【SS】ハロウィンの欲張りお化け

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:36:06

    「焼きたてパンプキンケーキだよ〜!みんな食べてってね〜!」

    「ヒシアケボノ特製ハロウィンケーキでーす!ぜひ食べていってくださーい!」

    ブンブン手を振るアケボノに負けじと声を張り上げる。聖蹄祭のむせるような人混み、こうでもしなければ呼び掛けもかき消されてしまうだろう。
    プラスチックのケースを何箱にも重ね、甘い香りと共に練り歩くアケボノは、いつもと装いを異にしている。
    黒を基調に深緑をアクセントに添えたドレス、腕には包帯、そして最も目を引くのは、頭に突き刺さったように生えている、大きなネジ……の飾り物。
    フランケンシュタインの怪物、そのコスプレである。
    もっと可愛いキャラのモチーフでもいいのでは?と提案もしたのだが、

    『あたしのおっきい体を目いっぱい使いたいんだ♪』

    と曇りなき笑顔。アケボノが満足なら、それ以上何も言うまい。
    という訳で、外部からも人が集まるこの機会、アケボノにその自慢の腕を振るわないという選択肢は無かった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:36:36

    「ひとつ下さい!」「こっちには3つ人数分!」「私もひとつお願いしまーす!」

    「押さないで〜!ちゃんとたくさん作ってあるから大丈夫だよ〜♪」

    こっちは今にも押しつぶされそうで喘いでいるというのに、アケボノは笑顔を絶やさない。
    無理している様子は全くなく、寧ろアケボノとしてはどんと来いなんて心持ちなんだろう。
    作る料理は大きく、ならばそれを食べる者だって沢山いた方が良い。
    押し寄せる団体様もそのビッグな心と体で受け止める、アケボノの本領発揮だ。

    文字通り山のように作っていたらしい在庫が、異次元の速度で消費されていくのはマジックでも見ているようだった。
    まさか祭りの閉式を前に完売するとは。

    「ひぃ、ひぃ……終わった……」

    「アハハ、お疲れ様〜。ありがとうトレーナーさん」

    地べたに座り込む。余りが出なかったのはもちろん良い事なのだけど、あの量を捌ききるのは流石に……疲労困憊にもなる。

    「アケボノは……まだ元気みたいだね」

    「山登りに比べたらお茶の子さいさいだよ〜!それに、美味しいってたくさんの人が喜んでくれるから、疲れも吹っ飛んじゃう♪」

    そう言い巨体を揺らし、喜びを全身でビッグに表現する。アケボノにとっては、料理の感想が何よりの元気の源だ。

    「お部屋で休もう?運んだげるから、背中で休んでてね〜♪」

    激務直後、いつもより少しだけ火照り湿ったアケボノの背中に縋り、情けなくもトレーナー室までおぶってもらうのだった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:37:08

    部屋に戻ってきてしまえば喧騒もはるか遠くに聞こえ、安堵と少しの寂しさを感じる。

    「お祭りは規模もおっきくて楽しいけど、ゆっくり休む時間も必要だねえ……」

    「うん、そうだね……んっ、あの、そろそろ降ろしてくれてもいいんだけど?」

    何故か戻ってきてもアケボノのおんぶから解放されない。ゴソゴソ動いてはみるものの彼女のパワーは桁違い、離れることは不可能と悟った。未だに背の熱を未だに感じたまま。

    「しょうがないなあ、わかったよ♪んしょっ……」

    仕方なくお願いすると特に抵抗されることも無くするりと背中から降ろしてもらえた━━━━アケボノの、膝の上に。
    しかも椅子に腰かけたアケボノと、向かい合わせになる形。普段は見上げてばかりの顔が、今は目前にあった。

    「……これは?」

    「トレーナーさん……今日は、ハロウィンだよ?」

    いつもと変わらないはずの笑顔。この刻だけはどこか獲物を狙う肉食動物のそれに見えたのは、仮装のせいだろうか。
    背中に回された腕がぐっと二人の体を引き合せる。

    「……トリック、オア、トリート♪」

    鼻先がつきそうな程の距離、アケボノの口が囁いた。
    かかる吐息は温く甘く、艷めく唇の奥、鋭く尖った歯が輝く。
    あれだけ作ったお菓子は今や全て捌けてしまった。そして、アケボノの体の内、逃れられる術は無い。
    つまり、僕は取れる選択肢は━━━━

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:37:45

    「はい、トリートで頼むよ」

    「……えっ、あれっ?」

    内ポケットから袋を取り出し手渡した。アケボノはその中身をまじまじと見つめる。

    「これ、かぼちゃクッキー……トレーナーさんが作ったの?」

    「あんまりじっと見ないで欲しいかな。ぶさいくな出来だし……」

    せっかくの機会、アケボノにお菓子のお返しでもと思い立ったものの……彼女の手を借りずに作るのがこんなにも大変だとは思わなかった。一応食べられる完成度までは持ってきたものの……パンプキンの顔はガタガタになってしまった。

    「ふふっ♪このパンプキンさん、変な顔〜♪」

    「味も……アケボノに比べたら━━━」

    「そんなことないよトレーナーさん!もう分かっちゃうんだ……このクッキー、絶対ボーノだって♪」

    そう愛おしそうにクッキーを胸に抱かれては、こっちまで恥ずかしくなってくる。今更になってこの体勢が危ない絵面なことにも気が向いてしまい……顔が熱くなってきた。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:38:18

    「開けちゃうね……うん、いい匂い!」

    「喜んでくれたなら嬉しい」

    「えへへ♪お菓子もほんとに嬉しいけど……あたしね、欲張りさんだから。どっちも欲しくなってきちゃった」

    「……どっちも、って?」

    上目遣いで語りかけてくるアケボノは、いつもと違う同じ目線だからこその新鮮さを感じられる。そして彼女はクッキーを口へ運び━━━

    「それはもちろん……お菓子と、イタズラ♪━━━んっ♪」

    咥えたそれを食べることはせず、そのまま突き出してきた。つまりは……トリックとトリートの、いいとこ取り。
    甘美なクッキーの香りに頭が揺さぶられ━━━理性が体を縛る。顔を遠ざけようとして、また引き戻される。

    「……んっ♪」

    「わ、わかった……1回だけね……?」

    これはもう首を縦に振らない限りは離してくれない。
    これはハロウィンの無礼講だ、そう見てもいない誰かに言い訳をして……顔を近づけていく。
    クッキーはどこかの細長いお菓子みたく、その隔に余裕は全くない。
    クッキーの端に歯が当たる。アケボノの鼻息も当たる。半分こにはまだ足りない。表面をなぞるように、慎重に……慎重に……。
    心拍数は最高潮で、汗も流れてくる。既に身体は完全にくっついていしまっているけど、そこまで気は回らなかった。
    時間が止まったかのような静寂。今やクッキーを挟んだ2人の口には、幾許の隙間が残っているのだろうか。
    ……これ以上は無理だ。震える顎でクッキーに歯を立て━━━

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:39:00

    ━━━ガタンッ!

    『━━━でさー!まじびびったってか、アハハ!!』

    突如として静寂を破る、廊下を通り抜けた知らない誰かの声。
    やがて声は遠ざかり、消えていく。
    ……心臓が止まるかと思った。
    気づけば、クッキーは真っ二つ。
    まん丸に目を見開いたアケボノと視線がぶつかる。
    お互いに何も言えず……それは、まるで今の瞬間起こった『事故』をどうしようか、考えあぐねているみたいで。

    「クッキー……美味しい?」

    「うん、ありがと、トレーナーさん……」

    戸惑う笑顔でアケボノの視線が逸れる。
    さっきよりも頬が赤いのは気のせいか、それとも……。
    とにかく口元を誤魔化そうと、割れたクッキーを噛み砕いた。
    なぜだか味見した時より、それはもっと甘い味がした。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 22:40:53
  • 8二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:14:39

    ハアアアアアア~~~~~~~ボーノ好きいいいいいい!!!!!!

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:16:19

    ハロウィンネタなあ…
    せっかくだし何か書きたいな書きたいなと思うけど浮かばない一方だからこの甘さを参考にしていくか…!

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています