【SS】セイウンスカイとサクラローレル

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:05:34

    「あれ……? また鳴らなかった……もう」
     そんな言葉が隣のベッドから聞こえたような気がする。
     でもたぶん気のせいだ。私は何も聞いていない。
     体を丸めて、布団に深く潜り込む。



    「……スカイちゃん、スカイちゃん! そろそろ起きないと学校に遅れちゃうよ!」
     元気な声が聞こえる。
     布団を顔まで被った私はそれに対して、布団の端から飛び出ているウマ耳を動かすだけで返事をした。

    「もう、スカイちゃんったら……。ほら、早くお布団から出て」
     寮の同室になった先輩はいつも元気で前向きで……そして優しい。
     今の私から引っ剥がそうとしている布団を捲る手付きからもそれが読み取れるくらいに。

    「うう〜ん。セイちゃんまだ寝てたいです〜」
    「そんなこと言わないの。さ、顔洗って朝ご飯食べに行きましょ」
     しょうがなく目を開くと、時計が目に入った。
     時間は……遅刻なんて絶対しないような、早起きの優等生みたいな時刻。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:06:04

    「ローレル先輩〜。今日は学園休みですよ。ほら、なんとか記念日だったはずです。にゃはは」
    「え……そう? そうなの?」
     ローレル先輩は慌てて学園から配布されてる壁掛けカレンダーを見て、その後で生徒手帳のスケジュール欄を眺めた、っぽい。
     っぽいというのも私は再び布団の中に潜っていたからだ。
     必殺セイちゃん二度寝である。

     しばらくして。
    「え……え? 記念日でお休みなんかないけど……もう、スカイちゃん!」
     再び布団を引っ剥がされると同時に、私のスマホの目覚ましが鳴り始める。
     朝のいろいろをやったらほどほどギリギリになる時間のやつが。

    「はいはい。セイちゃん起きます。……おはようございます、ローレル先輩」
    「まったく……おはよう、スカイちゃん」
     さっき騙したのを一切気にしていないような笑顔で、ローレル先輩は挨拶をしてくれた。
     朝日のように、まぶしいくらいに。

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:06:24

    「先輩、何食べますか? 取ってきますよ」
    「自分で行くから大丈夫よ。心配しないで。慣れてるから」
     寮の食堂でいつものやり取りをして、私達は朝食の列に並ぶ。
     ローレル先輩はまだ装具で固めたままの足を器用に動かしながら歩いて、栄養バランスを考えた朝食をお盆に朝食を乗せていく。
     私にできることは、少し離れたところにある水を取ってあげるくらいだ。

    「ありがとう、スカイちゃん」
     いつものそのお礼の言葉がくすぐったい。
     そして、やっぱり……ちょっと痛々しい。
     痛々しいなんて考えることが失礼なのかもしれないけど。

     食堂の窓から差し込む朝日が、ローレル先輩の足に絡みついた装具に当たって。
     彼女の柔らかい言葉とは異なる冷たい光を見せる。
     私はその光を浴びて、尻尾の付け根がキュッと締まるのを覚えざるを得ない。

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:06:48

    「スカイちゃん、そういえばトレーナーさんとはどんな感じなの? うまく行ってるの?」
     朝食を終えて、最後に水を飲んでる最中、ローレル先輩が話しかけてきた。

    「う〜ん。ちょっと面倒な人、ですかね? まだ良くわかんないのでちょくちょく逃げてますけど」
    「駄目よ。トレーナーさんは私達の杖になってくれる人なんだから。大切にしないと」
     そうは言われても暑苦しく来られても困るのだ。
     ゆる〜く、ペースを守って。タイミングを見計らってもわらなくちゃ。

    「ローレル先輩のほうは、どうなんです?」
     私の質問に先輩は微笑む。
    「また頑張ろうって。トゥインクル・シリーズはもう難しいかもしれないけど……ドリームトロフィーリーグなら挑戦できる資格もチャンスもあるからって。今新しいリハビリメニューを考えてもらってるところだよ」
     そう言って先輩は装具のついた足を無邪気に振る。
     何度も何度も傷つけて、でも立ち上がって。
     でもまたフランスで傷つけて……無念の帰国を果たしたその足を。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:07:15

    「……すごい、ですね。セイちゃんにはとても真似できないです」
     その執念とも言える強さが、目が潰れそうなほどまぶしい。
     きっと私なら挫けて逃げ出すだろう。間違いなく。

    「そんなことないわ。きっとスカイちゃんにも私と同じ、ううん、私よりも頑張れる力があるよ」
    「またまたそんな〜。私にはそんな力ないですって」
     そんなのナイナイと手を振って否定する。
     その手を先輩はそっと握った。

    「……もちろん、一人だけの力じゃないわ。トレーナーさんや、ブライアンさんやマヤノちゃん。周りのみんな。それにスカイちゃんも。みんなの助けがあるからこうやってまた頑張れるの」
     桜の花弁を輝かせる瞳が、私を捉えて逃さない。

    「私の目覚まし切ってるの、スカイちゃんでしょ?」
    「……にゃはは。バレちゃいましたか。ごめんなさい」
     私は怒られるのを覚悟でウマ耳を伏せた。
     でも先輩はギュッと手を握ってくれるだけだ。

    「……ありがとうね。私も、わかってたの。まだ足の器具が外れてないのにリハビリや朝練をするのなんか無茶だってことは……わかってた、つもりだった。スカイちゃんが目覚まし止めてくれなきゃ、たぶん私は無理をして回復が遅れてたかも。……ありがとう」
     そして先輩は私に対して頭を下げる。

    「いやいやいやいや。セイちゃんはただ朝静かにゆっくり寝てたいだけですよ。それだけですそれだけ」
     私は顔が赤くなるのを隠そうとするけど、手を握ったローレル先輩がそれを逃してくれない。
     私の逃げはまだまだ先輩の差しには敵わないのだ。
     困ったことに。

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:07:39

    「そう? じゃあいたずらの責任を取ってもらおうかな」
    「えぇ〜」
     先輩の桜の瞳がわずかに、いたずらっぽく光る。
    「メイクデビュー、決まったんだよね」
    「ええまあ、はい」
     私としてはもっと落ち着いて挑みたかったのだけど……トレーナーさんといろいろ話して、なんかうまく乗せられて、デビューレースが決まってしまっていた。
     たまにとんでもなく面倒な人なのだ。あの人は。

    「応援に行くから。……勝ってね。スカイちゃん。約束だよ」
    「……にゃはは。ガンバリマス」
     握られていた手は、気づけば小指が絡む形になっていた。
     この先輩には敵いそうにない。まだ。

    「いつか一緒に、本気のレースをしようね」
    「……いつか、ですよ」
     そして私はローレル先輩と小指を絡めて……二人で息を合わせて。
     大切な約束の、指切りをした。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:08:13

    おしまい

    スカイとローレルが同室と判明したので勢いで書きました。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 00:09:44

    ありがとう

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 06:47:45

    良作あげ

    ローレルさんは公式でもちょっとお節介焼きな人だと嬉しい

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 07:48:04

    ええやん……

オススメ

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