【SS】アドマイヤベガとハロウィン

  • 1二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:38:24

    10月31日。今日のトレセン学園はいつもよりも少しだけ浮ついた雰囲気だ。

    「はぁ…。」

    思わずため息が出てしまう。

    ハロウィン。仲のいい友人でお菓子をプレゼントしあったり、トレーナーにいたずらをしたり、仮装をして遊んだりする、興味のない私からすると騒々しいイベント。

    そんな私もつい先程まで知人にお菓子をねだられ、お菓子がないとわかるといたずらをされそうになり、「トレーニングがあるから。」とようやく解放されたところだ。

    「どうしてこんなイベントが流行っているのかしら…。」

    昨年の暮れ以降、様々なイベントに参加するようになってきたが、こういった騒々しいイベントへの苦手意識は当分抜けそうにない。

    大きなレースも控えているのだし気を引き締めないと、などと考えながらトレーナー室の扉をあける。

  • 2二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:38:42

    「ハッピーハロウィーン!アヤベ!」

    思わずぽかんと口をあけてしまう。そんな私を置いてあの人は続ける。

    「トリックオアトリート!」

    「……あなたもなの?」

    「えっ…。」

    満面の笑みだったトレーナーさんの表情が少しずつ困惑に変わっていく。

    「ここに来るまでにオペラオーたちにも言われたわ。残念ながらお菓子は持っていないの。」

    当然だ。そもそも今日がハロウィンだなんて、カレンさんの話や学園の様子を実際に見るまでは意識すらしていなかったのだから。

    「えっと…。」

    どうやら私があまり興味がないことに思うことがあるらしい。

    「アヤベはこういうイベントは苦手?」

    「そうね、できればもう少し静かに楽しめるイベントのほうがいいわ。」

    少し寂しそうな顔をしたかと思うと、あの人はすぐに切り替えて

    「ならこれ、ぜひアヤベにと思って。」

    と、小さな紙袋を手渡される。

  • 3二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:38:57

    「これは?」

    「かぼちゃのプリンだよ。本当はアヤベに言われたら渡そうと思ってたんだけど…。

    ガサガサと袋を開いて中を見てみると、たしかにプリンのようだ。どうやら市販のものではないらしい。

    「あなたが作ったの?」

    「そうなんだ。ちゃんと味見もしたし、見た目は少し悪いかもしれないけど美味しくできたと思う。」

    私から見ると多少飾り気はないもののお店に並んでいても違和感がないように思える。

    「ありがとう。後でいただくわ。」

    トレーナーさんの表情が少し明るくなる。

    「よかった。初めて作ったから上手くできてるか不安だったんだ。」

    初めてという部分に少しひっかかる。

    「きれいにできているから、日頃から作っているものだと思ったけれど。」

    「自炊はよくしてるんだけどね。お菓子づくりはなかなか…。」

    でも、と続く

    「せっかくのハロウィンをどうやったらアヤベに楽しんでもらえるかいろいろ考えてね、お菓子をプレゼントするのが一番ハロウィンらしいかなって思ったんだ。」

    少し笑いながらあの人が言う。長い付き合いになるが、毎度よくそこまで…と思う。

  • 4二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:39:28

    「どうしてそこまで…?」

    「え?」

    きょとんとした顔で聞き返される。思っていたことが口から出てしまっていたらしい。

    「あなたの時間だって有限でしょう。なれないことをするにはそれなりに時間もかかるし、ハロウィンだというだけでどうしてそこまでするのかしら。」

    こういったイベントが好きな人たちがいることは理解しているが、トレーナーさんがハロウィンにそこまで興味があるとは思えなかった。

    などと考えていると

    「ああ、さっきも言ったけどアヤベにハロウィンを楽しんでもらいたかったから。」

    それに、とトレーナーさんは続ける。

    「別にハロウィンに限った話じゃなくてね、クリスマスでもバレンタインでも、色んなイベントを楽しんで、アヤベが本当に好きなものを見つけられるように手伝いたいなって。」

    「……本当によくわからない人。」

    心の底からそう思う。他人のためにここまでできる人間はそんなに多くないだろう。

    私としてもトレーナーさんの好意を無下にしたいわけではないし、何かできれば…と思ったのだが

  • 5二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:39:47

    「気持ちはすごくありがたいのだけれど、私は…ハロウィンをどうやって楽しめばいいかわからないの。」

    「うーん…。」

    こんなことになるならオペラオーたちの話をもう少し聞いておけばよかった、などと考えていると

    「とりあえず、お決まりのやつをやってみる?」

    というと

    「コホン、トリックオアトリート!アヤベ!」

    急に笑顔になったトレーナーさんに少し面食らってしまう。どうやら私が乗り気になったことが嬉しいらしい。

    「唐突ね…。ただ、さっきも言ったけど私はお菓子を持っていないから、いたずら…になるのかしら。」

    そうだね。と言いながらトレーナーさんがガサガサと机の引き出しを物色し始める。一体何を…と思っていると

    「はいこれ。今日はトレーナー室でこれを着けてもらおうかな。」

    手渡されたものは私でもすぐにわかる。黒の生地にオレンジのリボン、先端が少し尖った大きな帽子。

    「魔女…ね。」

    簡単なものとはいえ仮装の用意もしていたとは。ハロウィンを楽しみたいと言っていたのは本当なのだろう。

    「これでいいかしら。」

    そういって帽子をかぶりトレーナーさんの方を向く。自分から言い出したこととはいえ少し恥ずかしい。

  • 6二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:40:02

    「はぁ…。オペラオーたちに見られたらなんて言われるか…。」

    「みんないっしょに楽しんでくれるんじゃないか?」

    「そうね、楽しんではくれるでしょうね。」

    おそらくその後しばらくはハロウィンの話をされることになるだろうが。そんなことを考えながら、ふと思ったことを口に出す。

    「そういえば、これは私がやってもいいのかしら。」

    「え?」

    急に聞いたものだからなんのことだかわかっていないらしい。

    「私があなたにお菓子を要求してもいいのかしら。」

    「ああ、もちろん!ただ、お菓子はもう…。」

    そうか、先程のプリンはそういうことか。かといって一度渡されたプリンを返してというのは風情に欠けるだろう。

    「…仕方ないわね。トリックオアトリート、トレーナーさん。お菓子を持っていないならいたずらよね。」

    「あ、ああ…。」

    しまったな…とこぼすのが聞こえる。それと同時に、思いつきでこんなことを口にしてしまったことを少し後悔する。

    いたずらだなんて本当に小さい頃以来で全く思いつかない。必死で今日学園内で見た光景を思い出す。

    「そう…ね。後ろを向いてもらえるかしら。」
    こうか?とトレーナーさんが振り返っている間に、必死で思い出した光景を自分で再現する。

  • 7二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:40:14

    「ア、アヤベ!?」

    トレーナーさんが急に驚いた声をあげる。

    「?今日他のウマ娘がこうしているのを見たのだけれど…。」

    「い、いや…これは…。友達同士とかならやる…かもしれないけど…。」

    友達同士ではなく担当トレーナーとしているのを見たのだから問題ないはずなのだが。

    残念ながら今日見かけたトレーナーはしっかりとお菓子を持ち歩き、ウマ娘に配って歩くような人ばっかりで、該当するトレーナーは1人しか覚えていなかった。

    「ち、ちなみに誰を参考にしたんだ?」

    「ウララさんよ、学園のロビーでトレーナーさんにお菓子をねだっているのを見かけたの。」

    そう。そしてトレーナーがお菓子を配り終わったと聞いて、少し残念そうな彼女はトレーナーに抱きついて文句を…

    「ッ!」

    自分がしていることへの理解が追いつく。なぜトレーナーさんが驚いたのかも。

    「その、ごめんなさい。慣れていないことをするものじゃない…わね。」

    自分の顔が熱くなっていくのを感じる。急いでトレーナーから離れたのに、まだ熱い。

    「いや、こっちもお菓子を用意できなくてごめん…。」

    トレーナーさんもおかしなことを言い始めた。向こうをむいたままなのがありがたい。

  • 8二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:40:25

    「その…、トレーニングの準備をしてくるわ。」

    「あ、ああ。俺もちょっと資料を整理しておくよ。」

    そういって逃げるようにトレーナー室から出ようとした時

    「その、アヤベ?」

    呼び止められた。

    「なにかしら。」

    振り向かずに答える。

    「その、ハロウィンだけど、少しは楽しめたかな。」

    その言葉で少し冷静になり、顔の熱がゆっくりと冷めていくのを感じる。

    この人はこんな時でも私のことを考えてくれているのだ。その気持ちにはしっかりと応えたいと思う。

    「ええ、楽しかったわ。また来年もやりましょう。」

    そういってトレーナー室を後にする。

    きっとこれから私は、このよくわからない人やよくわからない友人たちと色々な体験をするだろう。

    そして、いつかあの子に会った時に伝えるのだ。好きなものがたくさんできたと。

  • 9二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:42:21

    初めてこういったものを書いたから色々と読みづらかったり一人称・二人称がブレてるかもしれない。
    アヤベさんのハロウィンボイスを聞いて、来年は楽しそうにハロウィンしてるアヤベさんがみたいなあと思って書き殴りました。

  • 10二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 21:43:02

    アヤベさんSSええぞ

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:46:48

    耳デカ

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:57:11

    これが初めて…!?
    素晴らしいじゃあないか

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 13:51:02

    このレスは削除されています

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 13:54:26

    解像度たかぁ…
    良きかな良きかな

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 20:59:01

    あげたろ

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 21:16:23

    ヒャッハァー! 良質な新しいSS書きだぁーッ!
    ありがとうございますありがとうございます……アヤベさん、これから好きなものを増やしていくんだろうなあ、と思わせる余韻も含めて最高でした……。

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 01:58:28

    育成後のアヤベさん良き

オススメ

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