- 1二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:56:31
びゅおうと強く、風を裂いていきます。いつかの昔、わたしが名前を刻みつけた、あのレースみたいに。
そして今、それよりももっと速く大地を駆けていくのはこの足ではなく……暗くも輝く鉄のボディなのでした。
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学園を卒業して、色々したいことは山ほどあったマーちゃんなのですが……まず初めにしたことは、免許をとること。そして、世界に1台だけのマーちゃんカーを手に入れることでした。
あなたと見た、あの映画ような。カッコイイ車がどうしても欲しかったのです。
マーちゃんは映画を自作するくらいの大ファンですから。大人になった特権を存分に使っちゃうのも致し方ないのです。
それと、スパイのなりきりだけでなくてもう一つ。車があれば、マーちゃんは日本中に羽ばたけます。
遠くの人にも本物のマーちゃんをお届けすることが出来るのです。
ネット、書籍でマーちゃんを広く覚えてもらう努力はしてきましたけど、やっぱり『ナマ』のパワーは桁違い。これで一家に一台、マーちゃんの念願がより近づくでしょう、どやや。 - 2二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:57:02
川の流れのように、気ままな━━━ふたり旅。
ゴールも無く、計画もあやふや、そんなあてのない旅です。誰かを乗せてしまっては、ご迷惑をかけてしまうでしょう……それなのに。
『マーちゃんカー出走記念日……来てくれますか?』
『喜んで』
わたしの新しい旅立を……大切な日の思い出に。あなたを刻みたいと思ってしまったのです。
悪い子です。アクトウマーチャンにだけはなるまいと思っていたのに。また甘えてしまいました、てへへ。
「あてがないなら、リクエストしてもいいかな」
あなたが指し示すように、マーちゃんは走ります。
マーちゃんカーは絶好調。あっという間に野を越え山を越え、途中少しSAで一緒にお土産も見たりして。いつのまにやら太陽さんも水平線のベッドにお休みする時間が近づいてきました。 - 3二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:57:31
「ここは、どこなのでしょう?」
窓の外を流れる景色。そこはマーちゃんの知らない海でした。海は全てが最期に流れ着く場所。どこまでも深く、暗い奥底に沈みゆくゆりかごのはずです。
ところがマーちゃんの眼下に広がるそれは、とても賑やかでした。
大島小島がぷかりぷかり。仲良く穏やかに遊んでいます。何十も浮かぶそれはどれも一つとして同じ顔は無くて、ああ……この子達も流れの中にいるのだと、ぼんやり感じたのでした。
「俺の知っている海は、こんな海なんだ」
そう言ったあなたはどこか懐かしそう。過ぎ去ってしまった上流の景色。わたしの知らない、あなただけの忘れられない記憶。
これが、あなたにとっての絵でありお人形なのですね。
「……マーちゃんアイが、もっとじっくり見たいと訴えかけていますよ」
ハンドルを切って、寄り道をしましょう。
流れる中にも、ひと休みは必要なのです。 - 4二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:58:00
マーちゃんカーには少し待っててもらうことにしまして……ふたりで砂浜に降り立ち、さらさらの上に腰掛けます。
季節柄か他に人の姿はなくて、あなたの記憶をマーちゃんとふたりじめ。
柔らかな波が、カーテンのようにふんわりふわりと寄せては返します。
向こうでは島さんたちが気持ちよさそうにたゆたっています。
「……海って、こんなにも彩やかなのですね」
「マーチャンがそう言ってくれるなら、こんなに嬉しいことはないよ」
そう……こんなにも綺麗で、命が沈む場所ではなく、常に新しい輝きを産んでいる。
「……願わくば。わたしが辿り着く海は、こんな場所がいいと思います」
でも、それはわがままなお願いかもしれません。
あなたの大切な色や香りに、余計な歪みが入っては記憶を傷つけてしまうでしょう。
……それは、わたしにとってはあまりにも申し訳ないのです。 - 5二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:58:38
「いいや、まだ早いよ。それに……ここは終わりじゃなくて、始まりの場所にしたいから」
始まり━━━どういうことでしょう。マーちゃん、はてながいっぱいになってしまいます。
「マーチャンが俺にたくさんの記憶をくれたように……今度は俺が、マーチャンにあげたいんだ」
「あなたの……記憶」
あなたの瞳が見えます。透き通る黒の奥に、マーちゃんが映っています。
「うん……一緒にここから、始めたいんだ。」
あぁ……そうです。
あなたはとっても、変な人でした。
今思えば、マーちゃんあなたに結構な無理難題を押し付けていた気がします。
『覚えていてね』
わたしの心からの願い、酷く単純で━━━なのに難しい。
波はいつもわたしを呼んで、この世界さえもわたしを忘れようとしましたね。
それでも、あなたは忘れまいとしてくれて、覚えていてくれた。
そしてレースが終わってしまっても、キラキラのマーちゃんが、今もあなたには映っている。 - 6二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:59:04
その瞳は鏡。同じ気持ちを、マーちゃんの中に呼び起こしたのです。
初めから見えていたのに気づかなかったとは、マーちゃん今世紀最大のうっかりです。
旅は川の流れのようであり、川の流れは命のあゆむ道。
いつかの海で感じた喜びは、決して消えることはない。
だから、この記念日を独りでなく……一番のあなたと生きたいと、思ったのですね。
「はい……わたしからも、言わせてください」
では、あの分厚いアルバムに新しい1ページを、ここから。
「また再び━━━わたしと一緒に流れ続けてくれますか」
━━━━━━ - 7二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 21:59:24
お日様が、沈みます。ちょっと寒いけど、マーちゃんまだ動きたくありません。ワガママーチャンです。
ですので、取れる手はひとつしかないのです。
二人のあいだ、風の通り道を塞いで。
マーちゃんをあなたの肩に預けてしまいましょう。
ほら、もうぽかぽかです。心の底から暖かいことがこんなにも嬉しいなんて……もっともっと、ワガママーチャンが加速してしまいます。
紫に染まりゆく空と海……けれど、もう悲しくありません。だって、日はまた昇るのですから。
「少し、のんびりし過ぎでしょうか」
「いいや、全然そんなことない」
マーちゃんの歩みとあなたの歩みは違います。
違うものに合わせることは、時には転けたり、疲れたりすることもあるでしょう。けれど━━━
「━━━俺達には、まだ時間はいくらでもあるんだから」
そうですね。ゆっくり、のんびり行けばきっと大丈夫。
その分だけ、たくさんの記憶を覚えられますから。
何年、何十年と、さらにその先も。
『わたし』と『あなた』ではなく、『ふたり』の色々。
あなたと共にそれを積み上げていくことが、こんなにも楽しみなのです━━━ - 8二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:03:17
永遠にふたりで流れていけ…
- 9二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:03:40
マーチャンのシナリオを見ていると、彼女の元ネタ、その車が大活躍するスパイ映画の曲が思い浮かんできたので書きました
元ネタのセリフは宜しくないフラグなんですけど、すごく素敵なのでどうしても……
マーチャンとマートレの未来はいつまでも幸せです(断言)
Louis Armstrong - We Have All The Time In The World
普段はちゃんこしてます
【SS】おっきなしっぽ|あにまん掲示板トレーナーさーん!メニュー1セット目走り終わったよぉ〜!はぁ……ふぅ……いきなり全力で走ったからちょっと疲れちゃった。でもおかげで体はポカポカだよ〜♪外はどんどん寒くなってきてるし、しっかり動いてあっ…bbs.animanch.com - 10二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:06:53
- 11二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:08:09
- 12二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:09:24
スキー場で恋人と二人きりのリフトに乗っているような心温まるSSでした
おれ ヒシアケボノ すき
トレーナー くそぼけ きらい - 13二次元好きの匿名さん22/10/24(月) 22:12:50
- 14二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 07:54:56
- 15二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 08:25:20
- 16二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 20:24:36
普段は落ちかけのスレをあげるような真似はしないんだが…読んじまったからにはこれだけ言わせてくれ
素晴らしかった、ありがとう - 17二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 01:02:32
- 18二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 01:07:36
神SS書きと神絵師が居る......
- 19二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 08:25:57
- 20二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 10:11:03
- 21二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 18:25:05
マーチャンの父親って車のディーラーだったっけ?
- 22二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 18:41:30
- 23二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 21:21:22
マックちゃんラストで泣いてそう