これが完全に人口なのか天然物に手を加えたのかで
    また変わりそう
    悪魔の実も暫定Adoも

  • 54◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 21:25:01

    その日、そのまま再び彼らに連絡をした。
    「ウタの悪魔の実だった」と伝えると、彼らにも動揺があったようだ。
    どうやら彼らもずっとその実の情報を探していたが、
    今の今まで手がかりを掴めていなかったようだ。

    そのあと、こちらに行くのが少し遅れると話が来た。
    どうやら一月はかかるらしい。
    何か確かめたいことがあると言っていた。
    その後、いくつかの連絡をし、その日の通話は終わった。

    外でなびく海賊旗を見る。
    きっと彼らも複雑な思いだろう。
    それでも、今は彼らの到着が待ち遠しかった。

    この先どうすればよいのだろう。
    私は彼女を一体どうしたいのだろう。
    彼女はこれから先どうしていきたいのだろう。
    …先への課題ばかりが増えていくようだった。

  • 55◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 21:32:00

    次の日から、音楽の時間は少し変わることとなった。
    機能はたまたまだったが、その日からあの子は順番を最後にすることにした。
    まだ彼女は一曲歌えばそれで眠ってしまう。
    他の子との時間を作るために順番を最後に回すことにした。

    皆が彼女の歌を、その時間を楽しみにしている。
    彼女も子供達に歌を聞かせているととても楽しそうだ。

    その姿が、いつかのウタと重なる。
    ただ歌が好きな少女として、世界に発信していた時代の彼女だ。
    なんのしがらみもなく、傷を癒やしながら歌を楽しむウタを見て私は安堵していた。
    …いつしか救世主と崇められ、引き返せなくなる彼女に気づけていなかった。

    だから今度こそ、この子も、他の子供達も皆守らなければならない。
    この時代に食い潰されることなく、ただ自分の歌を幸せに楽しめるよう、私が務めなければならない。
    その心づもりだった。

  • 56二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:35:45

    あの後エレジアはシャンクスが縄張りにしたのか

  • 57二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 21:37:11

    >>56

    実は>>2の時点で海賊よけになるレベルの支援があったのは示唆されてたからな…

  • 58◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 22:10:16

    それから一週間頃が立った頃だった。
    彼女も自分の能力に慣れを感じ始めたらしく、
    歌を歌っても必ずあの世界に行かないよう調整できるようになったらしい。
    それだけではく、歌を歌うときの表現の幅が増え始めたように感じた。
    あの日のウタのようなライブを表現する日も近いのかもしれない。
    あの子達もより楽しんでいるようで何よりだった。
    少しずつ、あの子が歌いたいと持ってくる楽譜も増えている。
    約束を守ってくれているので安心して音楽を教えることができていた。

    そんなとき、ニュース・クーが新聞を持ってきた。
    本来なら椅子に座って読むが、その日はちらりと見えた写真にについ反応してその場で開いてしまう。

    そこにあったのは海賊被害のニュースだった。
    彼らが、新世界で政府の船を襲撃したという話だ。
    これはどういうことだろう。
    ひょっとして、遅れるというのはこれのせいだったのだろうか。
    しかし、何故政府の船を襲撃したのだろう。
    彼らが来たら、詳しく聞かないといけない。

    窓の外からは、子供達と彼女の楽しそうな歌声が聞こえてきていた。

  • 59◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 23:00:39

    それから少したったある日、
    私は子供達にあることを聞いてみた。
    このまま歌の勉強を続けて言って、改めて将来何になりたいかだ。

    やはり、多くの子供達は歌手になりたいと言った。
    かつての歌姫ウタや、それ以外にもここで学んだ他の歌姫、それにソウルキングのような凄い歌を歌いたいと言っていた。
    他の道を考える子もいた。
    その子は曲を作る方を考えたいと言っていた。
    ここで様々な曲に触れ、自分も憧れたらしい。

    そうして子供達が答えていき…彼女の番になった。
    しかし、彼女は少し言い淀んでいた。
    それもそうだろう、彼女は己の半生を忘れているのだ。
    この先それが戻るのか、戻ったとしたらどうするのか。
    彼女にはまだまだ課題が多い。
    その矢先にこの悪魔の実の件だった。

    ひとまずその話題は一旦そこで終わりとし、また歌の勉強になる。
    彼女には、またあとでゆっくり話をしないといけないと感じた。

  • 60◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 23:05:53

    その日の夜、寝る前に見回りをしているとき、
    突如歌が聞こえてきた。
    そちらに向かうと、バルコニーで一人歌う彼女がいた。
    既にだいぶ己の力にも慣れているらしい。
    懐かしい歌だった。
    あの子…ウタが、仲間との思い出として口ずさむこともあった歌だ。
    この子には、「あの楽譜」以外のウタの歌を既に教えている。
    それらを全て完璧に歌えているのだから驚きだ。

    だが、時折ウタの遺した音貝を聞き、そして彼女の歌を聞くと…
    やはり、ウタと彼女が違う人間なんだと感じるようになった。
    同じ声の同じ歌でも、そこに込められた思いは全く違う。
    彼女の歌には、最初にこれを歌ったかつての歌姫への尊敬もこもっている。
    …きっと、ウタが聞いたら喜ぶのだろう。
    一通りを歌い終えた彼女がこちらを振り向く。
    感想を聞かれたのでとても良かったと返せば、彼女は恥ずかしそうに照れている。
    私や子供達に慣れたと言っても、この元来の性格は変わらないのだろう。
    それでいい、そう思った。

    その後、彼女が突然話を切り出した。
    昼に話していた将来の話だった。
    あのときは緊張と不安でうまく答えられなかったが、
    あのあと少し考え自分の答えを出したと言っていた。

    やはり、歌手を目指したいと言った。
    しかしもう一つ…ここで、音楽をえてみたいとあの子は言った。
    かつての音楽の国のようにここが音楽であふれる島になるよう、
    ここで様々な子供達に歌を教えたいと、そう言った。
    …いつの間にか、不安の中でも彼女は成長していたようだ。
    そのことに、つい目頭を熱くしてしまった。

  • 61◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 23:14:40

    …それから、平穏な日々が続き…一月が立った。
    私は港にて、彼らを待っていた。
    昨夜、彼らからの連絡も来た。
    今日の昼、こちらに到着するとのことだ。

    子供達と彼女は、家で待つように伝えた。
    彼らが来ることに対し、興味を持つもの、怖がるものと反応は様々だったが、
    ひとまず会うのは一斉でいいだろう。
    きっと彼らと交流すれば安心できるはずだ。

    あの子もどちらかといえば恐怖のほうが大きかったようだが、
    それでも歌姫と関わりのある海賊と話を聞いていたということで興味もあったらしい。

    そう考えているうちに、船影が見えた。
    船首の赤い竜、閃く旗。目に傷の付いた髑髏。
    確かに彼らの船のようだ。

    やがて港に着岸した船から、男が降りてくる。
    親しみのこもった声で、彼が話しかけていた。
    久しぶりだなと。
    私もそれに答えた。
    元気そうで何よりだと。

    男…海賊、赤髪のシャンクスは笑っていた。

    (続きは後程)

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/16(日) 23:34:46

    きたかシャンクス

    そしてこの先どうなる


    >>52

    ベガパンク製なら大きな副作用は小さいかも

  • 63◆.pitCM.Fow22/10/16(日) 23:38:23

    誤字訂正


    >>37

    「…何故肌の部分だけ色が違うのだろうか」

    肌✕旗○


    旗…♪のこの変なとこのこと

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 03:08:10

    保守するね

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 09:15:21

    おは保守

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 15:44:29

    あげ

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 21:09:21

    あげ

  • 68◆.pitCM.Fow22/10/17(月) 21:48:02

    挨拶もそこそこに、後ろの船から更に複数人が降りてくる。
    見慣れた顔が多い、かつてこの国に来訪し、
    今では世界に名の轟く幹部達だ。

    ひとまず今日は彼らが上陸し、子供達と対面することとなっていた。
    彼らを今私達が使っている家へと案内する。
    他の船員達は今晩近くの海岸と船で留守番らしい。

    扉を開ければ、子供達が恐る恐るとこちらに顔を向けている。
    予め大丈夫と伝えたとはいえ、彼らの多くにとっては初めての海賊なのだ。
    恐れる気持ちが消えるのに時間がかかるのは仕方ないだろう。
    あの子はどこに行ったのか訪ねると、緊張のあまり収納庫に隠れてしまってるらしい。
    呼びに行くと、いつの間にか収納庫の一つが部屋のようになっていた。
    本当にいつ部屋を魔改造していたのだろうか。

  • 69◆.pitCM.Fow22/10/17(月) 21:56:17

    改めて、彼らに子供達を紹介する。
    表向き、今回彼らは縄張りの偵察、そして子供達の歌を聞きに来たということになっている。
    ひとまず緊張を解くための昼食の時間にしてみたが、
    これが思いの外成果を上げてくれた。
    初めは緊張の残っていた子供達も、食事の合間の会話で彼らの親しみやすさに触れたのだろう。
    徐々に会話が弾み、笑顔が増えていた。
    彼女はやはり人見知りのせいで他の子達よりぎこちなかったが、それでも少しずつ会話をしようと試みてくれているようだった。

    やがて昼食が終わると同時に彼らに表向きの経過を伝え、
    その後子供達の出番が来た。

    一人ずつ、これまで練習していたお気に入りの曲を歌い始める。
    赤髪海賊団の面々は笑うも茶化すもせず真面目に聞きとどけ、終わりとともに拍手で讃えてくれている。
    彼らの音楽家である一人と一匹が歌い終わった子供にアドバイスも伝えている。
    おかげで子供達もすっきりとやりきった顔で席に戻り、次の子供が歌を始め…
    …やがて最後、あの子の番が来た。

  • 70◆.pitCM.Fow22/10/17(月) 22:06:27

    彼女が進んだ途端、ほんの少し、彼らの纏う気配が変わった。
    前々からの付き合いがないと分からない程度だが、それでも確かに、それまでの子達と目の前の彼女を見る目は違う。
    やがて、彼女がマイクを手に取り、喉を震わせ…
    周りの景色が変わっていく。
    少なからず、彼らにも動揺が走る。
    彼らのよく知るかつての愛娘の力と同じ現象が目の前で起こっているのだ。
    それも仕方ないだろう。

    彼女が選んだのは、ウタの代表曲「新時代」だった。
    やはりこれが最も慣れ親しんだ一曲だったらしい。
    それまで見知らぬ人の前でオロオロとしていた少女はすでになく、
    力強く歌を響かせる一人の歌手がそこにいた。

    綺羅びやかな風景の中歌は響き…やがて、彼女が歌い終えた。
    歌を終え一息つくと、すぐにまたいつものあの子の顔に戻る。
    恐る恐ると見た彼女の視線の先で…彼らも子供達も一際大きな拍手をしていた。
    私も拍手を送りながら彼らの様子を覗く。
    彼らの顔は、純粋に目の前の彼女の歌をたたえていた。
    正直どのような反応になるか不安半分だった私の心にも安堵が生まれる。
    そんな私以上に緊張し、そして無事成功させて安心しきっていた彼女の背後で


    一枚の古びた楽譜が、上から舞い降りてきた。

  • 71◆.pitCM.Fow22/10/17(月) 22:16:02

    最初にあ、と声を上げたのはどの子だったのだろう。
    私が立ち上がるより先に、あの子が異変に気づいて振り向くより先に…
    シャンクスが、彼女の背後にて楽譜を手にしていた。

    動揺を見せる彼女の横を駆け、私も彼のもとに行く。
    彼の手の中にある楽譜を見て、戦慄した。

    ─何故、これがここにある。
    封印が解けた?そんなはずはない。
    今回の歌はこの広間だけ、島に響かせてなどいない。
    音の響かぬ地下の封印まで、歌声が届くはずがない。
    ふと違和感を感じ、自分の足元を見る。
    いつの間にか、さらにもう数枚落ちている。
    わけが分からなかった。

    ひとまず楽譜を伏せ、動揺する彼女たちを落ち着かせる。
    一旦彼女にも能力を解いて眠るよう伝えた。
    やがて意識が現実に戻り、景色が見慣れた寂しさを露わにする。
    目の前のステージではすやすやと眠る彼女がいる。
    ひとまず彼女を自室のベッドに運ぶ。
    そのまま未だ少し混乱する子供達にも休むよう伝えた。
    その日の晩は外で彼らとキャンプの体で食事をしようと伝えれば、
    全員すぐに気持ちがそちらに切り替わったのか興奮し部屋に戻っていた。

    そちらの準備は、船にいる者たちがしてくれるという。
    つまり、今はゆっくり時間があるということだ。
    私は、彼らと本題について話し始めた。

  • 72◆.pitCM.Fow22/10/17(月) 22:24:09

    彼らの待つ部屋に、あの箱を持って入る。
    まず彼らに確かめてほしかったのは、この中身だった。

    箱から取り出された果実は、不思議なことにあの日からほとんど劣化していない。
    彼らによれば、「SSG」とは海軍の科学者達の所属する組織らしい。
    その最先端の技術が使われているようだった。

    そして彼らによって果実がしっかりと確認され…
    やはりこれが、ウタウタの実と思われるとわかった。
    確信が持てなかったのは、新世界にある悪魔の実図鑑と
    少し相違点があるということだった。
    悪魔の実の見た目が変質する例というのは、彼らとしても聞いたことがないらしい。

    あの事件のあと、彼らもすぐこの果実を探したらしい。
    せめて娘の力だけは手元に遺したいと情報を漁っていたが、全く進展がなかったらしい。
    早期に政府がこれを得て秘匿していたのならば納得だろう。

    問題は、なぜ彼女がこの実を知っていたのか。
    なぜ鍵を持っていたのか。何故場所がわかったのか。
    …彼女は、一体何者なのか。
    その答えを得るため、彼らは科学者の一部が乗っている船に突撃し、情報を得てきたらしい。
    あの日の新聞はそういうことだったのだろう。

    そしていよいよ、真実の一部を知る日が来た。

  • 73◆.pitCM.Fow22/10/17(月) 22:34:59

    彼らが、一冊の冊子を取り出した。

    それを手に取る。

    どうやら、政府と海軍の科学者の共同科学計画の書類のようだった。

    それを開き、流し読みする。

    あまりこの手の知識のない私に理解できるとは思えなかった。


    実際、私にはなんとなくしか理解はできなかった。

    …否、あまり理解などしたくはなかった。

    書類を持つ手が震える。


    書類を置き、彼らに向き直る。

    目の前のシャンクスに、私は問いかけた。



    「……つまり………あの子は……○○○は………」


    「……そうだ」





    「あの子は………合成人間<キメラ>だ」


    (続きは後程)

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:43:25

    倫理の欠片もねえ...

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:48:05
  • 76二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:49:49

    >>75

    気がはえーぞ!?

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 22:54:26

    ウタ版のセラフィムみたいなものか

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 06:59:14

    保守

  • 79二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 15:30:29

    保守するね

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 20:09:00

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 21:21:07

    合成人間<キメラ> って…

  • 82◆.pitCM.Fow22/10/18(火) 21:44:11

    …海軍特殊科学班、「SSG」。
    その中心人物、天才科学者Dr.ベガパンク。
    私も国王時代にその名を聞いたことがあった。
    彼らの生み出すものは様々であり、
    海軍の軍艦の機構から、ウタの用いていた電伝虫まで様々な分野に置いて活躍しているとシャンクスは言う。

    彼女は、いわば「生物兵器」の試作的存在だという。
    政府の生み出した生物の技術を応用し、
    人型の兵器を作るため、まず作られたのが彼女…
    一般の血統因子を利用した「人」の創造だったらしい。

    結果として肉体は完成し、無事体内の器官も働いた…が、意識を覚ますことのない、植物状態だったらしい。
    完全な「人」を目指す以上、噂のパシフィスタのようなサイボーグにするわけにもいかず、
    そのまま肉体の成長だけは保持したまま保管されていたらしい。

    この時点で既に目眩がしそうだったが、本命はここからだった。

  • 83◆.pitCM.Fow22/10/18(火) 21:48:35

    そのまま彼女の肉体が目覚めることなく時は進み…
    あの事件が起きた。
    世界に広まったウタの、最初で最後のライブ。
    あの日、ウタは亡くなった。

    遺体は赤髪海賊団の彼らが持ち帰ったが、
    現場には彼女の吐血した血液が残っていた。
    それを海軍科学班が回収し、この血統因子を得ていたらしい。
    そして不幸にも、彼らは偶然「ウタウタの実」すら得てしまった。

    世界を魅了し、魔王すらも呼んだ歌声の遺伝子と、
    魔王を呼び出す悪魔の実。

    それを揃えた一部の科学者は、身の毛がよだつような恐ろしい計画を企てた。

    ─政府で、魔王を管理できる存在を作ろうと。

    そして、再び眠るだけのその肉体に役割が与えられることとなった。

  • 84◆.pitCM.Fow22/10/18(火) 21:56:46

    その科学者1派にとっての幸運は、ベガパンクは既に
    その肉体の経過を一任させていたこと。

    彼女の肉体に、すぐ新しい血統因子が付け加えられる。
    そして喉を始めとした発声器官が調整され、
    その肉体はウタと同じ声を得た。

    魔王を制御するのならば、もはや一般人などという縛りもいらない。
    パシフィスタ同様、脳を人工的に制御させればいい。
    しかし、そう思っていた科学者達にとって、誤算とも呼べる出来事が起きた。

    少女が己で覚醒したのだ。
    会話や食事などを自分で行う様子はなかったが、
    確かにその肉体は自我を得ていた。
    科学者達はその覚醒した少女を連れて別の研究所で教育をしたいとベガパンクに伝え、
    彼の元を離れようとしたらしい。
    当然、悪魔の実も本当の目的も伏せてだった。


    …彼らの最大の誤算は、そんな彼らの行動をベガパンクも世界政府上層部も気づいていないと驕ったことだったらしい。

  • 85◆.pitCM.Fow22/10/18(火) 22:08:42

    その資料には、彼らの顛末についても記載されていた。
    ベガパンクは、彼らのその計画も当然把握していたようだった。
    さて見逃すか糾弾するか支援して海軍に売るか悩んでいたところ、
    政府から研究費代わりの小切手が届き、それに従ったらしい。

    彼らのやろうとしていたことは、世界を滅ぼしかねない。
    そう判断した世界最高権力五老星直々の命令により、
    彼らの船に潜り込んでいたCPが船に破壊工作を仕掛け、
    グランドライン前半にその船は沈んだらしい。

    つまりその船があの日流れ着いた残骸であり…彼女の乗っていた船なのだろう。

    あんまりな話だった。
    元々彼女には思い出す記憶も、帰りを待つ家族もいないということだ。
    むしろ存在が政府にバレれば、彼女は抹殺される危険が大きい。
    これを悲劇とよばずなんと呼ぶべきなのだろうか。

    しかし、嘆くばかりではいられなかった。

    資料に乗っていた情報は以上だった。
    彼女の生い立ちには触れられたが、謎は未だ残っている。

    鍵については想像の域を出ないが…
    もしかしたら実際に使われるところを見たのかもしれない。
    しかし、問題はその後だ。

    何故、彼女はウタウタの実を見つけられたのか。
    何故、彼女は鍵を得ていたのか。
    …何故、封印されたままの楽譜が彼女の世界に現れたのか。
    それを確かめるためにも、私達は地下の書庫へ向かった。

  • 86二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 22:14:20

    今回ルフィはストーリーに関わらないのか

  • 87◆.pitCM.Fow22/10/18(火) 22:18:19

    地下の書庫、そこに固く縛られている封印を解く。

    確かに、楽譜はここにある。
    子供達にはここの存在は教えていない。
    …では、何故あそこに楽譜が現れた?
    未だ思い悩む私に、シャンクスがもう一度先程の資料を取り出した。

    彼が注目していたのは、彼女の船での生活だった。
    基本一人で動くことなく船室に籠もっていた彼女に対し、
    科学者達はかつてのウタのライブの記録を見せていたらしい。
    そう、それがこの楽譜の歌…「トットムジカ」のようだった。

    …私の中に、嫌な仮説が生まれた。
    どうやら、それは彼らと同じ想像のようだった。
    信じたくはない、だがもしそうなら説明が付きかねない。
    あの子が自我を得たのも。
    あの子がウタウタを求めたのも。
    あの子が知らないはずの楽譜を呼び寄せたのも。

    「………ゴードン、落ち着いて聞いてくれるか」
    シャンクスが、その仮説を口に出そうとする。
    その瞬間、私の頭には何故かかつてのウタの言葉が反復していた。

    『大事なのは肉体より心…そう思わない、ゴードン?』

    ─ならば、彼女の心は、魂は…何が形成している?


    「あの子の中に…既に、「魔王」がいる可能性がある」
    (続きは後程)

  • 88二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 22:35:19

    そう来るか

  • 89二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 23:04:12

    もしかしてBADな方いきそう…?

  • 90二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 08:10:50

    あ…

  • 91二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 08:31:44

    ワァァ…アァ…

  • 92二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 14:39:43

    光よ…キボウ…

  • 93二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 20:56:10

    シテ…ドウシテ…

  • 94◆.pitCM.Fow22/10/19(水) 22:00:42

    とても信じたくなかった。
    だが、他に考えられない。

    あの子の中にトットムジカがいるのなら、あの子自身が魔王なら、
    知らないはずの楽譜を知っていてもおかしくはない。

    だが、あの子はあの楽譜を遠目に見ても反応は薄かった。
    仮に魔王が化けの皮を被っているだけならそうはならないはず。
    …それに、個人的にこれまでの日々全てが嘘とは思いたくなかった。

    そこから出された仮説は、あくまで彼女は完全な魔王ではないということだ。
    魔王が混じっていても、あくまで彼女には自分自身の人格がある。
    それならば何かしらの対処法があるはずだ。

    私と彼らは、彼女の中にいる可能性の高い魔王への対策を考え始めた。
    科学者の資料、そしてこの島の伝承を漁れば、
    もしかしたら答えが見つかるかもしれない。

  • 95◆.pitCM.Fow22/10/19(水) 22:09:37

    恐らく、魔王が宿るきっかけになったのは二つ。
    一つは彼女の中にあるウタの遺伝子。
    そしてもう一つは彼女の聞いたというトットムジカだろう。
    二度魔王を呼んだウタの血と記録の中のその歌が、
    不完全だったあの子の中に取り憑いたというのが私達の考えだった。

    これがもしただの人ならそんなこともなかったのだろうが…
    彼女は生い立ちが特殊だった。
    如何に海軍の科学でも、完全な人の命を生み出すのは難しいことではあるのだろうか。

    仮に魔王が消えたら、彼女はどうなるのだろうか。
    また植物状態に戻ってしまうのではないかとも考えた。
    が、それはないと考えることにした。
    今のあの子は昔とは違う、自分の夢も心も持っている。
    きっと一人でも立てるはずだと、私は信じたかった。

    …そうなれば、まずやることは一つ。
    現実から、この楽譜を無くすことだろう。
    この楽譜に、再び教え子の未来を奪わせる訳にはいかない。
    二度と、この歌で苦しませるようなことがあってはならない。
    その日の夜、私は彼らとともにこの楽譜を処分することを決めた。

  • 96◆.pitCM.Fow22/10/19(水) 22:19:21

    その日の夜は、先の話通り外で待っていた他の船員達との食事だった。
    皆珍しい大人数での食事を楽しんでいるようだった。

    あの子の様子を見る。
    やはりこの大人数ではまた緊張が多かったのか、
    人の輪の済にいた。
    その隣に腰掛ける。

    その時、彼女が何か口に出そうとするのが分かった。
    ゆっくり彼女の言葉を待つと、やがて質問が飛んできた。
    昼間のそれはなんだったのかと。

    気にすることはないと私は言ったが、彼女は腑に落ちなかったようだ。
    見覚えがある気がする、そう彼女は言った。
    あの楽譜を見たとき、既視感と、不思議な寂しさを感じたと。
    …何故か、手に取りたくなったと。

    やはり時間はあまりないのかもしれない。
    彼女が不安にならないよう、その焦りを押し殺して励ました。
    何も不安に思うことはないと。
    その言葉を聞いて、ひとまず彼女もそれ以上踏み込むことはなかった。


    …やがて、子供達皆が寝静まった頃。
    私達は港から離れた海岸に向かっていった。

  • 97◆.pitCM.Fow22/10/19(水) 22:35:03

    彼らの手で、海岸に焚火が灯される。
    あとは簡単な話だ。
    この中に、この数枚の古ぼけた紙を落とせばいい。
    ゆっくりと、炎の元へ進んでいく。
    迷いがないわけではない。
    この国がずっと保管し続けたこの音楽を、
    他でもない国王の私が消そうとしている。
    だが所詮は過去の遺物なのだ。
    これを保管しようとして未来を生きる子たちが危険になるのなら、
    初めからない方がいいだろう。

    そして、焚き火のもとで、いざ紙を火に焚べようとしたときだった。
    彼らの一人、ヤソップが構えた。それに続いて彼らも身構え始める。
    何事かと、そちらを振り向いた。

    木々の奥に、人影が見え…やがて、彼女が現れた。
    なぜこんなところにと思った。
    まさか魔王かと思ったが、彼女の目は正常に見えた。
    話を聞いたところ、やはり先程の私の様子が気になり、こっそり抜け出してきてしまったらしい。
    ロックスターはあとでお仕置きだなと彼らの一部が苦笑するなか、
    シャンクスにどうするか相談した。
    …その結果、あくまで彼女には楽譜を見せないで、この焼却を見届けさせることになった。
    彼なりに何かの直感があったのだろう。

    ベックマンのそばにいる彼女に背を向け、今度こそ楽譜を落とす。
    あまりにあっけなく落ちたそれは、やがて焚き火の中で黒く変色していった。
    …本当に、あっけなく終わった。

    そう思った。

  • 98◆.pitCM.Fow22/10/19(水) 22:40:36

    異変が起きた。

    黒く燃えていく楽譜から、黒い煤ではない何かが漏れ出した。
    その闇はどんどん大きくなり、やがて私の横を通り過ぎ…
    後ろの彼女の元へ向かった。
    隣に立つベックマンが遮るように移動したが、それすらも完全に無視し…
    やがて彼女の身を包むように闇が広がった。


    闇の中で怯える彼女の目を見て…やっと気づいた。
    この手は悪手だった。
    やはり魔王は彼女の中にいた。
    彼女の中にいた魔王が…燃やされた楽譜の中にいた己自身を吸い出そうとしていた。

    両手で耳を塞ぎ、なにかに怯えるように唸る彼女に声を上げ手を伸ばす。
    だが、その手が届く前に…彼女の全身が、闇に隠れた。

    やがてその中から、二度と聞くことのないと思っていた旋律が聞こえ始めた。

    (続きは後程)

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:27:29

    いやマジか……マジか~~………………

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:34:55

    あっ…あっ………

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 03:15:28

    ガーザン...

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 11:56:50

    やめろー!これ以上ゴードンさんを苦しめるなー!

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 15:08:05

    oh…

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 16:03:27

    今誰もウタウタワールドにいないから討伐不可能だぞ!?

  • 105二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 19:42:53

    保守……

  • 106◆.pitCM.Fow22/10/20(木) 22:29:35

    もうだめなのか、そう思った。

    魔王の歌は歌われてしまった。
    この場にいるもの達で、魔王に対処しなければならない。
    だが、同時攻撃は不可能だ。
    今、あちら側の世界には誰もいない。
    もう一つの世界の魔王を倒す手段がない。

    そうなれば、本来能力者が寝るのを待つしかない…が、
    その手が使えるのかも分からない。
    あの子自身が魔王なら寝たところで本当に消えるか不明なのだ。

    私はまた駄目なのか。
    また私は救えないのか。
    そう思う私をよそに、闇が渦巻き、魔王の歌が歌われ続け…


    それだけだった。

  • 107◆.pitCM.Fow22/10/20(木) 22:33:12

    最初に異変に気づいたのは誰だっただろうか。

    目の前の闇はただ彼女を包み、それまでだった。
    いつまで立っても、その闇から出るはずの魔王は姿を表さない。

    何が起こっているのか分からなかった。
    何故ウタウタの能力者が歌ったにも関わらず、魔王は現れない?
    姿を出せていない?
    そう思う間に、曲が歌い終わってしまった。
    未だに渦は消えないが、それ以上にもならない。
    中から、彼女の呻く声がほんの少し聞こえるばかりだ。

    チャンスかと思った。
    あのとき何もできなかった自分が、何かするチャンスなのではないかと。
    すぐに彼女のもとに走り出す。
    あの中がどうなるか分からない。
    ただで済むかも分からない。
    それでも動かずにはいられない。

    彼らの止める声を無視し…私は、その渦の中に飛び込んだ。

    (短いけど続きは後程)

  • 108二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 23:52:57

    おつ
    謎めいた展開になってきたな

  • 109二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 06:20:54

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:20:45

    保守

  • 111二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:55:45

    保守

  • 112◆.pitCM.Fow22/10/21(金) 21:09:22

    飛び込んだその中で、流れに負けそうながらも蹲る彼女のもとにたどり着いた。
    周りからは常に人々の心のない声が飛んできているが、そちらに構う暇はなかった。
    なんとか抱き起こしてその場を離れようとする。
    彼女を逃したくないのか、より渦巻く闇が勢いを増していく。
    怨嗟の声が更に増えていく。
    意味があるかは分からなかったが、せめてもと彼女の耳を塞いだ。
    そのまま顔を覗き込むが、未だその目は虚ろとしている。

    ひとまずなんとか外に出ないといけないだろうと思い、彼女の肩を支えながら歩もうとしたが、渦の勢いが強すぎた。
    早く出なければ二人共危ない、しかし今は前にも後ろにも進めない。
    どうするべきかと迷ったときだった。

    歌が聞こえた。
    私のすぐ隣のあの子が、トットムジカではない歌を静かに口ずさみ始めた。
    忘れもしない、ウタの一曲…「風のゆくえ」だ。
    ゆっくり、確かな声で奏でられるそれが進むたび、少し渦が弱まるのを感じた。
    今しかないと思った。今なら脱出できると。
    周りの罵声だけが虚しく強く響く中、私は目の前の闇の向こうへと飛び込んだ。
    衰えてなお強いそれから彼女を庇う。
    体がところどころ切れるのを感じたが気にする暇もない。
    そのまま勢いに任せ、向こう側に飛び込んだ。

    最後、闇からの罵声が、私でも彼女でもない誰かに向いたような気がした。

  • 113◆.pitCM.Fow22/10/21(金) 21:18:13

    景色が変わる。
    闇が晴れ、武器を構える赤髪海賊団の皆が見える。
    上手くいった。彼女を助けることができた。
    そう思った。安心した。

    後ろから伸びてくる魔王の手など、気づいてもいなかった。

    私がなにか言う前に目の前のシャンクスが消えたかと思えば、
    後ろから音がした。
    振り返れば、剣を一閃するシャンクスと、崩れていく鍵盤のような腕。
    初めて後ろから危機が迫っていたことに戦慄もしたが、それより不可解なことが起きていた。

    何故シャンクスの剣が聞いた?
    何故魔王の腕は崩れた?
    両方からの攻撃ではないと無理だったのではないか?
    そう思い悩む間もなくもう一つの腕が現れ、即座に後ろのベックマンに撃ち抜かれる。
    これも同様に弾くことなく崩壊していった。

    …やがて、勢いを弱める渦から、魔王の頭が這いずり出てくる。
    シャンクスや他のものが武器を構える中、彼女が支えから外れてそちらに向かう。
    止めようと思ったが…何故か、彼女の顔を見て伸ばした手を引っ込めてしまった。
    今のあの子の目なら大丈夫だと、そう思ってしまった。

  • 114◆.pitCM.Fow22/10/21(金) 21:32:19

    ゆっくりそれの前まで歩いた彼女が膝をつく。
    ところどころ庇い切れなかったところは服が切れ、血が滲んでしまっている。
    それにも構わず、彼女が右腕を伸ばした。
    魔王が怯むのにも関わらず、その腕が伸びていき…

    ポンと、その頭の上に置かれた。

    一瞬、場の空気が固まる。
    え、と、赤髪海賊団の皆が脱力してしまっている。
    私も思わず脱力してしまいそうになってしまった。

    思わず全てが固まった空気の中、彼女が動揺し始めた。
    え?違った?と言わんばかりに辺りを見る。
    ひとまず離れるべきだと言おうとしたとき…異変が起きた。

    闇が一気に勢いを無くしていく。
    少しずつ小さくなり、闇が消えていくのに合わせて、魔王も崩れていく。
    やがて、完全に闇が消え…魔王の気配が、消え去った。
    …なんとも、あっけないような…穏やかな最期だった。

    その場の全員が息をつく、それとともに…
    彼女が、倒れた。

  • 115◆.pitCM.Fow22/10/21(金) 21:39:38

    すぐに彼女のもとに駆け寄った。
    まさか、魔王が消えたことで異変が起こったのか。
    また意識がなくなるのではないか。
    そんな不安が襲ってくる。

    彼女の顔を見れば、今にも目が閉じそうになっている。
    まだ意識はちゃんとあった。
    どうやら限りなく睡魔が酷いと言う。
    それを聞いて少し安堵した。
    どうやらただ疲労による睡眠のようだ。

    あまりに彼女にとってはショックの大きい出来事だったはずだ。
    それでも彼女は乗り越えてくれた。
    これまでの因縁を終わらせてくれたのだ。

    今は、ゆっくりと休むように伝えた。
    彼女が眠ったら、休める場所に運んで手当することにしよう。

    やがて彼女が意識を落とす直前…一言だけ、呟いた。

    誰?、と。

    (続きは後程)

  • 116二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:28:52

    魔王を止めたのは魔王の中にあったウタの心なのか

  • 117二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 06:50:51

    保守

  • 118二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 12:57:29

    もうすぐ結末か……

  • 119二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:44:56

    ほしゅ

  • 120◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 22:49:19

    翌朝、子供達は手当された私と彼女を見て酷く驚いていた。
    とりあえず森で少し作業していたと伝えておいた。
    この子達が知る必要はないだろう。

    ひとまず彼らももう少し滞在すると言ってくれている。
    あの子の様子を見たいということだ。
    私としてもありがたかった。

    一つ不安だったのは、彼女の眠る直前の発言だった。
    彼女は誰と呟いていた。
    もしかしたら、また記憶が曖昧なのかもしれない。
    このまま記憶が消えてしまうなんてこともあるのではないだろうか。
    そんな思いが巡る中、丸一日眠っていた彼女が目覚めた。

    彼女がこちらを認識し…ぎこちなく笑っておはようと言ってきた。

  • 121◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 22:56:55

    どうやら、これまでの記憶は特に異常ないらしい。
    ひとまずそのことには一安心した。
    仮に記憶がないなどということになれば、子供達も辛かっただろう。

    だが、問題もあった。
    どうやらあの一件によって、彼女はあの船での出来事を思い出したらしい。
    少しずつ、彼女がポツポツと当時のことを語り始めた。

    あの時、CPによって船が破壊工作されたとき、彼女の中の魔王が覚醒したらしい。
    破壊に便乗して脱出、対応に終わらていた船長を殺害し使い方を見たことのあった鍵を奪取、
    そのまま悪魔の実を得ようとしたが、船の沈没の際に頭を打って気絶し…
    このエレジアに流れ着いたらしい。
    その後、もう一度魔王が意識を取り戻した結果、彼女の中の魔王は己が解放されるためのウタウタの実を感知して食したらしい。

    思い出された光景を気に病む彼女をなんとか庇い立てる。
    今まで記憶がなかったのは、つまりその記憶がトットムジカのものだったからだ。
    トットムジカが消えたことで記憶が入っただけであり、
    それが自身の罪になることはないと説いた。
    この子にも、罪の意識を背負わせるわけにはいかない。

    その後、なんとか彼女なりに飲み込めたらしい。
    魔王は楽譜諸共消えた。もうあの歌で苦しむものは必要ないのだ。

  • 122◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 23:01:48

    落ち着いた彼女に、今度は私から質問をした。
    まず1つ、何故あの時、魔王が出られなかったかをわかるか。
    そし何か原因があるのだとしたら、それは能力者である彼女自身に関わるだろう。

    もう一つ、あの時誰に対して言葉を発したのか。
    私とも彼らともに面識を持った彼女は、あの時何を思って誰?と問うたのか。

    彼女は少し逡巡したあと……どちらも分からない、と言った。
    それならそれで仕方がないだろう。
    悪魔の実は不明なことも多い。
    それにあのときは意識が朦朧としていたのだ。

    ひとまず、彼女はまだ休息が必要だ。
    ゆっくり休むように伝えれば、彼女はまた眠りについた。

    彼女の机の上にある音貝を見る。
    この中には、ウタの歌が残っている。
    あの子の歌が、彼女の励みに、力になってくれたのだろう。
    もう会うことも叶わないあの子に、心の中で礼を告げ、部屋をあとにした。

  • 123◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 23:08:48

    翌日の朝、目を覚ましたとはいえまだ体力の回復しきっていない彼女のために一日休みにしたところ、
    子供達がお見舞いに彼女を訪ねたらしい。

    部屋を訪ねてみると、ベッドに身を置いたままの彼女と
    子供達がゆっくりと歌を歌っていた。
    そばには子供達が用意したのだろう花が飾られている。
    本当にいい子供達だ。

    その後、彼らも彼女の元を訪ねに来た。
    一応ホンゴウが診ても、やはり異常はないらしい。
    その結果に皆が安堵の表情を見せる。
    彼らが来るまで楽譜を処分しなくて正解だっただろう。
    仮に一人で処分し、あの事件が発生していたら…私一人では、彼女も子供も助けられなかった。

    その後、ゆっくりと一日は過ぎていき…皆が眠った頃。
    少しシャンクスと今後のことを話した。
    彼女が完全に回復して教室に復帰したのを確認し次第、
    彼らは新世界に戻るそうだ。
    また子供達にとっては寂しくなるだろうが、いつかまた来ると約束もしてくれた。

    その後シャンクスが仲間の元に戻り、私も最後に一度見回りの準備をしていたときだった。

    電伝虫が突如泣き始めた。
    今、万が一のときのために子供達や彼女、赤髪海賊団の者達が使っている部屋には
    一匹電伝虫を用意していた。
    この時間になんの連絡だろうか。
    もしや何かあったのだろうか。
    そう思い、慌てて電伝虫を手に取った。

  • 124◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 23:13:30

    ───────

    ………何も聞こえない。
    少しして、がちゃりと電伝虫が目を閉じる。
    なんの用件もないということは、もしかしたら間違えてしまったのかもしれない。
    だが万が一もある。もしかしたら部屋で何かあったのかもしれない。
    そう思い、急いでランプを手に見回りに向かった。

    最初に向かったのは彼女の部屋だ。
    あの子の部屋は前の持ち主の関係上、私の部屋と距離はあまりない。
    「あの子」が寂しくないよう、比較的近くの使える部屋を用意したからだった。

    廊下から部屋の光が漏れているのが分かる。
    消し忘れたのだろうか。
    それとも起きているのだろうか。
    仮に起きているなら、電伝虫をかけてきたのはやはりこの子なのかもしれない。

    部屋の扉の前でノックをし、中に問いかけてみる。
    …返事がない。
    寝ているのか、または何かあったのか。
    何かとはなんだ?
    この島にこそ泥するような人間などいない。
    まさか何か異変があったのか。
    失礼を承知で、鍵のかかっていない扉を開け…



    …私は、目を疑った。

  • 125◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 23:16:52

    部屋の主は、確かに起きていた。
    目の前で、姿見の前で踊りの振り付けを考えるかのように腕を振っている。
    やがて「彼女」が、こちらをゆっくりと向いた。
    私を見たその顔が、少し硬さを感じる笑顔になる。


    何故。
    何故彼女がここにいる。
    何故この部屋にその姿がある。


    「………ウタ…」

    私の目の前、その部屋に立っていたのは…
    かつてのこの部屋の主、ウタだった。

    (続きは後程、そろそろ完結します)

  • 126二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 23:22:09

    ウタさん……!?

  • 127二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 23:23:00

    魔王にバックアップがあったとか?

  • 128◆.pitCM.Fow22/10/22(土) 23:31:02

    郢ァ?ヲ郢ァ?ソ
    闔臥ソォ?闔??。邵コ蝣コ?ク荵滄?邵コ?ョ雎∵ぁ?ァ?ォ邵コ?ォ邵コ蜉ア窶サ隘搾ス、鬯ョ?ェ雎ャ?キ髮蛾宦螻ョ鬮サ?ウ隶鯉スス陞ウ?カ邵イ
    陟厄スシ陞ゑスウ邵コ?ョ鬯イ繧?邵イ竏オ?ュ?サ陟墓「ァ逵?邵コ貅倪?陞サ???エ隰?邵コ?ィ隴?スー邵コ貅倪?陷ソ荵晢ス定?募干窶サ遯カ?ヲ
    邵コ譏エ??邵コ?ヲ邵イ竏晢スス?シ陞ゑスウ邵コ?ョ雎∝セ鯉ス帝け蜷カ??蔓??陷?竊鍋クコ貅倪?郢ァ鬘疲昆邵コ?窶サ邵コ?ソ邵コ蟶吮螺邵イ
    闔蛾?大セ狗ケァ繧?スス?シ陞ゑスウ邵コ?ョ闕ウ?ュ邵コ?ァ邵イ竏壹∴郢ァ?ソ邵コ?ッ邵コ荵昶命邵コ?ヲ髫ア阮呻シ樒クコ?ョ隴ォ諛岩螺邵コ霈費ス檎クコ貊鍋悛隴弱f?サ?」郢ァ螳夲スヲ蜿・?ョ蛹サ笆イ邵コ?ヲ邵コ??狗クイ

  • 129二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 23:47:45

    ひえっ

  • 130二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 23:50:05

    うわぁ!急にホラーになるな!

  • 131二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 08:22:27

    文字化け保守

  • 132◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 12:18:01

    「…えーと…」
    彼女が困ったように笑いながら言葉を探しているのを、私は呆然と見ていた。
    信じられなかった。
    何故彼女がここにいる。
    ひょっとしたら昔の夢でも見てるのかと思ったが、ウタの様子を見る限りではそうでもないようだ。

    「…久しぶり、だね」
    「…ああ、そうだな」

    つい、当たり障りのない挨拶をしてしまう。

    「よっ…とりあえずここ座って…せっかくだし少し話そ?」
    そう言ってベッドに腰掛けるウタの隣を失礼する。

    「…最近どう、元気?」
    「…ああ、特に問題ない」

    「今はなにやってるの?」
    「また新しく子供達を集って音楽を教えている」

    「新しい子達はどう?歌が好き?」
    「ああ、君の歌も好んで歌っているよ」

    「シャンクス達はどう?元気にしてる?」
    「ああ、つい先日も助けてもらった」

    そんな会話がポツポツと続き…やがてウタが顔を下げる。
    「…ごめんね、全部知ってるのにわざわざこんな…」
    「…今、君はどうしている?」 
    なんとなくの予感はあるが、それでも聞きたくなった。

  • 133◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 12:26:28

    「…私は大丈夫…新しい友達も出来たんだよ…こうやって会えたのもあいつのおかげ」
    「…そうか…それなら良かった」

    彼女が旅立ってなお一人なら不憫だったが…一人でないのなら、少し安心できた。

    「でも、もうすぐ帰らないとだから…最後に会いたかったんだよ、ゴードンと」
    「…シャンクス達とはいいのか?」
    彼女にとっては、家族同然の存在のはずだ。

    「…うん、シャンクスなルフィには前にもう伝えられたから…ゴードンとも、話したかったし」
    そう言うと、彼女はこちらに向き直った。

    「…ごめんね、結局何も返せなくて」
    そう言って歌が頭を下げるのを上げさせる。

    「謝るのはこちらだろう…そばにいながら、君により添えなかった」
    もし何か違えば、彼女は今もここにいただろう。
    きっとシャンクス達とも和解できた、幼馴染との別れがあのような形になることもなかった。
    私の臆病さが、彼女を殺したようなものだった。

  • 134◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 12:35:50

    「…ありがとう、ゴードン」
    彼女が寂しげに笑う。

    「ゴードンのおかげで12年間生きてこれたし…ずっと歌は上手くなれた…最期まで、ほとんどその恩を返せなかったけど、ほんとうに感謝してるんだよ?」

    返してないなどととんでもなかった。
    私にとっては、むしろ彼女から多くのものを奪ってしまったというのに。
    彼女が成長し、明るさを取り戻していただけで十分だったのに。

    「……そろそろ行かないと」
    そう言って彼女が立ち上がる。
    どうやら時間のようだ。

    「…一つ、約束してくれない?」
    「…なんだ?」
    彼女が最後にこちらを振り向く。

    「…「あの子」、凄く歌が好きなんだ…だから、私に負けないくらい、凄い歌い手にしてあげてね!!」
    ウタの言う「あの子」が誰かなど、考える必要もなかった。

    「…約束しよう…元エレジア国王ゴードン、必ずあの子を世界一の歌い手に育て上げる」
    いつか言った言葉をもう一度告げれば、あの子は静かに笑った。

    「…今までありがとう、ゴードン……大好きだよ」


    「さよなら」

  • 135◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 12:40:17

    ─────

    目が覚める。
    いつの間にかベッドに入っていたのだろう。
    カーテンの開かれている窓からは、陽の光が差し込んでいる。
    随分寝てしまっていたようだ。
    もう子供達も起きてしまっているかもしれない。
    すぐに朝食を用意しなければならないと思い起き上がると、
    扉が開かれた。
    その向こうには、シャンクスと彼女がいる。

    「起きてるな…既に朝食ならルウが用意してくれた、ゆっくり来てくれ」
    そう言ってシャンクスが去っていく。
    ○○○はしばらく口を開いては閉じ…やがて謝罪を一言残してシャンクスの後を追った。

    私も起き上がり着替え食堂に向かう。

    机の上には受話器の取られたままの電伝虫と…どこからか入り込んだニ枚の羽があった。

  • 136◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 12:48:58

    〜〜〜〜
    彼らが島を訪れ、再び出航してからしばらく立った。

    あれからここに来る子供が増え、最初の子供達は先輩となった。
    私一人では回らなくなり、数名音楽が出来るものと家事が出来るものにも来てもらった。
    彼女は教室に生徒として参加しつつも、ときには子供達に歌を教えることも始めている。
    人見知りな彼女だが、子供達相手ならやはり緩和されているようだ。
    しかし、まだ彼女が世界に歌を解き放つのは先になるだろう。

    そんな少し人の増えたエレジアに今日、また海賊の客人が訪れることとなっていた。
    先日、新聞で世界をにぎわせた海賊達だ。
    二度目の偉業を成し遂げた彼らは、新たな異名を得ている。

    水平線に海賊船が見える。
    港で皆とそれを迎える準備をする。
    彼女は相変わらず後ろに隠れてしまっているが、きっとすぐに慣れるだろう。
    何より彼女自身も、この人のために「あの子」の歌をさらに磨いていたのだから。

    船影がエレジアに近づく。
    「あの子」が「新時代」を誓った麦わら帽子を被った海賊旗が、
    雲一つない空に靡いていた。

    fin

  • 137二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 12:50:19

    おつ
    救いがあってよかった

  • 138◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 12:52:49

    お付き合いいただきありがとうございました。
    イラスト力が欲しいと切実に願う今日このごろ。
    丸いものを描いたはずなのになんだかせんべいみたいになってしまいました。
    絵師の世界ってワンダーランド…
    皆も幸薄なゴードンさんのSSを書こう


    このあと少しオマケとネタ帳更新あります

  • 139二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 12:53:29

    🍢🎨 🐉👍
    🍲 
    🔥

  • 140二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 12:53:42
  • 141◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 13:00:37

    ・ゴードン

    エレジア後立ち直って新しく子供に歌を教え始めた人。

    アクシデントはあったが無事魔王との因縁を終わらせられた。

    あとお子様ランチの料理スキルがやたら上がった。


    ・シャンクス

    エレジアを縄張りにした四皇。

    ずっと探していた娘の形見を娘と同じ歌声の子が食べたと聞いてひっくり返りそうになった。

    エレジアでウタの歌が人気で出航後無事に泣き酒した。


    ・○○○

    エレジアに流れ着いた合成人間。

    ゴードンと子供達によって名付けられ教室に加わった。

    政府に魔王にと振り回された青春だったが、それを打ち消す勢いでエレジアでの時間を過ごしている。

    人見知りは相変わらずなので収納庫は第二の部屋。

    誰かを思い出す?なんのことやら(すっとぼけ)


    ・トットムジカ

    倒され消えた魔王…のはずだったが、

    自分を2度も呼び出したやつの血が混じった器が

    自分の歌を聞いていたのを感知して意地汚く入り込んだ。

    その後ウタウタの実を食すことで今後こそ顕現しようとしたり

    楽譜を燃やされあとがなくなり咄嗟に呼び出させようとした。

    誤算が何かというのなら、意外なところに邪魔者がいたことだろう。


    ・繧ヲ繧ソ

    莉翫?莠。縺堺ク也阜縺ョ豁悟ァォ縺ォ縺励※襍、鬮ェ豬キ雉雁屮髻ウ讌ス螳カ縲

    蠖シ螂ウ縺ョ鬲ゅ?縲∵ュサ蠕梧眠縺溘↑螻??エ謇?縺ィ譁ー縺溘↑蜿九r蠕励※窶ヲ

    縺昴@縺ヲ縲∝スシ螂ウ縺ョ豁後r邯吶$閠??蜈?↓縺溘←繧顔捩縺?※縺ソ縺帙縲

    莉頑律繧ょスシ螂ウ縺ョ荳ュ縺ァ縲√え繧ソ縺ッ縺九▽縺ヲ隱薙>縺ョ譫懊縺輔l縺滓眠譎ゆサ」繧定ヲ句ョ医▲縺ヲ縺?k縲

  • 142◆.pitCM.Fow22/10/23(日) 13:04:12

    ネタメモ

    ゴードンの手記(中)…済
    ウタinアニマルワールド(中)…next

    安価学園ウタラジオ(短)

    ルフィがウタに遭う話(中)

    (ウタ日記(中?))

    (UTA last Live(中))

    CH???????DE(長)

    それではまたお会いしましょう
    by一般ラインハルト

  • 143二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 17:25:45

    めちゃくちゃ面白かった。素晴らしいSSをありがとう、語り継がれる……🍢

  • 144二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 18:19:56

    お疲れ様です

  • 145二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 18:31:24

    お疲れ様でした

  • 146二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 23:45:45

    更新ないなと思ったら完結してた…乙

  • 147二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 23:49:10

    オマケの文字化け翻訳してみた
    ウタ

    今�?亡き世界の歌姫にして赤髪海賊団音楽家�

    彼女の魂�?、死後新たな�??��?と新たな友を得て…

    そして、彼女の歌を継ぐ�??�?��たどり着�?��みせ��

    今日も彼女の中で、ウタはかつて誓いの果�された新時代を見守って�?���

  • 148二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 23:56:25

    やっぱり合成人間の中にウタの心が残っていてそれを通してルフィが作った新時代を見届けたのかな

  • 149二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 00:04:21

    ウタ

    今は亡き世界の歌姫にして赤髪海賊団音楽家

    彼女の魂は、死後新たな???と新たな友を得て…

    そして、彼女の歌を継ぐ???たどり着???みせ??

    今日も彼女の中で、ウタはかつて誓いの果たされた新時代を見守っている

  • 150二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 08:05:55

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:35:28

    保守

  • 152二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:26:14

    新たな何だろ?

オススメ

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