- 1二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:12:16
- 2二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:12:58
「はあぁ~……」
タクシー乗り場に並ぶ間から、理事長代理が溜息を漏らす。仕事が終わったとは言え、疲労感を隠しもしないとは珍しい事だ。それでも気持ちを抑えていたのだろう、乗車してすぐに話を切り出して来た。
「駿川さん、この後予定ありますか?」
「特に用事はありませんが……一応、学園を覗いて帰ろうと思います。今日が期限の案件を確認してから、夕食を考えようかと」
「確か、受け取りは明日の朝で良かったですよね。食事は私に付き合って貰えませんか?ご馳走しますので」
お願い口調の向こう、疲労感の奥にすがるような感情が垣間見えた。
「では、お言葉に甘えて。お互い一旦着替えて落ち合いましょう」 - 3二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:13:37
予約してくれたのは、幾度か飲み会で利用した店の個室。ふだん立ち歩きが多い仕事のせいか、畳の感触が心地よい。
「まず“今日のオススメ”を二つと、瓶ビールを。……で良かったですか、たづなさん?」
「はい、理子さん。他は後からお願いします」
仕事の関係でもあり、プライベートでは友人でもある。二人の時は名前で呼び合っている。
すぐに運ばれたビールを理子さんが二人分、もどかしげに注ぎ……と思うと、グラスを合わせるなり一息に半分ほど空ける。
「ふぅ~……」
そして長い溜息。早々に注文を決めてしまった事といい、いつもとは明らかに様子が違う。
「まあ、今日は見事な飲みっぷりですね♪」
「すみません、見苦しい所を……。たづなさん、私、学園に移って本当に良かったと思ってるんです。トレーナーとしてもそうですが、人的環境も。こうして貴女とも親しくなれたし、それに……」
言葉を濁したが、おそらく“彼”の事だろう。
「理子さん、私が外した間に何かありましたか?」 - 4二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:14:14
理子さんは眉をひそめ、残り半分も空けた。タンッ、と硬い音を響かせて不満をもらす。
「何が……『いい人いないの?』ですか、忌々しい。毎度、余計なお世話です! もう顔を見ずにすむかと思ったのに、こうして度々出向かないといけないなんて……」
「理子さんには、お相手がいますのに、ね」
「たづなさんには躱されるとわかっていて、いない時を狙うんだからもう……! よほど彼の事を言ってやろうかと思いましたが、公表は慎重にって二人で……第一、最初に伝えるのが“あれ”なんて我慢なりません!」
「役目上、顔を出さざるを得ないとはいえ……今日び、コンプラ意識の欠如は困った物ですね。
理子さんたちは業務のスケジュールや担当への影響も配慮して、明かさないといけないですし」
「でも……そこを言い訳にしてるかも、とも思うんです」
理子さんは話をいったん区切り、追加注文をしてから本音を吐露し始める。 - 5二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:14:59
「私、まだ不安なんです。彼が本当に私と居てくれるのか。……何かのきっかけ一つで終わってしまったらと思うと、怖くて、いつ明かせるやら」
「それは誰しもありがちな事だと思います。はた目にはお互い好き合って、すごくお似合いですよ」
「ありがとうございます。彼も私を想ってくれている、とは感じますが……」
クイッとグラスを空ける理子さん。……はて、いつの間に二杯目を?
「ちょっと言いにくいんですが……彼と過ごす時は、その……すごく、愛情を示して……くれるんです」
「あら?……あら~」
なるほど、これはお酒の力を借りないと話しづらいですね。
「こんな事を言うと彼は困るでしょうが……私が年上だから、いろいろ気を使っているハズなんです。
いつも、大事に触れてくれるんですが……彼は若いからきっと、もっと……。彼の思うようにしてもらいたい、でも私が受け入れられるかどうか。
悩んでいるうちに彼の気持ちが離れたらどうしよう、なんてとりとめの無い事をいつも考えてしまうんです……」
もちろん理子さんは本気で悩んでいるに違いない。が、“灯台下暗し”とは正にこのこと。 - 6二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:15:47
「ふふっ、すみません。大勢の担当を指導されても、自分のことは中々見えにくいものですね」
「面目ないです……」
「理子さん、自分で答えを言ってるのに気づいてないですね?彼は理子さんを好きだからそうしてるんです。それが“彼の思うようにしていること”、なんですよ」
理子さんは意表を突かれた、という顔だ。
「あっ……?」
「私、二人がうらやましいですよ。こんなにお互い大事にできる相手って、そう居るものじゃないですから。私もそんな男性を見つけたいですね」
「失礼ですが、たづなさんは今……?」
「ご心配なく。好意を寄せてくれる方はいますよ。理子さんにとっての彼、のようになってくれると嬉しいです」
雲の晴れ間が拡がるように、それまでの沈んだ表情が明るくなってゆく。どうやら悩みの解決に一役買えたらしい。
「なんだかスッキリしました、たづなさん。湿っぽい話はここまでにして、食べましょう!」
「はい。じゃあ追加いいですか?」 - 7二次元好きの匿名さん22/10/31(月) 23:16:44
理子さんをタクシーに載せて見送り、帰途につく。つい楽しくなったが、二人とも明日にひびく酒量ではない。はず。たぶん。
自室の冷えた空気を吸い込み、そこに“誰か”の体温を想像した。不意に理子さんと彼の姿が浮かび……お酒とは別のほてりを覚える。やはり少し飲み過ぎたかな?
今日のお風呂は長めにしよう。
おまけ
『出張お疲れ様でした』
『そちらもお疲れ様です。
今日は夕食も樫本代理と
ご一緒しました。いつかの
□□□です』
『俺と◯◯もですよ!
会ってたかもですね』
『すごい偶然ですね~』
『直帰なんて珍しいと思ったけど、
楽しく過ごせたんですね』
『なぜ直帰と知ってるんですか?
明日、少しお話しましょうね』
『お手柔らかに……』
終了 今回は友人視点からでした。 - 8二次元好きの匿名さん22/11/01(火) 01:41:59
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