- 1二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:51:19
- 2二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:51:48
ええぞ
- 3二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:52:47
ここは、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。
国民的スポーツエンターテイメント、「トゥインクル・シリーズ」で活躍するため、全国からウマ娘達が集う全寮制の中高一貫校。
在籍するウマ娘たちはどの娘も地方では怪物扱いされるようなエリート中のエリート。その「走る天才達」が汗と涙を流し、日夜トレーニングを積み、各々が掲げる勝利を目指しているのがこの学園だ。
今日もウマ娘達とそのトレーナーが、血の滲むようなトレーニングを行い鎬を削っていた。
「トレーナーさんのバカ!!」
乱暴に開けられたチームルームの扉、物凄い勢いで飛び出してきたウマ娘がいた。
美しい栗毛の長い髪と緑のメンコがトレードマークのチームのエース、サイレンススズカだ。
「まてスズカ!走るなって言っただろっ!」
慌てて追いかけてきた男は彼女の在籍するチームの代表トレーナーだ。
走る背中に声をかけたが、スズカの並外れた脚力は彼の声を置き去りにしてその姿を隠していた。
「いきなり何だったんだアイツは…」
普段は口数も少なく、大人しい彼女だったが、突然の癇癪にトレーナーは困惑していた。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:53:40
「な、何があったんですか…?」
すぐ隣から別の声が聞こえた。そこには突然の騒ぎに目を白黒させた3人のウマ娘が唖然として立っていた。
スズカの同室であるスペシャルウィーク、その後輩のダイワスカーレットと、ウオッカだった。3人ともこのチームのメンバーだ。
「スズカ先輩のあんな大声久々に聞いたぜ…何かあったのか?」
「バカねウオッカ。どうせまたトレーナーとの痴話喧嘩に決まってるじゃない」
「トレーナーさん、…いったい何があったんですか?」
男はうぅんと唸って何が何やらと言いながら、先程までのスズカとのやり取りを話した。
数十分前、スズカの走りに僅かに違和感を感じた彼はチームルームで彼女の左足を診ていた。
過去に大怪我をしたことのあるスズカを心配しての事だった。
過度のトレーニングによる軽い炎症を起こしていたのでアイシングを行ったあと、彼女にトレーニングを切り上げて安静にするように指示した。
「んで、心配だから明日の休みも自室で大人しくしてろって言ったら、でも少しぐらいなら、って珍しく食い下がるからちょっとキツめに外出禁止だって言ったらとたんに何故か急に怒り出して…」
「はぁ~~~~~~~~~…」
食いぎみにわざとらしく大きなタメ息を吐いたのはダイワスカーレットだ。
「…トレーナーさん…ヒドイです…。」
哀しそうな表情で訴えかけるのはスペシャルウィーク。この二人は今の話で何かを察したらしい。
キョトン顔で状況を飲み込めていないトレーナーとウオッカは顔を見合せた。 - 5二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:54:26
「いや、確かにちょっとキツめには言ったが、俺はあいつの事を心配して…」
「スペ先輩、この男引っ叩いても良いですか…?」
苛立ちを隠さない後輩の言葉に苦笑いしながらスペシャルウィークは目の据わったダイワスカーレットを諌めた。そしておずおずと言った感じで答えを明かした。
「トレーナーさん、明日はスズカさんと水族館…」
あっ、と声を洩らすと男はみるみるうちに青ざめていった。それを見たウオッカは、ヒトってこんな早く顔色を変えられるもんなんだなと場違いな感動を覚えていた。
「スペ先輩、本気で忘れてましたよこのクズトレーナー、恋人とのデートの予定忘れるなんて信じらんない。サイテー」
「いやだから俺とスズカはそんな関係じゃないって!それに水族館はチームで行く筈がお前らが都合が悪いって断るから二人だけで行くことになったんだろっ!」
「そんなの気を遣っただけに決まってるでしょこのオタンコニンジン!」
ダイワスカーレットの剣幕に口をパクパクとして何も言い返せないトレーナーを見ながら(エーッ!?トレーナーとスズカ先輩ってその、こ、こい、こいび…ゴニョゴニョ…だったのか!?)と顔を真っ赤にしながらウオッカは周回遅れな事に驚いていた。
「ええっと…トレーナーさん、とにかく私、スズカさんの様子を見てきますね」
柔らかく微笑んでスペシャルウィークが席を立つ。
口ごもりがちにトレーナーが彼女の居場所がわからないと言うと、彼女はクスクス笑って愉しそうに言った。
「スズカさんって、最終的にはトレーナーさんの言うことを聞いちゃうんですよ?」
ポカンとするトレーナーを尻目にスペシャルウィークはニコニコしながら部屋を出ていった。
何だか良くわからないがスズカの同室で親友である彼女に任せれば一安心だ。
そう思い彼は深い息をはき肩の力を抜いた。
「何勝手に終わった感出してるんですかトレーナーさん?」 - 6二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:56:01
何故か迫力のある笑顔のダスカにぎょっとするトレーナーとウオッカ。
彼女がこの顔をする時は下手に動かない方がいいのは二人とも身に染みていた。
「…で?どうするんです?」
「…ど、どうするも何も」
「ハアァ~~!?」
トレーナーは、主語の無い彼女の質問に、圧迫面接のような理不尽を感じながらも言葉を飲み込んだ。
しかしここでトレーナーとしての責務を曲げるわけには行かない。
「だが、歩き回って欲しくないのは事実なんだ!そこは変わらん!仕方無いだろう?ウオッカもそう思うよな?」
助けを乞おうとウオッカを見たが生憎彼女は既に現実逃避しており別の事を考えてトレーナーを見ないようにしていた。自分が今の話題に対してからきしという事を理解した選択だ。自分もスペ先輩と一緒に出ていけば良かったなぁ…とか晩飯何かなぁとか考えていた。
「大体トレーナーはデリカシーというものが足りないのよ!(バンッ)乙女の純情を弄んだ上にっ!(バンッ)それを踏みにじっておいてっ!(バンッ)なぁんの手土産も無く、ゴメンネテヘペロ☆で済ませるつもりなんですか!?トレーナーさんは!?(バンッバンッ)ごめんで済んだらうまぴょい警察は要らないんですよ!?そこんところわかってるんですかねっトレーナーさん!?(バンッバンッバンッ)」
言動に合わせてテーブルを叩くダスカを無表情で見ているウオッカは、刑事ドラマの取り調べがこんなだったなぁとか、なんでテヘペロのとこ可愛く言ったんだろうとか考えていた。
「しかし、だからと言ってどうすれば…」
完全に気圧され気味になり、自信無さげにそう洩らすトレーナーにやれやれと嘆息するダスカ。 - 7二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:57:11
「まぁ非モテのトレーナーに乙女心を理解しろっていうのは少々酷だったみたいね」「え?でもうちのトレーナーって、クラスのやつらからは結構…」ギロリとダスカのひと睨みでウオッカはスゥーっと無表情で定位置に戻った。
「そんな非モテトレーナーにアドバイスをあげるとしたら、やっぱりプレゼントが良いわね!今だったらメンコに付けるアクセサリーがおすすめよ!最近トレセン内で流行ってるおまじないで、【メンコにトレーナーから貰ったアクセを付けるとレースで勝てる】ってのがあるわ。丁度良いと思わない?ちなみにアクセも私にアドバイスして欲しいなら別報酬よ!そうねぇ天美屋のスペシャルイチゴサンデーってところかしら!」
バタンッ!
「話は聞かせてもらいましたわ!」
バタンッ!
「話は聞かせてもらったぜ!」
バタンッ!
「うへぇ~ロッカーの中狭かったよぉ~」
突然部屋に響くロッカーの扉が開け放たれる3つの音。
現れたのは3人のウマ娘だった。どうやらロッカーの中に隠れていた様だ。
「えぇ!?マックイーンさんに、ゴルシ先輩、それにテイオーまで!?ずっとそこに入ってたんですか!?」
「フッ…自然で簡潔な紹介ありがとよスカーレット…お前の事は何時も出来る女だとは思ってたが、自然な流れでマックちゃんを召還出来る話運びには舌を巻いたよ。流石のゴルシ様もそろそろロッカーの妖精になっちまうところだったぜ…」
ゴールドシップの意味不明な褒め言葉に対して、えへへそんなことないですよ…と照れるダスカを見て(何でこいつは自分(達)にだけアタリが強いんだろう?)と訝しんだトレーナーとウオッカ。 - 8二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:58:13
「あのなぁお前ら…ん?ちょっと待てお前たち手に持ってる空のカップは何だ?」
「些末事ですわ」
「これねーカイチョーがトレーナーにって、ガンバってる皆で分けてって高級焼きプリンを差し入れで持ってきてくれたんだー♪さっすがカイチョーだよねー!残りは冷蔵庫に入ってるよー♪」
元気よく答えたのはトウカイテイオー。
チーム随一の元気娘で少々生意気盛りが玉に瑕。彼女がカイチョーと呼んでいるのは、このトレセン学園のシンボリルドルフ生徒会長の事だろう。
実質的に理事長に次ぐ学園の実権を握る実力者だが、このチームはテイオーが在籍してることもあり、特に目をかけてくれていた。
「何でそういうモノを君達はナチュラルに俺をすっ飛ばして食べちゃうかなぁ!?」
「トレーナーさんとわたくし達は一心同体。トレーナーさんのモノはわたくしのモノですわ」
悪びれもせずマックイーンが言いはなった。…いや頬が赤い。
勢いで言っただけで自分でも無茶苦茶な事を言っているのが分かっている顔だった。
普段は折り目正しくお嬢様然とした彼女だが、どうしてこのメジロのお嬢様は
甘味の事となると見境が無くなるのだろうか?またカロリー計算のやり直しだ。
「まぁまぁそう固いこと言うなってトレーナー、(…後で美味しそうにプリンを食べる可愛いマックちゃんの写真送ってやっからよぉ)」
馴れ馴れしくトレーナーの肩に手を置くのはゴールドシップ。
チームの最古参でトレーナーとの付き合いも一番長いウマ娘だ。
高身長、モデル体型で整った顔立ちに長く美しい葦毛。
彼女の石像でも造ればさぞ素晴らしい女神像になるだろう。
石像は暴れないし喋らないからだ。
「オホン、それよりトレーナーさん?スズカさんへの贈り物選びでしたら、このメジロマックイーンがお役に立ちますわ。こう見えて女性向けのアクセサリーには一家言ございますの」
「トレーナー、マックちゃんの目当ては報酬のほうだが、見る目は確かだぜ」
「お黙りなさいゴールドシップ」 - 9二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 22:59:18
チームメンバー達の騒がしいやり取りに半ば呆れてトレーナーは大きくタメ息をついた。どうしても彼女たちは自分とサイレンススズカをくっ付けたいらしい。
究極のアスリートとも言える彼女たちウマ娘、身体が本格化を迎えたとは言えどまだまだ遊びたい盛りの女の子達だ。何でも色恋に結び付けて騒ぎ立てたい年頃なのだ。
少々キツ目に言い聞かせるのも大人としての自分の役目だろう。
「いい加減にしないかお前たち!」
トレーナーは声を張りメンバーの注目を集め、強い足取りで全員の顔が見える位置に移動した。
「何度も言うが俺はお前達のトレーナーだ!お前達のトレーニングをサポート、管理し、お前達が夢を追い続け、そして夢を叶えるのを手伝うのが俺の役割だ!確かに俺はお前たちを愛している!だがそれはスズカだけじゃない、お前達全員を、だ!愛していなければこんな仕事についちゃいない!しかしそこに不純な気持ちは一切無い!…お前達がこういった話に浮かれて騒ぎたい気持ちも解らない訳じゃない。でもお前たちはこの、エリート集うトレセンのウマ娘だ。それぞれ目指すモノがある筈だろう?そしてお前たち全員がそれを叶える可能性を秘めている。俺はその可能性を研鑽く時間を1秒たりとも無駄にしたくないんだ!…お前たちなら解ってくれるな?」
ひと息ついたトレーナーは真剣な面持ちで全員の目を順番に見ていった。 - 10二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 23:00:39
「…トレーナー…!」
うるんだ瞳で立ち上がったのはダイワスカーレットだ。
その表情を見てトレーナーは満足そうに頷いた。
「今そういうのいいんで」
え?と、間の抜けた声を出したトレーナーは、ふと全員の顔を見た。
額を押さえてやれやれと言った表情の者、呆れたように脱力する者、ニヤニヤと面白そうに眺めている者、一人だけ感動したように目を輝かせ拳を握りしめている者がいたが、今さっきスーッと無表情に戻った。
「そういうスピーチ(笑)は理事長とか記者の前でやっときゃ良いのよ。私達が今考えなきゃいけないのは、【トレーナーがスズカ先輩にどんなアクセサリーをプレゼントするか】なのよ!」
「そうだよねー、トレーナーとスズカがケンカしたまんまだと、ボクもトレーニングに身が入らないヨー」
「そうだぜさっきだって二人の組んず解れつイチャコラチュッチュが見れると思って折角隠れてたのによー」
「わ、わたくしはゴールドシップさんに唆されて仕方なく…」
「…く、くんず、ほぐ…!」
先程の自分の話なんてまるで無かったかのように好き勝手騒ぎ始めるメンバーには流石にトレーナーも辟易していた。
「だぁぁぁ!分かった分かった!俺が何か手土産持って行ってスズカに謝って来れば良いんだろ?」
頭をガシガシかきながらトレーナーは白旗を揚げた。
「何か、じゃなくて心のこもったプレゼントよ?そうじゃないとおまじないの意味が無いからね」
いくらか満足そうに笑いダスカが頷く。
「そうと決まればすぐ準備ね!さぁさぁトレーナーはさっさと出てって!私達着替えるから!お金下ろしてくるなりしてきなさいよ」
ダスカはトレーナーの背後に回るとグイグイ押し出そうとする。 - 11二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 23:01:22
「ちょ、お前らトレーニング途中だろうが!?」
「チームの一大事にチーム一丸で立ち向かうのは当然の事ですわ!スペシャルイチゴサンデーもお忘れなく!」
「駅前のモールだよね?ボクこの間マックイーンに似合いそうなワンピ見つけたからついでに見に行こうよ♪」
「ウオッカ何時までボーッとしてるのよ!ちょっとアンタ鼻血出てるわよ!?」
「…なぁスカーレット、イチャコラチュッチュって一体何なんだ…?」
「トレーナーよぉ…」
ゴールドシップが薄く笑いながらトレーナーに声をかける。
「…男は諦めが肝心だぜ?」
彼女は心底面白そうに言いはなった。 - 12二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 23:03:13
「それにしてもトレセンには面白いオマジナイ?があるんですのね?えぇっと、【トレーナーから貰ったアクセサリーをメンコに付けるとレースに勝てる】でしたっけ?スズカさんもメンコを着けてらっしゃるので丁度よい事をご存知でしたわね」
「あぁ、アレ半分嘘ですよ?」
「エェーッ!?嘘なのかよアレ!?」
「半分ね?正確には【好きなヒトから貰った物を身に着けてレースで勝つと恋が実る】ね。まぁありがちな昔っからある恋愛のおまじないですね。」
「ははーん、恋愛部分伏せただけじゃうちのトレーナーだと下手すっとチーム全員にプレゼント用意しかねねーからなぁー、金ねーくせに」
「あ、そっかメンコはうちじゃスズカしか着けてないもんね」
「やっぱオメーは出来る女だぜスカーレット~」
「えへへ、それほどでも~♪」
(…自分の事以外はなぁ…)
ゴールドシップは、窓から部屋の外に目をやり、険しい表情で財布の中身とにらめっこしている自分達のトレーナーを見て嘆息した。
(まったく、あんなのの何処が良いのかねぇ…?) - 13二次元好きの匿名さん21/10/23(土) 23:04:15
おしまい!
よく考えたらオレ、スズカさん持ってないわ!