少し思い出してもらう話

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:44:33

    それは今よりも昔の話。ちょっと思い出してもらうだけの話。
    小学生の間での人気者といえばかっこよさよりも運動神経がいい子がかっこいいという謎の風潮が低学年の間には存在する。そういう意味で言えばウマ娘はもうヒーローだった。同じ年代の男の子よりはるかに駆けっこが早くそして力も相当な力持ちときてなおかつ見た目もよいとなればクラスのアイドル間違いなしだ。やがて年齢を重ねていくことでウマ娘の間にあるその圧倒的な力差を思い知ることになり自然とそのアイドル性は消えていく。
    ツインターボは昔からクラスでの駆けっこは一位だった。同級生の中にウマ娘は何人かいたが小学生程度のころでは皆が本格化をしていなかったため自力の高かったツインターボはいつもかけっこで最初から最後まで先頭だった。先頭で走りきるといつも友達は褒めてくれて彼女の中でいつの間にか先頭で走ることはとてもかっこいいこととイコールになっていた。しかしそんなターボでも勝てない人がいた。

    「…今日こそはターボが勝つ!!」
    「また今日も来たんだね」

    それはターボよりも年上のウマ娘。おそらく年齢は高校生くらいだろう。ターボは普通ならば怯えてしまう程度の年齢差にも物おじせずにそのウマ娘に挑んでいく。
    「いいよ、走ろうか。ゴールはそうだね…今日はマイルを走ろうか」
    「どこでも絶対勝つのはターボだよ!!」

    そして少女が投げたコイントスが用意ドンの合図となりターボも少女も駆けだした。もっともここで行われているレースなんて結構お遊びに近い。本気のウマ娘たちがしのぎを削るレースに比べたら児戯に等しいものだ。けれどもターボはそんなことは関係ないと全速力で駆け抜ける。息も入れずただ前へ前へと前へ進むだけにひたすらにがむしゃらに走る。走法も呼吸も何もかもがなっていない走りで。

    相手の少女はあっという間にターボの前に立ち、そしてそのまま差を広げあっという間に勝ってしまった。何バ身開いているか数えるのかくらい残酷的なほどの差だ。ようやくターボもゴールした。しかし走り終えた時には彼女は息も絶え絶えで今にも死にそうだ。少女は走り抜けた後でも涼しい顔でターボを気遣っていた。

    「ほら水飲みな」
    「ぜ…ぜ…また…負けた…」

     

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:47:02

    今にも死にそうなターボはまた負けたことに対して実に悔しい気持ちを表す。こうして負けたのはもう両手で数えても足りないほどだ。それでも懲りずに挑んでくるその根性に少女はどこか関心すらしていた。

    「どうしてターボはいつも勝てないの?」
    「そりゃあね、私とキミじゃ本格化しているかしていないかの差はあるしね」
    「でもやっぱりヤダ!ターボはずっと最初から最後まで先頭がいいの!」
    「…そうか、キミはそういう理由で『逃げ』てるんだね」

    少女の表情が少し暗くなったことでターボは少女が何か落ち込んでいるかと察した。だがそのきょとんした表情を見て少女はターボに笑って否定した。

    「ねぇキミはさ本物のトゥインクルシリーズのレースを見たことある?」
    「…ある」

    うんとうなずくターボ、少女は何かを思い出すかのように語りだした。

    「本物のレースはね。出場しているウマ娘全員が勝ちたいと願って走ってるんだ。それはもちろんこういう併走でも変わらないんだろうけどレースはもっと熱気が違う。気迫…実に鬼気迫る気迫が怖いとすら感じることもある」
    「怖い?レースが怖い?」
    「うん、そうだね。怖い。だから私は逃げることにしたんだ。そういうギラギラした想い、気迫…そしてウマ娘自身からね。それが功を奏したか仇をなしたか、私はレースで勝つことができてしまった。レースの王道クラシックでいくつかの大きいレースに勝っちゃってね。でもその罰が当たったのかな、私は一度走れなくなっちゃった」
    「…走れなくなったの?」
    「そう。足にケガをしたんだ。それでレースを引退せざるを得なくなった。今はリハビリのおかげでキミと並走するくらいならば許されてるけれど私はもうあの人々が熱狂する舞台で走れることはなくなった」
    「…さびしくないの?」
    「ある意味罰かなと思ってるんだ。私はウマ娘たちの真剣な思いが怖くなり逃げてきたその罰だって」

    少女は自罰的に自嘲した。そういう意味をまだ幼いターボが理解できるわけがなかった。

    「キミの逃げは貪欲な逃げだよ、絶対に先頭を譲り渡さないというそういう執念すら感じる良い逃げだ。ターボ、キミはそうやってずっとかっこよく逃げててね、応援してるよ」
    「…当たり前だもん!ターボはね、ずっと最初から最後までずっと全力で一位になるんだから!」

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:47:12

    あの日からの約束はターボの中にずっと残っている。最初から最後まで我武者羅に駆け出しそして一位でゴールする。正直言ってそれは難しい。ツインターボの逃げは世間では『破滅逃げ』と呼べるほどの無謀な逃げだった。だがターボにとってその逃げはそれだけ意味がある。誓いだったのだ。

    そしてツインターボはその誓いに背くことを決めた。

    今まで全力で走れば負けることはないとそう思っていた。だがそれでも負けていたことは多々あった。勝ちきれないことで悔しい思いをしたのは一度や二度ではない。だが諦めなかった。諦めないことが大事だと教わったからだ。だがそれじゃあ今回はダメだった。絶対に勝たなければならない。特にライスシャワーには。勝って見せつけなければならなかった。一度も走ったこともない、一度も勝負の約束を果たせなかった終生のライバルに。勝負の舞台から降りようとしている帝王に見せつける必要があった。

     

    『さぁツインターボだけが!ツインターボだけが!第四コーナーのカーブに入ってきました!!』

     ───ここまで全速力は避けてきた…全員見事に騙されたな!…このターボに!!

    誓いを破ってしまって申し訳ない気持ちもある。だが、それでもその約束を踏み越えてでもここで帝王に退場されるわけにはいかない。
    最後まで…あとは根性で走り切る!!
    残っている余力、微々たるものだ。結局頼れるものは残った己の気力だけだ。だが十分だ、その時ツインターボの背中を追い越せるものはいなかった。そしてツインターボは心の底から叫ぶ。

    「これが諦めないってことだ──!!!」

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:51:35

    初SSでした、お目汚し失礼しました

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:52:08

    熱いターボ師匠好き

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/14(金) 23:55:41

    この少女もしかしてカブラヤ…

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 00:07:09

    >>6

    お前は知りすぎた

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 03:29:43

    このレスは削除されています

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 03:35:56

    >>6

    あの子どちらかと言わずともターボ寄りだよね

    スタミナがずば抜けてるだけで

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 05:46:15

    ターボSS初めて見たかも 良かったです

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 07:08:59

    ターボに…欺かれたーッ!

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/15(土) 10:26:57

    バ群恐怖症…クラシック勝ち…逃げ…あっふーん

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