ヤマニンゼファー、ありがとうございました。

  • 1◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:37:51

     昨夜放送された『LOVEだっち』の最終回。架空の高校を舞台にしたウマ娘たちの青春ドラマだけれど、そのラストシーンがその……非常に……。
     と、とにかく。見ている子が多いドラマだったこともあってか、放送された翌日である今日はその話で持ち切り。
     アタシのクラスどころの騒ぎじゃなくて、学園中みたいなのが流石と言うか。まあ娯楽室のテレビで皆一緒に見る訳だから当然と言えば当然だとは思う。
     かくいうアタシも見たうちの一人。タイキは無差別にやってくるし、スズカも興味本位でやってくるしで朝から大変だった。
     まあタイキはそもそもよく抱き着いてくるし、スズカはスズカで走る方が気持ちいいという結論になったみたいだけど。スズカはアタシの純情を返して欲しい。
     という訳でそんな色めきだった一日もHRが終わり、各自練習に行ったり遊びに行ったりで学園の雰囲気は少しは元に戻ると思う。
     アタシの今日の予定は……トレーナーと映画館。練習続きだったし息抜きしよう、とのことで。トレーナーを迎えに行くべくトレーナー室へと赴く。

    「トレーナー? 来たよー?」
    「は~い、ちょっと待ってて。」

     返事がして程なくしてからトレーナー室の扉が開けられる。

    「中に入って待っててくれる? 5分くらいでキリの良いところまで片付きそうだから」
    「分かった」

     適当にウマスタグラムの更新を見ながら仕事が終わるのを待っていると唐突に話題が振られる。

    「なあ、ドーベル。ドーベルは見てたのか?」
    「? 何を?」
    「あれ、昨日最終回があったドラマ」
    「あ~、『LOVEだっち』のこと?」
    「そう、それ!」

  • 2◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:38:06

     トレーナーも見てたのかな? いや……トレーナーが好むタイプのドラマではないでしょ。

    「それがどうかしたの?」
    「いや、今日ウマ娘たちがそこかしこでその話をしてるなぁ、と思ってさ」
    「なるほどね。アタシもクラスはその話で持ち切りだった」
    「へ~、そっか」

     まあ確かに生徒たちがこぞって話題に挙げてたら気にもなるか。

    「何? アンタも見てたから感想を語り合いたい、とかそういう?」
    「いや、見てない。というか普段見れないよ。だってその時間まで仕事して……。あ、やべ」

     ……全く。トレーナーってば……。

    「その時間まで、何?」
    「いや~、俺は普段別の番組付けててさ! あはははははは! あははは……はは……」

     アタシの眼光に、言い逃れ出来ないと悟ったのか、トレーナーの空笑いが徐々に勢いを失くしていく。

    「はぁ……程々にしてよね? 倒れられたら困るんだから」
    「あ、うん」

     まあ、そんな事は今更の話ではある。良くはないし、出来ればやめてほしいんだけど。
     かと言ってアタシの為でもあるから強くは出にくい。無理だけはしないで貰えたら、それで。

    「まあ、いいや。それで? 何か聞きたい事があるの?」
    「ああ、いや。最終回だったから話題になるのは分かるんだけどさ。何か劇的なシーンでもあったのかな、って。別に盗み聞きしてた訳じゃないから詳しくは知らないでさ」

  • 3◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:38:16

     なんとなく事情は理解した。校内を歩いている時に会話が聞こえてきて断片的にどんな話なのかは分かった。
     でもここまで話題になってるその一番の理由を知らないから気になって仕方ない、という事なのだと思う。
     見てなかったみたいだから無理もないけど。

    「だからアタシからどんな最終回だったか聞こうと思った、って事でいいの?」
    「そういう事。話が早くて助かるよ」

     なるほど。そういう事なら別に話さない理由もないし、話してる間にトレーナーも仕事を終わらせてくれるでしょ。
     簡単なこれまでのあらすじを話しつつ、最終回の大まかなストーリーを話す。

    「それでラストシーンでね」

     ……いざ自分が言おうと思うと中々に恥ずかしい。けれどこの部分を話さない事には今日の学園の様子は説明できない。
     腹を括り、少し頬を熱くしつつも話す。

    「その……尻尾ハグっていう。尻尾同士を絡ませ合ってハグするっていう愛情表現をしてたの……」
    「あ~。やってる子いたね、確かに」

     ……あー、顔が熱い。トレーナーは別に何ともないみたいだけど。ドラマを見てたアタシからしたらそのシーンが浮かんじゃう訳だからそうとはいかない。

    「いや~、助かったよ。謎が解けた。……よし! これで終わり! ちょっと待ってね。すぐ準備するから」

     話の終わったタイミングで丁度良く仕事の目途がついたみたいで、PCの電源を落としてからお出掛けの準備を始める。

    「ドーベルは誰かとやったの?」
    「はぁ!? 普通そういうこと聞く!?」
    「? 皆やってたみたいだから」

     あぁ……。そっか……。トレーナーはどんな感じだったか知らないから無邪気にそんな事が聞けるんだ……。
     かと言ってアタシがした……いや、やられた相手は恥ずかしがるような相手でもないか。

  • 4◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:38:32

    「タイキとスズカ……」
    「なんだろう……絵面が容易に想像出来るな……」

     まあ、仲がいい事はトレーナーも知ってるから。変な誤解は受けてないはず。

    「でもその二人って事は自分からはしなかったんだな? ……いや、やっぱりいいや、忘れてくれ」

     その通りでアタシは完全に巻き込まれた形だ。でもそうだな……。アタシからするなら誰だろう……。
     ライアン? いや、ライアンはお姉ちゃんみたいなものだし特別なパートナーかと言われると違う気が……。
     じゃあエアグルーヴ先輩? う~ん、先輩は先輩って感じだしこれまた違う気が……。
     逆に自分からタイキにするのは? いや、タイキはパートナーというより仲のいい友達だから。ニュアンス的にはかなり違うと思う。

    (トレーナー……)

     には尻尾がないから当然尻尾ハグは出来ない。
     ……まあその前提は置いておこう。トレーナーと出来るなら……。トレーナーに尻尾がある姿なんて想像も出来ないけれど。

    (したい、かな……)

     特別なパートナーという意味なら一番しっくりくる。

    (でもほら! 担当ウマ娘とトレーナーなんだし、特別なパートナーではあるから!)

     誰に言い訳してるんだろう。そんな事を考えてるうちに出掛ける準備を終わらせたトレーナーが喋りかけて来る。

    「よし、準備できたし行こうか?」
    「え、あ……うん……」

     悶々とした考えを抱えたまま、そのまま映画館へと向かった。

  • 5◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:38:45

     映画も見終わり、帰り道。トレーナーと並んで川土手の道を歩く。

    「ドーベル、何か考え事?」
    「え? いや、別に……」

     結局、映画を見てる最中もトレーナーとのハグが頭から離れなかった。

    (ハグしたら……どんな感じなんだろ……)

     尻尾ハグは……。出来ないけど、でも普通のハグなら出来るから……。
     そんな思考が漏れていたのか。

    「ドーベル? くすぐったいんだけど」
    「あ、ごめん」

     無意識に、尻尾がトレーナーの足をくすぐるような形になってしまっていたらしい。
     トレーナーの足……。つまりは、ウマ娘同士なら尻尾がある位置な訳で。

    (──~っ! き、気付かれた?)

     さっき尻尾ハグの話をしてしまっている為、アタシがハグしたいと取られても不思議じゃない。

    (違うの……! そういうんじゃ……そういうのだけど! でも違うの……!)

     無意識に漏れ出ていた行動の恥ずかしさに、思わず視線は俯きがちになってしまう。

    (もう! 早く忘れなきゃ……!)

     かぶりを振って、思考を振り払おうとした時。
     ──唐突に。

  • 6◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:38:55

    「……ドーベル」
    「え? なに、ひゃっ!」

     トレーナーが肩を抱き寄せて来る。

    (え、な、なんで!?)

    「前、人来てたから」
    「あ、ご、ごめん」

     後ろを振り向くと、先ほどまで目の前にいたであろう人が一人通り過ぎている。
     しかし一向にアタシを抱き寄せたまま、トレーナーは身じろぎしない。

    「ね、ねぇ。いつまでこうしてるの?」
    「え? あっ……」

     アタシの言葉で現実に帰ってきたかのように、すぐさまトレーナーの腕から解放される。

    「ごめん、離すよ」
    「う、うん……」

     自分自身の不注意とは言え。奇しくも、先ほどの願望が叶ってしまった。

    (抱きしめられたら……あんな感じなんだ……)

     感触を思い出すように、先ほど通行人とぶつかりそうになった事すら再び忘れそうな少女の耳に。

    「……ああ~……生徒相手に嫉妬して何やってるんだ俺は……」

     青年の呟きは、聞こえるはずもなかった。

  • 7◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:39:23

    乗るしかない、このビッグそよ風に……
    という訳でみたいな話が読みたいので誰か書いてください。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:39:48

    もう書いてるじゃないか定期ありがとうございました
    あとシャンクス構文で草

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:42:08

    更新頻度エグすぎない?いつもありがとう

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:42:40

    書いてくれると思ってけど早いわ、ありがとう

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:44:18

    いつもの人だ!ありがとうございます!
    ドーベルの周りだとブライトは向こうからやってきそう
    個人的な趣向では殿下の思い出作りに巻き込まれてやる羽目になってほしい

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:46:31

    スレ主、ありがとうございました

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/19(水) 23:47:05

    ドーベルは尻尾ネタが似合いますねぇ〜
    異性とのハグとかお父さん以外ほぼ無さそうだし心臓バックバクになって欲しい

  • 14◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:48:06
  • 15◆y6O8WzjYAE22/10/19(水) 23:48:47

    あ、後書きは特にないです。
    ただただトレーナーは尻尾ハグが出来ない事に嫉妬して欲しかっただけです。

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 00:00:14

    感謝します

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 00:00:40

    トレベルはベルトレもちょっと青いのがいいのだ
    スレ主ありがとうございました

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 00:13:36

    スレ主ャンクス、ありがとうございました

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