- 1二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:35:00
- 2二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:35:48
シービー キャンプ
- 3二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:37:35
フラッシュ トレーナーとデート
- 4二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:38:22
ファインモーション ラストラン
- 5二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:39:26
シンボリルドルフ ダサT
- 6二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:39:29
ブライアン 同棲
- 7二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:39:31
ツルマルツヨシ 食事
- 8二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:41:26
サトノダイヤモンド 名手
- 9二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:43:54
スペ 信玄餅
- 10二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:44:45
「ね、たまには悪くないでしょ」
担当ウマ娘のミスターシービーに誘われ、僕と彼女はキャンプにやってきていた。府中ではどれだけ暗くても見えない量の星が空を覆いつくすほどに明るく、遠く輝いていた。
「悪くないね」と僕は答えた。
キャンプ用品はほとんど彼女が持っていたもので間に合ったし、僕がやったことといえば自分の分のテントを買ったくらいだ。普段動かさない筋肉を動かしたせいで全身が強張ってしまって、まだ日が落ちてからそれほど時間が経っていないというのに、僕は眠気に襲われていた。
「もう寝ようかな」
「もう? 早いね」
「ああ、山登ってテント立てたからね。疲れちゃって」
「いっそのこと同じテントで寝るかい?」と彼女は茶化すように言った。
「問題が多すぎる。バレたら首が飛ぶ」
「アタシは心配しているんだよ、ミスター・トレーナー。見張っていなきゃ、起きてトレーニングを考えるんじゃないかと思うんだ」
「幸いなことに」と僕は答える。「山奥で電波が届かないから、寝るしかない」
「はは、そうだね。じゃあ安心だ」
僕らは挨拶を交わして互いのテントに戻った。寝袋に入りながら、彼女が突然に──半ば強引に──キャンプに誘ってきたことについて考えていた。やれやれ、と僕は思った。僕が彼女を見ているように、彼女もまた僕を見ていたのだ。
- 11二次元好きの匿名さん22/10/17(月) 23:57:46
「サンタクロースは元気でしょうか」
クリスマスを再来週に控えた月曜日のトレーニング後のことだった。俺の担当ウマ娘のエイシンフラッシュは唐突にそんなことを言った。それは俺に向けた言葉というよりも、窓の外に向けた呟きと言ったほうが正しい。
「サンタクロース?」
「はい、ドイツにいとこがいるんです。まだ幼いですから、サンタクロースが訪れるはずです」
「へぇ、フラッシュが小さい頃はどんなものを貰ったの?」
「……ぬいぐるみなどです」
「ぬいぐるみ」と俺は繰り返した。幼い彼女がぬいぐるみを貰って喜んでいる様子を想像すると、自然と口角が上がった。
「しかし、いとこの家はあまり裕福ではなく、サンタクロースにしっかりと手紙を送れたでしょうか」
「なるほどね」
つまり彼女は、家庭的な事情でいとこの家にはクリスマスプレゼントが用意できないのではないか、と心配しているのだ。
「じゃあフラッシュがサンタクロースになろう」
「えっ」と彼女は目を丸くしてこちらを振り向いた。
「二週間もあればドイツまででも十分に届けられる」
「なるほど……分かりました」
「そうだ、俺がフラッシュのサンタクロースになろうか」
「……魅力的な提案ですが、お断りします。代わりに、一緒にいとこへのプレゼントを選んでくれませんか?」
「フラッシュがそれでいいなら、俺はいいよ」
「はい、デートをプレゼントとします」
「でもそのデートはクリスマスイヴの夜じゃない。前倒しのプレゼントになっちゃうな」
「いいんです。一番大切な予定に合わせているのですから」
- 12二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 00:13:31
「アイルランド王室の廊下で走ったりなんかしたらさ、大目玉だよ」
「あはは! 大目玉で済むといいね」ファインモーションは笑いながら言った。
三年間の契約を終え、ラストランまで走り切った彼女は、明日アイルランド行きの飛行機に乗る予定だ。飛行機を降りれば彼女はアイルランドの王族として扱われ、いずれは王妃になる。もうこうして話す機会はなくなり、走ることも無くなるのだ。
「王室の暮らしなんて退屈だよ」と出会ったばかりの彼女が言っていた。「走ると服が汚れるからダメって。スロウに生きることを強制されるの」
「ファインが大人しくなるなら、それはそれで」
「むー! 私だって時と場所を選んではしゃいでるんだよ」そう言うと、ひと呼吸おいて再びゆっくりと話し始めた。「たまには立場も何もかも全部忘れて、誰かとはしゃぎたいな」
僕は再び今の彼女を見る。初めて会った時よりも少し背が伸びて、髪が伸びて、──担当トレーナーという立場で言うのは憚られることだけれど──顔つきが女性的になり、纏う空気はしん、と染み込んだ冬の寒さのようになっていた。
「ねぇ、トレーナー」と彼女は言った。「走ろう?」
僕は彼女と共にターフに出た。帰寮時間を過ぎたターフを特別に貸し出して貰ったから、彼女の他に誰もいなかった。念入りにアップを済ませて、巨大なライトで照らされたターフを彼女は駆け出した。少しづつ速度を上げて、最後には全速で脚を回した。初めて彼女の走りを見たような感じだった。三年前の春に見た、美しい走り姿の彼女がそこにいるのだ。彼女の本質は何も変わらないまま、より美しくしなやかに強くなっていた。
この美しい走りが、今日限りで失われてしまうことが悔しかった。しかしいくら悔やんでも仕方のないことだ、と僕は思う。運命が邪魔をして、単純な美しさを複雑なもので隠してしまっているのだ。僕は彼女の走りを目に焼き付けた。それを最後に、もう走る彼女は失われてしまった。
- 13二次元好きの匿名さん22/10/18(火) 00:14:22
ちょっと疲れちゃったのでやめます……リクエストくれた方々ありがとうございました。過半数書けなくて申し訳ない