【SS】涼風に共に響いて｜あにまん掲示板

1二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:12:08

　日中は熱風が吹くほどの、炎天下の元、ゼファーは烈風を纏うほどの勢いで砂浜をかけてゆく。
足元の砂、海から来る海風にフォームが崩れそうになりながらも、目標地点まで懸命に前へ前へと走りぬけていった。
「ゼファー、今の走り方良かったよ」

走り終えたゼファーにタオルを渡すために待機していた俺が彼女に声をかけると、彼女はクールダウンしながら、こちらに近づいてくる。
このところ毎日のように砂浜をかけ続けている成果が出ているようで、出会った頃と比べても足腰がしっかりしてきたように思う。

「ふふっ、ありがとうございます。この好風を離さずに、本番でも雄風として吹くことができれば」

彼女は走った感覚を身体に刻み込むように、タオルで汗を拭きながら自分の手足を見つめていた。
その表情からは確かな手応えを感じている様子が伺える。トレーナーとして、彼女の指導の成果が徐々に出て来ていることに嬉しさを感じていると、

「……トレーナーさん、お願いを聞いていただけないでしょうか」

唐突にゼファーからお願いをされた。
　何だろう？また、一緒に風待ちをすればよいのかなと思いながら、内容を聞くことにした。　

「明日の朝が凪でしたらで構いません。日頃のお礼をしたいのです」

あぁ、なるほど、彼女なりのお礼ということなのだろうか。こちらは好きでやっているのだが、
お礼するほどのことでもないけど、彼女の決心を無下にするわけにもいかない。でも、何で朝なのだろう？と疑問を浮かべながら、

「いいよ、分かった。朝、何処に行けばいいのかな」

「まぁ、瑞風、感謝します。明日、明朝にこの砂浜にトレーナーさん一人で来て下さい。私は風待ちがありますので」
そう言って、彼女と約束した時、潮風が強く吹いて、彼女の長い髪が大きく揺れた。

翌日、朝も変わらず蒸し暑い中、彼女との約束のために起き上がり、砂浜に行く準備をする。
まだ太陽が完全に昇らず、薄暗いなか、宿から砂浜に向けて歩いていくと、沖つ風にのって、綺麗な音が聞こえてきた。

2二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:13:58

　耳を傾けながら、聞いたことがある音だと思いながら歩き、砂浜に近づくにつれて、時つ風共に音は鮮明になってゆく。

－－－あぁ、この音色は。

音の正体と確信を得たとき、砂浜にはトランペットを演奏しているゼファーが居た。

彼女はこちらが砂浜に着いたことを視認すると演奏を切り替え、耳に馴染みがある曲を演奏し始めた。

曲名は分からないけれど、この曲なら知っている。

彼女が吹くトランペットの音に導かれるように、砂浜を歩く。

一歩ずつ歩みを進める度に、波打ち際が近づき、そしてゼファーの元にたどり着く。

目の前にいる彼女は、ただひたすらに真っ直ぐに、晨風に寄り添うように音を奏でていた。

その姿はとても美しく、凛とした姿で、つい見惚れてしまうほどだった。

曲が終わったのか、一息ついた後に、彼女は俺に向かって話し出した。

「……トレーナーさん、改めて日頃の感謝、ありがとうございます。この１日が始まるを告げるひなたと共に、トレーナーさんに感謝を伝えたく、思いまして」

そう言うと、彼女は軽く頭を下げた。

3二次元好きの匿名さん22/10/22(土) 20:14:22

「ゼファー、気にすることないよ。それよりも、演奏凄く上手かったよ」

彼女がトランペット吹けたことに驚いたが、綺麗な音色だった。ゼファーの新たな一面を知れて嬉しいかぎりだ。

「ありがとうございます。時に音は言葉で表せない、饗の風を運んでくれます。……恵風が吹くことができましたか」

「……ああっ、ゼファーから風を感じたよ！」

俺の良い返事を聞きけたからか、
彼女は少し笑顔を浮かべて、

「ふふっ、涼風なのですね。……凱風の方」

彼女の嬉しいそうな表情を見て、まだ、演奏を聞きたいと思い

「ゼファー、もう少し君の演奏を聞きたいけど頼めるかい」

「えぇ……海風を受け止めながら、そよ風のようになゆっくりしていて下さい」

それからしばらくの間、涼風を感じながら、朝日の昇る様子とゼファーの演奏を楽しんだ。