【SS】壁に耳あり

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:05:17

    「まさかお前がトーセンジョーダンの担当になるとはほんと予想外だったよ。もっと真面目系な担当をつけると思ってたわ」

    廊下で昔お世話になった先輩とばったり会い、近況報告がてら雑談に花を咲かせていた最中のことである。
    先輩が単なる疑問から発言したのはもちろん承知だ。トレーナーになりたての頃は良くしてもらったし、悪意を持って接してくる人間でないことはよく知っている。
    そして、この手の疑問は他のトレーナー達と話した時にもよく言われることだった。

    「どうしてあのお前が」
    「似合ってない」
    「意外すぎる」

    他者から見た自分の評価なんてのはどうでもいいが……自分がこの目で選んだジョーダンのことを誤解されたままなのは、やはり悲しい事だった。

    「そんなに意外ですかね?僕はジョーダンが担当になってくれて良かった……いや、僕にはジョーダンしかいないって心から思っています」

    「ふむ、なるほど……そこまで断言するなら、お前なりの理由があるんだよな」

    先輩は曲がり角を前にして立ち止まった。ありがたいことだ、疑問を投げかけても、俺自身の想いをきちんと聞いてくれる人は案外少ないから。俺は胸の内を語り始めることにした。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:05:56

    「みんなからもよく言われるんですけど、僕ってやっぱり真面目なんですよね。生まれてこの方勉強一辺倒で生きてきたので……それが1番だって、それしかないんだと思っていました」

    けれど偶然かそれとも……運命か。
    彼女に、出会った。

    「はっきり言います。確かにジョーダンは『バカ』です」

    濁さず言い切った俺の言葉に、先輩は目を丸くした。だが、それが彼女の魅力なのだから。

    「オゥ、言うねえ……」

    「ええ。だからこそ……僕は惹かれたんです。こんな生き方があるのかと。人生観がひっくり返りました」

    惹かれ……羨ましいと思った。

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:06:39

    「損得だとか、厳しい壁だなんて目もくれない。いつでも『勝ちたい、強くなりたい』って気持ちに正直でいられる。誰もが無理だと決めつけたレッテルを、ジョーダンは破って見せてくれたんです。凄い、とても僕にはできっこないって脱帽しました」

    賢く利口に、とは真逆の生き方。遠回りだったかもしれないけど……ジョーダンの勝利は、バカだからこそ掴み取った栄冠なのだ。

    「自分で言うのもなんですけど、僕は賢くなりすぎたので。もうジョーダンみたいに生きてはいけません。だから、僕が持っていないものを持っている彼女のことを、すごく羨ましく思います」

    「歳下の生徒なんて関係ない。えっと、心から大好きだし、その、尊敬してます……恥ずかしいから、本人の前で言ったことはないんですけどね」

    最後には少し照れが出てきてどもってしまった……つい熱くなって長々と語ってしまったが、先輩は俺の話を黙々と聞いていてくれた。

    「あー……とりあえず、悪かった。さっきの予想外云々の発言は取り消すよ。お前にとっちゃ運命どころか必然の出会いだったんだな」

    「いえいえ。こちらこそ長話になってしまってすみませんでした……それじゃ、この辺で失礼します」

    先輩も俺も、そろそろ担当とミーティングの時間だ。向かう先は別々、廊下の端で雑談はお開きとなった。

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:07:18

    さて急がねばと角を曲がり、階段へさし掛かろうとして━━━人影にぶつかりそうになる。

    「おっとすみませ━━━ジョーダン?」

    「あっ、と、トレーナー……きぐー?じゃんね」

    噂をすれば、という奴だろうか。かち合ったのは今の今まで話題の中心にいたジョーダンその人だった。

    「これから向かうところか?偶然だね」

    「うん、そんなとこ……ぐーぜんぐーぜん」

    何はともあれ合流したので、一緒にトレーナー室へ向かうことにしたのだが……ジョーダンの様子はどこか変だった。
    そわそわ爪や髪をいじって落ち着かなそうにしているし、俯きがちで視線もなかなか合わない。
    ぴこぴこ忙しなく震える耳だけが見えている。
    もしかして突然合流してしまったものだから、忘れ物かそれとも俺に言い出しにくい準備不足があったのだろうか?

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:07:50

    「大丈夫?具合が悪いなら言って欲しい」

    「ううん、ゼンゼン元気だから!ただちょっと、落ち着かねーってゆーか……」

    「なにか不安なことでも?」

    「ううん……その逆♪」

    ニカッと白い歯を見せ笑う。頬は少し赤いが、いつも通りの眩しい笑顔。どうやら嘘では無さそうだ。

    「あたしのことはいいから……ほれ、行こー?」

    ジョーダンに急かされ歩き出す。ゆらゆらとご機嫌そうに揺れるしっぽが規則的にこちらの足を撫でてくる。やがて……くるり、とその尾が足に巻きついた。

    「〜♪」

    ジョーダンの方は気づいていないみたいだ。少し歩きにくいが、問題では無い。むしろ、なにがそこまでジョーダンを上機嫌にさせるのかが気になる。

    「そんなにいいことがあったんだね」

    「あったっつーか……今が1番ってね。とりゃっ」

    結局具体的なことは教えてくれなかったけど、ジョーダンが笑っていられるのならそれが一番幸せなこと。
    そして今度は、しっぽだけでなく腕までも絡ませてきたのだった━━━

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:11:14
  • 7二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:22:50

    さすがだな!尻尾ハグっていう新鮮なネタを早速取り入れているな!

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:28:01

    ジョーダンは障子に目ありを障子にメアリーって人いんの?なんで?って言いそう

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:36:19

    >>8

    障子もしょうこって読んで「なにその二人組、ウケる」ってなるぞ

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 00:00:19

    素晴らしい…このコンビは意外にというかトレーナーからの感情が結構大きかったりするのよね
    同僚に「俺たち『バカコンビ』なんだ」って言い放つのめっちゃ入れ込んでるなこいつ!?ってなる

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 08:57:43

    『まさかお前がトーセンジョーダンの担当になるとはほんと予想外だったよ。もっと真面目系な担当をつけると思ってたわ』

    会話が聞こえた時、思わず奥に隠れちゃったのはマジミスったんよね。
    トレーナーを見かけて、勢いのまま連れて行ってしまった方が良かった。
    胸が苦しくなるのはわかってんのに、その場から動けなくて。逃げ出せばいいのに、ずっと耳を傾けてた。
    アンタはあたしのこと、強い強いって言ってくれるけど。本音には文句のひとつやふたつ、きっとあるだろーし。
    そこんとこが知りたかったんかも。他の子よりもなんもかも上手く出来んあたしのことを、なんでも出来るアンタにはどう見えてんのか。

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 08:58:37

    『はっきり言います。確かにジョーダンはバカです』

    わかってたけどさ……締め付けられた胸を抱いた。いくらあたしでも、そうハッキリ言われたらクるハートもあんだけどっ。
    あー、ちょっと目が熱いかも。

    足が震えて、逃げることも耳をふさぐことも出来ないまま。次の言葉を待つだけだった。

    『だからこそ……僕は惹かれたんです』

    そう、だよね……あたしに惹かれ━━━え、なんて?
    予想外の方向から投げつけられた言葉に、心臓が跳ね上がる。

    『━━━誰もが無理だと決めつけたレッテルを、ジョーダンは破って見せてくれたんです。凄い、とても僕にはできっこないって脱帽しました』

    あれこれアイツの口から語られることが、次から次へとあたしの中へ吸い込まれてく。
    待って待って。そんな急に喋んなし!頭バクハツするから!?

    『━━━僕が持っていないものを持っている彼女のことを、すごく羨ましく思います』

    ……なんで?アンタから見たあたしって、どー見ても落ちこぼれじゃん。羨むトコとかねーじゃん。
    どーしてそこまで言えんの。
    今はただ、証拠が欲しかった。
    その言葉を信じてもいいって、証拠が━━━

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 08:59:21

    『歳下の生徒なんて関係ない。えっと、心から大好きだし、その、尊敬してます……恥ずかしいから、本人の前で言ったことはないんですけどね』

    照れたように、詰まりながらもアイツは言った。
    それは初めて聞いた、アイツの本音。
    難しいコトはよくわかんねーし、「大好き」ってセリフほど、あたしのココロを貫く文字は他になかった。
    ウケる。ヨユーなさそーにどもってるトレーナー、初めて見たわ。
    なんだ、可愛いトコあんじゃん?
    へえ……ふーん。
    ……ヤバい。なんか、こう……お腹の奥からカーッて熱いものが込み上げてくる。
    今すぐにでも飛びついちゃいたい気分。
    でも今は出来んし、ぐっとこらえて……ってヤバっ!?いつの間に話終わったん!?
    ぐーぜんのフリしねーと……つり上がった頬をこねくり回し……これでよし。もう変じゃないハズ。
    だんだん近づいてくる足音に、高まる期待を上から押さえつけて。
    いつもみたく顔を合わせんの。

    「あっ、と、トレーナー……きぐー?じゃんね」

    ━━━ふつーに話すの、やっぱムリかも。

  • 14二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 09:00:21
  • 15二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 18:20:11

    ジョーダン視点来てるやん...いいやん...

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