トレーナーさん、トリックオアトリート♪

  • 1◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:01:06

    「トレーナーさん、トリックオアトリート♪」

     担当ウマ娘であるメジロアルダンがトレーナー室に入るなり、開口一番に告げて来る。
     10月31日。ハロウィン。自分が子供の頃はあまり馴染みのなかったイベントだが、いつの間にか一大イベントかのように定着しつつある。
     体のいいお菓子をねだる理由を貰える事により、担当ウマ娘によっては悪戯の方がマシだと思える量を要求されると聞いたりするが……まあ、俺には関係ない話である。
     今アルダンが身に纏っている衣装は……魔女、だろうか? 制服の上からする簡易的な仮装だが、黒色のマントと大きな帽子から察するに恐らく当たっていると思われる。
     悪戯が好き……というよりかは茶目っ気のあるアルダンの事だ。今日という日に間違いなくハロウィンのお約束を言ってくる事は予想出来ていた。当然お菓子は用意してある。

    「驚かないんですね?」
    「まあ、なんとなく予想は付いていたからね。ちゃんとお菓子は用意してあるよ?」
    「そうですか……お菓子がなかった時の悪戯は予め考えておりましたので……残念です」

     そうは言っているが恐らく俺がお菓子を用意している事は、アルダン自身も察しがついていたのだろう。そこまで残念そうな顔はしていない。
     用意しておいたお菓子をカバンの中から取り出し手渡す。

    「はい、これがお菓子ね」
    「マロングラッセ、ですか? ……トレーナーさん、これって」
    「言ったでしょ? 予想は付いてた、って」

     ……なんだかんだ言いつつ、体のいい口実を貰えたのは俺自身も同じで。
     アルダンが悪戯をするつもりなら、こちらは代わりのお菓子で驚かしてやろうと、中々注文が出来ないと評判な店のものを取り寄せておいた。

    「ここでいただいてもよろしいでしょうか?」
    「その為に買っておいたんだけどね? 安心して、アルコールは使ってないものを選んだから」

     返答に顔を綻ばせながら、封を切って包みを解いてからひとつ口に運ぶ。
     口に入れた途端、アルダンの頬が緩み、目を細める。……その顔を見られただけでも用意した甲斐があった。

  • 2◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:01:23

    「美味しい?」
    「はい、とても……」
    「そうだ、折角だし紅茶を淹れようか。俺もそろそろ休憩するところだったし」
    「まあ! 是非!」

     お菓子だけ渡してすぐに帰ってもらうのはあまりにも寂しいだろう。自身の休憩も兼ねてティータイムと洒落込む。

    「その仮装は魔女かな? 今日の為に?」
    「いえ、聖蹄祭の時に出し物でコスプレをしていたクラスがありましたので。そちらの方々から貸していただきました」
    「ああ、なるほどね。よく似合ってるよ」
    「ふふふっ、ありがとうございます♪ 仮装をして回るのが習わしですので、それに従おうかと」

     古くからの慣習を大事にするのはアルダンらしい。恐らくそれとは別に、自身が着てみたかった好奇心も多少はあるのだろうが。

    「トレーナーさんもいかがですか?」

     俺の方に茶菓子がない事を気にしたのだろうか。
     先程あげたマロングラッセをこちらにも勧めてくる。

    「いいのかい?」
    「元よりトレーナーさんがくださったものですので。ひとりで味わうには、勿体ないと思いましたから」
    「……じゃあひとついただくよ」

     お言葉に甘えて、包みを解いて口に運ぶ。

    「……! なるほど。人気のある理由が分かったよ」
    「いつ頃からご用意されていたのですか? こちらの店のものは、中々注文が出来ないと評判だと聞きますが」
    「つい最近だけど時期が良かったんだろうね。在庫がある時にたまたま取り寄せることが出来たから」
    「それでは、トレーナーさんの幸運に感謝しなくてはいけませんね」

  • 3◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:01:54

     どうせなら良いものを、と思って取り寄せただけなので、なかったらなかったで別のものを用意はしただろうが。
     ご満悦な様子のアルダンを見るに、最善を尽くせたみたいでなによりだ。
     紅茶もいただいて一息ついて。
     仮装の帽子を被り直しつつ、トレーナー室を出ようとするアルダンに声を掛ける。

    「さてと。アルダン?」
    「はい、なんでしょう?」
    「トリックオアトリート」
    「あ、あの、トレーナーさん?」

     唐突な選択肢の提示に、アルダンが困惑した表情を浮かべる。
     それはそうだ。担当ウマ娘にお菓子をたかる奴なんて早々いない。
     大体ハロウィンは子供が大人にお菓子を貰って回るお祭りなのだから、俺から言うのはあまり適していない。

    「私、今はお菓子を持ち合わせていないのですが……」
    「うん、知ってる」

     だから当然、こちらはお菓子を貰いたくて言った訳ではない。悪戯の方が目的だ。

    「トレーナーさん、時々意地悪ですよね?」
    「まあ、君には普段やられっぱなしだからね。こういう時くらいはこちらからもね?」
    「あの……お手柔らかに、お願いしますね?」

     悪戯される事を受け入れたのか、少し緊張した表情を浮かべる。
     ……そういう仕草が嗜虐心を刺激するんだけどな。
     まるで『トリックオアトリート』と言った時点で、悪戯が成功したかのような気分になってしまう。

  • 4◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:02:09

    (これじゃあ小学生の男の子みたいだな……)

     まあ、ある意味では大差ないのかもしれないが。

    「じゃあ、目を閉じて?」
    「はい」

     瞳を閉じ白磁のような肌によく映える朱を頬に浮かべ、今か今かと悪戯される瞬間を待ちわびるアルダンを見ていると、背徳感が勝りそうになる。
     ……ああ、ダメだな。自分から仕掛けた手前、さっさと終わらせないと。大きな帽子を取り、髪の上から額へと唇を落とす。
     帽子を被せ直してあげて、少しだけ距離を取りつつ、悪戯が終わった事を教える。

    「はい、今のでおしまい。じゃあ最近夜は冷え込むから、読書もいいけど身体は冷やさないようにね?」

     しかし悪戯をされたアルダンはどこか納得がいかないのか。

    「……トレーナーさん。悪戯を2回もするのはダメですよね?」
    「……いや、1回だけだよ、俺がやったのは」
    「い~え。トレーナーさん、マロングラッセのお菓子言葉が何か。分かっててくださいましたよね?」
    「なんのことかな……」

     まあ、普通に考えたらそんな凝ったものをわざわざハロウィンの為に用意する訳がない。
     するとしてもホワイトデーのお返しや誕生日などに贈るのが妥当だろう。

  • 5◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:02:20

    「受け取った時から、驚きましたから……。特別な記念日ではないはずなのに、このようなものをいただけるなんて」
    「……何も特別な日に贈らなければいけないと、限られている訳ではないと思うけど?」
    「はい。ですが今日はハロウィンでしょう? 多少は、驚かせる意図があったのではないかと。違いますか?」
    「……さあ、どうだろうね」

     それに関しては、否定しづらい。多少は驚かせたかったのは確かだから。

    「う~ん……そうだな……それじゃあ、どうしたら許してくれる?」
    「ハロウィンですから。悪戯か、お菓子か。どちらか選んでいただければと」
    「なるほどね……。お察しの通り、お菓子はもう持ってないよ」

     ある意味では先程の意趣返しだ。お菓子をもう持ってない事を分かった上で二択を迫ってきている。
     お手上げだと示すためにも両手を軽く上げる。ポーズを見た後、ふわりと微笑んだかと思えば。

    「ふふっ♪ では私の方からも、悪戯させていただきます♪」

     そう言うなりアルダンがこちらに軽快な足取りで、被っていた帽子が落ちる勢いで飛び込んで来る。
     躱してしまえば転んでしまうくらいに、態勢を崩して。
     ……アルダンが飛び込んできた時点で、俺に取れる選択肢はひとつで。
     ガラス細工のように繊細な体躯を受け止め、瞳を閉じながら眼前に迫る端整な顔に倣い、こちらも瞳を瞑り、顔を寄せる。

    (これじゃあ悪戯にはなってないよ、アルダン)

     しかし、それでいいのかもしれない。もとよりこちらは、言葉通り一度しか悪戯はしていない。

  • 6◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:02:42

     




     悪戯なんかで、『永遠の愛』を君に贈る訳がないだろう?

  • 7◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:03:35

    画像をの貼り付け忘れでスレ立てをミスる上に最後のコピペもミスするという迫真のガバかましました……

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 01:04:50

    ありがとうございます

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 01:04:54

    なんでこんな時間に建てた!寝る前にいいもの見せてもらったよ!ありがとう!

  • 10◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:05:42

    >>9

    違うんですよ……

    31日になった途端投稿しようと思ったら画像貼り忘れて1時間スレ立て出来なくなるおバカをかましたんですよ……

  • 11二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 01:07:52

    ドーベルの人ってアルダンも書けたのか…と一瞬思ったけどそう言えば壁ドンのSSで書いてらっしゃいましたね

  • 12二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 01:08:52

    お菓子にも花言葉的なのがあるんだ…

  • 13◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:11:50

    >>11

    なんなら一番最初に書いた事があるのはアルダンですね

    思い出したくないくらいにへたぴっぴな文章でしたけども



    >>12

    アルトレハロウィンにこれ用意しちゃうの重くない?とも思ったんですけど『永遠の愛』の字面に勝てなかったのと、言うてアルトレ重いしまあいっかとなりそのまま採用と相成りました

    正直無難にマカロンとかにしておこうかと思いました

  • 14◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:19:53
    ……今のだけじゃ、悪戯かどうか分かんないから|あにまん掲示板『あのさ……トレーナー……』『何?』『もうここに通うこともなくなるから……だから……』『……うん』『だから……──~っ。……進学しても、アンタの部屋、遊びに行ってもいい?』『……え? まぁ、もちろん。…bbs.animanch.com

    あまりにも早い時期にドーベルでハロウィンネタやっちゃって当日何もあげないのはう~ん……という事でアルダンでのハロウィンネタでした。

    若干ドーベルと展開が被りがちなのは心残り。一日で書いたから仕方ないね……。

    書きたかった事は割とそのまんまマロングラッセのお菓子言葉の部分です。ちょうどいい感じに噛み合ってくれていたのは助かりましたね。

    アルトレ重くない?ともなりましたけどスカウトの経緯やその他育成イベント的にもこの人重いので別にいいや、となりました。

    普段ドーベルで書いている分、セリフ回しにはちょっとだけ苦労しましたね。ふたりとも一言が多いタイプなので。

    ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 15◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 01:21:25
  • 16二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 01:48:49

    これには産女神もにっこり。

  • 17二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 02:21:18

    相変わらずクオリティが高くて良い

  • 18二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 02:56:20

    だよねこの方最初の頃にもアルダン書いてたよね
    「カラフルなチラシが好き」の解釈に脱帽して以来ずっとファンです♥️

  • 19◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 12:22:46

    >>18

    そんな前からありがとうございます!

    という気持ちと共にどう考えてもあの頃は書きたいものに技量が全くついてきてなかった感があるので今ではもう見返せませんね……

    今も上手いという程ではないですけど

  • 20二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 18:50:30

    え?!この方あのアルダンのカラフルチラシの解釈書いてた人?!あれはマジで目から鱗だったわ…

  • 21二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 18:52:10

    マロングラッセの意味とかそういうネタってどっから仕入れるんですかね…

  • 22二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 19:04:55

    紀元前、マケドニアの英雄アレクサンドロス大王が最愛の妻ロクサネ妃のために作ったことから、ヨーロッパでは永遠の愛を誓う証として、男性が女性にマロングラッセを贈る習慣がある

    Wikipediaより

  • 23◆y6O8WzjYAE22/10/31(月) 22:36:42

    >>21

    誰もがホワイトデーのお返しにおけるお菓子の意味は一度は調べると思うんですけどその延長ですね

    ウマ娘でも実際にバレンタインブルボンでお返しの意味を使ったエピソードが入ってますし

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