- 1二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 21:57:08
詳しく……
説明してください。
今、僕はウマ娘になろうとしています。
本スレは「自分がウマ娘だったら」を妄想するスレです。
スレを開いたあなたも自分のウマ娘になった姿を想像してみましょう。
前スレ
あにまんウマ娘になりたい部Part153|あにまん掲示板あ……早く(ウマ娘に)なれ本スレは「自分がウマ娘だったら」を妄想するスレです。スレを開いたあなたも自分のウマ娘になった姿を想像してみましょう。前スレhttps://bbs.animanch.com/b…bbs.animanch.comアーカイブ
@Wiki
umamusumeninaritai @ ウィキ【12/15更新】@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名...w.atwiki.jp - 2二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 21:57:33
参考になりそうなもの↓
https://bbs.animanch.com/board/199950/?res=3
自分みたいにお絵描きできない人向け
https://bbs.animanch.com/board/199950/?res=4
https://bbs.animanch.com/board/246596/?res=141
診断メーカー↓
ウマ娘になったらの診断をプログラミングして作った!|あにまん掲示板https://shindanking.wixsite.com/my-site-1おかしくなったから立て直した画像のような結果が出ますbbs.animanch.com※入部希望者へ※
際限なくウマ娘が増えてしまうことを避けるため、原則一人一ウマ娘でお願いします!
次スレは>>190を踏んだ人が建てること!
建てられない場合は他の人にスレ建て代行をお願いすること!
スレの管理ができなくなるモバイル回線で建てないこと!
いいー?
- 3二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:01:37
たておつでございまする
- 4二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:02:20
たておつにござる
- 5二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:02:57
- 6二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:06:57
- 7二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:08:16
少女漫画ってなんだ
恐ろしい子……!すればいいのか - 8二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:08:43
少女漫画とギャグ漫画は両立される
- 9メジロエスキーの人22/10/21(金) 22:09:45
少女漫画と聞いて
- 10二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:11:02
通行人はどいてた方がいいぜ!
今日 この街はボーボボと化すんだからよ! - 11二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:11:36
少女漫画つってんだろ!
- 12二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:15:54
作画がちゃおみたいになって登校途中で相手とぶつかってその後学校で偶然「あーっアンタは!」みたいな再会してなんやかんやしたり壁ドンしたりするんでしょう(適当)
- 13二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:16:58
- 14二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:20:18
ダメだ
ゴミ置き場なり茂みなりをクッションにしてでも耐えてもらって少女漫画を続行してもらう - 15キタサンアイドルの人22/10/21(金) 22:22:20
- 16二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:24:05
部長や珍獣を始め、チームカオスには和服が多いなぁ
次に部室を建て替えたら和室を用意しよう - 17二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 22:33:18
- 18メジロエスキーの人22/10/21(金) 23:12:06
馬専用のスニーカーとな?
- 19キタサンアイドルの人22/10/21(金) 23:16:08
なるほど馬用のやつがあるんですね!アイちゃん履いて…あれ?馬ってな⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️
- 20二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 06:43:48
- 21二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 06:44:46
からくり屋敷型部室
- 22メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:31:14
なんで部室を武家屋敷風にする必要が……
まあそれはそれとして今日もSS投げますね - 23メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:32:06
─────
春の天皇賞まで4週間ほど。暦の上では1ヶ月もない中、中距離仕様の走法を長距離のものに戻すべく、毎日練習を積み重ねている。そんな中いつもは私とエスキー2人で併走するところを、今日は特別ゲストとして元々ティアラ路線を進みながらも春の盾を手にした同じチームのフラワリングタイム──みんなからはフラりんだったりフワりんって呼ばれている──を招いて特訓を始めた。
「それじゃ行きますよ。よーいドンっ!」
エスキーの合図で私とフラりんが一斉にスタートする。舞台設定は右回り3200m。実際のコースと違って3コーナーに当たる部分に坂はないけれど、それを想定したレース運びで併走を行う。
(……っ! 小さい見た目でも威圧感が凄い……! やっぱりG1ウマ娘は貫禄たっぷりだね……!)
2人の脚質上自然と私が前、フラりんが後ろの隊列となりレースが進む。2人の差は5バ身ほどだろうか、それほど大きく開いてはいない。ペースとしても2人という少なさからかスローで流れている。
(ここで2000mを通過……ここからまだ6ハロンも残ってるって、やっぱり長距離戦ってしんどいなあ…… だけどこれを制してこそ真の王者に君臨できるんだから!)
残り1000mの地点を過ぎる。京都だといよいよ2回目の淀の坂を越えている途中、もうすぐ3コーナーに差し掛かるところ。
(もう少し溜めて……もう少し我慢して……今!)
下り始める少し前からラストスパートを始め、ペースを一気に上げる。ただフラりんもスパートを始めたのか後ろとの距離が開いている感じがまるでせず、むしろ詰められているとまで感じる。
「エスキモーちゃんっ! 振り返るのは我慢ですっ! 前だけしっかり見てくださいっ!」
彼女の檄に気になる背後を見るのを耐え、ラストスパートにのみ意識を集中させる。残り600m、いよいよ4コーナーに入り、ラストの直線が見えてきた。
(ただのトレーニングなのに凄いプレッシャー……まるで本番みたいね……! それでも私はこのまま逃げ切る!)
ペースを落とさずにむしろさらに加速する。逃げる私、追うフラりん。残り200m、差が徐々に縮まるもまだ2バ身ほどリードがある。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
「あああああああああああああっ!!!!!」 - 24メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:32:58
差が詰まる、すぐそこにフラりんがいるのを肌で感じる。だけど先頭は……!
「……ゴールっ! 2人ともお疲れさまですっ! いきなり止まらずに軽く流してからこちらに戻ってきてくださいねっ!」
最後は頭1つ私が残していたように思う。だけど残り1ハロンで決してペースが落ちている訳でもない中2バ身近く詰められるなんて、やっぱりフラりんは凄いな……
「お疲れさまです、エスキモーさん。少しだけ負けちゃいましたね」
「フラりんこそお疲れさま。それでも最後のあの伸び凄かった。交わされるかと思っちゃった」
「いえいえ、エスキモーさんの方こそロングスパート気味に仕掛けて最後まで伸び続けるの凄いと思います。本番も楽しみですね」
お互いがお互いを褒め合いながらクールダウンのランニングを終えた。2人ともエスキーからドリンクとタオルを受け取りつつ彼女の講評を受ける。
「2人ともお疲れさまでした。フラりんは急に呼んだのに来てくれてありがとうございます」
「エスキーさんのお誘いなら喜んで。今度は一緒に走りましょうね」
「えへへ……」
フラりんにニッコリと微笑まれて、エスキーの顔が真面目な顔がふにゃりとした風に崩れる。デレデレじゃない。
「エスキー。続き」
「は、はいっ! んんっ……! それでエスキモーちゃん、今日ので大体レースの流れや感覚は掴んでもらいましたか?」
「うん、完璧じゃないけどなんとなくは。菊花賞前の練習を思い出したかも」
その回答に大きく頷いた彼女はこれからのメニューについていくつか説明したのちにトレーナーへと話を振る。
「トレーナーさん、わたしからの説明は以上ですけど何かありますか?」
「ほぼ全部言いたいこと言われたような気がするけど……とりあえずフラワリングタイムさん、エスキモーのトレーニングに付き合ってくれてありがとう。この距離の経験者、しかもトップクラスの実力の子と併走できるなんてそう多くはないから感謝している」
トレーナーが頭を下げるとフラりんもこちらこそと頭をペコリと下げる。
- 25メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:33:47
「本番まであと4週間、もし都合が合いそうなら、来週、再来週と1回ずつ併走をお願いしたい。1週前からは疲労を残さないために別のメニューを組むつもりだから。大丈夫かな?」
「トレーナーさんに聞いてみますけど、たぶん大丈夫だと思います。私の方こそチームメイトとこうして走ることができるの嬉しいですから、むしろこちらからお願いしたいぐらいです」
「そう言ってもらうと嬉しい。それじゃ軽くストレッチしてからシャワー浴びて、エスキーとエスキモーはトレーナールームに来ること! 以上!」
「「「お疲れさまでしたっ!」」」
そう言って今日のトレーニングが終わり、トレーナーはそのままトレーナールームに、私たち3人はシャワー室へと足を運ぶ。
「やっぱりフラりんの末脚は凄いですねっ! 長距離でこそ活きるあの脚、つきっきりで研究させてほしいぐらいです……」
「研究目的じゃなくて2人っきりになりたいだけでしょうが」
エスキーのにやけ顔にすぐさまツッコミを入れる私。それを見てフラりんがクスッと笑う。
「お2人って本当に姉妹みたいですね」
「それってわたしがお姉さんっ……!」
「いや今の流れでそれはないでしょ……」
もちろん私が姉でエスキーが妹とのことだった。身長とか普段の話の掛け合いを見ているとそう思うのは必然かもしれない。
ただ、とフラりんは話を続ける。
「なぜかたまにエスキーさんがお姉さん……というよりお母さん、いや、お父さん?に見えることがあるんですよね……何か変なこと言っているみたいでごめんなさい」
「それはなんで?」
「今日トレーニングを一緒に受けさせてもらっている時に2人の様子を見ていたんですけど、エスキーさんの教え方とか褒め方?といった所がそう見えて……ってありえないですよね。ごめんなさい、忘れてください」
「いいのいいの、謝らないで」
ペコペコと頭を下げるフラりんの顔を上げさせて再びシャワールームに向かう。
シャワーを浴び終わったあと、自分のトレーナーの元へ向かうフラりんを見送り、エスキーと2人になったところでポツリと独り言が溢れた。
- 26メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:34:23
私の言葉に反応してエスキーが私の顔を覗き込む。
「ううん、なんでもないの。前トレーナーと話してたら同じような話になってさ。なんだかおかしいなって思っただけ」
「ふーん、そうですか……」
エスキーはそう言って、歩きながらも腕を組んで何やら考え事を始める。前もこんなことあったような……
彼女が考え込むのを邪魔しないように話しかけずにそのまま静かにトレーナールームの前まで歩き続ける。そうして私がドアを開けようとしたその時、後ろから肩をガッと掴まれた。
「えっ、どうしたのエスキー。部屋入らないの?」
「ちょっと待ってください」
真剣な顔をした彼女の姿に少し目を開きつつ、ドアに掛けた手をそっと離す。ドアから体を見えないよう少し隠れた状態で彼女は話を切り出した。
「エスキモーちゃん、今度のお休み暇ですか?」
「う、うん……特に予定は入れてないけど」
トレーナーのご飯を作るという用事はあるけど、それは前の日に作り置きするとかやりようはいくらでもあるから大丈夫。それにしてもこの真面目な顔、一体どうしたんだろう……
「それではお屋敷まで一緒に行きませんか?」
「お屋敷? いいけどどうして?」
それぐらい当日に誘われても行くんだけど、わざわざ前もってって一体何なんだろう。何か大切な用事でも……
と私が少し観構えた瞬間彼女の口から出てきた言葉は全く予想だにしないものだった。
「髪、切りません?」
「……えっ?」
- 27メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:36:48
─────
次の休日、約束通り私とエスキーは2人でメジロのお屋敷を訪ねた。何やら一流の美容師さんを呼んでカットしてもらうから私もどうかということだったみたい。
「それにしてもカットぐらいならあんな顔で誘わなくてもよかったんじゃない?」
「ま、まあいいじゃないですか……ほら着きましたよ」
何やら歯切れが良くない彼女とともに自分の部屋に入ると、まるで美容室と見まがうほどの設備が整えられていた。
「うわー、凄い……ってここまでするものなの? ここまでするなら美容室1つ貸し切った方が良かったような……」
「こちらの方が気分よく切ってもらえるかと思ったのでおばあさまにお願いしちゃいました」
てへっと頭を自分で軽く小突く彼女。その愛嬌ある容姿が下手をするとぶりっ子に見えなくもないポーズをただただ可愛らしい姿へと変える。流石エスキーだなあ……
「エスキモーちゃん、早く座ってくださいっ!」
「はいはい、分かった分かった。それにしてもなんか周囲を囲まれながらヘアセットされるの変な感じするね」
「流石メジロ家ですよねー あっ、わたしも自分の部屋で切ってもらうので失礼しますねっ」
ぱたぱたーといった走りで颯爽と部屋を飛び出していく。それを見送った私は来てもらった美容師さんに髪のセットを全てお任せして、おしゃべりしながら用意されていた雑誌を手に取りパラパラと読む。
「へー、今こんなの流行ってるんだ。プラネタリウムでカップルシートなんて凄いな……」
「エスキモーさん、どなたか懇意にされている男性とかいらっしゃるんですか?」
美容師さんからの質問に少しビクッと心臓が跳ねる。決して勘付かれないように誤魔化しつつ話を逸らす。
「い、いないですよー。そういう美容師さんこそお綺麗ですし……」
「いやいや全然そんな浮ついた話ないですよー。あっ、それじゃ髪セットしていきますねー」
「お任せしちゃったんですけど、今日はどんな感じにしてもらえるんですか?」
今のところ前と後ろを少しカットしてもらっただけで全体のビジュアルとしては大きく変わったところはない。もちろんこのまま終わるはずはないし……
- 28メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:37:36
「ここから少しウェーブ作っていきますね。まっすぐな黒い髪も素敵ですけど、ちょっとウェーブさせてみるのも可愛らしくて素敵になりますよ!」
「そういえば私うねり作るのにアイロンとか使ったことなかったな……やり方とか教えてもらえません?」
「もちろん! ……やっぱり気になる男の人いるんじゃないですかー?」
「そ、そんなことないですって!!!」
それから先は必死に美容師さんからの質問を躱しつつ、ヘアアイロンの使い方も教わって有意義な時間を過ごすことができた。
「ほら、どうですか? とっても素敵になりましたよ!」
鏡を見るとそこには今までとは全然違う私の姿が写っていた。ちょっぴり感動していると、そういえばと美容師さんが声をかけてきた。
「髪セットさせてもらってて思ったんですけど、エスキモーさんってドーベルさんに似てませんか?」
「……よく言われるんですよ。私としてはあんな綺麗な人と似ているって言われて嬉しいんですけど、できたら私を私として見てほしいな、なーんて……あはは……」
ごまかしごまかし、のらりくらりと美容師さんから質問を再度回避しつつおしゃべりを続けていると、ちょうどエスキーの方も終わったのか、扉をノックして部屋に入ってきた。
「エスキモーちゃんも終わりました……ってえーっ!?」
「髪型一緒……なんで……?」
まるで鏡写しかのように2人そっくりなヘアスタイル。少しハーフアップ気味に持ち上げつつ、少し後ろをウェーブさせている全く同じ髪型に2人とも驚愕の色を隠せない。
「アンタはこの髪型にってお願いしたの?」
「いえいえ、そんなことないです。ぜーんぶ美容師さんにお任せしちゃいました」
「偶然にしては珍しいわね……まあ元々の髪型とか髪質が似てるしそんなこともあるか……」
「そうですね。そういうことにしておきましょう」
2人とも無理やり納得すると、それぞれ美容師さんへお礼を伝える。時計を見るとまだお昼前だったということもあり、せっかく可愛くしてもらったんだからと2人カフェ巡りに出発した。
- 29メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:38:47
「素敵な休日だな……朝からこんなに可愛くしてもらえて、しかもエスキーとお出かけなんて」
「わたしもエスキモーちゃんとお出かけできて嬉しいですっ! デート、デートっ♪」
「デートってそんなもんじゃ……というかドーベルさんはいいの?」
「もうっ、今は2人なんですから2人の話をしましょうよっ!」
「はいはい、分かったよ。わがままだなあ、ほんと……」
そうやって夕方まで2人仲良く過ごしたあと、トレーナーの家にご飯を作りに向かった。トレーナーは私たちの姿を見て、「ふ、双子……!?」とか言ってて面白かったなあ。
(それにしても……なんで髪切ろうって誘ってきたのかな……)
それだけが今日1日ずっとモヤモヤっと頭に残ったままだった。
- 30メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:39:03
─────
「毛髪回収できましたか……はい、分かりました。では前にお願いしたとおりに進めてくださいね。それでは失礼します」
電話を切り、携帯をベッドに投げ出してそのまま自分の体もベッドに放り投げる。それを見た姉さまはだらしないよと苦言を呈しつつも優しく声をかけてくれる。
「それで、本当にあの話進めるつもりなの? 流石に無理があるんじゃ……」
「わたしも信じがたいんですけど、やっぱり偶然にしてはおかしいなって思うんです。顔が似ているだけならまだしも走り方なり脚質まで似ていて……これで全く関係ないって話ならひと安心なんですけど」
彼女に抱いた疑念。それを払拭するためにわたしはおばあさまや姉さまたちにこっそりお願い事をした。もちろんこの仮説が的外れだったらそれに越したことはないんですが、念には念を入れたいタイプですから。
「血縁関係、ねえ……」
「ひとまず何もないことを祈りましょう」
そう言って再びベッドにひれ伏しわたし。姉さまはそんなわたしにそっと布団をかけおやすみと電気を消す。
(本当だったらありえないですけど……でも……)
疑惑は果たして晴れるのだろうか。結果が分かるのはエスキモーちゃんの春の天皇賞の数週間後とのことだった。
- 31メジロエスキーの人22/10/22(土) 08:39:31
今日はここまで。それではまだ次回
- 32二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 08:53:43
血縁なかったらそもそもメジロ家じゃないのではと思ったけどエスキモーの来歴覚えてなかったわ
- 33フラワりんの人22/10/22(土) 10:17:28
私が走ってますわー!ありがとうございますわー!そして普段のパクパク生物では無くちゃんと春の楯を手にした強者感がありますわー!?エスキー氏の雰囲気から母性ならぬ父性を感じとっていたりと意外と鋭い……賢さ5は伊達じゃないですわ(死に設定)
- 34カラレスミラージュの人22/10/22(土) 11:50:51
チームカオス路線複雑組多過ぎ問題
カジっちゃんとかちょくちょく登場していたけど、同じチーム(=チームカオスの存在)って明言されたの本話が初?
フラりんだったりフワりんだったり、ティアラ路線を進みながら春の盾を手にしたのはやっぱり旧くからの強者感ある
最終的には勝ったと言っても、追い上げの強烈さは印象に残るよねって感じ
最近パクパクしてる姿ばっかりだからイメージずれてたけど、フラりんも本来は正統派なチャレンジャーというか努力と信頼の果てにGⅠを掴み取ったウマ娘だし通じるところはある
そしてエスフラが覗くワンカット、可愛いウマ娘に目がない絶対強者
トレーナーさんの影が若干薄かったけどウマ娘が複数登場するイベントってそんな感じだしね、しかも全員が全員主人公を張った/張っている面々ならなおのこと
>「そう言ってもらうと嬉しい。(中略)以上!」
>「「「お疲れさまでしたっ!」」」
それでも大人として、立場が違う側の人間としてビシッと締められるのが格好いいし3人も素直に反応するのがいい関係性
エスキーさんに母性や父性を見出すフラりん、色々と本質
それはそれとしてペコペコフラりん、ペコりんが可愛い
トレーナーと自分だけなら違和感は薄かったけど、第三者が介入すれば話は別で
その流れでお屋敷に誘うまでは分かるけど提案が髪を切ることなのが女の子っぽい、なお
>「エスキモーさん、どなたか懇意にされている男性とかいらっしゃるんですか?」
美容師さんに話しかけられるのが苦手って話はよく聞くけど、初手の洗礼でコレ食らうの気が気じゃなさそう
軽くカットした上でウェーブを作る、プロの腕があるとはいえドーベルさんに近付いていく外見が色々と意味深
>できたら私を私として見てほしいな、なーんて……あはは……
この情報、何気に初出かつものすごく重要な心情吐露なんじゃ……
そしてエスキーさんともヘアスタイル丸被り、ただの偶然とは到底思えない状況
そしてまさかのDNA鑑定、メジロドーベルも横に尽きない疑念を語り合う2人
この結果が明らかになるのが春天以降っていうのが逆に温情とすら思えてくる
春天ウマ娘フラりんの描写を交えつつ、物語のフォーカスがメジロの3人に寄って行った印象
熱血スポ根の裏で進む疑念がストーリーにどう及んでいくのか楽しみですね……!
- 35メジロエスキーの人22/10/22(土) 12:03:11
- 36カラレスミラージュの人22/10/22(土) 12:59:37
というわけで少し落ち着いてきた昼下がりにSSを失礼しますわ!
連載の第6話になります、過去のエピソードも併せて置いておきますね
(ちょっとwikiの連載ページを見やすく?リメイクしました)
それでは7レスほどよろしくお願いします!
無彩の少女、虚飾の果て - uma-musumeになりたい部 @ ウィキ【8/25更新】▽タグ一覧 SS カラレスミラージュ Repetition does not transform a lie into a truth. —Franklin Delano Roosevelt 概要 カ...w.atwiki.jp - 37カラレスミラージュの人22/10/22(土) 12:59:59
あの日本ダービー、ガーネットスクエアの逃げ勝ちを記憶に焼き付け、ライブ会場で思わぬ不調に苛まれた日曜日が明けて。6月も迫り期末考査も間近な正午過ぎ。
私自身はレースに出てないから、精神的疲労以外の負担は多くない。いずれにせよリハビリ中途のウマ娘がトレーニングをサボる理由もない。ただし睡眠不足。過呼吸症状と、トレーナーから言われた話が原因で夜も眠れなかった。
というわけで昼食も早々に済ませ、トレーナーの部屋に向かったけれど。
【会議→長引く 帰→15時くらい】
机の上のメモ用紙には、綺麗ながら崩れた筆跡でそう記されていて。メールじゃなくて書き置きなあたり、相当慌てていたのが伝わってくる。ちらりと時計を見れば、まだ13時。
まだ時間が掛かることを認識した瞬間、脳をぐらりと揺さぶる眠気。嗚呼、これは駄目だ。朝は「授業受けなきゃ」って理由があったから耐えられたけど、今はそんな大義名分もない。
崖が崩れて犯人が落ちて行くシーンを思い出す。きっと今の私もこんな感じなのか。辛うじてソファに上半身を預けながら、私の意識は闇に埋もれていく……
目が開く。まだ微睡み。周囲は只々黒々と。何度目? 制服は上に引っ張られ。浮遊感。墜落感。ベッドの上の背中が地面に激突するまでの数秒間。それが延々と続く十数秒間。終わりがないと気付いてから数分間。
景色は一瞬の変容も見せず。認識できる存在は自分だけ。相対座標が固定されたまま。絶対座標だけが歯車を巻いたように更新される。等加速度運動。慌ただしく目盛が回っていく。減衰。
摩擦も慣性も剪断も粘性も熱も電気も無い。埋没する何か。自然と伸びた右手は何も掴むことなく。ただ空を切る。
安心/不安。安寧/擾乱。愉快/不快。安穏/危急。歓喜/悲嘆。脳内に浮かぶ情動の文言。即座に切り捨てられる総意への相違。
目を開いている必要すらない。何も見えないなら。何を見る必要もない。伸ばしていた手を目の前へ。周囲の黒より淡い陰。
瞼を閉じる。陰は闇へ。脱力。身を委ねる。数分間。数十分間。数時間?
突然に増した浮遊感。引き上げられていく。空間に空いた白い穴。眩さに目が開く。全身が包まれる。そして。
「おはようございます、眠り姫。気分の程は?」
「……最悪、です」
「それは何より」
世界は世界を形成する。 - 38カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:00:15
「それで、何処から話をしたものか……」
「私の不調、幻覚の正体が分かったって話でしたよね?」
大きめのマグカップに、これまた大量の砂糖と牛乳。アクセントにコーヒー粉を塗したそれを口に含みながら、トレーナーさんに問い掛ける。
一方のあちらは顔が映り込むほどのブラックコーヒー。どうも気持ちが優れないということを見抜いたらしく、私の分はホットドリンク仕立てにしてくれたという話。
「そうでしたね。だったら定義が必要か……」
「定義、定義?」
「言葉の定義を最初に決めておかないと、議論が面倒になりますから」
同期が何度リジェクト食らったか、なんて言いつつ。整った文字で【ゾーン|領域】と記載した紙を私に見せてくる。
「聞いたことは?」
「えーっと、“ゾーン”がスポーツ選手の集中状態、“領域”が強いウマ娘の辿り着く何かしらってことくらいしか」
「それで十分です。厳密には色々と違うのですが、あくまで『私とミラージュさんの間では』こう定義することにしましょう」
【ゾーン:肉体的/精神的な超集中状態。ある一つの対象に没入すること。内的現象】
【領域:ゾーンの発展系。威圧感/圧迫感の増大が周囲に影響を及ぼす段階。外的干渉現象】
「かの『皇帝』や『白い稲妻』は、周囲の走者に雷霆を幻視させたといいます。これは極端な例ですが、他にも『水中や空中すら自在に支配するという自負』、『自身の得物を手に必ず勝つという決意』……その形態は様々ですね」
どこか現実味のないファンタジックな話、けれど私は納得せざるを得なかった。だって、他ならぬ私自身に心当たりがあったのだから。
「威圧感や圧迫感の増大……じゃあ、皐月賞の時の3人って」
「ええ、恐らくは“領域”の片鱗でしょう。ミラージュさん以外に気付いた走者が居なかったので、まだ成熟段階というところかと」
「流石、ですね……」
噂半分の知識だった頃ですら、「領域に入れるウマ娘は特別中の特別」なんて話は度々聞いていた。出逢った頃から強さと才能を見せていた3人だけど、まさかそこまでだったなんて。納得と嫉妬が心中で渦巻き始める。
「それで、ここからが酷な話なんですが……」
「酷?」
今までつらつらと話していたトレーナーさんが、急に表情を歪めて。何を言うのかと思えば……
「ミラージュさん。貴女は“領域”に入れません」 - 39カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:00:29
「え…………?」
全身から血の気が引いて、力が抜け落ちていくのを感じる。カップを置いていてよかった、そうじゃなきゃ絶対に落として割って中身をぶち撒けている。さっきまで潤っていた喉が瞬く間に渇いていく。
「とれ、と、トレーナーさん? それって……私に、さ、才能がないって……?」
「…………」
腕を組み、こちらを見据えるトレーナーを前にして。まともに声が出てこない。途切れ途切れに息がつかえる。治りかけの脚がガクガクと震えながら、なんとか倒れないようにトレーナーの肩を掴む。
「なん、何とか言って。ねえ。お願い……」
ダメだ。自分の思考を自分で制御できない。ぐるぐると渦巻き始める自己嫌悪、自己否定、他者否定。どうして私には。どうしてあの3人だけが。だってそれはつまり。私が無能なのは私の責任だけど。それで誰が割を食らうかって、つまり。
「お願いだから、何か言って……トレーナー……」
ああ、本格的にダメになってきた。この期に及んで、相手の方から言わせようとしている。お前は無能だと、お前なんて担当しなければ良かったと。当たり前だ、ジュニア級でこそ戦績を残せたとはいえ、一番大切なクラシック三冠を半分以上棒に振ったのだ。ましてやトレーナー人生で一番大切な、最初の担当という相手が。
さっき飲み下したホットミルクが、お腹の中で暴れ回っている。昨日の今日で、また症状が再発している。本当に碌でもないウマ娘だ、なんて自分を嘲り笑う余裕は残っているのに。ああ、でももう声も出せないか。夢の中とは違う気持ち悪い黒色が、私に取り憑いて離れないのだから。
いっそ身を委ねてしまおうか。今までのことを思えば、散々苦しみ抜くことになるとは思うけど、死にはしないと思うし。自分の無才が、無彩が招いた結果であれば。受け入れないと。受け入れないと── - 40カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:00:47
「すまない、かなりタチの悪い嘘を吐いた」
耳元を中心に、髪を梳くよう撫でる少し硬い、それでも優しげな指。手のひらで頭を軽く叩かれれば、脳を物理的に揺すぶられて落ち着きが戻ってくる。私を椅子に戻し、差し出された水を飲めば心の水面が凪いでいく。吐き気と共に口元から溢れていた唾液を乱雑に拭い、改めて私たちは向かい合った。
「本当に申し訳ないことをした。今から理由は話す……ここからが今日の本題だが。必要なら後で何度か殴ってもらって構わない、相当メンタルに負荷掛けたのは間違いないだろうからな」
「……殴ったりなんて、しません。そんな資格があるものですか」
「あるさ、まあ話終わってから判断してくれ」
冷え切った空気。ぬるくなった牛乳を飲み干せば、柔らかな甘みに少しだけ心が落ち着いて。せめて不恰好な笑顔を作る。だって、貴方の悲痛な顔を見れば、私のために心を鬼にしてくれたのが分かるから。だから、お願い。
「私に、貴方の“答え”を教えてください。トレーナーさん」
「……はい、もちろん」
「先に言うと、ミラージュさんは時々“ゾーン”に入っています。それはレース中しかり、普段のプライベート然り」
「え、そうなんですか?」
会話が再開したかと思えば、すぐさま予想外の方向からフォローが飛び込んできて面食らう。てっきり“ゾーン”に入れないから“領域‘にも入れない、って振りだと思っていたから。
「タイムやレース展開……については当人だと分かりにくいんだよな。手や足が勝手に動いて普段以上の走りが出来た経験があるでしょう? アレですね、ゾーン状態」
「言われてみれば、どこか“ノってる”というか“めちゃくちゃいい調子”の時がありますね……しかもその時の動きは思い出せない、それは没入状態だったからってことですか?」
「ご名答です」
そこまで言ったところで、トレーナーさんは紙の下側に山を描く。偏差値……トレセン学園だとあんまり重要じゃないけど、あれの説明に使うような滑らかで裾広の曲線。山の頂点に“超集中状態”、左側の裾に“睡眠時”とメモを増やして。
「ここでクイズを一つ。“睡眠時”から最も遠い状態、どんな状況が思い浮かびますか?」
「えーっと、寝てる時は静かだから……興奮したり不安でいっぱいだったり、精神が不安定な状態?」
「はい、それが“答え”ですね」 - 41カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:01:04
右側の裾、メモの無かった部分に“過剰思考”と記載されたのを見て、何かがハマった感覚が脳内に走る。一瞬浮かべた阿呆面をトレーナーさんも見逃さなかったようで。
「ホープフルSまでは問題なかったのですが、皐月賞からは明確に格上と戦うことになりました。それも、貴女の対極のような存在が3人一群。その結果……レース中に生まれてしまった“嫉妬”の感情、それが全ての原因です」
『今日のレース観戦中と、皐月賞の日のレース走行中……過剰に嫉妬が渦巻いていた瞬間がありましたか?』
『────はい、その通りです』
リフレインしたのは、昨日の会話。そして、先ほど苛まれた激情の意識。なるほど、それを“認識させる”為に無理矢理再体感させたのか、心底から腑に落ちた。
「リハビリ中に渡した動画データ。あれの大部分は、領域が発現したと言われているレースでした。強者に充てられたのが原因か、それ以外だったのかを探るための」
「結果として、あくまでトリガーは“あの3人だった”ことが昨日に分かったと」
「昨日のレースでは3人とも、明らかに領域へ入っていませんでした。加えて症状発露のタイミングがライブ中だったのが合いません、根本的に何かが違うなと」
……トレーナーさん、私以上に私のことを把握してない? いやお医者様ってそんなものか、だって自分の病状を把握できる患者なんてほとんどいないわけだから。
そこから先は専門的な話が続いたので、とりあえず要点だけをメモして抜き出してみる。
【①:ゾーン状態では血流増加や脳内物質分泌など、肉体的に多大な恩恵が発生する】
【②:過剰思考状態だと交感神経が優位化し、興奮や血流悪化などの症状が発生する】
【③:皐月賞時はゾーン状態手前から過剰思考状態に入り血行が破滅的に、骨折をトリガーに脳内物質が状況を誤認させて痛みを誤魔化した→幻覚の正体】
【④:日本ダービー時は単純に考え過ぎ、マイナス思考にマイナス思考が重なり続けて止まらなくなった結果→脳が③を部分的に再現】
【結局:3人に嫉妬し続ける限り、ゾーン/領域などのベストパフォーマンス発揮は望めない】 - 42カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:01:23
「いや、嫉妬するなって土台無理な話じゃないですか……?」
理由は分かった、答えも掴んだ。ただ、それを実践できるかというのはまた別の話で。あんな3人仲良しで才能に満ちていて、今まで辛い目にも遭ってなさそうな善人たちに嫉妬するなって? 逆恨みも甚だしいけど、考えただけで無理でしょうって結論が頭を埋め尽くす。
「正直キツいと思いますが……ここを何とかしないと、せっかくの努力も無駄になりかねないので」
「うーん…………」
頭を捻ってみても、解決策は思い浮かばない。滝にでも打たれて、この薄ら汚れた性根を綺麗に洗い流したほうがいいのかな、なんて与太を真剣に考え始めた頃。
「これは私からの提案なんですが。あの3人、夏合宿もトレーナー含め6人で過ごすつもりとのことで。やはりトレーナーとしてはあちらの方が知識も多い、我々も乗れないか聞いてもらえませんか?」
「へ? いいですけど……どうしてまた?」
夏といえば、“夏の上がりウマ娘”なんて言葉があるくらいには成長めざましい時期だ。この言葉は今までパッとしなかったウマ娘が花開くって意味だけど、別に今まで一線級だったウマ娘が成長しないかって言われれば当然否で。適切なトレーニングを積めば、より活躍できる存在になるのは自明……だけど、話しぶりに少し違和感があった。
「まあ隠しても仕方ないですね。はっきり言いますが免疫付けましょう、免疫。人付き合いの少ない相手を神聖視して嫉妬してしまうなら、その相手の汚い部分も見てしまえばいい。対人関係なんてそんなものです」
「そんなものなんですか」
「そんなものなんです」
今までの話に比べてだいぶ雑な結論だけど、まあ言いたいことは分からなくもない。例えるなら、トレーナーさんのことを学園で一番信頼して尊敬しているのは私だけど、一番尊敬してないのも私だと思うから。
方針が決まったところで、あとは肉体的に血流を改善するトレーニングの話をいくつか聞いて。中には上半身だけでこなせるトレーニングもあったから、自室とかで適宜やっていこうと思う。
ヘビーな話も多かっただろうということで、今日は終了。少し美味しい外食を奢ってもらって、その日は眠りに落ちた。
……珍しく夢は見なかった。 - 43カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:01:38
そして、翌日。図書室で勉強していた3人を見つけたので、忘れないうちに提案してみることに。
「合宿ねー。ミラージュちゃんなら良いと思うんだけど、ちょっと条件を設けたいなーって」
「条件?」
いつも困った顔を浮かべてるなって印象のスクエアちゃんに、そう返される。まあ仲良しメンバーの楽しい楽しい夏合宿に割り込もうとしているのは私の方だ。むしろ交渉のテーブルに着いてくれるだけありがたいって思う。
くるりと回されたペン先で示されたのは、同じく教材に向かい合っている2人。なんだけど……
「何がWhoか、何がWhatか……! トレーナー様と添い遂げる中で英語なんてものがどれだけ必要なの……!」
ミツバちゃん、お怒りのところ悪いけどその文章Yes/Noで答える問題だよ? あとトレーナー業務って結構英語使うよ……?
「アジア、ヨーロッパ、オーストラリア! 試験範囲、完璧!」
ヘルツちゃん、アジアにヨーロッパで続くならオセアニア表記じゃない? というかアフリカと南北アメリカはどこへ行ったの……?
「まあ見ての通りなんだよねー、こっちも色々大変なの。特にこの2人」
「うん」
「というわけでさー、ミラージュちゃん?」
「うん」
「私の言いたいこと、大体分かってくれると思うんだけどね?」
「うん」
「助けて下さい………………お願いします………………」
「うん…………………………」 - 44カラレスミラージュの人22/10/22(土) 13:08:34
以上です!
とりあえず話のタイトルが決まってないので後々詰めていきたい(そろそろ制御が効かなくなってる)
あと本話に幕間は付いてないですが、本編次話と幕間は用意できているのでそう遠くないうちにお出しできるかと - 45メジロエスキーの人22/10/22(土) 13:27:43
途中まで真剣に真面目に読んでたのに……オチが……
- 46ナックル宅の壁22/10/22(土) 13:51:49
ナックルとユリさんで喋ってたらチームメイトの娘に「時々ナックルとサブトレーナーが姉妹に見えますー」て言われてふたりで目を見合わせると『もしナックルが妹だったら』という幻覚がブワアァァっと視えてしまうユリさん
「……ナク、『ユリ姉』って呼んでくれる? 一回でいいから」
「どうした急に」 - 47メジロエスキーの人22/10/22(土) 16:23:15
チームのみんなのトレーナー集めて飲み会とかしたいね……(唐突)
- 48ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/22(土) 16:31:05
昔うまそうるは急性アル中で入院沙汰になったことが有るので基本翌日倒れて良い日しかお酒を飲まないようにしてる
- 49二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 16:51:21
バラトレは一応参加するけど酒は飲まなそうだな(中の人が飲まないので)
そもそもチームのトレーナーの仲がどうなってるのか分からんから交流についてはなんとも言い難いけど - 50ラプ中22/10/22(土) 16:56:35
ラプトレは酒は飲むには飲むがほぼ飯食ってるわね
ラプ中は飲める年齢じゃないので問題外 - 51二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 17:02:24
トレーナー同士で集まっても結局担当の話してそう
そしてオネエ様に乙女心を教わり担当との接し方に活かしていく - 52二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:10:12
オネエの引き出しが強すぎるねん
なぜ珍獣のトレーナーに…? - 53二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:47:26
オネエくらいの引き出しがないと珍獣をトレーニングできない説
- 54ナックル宅の壁22/10/22(土) 19:47:59
呑んでるところを見た感じユリさんはわりとお酒強いです
あと「早くナクとサシ飲みしてぇなぁ……幸せすぎて泣いちゃうかもな……」て言ってました - 55プログレスの人22/10/22(土) 19:51:58
SS投下しても大丈夫ですか?大丈夫ですね?投下しますね
- 56お前もメジロにならないか?22/10/22(土) 19:52:38
「トレーニングお疲れ様、頼まれてた物だ」
紙袋をプログレスに手渡す。
「わぁ〜!ありがとうございます!トレーナーさん!!」
彼女は特に気にせず受け取る。
「シュークリーム!すごいですねトレーナーさん!」
ホワイトデーに俺がプログレスにお返しとして手作りのチョコを渡してから始まったこの習慣。
最初は苦労して作っていたクッキーも今ではマカロンやシュークリームだけではなくパンを自作するまで腕は成長していた。
これはトレーナーの仕事なのかという疑問もあるが…
「美味しいか?」
「美味しいです!」
プログレスは美味しそうに食べてくれるしなんだかんだ言ってスイーツを作るのは楽しい。
「ならよかった」
俺もプログレスも何も気にせずこの習慣を続けていた。
(トレーナーさんの作ったお菓子美味しいなぁ…でも卒業後は会えないし…あっそうだ!)
「トレーナーさん!メジロに来ませんか!?」
急に言われたことを俺の脳は理解していなかった。
「…?うん…?」
「お返事は後日で大丈夫です!シュークリームありがとうございました!」
そう言って彼女は帰っていってしまった。
誰に相談すればいいのか… - 57お前もメジロにならないか?22/10/22(土) 19:53:18
- 58プログレスの人22/10/22(土) 19:54:01
さっきささっと書いてきたやつですわ
やっぱレース展開の有無で楽さが違いますわ〜! - 59メジロエスキーの人22/10/22(土) 20:00:24
- 60プログレスの人22/10/22(土) 20:01:28
半分正解で半分はずれですわ!
- 61フラなんとかのひと22/10/22(土) 20:03:44
- 62二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:05:32
117はダイヤちゃんのトレーナーな気がする
- 63キタサンアイドルの人22/10/22(土) 20:53:57
- 64キタサンアイドルの人22/10/22(土) 20:55:35
【一歩一歩、飲み込んで】
弥生賞への直行を決めた後、衝突事故の映像を一週間おきに少しずつ見せていた。
「う…ぐ…」
[一旦止めるね]
「ま…まだ…!……いえ、トレーナーさんに…叱られたばかり…ですね」
[うん、ちゃんと約束守れてるね]
自分を抑える、これも立派なトレーニングだ。それにしても事故の映像だなんて当事者でない私が見てもキツいのに受け入れるなんて…。
「……はい!」
[でも最初に見た時より良くなってるよ。走りも活かせてるみたいだしさ]
「トレーナーさんのおかげです。ワタシが感じたことを文字にしてくれたりすごいです!」
[ふふ、あなたのセンスが良いだけよ。弥生賞までまだまだあるしゆっくり改善して行きましょう]
彼女はセンスが良い。だから自己改善も任せられたし衝突事故映像も見せられた。
「…以前より距離が縮まっているような…そんな感じがしますね」
[そうね、最初の頃はただ見守ってるだけだったもの]
「むう…トレーナーさんは自己評価が低いです」
[あはは、また怒られちゃった。…そうだ!ゴールドコメットが来月デビューなの。良かったら一緒に見ない?]
「あっ、デビューしてなかったんですか」 - 65キタサンアイドルの人22/10/22(土) 20:56:52
[ゲート試験で苦戦してたみたいね…でもこうは…トレーナーが鍛えてもっと強くなってるらしいわ]
8月前半、1800mのレースだ。これでようやくちゃんとした対策を立てられる。
「…コメットちゃんは強いですけどワタシ達の力を合わせればどんなウマ娘でも勝てます!」
[さてはプリファイの言葉だな貴様〜!]
「ふふん!カッコイイから好きなんです!」
[じゃあプリファイ見ようか!何話が良い?]
「うーん…トレーナーさんの好きな話で!」
[そういうのが一番困る!…じゃあ全話ぶっ通し!!]
「別に構いませんよ、トレーナーさんかワタシの体力が尽きるまで通しましょう!」
[仮にも私は運動部よ!ウマ娘にも負けないわ!]
ヒートアップしてしまい結局ぶっ通しで見てアイドルが寝落ちしたのであった……。
__
はい、ゴコメちゃんまさかの出遅れです仕方ありませんね。 - 66メジロエスキーの人22/10/22(土) 22:22:01
全話とか一体何話あるんですかね……
- 67二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 22:23:41
シリーズ物をイッキ見はやめとけとあれほど
- 68ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:33:49
リアルが忙しくてSS中々書けなかったです
アニメの一気見をし始めたら負のループに陥り体力も消費しかねない
というわけでSS投下予告を - 69ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:36:57
【ホープフルSのあとに 主役は1人ではない】
「ぜえっ……はぁっ…!私、やりました…!」
「そして_____クラシックの章に、繋がる物語が作れました。ジュニアの章もこれで、終わりですね!」
「このまま、物語の主役らしく、皆さんと物語を作ることができたら…。」
「う、ううう…。」
「うわあああああん!」
「…あの方は……一緒に走っていた…。」
「掲示板……届かなかった…。こんな実力じゃ……クラシックなんて、とても……!!」
「…。」
「トレーナー…私っ…!」
「しっかりしろ!胸を張れ、負けていてもお前は全力でやってきただろ?」
「上位に入っていたウマ娘はそれ以上に頑張った、それだけだ。」
「うぅ…。」
「確かに、クラシックのG1は逃してしまうかもしれない。が、トゥインクルシリーズはずっと続く。」
「いつかG1で勝って、見返してやろう。ほら、ウイニングライブ行ってこい。」
「…はい!はい、行ってきます!」
「負けても、終わりじゃないから…!まだ、先があるから…!」
(ダダダダダッ!) - 70ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:38:21
「…………。」
「ローバスト…?」
「これは、本当に素敵な物語なのでしょうか…?」
「走れば必ず勝つウマ娘がいて、負けるウマ娘たちがいますよね?」
「そんな中で、自分が主役になろうとしているのでは『素敵な物語』にならないと思うんです。」
「レース以外でも、ウマ娘は全員レースで、ライブで、主役になろうとしている。皆が物語の主役になることを望んでいる。そして_____」
「その競い合いがあるから。名ウマ娘たちの物語は_____。」
このレースで、ダンスローバストは少し変わったようだ。
〜🕔〜
来年のクラシックに向けて出走登録を進めようかと1人考えていると_____。
「トレーナーさん、いらっしゃいますか?」
「ローバスト?どうしたの?」
「来年の、クラシックについて、です。」
「ティアラ路線か、クラシック路線か…。」
「トレーナーさんならどちらにします?」
ローバストの質問に一瞬考え込んでしまった。
……どちらかと言えば、ティアラ路線の方が良いだろう。クラシック路線はコースを走り切れるスピード、耐えられるスタミナが要求される。だがティアラ路線のレースはほとんど直線が長く、直線で競り勝つ根性とパワー、そしてスピードと満遍なく能力を要求される。
「……ティアラ路線を勧めたいかな。きっとローバストのスプリンターの能力も利用できると思うし。でも、ローバストの希望があるなら全力で支えるよ。」
「……私、クラシック路線で行きたいです。」
「クラシック路線に進むとなると、スタミナトレーニングに専念する必要があるよ。それでもいいの?」 - 71ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:40:59
「はい。やはり、ダービーにも挑戦したいですし、自分がどこまで走れるか試してみたいのです。…それに、物語も最高に盛り上がるでしょう?」
「分かった。ローバストの覚悟、受け取ったよ。」
「ええ、ありがとうございます。となると…一番最初のクラシックレースは『皐月賞』ですね。」
皐月賞。最もはやいウマ娘が勝つと言われるレース。ダービーへの特別切符にもなる、重要なレースだ。
「うん。それじゃあ早速トレーニングメニューを考えないとね。」
「はい、よろしくお願いしますね。」
こうして、クラシックの章へ繋がる一歩を踏み出したのだった。 - 72ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:41:54
【『ティアラ路線』】
「やっぱり、ティアラ路線に出たかった?」
「いいえ。私の目標は『ダービー』ですから、けれども桜の女王、樫の女王、秋華の女王…。少し華やかな称号が欲しいですから一回だけ走るのも良かったかもですね。」
「……あ、もう本バ場入場ですね。あと5分10分ぐらいに出走ですかね?」
桜花賞。桜の女王決定戦。トリプルティアラの一冠目、必ず桜花賞の時期にはゲート前の大寒桜が咲き、桜に見守られながらティアラ路線のウマ娘は走る。朝ローバストはトレーナー室を訪ねてきて、どうしても桜花賞を見に行きたいと言われ、急いで当日券を購入して阪神レース場に観戦しにきた。
『さあ、今年も桜の女王を決める時。桜花賞、開幕です!』
『期待の注目株、ダンスローバストは桜花賞に出走登録をしていましたが、皐月賞に出走するようです。この桜の舞台で彼女の走りを見たかったですが……クラシック路線の強者と挑む姿が見れると思うと楽しみですね。』
「……あ、私のこと。」
「話題に取り上げてくれたね。」
「はい、嬉しいです。皐月賞に向けて、頑張らないと。」
「うん、そうだね。」 - 73ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:43:03
『さて、18番のウマ娘がゲートに入り各ウマ娘体制整いました。』
_____ガコンッ!
『スタートしました。おっと出遅れたウマ娘がいるぞ!?』
「ああっ……!」
「大丈夫ですよ、まだ序盤です。」
「そうだけど……」
『先行争いになります。3枠4番、セレナイトがハナを取りました。注目のシムラクルムは…6番手辺りでしょうか。』
「先頭集団は固まりましたね……。しかも、異常にペースが速い……これが『魔の桜花賞ペース』。出走していたらあのペースについて行けそうにありません。」
「うーん……。」
『さあ、第1コーナーを回って向こう正面に入ります。』
『早くも後続が追い上げてきています!ジュニア女王シムラクルムは?!シムラクルムは!?バ郡に囲まれている、これは抜け出せないかーっ!!』
阪神JFウマ娘のシムラクルムは周りからマークを受けて、他のウマ娘に囲まれて上手く抜け出せないようだ。ダンスローバストと共に手汗を握りながら桜花賞の決着を見ていた。
『先頭セレナイト、セレナイト!!月と夜桜が、背中を押しているぞ!桜の女王の座を掴むか!?』
『いや外から、外からサウダージが迫る!サウダージ強襲!』
『ここで先頭はサウダージ!サウダージだ!桜の冠奪取!!』
「……すごい。」
「……ええ、こんなレース初めてみました。これがクラシック級G1…。」 - 74ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:43:44
『桜花賞を制したのはサウダージ!何と7番人気の伏兵が穢れなき桜の女王に輝きました、驚きです!』
「ものすごい追い上げでした、とても強い根性をお持ちのウマ娘ですね。」
「うん、本当にすごかった。」
「ローバストはあのレース、どうだと思った?」
「……そうですね。あ、少し良いフレーズが降りてきました、物語を書き下ろす用の。」
「えっと……『大寒桜の咲く丘ではただ1人のウマ娘が、まっすぐ頂を目指していた。その瞳に映すはそこで女王たちが輝いた憧憬のみ。例え泥まみれでも、泥臭くても、彼女は前へ進むことを決して止めない。その頂に立ち彼女が見たものは、桜が舞う中で多くの祝福に包まれる景色だった。』…ですかね?」
「随分詩的な文章だね。」
「ええ、小さい頃から何冊か詩人の詩集を読んでいまして。今はそうでもないのですが、たまに気に入った詩の表現が会話に出てきてしまったりするんです。」
「物語を書く時の参考になるかもしれませんからメモしておきましょうかね。」
「さて、次は私たちの物語を進める番です。同世代の方々と、熱く、美しい、素敵な物語を作りましょう。」
ローバストの瞳には物語への執念、そして情熱を感じた。出会った日から全然変わっていない、まっすぐな眼差し____。それを見て、クラシックに向けてトレーナーとして、ダンスパートナーとしてあるべき姿ではなくては、と思った。
来週は皐月賞。ダンスローバストの初のクラシックレースで、年が明けてはじめてのレースだ。十分強豪相手が集う皐月の一冠。それを共に手にして物語を飾ろう。そう思った。 - 75ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:44:13
〜🕔〜
後日、桜花賞のレースを見返した。インタビューの場面も撮られていて、桜花賞を制したサウダージが満面の笑みを浮かべながら記者の質問に答えていた。
『サウダージさん、桜花賞制覇おめでとうございます。今の率直なお気持ちは?』
『…ありがとうございますっ!とっても嬉しいです!!これからもあたし、頑張りますね!』
『サウダージさんの桜花賞勝利をどのように感じていらっしゃいますか?また、次走はオークスへ臨むのですか?』
『はい!あたし、桜花賞に勝って凄く嬉しいです!……はい、オークスに行く予定です。桜花賞に勝ったらオークスに行こうって決めていました。……次の目標はオークス、目指すはティアラです!』
『そうですか。最後に、ファンの皆様への一言をお願いします。』
『皆さんのおかげで、桜花賞勝つことができました。感謝していますっ!……あと、応援してくれた人、ありがとね!』
サウダージの屈託のない笑顔に思わず微笑ましく思ってしまった。サウダージの走りは圧巻の一言。流暢にメディアの質問に答えるなと感心していると、そういえばローバストはインタビューの練習をしていなかった……と思い出した。恐らく人前でも飄々として喋れるとは思うが、いざ本番になったら緊張してしまうかもしれない。とりあえず練習はしておかなくては……と思い、ローバストのいるコース場に向かったのだった。ただトレーナー室には花が咲いたように笑うサウダージのインタビューシーンが写されたパソコンだけが、光を放っていた。 - 76ダンスローバストの中の人22/10/22(土) 22:46:56
以上です
ローバストのライバルの1人サウダージちゃんです
サウダージの意味は憧憬や切なさだそうで
トレーナーとか同期の子に向ける感情が重そうですね - 77二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 22:48:35
挿絵付き!!!
- 78メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:31:59
挿絵つきとかやばたん……皐月賞頑張ってほしいねえ……
では今日もSSの続き投げさせてもらいますね - 79メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:33:02
─────
春の天皇賞に向けた練習の日々。そんなある日の夜、いつものようにトレーナーの家で晩ごはんを3人で食べているとふとあることを思いついた。
「そういえば天皇賞ってゴールデンウィークの真っ只中だよね」
「確かにそうだが……どこか行こうって話か?」
「旅行っ!? 旅行ですかっ!? わたしも行きたいですっ!」
軽く話を振ってみるとトレーナーの流石とも言える閃きで話が進むのが早い。
「そういうこと。せっかくだし行ったことない場所行きたいなーって……ってエスキー、もしかして一緒に来るつもり?」
「えーっ!? 駄目ですか……トレーナーさん……うるうる……」
2人で考えていたところをこの子に来られたらとは思うけど、そもそも2人っきりの時に話を切り出さなかった私のミスでもあるし……うーん……
「トレーナー……」
「うーん……せっかくだからドーベルさんも一緒に連れてきたらどうだ? 3人1部屋っていうのは駄目だし、かといってオレ1人、君たち2人の2部屋もオレ寂しいし……」
確かにトレーナーの言うとおり、ドーベルさんも一緒なら、私・トレーナー、エスキー・ドーベルさんの2部屋で綺麗に分かれることができる。問題はドーベルさんが来てくれるかどうかだけど……
「今姉さまにメッセージ送りました……って既読つくの早いですね」
「送るの早っ。まだ場所も決まってないのに」
「返ってきましたっ! 場所次第だけど、GWは特に予定入ってないから大丈夫、ですってっ!」
ひとまずメンバーはこれで確定。あとはどこに行くかだけど……
「せっかく関西行くんだったらその辺りがいいよね……トレーナー、なんかいい場所知らない?」
こういうときは地元の人に聞くのが1番手っ取り早い。やっぱりかとトレーナーは苦笑し、少し箸を止め考え込む。 - 80メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:34:11
「せっかくだから少しいいところ行きたいよな……淡路島は遊ぶだけになるからメンバー的にはちょっと……というかエスキモーが走った翌日からってことを考えるとそんなに体動かす所は止めておいた方がいいな…、だったら……あっ!」
「どこか思いついたの?」
私の質問に携帯をポケットから取り出し何やら検索し始めるトレーナー。文字を打ち込んだりスワイプしたりと数分間沈黙が続き、パッと顔が上がったと思ったら私たち2人に携帯の画面を見せてきた。
「城崎温泉だよ、城崎温泉! 体の療養もできるし外湯巡りっていって近くの温泉を歩いて回ることができるんだ! もちろん旅館もいろいろあるし、季節は少し外すけど料理も美味しい。それでいて有馬ほど高くないしこれぞ温泉街って雰囲気が街中から漂っている。大阪駅から特急で3時間。2泊3日ならちょうどいいんじゃないか?」
すらすらとオススメポイントを言い連ねるトレーナー。私とエスキーは携帯の画面に書かれた情報をスワイプして見ながら、トレーナーの言うこともしっかりと記憶に残す。
「トレーナーがそこまで言うならそこにしよっか。有馬温泉って所はいつかまたってことで」
「そうですね、わたしもここは行ったことないですし、姉さまもないはずです。それでは場所決まりましたってメッセージ送っておきますねっ」
程なくしてドーベルさんから了承の返事をもらい、行き先も無事に決定。場所を決めたのはトレーナーだけど、言い出しっぺは私だからおばあさまに相談して少しいい旅館を抑えてもらった。
「GWだから混んでそうなのと、3人が有名人だから周りにバレないようにしないといけないな……」
「そんなにトレーナーが気にしなくてもいいんじゃない? 私も少しは対処法とか分かるようになってきたし、あとの2人は慣れたものだろうし」
「ふふん、任せてくださいっ!」
得意げに鼻を鳴らすエスキー。日本だけじゃなく海外でも有名人な彼女がいるならまずファン対応とかいなし方とかは大丈夫だろう。
「あとは私が勝つだけか。これで負けちゃったら残念会になっちゃうしね」
「今のエスキモーちゃんなら大丈夫ですっ! 胸を張って送り出せますよっ!」
「ってアンタは私のトレーナーじゃないでしょ。それを言うのはトレーナーじゃない?」
- 81メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:35:19
えーっと文句を言うエスキーをはいはいとあしらいつつ再びご飯を食べ始めたトレーナーに話を振る。トレーナーは口に入れた物をしっかりと噛んで飲み込むと苦笑い気味に頭をかく。
「もちろんオレも一緒に練習メニュー組んでいるんだけど、エスキーから学ぶことは多いからね。勉強させてもらっているよ、ありがとう」
「いえいえこちらこそっ! ただ秋になったら覚悟しておいてくださいね? また強くなったわたしをお見せしますのでっ!」
へっへーんと腰に手を当ててまた威張るエスキー。内心怖いことは怖いんだけど、また対戦できる喜びの方が大きい。
「そっちこそ強くなった私に負けて泣いても知らないんだからね。よしよしって頭は撫でてあげるけど」
「ふーん、エスキモーちゃんも言うようになりましたね。今のトレーニングのデータばっちり取ってること忘れないでくださいね?」
一緒に走るのはまだまだ先ながら早くも火花を散らす2人。トレーナーはそんな私たちを仲裁するように早く食べるように促す。
「2人とも門限あるから早くしな? 明日も朝早いんだから」
「「はーい」」
仲良く返事をして目の前のご飯をパクパクと口に入れる。自分で作った料理だから自画自賛になるんだけどとても美味しくて手が止まらない。
「エスキモーちゃん大丈夫ですかぁ? 食べた分筋肉じゃなくて胸とかお尻に行ってるんじゃ……」
「こら、体突っつくのやめなさい。しょうもないこと言ってないで早く食べるよ」
「ふぁーい」
談笑しつつもモグモグと食べ進めているとあっという間にお皿からご飯が綺麗さっぱりなくなった。洗い物も3人で協力してやっているせいかあっという間に片付く。歯磨きも済ませそそくさとトレーナーの家からお暇する。
「よし、じゃあまた明日ね。おやすみなさい」
「おやすみなさい、トレーナーさんっ!」
「おやすみ。2人とも気をつけてな」
バイバイと手を振り寮への帰路を急ぐ。旅行楽しみだねと談笑しているとあっという間に寮の玄関へとたどり着いた。
- 82メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:36:28
「それじゃまた明日。おやすみ、エスキー」
「はい、おやすみなさい、エスキモーちゃん」
2人別れ自分の部屋へと足を向ける。たまにはこんなゆったりとした日常もあっていいよね。
─────
誇り高き春の盾。その栄誉は遥か彼方3200m先のゴールへ最初に飛び込んだ者のみに与えられる得難きもの。今私はその難題へと挑もうとしていた。
「天皇賞の盾はメジロの誇り。私も先輩たちに続いて必ず……!」
レース前の控え室、静かに集中力を高めていく。漂う緊張感は1番人気で迎えたことよりも盾の栄誉を得るために走ることへの重圧から来るものが大きい。こう言ったら怒られるかもしれないけど、G1の舞台で1番人気を背負うことにはもうすっかり慣れたから。
「はいはーい、エスキモーちゃん。リラックスリラックスー」
私の隣に座って背中を撫でるこの子はメジロエスキー、そして私とは少しスペースを空けてパソコンとにらめっこしているのは私のトレーナー。ドーベルさんは少し前に応援に来てくれたけど、観客席で見たいと部屋をすぐに出ていった。
「大丈夫ですよ。練習いっぱいやったじゃないですか。私だけじゃなくフラりんとともに」
「そうだね。あとはその成果を本番にぶつけるだけ。大丈夫、分かってる」
私たち2人の様子を見て手元のパソコンを閉じ、スッと立ち上がるトレーナー。
「今日は早めにやっておくか?」
「そうだね。いつものやつ、お願い」
私もそれに合わせて立ち上がり、トレーナーの方へと歩き出す。何やらエスキーははわわって言ってるけど無視無視。
「3200m、大変だと思うけど君なら大丈夫。オレは信じているよ」
「ありがと。あなたがそう言ってくれるから私は頑張れる……んっ……」
- 83メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:37:43
1秒、2秒、3秒……もう少し長かっただろうか、互いに満足したところで唇と体を離し元の場所へと座り直す。体の緊張もこれでばっちり取ることができた。
「これ絶対他の人の前でしちゃ駄目ですよ……ひゃ〜〜〜……」
「何そんな茹で上がった顔してんの。前にも見たでしょ」
「そういう問題じゃないですよぉ……わたしも同じこと姉さまにお願いしたら流石にマウストゥマウスは拒否されましたし……」
それはそうでしょとツッコミを入れているとレースの時間が近づいてきた。私は再び席を立ち、部屋の扉の前に立つ。
「それじゃ行ってきます!」
「ああ、頑張ってこい!」
「1番最初にゴールインするところ楽しみにしてますねっ!」
─────
3200mという長距離コース。前走の大阪杯で見かけたティアラ路線の子たちは姿を消し、クラシック路線を中心に歩んできたメンバーばかりが顔を揃える。もちろん3000mの菊花賞などの長距離重賞を制したステイヤーたちが集うハイレベルな一戦。そんなメンバーの中で私は去年の菊花賞や前走の大阪杯の勝ちっぷりを評価されたのか、堂々の1番人気でレースを迎えた。
「スゥ〜〜〜……ハァ〜〜〜……よし!」
いつものようにゲート裏で深呼吸をして体を落ち着かせる。この長丁場、始まる前から体に力が入っているとスタミナがどれほどあっても最後までしっかり走りきることができない。それを菊花賞やこれまでの練習で嫌というほど教え込まれた。
『さあ最長距離のG1天皇賞春。1番人気は去年の菊花賞の覇者、そして前走の大阪杯を制した13番メジロエスキモー! 2番人気は一昨年の菊花賞覇者、そして去年のこのレースを制した14番フィレラヴォア! 人気の2人が外枠に入るという枠順となりました今年の天皇賞春。果たしてどのような結末を迎えるのか! ファンファーレも鳴り、各ウマ娘ゲートへと入ってまいります』
(注意すべきは隣のフィレラヴォアさんと前でレースを運ぶ内枠のヴェルディさん……2人の位置は常に把握しておかないと!)
気合十分にゲートへと足を踏み入れる。そして静かにスタートを待ち……
『──そして最後に大外14番フィレラヴォアがゲートに収まりまして態勢完了……スタートしました!』
一斉にゲートを飛び出す。少し遅れた子もいるが私はいつもどおりにすんなりとゲートを出て好位につける。
- 84メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:38:55
『何人か出負けした子もいましたがすぐに前へと取りつきます。さあ最初の坂越え、ここで先頭を伺いますのは4番ルチルクォーツ。すぐ後ろに6番ヴェルディがつけて坂を下っていきます。1番人気のメジロエスキモーは3番手集団の少し外、2番人気のフィレラヴォアは中団やや後ろに位置取っているか……おっとここで3番手集団から8番ミラクルが前に一気に迫ってハナを奪いました!』
(長距離戦の入りにしては少しペースが速い気がする……無理に追いかけるのは危ない? いや2番手以降はそんなについて行ってないからここで楽に走らせるとマズいかも……)
確かに先頭はペースを上げて後続との差を広げにかかっているが、ヴェルディさん始め2番手から前に詰めていくような子はいない。みんなここで深追いすると最後息切れするのが分かっているみたい。
『──さあ1回目のホームストレッチに入りまして最初の1000mは……1分ちょうど……いややや切るペースか。この距離にしては速めに流れています。先頭と2番手の差は5バ身ほど、またそこから3番手集団との差も4バ身ほど開いています』
(やっぱり先頭が無理を承知で逃げているだけね……私はまだ待ちの時間。いつものように坂の頂上の少し手前から前を捉えに行けばいい)
レースも半分を過ぎようかというところ、マイル戦ならとっくに決着がついているような時間を使って私たちはようやく中盤戦へと足を運ぶ。
『──先頭は変わらずミラクル。2番手との差をキープしています。その2番手も変わらずルチルクォーツ、3番手以降の隊列にも大きな変化はありません。まもなく2000mを過ぎますが……こちらも平均より速め、2分を切るペースで前が飛ばします。人気のメジロエスキモーは4、5番手の位置から前を伺います』
(我慢……我慢……!)
ようやく後続が迫ってくる気配を感じる3コーナー手前、残り1000mほど。我慢に我慢を重ねた私の脚も今か今かと疼いている。
(1秒……2秒……3秒……今……!)
『──まもなく坂の頂上を迎える所ですが、おっと!? ここでメジロエスキモーが仕掛けた! 4番手、3番手と先頭との差を一気に詰めていく! これを見て他のウマ娘のペースも一気に上がります!』
(待ちじゃなくて攻めの姿勢。他の子の仕掛けなんて待たなくても自分のペースで走れさえすれば必ず……!)
- 85メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:40:08
『──さあ坂を下って最後の直線へと突入します! ここで先頭はミラクルからヴェルディへと替わりますが……やはり来ましたメジロエスキモーが前を捉えて先頭に立ちます! その後ろからはフィレラヴォアも追ってくる!』
(私についてこられるもんならついてきなさい!)
加速はまだ止まらない。振り返るとみんなが必死な顔をして私を追ってくるのが目に映るけど、そんな脚じゃ私にすら届かない。
(私が見ているのはさらに前! あの子の姿なんだから!)
『──メジロエスキモー突き放す! 残り200mでリード4バ身から5バ身! 2番手争いが激戦になりそうだがこれは文句なし! メジロエスキモー今堂々と1着でゴールイン!』
世界の制したメジロの新たなる至宝も桃色の閃光もいないこのレース、負ける道理がなかった。レコードという結果はペースが流れた結果だから気にもならない。
『タイムはレコード! 3分12秒3! 今年の春の天皇賞はレコード決着となりました!』
(やっぱり距離が長い分息の入りはゆっくりだけど……うん、もう大丈夫。私、強くなってる)
今年3度目のウイニングラン。自分で言うのはおかしいけれどもうこの中長距離のカテゴリーで国内に相手はいない……あの子を除いて。
(早く……早くあなたと走りたい……早く戻ってきてよ。ね、エスキー)
既に私の意識は夏を越えて秋の大舞台へと飛んでいた。
─────
「お疲れさまです、エスキモーちゃんっ! レコードですよ、レコードっ!」
「最初の入りから速い決着かなと思ったけど想像以上だったな、おめでとう!」
「ありがとう2人とも」
大阪杯と同じように出迎えを受ける。そしていつものようにトレーナーに抱きつこうと思って近づいたらその陰に……
- 86メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:40:49
「エスキモーおめでとう」
「マ……んんっ! ドーベルさん! ありがとうございます!」
「大変だったでしょ。アタシは走ったことないけど、ひとまずゆっくり休んでそれからライブ頑張ってきて」
ここまで来て祝ってくれるとは思ってなかったから嬉しさがいつも以上にこみ上げてくる。それと同時に少し甘えたい気持ちが湧き上がってきて、いつもならしないお願いをしてしまった。
「はい……えーっと……少しお願いしたいことがあるんですけど……いいですか?」
「え、なに? アタシにできることだったらいいけど」
「ギュッてしてもらえないかなーって……嫌なら全然いいんですけど!」
突然だし今までこんなワガママ言ったことなかったから断られるかと思ったんだけど、意外にもあっさり許可してくれた。
「それぐらいなら全然いいって。はい、ぎゅー」
「あ、ありがとうございます……あったかい……」
目がトロンとし、耳もペタリと横に垂れ、尻尾もだらりと完璧なリラックス状態。後ろでエスキーがギャーギャー言ってるような気がするけどそれも全然気にならない。
「よしよし、よく頑張ったね……はい、これでいい?」
「……はっ! は、はい! ありがとうございます!」
「今意識飛んでたでしょ」
「い、いえそんなことは……あるかも」
ドーベルさんの温かさにレース後の疲れも吹っ飛び元気が再充填される。これでライブも全力で臨むことができるかも。
「それじゃあ控え室に戻ろっか」
「……エスキモー、いつものは?」
- 87メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:41:35
控え室へと歩き出そうとした時、トレーナーが自分を指差し私に声をかけた。えーっといつものいつもの……あっ。
「もうトレーナーは欲しがりだなあ。はい、ぎゅー」
「そういう訳じゃないんだけど……まあいいか……」
そうして2人が抱き合っているところをまた別の2人が少し離れて見つめる。
「相変わらずラブラブですねえ、あの2人」
「えっ、あの2人付き合ってたの!?」
「姉さまは気づいてなかったんですね……」
「……あとで話聞いてこよっと」
少し呆れ気味の声と何やら少しやる気が入った感じの声が2つ聞こえてくる。そんな2人の声をBGMにして、しばしの間トレーナーと抱き締めあった。
──明日からの温泉旅行、本当に楽しみだなあ……
- 88メジロエスキーの人22/10/23(日) 07:41:55
今日はここまで。それではまた次回
- 89ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:22:35
SS投下します
- 90ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:22:54
『青(くろ)く曜く菊の花』
――菊花賞を、見に行きませんか。
アドマイヤラプラスがトレーナーにそう提案したのは、10月も半ばを過ぎた頃だった。秋の天皇賞に向けて追い込みを掛けるべき時期……のはずなのだけれど。
「構わないが……どうしてまた?」
「云うじゃないですか。”皐月賞は最も早いウマ娘が勝つ”、”ダービーは最も運の良いウマ娘が勝つ”。そして”菊花賞は最も強いウマ娘が勝つ”って」
「また随分と手垢の付いた格言を持ってきたな。少し気が早いが、敵情視察と云ったところか」
「手垢が付いてる、と云うのは否定しませんけれど。でもそんなに気が早いですかね? 場合によっては今年中に同じレースを走る可能性も有りますけれど」
無論、菊花賞から秋の天皇賞へ連闘する”とち狂った”としか表現出来ないローテーションを組むウマ娘とトレーナーは居ないだろうけれど。
秋から年末にかけて、年内に於ける中距離くらいの大舞台(ジーワン)と云えば、残るは国内ならジャパンカップか、有馬記念。
香港に目を向けるなら、香港カップや香港ヴァーズも選択肢だろう。このうちどれかでかち合うことは、十分に考えられることだ。
このトレーナーはあまり間隔を詰めないローテーションを好むようなので、次走が年内であればおそらくは沙田(シャティン)でのレースではないか。そう予測する。
「なるほど。それなら理解は出来るか……もっと足許を見ろよって云うつもりだったんだが」
「酷い云い種ですねぇ。トレーニングで手を抜いたつもりも無いですし、私がどれくらい頑張ってるかはトレーナーさんが一番ご存知かと思いますが」
少しだけ棘の有る返答をしておく。まあ「オーヴァーワークに気を付けろ」と云われてて、それを守れていない自分にも問題は有るのだけれど。
「それもまあ、そうか……じゃあ休みがてら、京都に行ってみるか」
「お願いします。いやー、きさらぎ賞以来の京都ですかー。お土産どうしようかなー」
「おいおい、観光じゃないんだぞ?」
トレーナーの苦言は、敢えて無視した。休みがてらと云うのは、自分に云い聞かせるつもりの言葉だったから。
今回の観戦で遅れる程度の鍛錬は、既済の自主練習で終わっている。それよりももっと高みを目指さないといけないことに、少しの高揚と苦痛とを覚えていた……。 - 91ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:24:09
「実際問題、展開の予想としてはどうなんだ?」
「面白いですね、予想し甲斐が有ります。クラシック路線を走ってきた子と、夏や秋の上がりウマが半々くらい、と云ったところでしょうか」
本音だった。あまり上がりウマが多いと予想が出来たものではないし、逆に昨年や春から活躍したウマ娘が多くても面白味が薄れる。丁度良いところであった。
「流石に全員3000mは未知の領域ですから、あまりハイペースにはならないはずです。まあそれくらいはトレーナーさんにも自明の理かとは存じますが」
「問題は、誰がペースを握るか。そこに絞られると云うわけだな」
「そう云うことです。まあ多分、人気を集めたウマ娘をマークする、と云う形でペースが形作られていくんだろうな、て予感は抱いてますけど」
ただ、今年は皐月賞ウマ娘グランドカプリースも、ダービーウマ娘グロリアスブレイズも、菊花賞には出走していない。
事前の1番人気にはダービーを惜敗し、神戸新聞杯で勝ち名乗りを受けたフブキカスケイド。春から存在感を示しており、秋には成長を見せた。人気は揺るぎない。
その神戸新聞杯は終盤まで5番手で追走し、抜け出したら突き放す。それだけ見れば王道の勝ち方だが、バ群をイン突きでぶち抜いたことは毀誉褒貶が激しい。
追って2番人気には、こちらも菊花賞トライアルであるセントライト記念を制して淀に乗り込んできたムラマサノヨウトウ。
名前に違わぬ凄まじい切れ味の末脚は、まさに紫電一閃。「中山の直線は短いぞ」と実況されるまでの長さで全員差し切った刹那の煌めきに期待するファンは多い。
以下は秋に勝ててないがダービー敗北から立て直したサトノアルシラ、ジュニア級の頃から重賞戦線で好走を続けているエンドオブライン、その他と続いている。
「ラプラスは注目してる子は居るのか?」
「んー、ライバルになり得るって意味では全員ですけど。純粋なファン目線としては、11番人気ですけどボンボニエールさんですかね?」
「ほう。して、その心は?」
「彼女、デビュー前はティアラ路線に行くのでは、って云われてたんですよ。それが札幌日経オープンを勝って菊の舞台に居るわけでして」 - 92ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:24:41
ラプラス自身からしても「良くぞ挑戦した」と称えたい、そんな気分だった。実際、春は桜花賞やオークスを目指していたのはトレーナーも知っている。
尤も。ボンボニエールから見た実情は、前走の紫苑ステークスで勝てずに秋華賞への切符が得られなかったので、層が薄いと見た菊花賞に切り替えただけなのだが。
その両睨みとして札幌日経オープンを走っていただけ。転ばぬ先の杖を機能させたことは、外野から見たら感じられぬのも無理からぬことであった。
先週の秋華賞は、フルールドゥオーロが今までの殻を破ってGI戴冠を果たしている。彼女のテンションが上がり過ぎてインタヴューにならなかったのは傑作だった。
「レースに話を戻すと、誰が先頭に押し出されるか……か。内埒好きを考えるとフブキカスケイドが出る展開も有り得るか?」
「押し出されるも何も、逃げウマ娘なら居ますよ?」
ぽかんとした表情で自分のことを見つめるトレーナーが、なんだか無性に可笑しかった。
「――5番人気のハピネスブラック。忘れましたか、トレーナーさん?」
そもそも彼女は上位人気でなければおかしい。同じ舞台で走っているだけに、余計そう思う。皐月賞だってダービーだって、端を切って走っている。
勝利してきたオープンのレースは、昨年の萩ステークスも、今年のすみれステークスも、両方逃げ切ってのものだった。
ただ、前走の京都大賞典はシニア級のウマ娘を相手取ってなお好位から差し切っての重賞初制覇だった。その印象が強かっただけに、失念していたのだろうとは。
実際のところ、ラプラスは彼女を買い被っていると見て良い。京都大賞典から菊花賞は中1週間しか無いからだ。その疲労まで考慮したら、高過ぎる人気と云えた。
「いや。忘れたわけではないんだが……彼女、脚質を変えたんじゃないのか?」
「私はあれを撒き餌と見てるんですよね」
「……撒き餌?」
鸚鵡返しにされると返答に困る。微苦笑を零して、話を続ける。 - 93ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:24:56
「実際、皐月賞ではハイラップで逃げた彼女が、ダービーでは溜め逃げを覚えていた。ならば秋には――と云うのも理解は出来るんですけど」
「ふむ」
「それを逆手に取ってラップを刻んでくるんじゃないか……と云うのが私の予想なんですよね」
「実際問題、彼女が逃げ切れると見てるのか?」
ラプラスが思案に沈んだ。ノーマークでの大逃げなど、低い人気でならば長距離の逃げは一発が入る可能性が存在する。ただ、人気を集めてのそれは別。
それこそセイウンスカイのような逃げの専門家(スペシャリスト)か、キタサンブラックのような長距離専(ステイヤー)でなければ難しいだろう。
……後者に関しては、菊花賞では逃げていなかったけれども。
上位人気ではないものの、ハピネスブラックとて注目ウマ娘の一角である。全くマークされないことは考え難い。であるならば――。
「……――難しいと思いますよ。京都大賞典で周りを出し抜いたなら尚更に。裏の裏まで読まれてたら作戦失敗ですからね」
実際、当時の京都レース場では一度場内がどよめいていた。出遅れてレースを諦めたか、と見られたのである。結果は知っての通りであるが。
「それなら、どうしてハピネスブラックの名前を?」
「――忘れ去られた逃げウマ娘が、一番怖いからですよ」
今までの台詞総てを、平板に云えていただろうか。そんな胡乱な想像と共に、手許のお茶を嚥下した……。 - 94ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:25:45
「うーん、風が気持ち良いですねー……やっぱり来て良かったな、京都」
「完っ全にファン目線じゃないか……敵情視察の名目はどうしたんだ?」
「嫌だなあ、ちゃんとパドックから観察してますとも。尤も、今日どれくらい仕上げてきたか、くらいしか判らないんですが」
「その判断が出来るだけ、君が良くレースやウマ娘を分析出来ていることの証左なんだと思うがな……」
褒め言葉なのだろうが、どうしてかそれを素直に受け取ってはいけないような気がした。
『クラウン路線最後の一冠、菊花賞! この淀で大輪を咲かせるのはどのウマ娘か!』
『1番人気はフブキカスケイド、そして2番人気にはムラマサノヨウトウ。両トライアルを制したウマ娘が人気を集めているようです』
『3番人気はエンドオブラインが、4番人気にはサトノアルシラが入っております』
『――各バがゲートインしました。クラシックも最終戦。最後の頂へ、さあ征こう。菊花賞のスタートです!』
がこん、と云う音と共に、ゲートが開く。その瞬間、観客から歓声が上がった。何故かと云えば――。
『内枠2番のハピネスブラックが端を奪いに行きました! 前走の疲れも吹き飛ばすように、逃げる逃げる早くも先頭に立った!』
果たしてラプラスの予想通り、ハピネスブラックが端を主張したからだ。行き足のままに加速し、2バ身ほどのリードを保って走る。
彼女を突きに行くウマ娘は、居なかった。楽に逃したところで、自分よりは疲れているのだからそのうちバテる。そんな判断をしていると錯覚させるほどだった。
実際、皐月賞もダービーも、逃げた結果潰れているのだ。大舞台でのそんな過去が、周囲の楽観視を許した。
上位人気には末脚自慢が多い。如何な前目のレースをしたウマ娘が勝ち易い京都でも、人気のウマ娘を無視して逃げウマ娘を捉えに行けば、確実に莫迦を見る。
「逃げウマ娘をほっといたら大変なことになるよって、私云った気がするんだけどなぁ……あっ」
「そんなこと、誰にも云ってないだろうが……ん? どうした?」 - 95ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:26:03
莫迦を見ることになるウマ娘が、一人居た。1000mの通過タイムが1分と少し。少々縦長になってきたバ群から、先行してくるウマ娘が出てきた。
深雪を思わせる銀の髪。白磁に浮かぶ汗はダイヤモンドダスト。そのウマ娘の名は――。
『フブキカスケイドが来た! 早くも先頭に襲い掛かる勢いです!』
人気も人気のフブキカスケイドだった。流石に何度も同じレースで戦っていただけはある。ハピネスブラックの意図に気付いたのであろう。
これは莫迦を見ないかも知れない。自分が人気を背負っていれば、どうせマークは受けるものとして考えることが出来るからだ。
そして先頭に食らいつく。しかし、ハピネスブラックと並ぶことは無かった。
『おおっと? ハピネスブラックは端を譲りましたね……これはどう云った狙いなのでしょうか?』
『いやー、解りませんね……息を入れるにしては少しペースを落とし過ぎている気がしますし……』
解説の言葉通り、ハピネスブラックは4番手ほどで追走している。先頭に押し出されたフブキカスケイドは、困惑しているようだった。
「――ペースが落ちてきてるな。これは末脚勝負になるか……?」
「彼女、道中で先頭に立ってるのは初めてのような気がするんですよね……それがどうなるか」
「まあ上位陣は直線よーいどんの方が、持ち味は出るだろうからなぁ。ペースを落としたくもなるか」
向こう正面でも、レースは淀み無く進んでいた。先頭はころころと入れ替わっていたけれど。恰もスリップストリームを活かすマラソン選手たちのように。
そんな展開になってなお、ハピネスブラックが端を奪いに行くことは無かった。雌伏していると云う表現が似合う姿で。 - 96ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:26:39
『さてレースは終盤、第3コーナーの”淀の坂”に掛かって――』
いきます、と実況しようとしたところで、仕掛けたウマ娘が独りだけ居た。そのウマ娘は、濡烏の髪をたなびかせ、猛然と進撃する。
『なんと! ここで! ハピネスブラック先頭! 勢いに乗った状態で坂を駆け降ります!』
「いや無理だろう……いくらなんでも早過ぎる。あれじゃ自分から潰れに行くようなものじゃないか……」
「――そんな。そんなことが有るんだ……それじゃまるで――」
呆然とした顔でラプラスが零す。そんな表情が気になって、トレーナーは訊ねてみることにした。
「おいおい、あの子を応援でもしてたのか?」
弾糸、ラプラスの顔が「何を云っているんだこいつは」と語った。今度はトレーナーが困惑する番だった。
「茶化さないで下さい。先日『京都大賞典は撒き餌』って云いましたけど。あれ、撤回出来ますか」
「どう云う意味だ……?」
トレーナーの顔にも険が籠もった。そんな面を見て、ラプラスも吐き捨てるように続ける。
「京都大賞典のレースは今回逃げる為ではなく『自分が囲まれても問題無くレース出来るか』の確認の為だったんですよ。勝てたのは望外の僥倖だったんでしょう」
「……はあ?」
「撒き餌としての効果は、確かに有ったのかも知れませんが。誰かに競り掛けられた時点で端は譲るつもりだったんでしょう――おそらくは、息を入れる為に」
「つまり……裏の裏の裏、ってことか……?」
「そう云うことになりますか。あんな滅茶苦茶なレース展開を構築出来る時点で、彼女がとんでもない長距離専(ステイヤー)だった――そう云うことなんでしょうね」
云い切ると、ラプラスは最終直線に目を向けた。眼前では、壮絶な叩き合いが繰り広げられている。
もう少しだけ伸びて欲しい。そう希(ねが)った。自分には、もうそんな資格が残っていないかも知れないのに。
『ハピネスブラック逃げ切った! 2番手以下は混戦か! 淀に咲くは真っ青(くろ)な菊! 祝福の青(くろ)い菊が大輪だ! ハピネスブラックGI初制覇!』 - 97ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:27:02
ライヴが終わるまで、きっちりと堪能する。これから撤収の予定なのだが、トレーナー曰く「自然に呼ばれた」らしい。
――日本語で云っても、意味が通らないんじゃないですか? そう云いたくなるのを喉許までに押し留めて、彼を送り出す。
ここに来てから初めて迎える、独りの時間。余韻に浸ろうと目を瞑りかけたそのとき”彼女”が居た。
「ハピちゃん……」
「見つけた」
――ハピネスブラック。当代の菊花賞ウマ娘。そしてアドマイヤラプラスにとっては、幼い頃からの友人であった。
「何時から気付いてたの?」
「レース場に出たとき」
「思いっ切り最初から……なんてこと。これなら行くよって云っておけば良かったかなぁ」
今の今までろくに連絡なんてしなかった癖に。そんな言葉が脳裡に走る。それでも、口を衝いた台詞は止められなくて。
ハピネスがトレセン学園に入学していたことは知っていた。けれどラプラスから接触することは無かったし、その逆もまた然りだった。
「何はともあれ――おめでとう、ハピちゃん。凄いレースだった」
そんな状態だったのに、こうして会えば、気兼ね無く話が出来る。気が置けない、とはこのことなのだな、なんて。妙な納得がラプラスの中に広がった。
「有り難う。でも、どうしてここに?」
「私は走らなくても、クラシックの大一番だからね。これからの為にも、強い子が居ればチェックするつもりだったから」
この云い訳が本音だったのかどうか。今となっては判らなくなってしまった。ハピネスの晴れ舞台を見に来た、それも間違いではないのだから。
そして彼女が、自身の想像をも上回って最後の栄冠をもぎ取った。強力なライバルは身近に居たのだと、そう痛感させられる。
これから、どれくらい道が交差するかは判らないけれど。それでも、何時かまた同じレースで戦うことになるだろうと感じた。 - 98ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:27:52
「次のレース、決めてるとか有るの?」
「判らない。春の天皇賞は目指す。それまでに流石に1回か2回はレースを挟む」
「そっか。まあ確かに、レース終わったばかりの状態で次のレースの相談なんて出来ないか。まずは休んで、明日から、が現実的だものね」
「うん。――天皇賞、見に行く」
天皇賞と云われて、理解に一瞬の間を要した。目指すと云っておいて何を――そう云おうとした瞬間、ラプラス自身のレースに思いが至る。
「ありがと、ハピちゃん。あんなレース見せて貰ったんだもん、頑張らなきゃ嘘だよね」
「無理しないで。わたしも大変だった」
そんな無茶を通した子に云われてもな、とは思う。京都大賞典から菊花賞なんてローテーションで連勝しておいて。
でも、それを通してしまえたからこその言葉なのだろう、とも感じた。
「そう、だね。無理も無茶も、通さないと勝てない気はするけど」
「天皇賞なら、来年も」
「それはそうだけど。今は、来年のことまで考えられない……かな」
先のことを見据えてこのレースを見に来たつもりだったのに――そんな感情を言外に籠めて。 - 99ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:28:11
「ねえ、ラプ」
「どうしたの、ハピちゃん。急に改まったりなんかして」
ハピネスがぎゅっとラプラスのことを見つめた。あの頃と変わらない、真剣なときにする表情だった。
ハピちゃんはハピちゃんだ。そのことも含めて、やっぱり今日は京都に来て良かった。そう感じる。
「わたし、追いつけた?」
――だから、そんなことを訊いてくる彼女が可笑しくて。
「何云ってるの、皐月賞だってダービーだって走ったじゃない」
「……え?」
「あなたはずっと、私の前を走っていたよ、ハピちゃん」
――そう云ってやる。お互い含羞むように微笑って、2人でトレーナーの許に戻っていった……。 - 100ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 10:28:57
以上です
エミュが出来てるか不安だしレース展開おかしいしローテーションがありえないし
終わってんじゃないかこれ - 101二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 13:29:13
くそっ!またイチャつきやがって!
俺ちょっといやらしい雰囲気にしてきます!
なにっ そういうレベルを超えて最早夫婦!
確か春シニア三冠路線だっけ…キタサンブラックすらも破れた路線だから期待
今日が菊花賞でタイムリーなSS!
ヨゾラギャウサルの人とラプラスの人にどんな繋がりが…?って思ったらそんなのあったんか…知らなんだ……。
- 102ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 15:01:54
同室になりませうって話になったときにラプ中さんが「お互いの帯同馬にしようと思ったけど世代合わない(意訳)」って仰有ってたので「じゃあギャウちゃんの父親をラプラスの同世代にしましょう」ってなったのですわ
お互い血統を変える紆余曲折を経て今年クラシックの世代に落ち着きました
なおハピちゃんは父ビートブラック母リネンハピネスの脱法ライス産駒です
- 103二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 15:33:48
脱法米
- 104ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 15:49:31
早くギャウちゃんの話を書けよって話なんだよなあ……
- 105二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 17:17:40
- 106二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 17:31:09
- 107二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 17:32:16
このレスは削除されています
- 108ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 17:33:53
父親は「黒を打ち破る」って意味なんですがそれは
- 109ナックル宅の壁22/10/23(日) 17:34:59
- 110ラプ中22/10/23(日) 17:57:41
👍
はえーラプエミュ完璧… - 111ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/23(日) 18:08:35
(台詞回しの意識はラプと云うよりセイちゃんの方が近かったことをお前に教える)
(予定では最後ハピちゃんと別れた後にブレイズかカプリースと会うつもりだったんだがなんかエミュ出来なくてやめた) - 112ラプ中22/10/23(日) 18:10:19
(実際ラプラスはセイちゃんのイメージも入れて作ったので方向性が一致していることを教える)
- 113二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 18:16:36
解釈が一致してますね
素晴らしいことです - 114キタサンアイドルの人22/10/23(日) 19:47:03
流れをぶった斬るようですみませんがss投下
【白い彗星】
「始まりますね」
[ええ、楽しみね]
脚質はゲート難の関係上追い込みになりそうだとコメトレから聞いた。しかしどの脚質でも言えるが同じ追い込みでもウマ娘によって癖が出る。実際に見たほうが早い。
『おっとゴールドコメットゲートに入らない!』
コメット「いやだーー!!入らないー!!」
コメット「狭い所嫌いなんだよもー!!」
「……ぐずってますね、見事に」
[そうね…というかアイドルコメットに対して当たり強くない?]
「はい、なぜかウマソウルがうずきます」
[何か運命なのかもね]
「運命ですか、カッコイイですね」
『各全ウマ娘ゲートに入りました。芝1800mメイクデビュー、今スタートしました!』
ゴールドコメットは案の定出遅れた。だが彼女が有名になったのはそれをも打ち消す末脚があるからだ。
[末脚に期待だね]
「ふふ、なんだか悪の幹部みたいですねワタシ達」 - 115キタサンアイドルの人22/10/23(日) 19:51:07
[あはは、そうね。悪の幹部ごっこでもやってみる?]
「いえ、それは帰ったらやりましょう」
[オケ、せっかくならコメットもトレーナーも巻き込みむしょう!どうせ打ち上げするんだろうしさ]
「はい!…と、コメットちゃんはまだ後方ですね」
[そうね。……いや、何か狙ってる]
コメット「たあァァァァア!!!」
モブウマ娘「っ!?」
「すごい気迫…!」
[……なるほど、噂通り…いえ、噂以上ね]
ゴールドコメットは見事なごぼう抜きを見せ…
『なんと5馬身でゴール!!他のウマ娘を寄せ付けぬ見事なごぼう抜きだ!!!新時代の怪物の誕生か!!??』
[……ふふふふふふ。研究しがいがあるわ!!!!]
「ゾクゾクしてきますね、トレーナーさん!!」
[ええ!帰ったらレースを徹底的に分析するわよ!!]
「おー!!」
…研究癖からついテンションが上がってしまい、アイドルに強制的に眠らされるまでぶっ通しで研究したのであった……。 - 116キタサンアイドルの人22/10/23(日) 19:52:40
【後日談】
[あっ、打ち上げ忘れてた…せっかく後輩から巻き上げようと思ったのに…]
コメトレ[良かった先輩忘れてて!…割り勘でやる?]
[喜んで!!]
__
ゴコメちゃん大暴れしてますね…ゲート難すぎます - 117カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:40:11
ギャウサルさんのタイムリーなSSに、ダンスローバストさんとキタサンアイドルさんもコンスタントな投稿をいつも楽しませてもらってますわ! そしてエスキーさんがほぼ途切れることなく大量にブン投げてる……
というわけで夜長のお供に自分も投稿させてもらいますね、昨日の続き&回答編です!
8レスほど失礼します……! - 118カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:41:21
「海ーッ! イェーイ!」
「海! 夏! さあ逢瀬と参りましょう!」
「うん、海だね……寝かせて……」
「ふぁぁ……スクエアちゃんは私が連れて行くので、皆さんは2人と一緒に向かってあげて下さい……」
トレセン学園の夏休みは割と長い。大体7月の頭から8月の末まで、つまりGⅠの開催されていない夏レースの時期。その関係で、特にクラシック級の有力選手はこの時期を出走に充てず、学園が所有する夏合宿用の施設で強化特訓に励むのがセオリーになっている。
ただ幼馴染の皆……というかそのトレーナーさん達は、もう少し格安かつ設備もある程度整っている場所を知っていて。曰く研修をここで過ごしたんだとか。そこで6人して引き籠る予定だったけど、思わぬ第三者のエントリーで8人泊まりになったという経緯。
現時点でだいぶグロッキーなスクエアちゃんと、それをおぶって運ぶ私も欠伸が止まらなくて。部屋に入ったら一緒に寝てしまおうか、なんて降車前に話していた。
『あれだけ勉強見たのに赤点取るなんて嘘だよね』とはスクエアちゃんの談。英語と古文が壊滅的に苦手なミツバちゃん……いやその話ぶりで古文無理は読めないんだよ。一方、暗記系がダメなヘルツちゃんは理科と社会を筆頭にボロボロ取り零していた。思えば初対面の時から片鱗あったんだな……
そんなこんなで追試を、今度こそ赤点なくパスさせる為に必死で勉強を教えていた2週間。私は参加できる時だけだったけど、明けても暮れても2人の面倒を見る羽目になっていたスクエアちゃんは本当に大変だったと思う。
あの図書館での邂逅。学力面では学年トップクラスなはずのスクエアちゃんが、3人の中で一番酷い顔色してたっていうから恐ろしい話。私? まあギリギリ指で数えられるくらいの順位、要領悪いなりに数だけはこなしてフォローさせてもらってたよ。
そんなこんなで奇妙な友情を育みながら、無事に追試を乗り越えたのが昨日の午後のこと。ねえ何であの2人あんなに元気なの? その後お祝いに沢山ご飯食べたから? 2ヶ月間ほぼ休みなく担当トレーナーと一緒にいられるのが確定したから? そっかぁ……
結局、そんな都合を斟酌してくれたトレーナーさん達によって、私達2人は部屋に着いて早々にお布団に沈目てもらった。その間、ミツバちゃんとヘルツちゃんはトレーナー勢4人からたっぷり絞られたらしいよ。うん、自業自得? - 119カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:41:44
ホイッスルの音が空を裂き、一斉に4人がスタートする。砂浜1000m直線、瞬発力と持久力を磨くためのトレーニング。コーナーが存在しないから駆け引きの一切存在しない、身体能力とレーススキルだけが問われるメニュー、なんだけど……
「いや、何これ……!」
リハビリ明けで久々の全力疾走、それを差し引いても走りにくさが段違い過ぎる。ダートのバ場とはまた違った感触、力のほとんどが分散しているのが肌感覚で伝わってくる。そして苦戦しているのは私だけじゃなかったようで。
「いやー、ここまで力が出ないとはねー」
「普段の芝がどれだけ走りやすいか実感するわ」
「砂、嫌い! でも楽しい!」
先着していた3人が、汗だくになりながらこちらを振り返っている。こういうところで息を整えるのが早いあたり、スタミナの違いを実感させられる。
「でもミラージュちゃん、一歩大きい!」
「確かに。これだけ踏み込んでるなら相当ロスってそうだね」
「体格の差かしら……慣れないうちは不利なのかも」
言われて私も振り返ると、砂浜だけあって足跡が分かりやすい。ざっと目算して……あれ、私の歩幅、かなり広くない? 私の7歩がみんなの9歩、明らかに砂を撒き散らしている量も多い。
そっか、脚が長いからストライド走法の方が安定するって考えていたけど、砂の上だと踏み込みの強さを活かし切れないのか。だったらもう少し脚を回して……
「……もう1回! もう1回お願い!」
「もちろん! 次も私が先頭!」
「それだけやる気なら、私たちも調子が上がるわね」
「じゃあ、やろっか。こっちもコツ掴んできたしね」
トレーナーさん達の指示を待たず勝手に決めてしまったけど、向こうも想定内だったようで。すぐに整列して、深呼吸を一つ。大丈夫、私はしっかり走れている。少し回復が遅いだけで……十分、着いて行けている。
2度目のホイッスルの音。脚を前へ、前へ、前へ前へ前へ! どうせ練習だ、10本負けたって11本目に勝てれば十分! それより今は、この経験と成長を実感するだけ!
この2本目も私が4着だった、けど……半バ身くらいは迫れたはず。その後も、今日のトレーニングは砂浜に慣れるためのスプリント一種だけと決まっていたので。
最終的に私が3着へ食い込めたのは、17本目でスクエアちゃんを抜き去った瞬間だった。 - 120カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:41:58
かぽーん……
「ふぃー……」「はぁ……」「あ゛あ゛あ゛あ゛」
「へ、ヘルツちゃん……?」
砂まみれの全身を外のシャワーで流し、広々とした湯船で癒やす。聞いた話、20人くらい泊まれる旅館なのに最近客入りがボロボロで、8人で行きますって言った時には両手を挙げて喜ばれたんだとか。
というか特に私達2人、ほぼ一見さんってことで滅茶苦茶歓迎された。何なら夕食も私達の分だけ一品増やすって言い出してたし。最終的に8人分増えたけど。
あ、でも聞いた話トレーナーさんが4割出したんだっけ合宿費用。「恩売れる時に売っとけ」って言ってたのを思い出した。「新卒の新人トレーナーとか生活費カツカツだろ、元社会人の貯金を舐めるな」とも。
昨日のお説教で流れた分、今日は4人で飲むって言ってたけど、この調子だと主導権握ってそうだな……まあいっか。
「にしても」「ええ……」「浮いてる!」
「……?」
3人の視線が私に、というか私の胸部に寄せられているのに気付く。言われてみれば他の皆は水中に慎ましく浸かっていた。けど私お腹周りも太いから、胸もサイズが大きいだけでスタイルだと皆の方が立派だと思う。特にミツバちゃんとか腰回りエグかったし。
「やはりトレーナー様も殿方、ミラージュちゃんのような娘の方が好みなのでは……?」
すとんと落ちた胸を撫でながら不安がるミツバちゃん。発言とか体格、性格は大和撫子っぽい女の子だもんね、勝負服はメイド服だし何故かハサミ取り出すけど。
「いや、流石に心配いらないと思うよ? ミツバちゃんはもちろん、スクエアちゃんもヘルツちゃんもトレーナーさん方からの視線が全然違うし」
「そうかしら……?」
「うんうん」「ミツバは心配性!」「自分の話でもあるけど、ミラージュちゃんに同意かなー」
2人の同意にうんうんと頷く。何だろうね、つい6人組って言いたくなるけど、実際は名コンビ3組がたまたま互いに仲良しだけだったというか。このグループの関係性って、何があっても最終的には友人じゃなくて相棒を選びそうな距離感というか。もちろん、それを否定する気は全くないけど。
「というか! ミラージュちゃんも! トレーナーとの関係! 教えて!」
「えっ」
なんて外野からわちゃわちゃを見守っていたところ、急にカッ飛んでくる危険球。
「あ、それ私も気になるねー」「ええ、参考に教えてほしいわ」 - 121カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:42:14
あれおかしいな、逃げ道が見つからないな? 何てことだもう助からないぞ、そんな現実逃避は傍に置いておいて。
「うーん、私のことになると親身になってくれる人、ってくらいの印象しかないかな。もちろんすごく信頼と尊敬してるよ? ただ恋愛感情とかは持ってないというか。まだ1年と少しの付き合いだしね」
出会った時から今までを思い返す。選抜レースで一番の秘密を抉り出されて、メイクデビュー後に高そうな宝石のアクセサリーくれて、ホープフルSの時は途中で倒れたのを運んでくれて、皐月賞で脚折った時にはわざわざ信頼できる個人医まで連れて行ってもらって、日本ダービーの時とかもう一回トラウマ抉られた上で解決策を提示してくれて……
「私、身体弱過ぎない……? というかもしかしてトレーナーさんって私のこと……」
後で聞いた話だけど、なんか知らない間に脳波とか脈拍数とか記録されていたらしいし。どうやってゲットしていたかの方法、心当たりがあるんだよね……よくよく考えると少しゴツいような伊達メガネ……
やっぱりあの人が私に向ける視線というか思考、実験動物とか観察対象に対するソレなんじゃ……
「ミラージュちゃんも心配性なんじゃないかなー」「少なくとも嫌ってはないと思うわ、ここ数日の会話を見ても」「みんな仲良し!」
「あはははは……」
うん、多分これ漏れたの前半だけだな? 肝心の部分は聞こえていなかったようで一安心。適当に笑って誤魔化せそうな雰囲気だった。……というか。
「ミツバちゃんは聞くまでもないとして、スクエアちゃんとヘルツちゃんは考えてるの? トレーナーさんとの結婚とか」
ほんのちょっとした意地悪、女子なら恋愛トークは基本だし私からも。まあ普段の会話からして? ミツバちゃんほどラブラブな関係じゃ無さそうだし? あははって笑い飛ばしてくれるよね!
「……えっとー……」「…………」「……大胆……!」
あれ何か反応おかしくない? もう少し雑なリアクション期待していたのに、全員顔を真っ赤にして上向いて、というか頭もぐらぐら揺れて目の焦点が安定してないような……
「「「…………」」」
「いや違うこれのぼせただけだ!? トレーナーさん!! トレーナーさん!!!!」
……総評として。トレーナーさんには、お風呂でのぼせた時の応急処置方法も教えてくれていたことに、とても感謝するのでした。 - 122カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:42:28
その日の夜。3人のトレーナーから、担当を介抱していたことを感謝されて。一本奢ると言われて受け取った飲み物を片手に夕涼みへ出ていた。無意識に涼を求めるあたり、私もお湯にいくらか中っていたらしい。
環境問題を配慮してかガラス瓶に戻ったコーヒー牛乳を開け、喉奥に流し込む。舌先に触れる苦味と甘みがどこか心地よい、体温のせいで少しぬるくなっていたけれどそれは別に。
天気予報では満月と聞いていたが、曇天の半球は夜闇すら朧げに濁らせて。ほう、と吐いた息を聞く者は誰もいない。
「おっと、門限破りの悪いウマ娘ちゃんがいるなー?」
「……スクエアちゃん、もう具合は大丈夫なの? あと旅館に門限は無いよね」
「冗談冗談。体調も戻ったよ、迷惑掛けちゃったね」
「それなら何より! 迷惑とか気にしないで、トドメ刺しちゃったのは私な気もするし」
真っ暗な海を正面に、2人並んで取り留めのない会話。何処か探り探りになるような余所余所しさを感じながら、それでも奇妙な沈黙に意識を置いていると。
「……あーうん、やっぱりダメー! ミラージュ、何でも答えるから質問して! 一方的に恩を貰ってるのが我慢できないあと“ちゃん付け”辞めたいけど大丈夫ー!?」
「わわわ落ち着いて落ち着いて! ちゃん付けは別に自由でオッケーだよ!? それはそれとして質問!? 急にどうしたの!?」
「だってミラージュ、いつも私達の方見てたでしょ! 特にダービー終わってから私の方ばっかり見てたの気付かないと思った!? けどミラージュ身を引きがちだし! 私達に割り込んじゃダメって遠慮してるでしょ! あと追試の恩もあったし! だからせめてって話! もちろん嫌なら別の方法考えるから!」
「分かった分かった考えるから少しだけ待って! というかまたのぼせてない!?」
とりあえず彼女を宥めながら、何を聞こうか思考を巡らせる。そういえばホープフルSの日、スクエアちゃんがライブで熱狂してるって話をトレーナーさんから聞いていたな。“ここぞ”って時に思いを譲らないのが、ひょっとしたらスクエアちゃんの強さなのかもしれない。
……“ここぞ”って時、か。
「スクエアちゃん、質問の内容決まったよ。……“日本ダービーの大逃げ戦法”。やっぱりこれ以外に無かった」
「……あれかー……うん大丈夫、ちゃんと答えるから安心して」 - 123カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:42:44
予想通りだったのか予想外だったのか、冷や水を被ったように平静さを取り戻したスクエアちゃんの姿に少し安堵。冷え切った砂浜に腰を下ろすのを見て、私も倣う。スカート越しに覗くふくらはぎを、労わるように撫で上げる姿は、どこか芸術作品のメイキングを見ているようで。
「一回くらいなら、走れるって言われてたんだ。誰にも追い付かれることなく逃げ切れるって」
「練習ならブレーキが効くけど、本番でやったら限界を越えようとするだろうから脚の筋肉が焼けるかもしれないって」
「実際には、1ヶ月くらい休養すれば元通りだったんだけど。二度とするなって病院の先生に言われちゃったよ」
「誰も知らなかったのは当然、だって一回見せた時点で全部台無しだから」
「ダービーの時だって、本当は2000超えた辺りで肺が破れそうだったし。勝てたのは執念の差じゃないかな、ってくらい」
「こんなところかな、知りたかった内容は聞けた?」
彼女はゆっくりと語っているだけなのに、口を挟もうと思える余地が一瞬もないまま。隠匿の動機、あの日の表情の理由、知りたかった内容は大方分かった。それでも知りたかった疑問が、もう一つだけ。
「そこまでして、日本ダービーを勝ちたかった理由。そこだけ、まだ聞けてない」
確かに日本ダービーは、国内全レースの中でも最高峰の一つ。その一勝を得るために、一生を捧げるウマ娘がいたとしても何ら不思議ではない、ないんだけど。
私の勘違いで無ければ、ガーネットスクエアというウマ娘はそこに当て嵌まらないように思った。だからこそ、その真意を問い質したいと。彼女自身の口から聴きたいと、思ってしまった。
「……昔の話になるんだけど、構わない?」
「もちろん、その話を聞きたいんだよ」
「敵わないなー」
両腕で脚を抱え込む姿勢から、腕だけを背後に着いて空を仰ぐ。向こう側から吹き抜ける潮風が、私達の短い髪を揺らした。
「私達3人が最初に見たレースが、日本ダービーだったんだ。録画映像、██年。たった3人のウマ娘が三冠を分け合ったっていう、伝説の一年の」
「昔から家ぐるみで仲良しだったから、毎日一緒に遊んでいたけれど。あの日にテレビ見てなかったら、揃ってトゥインクルシリーズに焦がれることは無かったと思ってる」
「私達もこんな風に走りたい! って。3人でレースを制覇する、それだけが当座の目標だったと思う」 - 124カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:42:58
「だから、こうして3人で走れている今は、夢の一部が叶った状態に他ならないんだけど……」
「日本ダービーだけは譲りたくなかった。それが私達の……私の原点に他ならないから」
「ミツバが4戦無敗、ヘルツも4戦無敗。GⅠウマ娘って思わぬライバルも現れて、初めてトゥインクルシリーズで一緒に走った皐月賞」
「ミツバが勝ったことを今では祝福しているけど、当時は少し気が気じゃなかったよ」
「『普通に走る分』には最高潮の走りができたのに、ヘルツには追い縋られるしミツバには抜かれるし」
「……あの日の思い出と、今の楽しみを天秤に掛けて、前者が勝って、そして勝った」
「以上。ご満足いただけたかな?」
「……そっか」
ここまで聞いて、心の奥に芽生えた感情。もちろん彼女は……彼女達は、努力も凄いし才能も凄いウマ娘だ。けれど、多分それ以上に。信念、決意……覚悟の差で、今まで負けていたんだろうなって。受け入れたくなかった答えが、今ではするりと妨げるものもなく入ってくる。
「今のところは皐月賞がミツバ、日本ダービーが私だけど。菊花賞も譲らないよ、ヘルツはもちろん、ミツバにも……ミラージュにも、ね」
「え、私?」
「そうそう。さっき話したでしょー? 普通に走る分には最高潮の走りだったって。何というかテンションが上がり切ってたんだ。これ以上ないってくらいの走りが出来て、後ろで皆が諦めたような気配が伝わってきて……けど、ミラージュは最後まで折れなかったよねー?」
「……脚は折れたけど」
「それはそれ……とは言えないか。とにかく、私達はミラージュのことをライバルだと思ってる。だからこそ、負けたくないなって。だから、最後に一つだけ教えて欲しい」
「何?」
そこまで言ったところで、一度口を閉じるスクエアちゃん。気が付けば、隠れていた月が雲間から顔を覗かせていて。逆光になりながらも、彼女の垂れた、けれど鋭い視線が私を射抜いているのが見えた。
「私達は互いに競い高め合い、自分こそが勝つためにレースに挑んでいるけど」
「ミラージュの、走る動機は?」
「私が走る動機は、皆ほど素晴らしいものじゃないよ」
「……そっかー。うん、ありがとね。それじゃ、菊花賞で待ってるから」 - 125カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:43:13
そろそろ戻る? と聞かれたので、もう少しだけ涼むと答えたら空き瓶だけ引き取ってくれて。素直に感謝を述べつつ手を振って見送った。月はもう既に雲の中に隠れていた。
「……さて、と」
走る動機、自分の原点に思いを馳せる。彼女達がそうやってここまで来た以上、私もいつかは果たさないといけない命題だったと思ったから。
疑問。カラレスミラージュとはどのようなウマ娘? 回答。才能なし、表情なし、愛想なしの面白みがない少女。トップスピードに全てを賭けて全員を抜き去る追込脚質の少女。嫉妬癖と自己否定癖が強い、本性を知れば指導に難が見えるクソガキ。
疑問。その性格の原点は? 回答。過去、とある環境での存在否定。才能も無ければ愛嬌もない、ただ背が高いだけの根暗少女が好かれる理由など何処にも無かったから。
疑問。初めて勝った時に抱いた想いは? ……回答。他者の希望を踏み躙ることへの悦び、自身を見ようとしなかった有象無象が驚愕する様を眺める甘美さ。
ここまで考えて、ようやく答えに辿り着いた。皐月賞の少し前から抱いていた思考。「才能を持つウマ娘には勝てない」という諦観、「どうして私には才能がないのか」という嫉妬。
当たり前だ。
私がもっと優れたウマ娘だったならば。私に才能や愛嬌が、もしくは他に秀でた何かがあったならば。
そもそも、『無様ったらしく取り繕って装って這い擦って走る現在』など訪れなかった!
「途中から、間違っていたんだ……全部」
私には才能がない。才能がないウマ娘に価値はない。だからこそ、【無価値な能無しが全てをひっくり返す瞬間】が愉しみだったはずなのだ。それを、今の今まで忘れていた。
「ありがとう、ガーネットスクエア。思い出した……」
そう決まれば、後は簡単だ。一度負けようが、十度負けようが、百度負けようが。たった一度の勝利のために立ち上がればいい。砂を噛もうと土を舐めようと泥を啜ろうと。勝てば全てが報われるのだから。
……本当に?
「……そうと決まれば、明日から頑張らないと! 今日は負けてばかりだったけど、少しでも勝てるように!」
普段通り、普段通り。笑顔の仮面で顔を覆って、日常を過ごす。たった一度、彼女達の寝首を掻くために。たった一度、私を世界に認めさせるために。
……その一度の勝利の果てに、何が待ち受けているかなんて知らないまま。 - 126カラレスミラージュの人22/10/23(日) 21:44:22
以上です!
あと1話だけ挟ませてもらってレースに復帰しますね、休養期間が長い……
けど書いてて楽しいのが悩みどころですわ〜! - 127二次元好きの匿名さん22/10/23(日) 21:57:08
わちゃわちゃ楽しんでた後にめっちゃ不穏な引きくるじゃん……
- 128メジロエスキーの人22/10/23(日) 22:00:22
- 129メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:24:25
なぜか昨日から連投みたいになりますが、今日もSS投げていきますね
- 130メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:26:26
─────
朝の大阪駅。ゴールデンウィーク真っ只中ということもあり、駅の構内は人でごった返している。私たちはそんな駅の改札の中、眼下にホームが見える所で残る2人が来るのを待っていた。
「すごい人だね……エスキーたち分かるかな……」
「彼女たちこの近くのホテルって言っていたから改札さえ分かれば大丈夫だと思うんだけど……」
トレーナーが言うにはここ大阪駅はいろんな改札がある上に、他の路線もたくさんあるから本来集合場所には向いていないとか。ただ今回の行き先が行き先だから、特急が停車するこの駅にしたみたい。切符については万が一お互いが見つけられなかったときのために昨日のうちに渡してあるから、なんとかなるんだけど……
「電車の時間まであと20分……ってあの2人じゃない? おーい!」
「エスキモーちゃんっ! お待たせしましたっ! なんとか間に合ってよかったです!」
「ごめんね、待たせちゃって。駅にはもう少し前に着いてたんだけど、改札口どこかなって探しちゃってさ」
無事に2人と合流し、ホームへとエスカレーターで降りる。電車の中で食べるご飯はちょうどホームに駅弁屋さんがあったからそこで4人分まとめて購入した。
「お弁当買ったらいよいよ旅のスタートって感じがするね」
「そうですね、姉さまっ! しかも温泉なんて久しぶりですっ!」
電車の待機列で私とトレーナーが前、エスキーとドーベルさんが後ろに2列で並んでいると、ちょうど2人が前に旅行に行った時の話を始めた。
「えっ、2人で温泉行ったんですか!? いいなー」
「前の話だけどね。去年はずっと海外だったから……2年前とかだっけ?」
当時の記憶を思い出すためか目線を上に向けるドーベルさん。それにエスキーは目をキラキラさせながらドーベルさんの腕を両手で掴んで思い出を振り返る。
「あの時は姉さまから誘ってくださったんですよねっ! ちょっとわたしがいろいろあった時に連れて行ってもらって……本当に嬉しかったですっ!」
「そんなにはしゃぐことだったっけ……でもアタシもエスキーと行けてよかったって思ってるよ」
「ね、姉さま……!」
「はいはい、もう電車来るよー」 - 131メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:28:19
ドーベルさんの言葉に目をうるうるとさせ、今にも涙が溢れそうになるエスキーの意識を目の前の旅行に引っ張り戻し、到着した特急電車に乗り込む。私たちの座席は1番前の1番前の席。他の車両の席より少しばかりゆったりとしたものになっている、とトレーナーが言っていた。
「グリーン車、かあ。自分だけなら普通車だったけど、せっかくメジロ家から出してもらえるならって思って奮発しちゃったな」
「トレーナー、ちょっとテンション上がってない?」
「だってグリーン車なんて生まれてこれまで乗る機会全然なかったからな! 気分も上がるよ!」
何やら興奮気味なトレーナーにちょっと引きつつも手元の乗車券の座席番号と座席上部のものを見比べつつ自分たちの座席に座る。1席だけの列と2席横並びになっている列の2つあるうち、2席の方に縦に2列続けて席を取っているみたい。そうしてその前の2席に私とトレーナー、後ろの2席にエスキーとドーベルさんが座る形になった。
「おっと、まだ座るなよ。これをこうして……よし、向かい合わせになった」
「へー、座席回転させられるんだ……すごい……」
トレーナーが私たちの席の下のペダルを踏んで背中の部分を持ったかと思うと、グイッとそのまま180度回転させて、私たちとエスキーたちの席が向き合うようにしてくれた。元々私とエスキー、トレーナーとドーベルさんが縦の並びだったから、回転させたことで私とドーベルさん、エスキーとトレーナーがそれぞれ向かい合って席に座る形になる。
「よ、よろしくお願いします……」
「なんでそんな固くなってるの。せっかく旅行なんだからリラックスしないと」
ドーベルさんとこうして至近距離で長時間顔を見るなんてこと今までなかったから、ちょっぴり緊張してしまっている……うん、ちょっぴりね。
「姉さまとトレーナーさんが向かい合わないように座席振り分けてくれたんですねっ! 流石ですっ!」
「ネタばらししなくていいから!」
エスキーの実情を開けっ広げにする発言にトレーナーがツッコミを入れる。この2人が話すところももう見慣れたものだなとぼんやり見つめていると、前から肩をトントンと叩かれた。
「どうしたんですか、ドーベルさん?」
「ちょっと一緒にデッキに来てもらっていい?」
「いいですけど……ちょっとトレーナー、席外すね」
「おう、いってらっしゃい」
- 132メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:29:27
エスキーが何やら恨めしそうに私たち2人の背中を見つめる中、1両目と2両目の間のデッキと呼ばれる部分で立ち止まる。電車の壁に横並びで背中を預けると、ドーベルさんは携帯を取り出して質問を投げかけてきた。
「エスキモーってさ……トレーナーとどこまで行ってるの?」
「えっ、どこまでって……お、お付き合いさせてはもらってますけど……」
「そうじゃなくって、そ、その……キスとかしたの?」
何やら顔が赤くて押しが強い気がするけど気のせいだよねと思い込み、自然な雰囲気を装って質問に答える。
「ま、まあ一応そこまでは……」
「ふ、ふーん……そうなんだ……キスってどんな感じ?」
携帯に高速で何か打ち込んでいっている気がする……いや見ないふり見ないふり……
「柔らかくて……あったかいです」
「柔らかくてあったかい……な、なるほど……ほ、他には何かしたり……」
他になんて何かしたかな……え、えっちなことはまだできてない、というかトレーナーが絶対駄目って言うからしてないし……あっそういえば。
「いつも朝起きてからトレーナーの家に行って2人分の朝ご飯作ってお弁当もそこで渡して、夜もご飯作りに行ってますね。次の日休みだったら外泊届あらかじめ出しておいて、そのまま家に泊まることもあります」
「ふ、ふーん……そこまで……へー……」
「え、えーっとドーベルさん? 顔真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
もはや無視することができない顔の茹で上がり具合についにツッコミを入れてしまう。ドーベルさんは私の介抱を手で制しつつ、席へ戻るように促す。
「だ、大丈夫だから……少しお手洗い行ってくるね……それとこの旅行中また話聞かせてね」
「私はいいですけど……む、無理はしないでくださいね?」
様子が少しおかしいドーベルさんを置いて1人座席へと戻る。何の話かとエスキーに必死の形相で問い詰められたけど、そこはのらりくらりとかわしてドーベルさんが帰ってくるのを談笑しながら待っていた。
- 133メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:30:27
「お、おまたせ」
「大丈夫ですか、姉さまっ!? もしかして酔ったとか……」
「本当に大丈夫だから、本当に」
エスキーの心配を宥めながら席へ腰掛けるドーベルさん。顔色はさっきと比べてすっかり元通りになっているから、本当に大丈夫みたい。
「よく分からないけど最初から飛ばしすぎるなよ? まだ温泉1つも入ってないんだから」
トレーナーが車窓を眺めつつ私たち3人に注意をする。その彼の発言に少し引っかかる所があったからトレーナーを問いただすことにした。
「そういえば何個か温泉があるって話だったけど、全部入って回るの?」
「もちろん。時間がなかったら仕方ないけど、せっかく2泊もするんだから全部回って体を休めてさ。そしてまた次のレースを頑張ってもらえたらって思ったんだ」
「そういうことだったのね……ありがと」
なるほどとこの場所を選んだ理由についてすっかり得心し、トレーナーの気遣いにも感謝する。やっぱり私のことを考えてくれていると思うと、心が温かい気持ちに包まれていく。
「トレーナーと一緒に温泉入れないのが残念だけど、まあそれはいっか」
「……貸切風呂あるけど」
「えっほんと!? やった……ってあれ? 2人ともどうしたの?」
盛り上がっている私たちを目を細めて見つめる目の前の2人。口からは「えぇ……」といった声も漏れている気がする。
「え、エスキモーちゃん……トレーナーとお風呂入るんですね……」
「止めた方がいいのかな……いやでも……」
私は慌てて2人の誤解を解こうと弁明を始める。
- 134メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:31:33
「いやいや流石に水着着るから! タオル1枚とかまだ早いから! トレーナーも言ってあげてよ!」
「そ、そうだぞ2人とも。流石にそこまではしないって!」
「「えぇ…… 」」
そのあとも疑いの目を向ける2人をどうにか説き伏せたところでお昼の時間が来て、各自選んだ駅弁を少し食べさせあいっこしつつ楽しく食べた……トレーナーとドーベルさんは流石にしなかったけど。
『まもなく城崎温泉、城崎温泉駅に到着いたします。出口は〜』
駅が近づいてきた旨の車内放送が流れたところで4人で座席を元に戻し、荷物を棚の上から下ろす。混雑に巻き込まれないよう先んじて降車口近くまで移動し、列車が駅に到着するのを待つ。
「なんかあっという間だったな」
「ちょっと疲れちゃったけどね……」
全ては私とポツリと零した一言から始まった2人の誤解。それを解こうと必死に釈明を繰り返し行っていると、自慢のスタミナもすっかり黄信号が点灯していた。
「もう分かりましたから旅行楽しみますよっ!」
「そうそう。せっかくここまで来たんだから。ほら、ドア開いたよ」
列車が止まり、開いたドアからホームへと降り立つ。その時からほんのりと温泉の匂いが漂ってきている気がした。
「よし、それじゃ旅館に荷物預けたら外湯巡り出発だ!」
「「「おーっ!」」」
目的地へとたどり着き、旅が本格的に始まる。はたしてどんな楽しみが待っているだろうと胸を弾ませて、一行は先へ進む。
─────
「「「わぁ……すごい……!」」」
駅舎を出るなり目の前に広がる景色にトレーナーを除く3人の口から揃えて同じ声が出た。これぞ和風といった街並みに駅を出る前から漂う温泉の香りにもうワクワクが止まらない。
- 135メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:32:49
「あっ! もしかしてあれって温泉じゃないですかっ!?」
「ほんとだ。駅のすぐ側に温泉あるんだね。流石温泉の街って感じだね」
エスキーとドーベルさんが2人感嘆の声を漏らす。寺院を思わす構えは「さとの湯」と呼ばれる外湯の1つらしい。
「ここにもうあるんだね……てことはこれから先にも……?」
「ああ、もちろん。というよりこれから先がメイン通りだ。まさにこれぞ温泉街、温泉好きにとっては理想の街と言っても過言じゃない風景になってるからな」
トレーナーの言葉に胸を躍らせつつ、横目にお土産屋さんやお食事処に目を次々と奪われながら歩くこと数分、目の前に広がったのはトレーナーが言ったとおりの素敵な街の姿だった。
「なんだかタイムスリップしたみたい。この橋の灯籠とか、川の流れとか全部……」
「名前では聞いたことありましたけど、こんな場所だったなんてっ……!」
「おいおい、一つ一つに感動してくれるのは連れてきた甲斐があるってものだけど、そんな調子じゃあっという間に日暮れちゃうぞ。もうすぐ旅館着くから荷物預けてから散策しよう」
キャリーバッグのゴロゴロといった音を4つ鳴らしながら一行は表通りから1つ裏に入った少し人通りが少ない道へと入る。そして突き当たりを左に曲がるとすぐそこに今回泊まる宿が見えた。
「お宿もこれぞ和の旅館って感じですね」
「ああ。ちなみにここは本館と別館2つあってオレたちが泊まるのは別館なんだけど、メジロのおばあさまが気気を利かせてくれて、別館貸し切りにしてくれたんだ」
「えっ、貸し切り!? 旅館を!?」
嬉しいけどそれはやりすぎじゃないと思っていたら、元々貸し切りのプランは存在していて、その上で特別に4人でそれをさせてくれたということらしい。
「料理も自分たちの部屋で食べられるみたいだから、これだったら他の人と会う機会も少なくて済むだろうし」
「流石トレーナー、やるじゃん」
うりうり〜と肘でトレーナーの脇腹をグリグリと突っつく。いててって言いながらも私が満足するまで止めようとしない所に彼の優しさを感じる。
「外湯巡りのチケットもらえるんだけどそれはチェックインしてからみたいだから、ひとまず荷物預けて少しぶらっと回ってみない?」
「「はーい!」」
- 136メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:33:50
ドーベルさんの言葉でぞろぞろと旅館の中へと入る4人。荷物をフロントに預け少し身軽になった私たちは早速表通りへと繰り出した。
「かりんとう? 名物なのかな」
「エスキモーちゃんっ! 向こうにプリン屋さんありますよっ!」
「これ太鼓橋って呼ぶのかな。街の風景ともバッチリ合ってるし、温泉だけじゃない魅力がここにもあるんだね」
「大人になってから来るのも街の見え方が変わって悪くないな」
各自が思うがままの街の楽しみ方をして歩みを進めていると、まさに街の中心地と言ってもいい建物が目の前に現れた。
「これって旅館?」
「いーや、これが外湯の1つ、『一の湯』だ。昔の偉い人が『これぞ天下一の温泉』って言ったからこの名前になったらしい」
「こんなに立派だもんね……大きいなあ……」
「あとで入れるからまた来よう」
「うん。とりあえずもうちょっと先も見てみたいな」
そこから先も土産物屋さんやごはん屋さん、まだ開いてなかったけど昔ながらのゲームセンターが通りの両隣に点在し目が飽きることがなかった。少し足を止めては店の中に入り、また歩き始めたと思えば違う店に入りの繰り返しで時間の割に奥まで進めないまま、チェックインのために宿に戻ることになったのは残念だったけど。また温泉巡る時に来ればいいかな。
そうして一旦宿に戻りチェックインを済ませ部屋に上がる。案内されたのは畳が敷かれ、窓際には机と椅子が並べられたスペースがある、これぞ温泉旅館といった部屋だった。一度ここで私とトレーナー、エスキーとドーベルさんの2人ずつに別れる。
「このスペース、『広縁』って呼ぶんだって」
「名前ついてたんだ。トレーナー詳しいね」
「いや、今調べた」
「さっきの感心返してよ……」
2人とも荷物を全て床に置き、しばしの間脚を休める。疲れている訳ではないけど少し一服したかった。机の上のお菓子にも手を伸ばしていると、暇になったのか別部屋の2人がこっちの部屋に入ってきた。
「もうお菓子食べてるんだ。もうお腹空いたの?」
「チッチッチッ、これはこれでいいんですよ姉さま」
「え、どういうこと?」
- 137メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:35:18
「お菓子って甘いですよね? 甘いということはすなわち糖が含まれているということ。その糖は体内に入ると血糖値を上げる役割を果たします。もちろん空腹状態を満たすことにも直結します」
「ふんふん、それが温泉とどう繋がってくるの?」
その問いかけにありがとうと言わんばかりに大きく頷くエスキー。
「温泉って入ったら意外とカロリー消費するんですよ。すなわち体から糖が失われるということ。ではもし体に糖が少ないまま温泉に入るとどうなりますか? はい、エスキモーちゃん」
お茶を飲んでいる中突然質問を振られ、少し気管に入ってむせる。トレーナーに背中を擦ってもらって回復してからエスキーが出した問題に答えた。
「体の中の糖がもっと少なくなるから……あっ血糖値がもっと下がっちゃう?」
エスキーが最初に言っていたことを思い出し、それの逆を回答するとエスキーからピンポンピンポーンとの声に合わせて拍手が送られる。
「大正解です、エスキモーちゃんっ! そう、エスキモーちゃんの言うとおり血糖値がぐっと下がっちゃいます。そうなっちゃうと貧血や立ちくらみ……倒れてしまうかもしれません。それ危ないですよね」
「怪我しちゃうかもしれないもんね。そっか、そういうことだったんだ」
なるほどと感心するドーベルさん……と私とトレーナー。エスキーはそんな私たちを見て、
「知らずにパクパク食べてたんですかっ!?」
とマジかと言わんばかりの大声を上げた。だって部屋に入って美味しそうなお菓子あったら食べちゃうよね……
「もう怒りましたっ! 姉さまも早くお部屋に戻ってお菓子食べますよっ!」
「えっ、ちょっと!? 腕引っ張らなくてもいいんじゃない!?」
バタバタと足音を立てて自分たちの部屋に戻っていく彼女たち。私たちはそれをお茶を啜りながら見送る。
「うーん……どうしよっか?」
「とりあえず浴衣に着替えて外行く準備するか」
- 138メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:36:08
そう言いつつもなかなか腰を上げようとしない2人。そんなゆったりとした時間は、また別部屋の2人が戻ってきて私を向こうの部屋で浴衣に着替えさせようと連れて行くまで続くのだった。
「トレーナーさんは1人で着替えてくださいねっ! それではっ!」
─────
「お、3人とも着替え終わったのか……お揃い?」
「たまたまだよ、たまたま被っちゃって」
この旅館は女性やウマ娘向けに柄物の浴衣を貸し出してくれるサービスがあるらしく、女将さんに勧められついつい大人っぽいシックなデザインのを選んだら、他の2人も図らずも同じ柄の浴衣を選んでいた、というわけ。
「トレーナーもなかなか似合ってるじゃん。かっこいいよ」
「そんなことないだろ。エスキモーこそ大人っぽくて素敵だよ」
「トレーナー……」
「はいはーい、惚気はそこまでにして早く行きますよー」
2人の会話をあっさりと引き裂き、私の腕を引いて部屋の外へと向かうエスキー。惚気って何よ、惚気ってさ。
一旦フロントに部屋の鍵を預け、携帯で外湯の場所を確認する。
「えーっと1番近いのが地蔵湯でその次が柳湯、一の湯の順番か……さとの湯は駅まで戻らないといけないからどうしよっか」
「だったら駅まで一旦戻ってまた北上する感じでいいんじゃない? お昼駅に着いた時から気になってたから行ってみたいし」
「そうですねっ! ではレッツゴーですっ!」
ドーベルさんの提案を受けて、駅までの道を戻ってさとの湯に入り、また北上して地蔵湯→柳湯……と西へ向かっていくことに決定した。歩くのは全然平気だけど効率的に回れるならそれに越したことはないからね。
「ほんと街並み素敵だよね……っと!?」
- 139メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:36:39
慣れない下駄で少しつんのめり、危うくこけそうになった所をトレーナーが私の腕を引いて助けてくれた。そういえばエスキーとドーベルさんの2人に見られるのはちょっとと思って、いつも握っているトレーナーの手を今日は握っていなかったことを思い出した。
「あの、さ……こけたら大変だから手、握ってくれない?」
「? いつものことだろ。ほら」
そう言って何の躊躇もなく右手を差し出してくれるトレーナー。私は後ろの2人をちらりと見やりながらその手を深い形でギュッと握ると、トレーナーに恥ずかしくないのかと問いかける。
「トレーナー? 見られてるけど平気なの?」
「いや? 他の人に見られるならまだしもこの2人なら別にいいだろ? エスキモーは嫌か?」
「そんなことはないけど……うーん……考えるのやーめたっ! 早く行こっ、トレーナー!」
旅の恥はかき捨て。他に知ってる人もいないし、この2人なら口が堅いから大丈夫だろうしまあいいっか! そう割り切って最初の外湯へと足を進める私たち一行だった。
「姉さま見ました? 手繋いだと思ったら自然と恋人繋ぎに握り替えましたよ?」
「あれは慣れてるね、うん……」
「実はレース前ルーティーンとかいってハグとキス要求してるんですよ、エスキモーちゃん」
「え、ほんと!? 進んでるなあ……」
……後ろで聞こえるこそこそ話は無視することにした。
- 140メジロエスキーの人22/10/24(月) 07:37:05
今日はここまで。ではまた次回
- 141二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 09:13:47
- 142メジロエスキーの人22/10/24(月) 12:40:36
城崎温泉はいいとこだから、もし旅行先に困ったら是非是非(ダイマ)
- 143二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 12:50:01
チームカオス尻尾ハグS(OP)
- 144二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 13:03:00
- 145カンパナーレボバー22/10/24(月) 13:15:55
誰と尻尾ハグするのか決めてないけど固結びするわ
- 146二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 13:24:48
特に意味のないボバニキの自爆テロが同室を襲う!
- 147二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 13:32:39
「えっちょっ 何結んでるんですか!?」
「あー……もう、解けないじゃないですかー」
「仕方ないですね……僕の尻尾をズバっとやるんで、自分のは解いてくださいよ?」
(尻尾用のハサミを借りに行った先で止められる音) - 148二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 13:36:36
- 149アラシュパーパス22/10/24(月) 14:07:46
- 150二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 14:56:56
- 151二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 15:11:52
- 152メジロエスキーの人22/10/24(月) 18:02:41
- 153尻尾バグ22/10/24(月) 19:37:17
爽やかな秋晴れの朝。程々に涼しく、良い練習日和だ。バラカはいつも通り部室に入り、トレーナー陣に挨拶する。今日の部室には、困り顔のトレーナーが二人。
「おはようございます。おや。おふたり共困り顔の様子。どうかなさいましたか?」
「おはよう、バラカ。今日は練習なんだが、担当が二人ともまだ来なくてな。連絡しても反応が無いし、どうするか考えてた所なんだ」
「部屋でなにかあったんじゃないかと思うのよ。悪いんだけど、様子を見てきてくれないかしら……?」
「え〜僕がですか?……と言いたい所ですが、トレーナーさん達は寮に入れませんからね。練習まで時間もありますし、軽く見てきますよ」
「助かるよ。今度何かチーズ奢るからな」
という訳で、バラカは言われるがまま寮へUターン。彼女達の部屋を訪ねる。ノックしても反応が無いので、寮長に合鍵を借りて部屋に突入。そこでとんでもない光景を見た。 - 154尻尾バグ222/10/24(月) 19:37:36
「あっ!バラカさん!」
「たーすーけーてー」
まず見えたのは、背中合わせの二人。そしてそこから伸びる、四方八方、縦横無尽に跳弾する……毛?ピンク色と白色が混ざったそれは、まるでレーザートラップのように部屋中に張り巡らされていた。直線上に伸びて壁で反射するそれは、生き物のそれと言うよりはゲーム的な雰囲気を醸し出していた。
「……これ、どういうことです?」
「実はですね……」
先日、二人は尻尾ハグなるものを知ったらしい。お互いに信頼関係を築いていた二人は早速尻尾ハグを行い、楽しんでいたらしい。試しに限界まで巻いてみようとの事で限界にチャレンジした所、限界突破して尻尾が縦横無尽に伸び始めたらしい。なんじゃそりゃ。
「名付けて、尻尾バグ〜」
「名前付けてる場合じゃないでしょう。どうすれば治りそうですかね」
「私の勘だと……尻尾の絡まりを解けばバグも治ると思うんです。後は尻尾を切り落としたりとか……」
「おふたりで引っ張り合えば取れたりしませんかね?」
「それは試したんですが……」
グイ、と背中を引っ張り合うと、バグった尻尾が部屋中を駆け巡る。それに触れたものは、豆腐のようにバラバラに切り刻まれてしまった。
「……すみません、僕の手には余るものなので失礼します……」
「お、置いてかないでくださーい!」
「冗談ですよ。下手に動かすと僕がみじん切りになりそうなので切り落としますが……構いませんか?」
「良いですよ……!根元からバサッと行ってください!」
ご許可を頂いたので、ハサミを片手にレーザートラップの罠に突撃。かなり高難易度だが、ウマ娘の動体視力にかかればちょちょいのちょい。あっという間に辿り着き、根元に近い部分をハサミでちょんぎった。
「そりゃ」
バチン!と尻尾を切り裂くと、シュルルルルと掃除機のコードのように切られた方のバグ毛は消滅していく。そして、絡まった二人もようやっと解放された。
「ありがとうございます……助かりました……」
「イノチノオンジン カンシャエイエンニ」
「良いんですよ。しかし尻尾バグとは妙な事を起こしましたね……」
「何かこう、世界の意志を感じた……」
ライジョウドウは何かを悟ったようだが、バラカは特に何も分からなかった……そして今日のことは何も気にしないようにした…… - 155二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 20:04:07
尻尾バグがあるということはこの世界はケツワープできるのではないか…?
- 156メジロエスキーの人22/10/24(月) 21:21:28
なにいってだこいつ
- 157プログレスの人22/10/24(月) 22:15:41
- 158二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:16:55
- 159二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 23:19:21
リアル馬的には最初に二人が勝ち負けになったのはクラシックのエリ女になるな
まあウマ娘ワールドだとどうなるかはわかりゃんが - 160メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:47:40
- 161メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:51:06
─────
「ようやく1つ目の温泉ですね。えーっとなになに……1番新しくできた外湯でふれあいの湯、ですって」
「ふれあい?」
入口近くに書いてある説明書きを読み上げるエスキー。駅が近いから時折電車が発車したり停車したりする音が聞こえる。
「まあとりあえず入ろうか。温泉から出たらまたここ集合で」
「はーい。いってらっしゃーい」
男湯に1人入っていくトレーナーの背中を見送り、3人は女湯の方へと向かう。ゴールデンウィーク真っ只中だからか、そこそこ人が入っていた。脱衣所で浴衣や下着を脱ぎ浴場へと入る。
「露天風呂か、大きさ以上に広々と感じるね」
「そうですね、自然を感じるというかなんというか」
「早く体洗って入っちゃいましょうっ!」
3人並んで髪や体を洗い、湯船に髪が浸けないようにまとめ上げる。タオルもお湯に浸からないように気をつけてそっと浴槽に足を沈める。
「温かい……」
「これは最高ですねぇ……あぁ〜〜〜……」
「こら、エスキーはしたない。足伸ばさないの」
3人とも忙しい毎日を忘れ体の底からほんわかとのどかな気分になる。まるで全身から疲れがお湯に溶け出していくように、張っていた緊張の糸がプチンプチンと音を立てて切れていくように。
「温泉ってやっぱりいいなあ……エスキーが誘ってくれてよかった」
「とんでもないです、姉さまっ! わたしが姉さまと一緒に来たかっただけですからっ!」
「ほんとアンタってドーベルさんのこと大好きだよねぇ……付き合っちゃえばいいのに」
頭がお湯の温かさで蕩けていたせいか、ポロリととんでもないことを口走ってしまう私。とんでもないと気づいた時にはもう遅かったんだけど。
「い、いやいやいやっ! 何言ってるんですかエスキモーちゃんっ!? お付き合いってそんな恐れ多いっ! ねっ、姉さまっ!?」 - 162メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:52:42
エスキーの方は当然のアワアワした反応を見せる。ただドーベルさんの方が思いもよらぬ反応をして……
「あ、アンタにそうしたいって言うなら……もちろん全部片付いたら、だけど」
「えっ!? ドーベルさん!?」
ここはエスキーと同じように「そんなことありえないでしょ!?」ってお叱りを受けるのかなと身構えていたら、何やら湿っぽい雰囲気のセリフが返ってきた。
「ちょっ!? 姉さまっ!?」
「もしかしてアンタたち……」
ギロリとした目線をエスキーに向ける。エスキーは全力で首を左右に振って違うと否定した。
「……全部終わったらまたアンタの気持ち聞かせてね。それじゃアタシ先出てるから」
バシャッといった音を立てて湯船から立ち上がり、脱衣所へと向かうドーベルさん。その背中をぼんやりと見つめながら、しばしの間ボーッとしていた私たち2人。
「……また全部話聞くから」
「ごめんなさいそれは勘弁してください」
─────
ドーベルさんに遅れること数分、私たち2人も湯船から上がり、体を拭いて髪を乾かし再び浴衣を着る。着替えが済んで待ち合わせ場所に向かうと、既にトレーナーとドーベルさんの姿があった。
「ごめん、待った?」
「ううん、オレも今出たところだから」
「ありがと。それじゃ行こっか」
思っていたより1つ目のお風呂から長湯しすぎたせいか、2つ目の地蔵湯へ少し速歩きで向かう。歩くこと数分地蔵湯まで戻ってきた私たちはまた1人と3人に別れ温泉に入りまた出て歩き、体をぽかぽかさせながら次々に外湯を制覇していくのだった。
- 163メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:53:49
─────
「ここが最後の7つ目、鴻の湯ね」
「ええっとここは……夫婦円満、不老長寿、幸せを招くお湯、ですって。エスキモーちゃん、トレーナーさんと一緒に入ってきたらどうです?」
お昼の電車の「姉さまを独り占めしてっ……!」と復讐かと言わんばかりにエスキーがからかってくる。それに対してエスキーの思惑どおり顔を真っ赤にして返事をしてしまう。
「ま、まだ一緒に入ったらトレーナー捕まっちゃうから一緒に入れないし!」
「そうでしょうそうでしょう、まだ恥ずかしくて一緒になんか……ってえっ、そっちですかっ!?」
「えっ? 何か私変なこと言った?」
あれ? 違う? なんかエスキーとドーベルさんの反応がおかしいような……
「入るかどうかのボーダーそこなんだね……」
「もしかして周りにバレない状況なら一緒に入るのでは……?」
「こら! そこひそひそ話聞こえてるから! ほらトレーナー、さっさと入って部屋戻ろっ!」
「お、おう……」
まだこそこそと話し合っている2人を置き去りにして女湯へと入っていく私……もちろんトレーナーは男湯入ったからね!? 一緒に入ってないからね!?
「もうあの2人ったら……あっ入ってきた」
1人先に湯船に入ってだらーっとしていると、遅れて2人も私の横に並ぶようにお湯に体を沈めた。
「……念のため確認しますけど、一線は越えてませんよね?」
「当たり前でしょー……トレーナーはトレーナーだし、私中等部だよ? そんなことしたら2人とも学園にいられないって」
「……バレなかったら?」
「……黙秘権を行使します」
ブクブクと音を立てて顔を少しだけお湯に沈め、物理的に口を塞ぐ。沈黙は金、昔の人はよく言ったと思うよ、うん。
- 164メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:54:55
「エスキモー大丈夫。だってこの子は……もごもご……」
「わーっ!? 姉さま一体何を言い出すんですかっ!? 言っちゃ駄目に決まってるじゃないですかっ!?」
何やら興味深い話が聞けそうだと湯船に浸かっていた口を解放し、矢継ぎ早に言葉をぶつける。
「えっ、もしかしてエスキー誰かに手を出したの? いやでもエスキーはそんなことするタイプじゃないし、そもそも周りに男の人の影もないし……あっ、もしかして女の子に手を出したんじゃ……! 詳しく教えてよ!」
「ノーコメントっ! ノーコメントですっ! 姉さまも変なこと言い出さないでくださいっ!」
ぷんぷんと頬をぷっくり膨らませて怒ってしまったエスキーを見て、私とドーベルさんの口からクスクスっと笑いが溢れる。久しぶりにこんな慌てた彼女を見た気がする。
「もうっ! わたし先出ますからっ!」
「ごめんってエスキー。あーあ、怒っちゃいましたね」
「流石に悪かったかな……アタシも先出るね」
エスキーに少し遅れてドーベルさんも湯船から上がり浴場の外、脱衣所へと足を運ぶ。そんな中、私は今度はドーベルさんに向けてとんでもないことを口走ってしまった。
「はーいママ。またあとでねー」
「……ママ?」
「えっ……あっ……私今何を……」
ドーベルさんの足がピタリと止まったと思うと、くるりと体を反転させて私の方へペチャペチャと足音を立てて歩いてくる。
「今の……どういうこと?」
「いやちょっと小さい頃思い出してたらつい……あはは……」
自分でも苦しい言い訳だと思う返事でまた更問が来るのかと少し身構えていると、ドーベルさんはなぜかあっさり引き下がり、再び脱衣所へと歩いていった。
「あ、危なかった……これ以上変なこと言わないようにしないと……」
- 165メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:56:17
そうやってお風呂場で気を引き締め直していると、当然脱衣所の会話は聞こえないわけで……
─────
「ねえ、エスキー、ちょっといい?」
「なんですか姉さま。わたしはまだ許してませんよ」
「いやそうじゃなくて……あのね、エスキモーがさっきアタシのこと『ママ』って呼んだの。アタシは単なる言い間違いかもって思ったんだけど……」
「……怪しいですね。今はとりあえず今度の分析結果が出るのを待ちましょうか」
「そうだね。今は何も聞かないことにする」
─────
全ての外湯を体験した私たち4人は旅館へと戻り、夕食をいただくことにする。本当だったら各自の部屋に分かれて食事をしないといけないところだったけど、旅館側が気を遣ってくれたのか、エスキーたちの方の机を私たちの部屋に持ってきて4人で食べさせてくれることになった。行きの電車と同じように私とドーベルさん、トレーナーとエスキーが向かい合わせになって食卓を囲む形になる。
「こっちはお肉で、こっちは蟹……盛りだくさんでよだれが止まりません……じゅるり……」
「はいはい、先にお箸をご飯に伸ばそうとしないの……はい、それじゃ全員の飲み物も揃ったところでいただきます」
「「「いただきます」」」
ドーベルさんの合図で手を合わせてボリューム満点の料理に各自手を伸ばす。お肉も但馬牛?っていって有名なブランド牛みたいですっごい柔らかかったし、蟹も旬の季節じゃないけどたっぷり身が詰まっていてほっぺたが落ちそうな美味しさだった。
「天ぷらもサクサクしてますし、お刺身も新鮮……大満足でしたっ!」
普段は節約しながら作っているから、こんなに豪華な料理を食べる機会は久しぶりだった。たまにはこういうのも食べないと駄目なのかな……いやでもお財布事情が厳しいし……うーん……
全員が食べ終わったタイミングを見計らって女将さんが部屋に入ってきてお皿や飲み物を入れたグラスを下げていく。机も片付けて布団を敷いてくれるとのことだから、それに合わせて各自歯を磨いたり、本館まで少し足を運んでリラクゼーションチェアで体を解したりと思い思いの時間を過ごしていた。
「そろそろ布団も準備してくれたかなー」
「マッサージチェア気持ちよかったな。やっぱりああやって解されると体が軽くなった気がする」
- 166メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:57:38
横に並んでリラクゼーションチェアを利用し、時間中ひたすら「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と声に出して2人。トレーナーからはその年齢でまだ早いなんて言われちゃったけど、気持ちいいものは仕方ない。
「せっかくだし部屋に戻ったらマッサージしてあげよっか。見様見真似だけど」
「それを言うならオレの方が専門だからな? 痛くて泣いても知らないからなー」
そう言い合いながら部屋に戻り襖を開ける。するとそこには……
「あれ、布団1つ……?」
「トレーナー、なんか女将さんに言った……?」
「言ってない言ってない!」
2人してお互いの顔を見合わせる。まさかとは思うけど別部屋の2人の方はと思い、部屋に入らせてもらうと全くそんなことはなく、2つ並んで布団が敷いてあった。
「あれ? そっちは普通なんだね……」
「どうしたんですか、エスキモーちゃん? 部屋に入ってくるなり何やら不思議な顔して」
私を部屋に招き入れるや布団にダイブしたエスキーがこっちに怪しいものを見る目で視線を送ってくる。ドーベルさんはどこかと客室を見回すと、窓際の広縁で携帯に何やら打ち込んでいた。
「ううん、なんでもない。ごめんね、いきなり押しかけちゃって」
「いいんですよー……あっ、もし部屋から変な声が漏れてきても聞こえなかったことにしてあげますから安心して……」
「アホか! そんなことしないっての!」
とんでもないことを言い出すエスキーを放っておいて自分たちの部屋へと戻る。トレーナーはさっきのドーベルさん同様広縁で椅子に座りながらも何か落ち着きがない。私は彼と机を挟んだ反対側の椅子の背を引いて腰かけつつ、おそらく悩んでいるだろうことに1つ提案を持ちかける。
「どうしたの、トレーナー。布団1つなことそんなに気になるならもう1つ出してもらおっか?」
「流石に今から呼びつけるのは悪いし……別に嫌ということじゃないから」
「そ、そっか。まあ私も別に嫌って訳じゃ……」
そう言った途端、さっきのエスキーの言葉がフラッシュバックする。変な声って……そういうこと、だよね。
- 167メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:58:36
「そうだよな! 君がオレの家泊まりに来る時引っついて寝ているもんな! うんうん、今更別に変なことじゃない!」
「え、大丈夫なのトレーナー? お酒飲みすぎちゃった?」
食事の際せっかくだからと地酒を少し飲んでいたことを思い出し、お酒に酔ったことで変なテンションになっているんじゃないかと危惧する。ただトレーナーはスッと落ち着き、私の顔を真剣な目で見つめる。
「こういうことは大人が年頃の女の子に言うことじゃないし、むしろ言っていいのかって問題でもあるんだが……大丈夫、オレから手は出さないから安心してほしい」
トレーナーが心配していたのはエスキーが暗に伝えてきた行為についてだった。私が彼をというより彼が私をということを懸念していた。万が一があってはいけないと、彼はそう私に伝えた。そんな心配そうな彼を安心させるように私はニッコリと微笑む。
「大丈夫、私はトレーナーを信じてるから。だから1つの布団でも気にしてない。あっもちろん卒業したら……ね?」
「まあそこは……善処するよ」
あるか分からない「未来」のことを約束すると、ようやく強張っていたトレーナーの顔が崩れる。私もそれを見てホッとひと息をついた。
「もうトレーナーが変なこと言い出すから解れた体また固まっちゃった……ねえ、さっき部屋の外で話してたこと、やってくれない?」
「部屋の外……マッサージのことか? よし、任せろ。じゃあ布団で少し俯せになってもらってっと」
トレーナーの言うとおり布団で枕に頭を乗せ俯せ状態になる。その私の後ろ、足の方から私の体の上にトレーナーが乗っかり腰からマッサージを始めていく。
「脚を酷使する競技だからもちろん脚を中心にやるんだけど、走るって腰にも当然負担がかかるからここからやっていくぞ」
「うん、お願い……んっ、んっ……〜〜〜っ!」
声が外に聞こえないよう枕にくぐもった声を吐き出す。トレーナーは自分で言うだけあってとても上手にマッサージを進めていく。
「じゃあ脚触るからなー おっ、やっぱり張っているな。丁寧に解していかないと」
「はっ、はっ…………んっ……〜〜〜ぅっ!」
次第に体が火照ってきて段々と声が我慢できなくなってきた。揉まれて筋肉が解されていく気持ちよさに少し眠気も出てきてまぶたが重くなる。
- 168メジロエスキーの人22/10/25(火) 06:59:56
「最後に足の裏を……」
そう言ってトレーナーが私の足を触ろうとしたその時、襖が勢いよく開けられエスキーとドーベルさんの2人が現れた。
「変な声が聞こえると思ったら、トレーナーさんついにエスキモーちゃんに手を……ってあれれ?」
「ほら、そんなことするはずないでしょ。早とちりしすぎ」
何を勘違いしていたのか、というかどこから聞いていたのかツッコミを入れたい所はいくつかあるんだけど、とにかく今は続けてほしかったからトレーナーに進めるよう促す。
「見られててもいいからお願い、トレーナー」
「……分かった、じゃあ触るぞ」
そういってまたグイグイっと指圧され、甘い声が漏れる。入ってきた2人はまた何やらこそこそ話をし始めたみたいだけど内容が耳に入ってこない。
「ごめんなさい、わたしの勘違いでした……」
「はいはい、分かったらとっとと部屋に戻る。行くよ!」
ドーベルさんに背中を押されて部屋を去るエスキーを横目で見送っていると、全て終わったのかトレーナーが私の体から手を離し、汗を拭ってふっとひと息をついた。
「思っていたより凝っていたよ。これからたまにはこうやってマッサージしていかないと……ってせっかく風呂入ったのに汗かいちゃったな」
「はぁ……はぁ……ありがとトレーナー。なんだか体軽くなった気がする……って私も汗かいちゃった」
どうするかとしばし逡巡していると、とあることを思い出す。
「ねぇトレーナー。今から貸し切りのお風呂、行ってみない?」
「いくらなんでも流石にそれは……」
「というかそのために水着持ってきたんだから入らないと損だよ!」
貸し切りのお風呂があると聞いた時からこっそり隠していたお風呂作戦。ただ普通に入るのは私はいいんだけど、トレーナーは絶対断るだろうから水着を荷物に忍ばせておいた。
- 169メジロエスキーの人22/10/25(火) 07:01:28
「そう言われてもオレ持ってきてないし……」
「と言うと思って…、じゃーん! トレーナーの家からこっそり持ってきちゃった」
キャリーバッグの中からトレーナーの水着を取り出し、彼に手渡す。トレーナーは手元の自分の水着を見て少し表情が固まりつつもなんとか言葉を捻り出した。
「一緒に入るのはいいけどさ……これからは一声かけてからにしてくれな?」
「はーい、ごめんなさーい」
反省も程々にお風呂入る準備をしてからトレーナーの腕を取り、フロントに確認を取ってお風呂へと向かう。その間トレーナーは「マジで一緒に入ることになるとは……」みたいなことしきりに呟いていたけど、お風呂の脱衣所に足を踏み入れると覚悟を決め、浴衣を脱ぎ始める。
「ちょっ! 私まだいるから!」
「あっ、ごめん。つい普段通り……準備できたら呼んで先にお風呂場行くからもうちょっと待ってくれ」
「は、はーい……あー、焦った……」
危うくもう少しでトレーナーの一糸まとわぬ姿を目に焼きつける所だったよ……
しばらくするとトレーナーから呼ばれ今度は私が浴衣を脱いで水着を着る番になる。お風呂場をチラチラ見ながら着替えてたけど、トレーナーがこっちを見ている気配はまるでなかった。ちょっと不満を抱きつつもお風呂場へ繋がる扉を開けて、座ってシャワーを浴びているトレーナーの近くまで歩いていく。
「お待たせ。背中流してあげよっか?」
「お願いするよ」
トレーナーはくるりと私に背中を向け、私は手拭いにボディーソープを馴染ませる。泡立ったのを確認すると、優しくトレーナーの背中を擦ってあげた。
「……男なのに担当に背中洗ってもらうって、絶対ありえないって思ってたよ」
「一緒にお風呂入るってことだもんね。私だって男の人の背中洗ってあげるなんて考えたことなかったもん」
「それはそうだよな……」
静かにトレーナーの体を洗い、今度は私が髪や尻尾を洗ってもらう。背中は流石に水着外さないといけなくなるからお湯で洗い流すだけにした。
- 170メジロエスキーの人22/10/25(火) 07:02:42
「本当に綺麗だよ、君の髪も尻尾も全部」
「よかった、毎日ケアしてる甲斐があったかな」
「こら、尻尾振らない」
「あっ、ごめん。トレーナーに褒められてつい」
耳や尻尾の付け根を触られた際に声が出ちゃった時以外は平穏な時間が続いた。私の方もひと通り洗ってもらい、2人立ち上がって湯船へと浸かる。
「あー、気持ちいい……温泉って何度入ってもいいよね……」
「分かってくれて嬉しいよ。君たちを連れてきて本当によかった」
「私の方こそありがと。また別の所も行きたいな」
「ああ、必ず、きっと」
どうなるのか分からない「未来」の約束を再び2人で交わす。私はそれが一体いつになるのか今は考えないでおくことにした。
─────
そうして談笑しながらゆっくり温かい湯船に浸かり、体も心もポカポカになった。貸し切りの制限時間が近づいた頃になって2人ともお風呂を出て脱衣所に向かおうとする。
「はー、気持ちよかったー ねっ、トレーナー」
「本当最高だったよ。背中も洗ってもらえたし」
そう互いにお風呂の感想を言い合いながらガラガラと引き戸を引き、脱衣所へと足を踏み入れた瞬間とある事実を思い出す。
「……ねぇ、トレーナー?」
「……ん、どうしたエスキモー?」
「着替え、どうしよっか……」
「あっ……」
ギリギリまで制限時間を気にしなかったせいで、とっとと体を拭き着替えて脱衣所を出ないと間に合わないぐらい時間が差し迫っていた。順番に体を拭いて着替えて……なんてできる余裕はなかった。
- 171メジロエスキーの人22/10/25(火) 07:03:41
(どうにかしてここを乗り切るには……ええっと……あっ、そうだ!)
名案、かは分からないけど、というよりこれしかない方法をトレーナーに伝える。
「よし、分かった。お互いに後ろを向いて着替えよう。鏡はもちろん見ないように」
その声でとりあえず水着を着たまま拭ける範囲で髪や体の水分を拭き取り、水着やその中も拭く。全部拭けたら急いで水着を脱いですぐに下着、浴衣の順に着る。後ろで布が擦れる音が聞こえるけど聞こえないふりをする。
「トレーナー、着替え終わった?」
「なんとか。エスキモーの方は?」
「大丈夫……じゃあ急いでフロント寄って部屋帰ろっか」
「そうだな……」
なんだかせっかくお風呂に入ったのにまた汗をかいたような気がする。それは最後に動いた汗か、それとも着替える時に見られてないか、見てないか、ヒヤヒヤした時に流れた冷や汗か。
そうしてお風呂から出てきた旨をハァハァと息を整えながらフロントに報告すると、まさかの言葉が返ってきた。
「制限時間ですか? 確かに設けていますが、お客様はこの別館を貸し切られておりますので、ある程度であれば時間は融通利きましたよ?」
「「えっ……」」
慌てたのがまるで無駄になったことに気づき、お風呂に入る前よりどっと疲れた表情をした私とトレーナーの姿がそこにはあった。
- 172メジロエスキーの人22/10/25(火) 07:04:04
- 173メジロエスキーの人22/10/25(火) 07:04:29
今日のところはここまで。それではまた次回
- 174クアドラプル苦労22/10/25(火) 11:58:32
色々思ったけど!語彙力のなさに苦しんでる!
けどそれより何より!
いちゃつきよってええええええええ!!! - 175二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 14:21:40
>「制限時間ですか? 確かに設けていますが、お客様はこの別館を貸し切られておりますので、ある程度であれば時間は融通利きましたよ?」
>「「えっ……」」
おばか!
女性陣のみのトークで必須アミノ酸が供給されたのでどうにか延命できたのでたすかる
- 176メジロエスキーの人22/10/25(火) 18:19:00
- 177キタサンアイドルの人22/10/25(火) 19:30:42
アイちゃんssサボってたら沢山供給があって尊死しました起訴します!
変わって小説投下注意報!!ゴコメちゃんはアイちゃんの前なので少し大人しめです普段はもっとワガママですはい。
そして日常会話なのでトレーナーさんはログアウトしてもらいました。ゴコメちゃんとアイちゃんは例えるとヘリオスとお嬢ですね。 - 178キタサンアイドルの人22/10/25(火) 19:32:12
【恋の矛先】
コメット「あ…あの…アイドル!」
「何ですかコメットちゃん」
コメット「ほ…星に興味あったよね?」
「はい、好きですよ。星空はレースみたいに果てしないですから」
コメット「ならさ、今度プラネタリウム行こうよ!」
「良いんですか?コメットちゃんが良ければ喜んで」
コメット「やったー!!あっそういえば空いてる所はある?俺合わせるからさ」
「一番近いと今週の日曜日が空いていますね。日曜日は基本休みなのでいつでも良いですよ」
コメット「じゃあ来週の日曜日で良い?!」
「はい、楽しみですね」
コメット「うん!俺も楽しみだよ!!」
「話は変わりますが次走は何にしますか?」 - 179キタサンアイドルの人22/10/25(火) 19:37:41
コメット「芙蓉Sってやつらしいよ。でも本命はホープフルs!!アイドルも一緒に出よう!」
「ごめんなさい、ジュニア級は出走しないので」
コメット「そっか……それならどこでぶつかりそう?」
「(トレーナーさんにはできる限り言わないでと言われた。なら)」
「秘密です」
コメット「ええー!?」
「ふふ、乙女には一つぐらい秘密があっても良いんじゃないですか」
コメット「……」ドサッ
「コメットちゃん!?」
モブ娘「あっまたアイドルちゃんの過剰摂取で倒れてる!!」
__
ゴコメちゃんの恋は叶うんですかね?果てより難しそうです - 180メジロエスキーの人22/10/25(火) 20:04:09
- 181キタサンアイドルの人22/10/25(火) 21:27:21
- 182二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 22:38:00
190は嫌だ……190は嫌だ……
ほう、190は嫌かね?
嫌でございます - 183二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:02:10
安心しろ
もう手は打ってある(いつもの深夜限定謎IP規制さえ無ければ) - 184アルケミー22/10/25(火) 23:18:09
別にスレ建てしても良いけどな〜と思ってるけどなかなか190踏まないのです
- 185二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:21:21
大変だぁっ IPアドレスが死んだぁ!
何故か12時前後から早朝限定で規制されるんだよね 怖くない?
モバイルから建てると管理できないから避けたいのん - 186二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:25:00
お加速します?
- 187二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:25:25
建てられるならどぞ
- 188二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:29:56
- 189二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:33:18
- 190二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:34:35
たておつでむせる
- 191二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:36:04
>>200なら綺麗なバラカ誕生
- 192二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:36:23
ウメウメ
- 193二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:37:00
キリコは次のレースに向かう
- 194二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:37:28
たまには芝のにおいを嗅ぐのも悪くない
- 195二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:38:31
病んだウマソウルは、レースに安息を求める
- 196二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:39:04
変わらぬラップタイムなど、あるのか?
- 197二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:39:39
この命、賞金30億なり、最も高価なウマ娘
- 198クアドラプルグロウ22/10/25(火) 23:39:53
200ならわたくしがクアドラプル苦労する(激うまギャグ)
- 199二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:40:57
明後日?そんな先のレースは分からない
- 200二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:41:03