- 1二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:12:19
「トゥインクル・トゥインクル☆ハッピーハロウィーン!」
「おう、今日はトレーニング休みにしてたから来ないと思ってたよ」
「ちょっと!いくら何でもノリ悪すぎない!?」
10月31日。言わずもがなハロウィンの今日、学園はお祭り騒ぎの様相を呈しているそうで入室してきたスイープもドクロやハートのフェイスペイントに彩られ、格好も普段の勝負服とはまた違った漆黒の長いワンピースのようなロングスカートを纏った出で立ちだった。見た感じ、彼女も楽しんでいるようで何よりである。
「コホン!ふふん、使い魔?アタシがここに来たってことは、目的はわかってるんでしょうね?」
「何だろうなあ…お昼寝か?」
「もうっ、わかっててはぐらかすとか使い魔も素直じゃないわね…トリック・オア・トリート!」
彼女からハロウィンの呪文を唱えられる。仮装なんてしていない俺に参加する権限が果たしてあるのか?なんて思わなくもなかったがイタズラ好きなスイープに何されるかわかったものじゃないのでちゃんと用意している。
「わぁ…!アタシの顔したクッキーじゃない!」
「参考画像は宣材写真でいくらでもあったし、秋華賞を勝った時の顔を基に作ってみたんだ」
「ふーん…ま、使い魔の割には頑張ったんじゃない?貰ってあげるから感謝するのね…?アンタ、目元のクマすっごいわよ?」
「そう?ここ最近はバタつくこともあったけど…」
一応心当たりはある。実は、ハロウィン前に喜んでもらえたらとトレーナーのツテを使ってエイシンフラッシュにクッキーの焼き方を指導してもらった。本当はじっくり教わりたかったが秋はお互いGⅠレースが控えている手前、自分にも相手にも時間に限りがある為断念した。だから今もハロウィンというのにトレーナー室で書類とにらめっこしているのだ…今日は3時間は寝たいなあ。
「…使い魔、トリック・オア・トリート」
「えっ?さっきあげただろ?もうないよ?」
…なんか嫌な予感がする。
「アタシは天才魔法少女・スイーピーよ?呪文は何度でも使用可能…で、使い魔。もう無いんだぁ…お菓子」
「…ナイデス」
「ふふっ、じゃあイタズラね!ほらほら、お仕事なんか中断!今はスイーピーに付き合いなさい?…返事っ!」
「は、はい!使い魔お仕事中断します!」
そうして、俺は小さな魔女のイタズラに付き合うことになった。 - 2二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:12:44
「そうは言っても何をするんだ?汚れ落ちない系とかだと困るからNGでお願いします」
「フン、イタズラって言ってもゲームするだけよ。ハロウィンにちなんだゲーム…んしょっと!」
そう言いながらスイープがリュックを持ってきた。パーティーグッズでも入ってるのだろうかと覗き込むとそこに居たのは────。
「リンゴ?これ何に使うんだ?お菓子作り?」
「使い魔ってば知らないの!?遅れてるわね〜…なら特別に教えてあげる。今からアンタにはアップルボビングをやってもらうわ!」
「アップル…ぼびんぐ?」
スイープが言うには、ハロウィンでは定番の遊びだそうで特に米国だとリンゴの収穫時期にバッティングする手前、昔から親しまれた古の遊戯…だそうだ。水に浮いたリンゴを手を使わずに歯だけで持ち上げるのが基本ルールとのことで顎が疲れそうだ。
「それにね?これって一種の占いみたいなのもあって、好きな人や結婚したい人を想いながらチャレンジして一発で咥えられたらその恋が成就するって素敵なお話もあるのよ?トーゼン、時間制限もあるけど楽しそうでしょ?」
「ほー、恋占いの側面もあるのか…」
なるほど、確かにそれは男女が一堂に会してやるなら盛り上がりそうだ。ティーン世代ならではのハロウィンの楽しみ方なのだろう。…でも困ったな、別に付き合いたいとか結婚したい人なんて居ない。そんな俺は果たして何の為にこのゲームをやるのか…考えたら負けか。
「じゃあやってみようかな」
「そうこなくっちゃ!じゃあ、やるわよ!」
というわけで、アップルボビングに挑戦したわけだが────。
「あ…くっ!?これ結構難しいな!?」
「アハハ!今の使い魔、すっごいマヌケよ!ああそうだ…言っとくけど時間内に間に合わなきゃオシオキよ!」
リンゴを咥えようにも、浮力が働くわ慣性の法則でその場に留まらないわでポジションを決めようにも水面を転がるように移動するリンゴにとにかく苦戦していた。…しかし、このまま言われっぱなしも癪だしオシオキも困る。何とか獲りたい──
「っ、ここだ!」
「あら!やるじゃない使い魔!」
普通にやっても取れないと達観したので頭───リンゴのヘタが上に向くのを待ち、見えた瞬間喰らいついた。時間内にノーミスで掬い上げることが出来たのでオシオキは回避したようだ!…でも、なにか忘れてる気が…? - 3二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:13:06
「で?使い魔、誰と結婚したいの?教えなさいよ」
思い出した、アップルボビングは一発で成功すると想い人と結婚できるっておまじないがあるんだった。しかし…俺には別に思いを馳せるような素敵な女性もウマ娘もいない。ニヤニヤしているスイープとは裏腹に、背中から凄く嫌な汗が流れる。素直にカミングアウトしたら間違いなく拗ねる…!
「ほらほら、はーやーく!何照れてんのよ、スイーピーの目はごまかせないわよ?」
「ええと、その…笑わないで聞いてくれるか?」
「うんうん、言ってごらんなさい?」
一応思いついたがもうこれくらいしか答えようがない。何とか納得してくれと祈りながら言葉を紡ぎ出す。
「正直言うと、俺にそういう人がいなかったんだ」
「ええっ!?キレイな有名人とか学園の人とかいるのに…?じゃあ、アンタは何の為にやったのよ」
「だからさ、代わりに君が素敵な男性と巡り会えますようにって願いながら咥えた」
「アタシの…?」
ああ、やっぱりよくわからないって顔でキョトンとしている…しかしもう軌道修正は効かないからこのまま突っ切るしか無い。
「君は間違いなく素敵な女性になると確信してるから余計なお節介かなと思ったんだけどさ、やっぱり将来的には君にもそういう人が出来るだろう?だから、ご利益の後入れかな」
「…何よ、それじゃあアンタは何の意味もないじゃない」
「それでいいんだよ。俺がそうしたいと願ったんだから」
「つまんない。今の使い魔、本当につまらないわ」
「つまらなかったとしても俺の思いは変わらないよ。君の将来は輝かしいものであってほしいという気持ちは、譲れないし曲げられない。…ダメかな?」
納得はしてなさそうだけどいい感じに躱すことが出来た気がする!とホッとしていると──────。 - 4二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:13:17
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- 5二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:14:09
「はむっ…んむっ、ぷはぁっ。はいこれ」
「えっ、スイープ…?」
突然、スイープが水面に向けて顔を突っ込んでりんごを咥えあげる。慣れているのか?ってくらいすんなり引き上げるので思わず困惑しているとスイープが続ける。
「なら、アタシの使い魔として永遠に仕えなさい?」
「え?ごめん、話が飲み込めない…」
「まったく、ニブちんねえ…いーい?アンタが誰かと結婚するって言うならその時はアタシも使い魔の子供を見習いにするくらいしか考えてなかったけどしないって言うなら話は別よ!つまり、スイーピーだけに一生尽くすってことでしょ?」
「…そうなのかな?」
確かに現時点では担当しているのはスイープだけだし、とてもじゃないが自分の仕事処理速度ではチームを組んで組織的に練習を行うなんて無理だ。でも…お遊びと言えどスイープだって恋に憧れる花の十代真盛りなのにせっかくのお願いをこんなことに使っても良いのだろうか?
「だから、このリンゴをアンタに託すわ。それは誓約の魔法のリンゴ。それを口にしたら、アンタは永遠にスイーピーの使い魔となる。断るなら、そのまま水槽に浮かせるといいわ。後戻りは…出来ないと思いなさい」
「…」
先程のおどけたような声色から一転し、向けられる真剣な眼差し。これは本心で答えるべきだと思い直し────。
サクッと、そのリンゴを口にした。
迷いはなかった…といえば少し嘘になるがこの仕事をしている以上、結婚どころか恋をする余裕もない。それに、巻き込まれた身ではあるけど彼女とレースの魔法を完成させ、その景色を共に見届けたいという思いが強かったからだ。その後のことは…まあ、その時考えたら良い。だから、これは覚悟の表し。
「へぇ?それがアンタの答えって訳?…使い魔、アンタの咥えたリンゴ、アタシに寄越しなさい」
「…?はい」
突然、何か思いついたスイープにリンゴを渡すと─────それを齧った。
「アタシも、使い魔の想いが詰まった誓約のリンゴを口にした。つまり…これはアンタを永遠に使い魔にする契約の証よ。アタシ達は永遠に二人で一つ、お互い欠けてはならない存在よ。覚えておきなさい?」
「…ああ、よろしく頼むよ」
恐らく、彼女の言う永遠はきまぐれに終りを迎えてしまうのだろうが…彼女から受けた誓に敬意を表し、より使い魔として彼女を支え続けようと改めて思うのだった。 - 6二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:18:03
ハロウィンには意地でも間に合わせようとしました。その結果です。
今回も改行が多いのですがどうか許し亭 - 7二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:22:59
- 8二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:29:20
イ゛イ゛ッ゛! スイーピー可愛い!!
これ絶対「永遠はきまぐれに終りを迎え」ることないやろ……。 - 9二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 10:35:21
朝からいい気分になれた
- 10二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 11:21:35
いいSSにスクショ挟むのは反則だと思いました
- 11二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 11:24:06
間に合ってよかった
- 12おまけというか後日談22/10/30(日) 11:58:32
「グランマー!」
「いらっしゃい、可愛いスイーピー…おや?何やら今日はいつもより機嫌がいいじゃないか」
休日。今日はスイーピーとトレーナーさんが来るということで家の前で待っているとスイーピーが一人でこちらに駆けてきているのが見えた。何やら、今日のスイーピーはいつにも増して嬉しそうな様子。なにか良い事でもあったのかね?
「あのねあのね!アタシもついに永従の使い魔を得たの!」
「ほお!これはこれは、スイーピーのお眼鏡に適う使い魔とは興味深いね!」
「フフン、これからもずーっと一緒なのよ?どう扱き使ってやろうかしら…エヘッ」
あまりにも幸せそうなスイーピーが眩しくて思わず目が細くなってしまうよ。…でも、そんなに浮かれ面されるとついつい、年甲斐もなくイジワルしたくなっちゃうもの。先輩魔女としてちょいとからかってみようか。
「良かったねえ…ああそうだ、いいかい?スイーピー。使い魔との永従契約は、外からの干渉がなければ成立するけど…実は、より強大な魔力を有する魔法使いによって契約を上書きされてしまうかもしれないんだよ…!」
「え…えぇっ!?じゃあ、スイーピー以上に強い魔法少女が居て、その子が使い魔の事を気に入ったら盗っちゃうかもって事!?」
「スイーピーが見初めた特別な使い魔だからねえ…当然、引く手数多だろうさ」
「…イヤ!絶対絶対、誰にもあげないんだから!アタシだけの使い魔よ、そんな奴、アタシがやっつけてやるわ!」
「アッハッハ!その意気だよスイーピー!あたしの孫さね、心配はしてないさ!」
あれあれ、そんなにも独占しようとをするなんて…そうかい。あたしもあの人がスイーピーのトレーナーで良かったと思ってはいたけど、ここまで気に入るとはね。良い人と巡り会えて嬉しく思うよ…おや?
「ごめんくださーい!」
「あっ、来た来た!もうっ、遅いわよ使い魔!川の岸辺で魔法の練習するんだから、早く来なさいよね!」
「ちょ、ちょっと休憩させ…行っちゃった」
「ふふ、まだまだ伸び盛りですからねえ。疲れたでしょう、少し休んでから向かわれては?」
「はは、では少しだけ…」
スイーピーが永従の隷属関係を結んだという使い魔…もとい、トレーナーさんが遅れてやって来たようだ。では、そんな永従の使い魔さんからも色々土産話を聞こうじゃないか。…もしかしたら、もしかするかもしれないから、ネ? - 13二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 11:59:04
というわけでおまけでした
お目汚し失礼しました - 14二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 12:05:43
許し亭氏の新作助かる
お年頃スイープ可愛い……
アップルボビングってそうやってやるのか
恋占いってことしか知らなかった - 15二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 12:29:41
久々のスイープSSだ!囲め!
個人的には誰かと結婚してもその子供を使い魔にしようとしてるあたり入り浸る気マンマンなのがすごく可愛い - 16二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 16:49:59
気ぶりグランマすき
SSもしゅき - 17二次元好きの匿名さん22/10/30(日) 19:30:12
この2人の何が良いって使い魔はスイープがただのわがままな少女じゃないこと、スイープは使い魔なりに自分の為に尽くしてくれてる事をお互い知ってる事だよね…