- 1二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:13:24
カクテル・グラスを傾けて、マティーニを口に含みます。
ハーブの爽やかな香りと辛口の味わい。
夏の暑い夜にはぴったりのカクテルですねと舌鼓を打っていると。
ドタバタという焦った足音を背景に、カランカランという入店の鈴の音が響きます。
「遅くなってごめん、グラス!」
それは心の底から待ち望んでいた、トレーナーさんの懐かしい声でした。
「直接会うのは本当に久しぶりだね」
「ええ。本当にお久しぶりです~」
トレセン学園を卒業して数年後のことです。私とトレーナーさんは連絡こそ取り続けてはいたものの、中々お会いする機会に恵まれず。もどかしさが募るばかりでした。
久しぶりに会わないかとの連絡を受けた私は、すぐに本日のお酒の席を設けました。学生の時分から、トレーナーさんと一緒にお酒を飲んでみたいという子供染みた望みがあったのです。 - 2二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:15:25
「トレーナーさんも早速一杯いかがです?」
「どれにしようかな……さっきグラスが飲んでいたカクテルはどんなものなの?」
「あれは“マティーニ”ですね。ジンとベルモットを混ぜた、カクテルの王様とも言われるものです。爽やかな辛みが好きなんですよ~」
「やっぱりグラスは物知りだね!僕もそれを頂こうかな」
私ももう一杯マティーニを頂きましょう。
2人分の注文を告げると、寡黙なマスターは黙って頷きシェイクを始めました。貸し切り状態の静かなバーに、穏やかな会話が反響します。
「じゃあ乾杯しようか」
「ふふ。では一緒に」
乾杯、とお互いに軽くグラスを掲げます。
口に含んだマティーニは、不思議と先ほどよりも美味しく感じたのでした。 - 3二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:16:17
「グラスは最近どう?元気にしてたかい?」
「ええ、おかげさまでお仕事にも恵まれまして。充実した毎日ですよ~」
トレーナーさんと会えなかったことを除いては――
その言葉を隠して告げました。
「トレーナーさんはどうですか?また迷子になってたり――」
学生の頃と変わらないやり取りが続きました。
「トレーナーさんは変わらず元気なようでなによりです~」
あの頃と同じ距離。心地良い距離感。
でも何故か物足りないものを感じてしまいます。
お会いできなかった寂寥さによるもの、とだけでは説明できない感情でした。
「グラスは……」
お酒が何杯か進んだ後に。
少しばかり顔を紅潮させたトレーナーさんが告げました。
「グラスは大人になって本当に綺麗になったね」
「……まあ~。それは嬉しい言葉ですね。ありがとうございます~」
はしたないことですが顔が綻んでしまうのが分かりました。
顔が熱くなります。トレーナーさんの優しい目を直視できません。
私の尻尾も、自分の意思に反して跳ね回る始末です。
みっともない姿を見せまいと考えていると、空になった2つのカクテル・グラスが目に留まりました。 - 4二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:16:36
「ときにトレーナーさん。もう少しカクテルにお付き合い頂いても良いですか?」
マスターに新しい2杯のカクテルを注文します。
「私、まだまだトレーナーさんに話したいことが――」
夜は長いのです。
話したいことも、聞きたいことも山ほどあります。
共にトゥインクル・シリーズを駆け抜けた思い出。
卒業してからのこと。私のこと。トレーナーさんのこと。
会えなくて寂しかったこと――
トレーナーさんと2人でカクテルを味わいつつ。
カクテルのように色とりどりの話に花開かせながら。
そんなバーでの穏やかな夜は過ぎて行ったのでした。 - 5二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:17:07
以上となります。
お読みいただき、誠にありがとうございました! - 6二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:20:12
こういう時の流れをじんわりと感じるお話が大好きなんですよ
- 7二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:29:04
グラスがグラトレとカクテルを飲んでる話を書きたかったので。タイトルはグラス繋がりのネタ。
ウマ娘カテ界隈でのSSスレ立ては初めてなので至らぬ所があればご容赦頂けると幸いです。 - 8二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:54:47
大人だぁ……
- 9二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 19:58:07
しっとりしてていいすね 大人の時間って感じだ
- 10二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 21:06:56
バーで飲むウマトレSSに断念した過去があるから凄いと思いました!
- 11二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 23:36:07
大人なバーの雰囲気のグラスとグラトレが素敵だ…