- 1二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:32:57
来週もキリコとウマ娘になってもらう。
本スレは「自分がウマ娘だったら」を妄想するスレです。
スレを開いたあなたも自分のウマ娘になった姿を想像してみましょう。
前スレ
あにまんウマ娘になりたい部Part154|あにまん掲示板詳しく……説明してください。今、僕はウマ娘になろうとしています。本スレは「自分がウマ娘だったら」を妄想するスレです。スレを開いたあなたも自分のウマ娘になった姿を想像してみましょう。前スレhttps:/…bbs.animanch.comアーカイブ
@Wiki
umamusumeninaritai @ ウィキ【12/15更新】@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名...w.atwiki.jp - 2二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:33:34
参考になりそうなもの↓
https://bbs.animanch.com/board/199950/?res=3
自分みたいにお絵描きできない人向け
https://bbs.animanch.com/board/199950/?res=4
https://bbs.animanch.com/board/246596/?res=141
診断メーカー↓
ウマ娘になったらの診断をプログラミングして作った!|あにまん掲示板https://shindanking.wixsite.com/my-site-1おかしくなったから立て直した画像のような結果が出ますbbs.animanch.com※入部希望者へ※
際限なくウマ娘が増えてしまうことを避けるため、原則一人一ウマ娘でお願いします!
次スレは>>190を踏んだ人が建てること!
建てられない場合は他の人にスレ建て代行をお願いすること!
スレの管理ができなくなるモバイル回線で建てないこと!
いいー?
- 3二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:36:13
キリコが飲むカフェのコーヒーは苦い
- 4二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:36:35
時間が時間なんで保守作業
- 5シュウマツノカジツの人22/10/25(火) 23:38:29
たておつ
- 6クアドラプルグロウ22/10/25(火) 23:40:14
保守かな!
- 7二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:41:25
たておつで保守
- 8二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:41:31
なんだあのむせるスレはたまげたなぁ
- 9レッカの中身22/10/25(火) 23:42:01
たておつ
いきなりむせるでクスっときた - 10二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:42:41
- 11二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:43:13
このターフは緑に塗り固められているが
ここも地獄に違いない。 - 12二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:44:17
ロッチナの手を逃れたキリコを待っていたのは、また地獄だった
破壊の後に住み着いた欲望と暴力。百年戦争が生み出したソドムの街
悪徳と野心頽廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてブチまけた
ここは惑星メルキアのゴモラ
次回「ウド」 来週もキリコと地獄に付き合ってもらう - 13二次元好きの匿名さん22/10/25(火) 23:45:46
■一般人の認識
ガンダム:安室とシャーがたたかう話
エヴァ:パチンコ、あやなみが可愛い
マクロス:歌う
ギアス:何それ
ボトムズ:アストラギウス銀河を二分するギルガメスとバララントの陣営は互いに軍を形成し、
もはや開戦の理由など誰もわからなくなった銀河規模の戦争を100年間継続していた。
その“百年戦争”の末期、ギルガメス軍の一兵士だった主人公「キリコ・キュービィー」は、味方の基地を強襲するという不可解な作戦に参加させられる。
作戦中、キリコは「素体」と呼ばれるギルガメス軍最高機密を目にしたため軍から追われる身となり、町から町へ、星から星へと幾多の「戦場」を放浪する。
その逃走と戦いの中で、陰謀の闇を突きとめ、やがては自身の出生に関わる更なる謎の核心に迫っていく。 - 14アルケミー22/10/26(水) 00:00:20
- 15二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 00:02:36
それはお前だぁ!
- 16二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 00:13:04
雉も鳴かずば撃たれまい
- 17二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 00:14:46
第n回チームカオスマイクロビキニ部
- 18二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 00:21:57
良いんですか?また例のドラム缶のバケモノが来ますよ
- 19二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 06:38:40
普通に水着部で良いのでは……
- 20メジロエスキーの人22/10/26(水) 06:56:02
まあここはけみちゃんかバラカに犠牲になってもらうとして……
今日も続き投げていきますね - 21メジロエスキーの人22/10/26(水) 06:57:00
─────
次の日は朝風呂で何個かお風呂に入ってから、4人揃って水族館へと足を運んだ。縦に長い巨大な水槽があったり、イルカに触れたり、カフェで美味しい料理を食べたりと朝から夕方まで水族館やその近くで楽しい思い出を作ることができた。
そして3日目最終日、翌日から授業が始まる関係で、朝風呂を済ませ朝食を食べたあとはすぐにチェックアウトし宿を出る。ここからまた行きの電車と同じ特急に乗り込み、今度は新幹線に乗るために新大阪駅へと向かう。
「なんだかあっという間だったね」
車内で隣に座るトレーナーに声をかける。トレーナーもそうだなと穏やかな表情で小さく頷く。
「旅行って計画しているときは時間が長く感じるけど、いざ始まってしまえば本当に一瞬で過ぎ去っていくものだからな」
「そうだね……またみんなで行けたらいいな」
「ああ。行こう、一緒に」
私の誘いに向かいの席の2人も同意してくれる。
「いつにしましょうか? 夏は合宿ありますし……秋とか?」
「秋はレース真っ最中でしょ? 有馬記念のあととかは?」
「ナイスです姉さま。でしたらもう予定は早めに確保しないとですねっ」
早くも次の旅行の話へと話題は移っていく。楽しみはまだまだ残ってるぞと言わんばかりに。
─────
「んん〜〜〜っ! 着いたー!」
「お互いお疲れさま。とりあえず荷解きして洗濯物洗って干しちゃうか」
「そうだね。晩ごはんも今日はスーパーの惣菜にしちゃったし、食べてる間に洗濯機回しちゃおうよ」
その日の夕方には最寄り駅に着き、エスキーとドーベルさんとはそこで一旦分かれる。私たちはトレーナーの家に、エスキーたちは寮へとそれぞれ帰っていった。 - 22メジロエスキーの人22/10/26(水) 06:57:58
「お土産もチームのみんなとクラスの分買ったし、問題なしっと。明日はもちろん練習あるんだよね?」
「疲れているなら休みにしてもいいけど」
「ううん、大丈夫! 全然へっちゃら!」
ゆっくり旅の思い出を話しながら、時にはお互いに撮った携帯の写真を見ながら荷物の整理をしているとあっという間に日が沈んで夜になった。慌てて洗濯物を洗濯機に入れて回し、夕飯の準備を済ませる。
「ふぅ……これで食べ終わったら干すだけ。トレーナー、干すの手伝ってね」
「もちろん……こうやって2人で家事するのすっかり慣れちゃったな」
食卓に広げた惣菜を突きながら何やらしんみりとした表情を浮かべるトレーナー。どうしたのと聞いてみると、何やら夢を見たらしい。
「ありえないことなんだけどさ、オレとエスキモーが離れ離れになって2度と会えなくなる夢を見たんだ。お互いに離れたくないのにお別れするそんな夢を」
「そっ、か……まあ本当にありえないって思うけどね! 私とトレーナーはずーっと一緒……でしょ?」
にっこり返した私の言葉に少し沈んでいたトレーナーの表情も明るさを取り戻す。
「そう、だな。ごめんな、変なこと言って。これからもよろしく」
「トレーナー変なの。うん、これからもよろしくね」
そこからはまた旅の話をしたり、これまでのレースを振り返ったり楽しく食卓を囲んだ夕飯時を過ごす私たち2人だった。
─────
「それで結果は……これですね……えっ……」
「アタシにも見せてよ……うそ、これって……」
「もう少し精査する必要はありますが、あなたたち2人の予想は当たってしまったようですね」
「エスキモーちゃん……あなたは一体……」
- 23メジロエスキーの人22/10/26(水) 06:59:01
─────
それは宝塚記念を1ヶ月後に控えたある日の週末のことだった。トレーニングのあとご飯やお風呂が済み部屋に戻ったところで、何やら携帯の通知を示す光が点滅していた。
「えーっとだれだれ……ってエスキーじゃん。さっき直接言ってくれたらよかったのに」
そう愚痴を垂れつつもアプリを開きメッセージを読む。そこには今度の日曜日の13時にお屋敷まで来てくださいと書いてあった。
「ふーん? こんな時に何か用事あったかな?」
「どうしたンスか、エスキモーちゃん? お呼び出しッスか?」
私の独り言に反応して反対側のベッドに寝転がっていたカジっちゃん先輩が寝そべったまま顔をこっちに向けて聞いてくる。
「呼び出し、なんですかね? あっ、もしかしたら天皇賞おめでとう会だったり?」
「それはあるかもしれないッスね。メジロで天皇賞っていったらそれはもう褒められると思うッスよ」
「ですよねですよね! あー、楽しみだなー」
カジっちゃんと2人盛り上がり、なんだか逆に楽しみな気持ちになってきた。ベッドに俯せになって足も少しバタバタさせたりなんかして。ただその時ふと日曜日の天気が気になって携帯で調べる。すると、あいにくその日はお昼から雨が降る予報だった。
(エスキーが天気を全く調べないで外でパーティーするーなんて言わないだろうし……まあ室内でも関係ないか!)
そう合点しスケジュールアプリに予定を入力してから携帯の電源ボタンを押して、枕元へと落とすようにポイッと置く。気にしすぎて眠れなくなるのも嫌だし、考えるのを放棄して横になる。
「今日はトレーナーさんの所行かなくていいンスか?」
そういえばと思い出したように向こう側のベッドから体をこっちに向けてカジっちゃん先輩が聞いてくる。私もそれに合わせて先輩の方に体を回転させ、互いに向き合う形になって返事を返した。
- 24メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:00:54
「今日はチームのトレーナー同士で飲み会するんですって。カジっちゃん先輩のトレーナーも行くみたいなこと行ってましたけど、聞いてません?」
「そういえば今日は飲みに行くって言ってたような……でも私がそれ以上突っ込まなかったせいか、何のとは教えてくれなかったッスね」
「……もうちょっと自分のトレーナーとコミュニケーション取った方がいいんじゃないですか?」
「うっ……全くもってそのとおりッス……」
頭の枕を引っ張り出すとそれに顔を埋め「私は……私は……」みたいなことを言い出す先輩。やっぱりこの人コミュニケーション能力が、というか小動物ライクな心の持ち主だから周りへの警戒心が強くて外から踏み込みにくいというか、そんな所あるんだよね……
(初めて会った時が懐かしいなあ……)
私が来るまでは他の人と相部屋だったみたいなんだけど、その人が何かの事情で部屋を出て、そこに私が入る形で同室になった。最初はやっぱり他の人みたくなかなか仲良くなれなかったし、「先輩だからしっかりしないと!」といった気持ちがあったのか何かと率先して動こうとしていた。それがいつの間にか私が自然と先んじて動くようになって、立場が逆転。ただそのおかげで中等部と高等部、先輩と後輩といった上下関係が崩れて仲良くなれたのは、結果的に先輩のおかげかなって思ってる。
ついにはハムスターみたく丸まってしまったカジっちゃん先輩の体に布団をかけてあげて部屋の電気を消す。私も布団を体にかけて、先輩の方に体を向けながら静かに目を閉じる。
(次のレースまであと1ヶ月かあ……明日も頑張らないと!)
─────
迎えた週末の日曜日、曇天が覆う空の下、私はお屋敷の門の前に立っていた。
「やっぱり雨降りそう。大きめの傘持ってきておいてよかった」
空を見上げると今にも雨粒が落ちてきそうな天気模様。レースやトレーニングの時ならまだしも、お出かけの時に雨に濡れるのは避けたいから急いでお屋敷の中へと駆け込む。
「ふぅ、10分前に到着っと。あっ、爺や。ごきげんよう」
「お待ちしておりました、エスキモーお嬢様。おばあさまがお呼びですので部屋までご案内いたします」
「おばあさまが? ……うん、分かった」
- 25メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:01:47
メイドに荷物を預けると爺やの後ろをついておばあさまの部屋へと向かう。何の話なのかと尋ねても「直接お聞きください」としか言われず、頭にはてなマークが次々と浮かび始めた。
「奥様失礼します。エスキモーお嬢様を連れてまいりました」
「どうぞ、入ってきて」
重厚な扉をノックし到着した旨を伝える。すぐに中から返事があり、爺やが開けた扉に私1人で部屋の中へ足を踏み入れた。
「こんにちはエスキモー」
「こんにちはおばあさま。元気そうで何よりです」
「ありがとう。そこに用意した椅子に座ってちょうだいね」
「……失礼します」
何やらバイトの面接や進路相談と似たような感じでおばあさまと直接向かい合っている椅子に腰かける。ただ椅子は2つあり、自分からして左側の椅子が空いた状態のまま話が進められる。
「急に呼び立ててごめんなさいね。大事な話があったから。エスキーも話を仲介してくれてありがとう」
「いえ、おばあさまの命ですから」
彼女の声が部屋の中から聞こえてきて慌てて振り向くと部屋の隅にエスキーとドーベルさんが用意された椅子に座っていた。入ってきた時はちょうど扉に隠れていて見えなかったのだろう、部屋には私とおばあさま、エスキーとドーベルさんの4人が静かに椅子に腰かけていた……私の隣の空いた席に誰か来るのかは分からないけれど。
私が後ろを振り返り部屋の全容を確認し、再びおばあさまの方へ向き直った時、おばあさまが部屋を見渡すやいなやおもむろに口を開いた。
「まずエスキモー、天皇賞優勝おめでとう。メジロの悲願である盾を再びもたらしてくれたこと、深く感謝します」
「いえ、私は精一杯走ったまでです。それに結果が付随しただけのこと」
私の殊勝な態度に大きく頷きニコリと微笑む。ただ二言三言言葉を交わすとすぐにレースの話が終わり、次の話へと進む。ただおばあさまが再び口を開いて話を切り出そうとしたその時、扉が開き誰かが部屋に入ってきた。
「遅れてすいません。今到着しました!」
「トレーナー……?」
- 26メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:02:54
入ってきたのは私のトレーナーだった。
「なんでエスキモーがここに?」
「それは私の台詞だよ。トレーナーもなんで……?」
何が何だかよく分からないまま、トレーナーが私の隣の椅子へとおばあさまから勧められたとおり腰かける。いよいよここからが今日の本題らしい。
おばあさま越しに見る空の景色は重く、暗く、予報通り雨粒がポツリポツリと地面を叩き始めた。
─────
「それではこの資料を見てもらえますか」
差し出された2つの封筒を私が立ち上がって受け取り、1つをトレーナーに手渡す。どこかの研究所の名前が表に記された封筒は封をされておらず、クリアファイルに入った資料を簡単に取り出すことができた。
その資料の中身に書いてあったのは──
「『メジロエスキモーとメジロエスキーは親子の可能性があります』……これどういうことですか」
「『メジロエスキモーとメジロドーベルは親子の可能性があります』……おばあさま、これは一体……」
私とトレーナーは手元の資料に書かれた文字を理解することができず、資料を持った手とその声を震わせながら2人同時におばあさまへ質問を投げかけた。おばあさまは質問に直接答える形ではなく、自らの話を聞くようにと私たち2人に伝える。
「エスキモー、まず黙って遺伝子検査をしたこと謝罪します。前の美容師さんを呼んで髪を切ってもらったのもこのためでした」
あの時も少し不自然とは思っていたけどなるほど、そのつもりで私を呼んで髪を回収しようと……
「髪を切ってもらったこと自体には感謝しています。綺麗に仕上げてもらいましたから……でもそれっておばあさまが発案されたことですか?」
普段直接接することが少ないおばあさまが自ら動くとは少し考えにくい。となると、考えられるのは学園にいる誰か、私の近くにいた誰か。隣で私と同じく明かされた事実に動揺しているトレーナーは除外するとして……もしかして……
- 27メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:03:41
「わたしです。ごめんなさい、エスキモーちゃん」
そう言っておばあさまの横に立ち頭を下げるエスキー。可能性として最初に考えたのは彼女だから、その事実については驚きは少ない。ただ気になるのはなぜこのような検査をするのかということ、そしてなぜ彼女と血の繋がり、というより親子なのかといったところの2点だ。
「エスキー、頭を上げて」
「いえ、わたしがエスキモーちゃんの気持ちを全く考えずにおばあさまも利用してこんな真似をしたんですから……」
私のお願いに応えず頭を下げ続ける彼女。これ以上お願いを続けても話が進まないと思い、黙っておばあさまが話すのを待つ。
「あなたも聞きたいことがあるでしょう。まずその前にこちらからの質問に答えてもらいます」
「……はい」
息を少し吸い込むと再び言葉を切り出した。
「まずこの資料の結果、あなたとエスキー、あなたとドーベルとの間に親子関係があることが分かりました。こちらも何かの間違いかと思い複数の機関に調査を依頼しましたが全て同様の結果となりました。すなわちこれは間違いなく事実だということ。ただし、」
「……」
「今のドーベルに子どもはいません。もちろんその逆もない。彼女の父母は既にいるのですから」
もちろんそれは知っている。だって私も顔を見たことがあるのだから。
「それでエスキーの方ですが……これから言うことは絶対に他言無用です。メジロ家の最重要機密とまで言っていい話です。2人とも、いいですね?」
「「はい」」
絶対にとまで言われた機密情報。その秘密とは……
「彼女は元々ウマ娘ではありません。アグネスタキオンのクスリを飲んでウマ娘になりました。元々はドーベルのトレーナーです」
「「……え?」」
- 28メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:04:36
言葉が出なかった。あのエスキーが元々ウマ娘じゃない? クスリを飲んでウマ娘になった? それにドーベルさんのトレーナーって、それって……
「パ、パ……?」
喉から無理やり捻り出せたのはその2文字だけだった。エスキーもその言葉に反応して顔を上げ、静かに頷いた。
「極めて信じがたいことですが、こちらも間違いありません。すなわちあなたはドーベルとエスキー、いやドーベルのトレーナーとの間の子どもということで間違いないでしょう。間違ってたら否定してください」
「い、いえ……違いません……」
ついに暴かれた事実。今までひた隠しにしていた真実が白日の下に晒された。
「そう、私はママ、いやドーベルさんの娘であり、そのトレーナーの娘です」
声を震わしながら自ら言葉として吐き出す。背負ってきた重荷が1つ地面に落ちた、そう思った時、左の腕が引っ張られる。
「ちょっとエスキモー、どういうことなんだ……オレにはさっぱり……」
顔をトレーナーの方に向けると理解できないといった表情で私を見つめる。その見つめる目からは涙が零れそうになっていた。
「エスキモー、私、いやここにいる全員に説明してもらいましょうか、なぜあなたがここ、いや、この世界にいるのか。その答えを聞くために今日この場にお呼びしました」
「ここにいる理由……」
改めて聞かれると自分でも何故だろうといった気持ちになる。朝起きて鏡を見つめ、「なんで私は今ここにいるんだろう。私は一体誰なんだろう」と思うことが幾度、いやほぼ毎日と言っていい頻度であった。気がついた時には「入学式」と書かれた立て看板が設置された学園の門の前に立っていて、なぜかそのまま入学式に出ることになって、私のクラスも席も用意されていて……夢心地のままそれでもしっかりこの世界と向き合わないとと思って今日この日まで走り続けてきた。間違いないのはこれが私がいた「本当の世界」の話ではないということ、ただ夢みたいにこっちの世界で眠ると元の世界での意識が戻る訳ではないことの2つ。それ以上のことは何も分からない。
「私も知りたいんです。なんでここにいるんだろうって、パパとママと一緒に学園で過ごしてるんだろうって。ごめんなさい、答えになってなくて……」
- 29メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:05:21
目線を下に下げ、肩をすぼめ少し体を小さくする。そんな私のしゅんとした雰囲気に何か言いたげだったトレーナーも腕から手を離し、静かにこの事実に向き合おうとしていた。そしておばあさまもエスキーも、顔が見えないけどドーベルさんもそんな私を見て何も言えずにいた。
「……分かりました。あなたにも分からなければこれ以上問い詰めるつもりはありません。ただここにいる皆さん、この事実、決して誰にも話してはいけませんよ。エスキモー、いつかなぜか分かれば教えてください」
「……はい」
─────
「「失礼しました」」
私とトレーナー、2人しておばあさまへ一礼し部屋を後にする。椅子から立ち上がった時に見たエスキーの顔と部屋の出口へ歩いていく時に見たドーベルさんの顔は同じような表情をしていた。
互いにメイドさんから荷物を受け取り、お屋敷を出る。おばあさまの部屋に来た時はポツリと雨粒が落ちる程度だったのに、今や大粒の雨が地面に降り注いでいた。持っていた傘を開こうとした時、目の前に車が回され、爺やが後部座席に乗るよう私たち2人に促す。
「エスキモーお嬢様にトレーナー様。このままですと雨に濡れてしまいます。家までお送りいたします」
「ありがと。トレーナーも早く乗って」
「……ああ。爺やさんもありがとうございます」
車へ乗り込みドアが閉められる。ゆっくりと発進したメジロ家所有の高級車は門を抜け、トレーナーの家の方へと走り出した。
「……家着いたらちょっと早いけど晩ご飯の準備始めるね。その間テレビでも見ててゆっくりしてて」
「……分かった」
普段と異なり交わす言葉も少なく、会話がすぐに途切れる。おそらくトレーナーは今すぐにでも聞きたいことがたくさんあるんだろう。ただおばあさまの命令をしっかり守り、家に入るまでは何も口にはしなかった。
- 30メジロエスキーの人22/10/26(水) 07:05:40
家に到着し、後ろの席のドアが開けられる。濡れないように差し出された傘の下で自分の傘を開き、送ってくれた者へお礼を伝え、家の玄関までトレーナーと相合い傘をして歩いていく。玄関に着くとトレーナーが鍵を取り出しドアを開ける。
「ただいま」
「おかえり」
保っていた沈黙が破られ、張っていた緊張の糸を1つ切ることができた。ただ全部が全部切れた訳じゃない。互いに手洗いうがいを済ませると、示し合わせたかのようにソファで横に座る。
「なあエスキモー。聞きたいことがあるんだ」
「……うん。なんでも聞いて」
──さあ、2回戦が幕を開ける。
- 31二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 08:43:24
胃に穴が開きそう()
- 32二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 11:35:38
エスキーの件は過去作からわかるんだけどエスキモーがバックトゥザフューチャーしてるのはほんとにわからないから物語がどう転がるのか予想が全くできぬぇ
- 33二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 12:14:17
なんとなくボバニキのイメージソング考えてたら軽妙なリズムとかからThrottleのHit The Road Jackがそれっぽいなって思った
Throttle - Hit The Road Jack (Official Music Video)
- 34二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 12:58:42
- 35二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 15:14:48
- 36二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 15:48:59
多分COMP側も意識して、それを踏まえて作ったんだろなとは思う
- 37カンパナーレボバー22/10/26(水) 18:21:33
歌詞めっちゃ単純で歌いやすそうだから好き
- 38二次元好きの匿名さん22/10/26(水) 19:46:11
そこかよ()
- 39キタサンアイドルの人22/10/26(水) 20:15:13
小説投下注意報です!
アイちゃん、トレーナーさん、コメトレ、ゴコメちゃんは自分が興味あることに対して熱心すぎるという点は似てるんですが行動はそれぞれ違うんですよね。
トレーナーさん→完全に一本集中
アイドル→あらゆることを踏まえてから一本集中
コメット→気が向くまま
コメトレ→文字通りなんでもする - 40キタサンアイドルの人22/10/26(水) 20:16:00
【女心となんとやら】
芙蓉S当日の控室でコメットが駄々をこね始めた。
コメット「むううううううう」
コメトレ「なんかすごい圧を感じる!」
コメット「だってだって!アイドル来れないんだもん!やる気出ない飽きたー!!」
まずい…こうなると機嫌を直すのに時間かかるぞ…。こうなったらもう強硬手段だ!!
コメトレ「コメットは無敗の三冠ウマ娘になりたいんだよね?」
コメット「うん!カッコイイし!」
コメトレ「ならこんな所で負けるわけにはいかないよね?」
コメット「う…でも…」
コメトレ「確かにアイドルとせんぱ…アイドルのトレーナーは見に来れないけどレース中継を見るって言ってた」
コメトレ「キタサンアイドルにかっこいい所見せたいよね?」
コメット「…うん」
コメトレ「ならつべこべ言わず勝ってきな!!」
コメット「アイアイサー!!!」
……ふう、なんとかなった…。でもこっちから必死にアピールして無理言って専属契約したんだ、とっくにこの身を彼女に捧げる覚悟はしてる。
コメトレ「コメット、僕絶対三冠ウマ娘にするから」
レースは圧勝した。コメットはやっぱり強い。 - 41キタサンアイドルの人22/10/26(水) 20:30:20
ゴコメちゃんに乗っ取られました…アイちゃん横になります。
関係ないですが自分と担当の命を選べとか言われたら多分こうなります。絶対デスゲームしないですが!!
選ぶのは生き残る方です。
トレーナーさん→限界まで粘ってアイドルを選ぶ
アイドル→限界まで探して共倒れを選ぶ
コメット→限界まで粘って苦肉の策で自分を選ぶ
コメトレ→速攻でコメットを選ぶ
一応ゴコメちゃんを擁護すると夢も希望も恨みも絶望も背負える芯の強さがあるので選べたんじゃないかって思います。 - 42カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:11:50
新作が豊富だぁ……
エスキーさんの方はいよいよ核心に突っ込んで後戻りが効かなくなった感じがゾクゾクする
そしてアイドルちゃんさんの方は……いつの間にか乗っ取られることありますよね、わかる(わかる)
各ウマ娘とトレーナーの対比というか考え方の違いも拝見していてとても興味深かったです
というわけで便乗して自分も投稿しますね! 今回は珍しく幕間を投下させていただきます
そしてこれで書き溜めが尽きるので次回は相当先ですね!! まあそれはどうでもいいんですが
https://w.atwiki.jp/umamusumeninaritai/pages/66.html#Breaktime
本編第5話「フリーフォール・フロムナイトメア」、本編第6話「金剛砂の浜辺にて」から続く
幕間第6話「硝煙残渣の成れ果てに」、5レスほど失礼します……!
- 43カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:12:30
「トレーナーさん、私ですミラージュです。開けて大丈夫ですか?」
「ん……はい、大丈夫ですよ」
夏合宿も折り返しを迎え、すっかり客間で仕事を進めるのにも慣れた夕暮れ過ぎ。担当の声にラップトップを閉じて出迎えれば。そこに居たのは、灰色を基調にした和装に身を包む、黒髪の長身女子だった。
「どう、ですかね? これ似合ってます?」
「まぁ、はい。似合っていると思いますが」
「なら良かった、かな? 隣で失礼は出来ないですし」
大振りの袖口からは指先がちらりと覗くのみ、もう少し足りなければ手が完全に埋まってしまっていた未来が想像に難くない。オーバーサイズ気味の浴衣を帯で締めているせいか、腰付きが強調された上で上半身の脂肪分が窮屈そうに存在感を放っていた。
少しでも緩まってしまえば、たぷんと。ばるんと。どったぷんと。肉鞠が弾性を得て暴れ回る姿が容易に幻視出来る。勝負服の都合があるから定期的に測定は行っているが……やはり、こう見せつけられると思うところがない訳もなく。
「それでどうしたんです? 急に浴衣を着るなんて。そういう方面には関心が疎いと思っていましたが」
「うーん否定できないですね! ここから20分くらいの所でお祭りやってるらしくて、折角だから着て遊びに行くといいですよって中居さんが。皆はもう行ったので」
「それはまた親切に。ところで浴衣のレンタル料は」
「無料って言ってましたよ、こんなに良さそうな生地なのに」
いややっぱ此処の連中、商売下手なんじゃないか……という言葉を飲み込んで。着慣れないはずの和装で、折り目正しく佇んでいる担当を眺める。
最近分かってきたが、彼女は甘え下手だ。というより、自分から積極的に絡みに行くギャル仕草を見せているようで、その実は一歩か二歩か腰が引けている。浅い付き合いなら十分だろうが、一歩踏み込まれた時に逃げ出しそうになるのは……まあ、性分だろう。そうなれば、俺が大人としてやるべきことは単純。
「だったら、お祭り行きましょうか。これも経験ですし、ずっと同じ場所では息が詰まるでしょう、『色々と』」
「『そうですね』! トレーナーさんが乗り気で良かった! そうと決まれば屋台です、屋台食べ尽くしましょう!」
「費用対効果!!!!」
……こうやって、調子に乗った姿を見せられるあたり。信用されていると思っていいんだろうか。それとも。 - 44カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:12:46
「もぐもぐもぐもぐ」
「…………」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……なんで屋台の出し物ってこんなに美味しいんでしょうね?」
「祭の空気に当てられているからでは? 夜勤明けの一杯が全身に染み渡るようなものかと」
「それ私が『分かる』って返したらコトもコトですけど大丈夫なんです?」
軽い冗句を交えながら、縁日の大路を回る。地元では有名な寺院らしく、担当の下駄が鳴らす参道の反射音が小気味良い。そんな彼女は、いつの間にか大量の食糧を手中に収めていた。
イカ焼き、リンゴ飴、焼き鳥。フランクフルトとアンズ飴にアメリカンドッグwith綿菓子……まともに動かせるのが右手の親指しか残ってないぞコイツ。というか見事に串モノばっかりだなコイツ。合計7本持ってるぞ。
まあウマ娘の彼女にとって、このくらいの量は些事なのか。満面の笑みを浮かべながら均等に得物を喰らい尽くしていく様子、実に見ていて飽きない。……均等に? 不味くないの?
「いやー美味しかった美味しかった! リンゴ飴だけはゆっくり食べないと溶けないのが難点ですが、それもまた風情ってことで!」
「そうですね。……そうですね?」
よし考えるだけ無駄だ。本人が満足しているなら十分だろう深く突っ込むな。というかコイツらの消化吸収能力どうなっているんだろうな本当に、いまいち解明されてないのが気になって仕方がない。とりあえず、仮面の屋台に視線が向いていたので適当に買ってやることにする。彼女には狐の面を、自分用には流行りの戦隊モノの面を。
「狐のお面見てると、天丼食べたくなってくるんですよね。なぜか」
「確かに」
雑なフリにも雑に返しつつ、モツ煮片手に屋台を回る。幼子を中心に、大なり小なり愉快な喧騒が響き渡る夜の境内。そういう場だから笑いが込み上げてくるのか、笑顔に包まれているからそういう場になるのか。卵鶏問題、昔ならば気にならなかった疑問が浮かんだのは年のせいか、他の要因か。
右耳に掛けられた狐の面と視線が交錯する。能面のような表情という言葉があるが、実際の能面は見せる角度によって感情表現を変えるという。だったら、この狐の面は? そして、それを身に付けた、彼女自身の面は? - 45カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:13:02
「……トレーナーさん?」
「失礼……こういう場に慣れていないもので」
日頃担当に考え過ぎと言っておいて、自分がこの様では話になるまい。割高なのが分かっていても、水を一本買って飲み干す。その様子を気にしてか、指先だけをちょこんと出してシャツの袖を摘まれた。
「私も、ちょっと『人混みに疲れてしまった』かもしれないです。人気の少ない場所を教えてもらっていたので、トレーナーさんさえ良ければ一緒に向かいませんか?」
「……向かいましょうか」
食べかけのリンゴ飴を片手に、少し胸を寄せて近付けば膨らみが増して。その様子を眺める気も起きないまま、彼女に連れ立って歩いて行く。
そうして案内されたのは、そよ風で草先が揺らぐばかりの、静寂に満ちた平地だった。
「無理、してない……?」
「分からん。何故か知らんが人に酔った」
「ごめん」
「お前が謝ることかよ、悪いのはこっちだ」
子供ながらに騒いでいた無邪気さは鳴りを顰め、心底つまらなさそうな目で──実際はそうじゃないんだろうが──飴を舐める担当の少女。下ろした腰と背中に草の涼やかさを感じながら、2人して暗い空を見上げていた。
「……花火、見れるって。旅館の部屋は、音しか聞こえないから」
「そのついでに此処で休ませようってか、正直助かった」
「歩かせるには、辛そうだったから……」
お互い様、という言葉は。彼女の厚意に対して余りに不躾だっただろうから。人知れず口を噤んだ。視線が夜空を彷徨い始める。彼女が俺を心配したのと、花火を見せたかったという話は真実だろう。ただ、きっとそれだけではないはずで。
最近分かってきたが、コイツは甘え下手だ。自分の内側を曝け出すことへの警戒感が拭い去れていない……というより、むしろ当人が当人の状況を不調と気付いていない時がある。
肉体の疲労であれば、客観的にも気付きやすい部分が多いし、解消する手段も数多に上る。対して精神面は、ひとたびしまい込んでしまえば露呈に時間が掛かる上、ふとした拍子で絶好調にも絶不調にも陥りかねない水物だ。 - 46カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:13:15
……夏合宿の2日目だったか3日目だったか。何かを決意したように、普段の瞳の光が増した彼女を見た。トレーニングに取り組む姿勢も、同行する連中に決して負けたくないという執念も。選手としては歓迎すべき成長、日頃の会話の頻度も増えて順風満帆に見えた。朝も昼も、何なら夜も。実際、順風満帆だったのは間違いないんだろう。……当の本人が気付けていなかったくらいには。
「……そろそろ、上がる」
「そうか、なら見て帰るか」
言葉を切ったのと同じ頃合に、轟音が空気を震わせ耳に突き刺さる。思わず目を閉じてしまったが、視界を開けば星も見え辛かった夜空に煌々と咲き渡る大輪の熱花。黒色火薬と炎色反応が緻密なバランスで混合された火球は、一瞬の爆発だけで見る者に鮮やかな記憶を焼き付けていく。後に残る硝煙の残渣が風に流されるより早く、次の花が咲き誇り。繰り返される記憶の焼き直し。爆発、開花、残煙。爆発、開花、残煙。爆発、開花、残煙。
この花火はどんな名前だったか、そんな思考に意識を巡らせる暇もなく。長かったのか短かったのか、そんな主観的認識さえ不明瞭な花火大会は幕を閉じていた。見る物も見たことだ、後ろ手に背を浮かし立ち上がろうとする。
……メンタル面の不調、至極単純な話。固い決心というものは、時に精神を圧迫してしまう。ましてやそれが、朝も昼も夜も例外なく……偽の仮面を被ることを強要される環境であれば。もちろん、それを強要しているのは他でもない彼女本人というのが救えない箇所なのだが。
例えるなら、鰓ではなく肺を持って生まれてしまった魚。水中では呼吸が出来ないために、普段は我慢を重ね、誰の視界にも入っていない最中に水面から空気を貪る。それが今では、他の誰もが視線を向けているせいで出ていけないという状況……
俺からするに、あの3人なら大丈夫だとは思うのだが。こればかりは当人の心的外傷による面も強い、外野からとやかく言えることではないだろう。それも少しずつ改善を見せている、成長痛のようなもの。だから限界が来た時には助けてやるくらいでいい、そう考えていたのが夕方までの話だったのだが…… - 47カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:13:29
「トレーナーさん」
いつの間にか、口元に微笑みを浮かべた彼女と目が合う。起き上がろうとすれば、肩を軽く押され。草原に伸ばされた手で、身体を縫い止められる。覆い被さる様にしなだれ掛かる肢体。胸板の上で肉が歪む。
突っ張っていた腕のせいで押し潰されることはなかったが、肉体は却って密着を強め。すんすんと、鼻を軽く鳴らす音。ウマ娘に人間が勝てるわけがない、誰かが言っていた言葉を思い出した。
「私、花火が好きなんです。けど、眩く輝く花火そのものより。耳に飛び込んでくる派手な音より。もっと好きなものがあるんですけれど……何か分かりますか?」
「……匂い、臭い。火薬か?」
「はい、正解です。さすがトレーナーさん」
そう言って身体を離せば、帯へ差していたリンゴ飴を手に取る。糖衣の剥げ切ったそれは、ちょうど浴衣を汚さない場所にあったらしく。
シャリシャリと、歯型を刻みながら齧り取られていくそれを、呆けた目で眺める。少しずつ傷付けられ、抉り取られ。透明な橋が掛かるのが見えた。
「お線香を思い出して安心するんですよ。ああ、終わったんだなって。宴の主催は姿を消して、ただ余韻だけが残っている感じというか。その様子に、嬉しくなっちゃって」
少女が髪を撫でる。額を指が這う。微笑みが、三日月のように、深みを増す。
「……私も、咲き誇ってみせますから。誰を相手にしても。だから……」
花火は、人々の記憶に思い出を焼き付ける。五感の大半に作用し、神経を辿って、脳へ。視覚に灼け付く焔光、鼓膜を突き破る鳴動。爆轟は肌を震わせ、思わず息を呑み。切り取られた一瞬は、さぞ鮮烈な感光を示すことだろう。
けれど、それも日が経てば薄らいでいく。忘れられていく。そして、新たな花火を見たときに再び感動を齎す。人々の営みも類似性を持つモノであれば。彼女が望むのは、きっと──
「支えてくれると嬉しいです、トレーナーさん」
──それは、花火のような█。 - 48カラレスミラージュの人22/10/26(水) 21:14:39
以上です、atwikiのページにアンカーくっついてたの忘れてました(おばか!)
というわけでようやく次回からレースに復帰します、よろしくお願いします……! - 49メジロエスキーの人22/10/26(水) 21:55:40
えーっと……なんというか……その……描写が凄い(NTR並感)
- 50プログレスの人22/10/26(水) 22:29:04
SS投げちゃうモンニ!
- 51プログレスの人22/10/26(水) 22:30:34
またこの舞台に上がる。
英国の女王の名を冠したレース。
あの時、貴方はいなかった。
「アルテミさん」
ぼうっと空を眺めていた彼女が振り返る。
考え事をしていたのか反応が少し遅かった。
「…あぁ、プログレスか」
「何か考えていたんですか?」
こういう時は単刀直入に聞く、昔からそうだったな…
「秋華賞の時、お前はいなかったなと思ってな。一緒に走りたかった」
私の事を考えていたらしい。
あの時は秋華賞に出ても負ける、と思ってエリザベス女王杯を選んで出たのだ。
…ティアラで一緒に走りたかったがこの選択に後悔はない。
「私もです。きっと、今回はいいレースになりますよ」
礼をして先にゲートに行く彼女の背中を見守る。
限界が来る前に彼女と走れることが出来そうでよかった。
「…これこそ、私に相応しい」 - 52プログレスの人22/10/26(水) 22:31:31
『各ウマ娘ゲートに入りました。体勢整えて…』
ちらりとアルテミさんを見る。
何かいつもと違う気がしたが気の所為だろうか。
それとも遠くからだろうか?
『スタート』
『一斉に飛び出して来ました』
後ろからも彼女を見る。
走りは変わらない、いつもの彼女だ。
『先頭は七番______』
そんなことを考えている場合ではない。私達は勝負をしているのだ。
今のところ周りは囲まれてはいない。
馬場は問題ない。
コーナーも問題なく。
…この後何か悪いことが起きるのではないか?と思うほど順調だ。
もうそろそろ最終コーナーだ。集中せねば。
『間もなく最終直線最初に来るのはどのウマ娘か!?』
『メジロプログレスとアルテミステラ同時に突っ込んできた!』
クライマックスの時間。
幕は今から上がる。
月光に負けぬ輝きの舞台を! - 53プログレスの人22/10/26(水) 22:32:25
_____ __
足に確信。
これ以上は走れない。
体がもう限界だと、やめろと言っている。
しかし勝負は付いてない。
私はまだ、終われない。
『アルテミステラここでスピードを上げた!凄まじい末脚だ!』
まだ走れる気力が残っているようですね。
最高のレースにすると決めたのです。
私の全てを持って貴方を追い抜きます!
『しかしメジロプログレスも負けじとスピードを上げる!リードは開いていくぞ!』
『リードをそのままにメジロプログレス、ゴール!』
『1着はメジロプログレスだ!2着はアルテミステラ______』
周りが静かになる、当然だろう。
ウマ娘が倒れたのだ。
明けない夜は無い。
日は昇り、夢は終わる。
最後に貴方と走れて良かった。
あぁ、でも…やり残したことはあるかな。 - 54プログレスの人22/10/26(水) 22:32:49
今回はここまでですわー!
こうしてみると。と改行の量多いですわね - 55クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:36:22
お、折れちゃった…!?
wikiにテイオー産駒って書いてあった子ですよね…うわ…そんなところ似なくても…!
と、こっちの情緒めちゃくちゃにされましたが私もSS投げますね - 56クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:37:31
安定のwiki貼り
これの続きですわー!
ちなみにみなさん気軽にウィキにまとめてください、私ポンコツなので前の展開覚えてられないんです()
クアドラプルグロウのウマ娘ストーリー - uma-musumeになりたい部 @ ウィキ【9/30更新】1話「夢を教えて」 その日は選抜レースの日だった。 「いっちに、さんし…」 「すぅー…はぁ…」 『みんなやっぱり緊張してるんだな…』 そんなことを考えつつ、一人一人ウマ娘を眺めていた。 「ゲートイン完...w.atwiki.jp - 57クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:38:20
安田記念「みんなの夢の先輩」
その日は1人で安田記念の観戦に来ていた。
というのも、今朝…
「トレーナー!今日はわたくし用事があるから、トレーニングとかできないかな…ごめんね!」
『わかった。行ってらっしゃい』
…クアが用事でトレーニングを外すのは珍しいことだった。
たまにはいいかと思い、1人で安田記念の観戦に向かうことにしたわけだが…
「おぉっと、後方から…バンブーメモリー!飛んできました!」
「わあああああ!先輩!バンブー先輩!頑張ってほしいなー!」
『…ん?』
「あとちょっと!差し切れ差し切れバンブーせんぱーい!!!」
『………クア?』
「…トレーナーっ!?」
流れで、バンブーメモリーの控室に行くことになった。
「バンブー先輩!今回もお疲れ様かな!かっこよかったぁ…!!!」
「おっ、クア!へへっ、ありがとっス!」
「ウイニングライブ、絶対最前列で応援するかな!」
「今日のために練習してきたっス!楽しみにしてるといいっスよー!」
…最前列でバンブーメモリーに向かってペンライトを振るクアドラプルグロウを眺めた。
意外な一面を知れた気がする… - 58クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:38:36
安田記念の後に「わたくしの夢の先輩」
夕暮れの中、帰路を辿っていた。
「はぁ〜…先輩かっこよかったなぁ…いつかわたくしも、先輩みたいに…!」
『…本当に憧れているんだな』
「もちろん!…先輩はね、すごい人かな。いろんな人の”夢”を背負って、走ってる………」
そこでふと、クアドラプルグロウは足を止める。
「…先輩は、なんで”夢”をあんなに背負ってるのに、苦しくないのかな」
『…クア』
やっぱり、彼女は背負っていて苦しみを感じている。
『無理はしないでいいんだ』
「無理なんてしてないかな!ただ…」
『ただ…?』
「…わからないの」
「わからないの。わたくしは先輩みたいになれないの?先輩はなんであんなに…人の夢を、キラキラさせられるの?わたくしの背負った夢は、”お母様の夢”は…なんでこんなに苦しいものなの…?わからない…わからないよ…」
『…クア…きっとそれは、彼女が………”自分の夢”を見ているからだ』
「え…?でも、先輩は”みんなの夢”なんだよ…?わたくしの、理想みたいな…」
『いや、違う。彼女は結果的に”夢を見せた”。それだけなんだ』
「…?どういう、ことなのかな…?」
『誰かの夢を背負っているわけではないんだよ』
彼女はよくわからないと言った顔をする。
「…わからない、けど。わからないけど…わかった。わたくしは…”自分の夢”を見つけながら、”お母様の夢”を叶えればいいんだね」
『ああ。君の”お母様の夢”も、立派な”夢”だからな。叶えるのは大切なことだ。…秋華賞、勝つぞ!』
「おー!もうすぐ夏合宿だし、頑張るかなー!」 - 59クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:38:52
夏合宿の裏側「黄金の夢の月」
クアドラプルグロウが夏合宿に励む裏側の話。
「………はぁっ!!!」
先輩に見守られながら、トレーニングに励む1人のウマ娘がいた。
「…おっ、タイム縮まってんじゃん!すごいよ、エルドラド!」
「ほんと!?へへっ、シチ姉が見ててくれたおかげだよ!!!」
…ゴールドシチーに見守られながら走るウマ娘。
〈ツキノエルドラド〉は、嬉しそうに微笑んでいた。
「…皐月もダービーも惜しかった。菊花賞、アンタならきっと取れるよ」
「だよねだよね!シチ姉のお墨付きもらっちゃった〜…!アタシ、このままじゃ終われないから…!」
「…”スプリングS”1着、”青葉賞”1着…前哨戦を勝ててる実力はあるんだからさ。きっと行けるよ」
「うん………!シチ姉。アタシはクラシック、勝つから!シチ姉の見た”夢”を掴むよ!」
「…ふふっ、ありがと。期待してるよ」
「うん!期待してて!次は神戸新聞杯…勝つぞー!!!」
そう言って彼女はまた走り出す。
「…なんでだろうね。アタシ、エルドラド見てると…あの子のこと、信じてるけど」
「信じてるけど、あの子がこれから苦しむ気がしてならないんだ」
「苦しむね。そういう〝天命〟だから」
「…ん、ミフネか」
現れたのは、ツキノミフネ。 - 60クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:39:04
夏合宿の裏側「星の夢の跡」
「私は〝星〟に負けた。どう足掻いても覆せなかった」
「………」
「この気持ち、あなたならわかるよね? クラシックの頂に届かなかったんだから」
「…そーだね。アタシも結局、クラシックには手が届かずに…」
「それがあなたの天命。視えていてもそう簡単には覆せない絶対。あなたも私も、天命には勝てなかった」
…そこまでを聞いて、シチーはハッと顔を上げる。
「…ねえまさか、エルドラドにもその”天命”だかなんだかがあるっていうの!?」
ミフネは何も言わず、意味深に口角を上げる。
「そんな…!」
「天命を覆せるか、私たちみたいに覆せないまま終わるのか」
「………」
「楽しみだね。一緒に応援していこ、私たちの”夢”を」
2人はただ静かに、無邪気に走るエルドラドを見ていた。 - 61クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:39:31
以上になります!
相変わらず一度が短い! - 62クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:42:28
- 63クアドラプルグロウ22/10/26(水) 22:42:40
ラフで申し訳がない
- 64ラプ中22/10/26(水) 22:46:13
ラプ中が名付け親(ディスコにて)になったエルドラドちゃんや!
それはそれとして「夢」を巡る悶々はまだ続きそうかな…無理せず行ってくれればいいかな… - 65ラプ中22/10/26(水) 22:49:00
- 66ヨゾラギャウサルのうまそうる22/10/26(水) 23:05:03
ギャウちゃんとラプラスで牝系一致して草
これハピちゃんとコレクターアイテム21ちゃんでうまぴょいしたのはハピちゃんがラプに似た血を求めてた可能性が……?(ぐるぐるおめめ) - 67メジロエスキーの人22/10/27(木) 06:56:05
SSいっぱい! 盛りだくさん!
一つ一つに感想言いたいところだけど、自分もSSの続き投げさせてもらいますね - 68メジロエスキーの人22/10/27(木) 06:57:11
─────
家の外では雨がどんどんと強くなり、雨の音が部屋の中へと伝わってくるほどザーザー降りになっていた。そんな雨に周囲を包まれた部屋の中では、トレーナーが私に質問していいかと聞いてきてから互いに口を噤んだ沈黙の状態が数分続いた。
「あのさ……」
「……うん、何?」
ついに来たと背を気持ちばかり伸ばし何を聞かれるか身構える。家に着くまでにある程度頭の中で想定問答は済ましていたから、幾分かは余裕がある。
「君は……夢を見ているのか? それとも超常現象的な何かで元の世界から飛ばされてきた、とか?」
「夢じゃない、と思う。こっちの世界で寝ても元の私に戻ることはこれまで一度もなかったし、当然その逆もなし。だけど体ごと元の世界から飛ばされてきたっていうのも違う気がする」
「夢じゃない……かといって体はおそらくそのまま……うーん……」
私の答えになっているか怪しい回答に低い声で呻き出すトレーナー。確かに私が言っていることは通常じゃ考えられないこと。ただ今こうして実際に起きている以上、変なことが起きていることは間違いない。
「他に、他に何か気づくことなかったか? 例えばこの世界で初めて目覚めた時のこととか」
「目覚めた、というより気がついた時にはトレセン学園の校門の前に立ってて、入学式にそのまま出席してた。あっ、そういえばパパとママに連絡しようとして携帯見たら連絡先に誰の名前もなかったかも」
「元の世界」で私はトレセン学園に合格して、次の春から入学する手筈となっていた。だから校門の前に立っていた時にはまだ異変を感じ取ってはいなかった。それこそ眠った時に見た夢じゃないかとか、忙しくて時間の進みが速くなり、いつの間にか入学式の日を迎えていたのかもみたいに思っていた。
「そこで初めておかしいなって思ったの。よく見たら入学式の年も全然違うし、試験の時に見た子が全くいない。極めつけは……」
「ドーベルさんがいた」
「うん。最初は同じ名前の別人かなって思ってた。だっておかしいでしょ? 私たち親子なのに同じ学生なんて」
文字通り親子の年齢差がある私とママ。そんなママに似た風貌をした、同名のウマ娘。ただ話しかけてみたら…… - 69メジロエスキーの人22/10/27(木) 06:58:04
「あれはママだった。幼い頃にレースとかインタビューの映像で見たまんまのママの姿と声。その時にやっとここは私のいた世界じゃないって気づけたの」
「そうか……そう、だよな。自分の母親がいくつかしか年齢が離れていないなんてことはありえない」
そこで1つ結論づけた。私はこの世界にとって異物なんだって。本当はいちゃいけないウマ娘なんだって。だからいつかは放り出される、そう思っていた。ただその時はまだ来ない。しかしいつかは必ず……
「だからねトレーナー。この前未来の話したでしょ? 本当はあの時に伝えてしまいたかったの。こういうことだからいつか離れ離れになってしまう、別れのときが来たらもっと悲しくなっちゃうから、将来の話なんてできないって」
「そうだったのか……だったらどうして……」
どうしてだろう。そう聞かれると答えに少し困ってしまう。いつか、近い未来にお別れをするのが分かっているのになぜ将来の約束なんかしたのかって、わざわざ約束なんて言わないでくれよって怒りたくなる気持ちは今となってはすごく分かる。私だって逆の立場だったらそう思っていた気がするから。ただ、ただ……
「どうしようもないほどあなたのことが好きだから。もしかしたら、確率はもの凄く小さいかもしれないけど、これからもずっとずっと側にいられたら、2人で永遠の幸せを誓えるって思いたかったから。こんな答えじゃ駄目、かな?」
自分でもどうしようもないことを言っているのが分かる。むちゃくちゃにも程がある。口に出す前に頭の中で推敲せずに話してしまう癖はとっとと治さないといけない。
ただそんな答えにトレーナーは「そうか、そうか……」と呟いて、私をぎゅっと抱き締めた。
「えっ、トレーナー!? いきなりなんで!?」
「オレもお屋敷で話を聞いてからいろいろ考えていたんだ。それこそいつか、いつか、君が遠くに行ってしまうのかもしれないと、目の前から消えていってしまうんじゃないかと。だけどそれでも、いやだからこそたった1秒でも長く君の側にいたい、君と同じ時間を過ごしたい、そう強く思ったんだ」
「トレーナー……」
強く、強くその腕で体を抱き締められる。彼の想いの強さに比例するように強く。
「だから君が嫌じゃない限りずっとオレは君と一緒にいたい。駄目、かな……?」
- 70メジロエスキーの人22/10/27(木) 06:58:52
いつもはかっこいいのにこういうときだけ弱気になって可愛さを見せてくるのは反則だ。私は彼の拘束から少し離れて彼の肩を手で握り、まっすぐ顔を見つめる。
「駄目じゃない、駄目じゃないから。ずっと側にいて。私が離れていっちゃわないように手を握っていて。お願い」
「……ああ、絶対に君の手を離さない。そう、絶対に」
2人は今度こそ破れない約束を交わし、優しく口づけを交わす。いつかそのときが来ても互いの手は離さないでと、そう強く。
──通り雨だったのか、気がつけば太陽の光が部屋に射し込み、窓の外には虹が架かっていた。
─────
そのあと2人でご飯を作ったり洗濯したりテレビを見ていたりしていると、あっという間に外が暗くなり門限の時間が迫ってきた。
「じゃあ今日はこの辺で失礼するね、ありがと」
「ああ、また明日な。おやすみ」
おやすみと彼女が手を振り玄関から外へと駆けていく。玄関の鍵をかけ、彼女の足音が聞こえなくなったのを確認すると、冷蔵庫から缶チューハイを取り出し、プシュッとプルタブを開ける。そのまま口をつけ一気に半分ぐらい飲み干すと、静かに独りごちる。
「そうか……彼女も……」
誰にも聞こえない声は部屋の壁へと吸い込まれていった。
─────
また別の日、今度はドーベルさんに呼び出された。場所はエスキーとドーベルさんの寮の部屋だけど、エスキーの姿はなかった。
「安心して。あの子は今お屋敷に行っててしばらく帰ってこないから」
「し、失礼します……」
ドーベルさんが自身のベッドに腰かけ、私も勧められてその反対側──おそらくエスキーのベッドだろう──に浅く座る。私が座ったのを確認してドーベルさんが話を切り出した。
- 71メジロエスキーの人22/10/27(木) 06:59:43
「聞きたいことはいくつもあるんだけど……元の世界って言ってたと思うんだけど、そこってどんな所だった?」
「こことほとんど変わりません。トレセン学園もあるし、ウマ娘ももちろんいますし……ただ年が違ってるので街の風景は少し違うかもです」
元の風景をバッチリ覚えている訳じゃないけど、駅前のお店もいくつか違っていたように思う。
「なるほど……それでその世界であなたはアタシの子どもだった、と……」
「そう、ですね……だから最初は話しかけるの躊躇したんですよ? ママにそっくりだし、名前も一緒で……記憶にあったママの成績とドーベルさんのを比較したら全く同じだったんで、これはこっちの世界でのママなんだなって」
ママが、学生時代のママがいる。元の世界でもママの現役時代のレースの映像を家族で何度も見たことがあるから、どういう風貌をしていたのかもしっかり頭に残っている。だから初めて見た時はなんでいるのって頭がフリーズして声掛けられなかったんだよね。
「ママ、か……そっちの世界でのアタシってどんなだった? あ、あと……あなたのパパは……」
「とっても優しいママですよ。もちろん宿題やってなかったりして怒られたときはちょーっと怖かったですけどね。そうそう、怒られたときはいつもパパの所に行ってました。トレーナーしてていつも忙しそうにしてるけど、晩ご飯は一緒に食べるんだって家に帰ってきてくれてて……パパも優しい、というよりあれは私に甘いのかも」
都度都度相槌を打ちながら携帯でメモを取るドーベルさん。私はそれを見つつも話をどんどん進める。
「あとパパとママはとっても仲良しです。3人一緒の時、パパは時々昔ママが現役だった頃の話をしてくれるんですけど、そのときもママは少し恥ずかしながらもパパのすぐ隣で相槌打ったり一緒に盛り上がったりしてますから。仲良しというか……ラブラブ?」
「ラブっ……!」
文字を打つ手が止まり、頭が瞬時に沸騰して顔を真っ赤にするドーベルさん。そんなに恥ずかしいことなのかな……ってあっ、そういえば。
「私にとってドーベルさんがママとしての繋がり、エスキーがパパとしての繋がり……つまり元の姿に戻ったエスキーはママとラブラ……むぐっ……」
「はぁはぁ……それ以上言っちゃ駄目だから……それ以上……」
- 72メジロエスキーの人22/10/27(木) 07:00:38
再びラブラブだと言いかけた瞬間反対側のベッドからドーベルさんが飛んできて私の口を強く押さえる。やっぱり恥ずかしかったんだ……
「ぷはっ……! でもでもこっちの世界じゃどうなるか分かりませんし! ……というか元のところでもエスキーって名前のウマ娘いましたけど、シニア級1年目の年末でトゥインクルシリーズ引退してましたよ?」
そこがここと元の世界との整合性が取れない部分の1つ。あの子は今は休んでいるけどシニア級2年目になっても現役を続けている。
「……本当だったら去年の末に引退してそのまま人の姿に戻る予定だった。だけどあなたとまだ走りたいから、また走りたいからって無理にクスリを飲んでまでウマ娘のままでいて……今年前半休んでるのも本来2回飲むことを想定されてないクスリを再び飲んだから。体に問題がないか検査しないといけないからレースに出られないの」
「クスリ……」
ドーベルさんが言うには、ドーベルさんのトレーナーはある日タキオン先輩の作ったクスリを飲んでウマ娘になった。その効果が本当であれば去年の有馬記念の後に切れる予定だったのが、私の存在で今年も続いて……そういえばあることを思い出した。
「パパが言ってました、告白はママの卒業前にママの方からしてくれたんだって。自分からするつもりが先越されたーって……もしかしてパパが元の姿に戻った時に……」
そうかそうか、そういうことだったんだ。いつものパパとママを見ていたら絶対パパの方からしてそうだったのになんでなんだろーって思ってたんだよね。長年の疑問がようやく解けてスッキリしたよ。
そう私がうんうんと独り合点している横ではドーベルさんは「告白……アタシが……」なーんて言っていた。
「アタシからあの人に……? いやいやそんなこと……でもあの人は学生のアタシに告白なんてするタイプじゃないし……ってエスキーのアタシへのアタックってそういう……?」
ドーベルさんもドーベルさんで両手で自分の頬を挟みながらブツブツと独り言を呟いていた……もしかして私たちそっくり?
「あのー……ドーベルさん? 話の続きはー……」
「やっぱりこうなったらアタシからあの子に言うしか……いやでも今のあの子に言ったところで……結局元に戻った時に言うしか……はっ!?」
「あはは……」
- 73メジロエスキーの人22/10/27(木) 07:01:50
肩を揺らしてドーベルさんはようやく私の存在に気がついてくれた。わりと思考の沼に嵌まりやすい人なのかも。とにかくドーベルさんが現実世界に意識を戻してくれたのを確認。その確認作業が終わると、再び元の世界での話、先日トレーナーに伝えていた話をドーベルさんにも伝える。
「うーん、やっぱり超常現象というか……昔のテレビアニメで世界線がどうこう言ってた作品があったんだけど、もしかしたらそれに近いのかもね。記憶とか知識はそのままだけど、元の世界線とは違う世界線、しかも別の年に意識が飛ばされるって」
「世界、線……」
携帯で世界線という言葉について調べてみると、この宇宙にはいくつもの可能性が重なり合っていて、それこそ今こうしてドーベルさんと横並びで話している私がいるけど、当然全く別の場所にいる、それこそグラウンドで走っていたり海外にいたりといった可能性も存在する。ただ今この現実で観測できるのはここにいる私だけ。ただそれ以外の可能性は消えずに残っている、そのそれぞれが世界線である、ということみたい。一般相対性理論がどうとか特殊相対性理論がどうとか出てきてあんまり意味分からなかったけど、すなわち元々私がいた世界線をAとすると、この世界はBの世界線、しかも私が本来いた年より前の時間軸に私が現れた、ということだと思う、たぶん。
「だから本当だったらこうして私とドーベルさん、ううん、ママが話してるなんてありえない。だけど何かの因果で私がこの世界線に来たから横に座って仲良くおしゃべりができてるってこと」
「その解釈でいいんじゃないかな……だけど今この時点であなたがいるのはやっぱりおかしい話。気圧が高い所から低い所へ風が吹いて気圧を一定にしようとするのと同じように、この世界があなたを元の世界線に吹き飛ばそうとするかもしれない。それはいつかは分からないけど」
ベッドから立ち上がり、「だから今この瞬間大事にしないとね」と私を優しく諭す。私はそれに深く頷きドーベルさんと同じようにベッドから腰を上げる。
「いつかは分からない、けど今はこうしてドーベルさん、いやママと一緒に過ごせることが何より幸せ。だから……あの……」
- 74メジロエスキーの人22/10/27(木) 07:03:10
もじもじとする私を見てどうしたのとドーベルさんは小首を傾げる。私はえーっととかうーんっととか逡巡しつつもなんとか彼女にお願いを伝える。
「これから2人っきりのときは……ママって呼んでも、いいですか……?」
ドーベルさんは少し目を見開くもすぐに頷いてくれた。
「アタシでよかったら。だけどこのことはエスキーには秘密だからね? 絶対からかわれるんだから」
「あはは……それは間違いないですね……」
私がトレーナールームでトレーナーと仲良くしていた所をチームメイトに言いふらそうとしたあの子のことだ。絶対にバレちゃいけない。
「あっ、あと2人のときはタメ口でいいから。一応母と子なんだったら敬語使ってたらおかしいから」
「は、はい……じゃなくて、うん、分かった。ありがとね、ママ」
そうして2人は擬似的に母と子どもの関係になった。それがいつ終わるかは分からないけど。私がいなくなったら忘れられちゃうかもしれないけど、今だけはこうしてママと呼ばせてよ。ねっ、世界さん。
- 75メジロエスキーの人22/10/27(木) 07:03:31
今日はここまで。それではまた次回
- 76二次元好きの匿名さん22/10/27(木) 11:17:44
泣きゲーSFの気配がすぐ側まで来てる!
- 77エノラの中の人22/10/27(木) 12:31:42
心労が目立ってきたため浮上を止めます
SSの続きに関しましては、多分相当の時間がかかると予想されます
それでは、またどこかで - 78ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:47:46
- 79ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:48:09
【和調定予】
ずっと、視続けている。
会場を包む熱気を。万雷の喝采を。
彼女を応援するファンであろうと、他のウマ娘のファンであろうと、知り合いだろうと、見ず知らずの誰かであろうと。そんなことは一切関係なく、喜びを分かち合ったあの日を。
誰も彼もがレースを制したウマ娘へ祝福を贈る。
誰も彼もが声を枯らしてまで、たったひとりのウマ娘の名前をコールする。
正に、夢のような光景。
あの舞台に立てたのなら。
あの舞台の主役になれたのなら。
どんなに幸せなことだろう。
──私も、あの舞台に立ちたい。
心からそう願った。でも。
願った私の居場所は、観客席の隅。 - 80ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:49:05
🌑🌒🌓🌔🌕🌖🌗🌖🌘🌑
トレーナーを辞めたい。
私はいつもそう思っている。
必死に努力して、努力して、努力して。私は、幼い頃からの夢だった中央のトレーナーになった。
合格通知を貰った飛び上がるほど嬉しかったし、友達とパーティーなんて開いたりもした。ぶっちゃけ興奮しすぎて、みんなそろって二徹して寝不足になったっけ。
トレーナーバッチを受け取ったときは、すごく誇らしい気持ちになった。友達に散々自慢した後、弟どもに自慢してさ。姉ちゃんさすがにウザいって、生意気にもふたり揃って言ってきたよね。
幸せな記憶。ありふれてた感想。こんなんだから凡人なんだ、私は。
「サブトレーナーさん、ボトルここに置いておきますね!」
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
「はい! それでは私は失礼します! お仕事頑張ってくださいね!」
元気に駆けていくウマ娘の背中を見送ってから、カゴに入ったボトルを持ち上げてじっと見つめる。 - 81ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:49:39
どうしてだろ。嫌なこと思い出したな。あの頃はG1ウマ娘のトレーナーになる! なんて、身の程知らずに息巻いていたっけ。
「ははっ」
ターフの向こうに沈んでいく夕日を見ていると、泣きたいくらいに心が締め付けられるのに。どうしてか笑えてきた。
夢見過ぎでしょ? ホント身の程知らずにも程がある。現実はそんなに甘くないって。
ギリギリ及第点で合格したであろう私は同期のみんなと比べて技術も知識もダメダメなわけで、どうにか入れてもらったチームでサブトレーナーとしての仕事を熟すだけで精一杯。精一杯なんだ。
なんなら、ぜんぜん熟せてない。精一杯頑張ってるつもりでも、仕事も満足にできない。どうして中央に入れたんだろうって自分でも思う。私なんて居ても居なくても対して変わらないって、自覚は嫌になるくらいある。そんなヤツが独立して? 担当を持って? G1を目指す? 無理に決まってる。たとえできたとしてもそれは私の力じゃなくて、ウマ娘の力だ。しかも、私がトレーナーでなければもっと勝てていたはずの才能の持ち主。私はいらない。 - 82ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:50:18
「あー」
ヤバい。ついに涙が出てきちゃった。メンヘラすぎでしょ、私。
一度涙が溢れると、もう自分の意思では止めることができなかった。ぽろぽろ、ぽろぽろ。どんどん、涙が溢れていく。そんな涙を拭う気力も湧かなくて、ただ、昇っていく月を眺めていた。
苦しい。ずっと苦しい。もう嫌だ。辞めたい。でも、辞めてしまったら今までの自分の頑張りを否定することになるって気持ちと、現実的に考えても辞めることはデメリットばかりっていう事実。このふたつが、私がトレーナーを辞めることができない理由。でも、やっぱり辞めたい。
なんて、思考の堂々巡りを繰り返して結局なんのアクションを取ることも出来ずに、今日も一日が終わっていく。夢が、色褪せていく。
「どうして泣いてるの?」
── 月の女神様が、私を見ていた。 - 83ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:51:30
心配してくれているような、揶揄っているような柔らかい微笑み。切れ長の瞳は月光に照らされた夜の海のようで、澄んでいるはずなのに引き摺り込まれそうな禍々しささえ感じてしまう。ぴこぴこ揺れる耳を見て、私は目の前の存在が女神様ではなく、ウマ娘であることに気がついた。
三日月の形をした髪飾りと大きく額を晒すセンターパート、フィッシュボーンのおさげが印象的な芦毛のウマ娘だ。
気がつけば私の口は、自然と言葉を紡ごうとしていた。
「貴方を担当させて頂けませんか?」
どうしてだろう。トレーナーなんて辞めてやるって思っていたのに。当たり前だけど、ウマ娘をスカウトするつもりなんてなかったのに。夢も希望も自信も、なにもかも失っていたのに。
どうしてスカウトしてしまったんだろう。走りだって見てないのに。そもそも、芦毛は走らないのに。実力も何も知らないで。後々理由を考えても、絶対理由なんてわからない。
でも、きっと。だからこそ。
この出会いは運命だったんだって思いたい。
「スカウト? んー、へぇ。ごめん無理」
……え? - 84ツキノミフネの背後霊22/10/27(木) 13:52:05
突然申し訳ありません
スレ食い虫失礼致しました - 85メジロエスキーの人22/10/27(木) 17:25:46
- 86二次元好きの匿名さん22/10/27(木) 18:12:07
あらぁ…いつ戻ってきても大丈夫なので今はゆっくりご療養くださいませ
- 87二次元好きの匿名さん22/10/27(木) 20:06:59
燻ってたミフネトレが救われるかと思ったら突き落とされてて芝
心情描写が素敵ですわ~~ - 88メジロエスキーの人22/10/27(木) 21:59:45
メンドクサイミフネ、早く続き読みたいなあ
- 89二次元好きの匿名さん22/10/27(木) 22:29:09
カジっちゃんをCMで見たラーメンフェスに連れて行ったりフラリンをスイーツバイキングに連れて行ってあげたい
みんなをお出かけで連れて行くとしたらどこが喜ばれるかな - 90二次元好きの匿名さん22/10/27(木) 22:46:02
レース場でもつ煮奢って
- 91二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 00:13:13
- 92二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 07:53:57
- 93メジロエスキーの人22/10/28(金) 07:56:23
エスキーならレース場とか本屋とか。エスキモーならショッピングモールとかかな?
- 94ツキノミフネの背後霊22/10/28(金) 08:06:26
- 95ツキノミフネの背後霊22/10/28(金) 08:09:46
イマノミフネはだいたいどこに連れて行ってもニコニコしてます
喜ぶのは……やっぱりビュッフェとかかなぁ…… - 96二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 09:10:51
- 97二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 10:13:20
- 98二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 10:14:52
- 99二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 11:32:54
まず中高生がキッズスペースで幼児退行していることに疑問を持て
- 100二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 12:09:02
- 101フラなんとかのひと22/10/28(金) 12:16:25
- 102二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 12:59:22
滑り台の先にはボールプールもあるぞ…!存分に遊べ…!
- 103メジロエスキーの人22/10/28(金) 15:31:18
フラりんやっぱりいい子だなあ……かわいいねえ……
- 104二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 17:47:40
- 105二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 17:50:07
- 106二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 18:42:13
みんなデフォルメミニキャラになればごまかせるから……
- 107二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 18:51:31
- 108メジロエスキーの人22/10/28(金) 19:40:06
ただでさえ奈良って隣の大阪と京都に観光客数負けてるのに、さらに減らすような可哀想な真似はやめろと
- 109二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 19:47:38
海外観光客のインスタ写真の背後で鹿にぶっ飛ばされて車田作品みたいな落ち方するライジョウドウが
- 110二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 19:54:34
おーっと ライジョウドウくんふっとばされたーーー!
- 111二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 20:49:39
太り気味獲得したウマ娘は東大寺柱くぐりで突っかえてやる気ダウンイベントが発生します(クソイベ)(そもそも太り気味を解消してから旅行行け)
- 112メジロエスキーの人22/10/28(金) 21:30:59
他の観光客に迷惑定期
- 113二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 21:32:50
引っかかりたくて腹つっかえるやつなんていねぇよっ!
- 114キタサンアイドルの人22/10/28(金) 22:08:21
- 115二次元好きの匿名さん22/10/28(金) 22:53:56
- 116フラダンスの人22/10/28(金) 23:49:45
- 117キタサンアイドルの人22/10/29(土) 06:38:50
- 118メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:52:13
>>114のイラストかわいいねえ……自分もアイちゃんと絡みたいねえ……
というわけ(?)で一昨日以来のSSの続き投げていきますね
- 119メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:53:06
─────
また別の日、同じ部屋に今度はエスキーから呼び出しを受けた。ママ……ドーベルさんには席を外してもらっているとのこと。前の時とは逆にエスキーが彼女のベッドに、私がママのベッドに腰を落ち着かせて話を始める。
「エスキモーちゃん……わたしに聞きたいことありますか?」
「えっ? 私にじゃなくて私が?」
何を聞かれるのかばかり考えていたせいで、逆に何を聞けばいいのかしばし答えに窮する。少し立ち上がってクルクルとその場を歩き回ること数分、とにかく思いついたことをいくつかぶつけてみることにした。
「ドーベルさんから聞いたんだけど、元の姿に戻るの1年延期させたって。私と走るのがそんなに大事?」
一番疑問に思っていたのがこれだ。去年の有馬記念で一度勝っている、しかも辛勝ではなく楽勝で。そのはずなのに再戦を彼女の方から希望するなんて私にはよく分からなかった。
私のその質問にエスキーは「そうですね……」と一拍を置いてから答え始めた。
「一番最初に走ったのがデビュー前の模擬レースでしたね。その時はわたしが勝ちました。そのあとあなたに仮のトレーナーさん──今のトレーナーさんですね──がついて練習を重ねてからまた一緒に走って……それでも勝って。その時は同じメジロの少し名前が似通っている1人のウマ娘としか認識していませんでした」
そう、最初の模擬レースのあとにも彼女に挑んだけど、それでも敗北を喫した。差は少し、ほんの少し縮まっていただけで完敗ではあったけど、この子に一歩でも近づけた気がして嬉しかったな。もちろんそれ以上に悔しかったから次は絶対に勝つと練習を重ねていたら、私の本格化より先に彼女のデビューが決まり、トントン拍子でデビュー戦→初重賞→初G1と勝っていった。そして私のデビュー戦が決まる頃には無敗でダービーまで勝っちゃったりしてて、対戦するなんて遠い未来の話と思っていた。
「もちろんわたしと同じチームに入ったことやメジロの皆さんで集まった際に席が隣になったりしたことで話す機会が大幅に増え、徐々に気心の知れた友人となっていくのですが、それでもやはりライバルとは思えませんでした」 - 120メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:54:15
エスキーはそこで一旦話を止め、ベッドから腰を上げた。そのまま数歩歩いて自らの勉強机に置いてあった携帯を手にすると、私の隣へボフッと音を立ててベッドへ腰を落ち着かせる。そして携帯の画面を何度かタッチしたりスクロールし、とあるレースの写真を私の方に見せてきた。
「このレースは……去年の菊花賞?」
確かこれはトレーナーにゴールインの瞬間を撮ってもらい、それを私へ、そして私からエスキーへと送った写真だったはず。
「はい、そうです。もちろんその時わたしは生でレースを見ていた訳ではありません。中継で映像を見させてもらっていただけ。ただ……ただあなたの走りを見てワクワクしました。昔のあなたとは全然違う。今戦ったらどうなるんだろうって思っちゃったんです」
その時の興奮を思い出すかためなのか静かに目を閉じると、脳裏に当時の映像が流れてきたのかニコリと微笑む。そして私の方を見て軽く首を縦に振る。
「うん……思っちゃったんです。あなたと走りたいって、強く、強く」
ママと話をした時のことを思い出す。エスキーは元々年内で引退する予定だった。それを私と走りたいがために強引に変更し、今年の前半を棒に振ってまでさらなる対戦を強く望んだ。
「もしかして……私がいなかったら有馬も走るつもりなかったんじゃ……」
あくまでも私が想像しただけの一つの可能性。自惚れにも近い、本来なら考えられない選択肢。ただこれまでの彼女の発言を考慮するとそれしか思いつかなかった。
私の独り言のような声に彼女は再び頷く。
「もちろんです。凱旋門賞のあともアメリカから香港に渡ってほぼ全世界制覇!で幕を下ろそうとしていましたから」
「ほぼ……」
頬を人差し指で掻きながら、「全世界って言い切っちゃったらオセアニアの人に怒られますから」と苦笑いをする。確かにオーストラリアにもいくつも中長距離の大レースがある。それこそコーフィールドカップやメルボルンカップなど世界に誇るレースが存在する以上、全世界制覇などと言ってしまえば、「まだあるじゃないか」と批判する人がいたかもしれない。まあ凱旋門賞とブリーダーズカップを両方制したウマ娘にそんなこと言う人いるか怪しいけど、これは彼女が謙虚である証だろう。
- 121メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:55:24
「ただそれを捨ててまでもあなたと走りたかった。もしかしたらその時にあなたとの繋がりを感じ取っていたのかもしれません」
ウマ娘は血縁関係がない相手になぜか不思議な感覚を抱くことがある。古来から現代にかけてその感覚について様々な研究がされているものの、未だにはっきりとした理由は見つかってはいない。それを彼女は私に感じたという。
「……私はそんなに気にかけたことなかった。もちろんドーベルさんのことは元の世界のママとそっくりで名前も同じだったから意識するようになったけど、エスキー、あなたのことは一人の親友、ライバルとしてしか見ることが出来てなかった」
当然といえば当然かもしれない。人がウマ娘に、しかも男性がなんて誰が想像できるだろうか。ましてやそれが自分のパパかもなんて考えもできないだろうし、そんな荒唐無稽の話なんて思ったところで誰にも言えはしないだろう。
「わたしもあなたのこと言えたものじゃないですよ。遺伝子の分析結果が出るまでは血の繋がりを信じていませんでしたから」
ただ、と言葉を続ける。
「今は違います。この秋、あなたを一人の親友、ライバル、そして娘として勝負します。超えられるものなら超えてみてください」
堂々とした宣戦布告。私はそれを真正面から受け止める。
「私もあなたのことを大切な親友であり、強力なライバルであり、そして大事な肉親と思って走って……勝つ。絶対」
そう言って互いに差し出した手を握り、秋の好勝負を誓う。全てを知った今、貴方と走れる喜びを、貴方と過ごせるこの尊さをしっかりと記憶に焼きつけ、そして噛み締めながら、強く、強くその手を握った。
─────
「あっ、それでですね、エスキモーちゃん」
「ん、どうしたのエスキー」
そのあとドーベルさんと話した世界線の話とかいろいろ話し合い、いい時間になったところで自分の部屋に帰ろうと立ち上がって部屋を出ようとしたその時、後ろから何かを思い出したエスキーに話しかけられた。そのまま話を聞くのはどうかと思い、私は再びママのベッドに腰かける。
「元の世界じゃエスキモーちゃんは人に戻ったわたしと姉さまの子どもなんですよね?」
「うん、そうだけど改めてどうしたの?」
「いやー……そのー……」
- 122メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:56:35
何やら様子がおかしいエスキー。頬も少し紅く色づいている気がする。
「ということは……結婚、その前に付き合ったことですよね?」
「もちろんそうだよ……で、何が言いたいの?」
まさかママと同じでこの子も付き合った時のことを知りたいのだろうか。
「どっちから告白したとか……聞いてないですか?」
その予感は見事に的中した。似た者同士というかなんというか……まあその血を私は両方から受け継いだんだけどさ。
ただここでママの方からと言ってしまえばたぶんこの子はひたすら待ちの姿勢をとるだろう。世界線が違えど関係が変わっている訳ではないのだから。それは面白く……いや違う気がする。よく分かんないけど。
だから私は誤魔化すことにした。向こうから告白を受けるのか、それとも自分からやってしまうのか、それとも何か別の方法でなのか。彼女にも分からずにモヤモヤすることが1つぐらいあってもいいだろう。
「聞いてない、かな」
「そう、ですか……分かりました、ありがとうございます」
その言葉で私は再び立ち上がり今度こそ部屋を去る。自分の部屋へと戻る道中周りに誰もいないのを確認して、誰にも聞かれないようにポツリと呟く。
「命短し恋せよ乙女。2人とも幸せになってよね」
──そうしないとこっちの世界で私が生まれなくなっちゃうんだから。
─────
宝塚記念を今週末に控えたある日のこと。トレーニングはいつもどおりトレーナーとエスキー2人から指導を受けており、まさしく順調そのものだった。
「よし、今日はこれでおしまい。クールダウン終わったらシャワー浴びてトレーナールームでミーティングな」
- 123メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:57:36
ストップウォッチを片手に持ち私のタイムを計測してもらっていたトレーナーが練習終了の合図をかける。エスキーとの併走は相変わらず私の方が劣勢だけど、差が縮まっている手応えは感じている。
「ふぅ……お疲れエスキー。もうそろそろ完全復調って感じ?」
互いにペットボトルに残っていたスポーツドリンクを一気に飲み干し、タオルで汗を拭う。そろそろ夏が近くなってきて気温も徐々に上昇を始めた。
「ですね。週末の宝塚記念は出れないですけど、秋からは問題なく走れそうです」
クスリが体に馴染んだのかその辺りの事情は分からないし、わざわざ聞くことではないと思っているから彼女には聞かない。そんなことより本領発揮できるかどうかの方が私にとっては大切だ。
「ほんとに楽しみ……あっもちろんこの週末のレースのこと忘れた訳じゃないからね」
「分かってますよ。ただ週末の関西の天気悪そうですけど大丈夫ですか? エスキモーちゃん重たいバ場のレースそんなに経験多くないんじゃ……」
今週末のレース場の天気は曇り時々雨。晴れ間は出そうになく、稍重から重ぐらいのコンディションでの開催が予想されていた。ただでさえ開催が続いて荒れ気味のバ場状態なのにさらに足元が重くなるのは条件としては厳しい。
「だけど今までそんな悪いバ場でも走れるようにトレーニング組んでくれてたでしょ? 雨の次の日にあえて併走トレーニング組んだりとか、ザーザー降りの時にもちょっとだけ走ってみたりとか」
宝塚記念の週のバ場が重たいのは例年のことだから、そのための練習は幾度か繰り返してきた。だから本番では初めてとはいえどそのことで特に不安に思っていることはない。
「土砂降りの時は全身濡れ鼠みたいになってトレーナーさんから怒られましたけどね。風邪引くぞって」
「そりゃそうだよ。他に走ってる人全然いなかったもん」
ある程度の雨であれば内容を多少変更しても外でトレーニングを行う場合が多い。ただ大雨のときは完全に室内での練習メニューに切り替えるのが普通だ。それを私たちは逆に好機と見て外に走りに行ったんだけど……
「『怪我したらどうするんだ!』とも言われちゃいましたもんね。その辺りは気をつけて全力で走らないようにしていたんですけど、そういう問題じゃないと」
「なんかあの時はテンションがおかしかった気がする……」
- 124メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:58:38
そんな話をしながらシャワールームへと向かい、全身の汗を洗い落とす。走っている時に髪に付着した芝も手で取り除き床に投げると、シャワーから出るお湯で排水口へと勢いよく流れていった。
「はー、さっぱりした。やっぱり最近ジメジメしてるから、こうやってシャワー浴びるだけでも爽快感凄いね」
シャワーを浴び終わり、体を拭いてドライヤーで髪を乾かしたり、スキンケアをエスキーと2人並んでしていると、なぜか彼女に体全体をジロジロと見られる。
「ねぇ、エスキモーちゃん?」
「ど、どうしたの……?」
私の問いかけを無視してそのまま体の上から下まで何度か見返し、ついには私の体に触れてきた。
「ちょっ!? 何触ってるの……って、ひゃっ!」
「やっぱりそうですよね……これは由々しき事態です……」
「んっ……そんなこと言ってないで……あっ……いつまで触ってんの……うんっ……いい加減にしてっ……!」
なんとか体からエスキーを引き離すと、肩で息をして荒れた呼吸を整える。ウマ娘同士でもセクハラじゃないのと強く抗議をすると、微塵も意に介していない様子で私に質問してきた。
「エスキモーちゃん、やっぱり体大きくなってますよね。身長はそこまでですけど、それこそお胸やお尻、もちろん脚も前より成長している気がします……今の勝負服入りますか?」
「勝負服は……天皇賞の時はなんとか入ったけど、エスキーがそう言うなら今じゃキツいかも」
「……分かりました。まあ成長に応じてある程度のサイズ違いは作っているでしょうからそれを少し手直しすれば週末には間に合いそうですね。もちろんトレーナーさんにもお話しないといけませんから、早くトレーナールームに行きますよ」
- 125メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:58:56
話が早い、早すぎる。まあ十分着れるだろうと思って衣装合わせを今日までしてなかった私の責任でもあるんだけど……
「分かったから腕引っ張らないで! というかさっきのセクハラのことまだ謝ってもらってないからね!?」
そうしてそのままトレーナーの元へ連れて行かれ、彼女から説明を受けたトレーナーはメジャーを持って私へじりじりと迫ってくるのだった。
「じゃあエスキモー、測るから腕を横に広げて……プギャっ!?」
「ちょっ!? トレーナーまでセクハラ!?」
「誤解だ、誤解! 測らなかったら手直ししてもらえないだろ!? そりゃ測る時に手が当たったりするかもだけど……」
「……だったら2人のときにしてほしいな。恥ずかしい所なんてトレーナーにしか見せられないよ……」
「はいはいイチャつかないでとっとやってくださーい」
2人の話に呆れたエスキーが早くしろと促す。というか誰がイチャイチャしてるって!?
そのあとなんとか計測し終え超特急で勝負服を手直しに出し、なんとか週末大阪へ出発する前にはサイズも余裕がある勝負服が手元に戻ってきたのだった。
……どことは言わないけど前測った時より2センチぐらい増えてた気がする。
- 126メジロエスキーの人22/10/29(土) 07:59:44
- 127ツキノミフネの背後霊22/10/29(土) 10:11:42
- 128二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 17:38:32
>「じゃあエスキモー、測るから腕を横に広げて……プギャっ!?」
>「ちょっ!? トレーナーまでセクハラ!?」
>「誤解だ、誤解! 測らなかったら手直ししてもらえないだろ!? そりゃ測る時に手が当たったりするかもだけど……」
>「……だったら2人のときにしてほしいな。恥ずかしい所なんてトレーナーにしか見せられないよ……」
>「はいはいイチャつかないでとっとやってくださーい」
>2人の話に呆れたエスキーが早くしろと促す。というか誰がイチャイチャしてるって!?
これでイチャイチャしてないのは無理があるだろうがよえーっ
- 129ナックル宅の壁22/10/29(土) 17:47:48
怪文書失礼します。
「ある日のナックル」 - 130ナックル宅の壁22/10/29(土) 17:49:04
4:00 起床。今日はユリさんもチームの朝練を見るのでこの時間に起きる。
支度したりしつつ前日から仕込んでた私とユリさんの弁当(朝食&昼食)も用意する。カフェテリアで食べれば良いものをユリさんが「ナクが作ってくださる弁当が毎日の活力なんですが!!?」とか言うので私が作っている。
5:00 ユリさんと一緒に家を出る。ユリさんは運転が上手いので私が免許取れる年齢になったら運転についていろいろ教わることになるだろうなとか考えながら助手席。
5:30 トレセン学園に到着。朝練の準備とか。
6:00 朝練。私もチームの娘達と走る。レースは引退したけど身体を動かさないとライブで体力持たないので。
7:00 朝練終わり。片付けやミーティングとか。
7:30 ユリさんと朝食分の弁当を食べる。
8:30 授業とか。
- 131ナックル宅の壁22/10/29(土) 17:52:40
12:00 トレーナー室。ユリさんとふたりで昼食。父はカフェテリアでお昼みたいなのでふたりきりだった。ほんとユリさん美味しそうに食べるなあ。嬉しい。
13:00 今日はチームのトレーニングに帯同。スプリント路線の娘と併走など。
15:00 トレーニング終了。器具の片付けを手伝うなど。
15:30 チームミーティング。父曰く私は教えるのが上手いとか。ほんとかよ。
16:00 追加でボイスレッスンをするという娘に付き合う。休憩中に今年から日本でトレーナーをやってるドレフォンさんに偶然会った。ちょっとだけ喋った。
16:30 その娘と別れてからシャワーしたりトレーナー室で仮眠を取ったり。
17:00 ユリさんの仕事が終わるのを待つついでに図書室で勉強。
18:30 ユリさんとトレセン学園を出る。
19:00 帰宅。夕食や明日の弁当の用意など家事。
20:00 夕食。美味しい。
20:30 音楽。曲書いたり。ふたり暮らしの大きなメリットのひとつがこうして家の中で音楽活動ができること。あと今度ワンマンライブ「Defunct」あるから来てね(宣伝)
22:00 きりのいいとこで終わりにしてお風呂。ユリさんがシャンプーとかをしてくれる。心地よくて幸せ。
22:30 寝る準備。ストレッチしたりとか。
23:00 就寝。日によってユリさんと私のどちらかが抱き枕になる。今日は私が抱き枕になった。すごく安心する。
- 132二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 18:40:22
またイチャイチャしてる……
- 133二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 18:50:56
怪文書というか生態…?
- 134メジロエスキーの人22/10/29(土) 20:12:40
- 135二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 20:21:30
トレセンでの一日のスケジュール考えたけど、学生特有の時間の取り方でクッソカツカツですわ!
一日35時間くらい欲しいですわ!! - 136ブルーラグーンの人22/10/29(土) 20:46:21
- 137二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 20:47:24
- 138ブルーラグーンの人22/10/29(土) 20:48:42
確かに……納得してしまった(((
- 139クアドラプルグロウ22/10/29(土) 20:49:15
出たなノンストウオッk…ノンストラグーン!
- 140二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 22:06:35
スリーサイズこそそんなこと知って何がしたいのって思う要素筆頭
- 141二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 22:40:27
ウマ娘はアイドル要素あるから多少はね
単なるメタデータで実は作中世界で公開はしてないのかもしれないけど - 142二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 22:43:50
トレーナーさん、お腹がすいたのでにんじんください
- 143二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 22:43:54
身長しか出してない人とスリーサイズも出してる人がいるからな…
- 144アラシュパーパス22/10/29(土) 22:53:09
SS投下させていただきます!!
- 145アラシュパーパス22/10/29(土) 22:54:05
アラシュと出会いトレーナーになった翌日
早速、練習を始めることにしたが…
アラシュ「早く!!やるなら早く!!」
トレ「えっと、アラシュは右手を黄色。栗毛スキーは左足を青に」
栗毛スキー「栗毛スキーじゃねえって言ってんだろうが!!」
アラシュ「ていうか、なんであたしたち。ツイスターやってるのぉ!?」
本日のメニュー
・ツイスター
・本を頭に積んで歩く練習
トレ「バランスが悪いからその特訓だろ」
アラシュの走り方は…なんというか…おかしい。
軸がブレブレだし…日常からそうなのではないか?と思って
食堂に向かうアラシュの後ろを少しつけたが歩き方が
なんというか…ポワポワしていた…
ぴょんぴょんしながら歩いているし、地に足が本当についているのか心配になるぐらいぴょんぴょんふわふわしながら歩いていた…
これは…今のうちに改善しておかないと契約書を提出した後に言ってた”目的”はおろかデビュー線すら怪しい…
そのためにはまずアラシュ本人に自分の軸を意識してもらうしかない…
栗毛スキー「つーか、なんで俺がこいつの練習の付き合いしねえといけねえんだよ!?」
トレ「そこにいたから」
栗毛スキー「よーしわかった。こいつとお前後でダートに埋めてやるからな」
トレ「はい、次〜アラシュは左手を緑。栗毛スキーは一回休み」
栗毛スキー「話を聞けやぁ!!」
=3時間後=
アラシュ「ゲヘェ…ゲヘェ…もう…無理。明日筋肉痛待ったなし…」
トレ「アラシュ、ちょっとそこ歩いてみてくれ」
アラシュ「ふぇ…?もう、今歩きたくな…」
トレ「はい、歩こうねぇ?」
アラシュ「ニャァ………」 - 146アラシュパーパス22/10/29(土) 22:54:37
アラシュに5mぐらい歩いてもらうとどうやら早速
特訓の成果が出たようだ、地に足がしっかりついている
ポワポワもぴょんぴょんもしていない。これなら、少しはまともになったかもしれない
栗毛スキー「おぉ、いつものバンビがマシになったんじゃねえか?」
アラシュ「え?バンビ?なんのこと?」
トレ「自覚なしか…まぁ、歩いてる時なんてそんなもんだよな…」
アラシュ「本当にバンビってなんのことぉ!?!?!?」
================
時はすぎ、紅葉が赤く染まり、冬がそろそろかなと思う秋の季節。
この季節…アラシュがついにデビュー戦に挑む…
アラシュ「デビュー…デビュー…デビュー………いやァァァァ!!!!」
トレ「まだデビューだぞ…G1じゃないんだからさ…」
アラシュ「G1…?デビューしたらエリザベス女王杯に……うぅうううぅ!!」
トレ(情緒が不安定すぎる…)
アラシュ「うぅぅぅぅ…いや…うじうじしてる場合じゃない…メガネトレーナ!あたし、1着で走り切ってくるよ!!」
トレ「うん、その調子で行ってやれ。あ、ちなみに作戦なんだが…」
アラシュ「作戦ですか?」
アラシュは脚質より…ペース配分とタイミングを優先して走った方がいい…
となってくると。先行・差しどっちかだな…
トレ「最初はついていく…そして最終コーナーで全員抜け」
アラシュ「それが作戦ですか?」
トレ「あぁ、作戦だ」
アラシュ「わかりました!!それじゃあトレーナー!行ってきますね!!」
- 147アラシュパーパス22/10/29(土) 22:54:56
今回はここまでです。
- 148二次元好きの匿名さん22/10/29(土) 23:41:04
どんだけ体幹ボロクソだったんや()
- 149メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:26:30
栗毛スキーさん……名前が……
というわけで(?)今日もSSの続きを投げていきます - 150メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:27:48
─────
迎えた宝塚記念当日、雨はすっかり止んだものの頭を上げると鉛色の雲に覆われた空が広がっていて、頭を下に下げると荒れた芝が広がっていた。
「やあ、エスキモーさん」
レース直前のゲート裏、集中を高めている中、一緒に走るのが去年の有馬記念以来となるサートゥルヌスさんから声をかけられた。
「レースで会うのは久しぶりだね。大阪杯出てくるって思ってたのに」
彼女は今年初戦の金鯱賞を快勝したものの、次走を大阪杯ではなく金鯱賞から3ヶ月間隔を空けて今日のレースを狙いにきた。私はその間に大阪杯と春の天皇賞を制しており、この世代の2強と呼ばれているものの、彼女より一歩先んじている形になっている。もちろん勝利数と実力は必ずしも一致はしないから、決して下に見ている訳ではない。
「まあいろいろあってね。今日はともに全力を尽くそう」
「うん、見ててよ、私の走り」
互いに全力疾走を誓いあうと枠入りのためにゲートのすぐ近くまで歩みを進める。今日の私は17番、宝塚記念では好枠とされている8枠に配されたものの、右隣の同じ8枠の16番にはティアラ路線から進んできたにも関わらずそんなことは関係ないとばかりに好走を続けているジェネシーさんが入った。
『──さあ枠入りが順調に進みまして、最後に大外18番ツーピースガストが収まります……スタートしました!』
大きな出遅れはなく1コーナーへ向けて各ウマ娘が先頭争いや位置取り争いを繰り広げていく。そんな中私は中団よりやや前、前から5、6番手辺りで前の様子を伺う。
『1コーナーを過ぎた辺りで隊列が決まりました。先頭は3枠6番セントーインドラが行きます。リードが1バ身ほど。先行している集団の中には人気のグリュックシンボルや1番人気のメジロエスキモーがいます。中団内側には2番人気のサートゥルヌス、少し外目に3番人気のジェネシーがいるという態勢で2コーナーから向こう正面にレースが進んでまいります』
バ場がいつもより少し重たいことを鑑みるとちょっと速いペースでレースが流れていく。
(おそらく先頭の子は最後のコーナーでバテる。そこを外から一気に交わせば……!) - 151メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:29:12
『向こう正面を過ぎまして最初の1000mは1分ちょうど。開催が進んだ稍重のバ場のことを考えるとやや速めでしょうか。まだ仕掛けるウマ娘はおらず、隊列をそのままにして3コーナーのカーブへ入ってまいります!』
残り1000mの標識を過ぎる。この辺りから最後の急な上り坂の前まで下り坂が続く。
(1回深呼吸してー……吐いてー……よし、ここ!)
今日はいつもよりも早く、残り800mのハロン棒の手前から仕掛け始めた。最近スタミナがついていたこともあって、徐々に仕掛けどころが前へ前へとズレていっている。
(少し脚が取られるけど、これぐらいならなんとかなる。最後まで頑張ってよ私の脚!)
『──さあ4コーナーを回り、最後の直線を迎えます! 先頭はここで替わり……おっと!? メジロエスキモーが早くも先頭に並ぶ勢いだ!』
先頭を射程に捉え、残り350mほどの最後の直線に突入する。やはり前でレースを引っ張っていた子は少しずつ後ろへ下がっていき、先行集団や中団に控えていた組が台頭を始める。
『──ここで早くもメジロエスキモーが先頭に替わって残り300mを切ります! さらに内からジェネシー、大外からミラクルが迫ってくる! 中団からサートゥルヌスも前に迫るが届くのか!』
残り200m地点、後続の争いを尻目に抜け出したのは私とジェネシーさん。3番手以降との距離はぐんぐん開いていく。
(ジェネシーさん重たいバ場得意だったね。でも私だって……!)
『──残り200mを切っても2人の競り合いが続く……いやここでメジロエスキモーが抜け出した! リードを1バ身、2バ身開く! 3番手以降は大きく離れた! サートゥルヌスは4番手辺りでもがいている!』
京都記念での重バ場の経験、そして最近続けてきた悪いバ場状態に対応するためのトレーニング、その2つが実を結び、花開いた。
(春のグランプリは私のものなんだから!)
『間違いない! 史上初めてここに春シニア3冠ウマ娘が誕生する! メジロエスキモー今ゴールイン!』
- 152メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:30:33
最後まで落ちることなくゴール板を駆け抜ける。ゴールを過ぎたあとも疲労が一気に押し寄せてくることはなく、息の入りや体の回復も天皇賞の時より早くなっていた。トレーニングでも日々成長していることは掴めているけど、やはり本番の舞台で走ることで心身ともに充実しているのを強く実感することができた。
(これで夏を無事に乗り越えられたら本当に……!)
既に観客席から控え室に向かっているだろうエスキーのことを頭に思い浮かび、レース後にも関わらず体に闘志が燃え上がってくる。いざ決戦の秋へ。春の頂点へ上り詰めた今、見据える先は秋の3つ。どういうレースになるのか今から楽しみだ。
─────
「エスキモーちゃん、いいものを見せてもらいましたよ」
ライバルが堂々と直線で抜け出したところで勝利を確信し、彼女を出迎えるために観客席を後にする。天皇賞後お屋敷で話をした時はメンタル面に影響が出ないか非常に心配だったが、まるで問題がなさそうだ。フィジカルについても今日の荒れたバ場で最後まで突き抜けられるスピード、それを実現するために鍛えたスタミナ、一気に加速するためのパワー、わたしのライバルとして全て申し分ない。
「ですがエスキモーちゃん、成長しているのはあなただけじゃないんですよ?」
休養期間においても練習は積み重ねてきた。去年の有馬記念より日本のバ場への適応力が戻ってきていることからも秋へ全力をぶつける準備が整ったのを頭と体で感じる。
「夏はすぐに終わります。決戦の舞台でお待ちしてますよ」
さあ勝負の秋、どんな結末が待ち受けるのだろうか。
─────
その夢を見始めたのは夏が明けてからのことだった。天井、床、壁全てが真っ白の部屋で立ち尽くす私。扉もなくてどこか別の場所に行けそうもない。広い、とっても広い部屋の中をボーッと見渡していると真っ白な床に何やら物がたくさん転がっているのが目に入った。
(これはトロフィーでこっちはオレンジ? 花束もあるし蹄鉄も落ちてる……)
辺り一面に広がるのは、ガラクタとは言えない物ばかり。その中で一際目立っていたのは大きな古い振り子時計だった。近づいて手に取ると、下の振り子が止まっていて針も動いていない。時計をひっくり返し本来電池が入っているはずの蓋を開けると、そこには何も入っていなかった。
- 153メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:31:32
(電池……電池……えーっとどこにあるのかな?)
キョロキョロと辺りを見渡すと離れた所に何やら小さい棒のような物を見つけた。
(あっ、あれだ!)
おもちゃを見つけた子どものように笑みを浮かべて電池の方へと走り出す。
──そこで意識が途切れ、気がつけば枕元で目覚ましが鳴っていた。
─────
夏が出番はまだ残っていると言わんばかりの日差しとこの暑さ。すっかり9月も中頃を過ぎたというのに秋はどこで休んでいるのだろうか。
「暑い〜……トレーナー冷房つけてい〜い?」
「いいけど風邪引くなよ。再来週はレースなんだから」
「やった! えーっと、リモコンはリモコンはっと……」
練習のあとトレーナールームでミーティングを始める前、トレーナーに許可をもらい机の上に置いてあったリモコンで早く涼しくしてとエアコンに命令を送る。設定は25℃。温暖化? SDGs? 今はそんな高尚なことを考えている時ではない。
「それで再来週のレースだが……たぶん出走者は少ない。10人ぐらいじゃないかな」
「えー、G2なのにみんな出ないんだ。なんか残念」
中山レース場の芝2200mで争われるG2、オールカマー。1着には天皇賞(秋)への優先出走権が与えられる、秋を占う前哨戦として名高いこのレース、一体どれぐらい集まるのかなとワクワクしていたら私を含めてたったの9人。
「残念というか……たぶん君が出るからだと思うぞ」
「えっ、私のせい?」
確かに史上初めて春のシニア中長距離の3つのG1を全て勝ったことは勝ったけど、それはエスキーがいなかった影響が大きいと思っていた。あの子に勝てるとはそんなに思ってなかったから。だけど世間はそうは見てくれなかったらしい。
- 154メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:33:00
「シニア1年目の春で既にG1を5勝。しかも敗れたレースも2着と連対を外していない。しかも今年は未だ負けなし。オレが他の子のトレーナーしてたらまあ君とぶつけるのは躊躇うよ。そんな風に実力を警戒されているってことだ、実力に自信を持っていい」
「そっか……よし、この秋も全部勝つ勢いで頑張る!」
レースに出る人数が多くても少なくても、みんなの強さがどうであってもやることに変わりはない。ゴール板を一番最初に駆け抜ける、ただそれだけ。
そんな話をしているうちに冷房のおかげで部屋が涼しくなってきた。もうこれぐらいでいいよと今度は温度を1℃上げてねとリモコンで指令を出す。
「そういえばあの子ぶっつけで天皇賞出るんだってね」
「そうだな。半年もレース出てないのに大丈夫なのかとは思うんだが……まあそれだけで実力が発揮できない子でもないしな」
エスキーは今年の始動戦を前哨戦のオールカマーや毎日王冠、京都大賞典ではなくぶっつけ本番となる秋の天皇賞を選択した。ジュニア級の東スポ杯以降全てG1、菊花賞も前哨戦を挟まずに史上最速での6戦目での3冠達成……これらを考慮すると彼女がぶっつけ本番に弱いとは全く思えない。むしろ強いとまで言えるかもしれない。
「逆に考えたら春と夏でしっかり休んで蓄えた力を一気にここで放出するとも考えられるもんね。あー怖い怖い」
自分で自分を抱き締め震え上がる素振りを見せたのに、トレーナーにははいはいと完全にスルーされてちょっぴり残念。
「そんなことしてないで早く今回のレースプラン考えるぞー」
「……はーい」
そうやって2人肩を並べてパソコンの画面を覗き込みながらどう走ろうかの作戦を考える。
──さっきよりちょっとだけ体を寄せ合って。
- 155メジロエスキーの人22/10/30(日) 07:34:23
- 156二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 09:36:50
- 157二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:12:13
- 158二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:32:00
- 159二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:32:40
ウマ娘ならぬヒツジ娘…!
魔法少女が変身して髪伸びるのは鉄板だよね
敵がいるとしたらどんな奴らなんだ
そして感じた既視感の正体はおそらくビワハヤヒデ - 160二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:35:55
- 161二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:48:19
ハロウィン、くれぐれも羽目を外してトラックひっくり返したり、雪崩を起こさないようにしないようにしましょう
- 162ラプ中22/10/30(日) 11:08:45
ファイルなう投下混沌王感想で草生え散らかした
それはそれとして僕もSS投げます - 163ラプ中22/10/30(日) 11:10:28
「わたし、おてがみかいてみたい!」
「ふうん、誰にだい?」
「あのかっこいいうまむすめさん!わたし、『だいファン』なの!」
「そうかい。確かにあの人は怪我で大変らしいからねぇ。応援してもらったら、きっと喜ぶと思うよ」
「うん!あのひとをよろこばせてみたい!」
学園のベンチに、彼女は近づく。右脚にギブス、両手には松葉杖。何かしらのトラブルがあったことが明らかな風体で、彼女はゆっくり、腰を下ろした。
太陽は西に傾き、空の橙色は、これから訪れる闇を待ち受けている。学園の生徒なら、まだ練習の終盤の時間といったところ。彼女がこのベンチで暇を紛らわしていたのは、言うまでもなくこのような状況に追い込まれたトラブルのせいだった。
ふと彼女の脳裏に妙な欲求が現れ、肉体に対して行動を指示した。空の茜色を見つめたあと、ベンチに座った際に立てかけておいた松葉杖の片方を持ち、それを空に向ける。
「バン!」
勿論、何も起きない。
松葉杖を空に向けつつ、その虚無を感じながら数秒経ち、状況は元に戻った。
「あー、暇」
その愚痴を聞く相手は周囲にいなかったし、聞かれることをそもそも求めてもいなかった。
不幸の中にも幸運はあった。
ラプラスは確かに骨折していたが、それは現役生活が危ぶまれるような程度のものでもなかったのだ。相応の負傷は、待つことさえできれば、治癒力が自然と修復してくれるものである。
ただし、程度の大小に寄らず、待つことは事実として変わりない。その間もちろん運動はできないから、ラプラスは練習風景を眺めるか、レースに関して知識を得るか、あるいは長めの余暇と扱いながら過ごすか、と言ったふうに時間を過ごすしかないのである。
彼女はポジティブな方だから、最初は「公然と練習を休める」と多少なりとも喜びを感じ取っていたが、気づかないうちに飽きが訪れた。
オフだけが続く日常が、やがて無為の感覚を押し付けてくる。人は、同じことをあまりに長く続けられないようにできているのだ。
そのうち彼女は気づいた。自分自身で思っていたより、自分が努力していたことに。 - 164ラプ中22/10/30(日) 11:18:01
「さあ外からグロリアスブレイズだ!外からダービーウマ娘が突っ込んでくる!」
東京レース場の直線では、最後の競り合いが繰り広げられている。(厳密にはこの後に第12レースが控えているが)東京開催のトリを飾る大レース、ジャパンカップ。ダービーと同じ舞台を、ダービーと同じように外を通って、グロリアスブレイズが駆け抜けていく。
「2番手はグランエトワール、さらにヒシセフィラムにクリシュナも前に出たが!先頭グロリアスブレイズだ!グロリアスブレイズ先頭でゴールイン!ダービーウマ娘が快挙達成です!グロリアスブレイズ、クラシック級がジャパンカップで堂々の勝利を収めました!」
友人の偉業を、スタンドから彼女は見ていた。耳には割れんばかりの熱狂の音が流入する。
何故か、彼女のところに向かって声を掛けに行く気になれなかった。もちろんうれしくない筈がない。歴史的な瞬間を観客席で見れた、あるいは見せてくれたことへの感謝は大いにある。表彰式を終えた彼女に駆け寄り、抱き合って祝福するのも悪くないと、確かに感じている。
だが、嫉妬ではなくても、それに近しい何かのせいで、気分を表に出したくなかった。
自分が得ることのできなかったクラシック級での勝利を、彼女はやってのけた。ブレイズがとてつもなく強いことを、ともに走っていたラプラスは良く知っている。
完全かそれに近しい、そんなレースをしても勝てない相手がいると、彼女は精神で知覚していた。
ああいう相手がこの世界には…彼女だけではない、複数いる。立ち向かうなら、自分は数か月のブランクと言うハンデを背負い込むことになる。そうやって、あの圧力と競い合わなければならない。
そして、彼女はあの圧力を、より強い力で叩きのめしたのだ。
勝てない。
あのダービーの時より、明瞭に感じる。
その思考に支配されて、彼女はしゃがみこんだ。
ふと、彼女は心中の囁きを聞いた。広範な知識が、それと知らせずに忠告をしたのかもしれない。
あるいはこの世界が、ふとした思い付きと言う形で、彼女に語りかけたのだろうか。
「これは特別などではない。普遍の思いでしかない。歴史はこの思いを幾千も生み出してきた」
「逆らう必要などない」 - 165ラプ中22/10/30(日) 11:20:06
この年のカレンダーが、そろそろその需要を終える時期。
トレーナー室で適当な日常会話が交わされている。話題はやがて、ウマ娘の側の近況についてのことに自然と移り変わった。
「やっぱ大変か?リハビリ」
「正直に言うと…まあ、そうですかねー。運動不足はキツイなーって」
「まあ、無理せずにな」
「元からそのつもりですよ」
そんな会話を暫く続けていたものの、実のところこれは深刻な話題への入り口でしかないと、彼女は信じている。適当なタイミングを見計らい、彼女はふとした願望を伝えようとしていたのである。
言い出せば、それで終わりだ。彼は残念がるだろうが、それでも意思を尊重するだろう。
さあ、口を開け。妙な抵抗心などに負けずに……
「…やっぱ、やめたいか?」
背筋を電流が通り抜ける。
彼女が思って、発する直前に達して、しかし確かに口には出せていなかったことを、日常の様子と何か言いたげな雰囲気とから読み取り、彼は的確についた。
「たぶん、きっと、一時の気の迷い…って奴のはずなんですけど」
自分の口調が、台詞に対して否定気味なことに彼女は気づいた。
「そっか」
トレーナーは下を向く。思考しながら、彼はその言語化に時間をかけていた。
沈黙の中で、どちらが先に言葉を続けるのか、そんなくだらない探り合いの均衡が続いた。
「そりゃ、辛いわな。ただでさえ日々大変なのに、そのうえ時間も空いて、周りの強さも良く知ってるんだからな」
先に切り出したのはトレーナーの方だった。
「だって、こうやって落ちぶれて…ああ、失礼な言い方ですけど、とにかくうまくいかなくなって。そうやって『未完の大器』なんて言い方をされるウマ娘なら、歴史上大勢います。今の私は…もともと大器なんてほどじゃないと思いますけど、そんな感じになっていくのかなあ、って思うと、やっぱり…」
二人の発言の手が終わり、また沈黙の均衡へと時間は逆流する。 - 166ラプ中22/10/30(日) 11:21:26
「こういうことを言うのは、少し憚られるかもしれないけど」
ある決心が、彼にその均衡を再び破らせた。
「君の気持ちも分かっているつもりだ。君と同じようなウマ娘が大勢いることだって良く知ってる。けど、それでも引き留めさせてくれ。聞き入れてくれなくたっていい」
彼は立ち上がると、トレーナー室の棚に向かった。引き出しを引き、蓋のついていない箱を一個取り出す。
「早いところ見せとけばよかったな…渡しそびれてたんだ」
箱をテーブルの上に置く。ラプラスはその中を覗き込んだ。封筒が群生している。
「読んでみてくれ。みんな君宛てだ」
少し浮き出た興味の顔つきを維持しながら、ラプラスはそのうちの一つから、便箋を取り出した。
『アドマイヤラプラス様へ。デビュー戦で見かけてからずっとファンです。いつかG1を勝つ姿を見せてください!』
『足のお怪我で大変かと思います。無理せず堅実に、少しずつ歩んでいってください』
『シルバーコレクターの星…と言っては失礼ですが、あなたの確実な強さに惹かれました。私も船橋で、堅実に、少しずつ頑張っていきます。』
『らぷらすさんはれーすでいつもがんばっていて、すごいなーっておもいます。わたしもらぷらすさんみたいに、すごいれーすをしてみたいです!』
『ラプラスちゃん、元気にしてたかな?クラスの中で一番レースが好きだったラプラスちゃんが選手になったと聞いて、とても納得しました。応援してます!』
そんな調子のファンレターが、満載されていた。
「みんな…俺も含めて、君に走ってほしい。エゴではあるが、それでも君が走る姿をもう一度見てみたい。そういう人たちは、君が思ってるより大勢いる」
言葉が続く。
「考えてもみるといい。重賞を勝って、皐月を2着、ダービーを3着に持ち込むウマ娘。故障しながら、それでもなお、少しでも立ち上がろうとしているウマ娘」
「もう君は、どこかの誰かの夢に、願いに、希望になっているんだ。勿論、俺も含めて」 - 167ラプ中22/10/30(日) 11:26:13
「…重いなぁ」
うつむきながら、文字の列に視線を落として、彼女は小声でつぶやく。
「重いよ、期待が。いやあ、本当に」
漏れ出るため息を抑え込むように、彼女の右手が顔を軽く覆う。
どんな人生が、どんな日常が、どんな夢が、この文字列を動かしたのだろう。皆、彼女の見ず知らずのものばかりだ。
期待に応えることは義務ではない。彼女は自由な一人の人間で、それを見ていた見ず知らずの人々は要求ではなく、申請を行っているにすぎないのだから。いくらでも拒否はできる。
それが楽なのだから、そうすればいい。ターフを早々に去って、あるいは足すら踏み入れずに、よりよい生活を手に入れた人々など幾万といるのだ。
苦しみにあえて向かい続けることなど、人生の概形では非効率でしかない。
だとしても。
そんなに求められたのなら、応えたくなってしまう。
かつての自分が希望を求めて、誰かがそれに応えてくれたように。
強制力に見せかけた確かな意思が、そこに姿を現した。
「もしも、ではありますけど」
逡巡の果てに、少女は口を開く。
「仮に…私がこの後に勝てたなら」
回答のある程度読める質問を、それでも確認したいと感じた。
「この人たちは、楽しめますかね?」
「ああ、保証するとも。誰がなんと言おうが、絶対に譲らない」
「…重くないです?」
「このくらい信じれる奴が良いトレーナーになれる…かもしれないからな?」
とうに良いトレーナーだと思っている…という言葉を伝える必要性を、彼女は感じなかった。
「はは…はあ…まあとにかく、もうちょっとだけ頑張ってみます。駄目で元々です」 - 168ラプ中22/10/30(日) 11:29:43
ー数年前、トレセン学園の一室。
とあるウマ娘が、トレーナー室の椅子に腰かけていた。
この年に彼女が掴んだダービーウマ娘という栄光を、秋に発覚した屈腱炎が持ち去っていった。トウィンクル・シリーズを諦め、ドリームトロフィーへの移籍を行うために、彼女は日々を多忙に過ごしていた。
期待と不安の両面の圧力の中、記憶にも残らないような日常の1コマの中の、確かな事実。
「ファンレターか?」
「子供の字だね、これ。流石に住所とかは親御さんが書いたやつだけど」
「読んでみてくれるか?」
彼女は、荒くたどたどしい文字に視線を集中させた。
『こんにちわ。あしのおケガはだいじょうぶですか?いたくはないですか?わたしはあなたのだいファンです。ダービーがとってもかっこよかったです。わたしもかっこいいひとになるのでがんばるから、これからもがんばってはしってほしいです。
『らぷらす』
「だってさ。小さなファンさんからも期待されるなんて人気者はつらいね」
「あんなレースをしたんだ、皆が君に心を惹かれるのも当然だとも。やる気は出たか?」
「やる気ならいつだってあるけど、特別強くなったかも。だってこんな小さな子に期待されたなら、夢をもう一度見せてあげる責任があるんじゃない?」
「そうか。何、君ならどこでも勝てるとも。君は僕が見てきた中で間違いなく一番のウマ娘だから」
「わあ、重い期待」
笑いながら、彼女は悪筆の名前を見つめた。
ありがとう。私もやってみるから、君も頑張ってね。
どこかの誰かに向けた独り言を、彼女はつぶやいていた。 - 169ラプ中22/10/30(日) 11:31:02
今回はここまでです
秋天は本命シャフリヤール、対抗ジャックドールとイクイノックスと言う安直な予想で行きます - 170メジロエスキーの人22/10/30(日) 12:54:56
はー何これ好き。自身が届けた想いが巡り巡って自分に戻ってくる展開、涙腺に来るものがある
- 171キタサンアイドルの人22/10/30(日) 14:40:42
ア…ア……小説に…イラストに……尊いで溢れ過ぎてくぁwせdrftgyふじこlp!
アイちゃんの人が尊死したのでアイちゃん代弁しますね。語彙力無くて感想書けてないけどみんな尊い大しゅき!!だそうです。
そして小説投下注意報が発令されましたアイちゃんトレーナーさんの膝で横になりますね - 172キタサンアイドルの人22/10/30(日) 14:42:07
【今あるものを精一杯】
今日はダンスレッスンをしていた。ちなみにメイクデビューのウイニングライブは体調が悪かったため彼女抜きでやった。…少し申し訳なさはあったが仕方ない。というかダンスの練習してなかったのである意味幸運ではあった。
「いち…に…いち…あっ!」
[大丈夫、焦らないでゆっくりやろう]
彼女は手と足を意識して同時に動かすのが苦手だ。そのためレース中でもフォームが崩れることもある。その改善のためにバランスが必要なダンスを選んだ。
「はい!」
[手か足、好きな方の動きを固定すると良くなるかもね。それを踏まえて一旦この縄で縄跳びやってみて]
「えっ縄跳び…?…はい、やってみます」
[課題は二重跳び3回飛ぶだけ、難しいと思うけど少しずつやっていこう]
「はい、頑張ります!」
〜🕛〜
「はあ…はあ……っまだまだ!」
[一旦ストップ]
「っ……はい」
力んでいて姿勢回し方も崩れている。そして体力も削れていて危険だ。
[指摘は飛ぶことに集中しすぎて姿勢もまわし方も崩れてる。それを改善するために少し休んだら前飛びを10秒以内に30回やってみて]
〜それから練習し続けて…〜
「にじゅご、にじゅうろく、にじゅうしち、にじゅうはち、にじゅうきゅう、さんじゅう!…どうですか!?」 - 173キタサンアイドルの人22/10/30(日) 14:43:23
[うん!!10秒以内よ、ほら]
「…あれ?過ぎてますけど…」
[何か気づくことはない?]
「…もしかして二重跳び…出来てました…!?」
「その通り!集中しすぎて気づかなかったみたいだけど時々出来てたよ。それと課題クリアおめでとう」
彼女はおそらく本能の方が能力を引き出せるのだろう。併走の時にフラッシュバックが和らぎ調子が良かったのも先輩と走ることでそっちに集中が行ったからだと予想している。…これは大きな進展だ。
「……!!やったー!!」
[ふふ、お疲れ!……あれ?何か忘れてるような…]
「…もしかしてダンス練習だったこと忘れてますか?」
[……ああーー!!!!!]
まあ結果コツを掴めたようなので良かった。…そしてフラッシュバックの回避方法も見つかった。帰り際にその方法を伝え、彼女にもそれをどうレースの中で活かすかを宿題としたのであった…。
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日常回だと思ったな!?残念トラウマ克服回だ!! - 174メジロエスキーの人22/10/30(日) 16:40:43
きっかけが掴めてよかった。あとはどうトレーニングとかレースで活かすかですね
- 175クアドラプルグロウ22/10/30(日) 16:49:29
短いけどSSの続きを投げます!
秋華賞編です!!! - 176クアドラプルグロウ22/10/30(日) 16:50:25
秋華賞の前に「お母様の夢の秋華賞」
「………秋華賞、かぁ」
彼女はどこか遠くを見るように言う。
『大丈夫か?』
「ん?何がかな?」
『…これは、君の”お母様の夢”の…』
「あぁ…!」
彼女はどこか、晴れ晴れとした顔で言う。
「うん、逆に大丈夫かな」
『そうなのか?』
「ダービーを見て、安田記念の後トレーナーに言われて…わかったの。これが”お母様の夢”だって…だから、わたくしはこれを”お母様の夢”として走れる」
彼女はそう語る。
「だからね、だから…わたくしは、このレース、”お母様の夢”のために走るよ。そして、”わたくしの夢”のきっかけも、出来ればつかみたいかな」
『…そうか』
「さあ…走って、くるよ!」 - 177クアドラプルグロウ22/10/30(日) 16:50:43
秋華賞「お母様の夢の重み」
ゲートが開く。
彼女は今日も一番に飛び出していく。
(………お母様の、”夢”)
それを背中に感じながら、彼女は走る。
(………このレースに勝てば、お母様は喜んでくれる)
スピードを上げ、先頭をひたすらに駆ける。
(そう、喜んでくれるんだ)
(………これが、”お母様の夢”だから)
(まだ何もわからない。けど、今は…わたくしは…今は、お母様のために!)
彼女の抱える悩み。
自分の”夢”はまだわからない。
だが、他人に託された”夢”を、他人に託されたものとして認識することができた。
それは彼女の成長。
成長した彼女はまた、新しい一歩を刻む。
「___クアドラプルグロウ!トリプルティアラ達成っ!!!!!」 - 178クアドラプルグロウ22/10/30(日) 16:51:01
秋華賞の後に「名前の夢の栄冠」
”トリプルティアラ”達成のウイニングライブ。
曲は”彩Phantasia”。
この歴史的瞬間を、観客は精一杯に祝っていた。
そのセンターで踊るクアドラプルグロウの内心には、ライブ前のトレーナーとのやりとりが残っていた。
『おめでとう!クア!!!』
「えへへ…!ありがとうありがとう!ありがとうトレーナー!”お母様の夢”叶えたよ!」
『ああ!次は君自身の…』
そう言うと、クアドラプルグロウの顔が一瞬曇った気がした。
「…そう、だね!うん、そうだ!…けどその前に、”エリザベス女王杯”に行きたいかな!」
『エリ女か?』
クアドラプルグロウ
「うん。”三冠を超える栄冠”には、あと1つ足りないかな!」
『…そうか。名前に答えたら、その次こそ”君の夢”だな!』
「…うん!」
(………なのに)
わからなかった。
この後に及んで、あと1レースしか他人に託された”夢”が残ってない状況で。
まだ、彼女は”自分の夢”がわからなかった。
このレースで、きっかけを掴めなかった。
「…”きゅんとぎゅっと、鼓動が…こんなに、苦しい”。」 - 179クアドラプルグロウ22/10/30(日) 16:51:41
以上です!
いやぁ成長ですね!!! - 180メジロエスキーの人22/10/30(日) 16:53:58
読んでて胸が痛いんだけど?????
- 181キタサンアイドルの人22/10/30(日) 17:58:39
- 182二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 19:41:00
公式歌詞とシンクロするストーリー良いよね……
- 183二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:02:27
- 184二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:03:28
200ならチームカオス1.5周年衣装部
- 185二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:37:15
- 186二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:39:42
衣装差分?
- 187二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:43:54
- 188二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:46:29
クラシック負けが条件かな…
- 189二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:47:54
注目してた22クラシック世代が軒並み善戦マン化してたので今回のイクイノックスの勝利は大変嬉しい
ナミュールちゃんも後に続け! - 190二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:48:44
- 191二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:52:51
梅酒
- 192二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:53:21
- 193二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:54:40
- 194二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:54:46
梅しそ
- 195二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:55:29
梅一輪 いちりんほどの 暖かさ
- 196二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:55:49
梅田駅
- 197二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:56:22
脱法梅酒(みりん×梅)
- 198二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:56:35
世ににほへ 梅花一枝の みそさざい
- 199二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:57:00
梅さけど 鶯なけど ひとり哉
- 200二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 20:57:03