- 1カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/21(金) 23:21:14
私一人のために、自室に用意された長い受話器の電話。ウマ娘用に調整された受話器を耳に当て、今か今かと待ちわびる。仕事のために海の向こうへと行ってしまった彼を想い、呼び出し音が途切れる瞬間を心待ちにしていた。
ドイツと日本の時差はおよそ7時間。こちらは今16時だから、向こうは23時だろう。そんな時間にかけてしまったら然しもの彼も迷惑なのではないか。寝てしまってはいないか。そう思う気持ちはあるけれど、それでも私は彼に電話をかけたかった。
「もしもし、あなた?」
『はい、君のパートナーだよ』
少しだけ、眠たげで気怠そうな声。その声がとても愛おしい。いつも通りの彼の声を聞いて、私の心に安心感が広がる。まだ彼がドイツを発って四日しか経過していないにも関わらす、こんなにも早く聞きたくて堪らなかった彼の声。たった数日なのにもう何年も聞いていなかったように感じてしまう。それだけ彼と離れることに慣れていないということなのだろうか。
「…ふふ」
思わず笑みが溢れてしまった。この人はどれだけ私を夢中にさせれば気が済むのだろう。本当にずるい人だ。
でもきっと、それはお互い様なのだと思う。私が彼に溺れるように、彼もまた私に溺れているはずなのだから。
電話口から、風の音と人の会話がわずかに聞こえる。枝が揺れ、緑葉が奏でる優しい音色は心地よく耳に馴染んだ。
「そちらは今外ですか?」
『あぁ。今夜、流星群が見られるみたいだから。この景色をフラッシュと共有できないのが残念だよ』
こちらは西の空が少し赤くなり始める頃合いだが、向こうの現地時間は既に深夜に差し掛かる。日本のトレセン学園にいた頃は壮観な夜空を一緒に眺めていたものだ。彼は今、それを見ているのだろう。
それでも彼はこうして星を見上げながら、遠く離れたドイツに思いを馳せてくれている。それがたまらなく嬉しかった。彼の声を聞き、先程までの寂しさといった感情はいつの間にか消え去っていた。代わりに込み上げる温かな気持ち。顔が見えなくても、こうやって心を通わせられるのだと改めて実感する。 - 2カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/21(金) 23:22:26
『今も流れ星を探してるんだけどね……ん?あっ!あれじゃないか!?ほら!』
興奮した様子で話す彼の声。普段より子供っぽくて可愛らしい。
まるで宝物を見つけたような喜びようだ。普段は年上として頼りがいのある振る舞いをする彼だけど、こういうところがあるからこそ余計に好きになってしまうのだ。
「…ほら、と言われても見えませんよ?」
『あっ…そうだったね』
どうやら本人は気づいてなかったようで、少し恥ずかしそうにしている様子が目に浮かぶようだった。電話口からは小さく咳払いをして誤魔化そうとする気配が伝わってくる。きっと今ごろ頬を赤くして照れ笑いでもしているに違いない。なんだか微笑ましくなって、クスリと笑いが漏れてしまった。
『写真、送るよ。この景色を独りで見るにはもったいないからさ』
「……いえ。送っていただかなくとも大丈夫です」
私はそう言って断った。別に意地悪をしているわけではない。
むしろ逆だ。私も流星群を見たことはある。その美しさはまさに息を呑むほどで、筆舌に尽くしがたいものだった。
それは、これからどれほど技術が進化を遂げても到底写真になど収まり切るものではない。
だから、その美しさを彼の目で直接見て欲しいと思ったのだ。
「今はただ、眼前の光景を目に焼き付けてください。そして帰ってきたら、あなたの言葉で教えてください。その美しさは、レンズ越しには伝わらないのですから」
きっとこの感動は写真では表現出来ない。それならば、わざわざ記録に収めておく必要はないだろう。彼が帰って来て、共に語り合うその時まで取っておけばいい。そう思い伝えると、受話器の向こうからはしばらく沈黙が流れた。何かまずいことを言ってしまったのかと思い心配になる。 - 3カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/21(金) 23:23:28
『……ははっ』
「……どうかしましたか?」
不意に聞こえた笑い声。何事かと思っていると、すぐに普段の調子の彼の声が聞こえてくる。
『いやぁ……レンズ越しに美しさが伝わらない、って言われてさ。そういえばそんな女性がすぐそばにいたなぁ、と思って』
「……っ」
一瞬にして顔が熱くなるのを感じた。この人は本当にずるいと思う。彼は時折こうして私の心を乱してくる。でも決して嫌な気分にはならない。
寧ろもっとして欲しいくらいだ。もっともっと、私をドキドキさせて欲しい。
「……もう。あなたという人は……」
この人が愛おしくてたまらない。早く会いたいという想いが一層強くなっていくのを感じる。
たった数日しか離れていないというのに、もうこんなにも恋しく思っている自分がいる。やっぱり私達は似た者同士なのだな、と感じてしまう。お互いに会えない時間が耐えられないほど好きで仕方がない。でもだからこそ、そんな相手と一緒に居られることがとても幸せだった。
『まだ全然時間も経ってないのに、何か月も離れてるような気がしてるよ』
「ふふっ、私もですよ」
彼も同じことを考えていたようだ。それがおかしくて、つい笑みが溢れる。寂しがりな夫婦もいたものだと我ながら思う。
『……心惜しいけど、そろそろ切るよ。また明日も電話するから』
向こうの時間に合わせた時計を確認すると、既に23時を回っていた。時差のせいでこちらはまだ16時台だけれど、あちらはもう夜遅い時間帯だ。
名残惜しくはあるが、あまり夜更かしさせるわけにもいかない。彼だって疲れているはずだ。 - 4カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/21(金) 23:24:06
「……わかりました。おやすみなさい、あなた」
『うん、おやすみ。フラッシュ』
耳元から聞こえる優しい声。それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなってくる。やはり電話とは便利なものだ。声だけなのに、まるで目の前にいるかのように錯覚してしまう。あぁ、彼に抱き締められているような感覚。このままずっと、いつまでも聞いていたかった。
最後に挨拶を交わし、通話を切る。ツー、ツー、という無機質な電子音が鼓膜を震わせた。途端に訪れる静寂。
「……日没まで、あとどれほどでしょうか」
東京の北緯は36度で、ドイツの北緯は49度。国が変われば見える星も変わるとは言うが、この程度の緯度の違いであれば見える星空はそう大きくは変わらないだろう。あと一時間だろうか、それとも数十分だろうか。
こっちにも、もうすぐ夜がやってくる。彼が見ていた夜が訪れる。あの人が見ていたのは、どんな夜空だろうか。どんな輝きが見えていたのだろうか。
遠く離れていても、見える星空は変わらない。そう考えると、まるであの人と心が繋がっているかのように思えてきて。
私の胸はどうしようもなく高鳴ってしまっていた。 - 5カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/21(金) 23:30:46
創作意欲掻き立てられすぎて二日連続で書いちまったよ
どうして流星群を題材にして書くのがアヤベさんじゃなくてフラッシュの話なんですか?
【SS】このSS書きには夢があるッ!|あにまん掲示板思えばあれが、始まりだったのだろう。トレーナーさんと3年間を駆け抜け、その後ドイツに戻る予定だったのを変更し、もう少しだけ日本で走る事を決めた。一方のトレーナーさんは新しく担当を持つことを打診され、そ…bbs.animanch.comIch liebe dich♡|あにまん掲示板「では、本日も定刻通りに始めていきましょうか。」そうして甘ったるい声で耳元でささやいたフラッシュは、その後いつも通りにトレーニングの合図をかけた。「…」………………なんだって?聞き間違いだろうか…?今…bbs.animanch.com…お、今日も来たか|あにまん掲示板おーよしよし、今日もかわいいなあお前はんー?…早速あれが欲しいのか、まったくこのいやしんぼめ!あーわかったわかった、あげるから、な?あげるからあげるからじゃ~ん。おおちゅーる見せただけでこの反応。はい…bbs.animanch.comフラッシュと|あにまん掲示板スポーツ用品を見に行った帰り、時刻は6時半を回った頃。ちょうど平日の帰宅ラッシュの時間と重なってしまい、電車の中はかなり混んでいた。「…予想はしてたが、すごい人だな…」「はい……」車内でなんとかスペー…bbs.animanch.comとりあえず過去スレ置いとくぞ!FAはいつでも募集中だ!
実はずっとSS読んでる?のスレに取り上げられたいと思ってる!
- 6二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:46:14
- 7二次元好きの匿名さん22/10/21(金) 23:58:50
海産物!海産物じゃないか!生きてたんだな!
- 8二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 00:02:20
このイタリア伊達男因子濃いめのフラトレはよぉ…もっとフラッシュと互いの好きなところ増やしあって、ほら。
- 9カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/22(土) 00:05:46
- 10二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 00:06:38
よく思いついた、Good
- 11二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 00:11:22
2日連続?昨日の分は何処に行けば読めますの!?
- 12カメノテ◆dmhOfkvJIk22/10/22(土) 00:22:14
- 13二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 00:26:14