「ハロウィンも盆みたいなもんだよ」と聞いたハーツが、

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 20:51:38

    プイとキンカメの墓の前から動かなくなってしまいました。

  • 2122/10/31(月) 20:52:33

    両手にはお菓子のかご。片方はぎっしりと菓子が詰め込まれ、もう片方は程よく詰まった菓子かごに色鮮やかな南国の花が添えられている。かわいらしいそれらを両手に持ちながら、ハーツクライは仁王立ちで墓石を見下ろしていた。

    もう1時間は経っただろうか。ハロウィンもだいたい盆みたいなもんだ、と聞いた時点で時計は夜を指していたのだ。すっかり日は沈み、冷える夜風が尾を揺らしてもまだ、ハーツは動かない。まるで、待ち人が墓石の下から現れるのだと信じて疑わないかのように、その瞬間を決して見逃さぬよう待ち続けているかのように。

  • 3122/10/31(月) 21:14:11

    ※以下SS風文章、続きます。

    「ほっといていいの?父ちゃん。さすがのじいちゃんでも風邪ひくぜ」
    「いいんだよザキッド。おじいちゃんはああなったら梃子でも動かないから」

    少し離れた屋内で、孫が難色を示す。つい数刻前までは、ハーツクライ一族でハロウィンパーティーに興じていたのに、家長の離席により夜もふける前にすっかりお開きムードだからだ。

    「大事なひとのお墓なのは知ってるけどさ、お盆はあんなことしてなかったじゃん」
    「それこそ、友達だから、じゃないの?」
    「リス姉ぇ」

    パーティーの片付けを続けるジャスタウェイに代わり、リスグラシューが応える。

    「真っ当に対等に友達だと思っているから、手を合わせるより、仮装したりお菓子交換したりして一緒に遊びたいのよ。2人とも人気者だもの、お盆は多すぎるくらいの人々に偲んでもらえるでしょうけど、ハロウィンに故人を偲ぼうって発想はきっと無いものね。
    『うっかり帰ってこれたのに、誰も待ってないんじゃあ淋しいだろう?』
    ってところよね、ジャスタ」
    「うん、父さんのことだから、そういう理由で幾らでも待ててしまうと思う。」

    肩を竦めるリスグラシューに、片付けを終えたジャスタウェイが応えた。

    「きっと今日も、日付を跨ぐまでは動かないだろうね。私たちに出来るのは、せいぜい暖かい部屋を用意して待つぐらいだ。ザキッドは眠かったら先に寝ていいからね」
    「んん〜、みんなでトランプとかして遊びたかったんだけどなぁ」
    「おじいちゃんからお菓子はもらえたんだよね?今年はそれで許してあげて」
    「私、ブランケットとレジャーマットぐらいは渡してくるわ。あんな仁王立ちで見下ろしてスタンバイされたんじゃあ、委縮して出てこれやしないわよ」
    「頼んだよ、リスグラシュー」

  • 4122/10/31(月) 21:33:45

    「ありがとう、リス。」
    「どういたしまして、パパ。できることなら、室内で待ってあげて欲しいんだけど」
    「はは、悪い。どうにも今日はそんな気分になれなくてな」
    「ほどほどにね。はい、これはジャスタから。あの子パパが帰るまで起きて待ってるわ」

    愛娘に手渡されたブランケットを羽織り、ようやく腰を下ろしたハーツはゆっくりと、墓石に話しかけるように目線を合わせる。

    「よくできた子だろう?みんな、自慢の愛娘さ。良いご縁にも恵まれたものだ。
    まぁ娘世代は知っているか、なにかと話題に残る対戦カードが多かったからな。」

    ジャスタウェイから、と手渡されたサーモボトルを傾け、湯気の昇るカフェラテに口をつけて、また続ける。

    「今年で隠居したよ、これでひとつ肩の荷が降りたってとこだな。肺をやって病気で引退したわりには長く続いた方だろう?
    今はもう元気な孫たちが方々で駆け抜けている。見てろ、じきにひ孫の代が来るんだ。あっという間だ!ハハハッ、あァ……
    なんで居ないんだよ」

    空元気の笑い声が虚しく寒空に霧散するのを冷えた耳が捉えると、途端に全身の力が抜けて、弱音をこぼしながらがくりと肩を落としてしまう。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:39:21

    競馬カテだから女でなくてもいいのか

  • 6122/10/31(月) 21:39:24

    「孫の話なんて一番楽しいやつじゃないか。あれだけ死線を駆け抜けてきたんだ、隠居後にそれくらいの褒美があったっていいと思わないか?
    孫たちが走る姿を見て、あの子は良い走りをするとか、うちの子がこうだったから孫のあの子はじきに覚醒するぞとか!」

    徐々に荒んでいく口調で、片方のかごに乱暴に手を伸ばし、少し萎れた南国の花の下からひとつ菓子を取り出し八つ当たりのように噛み砕く。
    焼けたクッキーの小麦色にすら墓石の下の友の顔を、今朝見たかのようにありありと思い出せてしまうから余計にたちが悪い。

    「多少は下世話な話もしようじゃないか、ディープ。真面目な君は少々嫌がるかもしれんが、君の繋いだ縁と残した血脈の数は誇っていい、親子で果たした偉業がもはや数えるのを諦められるくらいだ!2代で達成するのも簡単じゃないのに、次は”3代の栄華”とくるんだ、我々他の隠居からしたらたまったもんじゃないぞ。なぁ、カメハメハ!」

    問いかけども、応えはない。いっそ耳に痛いほどの静寂に苛まれそうになりながらも、心の叫びは止まらない。

  • 7122/10/31(月) 22:02:46

    「年に一度のパーティーだぞ?年甲斐もなく遊びたいんだよ、酒飲みながらガキみたいにはしゃいだっていいじゃないか。
    2人はどんな仮装をするんだ?言っとくがこの年になると用意しなきゃいけない菓子の量が段違いだ、なんたって孫世代まで居るからな。手がふさがるような仮装はご法度だぞ。
    菓子をくれと満面の笑みで両手を差し出す孫に片手で菓子を渡しながら、もう片方の手で頭を撫でてやるんだ。
    そう、こうやって」

    言葉をなぞるように、菓子のぎゅうぎゅうに詰まったかごを左手ですくい上げ、右手で墓石の頭を撫でる。
    息子の優しさからカフェラテに混ぜられたウイスキーで指先まで温かいせいで、墓石の冷たさをありありと感じてしまうから口惜しさがつのる。

    どうして生きている間に、今のように触れ合えなかったのか。指で捉えられるのは、くっきりと彫り込まれた英雄の名だけだ。
    意地を張らなければよかった、現役のプライドなんてレースが終わった瞬間に横に置いて知らぬふりをしてしまえばよかったのに。
    ”いつかお互い立場が変わって、角が取れて丸くなれば”なんてものは存在しないのだと、眼前の墓石が無常に告げている。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 22:28:10

    期待

  • 9122/10/31(月) 22:32:26

    「あぁ、そうだよ。分かっているさ。今更帰ってくるものか」

    訃報を聞いたときは、いっそ早々に後を追ってしまおうかと煙草に手を伸ばしたが、愛しい我が子たちに阻止されてしまった。口寂しいならこっちでも銜えてなさいとばかりにすり替えられたしゃぼん玉セットのあまりの幼稚さに、終ぞ介護もその域に達したかと天を仰いだが、お揃いだと孫たちがはしゃぐ姿を見ると悪い気はしないものだから現金な話だ。
    すっかり手放せなくなった吹き具とボトルを胸元から取り出す。

    「帰ってこられたとて私なんぞに逢いにきてくれやしないだろうと、自覚しているから自分から墓まで顔を出していやがる。未練も甚だしい。滑稽だろう?
    でもせめてもう一度逢えるなら、その理由がこんな私を嗤うためだって構わないんだ。
    なぁ、」

  • 10122/10/31(月) 22:39:24

    ゆっくりと球体を形作るしゃぼん玉は、されど早すぎる寒波と夜風の冷気で、表面を氷の結晶が泳いでいる。この調子では自重で長くは保つまい。
    我々の栄華のようだと自嘲しながらボトルに差し戻し、今度は綿毛を吹くように小さなしゃぼん玉を目一杯ふたりの上空に飛ばした。
    はじけた球体の残滓がきらきらと、2人の頭上に降り注ぐ。

    「逢いたかったよ、カメハメハ、ディープ。お前たちが菓子もイタズラもくれないから、こいつが私からのイタズラだ。
    文句なら来年にでも、面ァ見せて直接言ってくれ。じゃ、」

    手元の時計がハッピーハロウィンの終わりを告げるのを視界の端に捉え、立ち上がる。今はもう、何でもない普通の日だ。

    「また」

    そう言って踵を返し、墓前を去る。
    ふたつの墓石の間、ひとつだけ球体を保つしゃぼん玉が、一瞬だけ2人分の不服そうな顔を映した気がしたが、きっと拗らせた自分の願望が見せた幻だろう。
    わずかに白む息の下には、しかし数刻前よりは僅かに清々しくなった笑みが浮かんでいた。

  • 11122/10/31(月) 22:46:33

    っていうSSが急に降ってきたので慌てて描いた!

    普段ロム専なのでスレ立てもおウマのSSも地味に初だわ。なんかマズいとこあったら教えてくれ。
    ここまで読んでくれた各位に感謝ドウディーヴァ。

  • 12122/10/31(月) 23:02:08

    >>5 すまん拾えてなかった

    1は一応全員娘化した図で書いとったが、史実記憶あり前提のSSになっちまったから思った方で想像していただいて構わない

    文体上で全員一人称私にしちまった🔰ワイのミスや

  • 13二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:04:14

    献杯したくなるSSだった

  • 14122/10/31(月) 23:07:33

    余談。
    左手のかごはプイにあげる用、右手のかごはキンカメと交換する用。

    置いていったお菓子入りのかごは、そのまま置いておくとゴミなので翌日ジャスタがそれぞれにお供えの花を詰め替えて置きなおした。数日もしないうちに墓参りに来たルドンナあたりが気づいて全部察してハーツにお礼を言いに来るのはまた別の話。

  • 15二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:11:25

    >>12

    ありがとう…!切ないい…!ありがとうありがとう…!


    一人称ミスだったとは

    成人男性でザキッドのパパで一人称私のジャスタ最高って思ったので私の中ではそういうことにさせておいてください

  • 16二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:17:09

    >>14

    後日談も好きだ

    心揺さぶられる

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:08:24

    久しぶりにいいものを見た…

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 04:13:39

    SSも素晴らしいし絵も好き

    ハーツはじいちゃん&パパの記憶持ちウマ娘だからあのスタイル維持とヒールのある靴なのか
    イケイケおじいちゃん(若くして子が生まれたからまだ全然若い)が仮装のためにヒール履いてるにしてはウエストくびれてて女性的だと思ったんだ

  • 19二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 07:13:19

    これは良SS
    こういうの好きだわ

  • 20122/11/01(火) 18:47:10

    もうすぐ落ちるらしいから最後に一つだけ降ってきたワード置いとく

    プイ目線で、
    『もう前には誰も居ない、そう思った時に限って
     貴方が居てくれる幸せがある』

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