海兵「なカバ…ダンダよ」

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:49:55

    「全速前進! ジンベエ、面舵一杯!きり抜けるわよ!」
    「あいわかったァ!」

     偉大なる航路、新世界。
     千の波を越える船、サウザンドサニー号は今、降り注ぐ雷と突風と霧のただ中で大慌てをしていた。帆を畳んでもマストが折れ飛びそうな突風に揉まれる。
    だというのに、まるでミルクをそのまま流したような霧がとうとうとサニー号の周りを覆っていた。
    「さっきまで冬島の海域で安定してたのに!」
    「わはは! これぞ新世界じゃわい」
    「風が冷たいっ冬島の海域からは離れてないはず……っ!」
    ジンベエの操舵とナミの指示で雷の直撃を避け、突風を交わしていく。ただの船であれば五分も持たずに転覆するような荒れた海の中でも操舵は正しく、航海士の指示は的確であった。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:50:22

    釜と鐘を用意してくれ!

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:50:40

    「なんでこの突風なのに霧が晴れないの!?」
    「あっははは、不思議霧だ!」

    突風に飛ばされないようにマストにしがみつきながらナミが叫ぶ。ルフィは帆をゴムの腕で巻いて押さえながらナミの悲鳴に笑って返した。

    「まるでデロリアンの海霧ね」
    「なんだいそれ、ロビンちゃん」
    「初めは三百年以上前、新世界で起こったセルティアンウッド海戦で起こったと言われているわ。霧と雷と突風と共に──」

    「大変だァ!」

     ロビンの話を遮るように、見張りをしていたチョッパーの声が船に響く。

    「二時の方向! 誰か溺れてるー! 」

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:51:36

    チョッパーの声に丁度前方でロープを引いていたゾロが前方に眼を凝らす。凝らしてぎょっとする。

    「おい、ありゃあ……」

    ゾロが呻く。

    「どうした?」
    「──海兵だ」

    腕を伸ばして前甲板に駆けつけたルフィにゾロが応える。
    荒れ狂う波間に見え隠れしているのは、確かに白い制服だった。ウソップが声をひっくり返す。

    「海兵ィ!?」
    「でもこのままじゃ溺れちゃうぞ! この気候なら、冷たい海に浸かってるだけでも致命傷だ!」

    見張り台のチョッパーが声を張り上げた。

    「海兵なら敵だろう。ゼットのこと忘れたのか」
    「それでも! おれは助けたい! あいつ、誰かを抱えてるんだ!」

    ゾロの指摘にチョッパーが首を振って否定する。ゾロもそれ以上否定する様子は無い。
    チョッパーの言うとおり波間の海兵は、何かを抱えながら必死にもがいていた。
    海兵の眼がはっきりとルフィを捕らえる。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:53:58

    「急がんともう離れるぞ!」
    「ルフィ!」

     チョッパーの声にルフィは麦わら帽子を押さえて声を上げた。

    「……助ける! もしゼットみてェなことがあっても、そんときはそんときだ!」

    ルフィは快活に笑う。長く海に伸ばした腕はがっしりと捕まれた。

    「──うえっ!?」
    「ルフィ!」

    突風と霧と雷の中、ルフィの伸ばした腕は思いのほか力強く捕まれる。
    一人分の重さでは無いそれにルフィの顔が険しくなり、ふん、と歯を食いしばる。ジンベエが咄嗟に舵を切り、サニー号を加速させる。フランキーがルフィを押さえそのまま釣りのように引き上げた。

    「うおおおおッ!!!」
    「一本釣りだァ!」

    フランキーとルフィのかけ声と共に、海から人間が釣り上げられて空を飛んだ。

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:56:29

    「……えっ?」

    ナミがその瞬間に顔を上げる。ウソップが尋ねると、険しい顔のナミが海と空を見つめていた。

    「どうしたナミ!」
    「気流が変わった……?」

    ナミのつぶやきと同時にばしゃりと芝生の甲板に海兵が落ちる。数は三人。内の一人が気を失った二人の男女を抱えていた。
    海域を抜けたのか、突風が止んでいる。一海里も先が見えない霧ばかりが残っていた。
    海兵の制服を着ている男がはがたがたと寒さと疲労んい震えている。それでも背中に担いだ女海兵と、襟を銜えた男海兵を決して離そうとはしなかった。
    大きな強い眼が、ルフィとゾロを牽制している。ゾロは刀に手をかけたまま警戒を解かない。

    「チョッパー! 見張り代わる!」
     
    サンジがマストに月歩で飛び移る。入れ替わりにチョッパーが見張り台から飛び降り、医務室からどたばたと医療器具を運ぶ。フランキーに風呂場からお湯を巨大な桶で運ぶように指示を残す。

    「大丈夫か? ひでェ血のにおいがする。怪我もしてるな。それもかなり……!」
    「チョッパー!」

    海兵から発せられる怒気に咄嗟に制止しようとしたウソップをチョッパー自身が止める。

    「安心しろ、おれは医者だ。このままだと三人とも死ぬぞ!」

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 21:56:52

    チョッパーの言葉に海兵は銜えていた男海兵から口を離し、チョッパーの腕をつかんだ。その腕は凍り付きそうなほどに冷え切っている。荒い息の中、海兵はそれでも意思のある眼でチョッパーを見上げる。

    「こいつら……っ、なカバ……ダンダよ……」
    「わかった、助けるよ。絶対に」

    ルフィがわずかに麦わら帽子の下の眼を見開く。
    力強いチョッパーのうなずきに、若い海兵は安心したようにぐしゃりと芝生に沈んだ。

  • 8122/10/20(木) 22:00:08

    書き溜めつつ進めます。
    海域の名前でもう何となく察しはついてるかもしれないですね!

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 22:09:05

    エミュが上手すぎる
    期待

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/20(木) 23:29:37

    保守

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:28:34

    「おいルフィ」

    三人を治療しているチョッパー、ウソップ、ナミ、フランキーを横目にゾロがルフィに低く声をかける。ゾロだけではない。サンジ、ロビン、ブルック、ジンベエもまた海兵への警戒を解かず、それぞれサニー号の動きやすい位置にいる。
    お人好しの四人はゾロたちがいるから気にとめていないのか、助けることに必死なのかはわからない。どちらでもあるのだろう。
    ルフィはゾロに頷いた。

    「わかってる。あいつら強ェ」
    「ああ」

    弱り切っていたはずの海兵の視線では無かった。もし、ルフィたちが彼らを害すならば、きっとただでは済まなかっただろう。
    けれど、ルフィは自信ありげに口角を上げた。脳裏によぎるのは、ドラム王国でナミとサンジを運んだあの日だ。

    「でも良いやつだ。おれ好きなんだ。ああいうやつ」
    「ったく。まァ確かに、そんときはそんときか」

    ルフィの様子にゾロもまた好戦的に笑う。

    船長が言うのならば文句は無い。

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:40:31

    「目ェ覚めたか!」

    う、と呻きながら目を開けた若い海兵にチョッパーが声をかける。
    海兵はぼんやりと周りを見回した後、はっとして身を起こし、痛みに呻いた。

    「だめだじっとしてろ!」
    「仲間は……!二人は無事か!」
    「ああ。二人はお前よりも傷は浅かったし、体の温度も戻った。今は寝てる。お前が一番危なかったんだぞ」

    チョッパーがそう告げると、海兵は肩の力を抜いた。

    「そうか……良かった……。ありがとう、たぬきの先生」
    「おれはトナカイだ!」

    海兵は深々と頭を下げる。ぷんと鼻を鳴らすチョッパーに海兵は歯を見せて笑った。
    と、ぐぎゅるるる……と海兵の腹の音が鳴る。

    「腹減ってるのか?」
    「三日間泳ぎっぱなしなんだ。途中海王類をかじったり魚をかじったりしたんだが、昨日から何も食い物がなくてな」

    短い髪を搔いて照れくさそうに笑う海兵に、チョッパーはぎょっと目をむいた。

    「三日間!? 二人を担いで!?」
    「あいつら泳げんからな!」
    「えっ」

    チョッパーはぎょっと目を見開く。海兵なのに泳げない?
    つまり彼らは……。

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:55:01

    すき

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:01:03

    マジで今気づいたけどSSってつけ忘れてた………………立て直した方がいいですかね。

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:02:26

    1でもうSSだから許して…………ごめんなさいすぐ終わらせて落とします……

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:04:57

    確かにSSと書いて無いからどんなスレかとは思ったから、開いてない人もいるかもしれない
    立て直すかはお任せします

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:09:29

    ごべーーーん!!もう終わるので!!許してくれねぇかなぁ!!すぐ終わらせます…………

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:17:29

    予定通り終わらせるならいいけど妥協でやっつけで終わらせちゃ勿体無いですよ

  • 19二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:21:37

    めちゃめちゃいいSSの予感するしレスして上にあげるぜ!

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:22:22

    ありがとうございます。元々それほど長めになる予定はなかったので予定通りサクッと終わらせます……。

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 01:24:24

    可能性をチョッパーが口にする前に、海兵はあっと頭に手を当てた。

    「っと、これ言ったら怒られるやつだった。やっぱなしで!」
    「えええ……!? で、でもまァいいよ。まずはサンジに言ってご飯作ってもらう。暖かい物食べたいだろ?」
    「ありがとう。二人に会いに行っても良いか?」
    「うん。でも一人で歩き回らせるのはダメだ。危ないし」

    サンジに飯を頼んで、起きてたら二人を連れてくるから待ってて、と言い含めてチョッパーが医務室から食堂の方へ出る。もう既に胃袋をくすぐる香ばしいにおいが医務室に流れていた。
    一人医務室に残された海兵はシーツを剥いで外にでるドアに手をかける。
    こっそりと開くと、すぐさま声がかかった。

    「……ヨホホホ、いけない子ですね」

    ドアから顔を出した途端、階段にもたれているブルックが静かに声をかけた。急に骸骨に声をかけられた海兵は、拳を握って振り返り、ぎょっと目を丸くした。

    「生きた骸骨ぅ~~~!?」
    「ヨホホホ」
    「すげ~~~~!!!アフロつけた骸骨~~!!」

    目をキラキラさせてブルックに詰め寄る海兵にブルックは眼孔をきょとんとさせる。

    「ヨホホホ、その反応まるでルフィさんみたいですねェ」
    「ルフィ?」
    「おや、言ってませんでしたか。我々は海賊ですよ、若い海兵さん」

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 02:02:23

    ブルックの視線に合わせて海兵は上を見上げる。白い霧は未だにサニー号から離れていないが、張り直した帆とメインマストのてっぺんにたなびく黒い旗は見えている。
    麦わら帽子を被った髑髏の旗。三十億の賞金首麦わらのルフィ率いる一味の旗。

    「海兵さんならご存じでしょう?」

    ブルックの問い掛けに、海兵はじっと帆を見上げた後で、がくっと首をかしげた。

    「知らねェ」

    きっぱりと言い放った海兵に、ブルックはガクッとこける。

    「し、知らないんですか……」
    「悪ィ、知らねェ。おれの仲間なら知ってるかもしれないけどよ」

    驚くブルックに海兵は気まずげに頭を搔く。しかしそう引きずる質でもないらしくぱっと顔を上げてブルックに尋ねる。

    「あ、その仲間に会いに行こうと思ってたんだ、お前案内してくれよ」
    「ヨホホホいいですよ」
    「ありがとな、ガイコツ!」

  • 23二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 02:21:42

    「医務室では手狭だったので、女海兵さんには女性部屋を、もうひとかたはアクアリウムでお休みいただいてます。サンジさんのご飯ももうそろそろ出来ますよ」
    「そりゃあありがたい!」

    こちら、と案内しようとしたブルックについて行こうと海兵は歩き出す。しかし二歩も進まぬうちに甲板二階のドアが激しく開かれる。飛び出してきたのは、包帯だらけの女海兵だった。銀色の髪は下ろされて型に流されている。
    甲板の手すりを飛び越えようとしたところで、眼下の海兵に気が付いて目を丸くした。
     
    「──っ! 伍長!」

    ギロリと鋭い眼光で海兵を睨み付ける女海兵に、伍長と呼ばれた海兵はぱっと顔をほころばせる。にこにこと顔を綻ばせて手を振る。

    「あ! おつ……」
    「伍長!」
    「ハイ、曹長! 良かった目を覚ましたんだな!」
    「良かったじゃないよ! なんで海賊に助けてもらってるんだい!」
    「悪いやつじゃねェから大丈夫だ!」
    「海賊だよ!? 何の根拠があって……」
    「見捨てても良かったところを救われた。それじゃ足りねェか?」

  • 24二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 12:58:27

    海兵すき、エミュうま。すき

  • 25二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 13:01:53

    このレスは削除されています

  • 26二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 13:04:47

    >>25

    そういうの言わないの

  • 27122/10/21(金) 15:31:35

    >>25

    >>26

    お二人ともご配慮ありがとうございます。すみません……!

  • 28二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 15:31:59

    「それよりも、セン──いってェ!」
    「軍曹!」
    「ハイ、軍曹」
    曹長に拳骨を落とされて頭を抱えた海兵は呻きながらも素直に名を隠す。ブルックは骸骨の顔ににこにこと笑みを浮かべながら彼らの様子を観察する。随分と仲がいい様子だった。
    曹長は腰に手を当てて、背の高い伍長を叱りつける。
    「勝手に飛び出して船沈めて、その上海賊に助けられたなんて知られたら降格ものだよ。名前さえ知られてなきゃなんとでもあたしと軍曹で誤魔化せるんだから」
    「おれは別にいいよ」
    「あたしらは困るんだよ。さっさと上に行かなきゃならないんだから」
    「あれは曹長ちゃんが飛び出したんだろ!?」
    「だってあれは……」
    きゃんきゃんと噛みつきあっていた二人の会話が途切れた一瞬を狙い、ブルックは声をかける。
    「ヨホホホ、曹長さん」
    曹長はそこで初めて目の前の長身の紳士が骸骨であったことに気づき、ぎょっとした顔をする。けれどすぐに気を持ち直して背筋を正した。
    「はい」
    「パンツ見せてもらってよろしいですか?」
    「見せるかい!」
    ヨホホホとブルックが彼女の掌底を避ける。彼女の触れる寸前に身をかわされ、曹長は柳眉をよせた。ほほー、と伍長が感心した顔をする。
    「……この強さで、あたしが知らない海賊……?」
    「な?船長も、──周りも」
    「わかったよ。もう抵抗しない。だからその殺気をしまっておくれ」
    二人はため息をついて肩の力を抜いた。
    ふっとサニー号に張り詰めていた空気が緩む。鯉口に手をかけていたゾロが刀の柄から手を離し、物陰から目を離さずにいたロビンがひらりと構えを解く。

  • 29二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 15:44:36

    これはあれだな、めちゃくちゃ好きなやつだな
    読ませる力が凄い!楽しい!

  • 30二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 18:21:28

    キャラの解像度がめちゃくちゃ高くて口調や行動に違和感0なのすごすぎる

  • 31二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 18:23:57

    やっと理解した
    なるほど面白い

  • 32二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 18:29:49

    あーそっかルンバー海賊団の活動時期……

  • 33二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 18:46:42

    良い…
    煮込まねば…

  • 34二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:00:42

    あー、ブルックは答え知ってるのか。

  • 35二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:06:52

    ブルックと面識はなさそうだとは思う。ただルンバー海賊団は知ってそう。

  • 36二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:10:33

    続き気になりすぎ あげ

  • 37二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 19:57:41

    ふっと空気が緩んだところに、威勢の良い声が二階からかかった。

    「居たっ! ちょっと目を離した隙にいなくなるなんて油断も隙もないわ!」

    2階から飛び出してきたナミが曹長を見つけて慌てて駆け寄る。狼狽える曹長の腕を掴むと、手に持ったブランケットを曹長の体に巻き付ける。

    「ほらまた冷えてる!アンタ氷みたいだったのに、すぐ動いたら危ないじゃない!」
    「わ、あ、ありがとう、お嬢さん」

    ナミの勢いに押されてなすがままになる曹長がよほど珍しかったのだろう、伍長は目を丸くした後にぶふっと吹き出した。腰に手を当ててのけぞるように笑う。

    「ぶわっはっはっは!女曹長もかたなしだな、曹長ちゃん」
    「若くて可愛い女の子なんて海軍にほとんどいないんだ。仕方ないだろ。お風呂にも入れてくれたし」
    「可愛いなんて♡ もっと言って♡」

    気が緩んだことで寒さも戻ってきたのだろう、ブランケットに身を包んだ曹長は軽くくしゃみをする。可愛いと褒められたナミは相好を崩して笑った。お風呂に入って手当てを受ける間に少し話をして打ち解けたらしい。
    曹長は膝を崩してマストのベンチに腰掛けた。

    「伍長、アンタにも礼を言わなきゃね。ありがとう。もう大丈夫だよ」

    うっ、と伍長が肩をすくめる。曹長がさらに畳み掛けようとしていると、二階の通路から二つの声がかかった。

    「あーっ!お前ェ!動くなっていっただろ!」
    「二人とも無事だったか」

  • 38二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 20:00:29

    このレスは削除されています

  • 39二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 20:39:50

    ヘビーポイントのチョッパーに肩を借り、それでも二人の海兵を見てほっとした顔をするのはアクアリウムで寝かされていたもう一人の海兵だった。チョッパーが介助しながら階段を降りると、曹長が彼の様子をみてほっと息を吐いた。

    「軍曹、無事で良かった……! あいつに吹っ飛ばされたところを最後にみたものだから、もしかしたらと」
    「そんなにやわじゃないさ。船医さんのおかげで五体満足だ。トナカイの医者は初めて見たが、すごい医者もいたものだ」
    「おれは海賊だぞ。かっ、海兵に褒められても嬉しくねーんだからなこのやろが!」
    「すっごく嬉しそうね」
    「ヨホホホ!」

    チョッパーがくねくねと照れ隠しをしているのを、ナミとブルックは呆れながらも微笑ましく見守る。らからと笑う軍曹と呼ばれた海兵に、曹長は心底安堵した吐息を漏らした。
    軍曹は芝生の甲板におりると、黙ってうつむいている伍長の肩を叩いた。

    「助かった。ありがとう」
    「おう……ん? お……おォ……?」

    ぐしゃり、と膝の力が抜けた伍長が倒れかかる。

  • 40二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 20:40:13

    ぎょっと目をむいたブルック、ナミと、離れたところで見守っていたゾロ達もぎょっと腰を浮かしかける。

    「無茶をする…」

    一方で軍曹が慌てるでも無く肩で支えて苦笑した。ばたばたとチョッパーが声をかけながら近づく。

    「だ…大丈夫か! だから安静にしてろって言ったんだぞおれは! 脱水に極度の疲労、低体温、それに腹の傷! 生きてたのが不思議なくれェなんだ!」
    「大丈夫だドクター」
    「寝てるだけだよ」

    曹長と軍曹が声を揃える。それでも心配だったチョッパーが伍長の様子を診察する。

    「飯になれば起きてくる。その間に、この船の船長に挨拶できるか。礼を言いたい」

  • 41二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 00:19:07

    このSSは語り継がれる…

  • 42二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 04:46:42

    「ししっ、気にしなくていいぞ」

     サニー号の船首に座っていたルフィが呼ばれて現れる。芝生の甲板に大の字に眠る伍長をそのままに、軍曹が膝をつく。

    「そうはいかん。海賊とはいえ命を救われた以上、筋は通すさ」

     曹長も頷いて芝生の甲板に居住まいを正す。

    「命を救ってくれてありがとう。あのままならおれたちは三人とも溺れて死んでいた」

     深々と頭を下げる海兵二人に、ルフィは笑みを深めた。ぎょっとするチョッパーに感心した顔をするゾロ。ふふ、と笑うロビンは懐かしい誰かを思い出しているのだろう。

    「だが、もし海賊行為を行うならばおれたちも容赦をしないのでそのつもりでいてくれ」
    「おう!」

     軍曹の言葉に、ルフィは心底愉快そうに頷いた。

    「そろそろ話はついたか? 飯にしよう。海兵のお嬢さんにも特別メニューご用意してるよ♡」

    キッチンのドアが開いてサンジが顔をだす。その手にのっているのはクルーたちの昼ご飯と、唐突な客人たちへの療養食だ。一種類だけきれいに飾り付けしてあるのは曹長への配慮であろう。もちろんバイタルレシピの一つである。
    サンジの料理の香りを嗅いだとたん、海兵二人の腹が仲良く鳴る。

  • 43二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 04:51:50

    腹を押さえて顔を赤らめる二人をサンジは穏やかになだめた。

    「チョッパーから聞いたが、三日三晩何も食べなかったんだって? そりゃあ腹も空くさ」

     照れくさげに笑う二人の横に、あっという間にフランキーが持ってきた木材で設えられたのは広めのテーブルだ。思いのほか手際よくジンベエも手伝っている。チョッパーは眠っている軍曹の手当を続けていた。

    「フランキー、テーブルはここでええか?」
    「アウ! 急ごしらえだが、ちっとキッチンでは手狭だからな! 海兵のニィちゃん、こっち座りな!」
    「曹長さんはこちらへどうぞ」
    「あ、ありがとう」

    フランキーとロビンにエスコートされて軍曹と曹長がテーブルに着く。見張りについていたウソップも駆けつけて、賑やかな昼食が始まろうとする。
    と、芝生で寝ていた伍長がチョッパーを押しのける勢いで飛び起きた。

    「飯のにおいっ!」
    「わっ」

    チョッパーがひっくり返りそうになったのを受け止めて、伍長は鼻をひくつかせた。そのままがっつきそうになる伍長に、曹長が手を叩く。

    「うほ~~! うまそ~~~!」
    「コラ、ちゃんと感謝して食べるんだよ。

  • 44二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 04:52:53

    このレスは削除されています

  • 45二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 05:52:48

    「……本当においしいね、このスープ……すごい」

    感激しながらスープを飲む曹長に、もうすでに夢中でばくばくと食べている軍曹と伍長が頷く。サンジはサーブをしながら上機嫌に煙草をくゆらせていた。

    「おふうしゃふのもふまほう! ほへもほいひいは!」
    「アンタ、何言ってるかわかんないよ」
    「ヨホホホ、これは歌が必要ですね!」
    「いいぞブルック! いつもの歌だ!」

    頬を一杯に膨らませた船長が手を叩いて喜ぶ。それに応じてガイコツがかき鳴らすバイオリンが奏でるのは、古き良き海賊の歌う歌。
    ちょっと目を開いた曹長が曲の名を呟いた。海賊の歌は海兵には悪印象かと思えば、三人の顔には嫌悪はなく、穏やかに耳を傾けていた。

    「ビンクスの酒……」

    海兵の男二人が夢中で食べながらよく似た顔で笑う。その表情に嫌悪は無い。

    「海賊の歌だな!」
    「海兵だから歌えないんだおれは」

    伍長と軍曹にルフィが尋ねる。

    「知ってんのか?」
    「ああ! 海に出た海賊はみんなこの歌を歌う! おれァ海兵だけど、この歌を歌うやつは嫌いじゃねェ」

  • 46二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 10:58:17

    ビンクスの酒ネタは絶対やりたかったんです。わちゃわちゃさせるの楽しくてついたくさんわちゃわちゃさせたくなるけどそうすると話が進まないんですよね。昼ごはん食べるだけでスレ終わりそうになるんで怖い。

  • 47二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 11:10:02

    コレはバラすのか…?それとも既視感で終わるのか…?

  • 48二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 11:17:59

    うわ〜すごいいい、好き 途中まで読んで意味が分かって読み返して更に良さが深まった いいSSだ

  • 49二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 12:56:24

    素晴らしい…

  • 50二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 14:37:17

    >>46

    次スレ建てれば良いじゃない

  • 51二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 14:55:01

    あったかい気持ちになるな 曹長さんはナミさん好みだろうしさあ……

  • 52二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:35:53

    「でも…あたしはちょっと複雑。この歌を聞くと逃げられた海賊を思い出す」

    口を尖らせる曹長に、軍曹と伍長が顔を見合わせてあーと唸る。

    「あいつに逃げられたのを根にもってるじゃないか、曹長」
    「ありゃあ最近グランドラインに入った海賊じゃあなかなか腕が立つぞ。手伝おうか?」

    軍曹が宥め、頬いっぱいに詰め込んだ料理を飲み込んだ伍長が尋ねる。

    「別に次“キャラコ”にあったら捕まえるからいいよ」
    「……はい?」

    ブルックがぴたりと食事の手を止める。慌ててソースで派手に汚れた口元を拭って身を乗り出した。雰囲気の変わったブルックにクルーたちはきょとんとする。

    「キャ、キャラコ?」
    「あれ? 知らねェのか? 西の海でかなり名を挙げた海賊だぜ。賑やかで騒がしいやつらでなァ、腕も立つんだ」
    「嬉しそうに言うんじゃないよ! 逃げられたせいで懸賞金あがっちまったんだから」
    「ヨ、ヨホホホ……、驚いた……まさか」
    「どうしたブルック?」

    い、いえ、とブルックはアフロを振る。かつて、ルンバー海賊団を率いた船長の名は“キャラコ”のヨーキ。かつての船長の名前までは麦わらの一味の彼らに話したことはない。
    偶然にしては、出身の海まで同じだとは。
    考え込む様子のブルックにちらりと幾人かが視線を向けるが、本人が口にしないこともあってそれ以上言及する様子はない。

  • 53二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:26:01

     口にした曹長もそこまで深刻には捕らえていないらしく、今度はサンジの作ったカルパッチョを口にしてぱっと華やかに微笑む。

    「おいしい! 船の上でこんなにおいしい料理が食べられるなんて……まるで海の上のレストランだね」
    「でしょ! うちのサンジくんの料理、すっごくおいしいの!」
    「ナミすぁ~~ん!♡」

    ナミの自慢げな様子と、それに喜ぶサンジに曹長は笑みを浮かべた。

    「それにしてもよ、お前ら。なんであんな変な海域で遭難してたんだ?」
    「ああ、それは……」

    軍曹が応えようとして、曹長に視線を送る。彼女が頷いて軍曹が口火を切った。伍長はルフィの横で料理の取り合いをしながら食べ続けている。

    「敵船に乗り込んで、そいつの船を一隻沈めてな。まァ沈める気はなかったんだが。こいつが……」

     伍長を指さす。伍長は食べるのをやめて鼻を鳴らして反論する。

  • 54二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:26:29

    このレスは削除されています

  • 55二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:29:49

    「だってあいつ、ガキどもを人質にしやがったんだぞ。最低だ。だから竜骨からぶちおってやった」
    「そうさ。でも安心しとくれ、攫われた子どもたちは全員あたしたちで救出してるよ」
    「ひえっ…!」

    ぐっと拳を固める伍長に、ウソップとナミとチョッパーがぎょっとする。

    「子供を人質に!? 曹長さん、そいつらやっつけるの手伝わせてよ!」
    「まぁ、まずは話を聞きましょう、ナミ」
    「ありがとう、お嬢さんたち」

    けれど、子どもを人質にしたと聞いてその怖さも消えたらしい。かっと燃えるナミにロビンがまあまあとなだめる。曹長はにっこりと笑ってナミとロビンに微笑んだ。ロビンはそれにやわらかく微笑み返しながら、わずかに考える。

    (私のことも知らないのかしら…)
    「まァそれで足場が無くなって、おれと曹長が船長に吹っ飛ばされたんだけどな」

    軍曹に睨まれた伍長がしおれた鼻のように肩を落とす。

    「……ご、ごめんなさい」
    「命救われてんだからいいよ」
    「艦に向かって泳いでたんだが、霧がいきなり深くなって、突風と雷が鳴り出したんだ。それから三日、この船と出くわすまで島も見てねェ」
    「三日? 霧の中にいたの?」
    「おう」

    ナミが驚く。それもそうだ。ナミが驚くのも無理は無い。サニー号が霧と突風と雷に巻かれたのは今日の朝から昼までの数時間の間だ。

  • 56二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:32:40

    間違えた……ちょっと投稿し直しました。流石にクック海賊団と赫足の名前を出すとあからさますぎるし、サンジくんが気づかないわけがない。でも出したかった。

  • 57二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:37:03

    >>56

    名前は出さずに鉄に足跡つける奴みたいな感じで出してみたらどうです?

  • 58二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:41:28

    >>57

    ふわっと!やってみます!ありがとうございます!

  • 59二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:46:13

    >>58

    いえいえー!いいSSをありがとうございます!!

  • 60二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 21:28:36

    「……私たちが海域に入り込んだだけ?」
    「いや。わしらが入り込んだふうではなかったぞ」
    「よね。あれは”発生”した霧だった。雷と風を伴う霧の海域なんてきいたことない…」

    呟いた独り言をジンベエに肯定されてナミが不思議そうに首をかしげる。新世界は常識の通用しない海とはいえ、二年の修行を経たナミの航海術が通用しない海では無い。
    妙なひっかかりを覚えつつ、ナミは話を切り替えた。

    「で、その海賊の名前は?」
    「笛吹きのビフ」

    曹長は吐き捨てるように答える。

    「子どもばかりを攫い、売りさばく最低な海賊だよ。グランドラインで一番悪質なやつさ」
    「知らないわ、そんなやつがいるなんて……!」

    子どもを攫うという言葉にナミは憤る。
    その名前にぴくりとブルックが反応する。ロビンも笑みを引っ込めて首をかしげる。

    「……」

  • 61二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 21:30:19

    一方でサンジ、ウソップ、ルフィがきょとんと首をかしげて不思議そうな顔をする。

    「笛吹きのビフ?」
    「ルフィ、知ってるか?」
    「知らねェ!」
    「美味そうな名前だな」
     
    真顔のゾロの感想にルフィとウソップがけらけらと笑う。

    「のんきだな……。ノーフォーク海賊団だぞ」
    「"笛吹き"相手にその反応とは、大物になりそうじゃねェか」
    「とりあえず、お前が気に入ったのはわかった」

    軍曹が呆れた顔になる。伍長は面白そうに笑って見せた。
    満腹になった腹をさすりながら、伍長が大きく伸びをする。

    「飯も食った! 怪我も平気だ! ビフのやつはおれがぶっ飛ばす!」

    朗々と宣言する伍長にルフィがししっと笑う。

    「おれたちも手伝ってやろうか?」
    「いらねェ! おれたちは海兵だからな! 飯と手当はありがとう! 美味かった!」
    「ならよかった。でもおれの仲間が気にしてるから、勝手手伝うかもしれねェが、いいだろ?」
    「ぶわっはっはっ! いいぞ!」

    ルフィの提案をきっぱりと断りながら、伍長はそれでも嬉しそうに笑う。気持ちの良い返事に、余計にルフィが面白そうな顔になる。

  • 62二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 21:37:03

    「でも、艦もビフの場所もわからないのにどうやって探すつもりなんだい」
    「そりゃ……なんとかする!」
    「まずは艦に戻らねェと。きっと心配されてる。あいつは艦だろう? ビブルカードは?」
    「……それがねェ、なんでかわからないけどあいつのだけないんだよ。あんたたちのはあるんだけど。帰り道がわからないね」

    曹長の手の中にある二枚のビブルカードはぴんぴんしている。もう一枚がない、という曹長に、三人が困った顔をする。
    それを見かねたナミが口をだす。

    「じゃあ、まずはログの通りに一番近い島に向かいましょ。……あっでも、送り届けるんだから、襲ってこないでね!」
    「ああ、それは約束するよ」


    ナミたちと海兵たちがワイワイと話す中、ブルックがロビンを呼び止めて甲板の隅で話している。

    「ロビンさん」
    「なに、ブルック」
    「デロリアンの海霧。わたしの記憶が正しければ、人さらいの海霧の話……でしたね」
    「ええ。一連隊を丸々飲み込んで消してしまったとも言われる、神隠しの霧。……遭難してしまったというのが本当のところなんでしょうけれど。70年前のジョンという男はその霧で未来を見たと言ったことさえある」
    「ええ。未来人ジョンの噂は私も聞いたことはあります。それにもう一つ。……“笛吹き”のビフは、もう50年以上前にインペルダウンへ収容された海賊です。私たちルンバー海賊団がグランドラインに入ってすぐに」

    ブルックの言葉に、ロビンはブルックを見上げて驚いた顔をした。

    「まさか……」
    「まさかかもしれません。けれど、私たちはその可能性を覚えていましょう」

    ロビンは静かに頷き、楽しげに話す仲間たちをブルックとともに見つめた。

  • 63二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 21:43:28

    ネタが混雑してしまった……また書き溜めて続き書きます。映画と都市伝説あたりからネタ引っ張ってます。たぶん沈んだ船の名前はマリア・セレスト号だろうなーって考えてます。

  • 64二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 02:09:01

    めちゃくちゃ面白くて最高です!続き待ってます!

  • 65二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 07:31:26

    支援あげ

  • 66二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 14:19:16

    たのしみ

  • 67二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 17:12:10

    デロリアンってあれかw

  • 68二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 21:39:05

    こりゃ面白い
    特にブルックのエミュうますぎてビビるわ
    伝説の時代の海賊達の名付けと話の運び方に違和感なさすぎてワンピースのゲームかなにかに出てきてた単語だっけなと読んでて考え込んでしまった

  • 69二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 03:11:46

  • 70二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 08:14:33

    支援あげ〜

  • 71二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 13:12:05

    ハーメルンの笛吹き男か…

  • 72二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 14:42:00

    しえーん

  • 73二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 18:58:58

    保守

  • 74二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:38:38

    ピクニックのような食後で賑わしい甲板で曹長が軍曹を呼び止める。

    「軍曹」
    「なんだ、曹長」
    「あんた、この海賊団知ってるかい? あたしの記憶にはなかった……。後半の海に来てるなら知らないはずが無いのに」

    曹長に言われて軍曹は帆に描かれた麦わら帽子を被った髑髏のジョリーロジャーを見上げる。

    「いや……」
    「あんたまで知らないか。……麦わらといえばあの男だけど」
    「ロジャーはまだ後半の海にゃ入ってねェぞ。入ってたらおれが知らねェわけがねェ」
    「びっくりした。聞いてたのかい」

    唐突に口を挟んだ伍長に曹長がぎくりと肩をすくめる。伍長はそれほど気にしていないようで歯を見せて笑った。

    「悪いやつじゃねェからいいじゃねェか! おれあの船長好きだ」
    「海賊に気を許しすぎだ」
    「あんたがそこまで海賊に気を許すのも珍しい。……あァ、そういえば少しあんたに似てるね、あの船長。お前の血族かい? 兄弟とか」
    「……?」

    きょとんとする伍長はあまり想像もがつかない様子だった。
    その伍長にマストから伸びた腕がぐるぐると巻き付く。伸びた腕をはっきりと認識して伍長は目を輝かせる。体に回された腕を伸ばして感心した顔をするのを、ルフィは満足げに笑う。

    「わっ、何だ! すげェな! 悪魔の実か!?」
    「おう!」
    「お前強いんだろ? 手合わせするか?」

    拳を固める伍長にルフィはにっと笑って首を振った。

  • 75二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:40:20

    「お前ら客だし、今はやらねェ!」
    「そっか! じゃあ次会ったときは敵同士だし、思いっきりやろう」
    「ししっ、いいな。手加減はしねェ」

    それを見ていた曹長と軍曹にナミとチョッパーが荷物を持って近づく。曹長たちの銃や服を持ってきてくれていた二人に礼を言いながら受け取る。

    「怪我はできる限り治療したけど、万全じゃ無い。軍に戻ったらちゃんと手当してもらってくれ」
    「ありがとう、ドクター」

    曹長と軍曹はにこにこと笑ってチョッパーの頭を撫でる。チョッパーは子どもじゃ無いといいながらもまんざらではない様子だった。

    「あっはっはっは!」
    「ぶわっはっはっは!」

    甲板に伍長とルフィの笑い声が響く。珍しく伸びた腕が絡まったルフィを解こうとして余計に絡まったらしい。よく似た顔をして笑っている。

    「……なんだか兄弟みてェだな。エースに似てるからかねェ」

    キッチンから手を拭きながら出てきたサンジがぽつりと呟く。階段に腰掛けて目を閉じていたゾロがわずかに目を上げてちらりと伍長とルフィを見やって鼻を鳴らした。

    「あいつの兄弟は二人だろう、目ン玉入れ替えろクソコック」
    「ンだと! オロスぞクソマリモ!」
    「──でも確かにルフィがあんなふうなの、エースが来たときみてェだ」

    サンジの手伝いで後片付けをしていたウソップがサンジの後ろから顔を出してぽつりと呟いた。

    「よっぽど気があったんだなァ」

    しみじみと頷くウソップにサンジとゾロの言い合いが止まり、どちらともなく肩をすくめる。

  • 76二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:46:20

    ふと、曹長と雑談していたナミが、ぱっと顔を上げる。
    同時期にルフィも笑みを引っ込めて海を見る。

    「「来る」」

    図らずもそろったナミとルフィの言葉。
    それを後押しするように、見張り台のフランキーの声が船に響く。

    ──六時の方向に船影!

    クルーと海兵が船の後方デッキに集まって目をこらす。

    「でけェ……」
    「三隻全部海賊団か?」

    霧をかき分けて現れたのはボロボロになりながらも勇壮な巨大ガレオン船の艦隊だった。多くの帆は破れ、船腹に穴が開いている船も多く、甲板は焦げ付いている。それでも三隻の主砲はこちらを向いている。
    徐々に見えてくる帆のジョリーロジャーは"笛を吹くガイコツ"。

  • 77二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:47:07

    「ノーフォーク海賊団、"笛吹き"のビフの大船団。この目で見るのは初めてです。目! 無いんですけど! ヨホホホ」
    「笑いごっちゃねェよ」

    ブルックは断定し、サンジはふぅッと煙を吐きながら睨み付ける。
    ナミは船団よりも空を見上げて呟く。

    「やっぱり──。ジンベエ! 舵を取って! 南東から風が吹く! 艦隊に寄せれる!?」
    「あいわかった! フランキー、帆を!」
    「アウ! 任せなァ!」

    ナミの指示でジンベエが舵を取った瞬間、唐突に雷が鳴り始める。吹きさらす突風と、風に飛ばされぬ霧。
    帆を操り、舵を切り、荒れる海を滑るように艦隊に切り込んでいく太陽の船。
    そんな荒海など物ともせず、三人の海兵は堂々とデッキに足をかけた。

    「…探す手間が省けたな」
    「ぶわっはっは! 追っかけてきてくれたか!」
    「ありがたいねェ」

    肩をならす軍曹に伍長が笑い、曹長が好戦的に口角を上げた。
    戦いは風と雷と霧の中で始まる。

  • 78二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:49:44

    保守ありがとうございましたー!ルフィと伍長がなんかすごい気があうの書きたかったからかけてよかった……あと、ちょっっっとだけエースに似てたらいいなって。

  • 79二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 19:50:57

    このちょっとずつ分かってくる感じいいね

  • 80二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:09:42

    「許さねェ! 海兵どもォ!」

    三隻の海賊船のうち中央の船から現れた巨漢が、銅鑼声を張り上げた。腰に巨大な笛を下げている。

    「なんてことしてくれたんだァ……! おれの可愛い可愛いガキどもを一人残らずひっさらいやがって!! 船までこんなに少なくなっちまったァ!」

    嘆く巨漢──"笛吹き"のビフに軍曹が応じる。

    「お前の可愛いガキどもはおれたちの仲間が保護している。もう二度と犯罪の片棒は担がせんし、まっとうな人生を送らせる!」
    「プーッパパパパ! スケスケの嘘を吐きやがって! まっとう? あいつらァ海賊のガキだぞ! 生きてても死んでても"真っ当"にはほど遠い! 物好きな貴族に飼われたほうがよっぽど"まっとう"だろうが!」
    「黙りな!」

    曹長が突風の中、ビフに的確に銃弾を放つ。ビフは腰のラッパでそれを退け、げらげらと特徴的な笑い声を立てた。
     伍長はビフに啖呵を切る。
     低く重い声。
     だが、雷と突風の合間を縫ってそれは朗々と海に響いた。

    「海賊の子だろうが、子どもは子ども。……泣いて頼んだじいさんにとっては可愛い孫。たとえ海賊であってもそこに違いはねェ!」

  • 81二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:11:07

    伍長の脳裏によぎるのは、既に老境を超した海賊の老翁が涙を流しながら攫われた孫を救ってくれと頼み込む姿だった。海賊が海軍に頼み込むほどの、切実さに打たれた。
    その言葉に、ルフィが麦わら帽子を押さえながら、すこし驚いた雰囲気でその背を見上げた。
    三人の服はまだ海軍将校のコートではない。けれど確かに"正義"がその背には刻まれていた。

    「軍曹! 私は左を、アンタは右を。伍長、ビフはアンタがやんな! 手柄はアンタにやる!」
    「ありがとう! いらねェけど!」
    「おおおお!」

     雄叫びを上げた軍曹が、光り輝きながら巨大に膨れ上がり、曹長を左の船に投げ飛ばす。本人もサニー号を傾ける勢いで飛び上がり、右側の船に向かった。
    その、黄金の巨人をルフィは覚えている。忘れるはずも無い二年前の戦場で自分に牙をむいたあの巨人が脳裏によぎる。

    「ええええ~~~!?」

    ぎょっと目を剥いたルフィに伍長が振り返る。

    「世話になった。また会おう、海賊ども! 砲弾借りるぞォ!」

     一瞬振り返った伍長がルフィたちにニカッと笑いかける。その手にはいつの間にか砲弾がいくつか握られている。サニー号からいつの間にか拝借していたらしい。

    「そりゃァ! "拳・骨・流星(メテオ)"!」
    「はァ!? おい、ちょっと待てその
    技ッ!」
    「あんたのおじいさんの技……!?」
    「嘘だろ…」
    「えっ!? なんで伍長がルフィのじいちゃんの技を!?」
    「あら…」

    ウォーターセブンで出くわした技を忘れるはずも無い。サンジ、ナミ、ゾロ、チョッパーが悲鳴を上げる。
    ブルック、ジンベエ、ロビン以外がぎょっと目を剥くなか、伍長が船を飛び移る。
    ルフィはその背を目を丸くしながら見つめていた。

  • 82二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:26:45

    伍長の足がサニーから離れた瞬間に、ナミもまた何かを感じる。

    「──風が変わった」

    風は止む。
    霧の向こうではまだ雷と突風が続いている。霧の向こうに、三隻の海賊船と、交戦の音が消えていった。
    まるで何もなかったかのように。

    残ったのは深い霧だけだ。その霧もまとわりつくような奇妙さは薄れている。湿り気を払う冬島の寒風さえ流れてきている。霧はそろそろ晴れるだろう。

    「…ヨホホホ、いやはや、新世界というのは面白いですね」

    ブルックの笑い声に、放心したように船と海兵の消えた先を眺めていた船員達がほっと息を吐く。
    気が緩んだ瞬間、西に傾きつつある太陽を遮る影がサニーの横にさしかかる。

    「うェっ!?」

    ウソップがぎょっと声を漏らす。霧に紛れて近づいていたのは、白い帆の立派な海軍の巨艦であった。それも三隻。サニー号が小さく見えるほどの軍艦がほんの一海里もない場所を航行している。思わず互いに口を押さえあうナミとウソップとチョッパーだが、軍艦はそのまま進んでいく。

    「こっちには気づいてない…?」
    「………ああ、大丈夫だ」

    ロビンのつぶやきを聞きつけたルフィが応じる。
    そのまま、三隻の軍艦は霧の向こうに消える。
    霧が晴れたその先には、すぐに島が見えた。

  • 83二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:29:43

    後もうちょっとエピローグ書き溜めたら完結します!

  • 84二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:57:43

    ああ、ビフって映画のアイツか!

  • 85二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:23:24

    ここは軍艦。三隻それぞれの艦長が一隻の艦に集まって視線を向けているのは、遠ざかっていく太陽の船──海の皇帝が一角の船だ。
    歴戦の老将の影が霧の中で和やかに話している。

    「いいのかい、アンタ。会わなくて」
    「ええんじゃ、次に会ったら戦争じゃと言っといたからのう」
    「あちらは気づいていたようだが?」
    「元気そうでよかったわい」
    「ふふふ、ついさっきまで忘れていたのに、今はもう懐かしい。まさかあの子が赫足の弟子だったとは……通りで美味しかったねェあのスープ」
    「このまま東の海に行くか? おつるちゃん」
    「よしとくれ、ガープ。そんな暇は無いよ」

    くすくすと笑う老将たちの目は優しく冬の島を目指す太陽の船を見送っていた。

    「恩に免じて、見逃すのはこれっきりだからな」
    「そうじゃな。また海は荒れる。──そのときにあやつらともまた会えるじゃろう」
    「嬉しそうな顔をするんじゃないよ」
    「縁起でも無ェ」

    三人の年経た笑い声がさざ波のように遠ざかっていく。

    「元気でやっとれ。"麦わらのルフィ"とその仲間たちよ」

  • 86二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:23:50

    ところ変わってサニー号。船首に腰を据えた麦わらのルフィは冷たい潮風にも心地よさそうに目を閉じていた。

    「…ししし」

    潮風に麦わら帽子を押さえて、船首に横たわる。満足げな笑みを浮かべて何を思うのか。誰を思うのか。
    霧の晴れた空は抜けるような水色に染まっていた。
    もうすぐ声が聞こえるだろう。

    「島が見えたぞォーー!」



    END

  • 87二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:26:32

    めちゃくちゃ盛り上がってからの終わりが不思議に静かな余韻ある感じだ…良い
    「おれあの船長好きだ」とか伍長の台詞にルフィ味を匂わせて良いし、正義を背負う姿を幻視するの渋い
    面白かった!エピローグ楽しみ

  • 88二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:32:22

    とか書いてたらエピローグ来てた!
    3人の反応が優しくて最後のルフィの台詞が冒険を感じさせてめちゃくちゃ良い…乙!

  • 89122/10/24(月) 23:38:39

    元ネタ解説して良いですか?自己満足の蛇足です。でもそんなにないです!
    ③デロリアンの海霧→バック・トゥー・ザ・フューチャーよりタイムマシンに使われた車の名前です。世界で一番知られたタイムマシンだぜ。雷は電力、突風は速度のイメージ。霧はBTF関係なく、セルティックウッドの怪のイメージでした。

  • 90122/10/24(月) 23:39:36

    ・セルティアンウッドの海戦:セルティックウッドの怪のもじりです。そのまんますぎました。セルティックウッドの怪は都市伝説ですけどすごい好きで。連隊一個が丸々深い霧か雲の中に入り、そのまま消息を絶つ集団失踪事件の怪奇現象です。実際は全滅だったらしいですな……

  • 91二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:40:12

    すげーーーーーー面白かった!!!
    伝説になる前のあの人たちとの一瞬の邂逅みたいなのめちゃくちゃ好き

  • 92122/10/24(月) 23:40:39

    ・"笛吹き"のビフ:笛吹きはハーメルンの笛吹き男より。ビフはBTFの敵役ビフ・タネンより。海賊の子どもを攫って売り飛ばすやつです。海賊の子ばっかりを攫うので本来の懸賞金より悪質だったイメージ。
    笑い声は笛(ラッパ)からプーッパパパパ!。この笑い声作中居なかったよね……?って不安になりつつ…いなかったはずです。

  • 93二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:44:58

    乙!

    見せ方がとても良かった

  • 94122/10/24(月) 23:45:46

    ・後半の海→新世界と呼ばれるようになったのは大海賊時代始まってからという説で、曹長たちは新世界という言葉を知らないイメージ。
    ・未来人ジョン→ジョン・タイターのことでした。
    ・チョッパーへの反応→三人ともトナカイ(たぬき)のミンク族だと思ってます
    ・ノーフォーク海賊団→これもセルティックウッドの怪で消えた連隊の名前でした。
    消失事件とタイムスリップネタを混ぜ込んだらなんだかごちゃついてしまったような……。

    長々とお付き合いいただきありがとうございました!
    感想は本当に励みになりました!

  • 95二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 01:28:15

    いい、サクサク読めるけど余韻にも浸れるいい読後感のある…本当に良いssでした。
    全体的にエミュが上手い…

  • 96122/10/25(火) 01:39:18

    ああっ一個だけ書き忘れた!エピローグに入れ損ねました!
    おつるさん(曹長)の持ってた無くなったビブルカードはゼファー先生のビブルカードでした!あと『おれの仲間』もゼファー先生のつもりで書いてました。入れ損ねた……

  • 97二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 02:28:27

    いやあ面白かった
    色々あるけど個人的には、作中屈指の難度を誇る(と勝手に思っている)若ガープエミュをここまで違和感なく書けるのがほんとにすごいなって

  • 98二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 07:07:09

    このレスは削除されています

  • 99二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 14:36:57

    「海賊の子だろうが子どもは子ども」で唸ってしまった
    なおさらに……自分の家族だもんな
    読み返してビブルカードが一枚ない理由もわかって辛い

  • 100二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 15:03:37

    現代に来たから燃え尽きたのか...

  • 101二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 22:01:13

    3人の正体気付いてから好きが限界突破してお礼言いながら読んでた、素敵なSSをありがとうございました

  • 102二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:48:51

    確かアニオリにもタイムスリップする霧だか何かあったよね
    鼻クソ飛ばしで船を沈めてガープ並のむちゃくちゃなすっとぼけ方する将校のやつ
    俺ァてっきりあのネタが出てくるのかと

  • 103二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 10:04:58

    乙!面白いSSだった!語り継がれてくれ!

  • 104二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 16:06:38

    乙!お前は語り継がれる…

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