【CP注意】トリックオアトリートですマスター

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:29:48

    「え?………っとそうだった」

    朝。ノックの音に応じて部屋を開けてすぐの、愛らしい声の呼び掛けに一瞬呆けてしまったマスター。けれどその挨拶の意味を理解するのにそう時間はかからない。今日はハロウィン。そう口にするカルデアのマスターには少々トラウマも多い。それでも。

    「仮装、似合ってるねメドゥーサ。可愛いよ」
    「…当然です。これでも姉様達と同じ姿形の女神ですから。……とはいえ、ありがとうございます、マスター」

    目の前の可憐で小さな女神を見れば恐怖や不安もどこかへと消えていく。膝を曲げなければ目線は合わないが、悪いと思ったこともない。
    褒め言葉を受けて少し赤くなった今日の彼女──メドゥーサと呼ばれた幼い頃の女神はいつもの黒いフードや軽装の鎧とは異なり、同じ黒でも赤の配色が映える衣装に小さな翼と小さな付け牙という格好をしている。知識が偏ってなければ吸血鬼とすぐわかるだろう。

    「吸血鬼なのはどうして?」
    「個人的には仮装などしなくとも良かったのですが、ミス・クレーンから是非にと。…マスターも喜ぶと言っていたのですが別にそれが理由ではありません」
    「そっか。もしかして後で血吸われちゃったり?なんて…………メドゥーサ?」
     
    沈黙した彼女に思わず慌てる彼であるが、くすくすと笑ったのを見れば冗談かと内心残念だったり安堵したり。
    なお、他の衣装はメドゥーサの個人的趣向により選ばれなかったとの話も出る。マミーやゴーストは、彼女の容姿を隠してしまう以上求められなければ着ることはないのだろう。

    「さて話は逸れましたが、今年は記憶に支障がないようで安心しました。ではマスター、どちらにしますか?」
    「ちょっと待ってね、えーと確、か……」

    最初の挨拶、トリック・オア・トリート。お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ、というハロウィン内での子供達の挨拶。大人は悪戯されないために大量のお菓子を用意して子供達に配るという慣習。
    勿論、本来ならマスターもその手の用意はしっかりしてあるのだが、机を漁る様子がおかしい。それを暫くはじとっと見つめていたメドゥーサだったが、すぐに察する。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:31:36

    「…もしやマスター」
    「……ごめんなさい」
    「信じられません、あんまりですマスター。私の期待を返してください」
    「本当にごめんなさい!」

    問い詰めればあっさり白状。これから取りに行くつもりだった、という言い訳は残念ながらメドゥーサには通じない。甘味を好む彼女にとっては菓子は楽しみの大部分なのだから。

    「……仕方ありません、それではお覚悟を」
    「うっ」

    とはいえ、それで終わりといかないのがハロウィンの挨拶。菓子がなければ悪戯をされ、そしてそれに抵抗してはならない。それがルール。時折これを悪用しようとする者もいるがそれは割愛。
    マスターはメドゥーサからの悪戯を享受せねばならない。人、特に例の悪名高い海賊などはご褒美と取るかもしれないがそれはそれ。

    「では、そこに座り目を瞑っていただけますか。……見えない恐怖というのも良いでしょう?」

    反抗する理由も大義もないため、ベッドに腰掛けると黙って受け入れるように目を瞑るカルデアのマスター。普段なら甘い時間でも取れそうだが、今はそんな流れになるとも思えず。
    ──膝上に柔らかな重さを感じて、肩を掴まれる感覚を覚えてすぐ。ぐさり、と無防備な首筋に小さな痛みが走る。堪えてる最中に何かを吸われるような気がして、思わず目を少し開く。

    見えるのは、見慣れても美しい紫色の髪。痛みの走った首の辺りにメドゥーサの頭があるということを示す光景。
    吸血。仮装が吸血鬼なのだから不思議なことはないし、彼女の上の姉二人も同じスキルを保有している。ならばメドゥーサがそれを使えないということもないが、普段は引っ込み思案で内向的な彼女がそうしているという行為で、彼の脳裏に幸福感と少し背徳感が過る。
    だがメドゥーサは視線に鈍くはない。見られていると気付けば、マスターには見えていない目を少し名残惜しそうに細めると本来の牙と口を首筋から離し、儚い銀の橋がかかる。
    ぷつり、とそれを切って、メドゥーサは膝から降りればやや睨むように。

    「ん…む……ぷは、……マスター、私は目を瞑ってるようにお伝えしたはずですが」
    「ご、ごめん…でもメドゥーサ、どうして?」

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:32:05

    「……知らないのですか?ヴラドさんには禁句ですが、吸血鬼は人の血を吸って自らの眷属にするという話があります」

    やや不満げな顔だった彼女も、首筋を抑えるマスターに解説をしている時はやや得意気に。吸血鬼を知る者には有名だと、マスターが口を挟むことはなかった。その代わりに。

    「それってつまり……俺がメドゥーサの眷属に?」
    「はい。正解です。今日私がこの格好をしている間、貴方は私の言いなりです。マスター、女神の悪戯は怖いんですよ?」

    やや実感のこもった台詞には彼も言い返せない。楽しい時間とはいえ彼女や成長したメドゥーサが悪戯の名目でよく振り回されているのも見かけるのだ。油断した自分が悪いと腹を括る。悪い気はしない、というのが大半だが。

    「それではマスター、早速ですが私に献上するお菓子の用意を。私は寛容なので付いていってあげます」
    「あはは、助かるなぁ。……あ、俺も仮装してこようかな?」
    「マスターには王子の衣装があると聞きましたが」
    「アレ結構恥ずかしいんだ……」
    「……わかりました」

    前日に作っておいた菓子を持ってくるついで、折角の機会なのだからと口にして。メドゥーサからの進言には困った表情のマスター。彼女からすれば少々残念だが、大きな問題はない。

    「では追加命令です。日中はハロウィンロイヤリティで過ごすように」
    「メドゥーサ様!!?」

    命令を出してしまえば、眷属の彼に断ることは出来ない。大きな声をあげてしまった彼も、笑みを溢す彼女を見れば許してしまうのだから女神とは恐ろしい。

    日中。ハロウィンロイヤリティに着替えさせられたマスターと、その傍に見える吸血鬼のメドゥーサは周囲の面子が頻繁に変わる中でも変わらなかったと少し噂になる。
    度々、所謂マスターガチ勢と水面下の争いをメドゥーサが繰り広げていたのを彼が知るよしはないのだが。
     

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:32:58

    「……ふぅ」
    「楽しかったね、メドゥーサ」

    夜。ハロウィンパーティーも全盛を過ぎ、主に酒好きのサーヴァント達の影響で未だに賑やかなそこを後にして、メドゥーサとマスターは省電の影響でやや暗いマイルームへと戻ってきていた。扉のロックは忘れずに。
    既にハロウィンロイヤリティから開放され、代わりにとマスターが昇天しかけていたミス・クレーンから賜ったのは吸血鬼……ではなく狼男をイメージした付け耳や付け尾にシンプルな衣服。メドゥーサの不思議そうな視線は鶴の彼女によく突き刺さったという。
    これはこれでいい、とお墨付きをメドゥーサ含めた大勢から頂いたことで彼女も事なきを得たようだが。

    「…はい。少々騒がしかったですが、悪くない気分です。…お菓子も沢山取れました。マスターも食べますか?」
    「良いの?メドゥーサがもらったのに」
    「……頑張った眷属へのご褒美は当然かと」
    「そういうことなら、ありがたくいただくよメドゥーサ」
    「流石に令呪を使いかけたのはどうかと思いますが」
    「それは言わないで!」

    カルデアキッチンの面々が腕によりをかけて作り上げた菓子の数々。子供にスーツの男も混じるほどのそれらはどうにか確保できていた。危機を覚えたマスターが令呪を使いかけて総ツッコミを受けるという珍事もあってだが。

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:33:23

    ベッドの上にマスターが腰掛け、その膝上に自然とメドゥーサが身体を乗せ、彼の胸板と腹を支えに小さな身体を寄りかける。
    そして付け牙を外したメドゥーサが丁寧に菓子の包装を剥がせばまずは自分の口へ運ぶ。甘い味わいに顔が綻ぶ様子が手に取るようにわかるマスターは、直接見れないことを少し残念に思った。
    二つ目の包装を剥がし、綺麗な指先で中身を摘まめば今度はそれをマスターに向けて差し出すように。

    「どうぞマスター」
    「ん、あー…ん」

    見上げてくる彼女を見ながら、差し出された菓子を口に含む。カルデアキッチン謹製のそれは言うまでもなく甘くて美味しい。飽きが来ないせいで食べ過ぎに気を付けろ、といわれるほどに。

    「うん、美味しいね」
    「はい。とても美味しいです。やはりあの方々の腕前は信用できます」
    「それもあるけど、やっぱりメドゥーサと一緒に食べるのも理由かなって。今のは食べさせてもらったしね」
    「ふぇ?……あの、マスター。私がいつでもそんな言葉で喜ぶと思わない方がよろしいかと……、って何を笑っているのですか」
    「へ?あ、いや、……メドゥーサが可愛いなって思って」
    「貴方はまた……」

    気の抜けた可愛らしい声の反応から落ち着きを取り戻し、そう抗議する彼女ではあるが裏を返せば今までは喜んでいたということに彼女が気付く様子はない。マスターは気付いてしまい、微笑んでいるが。
    メドゥーサに小突かれるのも彼には楽しい時間。眷属になったからではなく、この辺りはずっと前からで。それは彼女も同じだが、口にすることは決してない。口にすれば、利用されそうだから。

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:33:49

    「今日はこのくらいにしておこうか」
    「はい。また明日いただきましょう」

    菓子の多くを今日一日で消費するのは難しい。程々にしておき、暫しの静謐。マスターがメドゥーサを支えるような姿勢のまま時間はゆっくり過ぎていく。
    ──その沈黙が、メドゥーサにとっては少し寂しく思った時。

    「トリックオアトリート」
    「ふぇ?…………あ、あの、マスター?」
    「ハロウィン、まだ終わってないよ」
    「あ……わ、わかりました、それではお菓子をっ」

    見上げた際に見えたマスターの意地悪な笑顔にやられた、と思うと同時にメドゥーサは安堵した。さっき保管したばかりのお菓子がある。これを差し出せば……という考えは。

    「…ま、マスター、離していただけませんか?」
    「ダメ」
    「あぅ」

    自分の身体を抱いて離さないマスターの手により封じられる。ならば手持ちの、と言いたくてもそれらは既に食したあと。つまり詰み。
    お菓子が差し出せないなら、悪戯をされる。それは立場を変えても、双方が許すならば適用されてしまう。拒絶すればいい、という考えはメドゥーサの頭には何故か出てこなかった。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:34:06

    「あ、あの…お手柔らかに」
    「メドゥーサ可愛いから…難しいかも」
    「ひぅ……?!」

    姿勢を変えず、少し調整して行われる首筋への甘咬み。零れる声に拒絶はなく、甘さが含まれる。恐怖の代わりに幸福感、背徳感を覚える彼女は赤面したまま待たされ、歯が離れると連られて見上げ。

    「じゃあ、今日は寝ようか」
    「………………」

    次に来た台詞に涙目のまま呆け。

    「マスター」
    「はい」
    「殺しますよ」
    「ごめんなさい」

    ……その抗議がどのような夜にさせたのか知るのは、メドゥーサと彼女のマスターのみである。

  • 8122/10/31(月) 21:37:39
  • 9二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 22:19:59

    ああ~……好き…

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:19:44

    愛がすごい(小並感)

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 00:55:50

    台詞だけのも好きだがこういうのも好きだな
    気許し合ってるのが見えて良い

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 03:11:50

    周りとちゃんと関わり合えてるのいいね

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 06:51:45

    新規供給助かる

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 14:48:18

    追加命令で笑った

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 18:24:14

    糖度高めですごい良かった…

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 02:04:54

    旦那に同意せざるを得ないくらい甘くて助かる

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 13:19:22

    実は菓子ないタイミング狙ってきたんじゃないかと勘繰らせる

オススメ

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