- 1二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:37:57
- 2二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:38:33
「いやーだってさ、タマちゃん足ながいじゃない」 「どこがや。確かに歩幅は大きいかもしれへんけど」
「モデルさんみたいにすらりと伸びる手足……」 「はぁ」
「銀色の長い髪をなびかせて走る姿……」 「まぁそれはあるかもな」
「赤色が特徴の勝負服……」 「確かに赤色は入っとるけどどっちか言うたら青やないか?」
「大きいお胸……」 「ん?」
「様々な奇行……」 「ちょいちょいちょい、ゴルシのことやろそれ? なんかおかしいと思ったわ」
「もー遅いよタマちゃーん、ツッコみ待ちだったんだよ?」
「いやいやウチが悪いんちゃうでコレ」
トレーナーがボケをかましてタマモクロスがツッコむ、なんてことは無いこれが二人の日常風景だった。
備品を買い終えてウインドウショッピングを楽しむ二人。
そんな中、ある店の商品がタマモクロスの目に留まった。
(ボールペン……そういえばトレーナー、一本無くしたって言っとったな)
「すまんトレーナー、先行っててくれるか? ちょっと野暮用があってな」
「……うん、じゃあこの先で待ってるね。でもあんまり遅くならないようにするんだよ?」
「アンタはウチのオカンかいな。まあそない時間かからんと思うわ」 - 3二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:39:01
「ふー、少し遅くなってしもた。店のおっちゃん、過剰にラッピングしよってからに」
プレゼントは寮の自室に郵送してもらうこととなった。
気合の入った派手なラッピング、鞄もないのに隠してなどおけないからだ。
「そろそろ追いつけるはずやけど」
小走りで道を進んでいくと遠くにトレーナーの姿を発見した。
「えーっとそういうのはお断りしてるというかー……」
トレーナーは複数の男たちに詰め寄られ、対応に困っている様子だ。
その中の一人の男に心当たりがあった。
以前同室であるオグリキャップのトレーナーにしつこく取材をしていたという記者。聞いていた特徴と目の前の男の風貌が合致する。
考えるより先に体が動いた。
「おいおまえらなにしとんねや!!」
「! 駄目よタマちゃん!」
タマモクロスは自分のけんかっ早さをひどく後悔した。
今にも掴みかかろうと、殴りかかろうとしている瞬間を写真に撮られてしまったのだ。
未遂とはいえ、このような写真が出回れば確実に評判は落ち学園にも迷惑がかかるだろう。
記者は下種な笑いを浮かべながらにじり寄る。
この写真をばらまかれたくなかったら、『取材』を受けろ。
そんな取引にもなっていない脅しは、タマモクロスの思考をショートさせるには十分だった。 - 4二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:39:45
諦めたのか、それとも覚悟を決めたのかトレーナーが口を開く。
「わかりました、取材お受けします。ただし私一人で」
「それと、あちらの誰からも見えないところでお願いします」
「……あの子に恥ずかしいところを見られたくないので」
冷静に受け答えるトレーナーとは反対に何も考えられなくなっていたタマモクロスを小さい声で諭す。
「大丈夫よ、タマちゃん」
「あっちで少しお話してくるだけ」
「私、こう見えても強いんだから」
「だから安心して待ってて、ね?」
言葉とは裏腹に一瞬悲しそうな目をする。
そんなトレーナーの言葉が強がりにみえたタマモクロスは手を── - 5二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:40:39
──伸ばすことが出来なかった。
恐怖。
確かに力では勝てるかもしれないが、人質のようにあちら側にいるトレーナーのことを考えるとそれは出来なかった。
募る不安と後悔。
まるで自分を責めていると思えるほど冷たく突き刺す雨は容赦なく体温を奪う。
「……あぁあああ……」
あのとき強引にでも手を引いていれば。
体が、心がもっと強ければ。
「ごめん、ごめんなトレーナー……」
ひどく慟哭して大粒の涙を流し嗚咽を漏らした。
膝に力が入らず、そのままうずくまる彼女のことを気にする人間は誰もいない。
先程から降り続く雨が自然と人払いをしたからだ。 - 6二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:41:23
足音がした。
ヒール独特のコツコツ音、音が大きくなってどんどん近づいてくる。
「……タマちゃん!?」
聞きなれた声。
脳内で疑問がぐるぐる回りだした。
──
あれ
どうして
でも
だって
トレーナーは
── - 7二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:42:06
ウマ娘は皆美しく生まれてくる。それはもちろんタマモクロスも例外ではない。
しかし、そのときばかりはしわくちゃでひどく醜い顔をしていた。
「トレーナー……トレーナーぁぁぁぁ!」
「おおよしよし、落ち着いて落ち着いて」
まるで小さい子をあやすようにトレーナーは彼女の頭をなでる。
「うえぇ……っ、んっ」
「……大丈夫、私はここにいるよ」
「ここだと冷えるからさ、あっち行こう、ねっ?」
「うん……」 - 8二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:43:07
「……」
「トレーナー、裏路地に連れ、ていかれて……」
目をこすりつつ少しうつむき加減で話すタマモクロス。
目の前にトレーナーがいることが信じられないといった様子だ。
「あぁ、えーっと……」
二人が雨宿りしている店のシャッターのように口を閉ざすトレーナーだったが、ようやく意を決したという風に口を開いた。
「私ね、こう見えても十代の頃武道をさせられてたの。実家が道場でね、お父さん曰く才能あったみたい」
「でも飽き性が災いしてやめちゃった」
食べる量は変わらなかったので、今の少しぷよぷよな体形になったとも。
そして湧く疑問。
「じゃあなんであんな悲しそうな目をしとったんや、強いんやろ?」
あからさまに言いたくないといった表情をし、ひとつ溜息をついたと思えばムスッとした表情をして、
「……男をねじ伏せる女子なんて可愛くないし」
「タマちゃんの前でだけは可愛くいたかったの!」 - 9二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:43:48
半ばにらみつけながら質問を続けた。
「……えらく時間かかっとったのは?」
「警察とか理事長に電話したり……記者さんたちをちょっと『説得』して」
「……なにより最近ちょーっと運動不足でさ、勘を取り戻すのに時間かかっちゃった、てへ☆」
「てへ、やあらへんわ! こちとら散々心配して……」
そこまで言ったあたりで彼女は口をつぐむ。
先程まで醜態をさらしていた自分を思い出したのだ。
顔を赤くして口をパクパクさせている彼女に対してトレーナーは、
「……タマちゃんかわいい~! 抱きしめたくなるよ~!」
その動き、言うより早く、ウマ娘の中でもトップクラスの身体能力を持つタマモクロスの反応よりも速く。
次の瞬間にはトレーナーの胸の中にいた。
「ちょっ、トレっ」
多少の抵抗はしたものの疲れもあり、そのまま体を預けた。
少しだらしなく、しかし安心できるその柔らかさに恥ずかしさや不安は霧散していった。 - 10二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:45:15
雨に打たれて泣きさけんで。
からだもこころもすっかり疲れてしまった彼女は、今トレーナーの背中で寝息をたてている。
普段レースで見せるすさまじい気迫も、頼りがいのある大きな背中も、今はどれも感じられない。
そこにいるのは『白い稲妻』ではなく、高等部にしては背の小さい等身大のかわいい女の子だった。
「……タマちゃん、心配かけてごめんね」
「プレゼント楽しみにしてるよ」
雨雲は荷を全て降ろしさり、徐々に夕日の色に染まっていく。
雲間にあふれる日差しに目を細めつつ、足取り軽く帰路に就いた二人だった。 - 11二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:46:00
以上です。
少し長くなってしまいましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。 - 12二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:47:05
いい…ただただいい…
- 13二次元好きの匿名さん22/11/02(水) 23:52:56
やっぱマスゴ、ミって糞だわ
可能なら「説得」の最中も是非書いてほしい - 14二次元好きの匿名さん22/11/03(木) 00:03:24
- 15二次元好きの匿名さん22/11/03(木) 00:18:10
タマ♀トレとタマ漫才やりつつ絆深めていってるんだよね…とても良い…
そしてつよつよなのもいい… - 16二次元好きの匿名さん22/11/03(木) 11:25:55
これはいいものを見た…年相応なタマも良いもんやな…
- 17二次元好きの匿名さん22/11/03(木) 11:37:11
このスレを開いて
「尊い…」そう一言呟いて俺は──
─俺は──爆発した── - 18二次元好きの匿名さん22/11/03(木) 21:07:48
これは爆発するのもやむなし てえてえ…