【SS】くろがね色したカレイドスコープ

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/06(日) 21:37:34

    自スレの最後で思いついたネタをSS化してみる。

    ・時系列は二年前くらい。
    ・書き溜めはしていないです。
    ・キッドをかっこよく書く挑戦。
    ・キッドに恋する女の子がいます。
    ・恋愛ものではありません。
    ・女の子は死にます。
    ・キッドは曇りません。
    ・104巻SBSネタ有り。

  • 2122/11/06(日) 21:49:22

    ――その島に立ち寄ったキッドは、げんなりしていた。

    「ね、ね! 素敵な赤い髪ね! 剥き出しのお腹もなんてセクシーなの……! そのお口、口紅を付けてるの? どこのブランド? あ、お口を開いた時のギザギザの歯も素敵! 海に出てるのに真っ白い肌ね! 鋭い目にうっとりしちゃうわ……」
    「なぁキラー。こいつ吹っ飛ばしてくれねェか」
    「キッド。大人げないぞ」

    補給のために立ち寄った島だった。航海中、脆くなった部分もあるために造船所もあるこの島に船を停めたヴィクトリア・パンク号はおよそ一週間この港に停泊することになっていたの、だが。
    何を間違ったか、我らがキャプテン・キッドはこの島に住んで居る身なりの良い少女に一目惚れをされたらしい。
    なんともいい趣味だ、と笑うクルーにキッドは不機嫌になる一方だった。
    世の中の苦労を知らなそうな裕福な少女。それだけだったら、面倒だとそのまま振り払うくらいの冷酷さをキッドは持ち合わせている。
    だがしかし、見た目が問題だった。

    淡い栗色のショートカット。日に焼けた肌。気の強そうな顔。そして愛嬌のあるそばかす。
    ――かつて喪った親友の面影のある少女だ。
    そんな少女が敵意を見せてくるならまだしも、好意を見せてくる。これが海賊であるキッドも冷酷になれない原因だった。
    良くも悪くも、ユースタス・キッドは身内への情に厚い男だ。
    それ故、かつて身の内にいれた親友の面影をその少女から感じ取ってしまい、乱暴に振り払うことが出来なかったのだ。

  • 3122/11/06(日) 21:58:48

    「低く掠れた声も素敵だわ……。あなたの声で囁かれたならみんな恋に落ちてしまうでしょうね。ね! ね! キッド! デートしましょうよ。私いいところ知ってるの。とっても綺麗な夕日が見えるのよ。そこで二人で語り合いましょう……?」
    「ぶっ、夕日で語り合うお頭……!」
    「おい誰か笑っただろ。出て来い」
    「キッド、大人げないぞ」
    「キラー! お前も同じことしか言えねえのか! ていうか面白がっているだろ!」

    うっとりとした目で見つめてくる。親友の面影のある少女。まったくもってやりづらい。
    見れば手足も細く、触れただけでボキッといってしまいそうだ。いや、行くだろう。さっきから冷たい言葉を吐いているにも関わらず、少女は凝りないのだ。

    「おれはこの島に造船所の他に、鉱山があるって聞いたから見に来たんだよ。お前に付きあってる暇はねェ」
    「あ、それ私のお父様が所有しているやつね。私がいれば顔パスで入れるわ」
    「よりにもよってオイ」

    なんとも同行を断りづらい文句が来たものだ。身なりのいい少女は、それはもう裕福な生まれらしい。
    それだけで忌避感のようなものが浮かぶが、それでも少女の言っていることが確かなら利用価値はあるだろう。
    ……だが、キッドはずっと調子が出ないままだった。
    大切にしている船が、残っている仲間たちの手によって造船所まで運ばれていく様を見ながら、はあ、とため息を吐く。

  • 4122/11/06(日) 22:04:34

    この島に到着して、踏み入った直後だった。
    たまたま外を歩いていたのだろう、少女が興味深そうにこちらを見ていて、それからキッドを見た瞬間背後にぴしゃーん!と雷を背負った。
    そして目をハートマークにして近づいてきたのだから、とんでもないトラップである。
    それ以降ずっとキッドに対してアプローチを仕掛けてくるのだからなんとも度胸がある。これでも彼らは海賊だ。現に港町の人々は恐ろしそうな目でキッドたちを見ているというのに。

    「ね、キッド。鉱山の周りは厳重な警備が敷かれてるわ。わざわざ暴れるよりも、友好的に入ることが出来たら一番じゃない? 安心して、必要なものがあればなんでも恋人特権で融通するわ♡」
    「この思い込みが激しいガキを海に突き落としていいか」
    「キッド、大人げないぞ」
    「再三同じこと言うんじゃねェ! お前を突き落とすぞ!!」

    キラーにからかわれていることに腹を立てながら大声を出すキッドの腕に、ぺとりと少女がうっとりした顔でくっつく。
    マジこいつ……と怒れるキッドにこの隙にとばかり抱き着く様はいっそあっぱれというべきか。

    なんにせよ、自信満々な少女の案内で鉱山に向かうことになったのは、少女の粘り勝ちというたまものだった。

  • 5122/11/06(日) 22:11:35

    ――少女の言う通り、顔パスだった。
    警備の者はキッドがいることに驚き慄いていたが、少女が『私の将来のお婿さんだから丁重に扱う事!』と言ったら二度見してきたので、ここで暴れてやろうかと思った。無論すぐに訂正したが。
    少女は10を超えるか超えないかというくらいの年齢だ。これでは周りからとんだロリコン扱いだろう。

    「口調は似ていないが、意思の強さはどっこいどっこいだな」
    「……うるせェよ、キラー。別に全部似てねえ」
    「そうか」

    懐かし気に語るキラーに、キッドは顔を背けながら言葉を返す。
    クルーたちには自由行動を許してある。この一週間、海上での生活で溜まったものを吐き出してもらうつもりだ。
    だから今、この鉱山に来ているのはキッドと、キラーと、少女だけだった。

    「にしても、来る途中でっかい工場のようなものがあったけど、何を作ってるんだ?」

    キラーが少女に問いかける。
    少女はぺらぺらと喋っていた口を一旦閉じてから、にこやかにキラーに告げる。

    「パパは、世の中のためになるものを作ってるんだよ!」
    「世の中のためになる、だぁ?」

  • 6122/11/06(日) 22:31:13

    なんとも言い回しが怪しいものだ。キッドが少女を睨むが、少女はニコニコと笑うだけ。凶悪だと評判の眼孔を一身に受けて逆にうっとりしだすのだから、逆にこのガキ大丈夫か……?と思ってしまうほどである。
    キラーはずっとこの状況に対して面白そうにしているままだ。キッドは肘で自身の相棒を小突く。コンプレックスも相まって笑い声を出すつもりはなさそうだが、肩が震えているのを幾度も目撃しているのだ。

    「んで、何を作ってるんだよ」

    ため息交じりに再度問いかける。少女はええと、と目線を彷徨わせてから、申し訳なさそうに眉を下げた。

    「……内緒」
    「はあ?」
    「パパ……、あ、いけないいけない。お父様からは内緒って言われてるの。だから教えちゃ駄目なのよ!」
    「………」

    内緒のものを工場で作り上げる、とは。なんとも怪しい話である。
    さらに追及してもよかったが、不安そうにこちらを見上げる少女にそんな気も無くす。
    ……気の強い女だった親友に似ている少女が、どことなく申し訳なさそうにしているのは、あまり見ていたくもない。こちらは目的を勧めるだけだ。

    「……採掘はしてねェのか?」
    「してないわ!」
    「キッド、どうだ。目的の物は」
    「ああ、期待以上だな。ここの鉄は“極上”だ」

    そう言いながら不敵にキッドは笑う。
    キッドは悪魔の実の能力者である。その名もジキジキの実――磁力を操る能力者だ。
    磁力を操り、金属を自身の好きなように操作することが出来る彼は、この鉱山を見ながら軽く能力を震わせる。
    そうすれば地面に転がっている石くれが、キッドの手に凄まじい勢いで収まる。

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/06(日) 22:36:28

    期待

  • 8122/11/06(日) 22:37:56

    「わ! 動いた!」

    少女が目を丸くしながらキッドの手元を見つめる。そんな少女を無視して、黒みがかかった石を手の中で弄ぶ。

    「反応がいい。船に影響がないくらいの量を積みこむぞ」
    「ああ。……この鉱山にその石の含有率は」
    「掘り出しているようだが、それでもこの山全体に埋まってる。ここで全力を出したら崩落するな」
    「しないでくれよ」
    「ね! ね! キッド今のなに!? 魔法!? あ、わかった悪魔の実ね! キッドって悪魔の実の能力者なの! かっこいい!!」
    「あー、うぜェうぜェ」

    きらきらした目で見上げてくる少女が抱き着いて来ようとしてくるが、額を押さえてそれを防ぐ。そのまま前に歩き出したので、キッドの手に対抗して進もうとしていた少女は急に手を離されたことで鉱山内で転ぶ。

    「い、いたァい~~~~~~!! キッド~~~~~!! 痛いわ~~~~~~~~!!」
    「うるっっっっせェなこのガキ!!!!」
    「キッド、大人げないぞ」
    「キラーお前もお約束みたいに言うんじゃねェ!!!!」

    少女がびいびい泣き出したため、キッドが苛立った顔で叫ぶ。ぐすぐすと目元を擦りながら、擦りむいた膝のままとてとてとキッドにそれでも近づいてくる。

    「ひどいわキッド……女の子は優しくしなきゃダメなのよ……」
    「おれは弱い女は嫌いだ」
    「えっじゃあ強い女になったら結婚してくれるの!?」
    「飛躍しすぎだろ頭おかしいのか」

  • 9122/11/06(日) 22:51:26

    思わず素でツッコむが少女はへこたれない。シャドーボクシングを行いながら『アマゾネスになるわ……!』ととんでもないことを言っている。キッドの顔はさらにげんなりした。キラーの肩は震えた。

    鉱山の採掘場を進んでいくが、中には誰もいない。
    それを少女に問えば『今日はお休みの日なの』……らしい。

    「もし黒鉄鉱石が欲しかったらいくらでも持って行っていいわ! ここには山ほどあるだろうし、船に乗るくらいまでの量だったら大した損失ではないもの」
    「なかなかに太っ腹じゃねェか」
    「わからないの? 好きな人に貢いでいるのよ」
    「………」
    「よかったな、キッド」
    「おれはどういう反応をしたらいいんだコレ」

    自慢げに胸を張る少女に、頭が痛そうに額を押さえる。
    とりあえず、少女の発言は無視するとして採掘場の辺りを探る。
    既に大量に掘り出されている鉱石の山を見て、軽い磁力を放てばすぐさま引き寄せられる。その速度を見て、頷く。先ほどの小石もそうだが、どれも品質は一律として同じだ。つまりどれも極上というわけだ。

    「おい、どれだけ持って行ってもいいんだよな」
    「ええ! あ、袋ならここに沢山あるわ! 袋百枚分でも二百枚分でも積んでって!」
    「流石に転覆するぞ、キッド」
    「持ち運べねェわ」

  • 10122/11/06(日) 23:01:45

    とにもかくにも、少女のおかげでスムーズに目的の物を調達できたのも確かである。
    調達を拒否されたら暴れるのもやむなし――むしろ、どんとこい、と言った風だったが、一日目で、それでいてなんのトラブルもなく目的を果たすのに越したことはない。
    恋人気取りでキッドの腕にしがみつく少女にげんなりした顔をしつつも、とりあえず好きなようにさせつつ、袋を背負って船に戻る。
    警備の者に何か言われそうになったが、その時も少女が前に出たので何事も起こることはなく。造船所の方に立ち寄って倉庫にしまう。他のクルーも呼んで採掘場には再び向かうことは決めつつ、とりあえず、と腹ごしらえをするために酒場に寄った。

    そしてそこにも少女はくっついてきた。どこまでも引っ付く所存である。

    「キッド! ここは私が奢るわ!」
    「流石にそれはいい。おい酒」
    「貢ぐわ! 貢ぐのよ! キッド~~~~~~~!」
    「味をしめたようだな」
    「大迷惑だわ」

    好きな人に貢ぐ快感に目覚めたのか、少女が御馳走する、というのを無視してテーブルにつく。少女も高い椅子によじ登って座って、キッドの方へと身体を寄せる。

    「ねェキッド……♡ 私酔ったみたい……♡」
    「おいそれなんのふざけた真似だ」
    「えっ……この前見かけた人は女の人にこれされたイチコロだったらしいんだけど……」
    「酒どころか何も飲まずに何言ってやがる」
    「私お酒飲めないもの。あっ、ミルクちょうだい!」
    「ガキが………」

  • 11122/11/06(日) 23:39:58

    キッドの隣でミルクをごくごくと飲む少女は、到底キッドの好みに入ることは無い。
    そもそも、親友に似ている少女を手元に置く、なんてことだって想像するだけで寒気がする。代わりにするつもりは毛頭ないし、自分の嫌う行為の一つだ。
    だがしかし、かといって手荒に扱うのも難しい。
    キッドはままならないと思いながら、怯えた顔の店員に置かれた酒の瓶を一気に飲んだ。

    「キッド、お酒を飲むときの喉の動きもかっこいい……♡」
    「なかなかニッチな性癖も網羅しているな」
    「飲みにくくなったわクソ」

    ……結局、少女はその夕方頃になるまでキッドの傍から離れなかった。
    陽が沈んできてようやく『お父様に叱られちゃうわ!』などと言い、名残惜しそうに離れる。
    せいせいした、と思いつつも、明日も来るだろうな、という恐らく正解であろう事実に顔が引きつる。
    ――結局最後まで、キラーはキッドのこの災難に面白がるだけだった。お前船長が困ってるんだから助けろよ副船長だろ。

    けれども予想に反して、次の日に少女は来ることはなかった。
    再び来たのは二日後のことである。

  • 12122/11/07(月) 00:53:05

    一日平和だったと思った矢先に少女が襲来してキッドは嫌そうな顔を隠さない。
    「キッド~~~~~~♡♡♡」と甘ったるい声で叫びながら走ってくる少女は、途中転んで顔面を地面に強打してから、何事もないかのようにやってきた。
    にこにこしながら額を赤くしている、なんとも間抜けな姿だ。綺麗なワンピースも砂まみれである。

    「キッド、キッド! 昨日は行けなくてごめんなさい! ね! 私がいなくて寂しかった? 寂しかったでしょう? ごめんね寂しがらせて!」
    「問いかけてたはずなのになんでおれが寂しがっていたって断定してんだよ思い込み怖ェな」
    「今日はキッドにお土産を持ってきたの!」
    「さては聞いてねェな?」

    港ではキラーが悠々と魚釣りをしている。とんだマイペース野郎だ、と思いつつ、少女に付きあっていると、腰につけたポシェットから何かを取り出す。
    それは少女の腕ほどの大きさの筒だった。筒自体は薄い鉄板で出来ているように思えるが、円の部分にガラスが取り付けてある。なんだこれ、首を傾げると、少女はにこりとしながら口を開く。

    「万華鏡よ!」
    「んだそれ」
    「知らないの? ね! ね! その筒の……そう、そこ。そこに穴が開いてるでしょ。それを覗きながら明るい方を見てみて!」
    「はあ?」

    使い方を聞いたが、意味が分からない。望遠鏡のようなものかと思ったが、それだと明るい方を覗くのはおかしい。
    だがしかし、興味が勝ったのか警戒しながらもそっと片目を瞑り、その穴を覗く。

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 00:55:09

    スレ主さま、もしかしてあのスレの方でしょうか……?
    何にせよすごく面白いです、楽しく読ませていただきます

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 00:56:06

    1から読んでます、面白い
    キッド主役のお話が読んでみたかった

  • 15122/11/07(月) 01:02:00

    >>13

    テンション昂ったから書いてみました。


    >>14

    スレ主も読んでみたかった……。

  • 16122/11/07(月) 01:10:44

    「ほう」

    覗いたキッドは感嘆の声を漏らした。
    少女が持ってきたそれは、所詮子供だましの玩具かと思いきや、なかなか。

    ――覗いた先には、まるで光の展覧会と言うような輝きが見える。光にかざすと中に入った透き通った色のビーズだか石だかそういったものがころころと動き、表情を変える。
    恐らく、鏡だろうか。キッドは考察する。中に三角に貼られた鏡が、物を反射して合わせ鏡の性質によりどこまでも視界全てにそれが広がっているように見える。
    動かせば動かすほど一度として同じ模様にならない。広がる幻想的な世界はなかなかに美しい。

    「いいじゃねェか」
    「!!!! それ! それ私が作ったのよ! キッド今良いって言ったよね!? すごいでしょ!!!」
    「うるせェうるせェ。こういったことに関してお世辞は言わねェよ」
    「きゃ~~~~~~~~♡♡♡♡♡」
    「騒がねェと気が済まないのか??」

    口に手を当ててくるくる回る少女に呆れた顔をする。
    手の中にあるそれを見るが、やはりお宝に比べるとなんともちゃちい代物だ。だがしかし、それでもキッドがそれを覗いて見えた光景を美しいと思ったことは確かだし、子どもにしては丁寧に作り上げたそれを雑に扱うような真似はしなかった。

  • 17122/11/07(月) 01:24:27

    少女はテンションが上がったままくるくると回る。それを呆れた調子で見ていたキッドは、その少女が――ふ、と糸が切れたように倒れるのをその目で見た。

    「……おい」

    ぱたり、と人形のように崩れ落ちた少女に片眉を上げて近付く。
    軽くしゃがみ込みながら、少女の顔を見た。
    ――唐突に死んだわけではなさそうだが、どうにも顔が白い。
    体調不良だったのか?とどうしたもんかと頭を掻いていたらふと後ろから声が書けられる。

    「いたいけな少女を悪党が襲っていたかのようだな」
    「おいキラー。お前おれをからかわないといけない使命でも背負ってんのか?」
    「いいや。ともかく、倒れたのか? うちのクルーに見せてやるか」
    「お前なあ……」

    助ける義理はない、が。
    倒れた少女を見ていると、居心地が悪い。それはやはり面影を感じてしまうから、だろう。

    「まあ、借りもあるしな」

    この少女が鉱山を案内し、この少女が自分の技術を込めた品を渡してくれたのは確かなのだ。
    その分は答えてやってもいいのかもしれない。

  • 18122/11/07(月) 01:58:03

    と思ったら、キラーがその小さな体躯を抱き上げた瞬間に少女は目を覚ました。
    ぱちくり、と大きな目を瞬かせ、キラーを見てから、キッドを見る。

    「……キッドにお姫様抱っこされたかったわ……」
    「だそうだぞ、キッド」
    「だそうだぞ、じゃねェよ」

    おいお前、恩知らずなやつだな、と額を小突くと、自分に何が起こったのかわかったのだろう。慌ててキラーに降ろすように頼む。

    「キラー! さっきな失礼なこと言ってごめんなさい! 親切をありがとう! でも降ろしていいわ、平気だから!」
    「どういたしまして。本当に大丈夫か?」
    「ええ! 私美少女だから倒れもするわ」
    「だから、の繋がりが見えねえ」

    もしかして病弱だったりすんのかよ、と訝し気に見つめるキッドに、いやん♡と言いながら頬に手を当てて照れる少女。そう言う意図ではない。

    「でも次倒れたらキッドがお姫様抱っこしてね♡」
    「倒れるな。ていうか来るな寝てろ」
    「心配してくれてるの……!?」
    「キッド、何を言っても好感度が上がるぞ」
    「クソ面倒だなこのガキ……」

  • 19122/11/07(月) 02:17:57

    キッドがどんな怒りの反応を見せても何一つへこたれた様子を見せない。
    恋する乙女は最強だ、と言わんばかりに目をきらきらさせている。
    それがどうにも、かつて喪った親友とは似ても似つかなく、けれども好意しかないその全てを、さしものキッドも無下にするのは戸惑われた。
    親友に似ているからではなく、あまりの好意に圧倒されて無下に出来ない。
    ――それはいっそ快挙であった。

    「だいたいなあ、なんでお前はおれが好きなんだよ」
    「なんで?」
    「理由ってのがあるだろ理由」

    ……いやおれは何を聞いてるんだ、とキッドは自分自身に呆れかえる。
    一目惚れのようにあった瞬間から絡みついて来たわけだが、このどんな理由あってこのガキが自分を夢中に思うのか、興味があるようなないような。
    けれども少女は腰に手を当てて、怒った顔をする。

    「“恋はいつでもハリケーン”よ!」
    「はあ?」
    「東の海のことわざだわ! 大体理由をつけるなんてナンセンス! 例えば私がキッドの片腕を筋肉質でかっこいい…♡とメロメロになったとして、もしキッドがその腕を無くしたら、私の恋はなくなるのかしら。それと同じことよ!」
    「嫌な例えだな」

    だがしかし、妙に納得してしまった。

    「キッド、いい女じゃないか。嫁に来てもらうか?」
    「おい」
    「あら♡♡♡」
    「おい本気にしてんだろやめろ」

  • 20122/11/07(月) 02:21:18

    今日はここまで。明日の夜にまた来るので、もし可能なら保守の方をお願いします。

  • 21二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 02:50:38


    楽しみ

  • 22二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 05:47:49

    スレ主さんの前のスレで話題に出たときめっちゃ読みたかったやつ!こんなに早く書いてくださるとは…!
    ありがとうございます楽しみです!

  • 23二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 13:03:13

    保守

  • 24二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 13:07:38

    あまりにも素敵なssだとコメントするの気が引けちゃうけど、凄く楽しみにしてるのでぜひ自分のペースで無理なく書き上げてほしい

  • 25二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 21:25:49

    保守

    リアルタイムでキッドメインのss更新されて読めるのめっちゃ嬉しい

  • 26122/11/07(月) 21:43:01

    保守ありがとうございました!!


    >>22

    ありがとうございます!なんとか頑張っていきます!!


    >>24

    コメント書いてくれるとモチベとか活力にもつながるので、気を引かさなくて大丈夫ですもっとちょうだい

  • 27二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 21:47:25

    貴方でしたか!!
    前スレで書かれていたキッドの話読みたいなーっと思っていたので大変有難いです!

  • 28二次元好きの匿名さん22/11/07(月) 21:52:57

    スレで原案出たときから読みたいと思ってましたありがとうございます
    応援してます

  • 29122/11/07(月) 22:56:48

    「にしても、なんで万華鏡なんだ?」

    少女が倒れたこともすっかり忘れるほどテンション高く跳び回るその姿を見つめながら、ふと手の中のものに視線を落とし、問いかける。
    その質問に足を止めた少女は、可愛らしくはにかみながら『ママが好きだったの』と教えてくれた。

    「もう死んじゃったんだけどね、ママが万華鏡を見るのも作るのも好きだったから、私も好きになったのよ。ママの作ったやつは本当に綺麗なんだから! あ、でもでも私の万華鏡も綺麗よ! ね?」
    「うるせェ。まあ悪くはねェよ」
    「愛してるって?」
    「どこをとったらそう聞こえるんだ、医者にかかれ」
    「心配してくれているのねキッド♡」
    「なあ、お前無敵か?」

    何を言っても好意的に変換できるその頭がおめでたいのかおかしいのか。
    キッド♡と腕にしがみついてメロリンしてくる少女にツッコむのも面倒くさくてそのままにさせた。
    どうせあと数日の付き合いだ。
    ……船に乗ってこないよな? 無論乗船は拒否するが、貨物庫に忍びこみかねない行動力がありそうだ。出向前に隅々まで確認しなくてはならない。

    「……ハァ、このおれがガキの子守りかよ」
    「むっ! レディをガキ扱いするのはマナー違反よ! 失礼しちゃうわ。小鳥ちゃんとか子猫ちゃんとかそんな風に呼んで」
    「これが殺意か、なぁキラー」
    「大人げないぞ」

  • 30122/11/08(火) 02:54:48

    今日も少女の案内で鉱山に向かい、二人で抱えられるだけの鉱石を手に戻る。
    少女は彼らの周りでくるくると回り、時折転びながらもきゃらきゃらと楽しそうにしている。
    純真無垢である意味自分勝手な恋愛主張。振り回されるキッドは溜まったものではない、といった顔で首の後ろを掻いているが、何をどう言っても無駄なうえ、どうにもこちらに“利”というものを渡してくるため、結局は振り回されているのを許容しているという現状だ。

    キラーはそれを見て、兄妹のようだなあ、と内心笑う。声を口に出しはしないが、どうにもおかしな二人組に愉快さを覚える。あのキッドが振り回されてるというのがさらにそれを際立たせた。年端も行かない少女に、あの凶悪な顔が困惑させられている様と言ったら!
    まあ、それを知られたらいくらキッドとキラーの仲と言えども拳が出てくるだろう。面白がっているのは誰から見てもわかるが、それを口に出さなければいいのだ。……もうちょこちょこ出ているが。

    ――にしても、かつて自分たちの親友であった彼女の面影がある少女に振り回されることになるとは、まるで幼少期のそれと被る。
    カレーうどんの汁が飛んだだけでボコボコにぶん殴られたなァ。あまりに気の強すぎる彼女には手を焼かされた。揃って失恋もしたし。

    「ねぇキッド! デートしましょうよデート! この前教えた夕日が綺麗に見える場所、今から行ったらいい時間なのよ! 近くに灯台があってね、夜になったら灯るんだけど、なんとそれね、私が生まれた日にちょうど完成したの! 私と同じ年なのよ、素敵だって思わない?」
    「偶然だろ」
    「偶然と運命は同じなの! そんな風に切り捨てるより夢を抱く方がロマンがあって素敵じゃない! 海賊なら現実主義者(リアリスト)より理想主義者(ロマンチスト)の方であるべきだと思わない?」
    「くそ、一理ある……」

    にしても、流石は女子というべきか、キッドよりやや口が達者なところがある。語彙は恐らくキッドより上だ。

  • 31122/11/08(火) 02:55:10

    今日は予定があったのでこれだけ また保守出来たらお願いします。

  • 32二次元好きの匿名さん22/11/08(火) 08:08:16

    支援保守

  • 33二次元好きの匿名さん22/11/08(火) 08:10:40

    いい読み味だ…
    応援してます!

  • 34二次元好きの匿名さん22/11/08(火) 11:48:20

    ワクワクしながら読んでるんだけど1から3つ目を見る度に真顔になる

  • 35二次元好きの匿名さん22/11/08(火) 18:26:45

    保守
    楽しみしてます

  • 36122/11/08(火) 21:59:05

    なんだかんだ少女に引っ張られてその夕日がよく見えるらしい小高い丘についたわけだが、キッドたちには別段、特に素晴らしい夕日が見えるというわけではなかった。
    だがしかし、それはキッドたちが海を航海している故でもあるのだろう。船上から見る果てしない大海と広大な空に勝るものはない。少女はうっとりと頬を染めて見つめているが、それも少女がこの島の生まれで、その島から出た事がないからだろう。
    キッドは退屈そうな顔を隠そうとしない。だがしかし、目を煌かせる子どもが胸を張って綺麗だと勧めてきた夕日を『大したことはない』と切り捨てるほどは大人げなくはなかったキッドは、『まあまあだな』と言って適当に収めようとした。

    「ねぇ、キッド」

    そのまま戻ろうと思ったキッドに、少女の静かな声がかけられる。
    ちらりと少女を見れば、はしゃいでいた顔は潜められ、真っすぐな顔でキッドを見つめる。

    「キッドの夢は何?」

    ――唐突に問われた質問にキッドは目を丸くする。
    けれど、隠すことは何一つない。キッドは少女相手にも変わらず、強い眼差しのまま答えた。

    「海賊王」

    端的に、けれど力強い返答に少女は暫く黙り込んでから、静かに微笑む。

    「……キッドは本当に大きい男ね。きっと、キッドは夢を叶えちゃうんだわ」
    「当たり前だろ」
    「……海賊王のお嫁さんって海賊女王になるの?」
    「流石にその返しは予想しちゃいなかったが知るか」

  • 37122/11/08(火) 23:00:15

    少女はキッドの夢を馬鹿にすることはなく。けれど、どこか羨ましいものを見るような目で、キッドを見上げる。

    「海賊王になってね。キッド。だってキッドは世界一格好いいもの! キッドはでっかい男じゃないと駄目なのよ!」

    そう言って満面の笑みを浮かべる少女に――キッドは意外そうなものを見るような目で見た。

    「なんだ、てっきり着いて行きたいって言うかと思ったが」
    「着いていってもいいの!?」
    「よくねェ」
    「うーん、キッドの妻として着いて行きたいのは山々だけど、私パパ……お父様を置いていけないのよね」
    「なんで既に妻になってやがるんだ。冗談も休み休み言え」

    キッドのぼやきもどこ吹く風。本当に悩ましい、という顔をしながらも、着いて行かないと少女はきっぱり告げる。

    「まあ、最悪現地妻かしら」
    「そろそろぶっ飛ばしていいか」
    「キッド、大人げないぞ」

  • 38122/11/08(火) 23:30:03

    「でも、そうね~~、もしキッドの船に乗れたなら私何が出来るかしら」
    「乗せねェ」
    「航海士は難しそうだし、総舵手とかも難しそう。あ、キッドを応援する係は? がんばれ♡がんばれ♡ってこんな美少女が応援してくれたら最強でしょう!」
    「クソ邪魔だ」
    「夢が広がるわ~~~~!!」
    「ウザすぎる……。大体、父親と離れられないガキの癖に、よくもまあそんな妄想を話せるもんだ」
    「むっ……ガキじゃなくて小鳥ちゃんとか子猫ちゃんって呼んで! それに妄想じゃないわ、想像よ! 想像って素敵なんだから! こんな風になりたい、こんなことがしたいって頭の中で思い浮かべて、それがすっごい素敵なことだと、そういうのが私の元気に繋がるの!」

    だから、と少女はくるりと回る。

    「キッドの夢は、私の夢にもなったわ! だって素敵だもの! 私の大好きな人が海賊の王様になるなんて!」
    「―――……、くは、図々しいやつだな」
    「あ、ひどい! でもキッド格好いいから許すわ!」

    そう怒る少女も、すぐに顔が笑顔になる。
    けれども、淡くオレンジに照らされていた少女の顔が、暗くなる。日が沈み切ると、このあたり一帯はとても暗い。
    その代わりと言った風に、ちょうど灯台が光を灯し、暗い海を優しく照らし始めた。
    だんだんと夜になり始めていく街を見返して、少女は残念そうに俯いてから、弾けるように顔を上げた。

    「じゃあ私は帰るわね! あ、添い寝してほしい?」
    「ガキは飯食ってクソして寝ろ」
    「お下品だわ! キッドのばか!」

  • 39122/11/09(水) 00:07:23

    騒がしいのがようやく帰った、とキッドはため息を吐きながらキラーと共に少女が去って行った方とは逆向きに歩きはじめる。
    なんだかんだ、いつもだったらそろそろここらで喧嘩を買ったり売ったりして大暴れする頃合いなのだが、今回に関してはずっと少女にペースを崩されっぱなしでキッドにしてはなんとも大人しいものだ。
    顔はうんざりした形を崩さないし、恐らく本心から面倒だと思っているのだろう。だがしかし、付き合ってやっている辺り、彼の兄気質が出ているのだろう。もっとも彼女が望んでいるのは兄という役割ではないのだろうが。

    なァに、海賊に恋をした。なんとも笑える話だが、所詮一過性のものだろう。
    少女の恋ほど、確実性のないものはない。
    どうせすぐに目が覚めるはずだ。少年に比べて、少女の方が大人になるのが早いのだから。

    ……けれども、少しばかり違和感のようなものがなんとなく、少女から感じられたけれど。
    特に気にすることはない、と思考するのを切り上げた。
    ――それにしても。

    「なぁキラー。船はまだ補修が終わらねェのか? 多少早めたって」
    「キッド、ここで手間を怠ると後で後悔するのは自分たちだぞ」
    「……違いねェ」

  • 40122/11/09(水) 00:07:50

    というわけで今日はここまでにしておきます。
    可能ならば保守の方をどうかお願いします。

  • 41二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 00:29:28

    面白かったです!
    保守!

  • 42二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 00:43:01

    面白かったです~~~~!
    女の子が魅力的すぎて本当に素晴らしい
    こんなに気持ちよく大好きだって言われたらキッドも悪い気しないよなぁ!

  • 43二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 00:44:31

    キッドたちが女の子が身なりがよくて生活に苦労していないと思っているであろうことに呻き声を上げたくなる

  • 44二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 00:50:54

    キッドが世の中の苦労を知らなさそうな少女だと第一印象で感じているのがなぁ……
    胸が痛くなってくるし、今後の展開が楽しみでたまらない

  • 45二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 08:25:45

    保守

  • 46二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 12:46:43

    女の子とキッドのやり取りもキッドとキラーのやり取りもどっちもいいなぁ

  • 47二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 13:12:31

    この後が怖いがあまりに描写が良すぎて読んでしまう〜
    前前作から追い続けてるけど作者様の文章は変わらず素敵だ

  • 48二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 13:18:06

    前スレ知ってる人がいたら教えてほしい……

  • 49二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 13:25:33

    >>48一応キッドが主役ではないからここに貼るのは迷うけどコラソンファンスレからリンクで飛べるよ

    あとは、ドジって前世を〜で検索みるといいかも

  • 50二次元好きの匿名さん22/11/09(水) 21:39:18

    >>49

    あれか!途中までしか読んでなかったから読んでくる。ありがとう!

  • 51122/11/10(木) 01:12:14

    次の日、少女は来なかった。
    一昨日も来なかったことを省みるに、どうやら一日おきにしか来れない事情があるらしい。
    そうでもしないと毎日突撃してきそうだからな、とキッドは安堵の息を吐く。
    だがしかし、短い内にもう既に聞き慣れてしまった耳障りな高い子どもの声が聞こえないのが、少し落ち着かないのも事実だ。

    「寂しいな、キッド」
    「うるせェ。清々するわ」

    ともかく、少女が来なければ落ち着いて過ごせることに変わりはない。
    だがしかし、落ち着いて過ごすのがキッドの好みかと言われたら、そうでもない。
    ため息一つ吐いて、何かオイシイ話でもないもんかと酒場で軽く話を聞いてみるが、特にお宝の情報などあるわけでもなし。キッドたち以外に海賊が来るわけでもなかったためか、一般市民相手に暴れるのも趣味ではないし、なんとも穏やかな一日を過ごしている。
    娼館へ向かうという手もないわけではないが、なんとなく気が引けるのはあの少女の影響だろう。別段、少女の恋愛に関して応えるつもりは一切ないし(仮に応えたらとんでもないロリコンだ)、今だって面倒ごとの一つだ。だがしかし、あれほどまでに一途に好きだと、かっこいいと言われてしまうと、女遊びに耽るのはなんとなく後味が悪いのだ。

    それに関してはキッドは格好つけだからな、とキラーは考察する。
    格好つけ、というべきか。かっこよくありたいと、本人は自覚していないがそう思っているのだ。
    外面をよくしたいという意味ではなく、そうあるべき自分を誇っている。
    ……だからこそ、少女の一心の憧れをなんとなく裏切れないままでいるキッドはいっそ愉快だ。
    これで少女ではなく大人の女だったらまた違っただろう。それこそ、“少女の恋”というものは不思議な力があるようだ。

  • 52122/11/10(木) 01:25:12

    だがしかし、結局退屈なのは確かである。
    いっそ寝ちまうか、なんて思いながらも、海辺を歩いていた。こちらへ向かってくる海賊や海軍の船が無いか見るためである。
    重いブーツが砂浜の砂をざくざくと踏みしめる。真白い浜辺には貝殻やわかめなどが幾つも打ちあがっていた。

    「つまらねェ」
    「あの子に振り回されていた方が楽しかったな」
    「こんなに造船所以外何もねェとこだとは思っちゃいなかったんだよ。酒もそれほど上手くねェ。……工場とやらでも見に行くか?」
    「別に良いが、お前が能力を使ったら大惨事になるだろうからな、喧嘩を売ったら駄目だぞ」
    「ハッ。向こうが売らなきゃ買わねェよ!」

    例えばおれたちを馬鹿にしたりしなければな。
    そう笑うキッドに、キラーはため息を吐きながら着いていく。
    そのまま歩いていると、砂浜の先に少女の話の中で話題にあがった灯台が見えてきた。
    その近くには若い青年が丸太に座りながらうたたねをしている。だがしかし、二人が近づいたことによって目を覚まし、そして二人の姿を視界にいれて飛び上がるほど驚く。

    「うわっ!? か、かかか海賊だァ!?」
    「とって食いやしねェよ。そんなことより面白い話でもしろ」
    「唐突に表れた海賊に無茶ぶりされたァ!?」

  • 53二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 01:27:58

    キッドみたいな悪人面の海賊に絡まれて無茶ぶりされるの可哀想だなww

  • 54122/11/10(木) 01:46:02

    青年は、自分を灯台守と名乗った。

    「いや、おれ別に面白い話があるわけでもないし、ただの一般灯台守なわけで、ていうかこの役職もじいちゃんから受け継いだやつだし、面白い話ってそれこそ海賊のお二方にこそあるんだとおれは思うわけなんですけど」

    がくがく震えて灯台に縋り付きながらそう弁明する青年に、つまらなそうにキッドは鼻を鳴らす。

    「このクソつまんねェ島に立ち往生してんだ。何かしら退屈しのぎになるもんでも欲しいだろ」
    「ええ……でもこう、海賊ってずっと海の上にいるわけじゃないですか。そういう時はどうしてるんですか」
    「パンク爆音で流したりしてんな」
    「なるほど? 確かにこの島でされたら……困るな……。えっ海賊にもそういう良識あるんですか!?」

    目を見開いてその怖い海賊相手に割とズバッと発言する灯台守に、キッドは少しばかり口角を上げた。
    おどおどと怯えてまともに話せない臆病者より、多少生意気な方が好ましい。
    そう思われていることもつゆ知らず、灯台守はううん、と海賊の機嫌を取らすために何かしらないかとネタを探してみる。

    そう悩ましそうにしている灯台守に、キラーはふと気付いたように声を上げた。

    「お前は灯台守と言ったな。祖父から受け継いだと言ったが、この灯台はまだ新しいようなものに見えるが」
    「え? ああ、新しくしたんすよ。おれがまだガキの頃ですけど、結構古くてガタが来てて、階段も今にも崩れそうだからって完成する数年前から新しいのが建築されてて……それが完成したのが、15年前ってところです」
    「へえ、」

    対して興味ないな、と気の無い返事をして、

    「……15年前?」

    その情報に、キッドは思わず聞き返した。

  • 55122/11/10(木) 02:04:39

    「この灯台が出来た年に生まれたって言ってたよな。じゃああいつ、15歳ってことか?」
    「……到底そう見えないな」
    「ただ単に成長が遅いのか? ただ単に身長が低いだけか?」
    「にしては、腕も足も細かった。それによく転んでいたのも覚えている」
    「………別に、おれらにゃ関係のないことだが」

    そう言いながらも、難し気な顔をして気にする素振りをするキッドにキラーは口の形でだけ微笑む。
    きょとんとしながらそんな二人を見ていた灯台守は、機嫌を損ねたか……?と内心戦々恐々としていた。
    けれども、二人が話している誰かに、思い当たる節があった灯台守は、恐る恐る口を開く。

    「あの……鉄工場の娘さんのこと言ってます?」
    「知ってるのか?」
    「まぁ、ハイ。気の毒な娘さんだってみんなよく言ってますよ。お母さんが死んだあと、どうにも父親が狂っちまったみたいで。なんか家で散々な扱いを受けてるって話です」

    これに関しては面白い話じゃないんですけど、と言いながら灯台守は続ける。

    「別に飯は沢山食べてるらしいんです。飯屋に来てたから奢ってやったこともあるんですけど、あいつ平気でばくばく食べてて。あ、おれここに流れついてきたやつ介抱したことあるんですけど、飯を食べてない時ってこう、胃が縮んであんまり食べられなかったりするじゃないですか。でもそういうことはなかったんで、虐待とか受けてるわけじゃないって信じたいですけど……」

    「でも、あんなにメシ食ってんのに全然成長しなくて。本当にあの子の栄養、どこに行っちまってるんだろうなあ……」

  • 56122/11/10(木) 02:05:04

    というわけで今日はここまでにします。
    また可能なら保守の方をどうかよろしくお願いします。

  • 57二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 07:38:26

    キッドがお酒を飲むときの喉の動き確かにかっこよさそうだしそこに着目する女の子にもそれ言われて飲みにくくなるキッドにも笑ってしまった
    女の子ちゃんピーチクパーチクしてるの小鳥っぽくて可愛いな

  • 58二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 10:39:31

    面白かった!毎晩の楽しみです!ほしゅ

  • 59二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 15:03:34

    女の子にちょっと陰りが見えてきて怖いけど1をボワンスーして見守るぞ…

  • 60二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 20:10:08

    >>59

    同じく必死にボワンスーしてるんだけど、マジで見守るのが怖くなってきた…

  • 61122/11/10(木) 21:50:03

    「――――」

    思い出すのは、喧しいくらいに元気に飛び跳ねている少女だ。
    目を輝かせ、キッドの目の前でまるで全ての幸福を体現しているかのような、汚泥一つも見えない幼い少女。
    踊るようにくるりとステップを踏みながら、歌うようにキッドへの恋を綴る。
    そこに後ろ暗いものも冷えた闇も見当たらない。だからこそ、面倒だと悪態をつく中で――僅かに、眩いものを感じていたのは確かだった。

    母親が死に、
    父親が狂い
    散々な目にあっている

    ……到底そう思えないのは、少女が隠しているからか、それともそれはただの噂で、真実ではないのか。
    だがしかし、後味の悪い苦味を口の中に感じている。
    腹の奥で苛立ちがぐらりと煮立った。

    「……チッ」

    舌打ちをすれば、灯台守はひええと震える。
    それを気にせず、キッドはくるりと背中を見せた。

    「キッド、どこに行くんだ」
    「寝る」
    「……そうか」

  • 62122/11/10(木) 22:04:21

    キッドの後にキラーも続こうとするが、その前にキラーが青年に問いかける。

    「その狂った男とやらは、あの工場の責任者……トップということだよな」
    「え、あ、ああハイ、そうです。でも工場の方には最近顔を出してないって聞きましたね」
    「……ちなみに、その工場では何を作っている?」
    「それはおれらにも知らされてないんですよね。でもフライパンとかの鉄製品とか出してるらしいですけど……」
    「けど?」
    「けど、あんな鉱山あって、あんな工場がある割には、あんまり島に広まってる感じはしないんですよねェ」
    「……なるほど」

    充分だ、と頷き、今度こそキラーはその場を後にする。
    なんとなく考えてはいたが。小さくなったキッドの後姿を見ながら思う。

    自分たちがこの鉱山に用事があったのは、この島由来の金属――黒鉄鉱石を調達するためだ。
    どうにも調べた限りでは鉄の純度が高く、それでいで伝導率も高いらしい。砥げば鋭い刃になり、銃の素材として使えば丈夫で破壊の可能性が減る。
    無論それ以上の鉱石はこの世にごまんと存在するが、それでも安価で質がいいと言われるとこの鉱石があげられる。
    だからわざわざ少女の案内を受けてまで鉱山に入った。

    それは、キッド自身の能力に都合のいいも含まれる。
    そう――武器として、“都合のいい”鉱石を調達するためだ。

  • 63二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 23:48:46

    もうこの女の子もキッドの船に乗せてやってくれ

  • 64122/11/11(金) 01:55:49

    「キッド」
    「なんだ」
    「どうにかしたいか?」
    「別に。あいつがどうこう言ったわけでもねェのに、おれが手を出すのは違うだろ」
    「そうか」

    キラーはキッドの言葉に従う。
    確かに、会って数日の少女のために何かをしてやる義理はない。再び航海を始めればこの島に戻ることはないだろうし、キッドたちに色濃い印象を残した少女も記憶の片隅にさえ残らなくなるだろう。
    所詮その程度。
    少女のために行動するほど、情があるでもない。

    けれども、愉快な気分になるわけでもなく。
    なんとも微妙な心境のまま、キッドはため息を吐く。
    笑える話だ。あのユースタス・キッドが少女一人にここまで振り回されるとは!

    「クソ、本当にあのガキは厄介だ」

    そう吐き捨てたキッドは、頭を掻きながら苛立ちに似た感情を持て余した。

  • 65122/11/11(金) 01:56:17

    今日も予定があったためなかなか進めず。
    また保守の方を出来ればよろしくお願いします。

  • 66二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 07:36:48

    保守
    続き楽しみにしてます

  • 67二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 09:23:29

    複雑な気持ちに駆られるキッド好きだ…
    そしてキラーの問いかけも相棒感がある

  • 68二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 12:23:06

    キッドの夢は、私の夢にもなったわ!ってところ溌剌とした女の子の爽やかさ軽やかさを感じるのに同時に切なさも感じて好き 船乗れ(乗らない)

  • 69二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 17:58:43

    キッドは曇らないと明言されてるけど読んでる側が曇らないとは書いてないので今から怯えてる
    でも続きが楽しみ

  • 70二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 23:54:10

    保守

  • 71122/11/12(土) 03:39:03

    次の日、少女が来るだろうと踏んでいたキッドは、その考えに反していつまで経っても少女が来ないことに若干の苛立ちを見せていた。
    昨日あんな話を聞いてしまったせいだろう。
    別段同情はしない。この時代、不幸な人間はいくらでもいるし、それにいちいち同情していたら身が持たない。それに元々のキッドの気質からしてそういった他人の境遇に同情するというのはあまりに不適格だ。

    では何に苛ついているのかというと。
    ――自分のことをあれほど恋い慕う少女の自由意思が、ただのイカれた父親のせいで剥奪されているかもしれないという点に関しての『気にくわない』という一点だけである。
    これに関しては、反抗しない少女に対しての苛立ちもある。だがしかし、屈強な男である自分と、あんなに手足が細く小さい少女には屈服に抗うことへの適性にかなりの差があることも理解している。

    だからままならない。激しい怒りでもないのだ。ただ自分の中にある不愉快。耳元でがなる羽虫のような。なかなかに自分から剥がれない妙な不快だ。

    あの雲雀のような声をもうるさくてかなわないのに、いなくてもうるさい。
    キッドはため息を吐きながら頭を掻く。なんとも、面倒な話だ。

  • 72二次元好きの匿名さん22/11/12(土) 03:41:28

    キッドのエミュが上手すぎる…

  • 73122/11/12(土) 03:52:24

    けれども、その日に少女が来なかったわけではなく。
    夕方頃――普段少女が家に帰る時間に、キッドの元に現れた。
    いつも通りの笑顔のまま、綺麗なワンピースを着た少女はキッドの元に駆け寄る。そして、キッドの手前で再び転びそうになって、
    ―――その腕を掴まれ、支えられる。

    ぱち、くり。と栗色の目が瞬いた。自分の腕をキッドの顔を何度も見てから、ぱあ、と大輪の花が咲いたような笑顔を見せる。

    「キッド、キッドキッドキッド! 今私のこと助けてくれたわよね! ね! 優しい~~~~~!! え、なに、とうとう私のことを大好きになったの? やったあ♡ 私の苗字もユースタスになるのね。キッドのお嫁さんとして花嫁修業頑張るわ~~~~!!」
    「腕掴んだだけで結婚まで持ち込む思考が怖ェわ」

    とんでもなくいつも通りだ。
    これをいつも通り、と思えてしまうくらい、この少女といた時間は濃かった。
    だからこそ苦々しい思いが顔に現れる。

    「……キッド? 顔が怖いわ。お腹でも痛いの」
    「頭が痛ェな」
    「それは大変! あ、私膝枕してあげようか! キッドの頭よしよししてあげる! なんかそういうプレイ?がいいって近所のお姉さんから聞いたの!」
    「その女から話を聞くのはもうやめとけ」

  • 74122/11/12(土) 03:53:02

    もうこんな時間じゃん スレ主寝ます
    また保守だけよろしくお願いしたい……。

  • 75二次元好きの匿名さん22/11/12(土) 03:58:59

    女の子がとても魅力的なので色々と胸に来る

  • 76二次元好きの匿名さん22/11/12(土) 10:51:15

    全力ハリケーンしてる女の子可愛いしキッドのツッコミのキレが好き
    掛け合いも面白いけどキッドから女の子への「いなくてもうるさい」って感想がなんか好き

  • 77122/11/12(土) 20:27:01

    本日も書く予定なので保守しておきます

  • 78二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 01:28:05

    凄く惹き込まれる文章だし女の子が可愛くて微笑ましいのに不穏な空気があるから毎回怯えながら読んでる
    続きを楽しみにしております……

  • 79122/11/13(日) 02:35:26

    無邪気にはしゃぎまわる少女になんの薄暗い部分も見えない。よく笑い、跳ねまわり、キッドに全身で好意を伝える。
    だがしかし、“そういうもの”だと見てしまえば、わかるものもある。
    手足や首がやけに細いところとか、動き回る際時折かくりと膝から力が抜けているとか、少女の肌は活発な性格にしてはやけに白いところとか。
    じ、っと見つめられ、少女は『キッド?』と首を傾げる。その少女に向かって手を伸ばし――その細い首を、片手で掴む。

    「?」

    首をいつ締められてもおかしくない状態なのに。いっそ少女は無防備に信頼した様子でキッドを見つめる。自分のことを害するなんてことは一切ない。不用心すぎるほどに自分の命を委ねているのは、相手がキッドだからなのか、それとも。

    「……おい」
    「なァに、キッド!」
    「………」

    何かを問おうとして、その問いかける理由が自分にはない。少女の事を気に掛ける義理も同情する理由もない。今もそう思っている。
    だからこそ、何を言うべきか考え――けれどあっさりと、自分がするべき問いかけを思いついた。

    「お前の夢は、なんだ」

  • 80122/11/13(日) 02:45:08

    「夢?」
    「おれの夢について質問しただろ。だったらお前の夢はなんなんだよ」
    「それはキッドの夢が私の夢だって」
    「それでも、おれが来るより前にも何かしら見ていたものがあるだろ」

    ――その時初めて、少女は動揺し、口ごもる。そしていつもとは逆に少女の方が目線を逸らした。
    瞳を揺らしながら、不安そうに、覚束なさそうに、唇をきゅうっと閉じた。
    けれど、その自分の様子をキッドに見られていることを遅れて自覚してにこりと笑う。――キッドは笑わず少女を見ていたから、だんだんその笑顔も崩れ、くしゃりと泣きそうな顔をする。

    「そらを、とびたいの」

    迷子のような声が、雨音のようにぽつりと落ちた。

    「空を飛んで――どこまでも、どこまでも行きたかったの。だって空を飛ぶって素敵でしょう。夕日だって格別に綺麗に見えるわ。遠くまで続く青空を、こぼれ落ちそうなくらいの星空を、海と空が溶け合ってしまいそうな夜明けも、美しい全てを、見ていたい」

    泣きそうな声で告げられた本音は、夢見がちで、けれど少女らしい美しさに溢れていた。
    少女は自分が外に放った言葉に後悔したように、口元を指で触れる。
    そして力なく笑った。

    「……なーんて無理よね! 空なんて人は飛べないわ! あ、でも鳥になれる能力者なら自由気ままに空を飛べるのかしら! 素敵よね~~~!!」
    「………」
    「すっごく素敵。鳥はきっと、どこまでも行けるんだわ」

  • 81122/11/13(日) 02:58:04

    けほ、と少女は咳をする。ハンカチで口元を拭ってから、キッドをちらりと見上げた。

    「キッドは、鳥じゃないけど。でもどこまでもどこまでも行ってしまうのよ」
    「……そうだな」
    「でも、だから私、キッドのことが大好きで、でもちょっといいなあって思ってしまうんだわ。だってキッド、すごく自由だもの! 自由な男って素敵! キッド大好き!」
    「お前も海に出りゃいいじゃねェか」

    ――その言葉に、少女は目を見開く。

    「まァてめェみたいなガキはおれの船に乗れはしねェが、この港町からはいくらでも船が出てるだろ。お前の父親の目を盗んでこっそり船にでも乗っちまえ。そんくらいのガッツはあるだろ」
    「………」
    「なんだその顔は」
    「い、いえ、そんなこと……考えたことも、なかったから」

    少女は手を前に回し、指を絡めて、何かを思うように目を伏せる。

    「……素敵。きっと素敵な夢だわ。船に乗って私も遠くまで行くのね」
    「やらないのか?」
    「やりたい、けど。でも、……駄目なのよ」
    「何がだよ」
    「お父様を置いていけない。……それに」

    ひくり、と少女の唇が震える。ばっとハンカチを持った手で口元を押さえた。そこから激しい咳をする。身体を丸めながら、苦しそうに何度も何度も咳をする。――鉄が、溢れる。
    ハンカチでは抑えきれなかった血が、ぼたぼたと。ぼたぼたと。

    ……しばらくしてようやく咳が収まった少女は、こぼれ落ちた血を見ながら、泣きそうな顔になる。

    「――だって、私、死んじゃうんだもの」

    か細い声は、ただただ震えていた。

  • 82122/11/13(日) 03:25:46

    ――それは、なんとも愉快な話だ。
    あれほど自分のことが好きだと、結婚してだの、現地妻だの言っていた割に、自分はもう死ぬのだととっくにわかりきっているかのようなことをほざく。こんなに、面白い事はあるだろうか。

    憤怒に似た激情が湧きおこったのは、何故か。会って間もない子ども一人、普段なら気にもかけない。
    亡くなった親友に似ているからか。哀れだと思ったのか。情に絆されたか。
    いいや、違う。答えなどもう出ている。

    どうにもならない点で少女の“夢”が、目指す前に断たれ、そしておそらく――その元凶が少女の父親。
    父親の手によって、何かが少女に起こった。15歳にも関わらず10歳前後にしか見えない体躯。細すぎる手足。白すぎる肌。すぐ転ぶ身体。全てが噛み合う。
    そうだ。
    嫌いなのだ。
    そういう、理不尽な形で――夢を阻もうとするような輩が何よりも。

    「キッド?」

    不安そうに少女はキッドの顔を見上げる。肌に感じるほどの怒りを少女は浴びてもなお、少女はキッドを恐れない。
    キッドはしゃがみこんで、少女を抱えるとそのまま歩き出す。
    少女は何が起こったかわからない顔をしてから、キッドの顔と抱きかかえられる自分の身体を交互に見て――顔を赤らめて頬に手をあて、きゃあ!と叫んだ。

    「結婚!? つまりこれ結婚ってことよねキャー!! 式あげる!? キッドはタキシードもきっと似合うわ!」
    「あげねェよ」
    「この前はしてくれなかったのに! 私へのご褒美!? とうとう両想い!? キャー!!!」
    「血を吐いたのに元気だなこいつ」

  • 83122/11/13(日) 03:40:06

    少女はキッド海賊団の船医のもとへと連れてこられた。
    運んできた時、流石のキラーも驚いていたし、ところどころにいた船員たちもまるで珍しいものを見るような目で見ていた。
    そんな目など気にせず船医に渡したあとは、何が起こっているのかわからず目を白黒させる少女を放ってキラーの元へといく。

    「腹が立ったからあそこ潰すことにした」
    「……そうか。付き合うか?」
    「いらねェ」

    キラーの提案に素っ気なく返すキッドにキラーは苦笑する。特にキッドにどうこう言うつもりはないらしい。
    『してもいいか』ではなく『ことにした』ともう決まっていることなのだ。
    長い付き合いである分、一度決めたことを覆すことはほぼ無い。それをとっくに知っている。

    小一時間たってから、船医がキッドの元へと駆けてくる。
    その表情は、到底いい結果が出たとは思えない。
    やりきれない、というような顔をした船医は、頭に向かって診断結果を告げる。

    「あの子なんで生きてるんですか。内臓機能、ほぼまともに稼働してませんよ」
    「……なんだそれは」
    「恐らく今すごく苦しいはずです。次の瞬間死んでいてもおかしくないほど、内臓も骨も“消耗”している。こんな事例見た事ないんですけど……」

  • 84122/11/13(日) 03:44:05

    というところで今日はここまで。
    引き続き保守をどうかよろしくお願いします。

  • 85二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 07:10:47

    女の子ちゃんが小鳥よりも儚い命で…オオ…
    お前も海へ出ればいい、そのくらいのガッツはあるだろってわりと賛辞だよなぁ
    自分の船に乗っていいとは一度も言わないし線引きするけど女の子のこと悪く思ってないのが伝わる

  • 86二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 13:26:24

    自分の夢を追いかけているキッドが、誰かが夢を邪魔されていることにブチ切れるのすごく好き
    本当にいい男だよなぁ

  • 87二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 15:46:11

    あああうううううああああああ……
    地獄の蓋が開いた……

  • 88122/11/13(日) 19:53:07

    少女がいる部屋に入った時、ベッドに座る少女は、窓の外を見ながらぼーっとしていた。
    けれどキッドが『おい』と声をかけると、ワンテンポ遅れてから満面の笑みを向ける。

    「キッド! お医者さんに見せてくれたの? ありがとう、心配してくれて嬉しいわ!」
    「お前なんで生きているんだ?」
    「流石に一言目にそれはデリカシーないと思うわ!」

    でもキッドだから許してあげる!と寛容にも頷いた少女は、少しばかり躊躇ってから、それでも完璧な笑顔を作りあげた。

    「私ね、悪魔の実の能力者なの」
    「……初耳だな」
    「言ってないもの! お父様に言わないようにって言われてたし……それに言っても言わなくても、私とキッドがラブラブカップルってことに違いはないでしょ?」
    「その事実捏造やめてくれねェか。……それで、どんな実の能力者なんだ」

    一瞬口を閉ざす。
    けれども隠す気は無いようで、小さな声で少女は口を開く。

    「……ルギルギの実」
    「能力は?」
    「エネルギーの生産」

    エネルギー。
    工場と合わせて、きな臭くなってきたな、とキッドは舌打ちをする。
    その単語だけで既にキッドは自分の中で正解に辿り着いていた。けれども少女に続きを語らせるように目で促す。

    「お父様は、おとうさま、は、武器を作ってるの。武器どころじゃない。兵器、みたいな、そういう……怖いものを」

    ――そりゃ、そうだろうな。
    納得するしかない答えに、やはりキッドは苛立ちのような感情を浮かばせた。

  • 89二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 20:15:20

    エネルギーってことは生命力もかな?
    だから死ぬと分かる…

  • 90122/11/13(日) 21:36:58

    「ルギルギの実のエネルギーの生産はね、すごいの。たっぷり……そうね、もし船がエネルギーを材料にして動くのなら、半日は休まずに動かせ続けると思うわ。無理をしたら一日ぶっ続けでもいけるわ!」
    「……確かにそりゃすげェな」
    「でも、……それ以上になるとね、駄目なの。私の中のエネルギーは無尽蔵じゃない。限界を超えた部分は、違うもので補われる」
    「………」
    「だから、多分私の身体は色々ボロボロで、……だから、死んじゃう」

    ――こんな幼い少女が、自分の死を受け入れる。父親に操られるがままにエネルギーを使い果たし、この少女の生命力も尽きる。
    それでも、少女は何かを恨むことはせずに、辛そうな表情のまま身体を抱きしめた。

    「私、お父様が悪いことしてるって知ってるの。兵器を作るなんておかしい。それに、その兵器をどう使うと思う?」
    「そりゃ何かに攻撃するんだろ」
    「そう。……この島を、壊すつもりなの」

    その言葉にキッドの眉間に皺が寄る。
    少女の発言は、あまりにもおかしかったからだ。

    「……ここの資源はまだ豊富だ。それともなんだ、恨みでもあるのか?」
    「ないでしょうね。でも、関係ないの。ママがいた島だったから」
    「はあ?」
    「お父様は、ママを愛していたの。すごく、すっごく愛していたの」

    愛、なのよ。
    そう語る少女の口から出る愛、という言葉は。普段少女がキッドに向けているものに比べ、どこかもの悲しく虚しい響きがする。

  • 91122/11/13(日) 22:08:15

    「くだらねェな。愛とかいうのはともかく、それで島を壊す? 破滅願望か?」
    「多分、そういうものなんだと思う。多分、お父様はママが愛したこの島と一緒に死ぬつもりで、兵器を作ってる」

    ……どうしよう、と。泣きそうな子どもの声が聞こえた。

    「私、知ってるから、知ってたからね、死のうとしてたの。キッドと会う前に海に跳び込んじゃおうって。そうすれば私がいなくなるから、お父様はもう何も出来ないって。この島のみんなを殺さないで済むって」

    そう言いながら、少女は顔を覆う。
    溌剌とした元気さはなく、死にかけの弱った少女がそこにいるだけだ。

    「でも、キッドが、格好よかったから」

    ――まるで、懺悔をするようだ。
    キッドは黙ったまま、少女を見つめる。

    「格好よくて、真っすぐな目をしてて。怖そうなのに、キラーと笑ってる笑顔が可愛くて。ギザギザの歯は噛まれたら痛そうなのに、チャーミングだって思ったわ。一目惚れなの。だってしょうがないじゃない。恋はいつでもハリケーン、なんだもの」

    顔を覆う手を離した少女は、力なく笑っていた。
    もう作られた笑みを見せる余裕もなく、儚げに笑うその顔に苛立ちが募るばかり。

    「ごめんなさいキッド、迷惑だって知ってた。知ってたけど、私もう死んじゃうから、一時の夢だけでも見たくって、」

    そう言って、あら、と何かに気付いたように声をあげた。

    「もう一つ、夢があったのね。好きな人と一緒にいたいって、そんな夢」

  • 92二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:11:46

    あああうううううあああああああ……
    こんなのってないよ……

  • 93二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:12:03

    キッド推し&少女の初恋が大好きな自分にガン刺さりするSSだ……。完走まで応援しております!

  • 94二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:12:37

    おれはこころがよわいのでたえられない(遺言)

  • 95二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:13:45

    スレ主様の文章力が凄まじいので、その分余計に心に来る
    このスレに出会えたことはとても嬉しいので最後まで読みます

  • 96二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:14:50

    キッド…!

  • 97二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:15:10

    少女が夢を語る言葉があまりにも美しくてまさに「人の夢と書いて儚い」って感じだ……

  • 98二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:16:07

    しんどい…でも好き……

  • 99二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 22:21:04

    心がしんどい

  • 100122/11/13(日) 22:22:50

    「欲張りになっちゃったわ、私。お父さんの娘なのに。私がエネルギーを出さなきゃ兵器は作られなかったのに。ごめんなさい、ごめんなさい……」

    儚く笑う顔をくしゃりと歪ませ、俯きながらほたほたと涙を零れさせる少女。
    この小さな身体に、この島の存続が懸かっていた。
    この少女が死にさえすれば、兵器の製作は停止していた。

    「でも、もう出来てしまったのよ」

    ―――どうしよう、と震える少女の頭に、大きな手がぽすんと置かれる。

    は、として顔を上げる少女に、キッドは一つ、こう言った。

    「てめェに耳寄りな情報を教えてやるよ」

    そう言って、口角を上げ、凶悪な顔で笑った。


    「おれはな、強欲な女の方が好みだ」


    ――――――それを、言われた少女は呆然とし、そして、意味を理解する。
    慰めでもなく、怒りでもなく、そんなキッドのただの好悪を伝えられた、その少女は。

    まるで、自分の恋が報われたのかというように、目の縁を赤く染め、泣きながら微笑んだ。

  • 101122/11/13(日) 22:23:25

    ちなみにスレ主はCCCが好きです。

  • 102122/11/13(日) 23:13:43

    「キッド、行くのか?」
    「ん、ああ、ちょっくら行ってくるわ」

    まるで散歩にでも行くかのような気軽さでキッドはキラーに声をかける。それをキラーは、何も言わずに見送った。
    少女が寝ている部屋に近づけば、すすり泣くような声が聞こえる。
    最早幾許の命もない少女。その少女を救うため、工場を壊そうと向かうキッドは、なるほど、随分ヒーローだ。

    なんてな。と、キラーは口元に笑みを浮かべる。
    なんともまあ、キッドには似合わない名称だろう。
    あれはそんなお綺麗なものではない。そんな風に、誰かのために戦おうと思う人間ではない。
    どこまでもキッドは自分本位だ。――いい意味で、だが。

    キッドの背中が、遠くなっていく。

    「……ん?」

    ふと、キッドが手慰みのように投げたり、手の中で弄ばせている、黒い鉱石が目に入った。
    黒鉄鉱石だろうか。小石ほどのそれを、何でもっているのだろうか。
    まあ気にすることではない、とキラーはそんなキッドの背中に背を向ける。
    少女のために果物でも持って行ってやるか、と思う7キラー自体は、少女を哀れに思っているのだ。

  • 103二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:15:12

    あげ

  • 104二次元好きの匿名さん22/11/13(日) 23:17:13

    キラーさんも良い奴だよな

  • 105122/11/14(月) 01:20:14

    工場には一度も立ち寄らなかったが、なるほど。それなりにいい設備が整っている。
    見張りの兵は一発でのしながら、手の中にある小さな黒鉄鉱石を懐に入れ、キッドは奥を目指した。
    昼だというのに見張りはいながらも従業員はいない。今日が休みなのか、はたまた兵器とやらが完成したからなのか。

    中は薄暗い。工場の手前側は日用品などを作っているようで鉄製品がいくつも積まれている。
    それを気にも留めずにキッドは奥へと進む。
    日用品を製作する工場を抜けると、長い通路が続いていた。
    かつん、かつん、と靴音が響く。
    無言のまま、キッドは余裕そうにゆっくりと歩いて行く。
    時折ジジジ、と遠くから電気がこすれ合うような音が響いた。それは奥に見えるひときわ重厚な扉の奥から聞こえる。

    その扉を――キッドは、躊躇なく蹴り飛ばす。
    鉄製の扉はキッドの蹴りだけで破壊され、奥に吹き飛ぶ。
    がしゃんと重い音を立てて倒れた扉を踏みつけながら、キッドはそこに入りこんだ。

    そして――立ち止まり、天井を見上げた。

  • 106122/11/14(月) 01:33:57

    カレイドスコープ。
    例えるならばそれだろう。

    天井にはたくさんのパイプが連なっており、それが真ん中にある黒鉄の筒に集まってきている。
    その筒の先にはガラス玉のような球体がある。中が空洞になっているのか、その中にパイプが繋がっていて、その口から様々な色をした光の玉を生み出していた。
    生み出された光の玉は球体の中でぐるぐる回る。
    赤、青、緑、白―――まるで少女が見せた万華鏡のように、いっそ美しいとも思える光彩で。

    「………」

    それを見ながら、キッドは悪趣味だな、と思った。
    恐らくあの光の玉が、少女の生み出したエネルギーだ。
    光の玉はガラス玉の中で循環したあと、筒の中に消えていく。
    それになんの意味があるのかはわからない。恐らく発明者にしか理解できない理屈があるのだろう。
    だがしかし、どうでもいい。

    キッドにとって――その黒鉄色したカレイドスコープは、何一つ魅力を感じることがない、ただのありふれた兵器でしかないのだ。

  • 107122/11/14(月) 01:58:25

    今日はここまでにしておきます。
    いつも感想をくださりありがとうございます!!少女のことも好きになってくれて嬉しいです!
    また保守の方をどうかよろしくお願いします。

  • 108二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 05:44:17

    キッドがあまりにもかっこいい……!!!

  • 109二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 12:52:04

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 14:58:22

    キッドが格好良すぎる

  • 111二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 20:18:02

    本当にキッドがカッコよすぎる……
    続き楽しみにしてます!

  • 112二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 20:49:38

    キッドのこともともと好きだったのに更にどんどん好きになってしまう

  • 113二次元好きの匿名さん22/11/14(月) 20:53:37

    何気にタイトル回収ですね…!
    この後はキッドが大暴れするのかな…少女の父親は戦える人物なのかちょっと気になるな

  • 114122/11/15(火) 00:15:12

    目線を下げれば、その兵器の傍に凭れて座り込んでいるよれよれの白衣姿の男がいる。
    ぼさぼさの頭に分厚い眼鏡姿。痩せぎすで無精ひげを生やし、風呂に入っているかさえも怪しい小汚い男は、激しい音を立てて中に入り込んできたキッドに気付いているのか気付いていないのか、へらへらと笑いながら空中を見ている。
    腕には幾つも注射の痕がある。――恐らくヤクでも入れたのか。
    見るからに狂い病んだ男が、まるでそこに美しい幻覚でもあるかというように笑いながら目の焦点をがくがく震わせている。

    「は、はは、は 電力は空中分解を崩落が応じるそのように境界に追われずに分離帯に夢見る羊か? 羊か? は、ははは はは は」

    ――言っている意味がわからない。
    狂った、と言っても会話が出来るものと思い込んでいたが、なるほど。確かにこれは正しく頭がおかしい。
    キッドが目の前にいるというのに、まともに反応せず、自分の世界に籠っているのかやけに楽しそうだ。

    ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしりながら、黄ばんだ歯を剥き出しにして何やら口から複雑な計算式と、まるで文章として成立しない言葉をがなりたてる。それが酷く不愉快だ。
    少女の声が雲雀だとするならば、この男の声はただの雑音だ。
    多少なりとも会話をしようとしていた自分に気付き、キッドは呆れかえる。
    最初から、そんなもの必要なかっただろう。

    「はは ははは、は? ああ、もっともっともっと、増やして配線を混線が混じり噛み合うのだ。エネルギーだ、足りない、どこだ?」
    「ここにいねェよ」

    ばごん、と音がした瞬間、男は吹き飛ばされる。横っ面をキッドの手の甲で張り飛ばされ、宙に投げ飛ばされごろごろと地面に転がる。
    衝撃と痛みによってようやくキッドの存在に気が付いたのか、目の焦点がキッドを中心にして合う。

  • 115二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 00:16:36

    情景がスッと浮かぶ…

  • 116二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 00:24:49

    キッドが女の子の声をきれいだと思ってるの好きだ

  • 117122/11/15(火) 00:46:34

    「………誰だ?」

    ごもっともな質問だ。
    それに迷うことなくキッドは返答する。

    「あぁ――通りすがりの極悪人だ」

    その次の瞬間、部屋の四方八方からキッドに向かって光線のようなものが発射される。
    それを地面を蹴って後退し避けるが――なんとも反応速度が速い。
    いかれた男はふらふらとしながら立ち上がり、白衣のポケットに手を入れている。恐らくあそこで何かしらの機械を操作しているのだろう。にしてはなんとも正確で手際もいい。
    けれど、男の目の前に居るのは、それが通用する相手ではない。

    「はは、はは? 何しに来た。金か? 金という社会の齎す影響を大幅に悪化させる流通病は好きなようにしなさい私には不要なものなのだ」
    「そりゃ太っ腹なことだな。んでもそんなのいらねェよ」
    「なら何が望みかねねねねねね海賊諸君」
    「おれ一人しかいねェのに諸君ってなんだよ。おれの後ろに何が見えてるんだ」

    ――癖になったツッコミ一つ。いや、癖になりたかねえな、とげんなりする。

    かきり、こきり、と肩を鳴らした。
    男は再度攻撃する様子はなく、おれを見ている。正気だか狂気だか、今の男がどういった状態でキッドを認識し、どういう意識を持っているのかわからない。
    わからないけれど、別段、キッドが気にする理由などない。

    自然体なまま、キッドは不敵に笑った。

    「海賊ならやることは一つだ。――宝を奪いに来た」

  • 118二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 01:28:53

    「は ははは、は? たから、宝、宝、たか 宝? 私の妻、妻か。妻を奪いに来た? はは ははは?」

    さもおかしそうに男はけたけたと笑う。
    逆光のため眼鏡の奥の瞳が見えない。
    身体を仰け反るようにケタケタケタケタと腹から声を出して笑ってから、――元の体勢に戻る時、その口から笑みが消えていた。

    「―――――熱を持って蒸発しろ、害悪」

    何かを操作した。その瞬間様々な方向から数十、――数百もの光線がキッドを撃ち抜き、それこそ肉を蒸発させようと発射される。
    キッドはその場から動かなかった。
    まるで機関銃のようにキッドを中心に連続で発射されたそれらは甲高い音を鳴らしながら着弾していく。撃ち抜いて行く。蒸発させていく。

    男は終わった、といからせた肩を落とした。
    つまらないことで激昂してしまった。
    しなければならないことがあるのに、これはいけない、と再び思考の世界に入ろうとした。


    ばちり
    ばちり、ばちり、ばちり
    ばち ばち ばち ばち

    「―――――」
    「なァ、なんで勝った気でいるんだ? ――“その程度”で」

  • 119122/11/15(火) 01:57:29

    煙が晴れたキッドの周囲には、鉱石から精錬された黒鉄鋼鉄が浮かんでいる。
    は、と周りを見渡せば、不自然に弾き剥がされたような部品の痕がある。
    よく見ればキッドの周囲に浮かんでいるのは、彼を狙った光線の射出装置も混じっている。

    「悪いがな、おれは舐められるのが嫌いなんだ」
    「――?? ? ??? 理解出来ない。高速する旋回が入らずに万病の甲羅にして伝導率に削りが見られる放置に都に画素数が合わない??」
    「一言で言え」
    「………理解不能」

    部屋中の鋼鉄が剥がされ、キッドの周囲に集まるのを見て段々と焦った顔をし出す男。
    まるで真ん中にある兵器を守るように立ちふさがるが、どうでもいい。
    非力な発明家一人そこにいても、キッドの敵にはならない。
    金属を使った時点で――もはや、ここはキッドの独壇場なのだ。

    「………」

    懐から、小さな黒鉄鉱石を取り出す。
    それは手のひらに収まるほどの、採掘場に転がっているようなただの小石。
    けれど、その鉱石は不思議と発光し――黒色だからわかりづらいが――ばちり、ばちりと何か“エネルギー”のようなものが奔っている。


    『―――キッド』

    鈴の音が鳴る。弱々しい小鳥の声が耳の奥で響く。

    『キッド、お願い。ねェ、キッド』

    『お父様を、――パパを、止めて』

    そう言いながら差し出された“それ”を、キッドの手は、確かに受け取った。

  • 120122/11/15(火) 02:14:37

    今日はここまで。また保守の方をどうかよろしくお願いします。

  • 121二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 02:15:00

    素晴らしかった……

  • 122二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 03:45:20

    お父様のセリフがほんとに狂っちゃっててパ〇〇〇みを感じる……

  • 123二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 06:32:22

    うひん、続ききになう……

  • 124二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 10:09:27

    本当にキッドがかっこいい…
    続きを楽しみにしてます

  • 125二次元好きの匿名さん22/11/15(火) 20:24:24

    保守

  • 126122/11/15(火) 22:27:30

    保守ありがとうございます!


    >>122

    そこから着想を得てる。

  • 127122/11/15(火) 22:55:54

    キッドはその小さな小石を握りしめ、右腕を前に着きだす。
    その瞬間、周囲から鋼鉄がキッドの右腕を中心に集まりだし、様々な場所から引き剥がされた機械ごと一緒に纏わせていく。
    適当に、闇雲に腕に纏わりつかせるわけではなく、大きさ、形状を観察し、キッドの頭の中で正しく計算され、的確に当てはまる位置へと金属ががちりと嵌め合う。
    ばちり、と紫電が瞬いた。
    磁力だけではな“エネルギー”を身体中から迸らせながら、冷たい目で巨大なカレイドスコープを射貫く。

    「は はは? 何を、何をするつもりだ?」
    「知ってるか。天運はくたびれた狂人より、いい女の方を選ぶんだよ」

    そう言いながら、脳裏に少女の姿を思い描く。

    ――少女の恋は報われなどしない。
    天地がひっくり返っても、キッドが少女の恋に応えることはないし、少女はやがてもうすぐ死ぬ。けれど少女の死はキッドの傷にはなり得ないし、この先少女のことを一生忘れない、なんて殊勝なことなと言えない。
    ただのキッドの旅の中で、一時小鳥が肩に止まり、懐いただけのこと。
    海賊王になるという夢の途中、未来で荒れ狂うような事件がキッドの身に襲い掛かるうえで、やがて波にさらわれ遠くなっていく程度の出来事。

    けれどそれでも、――例えその程度の感傷しかキッドに生み出されずとも、それでも確約して言えることがただ一つある。


    力尽きるように、ベッドに倒れこむ少女に告げた言葉。

    『おれはお前の気持ちなんて知らねェし、応える気はねェ。でも、』

    『―――お前がおれに惚れたことは間違っていなかった。それだけは証明してやるよ』

    そんな、たった一つ。
    少女に告げられる、キッドなりの敬意の示し方だった。

  • 128122/11/15(火) 23:21:19

    ばちり、ばちり、ばちり!
    紫電が瞬く。
    キッドの周りに――キッドの右腕を中心に、強い電磁が溢れ、辺りを点滅させる。
    がたがたと周囲の機械がエラーを起こす。
    男がキッドに向かって攻撃をしようとするが、既にこの部屋の金属は全てキッドの手中。何をどう足掻いても、すでに男の敗北は始まる前から決まっている。

    「な、に、が なに? 赤い――髪の 男、が―――?」

    懐に手を突っ込んで鉛色の拳銃を取り出し、躊躇なくトリガーを引く。
    けれどその弾丸はキッドを貫くことには至らず、ただの金属であるそれは、キッドの周辺でぴたりと止まり、膨れ上がっていく機械の腕の中に収納されていく。
    まるで今何が起こっているのかわからない、というように呆然とした顔の男は、その不健康そうな顔をばちりばちりと瞬く紫電に照らされ―――そして、組み上げられていったそれに目を見開く。

    例えるならば巨大な砲身。計算し尽くされた金属が噛み合い、繋げられ、磁力による充填――そして、それを可能とする、少女から受け渡された、握られた小さな小石に込められた巨大なエネルギー。
    ――今のキッドは知らないことだが、二年後、皇と呼ばれる敵を撃ち落とすために生み出されたその技の、前身。

    今はまだ未熟と言える電磁投射砲(レールガン)。それが少女のエネルギーによって、強引な形で成立された。

    「や、やめ、やめっ、や、ひ、」

    男が前に身を乗り出し両手を広げるのにも構わず、キッドは凶悪に笑って、静かに告げる。

    「――電磁砲(ダムド・パンク)」

    それは、――呪いを払うような一撃だった。

  • 129122/11/15(火) 23:55:34

    ばぢィ!と熱を持つ電撃が部屋全体に行き渡る。
    みしみしと今のキッドの実力以上の破壊力を持つそれを、キッドはじゃじゃ馬を飼いならすように口の端をぺろりと舐めながら、左腕で右腕を掴む。
    眩しいくらいの発光。少しばかり目が眩んだ。

    「ひ、ひアアアアアアアアア!?!?! やめろやめろやめろやめろやめろォ!!!!!!!!」

    聞くに堪えない雑音(ノイズ)。そんなものは聞き流すのが一番だ。
    電気が擦れあい痺れるような激しい音がとにかく波動のようにみしみしと部屋を揺らし軋ませていく。
    砲身から発射された紫電を帯びた、磁力による熱光線。膨大な破壊力を秘めたそれは、真白い光を奔らせながら―――巨大なカレイドスコープを貫き、それどころかその背後の機械も、壁も、その奥にあったのであろう住居もまるごと破壊していく。

    その砲身は男を狙わなかった。普段だったら気にくわない男も一緒に攻撃に飲み込ませるはずだったが。
    ――それは、殺すよりも、生かす方がこいつには地獄なのだと、キッドは理解していたからだ。
    目や鼻から汚らしい液体を出しながら発狂する男を見れば、多少の気も済む。
    何かしらの事情あって、兵器を作り、娘を利用し、その命を丁寧にすりつぶし続けたのだろう。だがしかし、それを知るつもりはキッドにはない。知ろうとする意志も一ミリだってない。
    そんなもの、興味はないからだ。
    この男にはまあ大層な悲劇があったのだろう。だがしかし、それが自分となんの関係がある。何一つそれらはキッドの心を揺れ動かすことはない。

    ただ、哀れな狂人が、海賊の気まぐれによって全てを奪われた。それだけである。

  • 130122/11/16(水) 01:27:45

    半壊した工場。およそ生活用品を作る方は無事だが、その他以外は見る影もない。
    持って行かれそうだったな、と先ほど感じた力の噴出を思い出しながらキッドは剥き出しになった自分の腕を見る。
    なるほど、ルギルギの実の力は思っていた以上に有用らしい。少なくとも、兵器に転用するなどという考えさえ浮かんでしまうほどに。

    硝子は砕かれ、溜め込まれていたエネルギーは行き場を無くして全て霧散する。
    大穴が空いたカレイドスコープは、最早覗けるものは何もない。哀れな心中用の兵器はもう二度と復活できることはないだろう。
    男は破裂した金属の破片によって身体中をボロボロになった状態で膝をついている。何が起こったかまるで理解していないように呆然として、口からまた意味のあるかどうかわからない言葉を羅列している。
    最早壊れた男に用など無し。キッドは背を向け、その場を後にする。

    「あ、あああ あは そうだ、あの子を もう一度燃料を、偶像に伸縮する崩壊に巻かれる! 嗚呼崩落に希少性の高い蛾の被害が万年の大いなる欲望の」

    ――聞こえてきた言葉は、やはり意味がわからないけれど、話す言葉のどこかに再び少女を利用しようとするような文脈が見られた、が。それも無駄なことである。
    恐らく、間もなく少女は死ぬ。
    父親の手によって使い潰された代償として。

    ……まさか、それをあいつは理解していないのか?と振り返ろうとして、やめた。
    最早奴に残るのは破滅だけだ。それ以上を思考するのももったいないとすら感じる。

    「にしても、つまらねェ男だったな」

    もうキッドには、男の顔すら思い出せない。

  • 131122/11/16(水) 01:36:50

    今日はここまでにします。また保守お願いします。
    終わりももうすぐ近いはず。

  • 132二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 11:11:50

    キッドが本当に本当に格好良くて最高です!!

  • 133二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 17:13:13

    キッドは曇りません、っていうのが勝手ながら解釈一致で嬉しい~って読み始めたけど思った以上にキッドの解像度が高くてすごい…すごい…
    キッドかっこいいし女の子ちゃん死んでほしくないしキッドかっこいいです…

  • 134二次元好きの匿名さん22/11/16(水) 17:35:13

    今まで読んだSSの中で一番好きかもしれない。キッドが電磁砲撃つシーンがめちゃくちゃかっこいいです……!

  • 135122/11/17(木) 00:06:02

    「―――きっど……?」

    日は沈み、夜も更けた頃合い。白いベッドに沈む少女は、扉が開く音に反応して振り向く。
    傍にいた軍医はキッドの顔を見てから、沈んだ顔で首を振ってから、通り過ぎるように出ていく。
    少女が恋い慕う相手が来たというのに、仕草も動作もひどく緩慢だ。瞳の焦点が合っていないことから、ちゃんとキッドが見えているかどうかさえも怪しい。
    それでも、キッドがこの部屋に入った瞬間、気付いたように振り向いたし、その名前を呼んだ。だからキッドは間に合ったか、と思ったのだ。

    黄昏の頃に比べて一気に弱ったと思える。いつもより遅く来た分、父親に何かをされていたのかもしれない。限界許容量を超えてエネルギーを搾取されるようなことをされ――そして、それでも、死にかけの身体を引きずってキッドの前に現れた。そしていつもと同じように笑って見せた。その根性は評価したい。

    「おい、外に出るか」

    少女は不思議そうに首を傾げる。
    それにキッドは一見あくどく見える、――けれど、知る人から見れば、充分優しいと言えるような笑みを浮かべ、

    「デートしてやるよ」

    と言った。

  • 136122/11/17(木) 00:08:43

    ×軍医→船医です。すぐ誤字するのやめな……。

  • 137二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 00:40:36

    あぁ……いい……デート……

  • 138122/11/17(木) 00:41:56

    キッドに抱き上げられた少女は、その太い首に細い腕を回しながら嬉しそうに微笑んでいる。
    夜空は雲一つない故に満天の星空が広がっていた。
    遠くの方に――灯台が見える。恐らく灯台守の青年が灯りをともし、夜の海を渡る船を導いているのだろう。

    「ねぇ、キッド。人は死んだら星になるのかしら
    「さあな。死んだことねェから知らねえ」
    「ふふ、そうね。私が教えられたらいいのに」
    「無理だろ」
    「冷たいわ! レディには優しくしてほしいわ!」

    そう文句を言うが、けれどすぐにそれは笑みに変わる。

    「でも、私、星より鳥がいい。鳥になって空を飛ぶの。そうしたらキッドの隣もくるくる飛べるわ。ぴいぴいくるくる、色んな歌をうたうの。どこまでも、どこまでも飛んで行って――そしてキッドが海賊の王様になるのだって、見届けられる」

    少女は、星に向かって手を伸ばす。
    それは遠すぎて――決して、届かないものだけれど。

    「キッド、私、キッドが好き。夢を見る姿が好き。全然振り返ってくれないところが好き。きっと、私のことなんていつか綺麗さっぱり忘れちゃうところが、好き」
    「………」
    「海賊王になってね、キッド。私、追いかけるから」

    そう、夢を見る少女。
    少女が地を駆けるべく必要な足は、既に欠けている。

  • 139122/11/17(木) 01:00:19

    「―――ああ」

    少女の願いに、キッドは答える。

    「追いかけて来いよ、待ちはしねェがな」

    その意地悪な返答に少女はひどいわ!と笑う。
    笑って、目を閉じて、それから開いて――キッドの顔を焼き付けるように見つめる。

    「キッド、ありがとう。色々、あるけど、でも、全部ありがとう」
    「なんだそれ」
    「全部言ったら、時間が足りないもの」

    そう笑う少女の胴体は半分消えている。既に半透明になった彼女の身体は、エネルギーとして宙に拡散していく。
    エネルギーを生産するために、肉体を、内臓を消耗しすぎた彼女の、確実なる死だった。
    もう身体を繋ぎとめることは出来ない。むしろ、よく保った方だ。
    耐えることに酷い苦痛を感じていただろうに、それでも“恋”というパワーだけで生きていられた。

    もう、少女の身体は死んでいる。
    会話が出来ているのは、少女の意思故だ。

    「キッド、ねぇ、キッド」

    甘えるような声で、目をとろりと細め、幸福そうに笑う。

  • 140122/11/17(木) 01:16:03

    「大好き。私の恋人になって」

    そんな風に、ねだるように告げられた、少女の最期の告白は。

    「悪いな、断る」

    そんな、極悪非道の海賊によって、あっけなく散る。


    「……………ふふ」

    それでも。
    それでも、少女は心底幸福そうなままだった。
    初恋は叶わず、そして今にも自分の思考すら潰える少女は――キッド越しに星を見上げる。
    片目から雫が一粒、こぼれ落ちた。

    「知ってるわ。でも、今まで聞いてくれて、ありがとう」

    これまでのことを思い返す。思い返して、全てが少女にとって幸福そのものな日々で、だからこそすべてが報われていたのだと、そう思えるのだ。
    キッドは黙っている。黙って、少女を見つめている。

  • 141122/11/17(木) 01:16:26

    「ひとは、万華鏡、って、ママが、いってた」

    少女の身体が薄らぐ。拡散していく。結びめが解けるように切り離される。
    キッドは抱きかかえた体勢のまま動かず、やはり少女を見ていた。
    その視線を、少女は受け止め、そして見つめ返す。

    「……ほんと、ね。どんなすが、たも、すてき」

    力なく伸ばされた腕が、キッドの頬を撫で、そして消えた。
    もう、終わりの時なのだろう。

    「さ、よ、なら、き、ど」
    「……ああ、じゃあな」

    別れの言葉に、少しだけ寂しげな顔をしてから、それでも笑う。

    「あな、た、を、すきに、な、れて、よかっ、」

    た、と。最後の一音。
    それだけが僅かに空気を震わせる。
    最早キッドの腕の中には何もない。エネルギーは、拡散し、空気に溶けた。
    もう戻ることは無い。

  • 142122/11/17(木) 01:37:03

    今日はここまでにします。次の投稿で終わりかも。
    また保守の方どうかよろしくお願いしたいです。
    にしてもこれ夢小説に見えたりするんだろうか。好き好き言わせているけど。定義わかんない。

  • 143二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 01:41:29

    なんというか

    綺麗だ…

  • 144二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 01:42:38

    素晴らしいものを読んだ

  • 145二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 08:49:04

    キッド女の子に甘い嘘つかない キッド女の子のこと待たない でもキッド女の子の話ちゃんと聞く 好き
    カタコトになってしまう……

  • 146二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 09:10:13

    不思議な終わり方ですがすごく好きです

  • 147二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 09:26:53

    女の子パラミシア系かと思ったけど終わり方は自分の形を保てなくなってしまったロギア系っぽい感じもする
    あんなに明るい恋する少女がこうやって密やかに息を引き取るの胸にくるけどやっぱりキッドかっこいいな…次でエピローグかな

  • 148二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 12:32:46

    スレ主が意図してるかはわからないけど、リクエスト扉絵の頭に鳥の巣作られてるキッド思い出してじんわりきた

  • 149二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 12:47:17

    電磁砲はビームじゃ…
    いやこれは女の子の能力借りたエネルギー波だからいいのか?

  • 150二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 12:47:58

    「全部言ったら、時間が足りないもの」でボロッボロに泣いてその後泣きながら読んだ……
    涙脆くもないしこんなに泣く予定じゃなかったのに……

  • 151122/11/17(木) 17:23:31

    キッドを格好よく書きたい、と思いつつも、自分のかっこいいと人のかっこいいは違うものだから、こうして感想もらえると超嬉しい。


    >>149

    二年後のダムド・パンクの前身って思ってほしいれす。

    現時点では少女の父親がキッドに向けて撃った熱光線と原理は一緒。

    少女のエネルギーによって無理やり作りあげたものだから、厳密には違うかもしれないけれどやがていつかはちゃんとしたレールガンになるはずなので……いや創作だけれども。

  • 152二次元好きの匿名さん22/11/17(木) 19:47:31

    物語が始まった時にはもう手遅れだったっていうタイプの話辛いんだけど明瞭簡潔な1のおかげで心構えはできてた
    女の子ちゃん命が救われる分岐は既になかったけど最後の最後にめちゃくちゃいい男に恋をしたなぁ…

  • 153122/11/17(木) 23:44:00

    解けた身体の破片が全て消え去るまで、キッドはその場に立っていた。
    消え去った後も、しばらく濃紺の海に広がる星々の光を見つめ――、ふう、と息を吐いてその場から立ち去る。
    小鳥の鳴き声は、もう聞こえることはない。
    しんと静まる夜だけがそこにあった。


    思うところが無いわけではないが、それがキッドを立ち止まらせるほどのことでもない。
    立ち寄った島で、ちっぽけで、けれど夢を持った少女が利用され、死んだだけのこと。
    この世界じゃそんなことはごまんとある。
    そんな通りすがりの死でいちいち悲しみに暮れるほどキッドは他人への愛に深いわけではない。

    ただ、あえて言うとすれば。
    笑って死なせてやることが出来たな、と思うくらいには、少女のことが気に入っていたのだろう。

    無念の内に死んだであろう、かつての親友を思い出す。
    ……姿は多少似ていても、やっぱり似てねえな、と笑った。

    「おれにしちゃ、らしくないが」

    死後の安寧を望むなんて、そんな自分には似合わないことを考えたのは、これで二度目だ。

  • 154122/11/18(金) 00:19:34



    ――出航する日は晴天だった。

    工場が破壊されたことに島の住民は驚き、さらには武器や兵器が中で作られていたことに騒然となった。
    何故こんな事態が起こったのかキッドたちへの疑いの目がかかったが、街の人々は口を噤んでいる。
    それはキッドたちへの恐怖もあったし、工場で作られていたものが露見したきっかけを作ってくれた感謝もあった。けれども海賊だというキッドたちの性質上、向けられるのはマイナスの感情ばかりだ。
    けれどもそんな目線を気にせず、キッドは船の準備が整うのを横目で見ながら、ボラードに座って海を見ていた。

    大きくあくびをする。一見物思いに耽っているように見えるが、その実考えていることは、航海士に聞いた海の順路と、これから向かう島についての情報。航海していくうえで自分たちには必要なこと。それから船に備えておく武器や資材。
    船長ではあるが、能力や元々の趣味も相まって武器の必要数やリストについてはキッドに一任されている。手入れに関しては他の船員と共に自らも率先して行いもするのだ。航海の上でどんな敵が襲い来るかわからない。豪快ではあるが、備えを怠るほど無謀な男ではない。

    そんなキッドの元に、一人の影が近づく。

    「あの」
    「あ?」

    急に声をかけられ、反射的に威圧するが、威圧された方は怯えたように素早く近くにあった樽の後ろに隠れた。

  • 155122/11/18(金) 00:52:29

    「す、すすすすみませんおれみたいな小市民が話しかけて」
    「そう委縮される方がうぜェ」

    話しかけてきたのは、灯台守の青年だった。
    何を思って自分に話しかけてきたのか。この尋常じゃなく怯えた様子に怖がっているのは確かだろうが、逃げる気配がないところから、ちゃんと用があるのだろう。
    単純に気になったキッドは続きを促すように顎をくいっと動かす。
    その動作の意味を正しく理解した灯台守は、恐る恐る樽から離れてキッドの前に立った。

    「あの……その、お礼を、言わせてほしくて」
    「あ゛ぁ? 別にお前に礼を言われることなんてしちゃいねェよ」
    「それでも、です!」

    まるで口答えするようにキッドの声に被さる。

    「おれ、まあ若い衆の一員だから工場の方を見に行ったんですけど……武器が沢山製造されていた奥に、本当にでかい大砲が、大穴が空いた状態で転がってて……、おれ、灯台の整備をしたりするから、少しだけ機械のことがわかるんですけど、これ多分、“下に向けて”発射されるような装置でした、よね」
    「………」
    「あんたは海賊だ。ヒーローじゃない。だから、おれは都合のいいことは考えないし、気まぐれで起こされたことだったかもしれない。だけど、結果的におれたちも助かったことは確かなんだ。だから、おれがしたいから、おれの勝手で、あんたに礼を言いにきました!」

    啖呵を切るようにそこまで言い切ってから、冷や汗を流し始める。格好つかねェ男だな、と思いつつも、その小市民がこうして見るからに凶悪な海賊相手に一人でやってきた事実に、ク、と喉から笑い声が零れる。

  • 156122/11/18(金) 01:15:15

    「じゃあなんだ、礼の代わりに面白い話でもしてくれんのか?」
    「ヒェッ……か、海賊の無茶ぶり……!? おれはしがない灯台守なんで……! お許しを……! せ、せめてお金とかなら」
    「冗談だ。感謝される謂れはねェし、お前らに何も求めねェ。それにもうすぐ出航するんだ。これ以上の荷物はいらねェよ」
    「だ、だったら」

    キッドが立ちあがり、船の元へと行こうとする。
    けれど、その背中に灯台守が声をかける。

    「だったらおれ、今日灯台に明かりを灯すとき、あんたらの航海の無事を祈ります!」
    「はあ? そりゃなんの意味があるんだ」
    「何言ってるんですか、灯台守の祈りは特別ですよ。灯台はなんのためにあると思ってるんですか。漁師も海軍も海賊もひっくるめてまとめて、“船乗り”たちのためのものっすよ。灯台は海上の篝火。当てもない夜の航海の拠り所。じいちゃんから教えられてるんです。そんなおれたちは、船の無事を祈るために灯台に登るんだって」

    だから、そんな灯台守が個人の船に祈る。特別以外の何だっていうんです。堂々とそう言ってのける灯台守に、キッドはきょとんとした顔をしてから……にやりと笑った。

    「面白い話、あるじゃねェか。確かに格別だな」

    それだけ言ってから、今度こそ振り返ることなく船へと向かう。
    ひらり、と。背を向けたまま、軽い調子で手のひらが振られた。

  • 157122/11/18(金) 01:30:29

    船が出航する。完璧な修繕が為され、黒鉄鉱石も詰め込んだこの船は、次の島に向けて舵を取る。
    甲板で風を浴びているキッドに対して、キラーが横に並び立つ。

    「気分はどうだ、キッド」
    「さァな」
    「そうか」

    言葉少なだったが、キラーはそれ以上何も言わずに、一度だけ島を振り返る。
    例え少女が元気だったとしても、航海には連れていけない。それはキラーも同じ意見ではあるが。
    それでも、キッドの傍で騒がしい小鳥のように飛び回る少女は、キラーから見ても微笑ましかった。
    その光景が見れないのは寂しいものがあるな、と感傷に浸る。
    この時ばかりの一瞬の感情であろうが、それでも。キッドと少女の組み合わせが愉快だったのは確かなのだ。

    ――――遠くで、カモメの鳴き声が聞こえる。
    空はどこまでも続いていて、その先をカモメが飛んでいくのが見えた。

    この船もやがて、果てまで至るのだろう。
    そう思うと、遠い空が近く思えたような気がした。

  • 158122/11/18(金) 01:30:48



  • 159122/11/18(金) 02:01:58

    ―――二年後、海上にて。

    甲板に立ち、船員に指示を出しているキッドを狙う、小さな影がある。
    それは上空から、一直線にキッドへと向かい―――飛びつくようにキッドの後頭部に突っ込んだ。

    「ぐぉっ!?」
    「クェー!」
    「てっ、めェ! ちゃんと普通に新聞届けろって毎回言ってるだろ!!」
    「クェッ、クー! キュッ、クァー!」
    「やかましい!」

    キッドが苛立ったような顔で腕を奮えば、カモメはひらりと交わして近くの欄干に降り立つ。
    水平帽を被り、赤い鞄を下げた小さなカモメ――ニュース・クーは、何が楽しいのか歌うようにくぇー、と鳴く。

    「相変わらずキッドに殊更に懐いているな」
    「毎回後頭部に突撃してくるのはなんなんだ」
    「愛情表現なんじゃないか?」
    「こんな愛情表現はいらねェわ」

    心底勘弁してほしい、という顔をするキッドを横目に、キラーはファッファッファ!と機嫌よく笑い声を上げながら、ニュース・クーに金を支払い、新聞を受け取る。

  • 160122/11/18(金) 02:22:37

    「なぁ、キッド、覚えているか? 昔小さな島に立ち寄って、鉱石を取りに行ったこと」

    もうキッドたちがその鉱石を使用することは無い。新世界にあの鉱石は軽すぎる。
    キラーは懐かしむように目を細めながら、人懐っこいニュース・クーを撫でる。
    撫でられて満足したその鳥は、今度はキッドの肩に降り立って、懐くように自分の頭をキッドの頬に擦り付ける。

    「あの時、小さな女の子に一目惚れされて、困惑していたお前のこと、正直愉快でたまらなかった」
    「ほんっとお前大概良い性格してるよな!」

    懐いてくるニュース・クーを煩わしそうに振り払えば、名残惜しそうにきゅう、と鳴いてから、キッドの頭に止まる。違う、そうじゃねェ。その上キッドの頭の上で自分の羽先を整わせ始めた。毛繕いするな。

    「つまりはだ。その時と似ているな、と言いたかったんだ。見ればこのニュース・クーは若い鳥だろう?」
    「はー……知らねえ。忘れた。お前もさっさと仕事に戻れ」
    「クェー!」
    「うるせェ! ぴーちくぱーちく喚くな!」

    ニュース・クーはいけず!と言うかのようにくちばしでキッドの髪を引っ張り、数本ぶちぶちと千切りながら空に飛び立つ。
    てめェ!とキッドが怒りの声をあげるが、なんのその。
    高く高く飛ぶ、その鳥は関係なしと、優雅に青空を泳ぐようにくるくる回る。
    何とも自由な姿だ。

  • 161122/11/18(金) 02:40:51

    「ったく。おれは部屋に戻る。おいキラー、新聞よこせ」
    「ほら。後で見せてくれよ」
    「わぁってるよ」

    キラーから新聞を受け取ったキッドは、その場を後にする。
    ニュース・クーは暫く空を旋回した後、己の使命を果たすために次の船へと向かう。
    その姿をキラーは暫く見送る。
    口元には、笑みが浮かんだままだ。


    キッドは自室内にある椅子に座り、新聞を机の上に置く。次の航海のために、航海士に用意してもらった地図を取ろうとして、――その直前、気分が変わったのか地図がある場所を通り過ぎ、すぐ近くにある棚からとあるものを取り出した。
    縁の部分にガラスが付いている薄い筒。
    それを生身の右腕で持って、目元に当てる。
    筒の中を覗けば、万華に広がる幻想的な光景が、その世界の中にはある。

    「……女の感性あってのもんだな、これは」

    派手なのは好きだが、毎回キッドの作り出すものは鉄色をしているから、こういった繊細な美しさのものを製作することはほとんどない。
    それにこれはちまちまとビーズやら透き通った石やらを封入して作るような代物だ。まずそういった資材を購入することはない。
    だから、きっと。この船にある万華鏡はずっと、これだけのままなのだろう。

  • 162122/11/18(金) 02:49:51

    カモメの鳴き声が聞こえる。
    その声はどこか――少女のきゃらきゃらとした笑い声に似ている。

    覗いていたそれを、元の場所にしまったキッドは、ようやく新聞を手に取り読み始めた。
    切り替えられた頭はもう、万華鏡など見向きもしない。



    怒る姿。笑う姿。呆れる姿。
    ニュース・クーを振り払う姿。相棒であるキラーに対する姿。
    万華鏡を覗き込む姿。新聞を読む姿。
    ――何かを思い出すように、口角を上げる姿。

    人は万華鏡だ。
    鉄色をしたカレイドスコープは、今日も移り変わる、二度はない表情を生み出しながら生きている。

    どこまでも続く海の果てを目指しながら。
    夢を追って、生きている。

  • 163122/11/18(金) 02:52:02

    くろがね色したカレイドスコープ

    おしまい

  • 164122/11/18(金) 02:53:28

    以上です。お付き合いくださりありがとうございました~~~。
    自分の中のかっこいいキッドを書いた書いた。
    何か質問あったらまた明日答えます。

  • 165二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 03:00:30

    最初から最後までかっこよかった!

  • 166二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 05:24:04

    名作

  • 167二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 07:17:42

    キッドを万華鏡に重ねているのがタイトルも合わさって秀逸過ぎる………

  • 168二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 08:10:00

    面白かった!女の子がキッドのかっこよさを存分に引き出してる展開も最高だったし女の子の口から語られるキッドの良さにもすごい頷いてしまった
    特に夢属性はないはずだけどこの女の子と一緒にキッドの活躍上演会ワノ国編とか鑑賞してキッドいいよね…いい……!ってしたくなった
    キッドの怒りポイントも評価ポイントもすごいぽくて好きだし女の子の父親の悲劇に興味を示さないのもぽい
    腕の中で女の子ちゃんが死んでも進路も変えないし立ち止まらないし傷にもならないけどもらった万華鏡手放したりもしないんだよね好き
    これからのこと考え始めたらもう頭切り替わってるとこも好き

  • 169二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 08:47:49

    乙でした!
    キッドがかっこよかったです!

  • 170二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 10:28:24

    内容と進行速度的に途中感想言いにくくて静観してたごめんね、毎日面白かったよ

    構成とか設定的にREDの対になるように作ってあるのかな?
    助けるなんて言わないし夢も見せてくれないけどお別れが言えて置いてはいかないキッドいいね

  • 171二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 10:52:28

    初めてssスレ最初から追ってたんだけど、本当に最高でした……!
    人物の動きも周囲の状況もわかりやすくて、まるで映像で見てるかのような感覚でした……素敵な作品をありがとうございます!

  • 172二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 17:34:30

    >ただのキッドの旅の中で、一時小鳥が肩に止まり、懐いただけのこと。海賊王になるという夢の途中、未来で荒れ狂うような事件がキッドの身に襲い掛かるうえで、やがて波にさらわれ遠くなっていく程度の出来事。

    キッドにとってのこの一週間、基本これなんだろうなって思うけど寂しいだけの話じゃなくて素晴らしかった。直後のセリフも粋で好き。万華鏡の一期一会感と合わせて尊い

    ところでニュース・クー達はたくましいし愛嬌もあるしで可愛いよね…ガンガンいこうぜな個体ちゃんと髪の毛持ってかれるキッド見てたぶんキラーさんと同じ顔になりました好き

  • 173二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 18:44:19

    一般灯台守くんが二度目の無茶振りで見事に期待に沿えてるのいい味出してくれてて好き
    キッドは島の人達に感謝されようが疎まれようが関係ないんだろうけど、島を出る時のフラットな感情が最後にちょっとだけ「悪くない」の方に傾いた感じで
    それからニュース・クーの「クェッ、クー! キュッ、クァー!」が飼い主さんに向かってすごい喋る鳥とか猫みたいで可愛い ラフテルまでずっと追いかけて新聞届けてくれ~!

  • 174122/11/18(金) 22:24:15

    最後なので全レス返信しちゃう


    >>165

    ありがとう!かっこよく書けていたのなら嬉しい!


    >>166

    名作判定ありがたすぎる。


    >>167

    黒鉄色のカレイドスコープ(兵器)

    鉄色のカレイドスコープ(キッド)

    ダブルミーニングが好きなの…オタクだから…


    >>168

    上映会し出したら少女は序盤キャーキャー言ってサイリウム振るけど、最高潮のあたりで無言のまま凝視してそうですね。

    キッドの傷にならない少女ですが、それでも一定の敬意を持っていたキッドです。


    >>169

    語り継がれたやった!

  • 175122/11/18(金) 22:37:39

    >>170

    感想はモチベになったりするのでね、また見かけたらたくさんちょうだい。SS書きは感想乞食。でも毎日読んでもらえて嬉しいです!

    REDの対としては考えてはいませんでした。ただキッドが小島に立ち寄っただけの小さな出来事の話です。


    >>171

    最初から見てくれてありがとうございました!描写を褒められると純粋に照れる。


    >>172

    キッドはこの日の事を忘れますし、航海の途中の出来事としてしか記録されませんが、それでも少女の渡した万華鏡はちゃんと保管されるし、それを見てふと時折耳に囀る喧しい小鳥の鳴き声を思い出したりします。少女にとってはそれだけで十分なほどキッドは良い男だったので、やはり間違いではありませんでした。

    ニュース・クーはすさまじく迷惑だと思いつつ可愛がってる…はず……。


    >>173

    一般灯台守は後日30億になった見知った海賊のことを手配書で知り、恐れおののきつつ記念に灯台に貼ったりします。

    ニュース・クーはキッドに滅茶苦茶懐いているので逃がしてなるものかと着いて行きます。健気!!!キッドは超迷惑。

  • 176二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 22:45:04

    変なタイミングでごめんなさい、感想を言わせてください!
    このssでキッド好きになりました
    いい男すぎてズルいです
    他の方と被るけれど、曇らないし傷にならないくせに万華鏡持ってるの本当に好きです
    ほんの一時、小鳥に肩を貸して飛び立たせてやった男の話
    ありがとうございました

  • 177二次元好きの匿名さん22/11/18(金) 22:46:35

    あまりにも解釈一致のキッド…
    やっぱりユースタス"キャプテン"キッドは最高にかっこいい良い男だ

  • 17817022/11/18(金) 23:33:48

    >>175

    おや違ったか、符合/対立要素あるからそうかなと

    ならスレ主のSS劇場版風エミュが上手いんだな

    キッドにとってはただの番外でそんな壮大な話じゃないんだろうけどね

  • 179122/11/18(金) 23:50:15

    >>176

    感想に変なタイミングとか無いです! 読んでもらえてこんなに嬉しいことはない。

    キッドを良い男だと思ってくれて嬉しい。バカのミンクだけどかっこいいんだ……。


    >>177

    解釈に合ってくれて助かる……。

    キャプテンと名前に付く男だけありますよね。


    >>178

    返信にさらに返信は無粋かもしれないけど、劇場版風エミュが上手って言ってくれて嬉しかったからお礼だけ言わせてください、ありがとう!

  • 180二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 00:43:06

    完結お疲れ様でした〜!
    前だけ見てるキッドかっこよかったです、少女の押しの強さと天真爛漫さに和み、他人事とひとり愉快気なキラーには笑わせてもらいました…
    少女の命は儚かったですが最期にキッドと居られて幸せを感じられたんだろうなぁ
    素敵なSSありがとうございました…!

    実はまともにキッドを描いたことがなかったのでスレ画を参考に…チューリップヘアって難しいですねぇ

  • 181122/11/19(土) 02:37:04

    >>180

    神絵師ありがとう。このスレも見に来てくれて嬉しいです。

    キッドの横顔かっこいいがすぎるし、後ろでお茶目にこっそり笑っているキッドのお茶目さもすごく好きです。

    素敵なイラストをありがとうございます!!!

  • 182二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 12:11:22

    あげ
    タイトルが掲示板SSぽくなくて忌避してたけど前作面白かったから読んだら面白かった

    せっかくだから質問するが、女の子のエネルギーは「エネルギー」っていう概念みたいなもの?それとも文字どおり生命エネルギー的なものなのかな

  • 183122/11/19(土) 13:29:39

    >>182

    タイトル覚悟の上だったけど、それでも読んでくれて感謝……。


    エネルギーですが、両方というべきか。

    ある程度少女の体内にそれなりの量を生成できて、生産された分だけ使えば特に問題なしなんですが、今回の場合酷使して無理をしたため、トラ男のオペオペの実のように使いすぎると命削るような形で、限界を越えると別のものが置き換えられるイメージ。

    なので生命エネルギーとかもそうですね。栄養が置き換えられたり、骨が脆くなったり、内臓の動きが鈍くなったりしてました!

    ところどころ少女がこけたり倒れたりしてたのは、そのせいでもあります。

  • 184二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 16:14:17

    >>183

    自然エネルギーみたいな概念生み出す超人系なのかな

    そう考えるとジキジキとお揃いだったんだなぁ

  • 185二次元好きの匿名さん22/11/19(土) 23:20:00

    保守

  • 186二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 02:58:57

    応援しながら読ませていただきました~~~!
    傷をつけさせてくれない人間が好きなのでかなりオーバーキルされました。その後傷にはならなかったけどふと万華鏡を覗いて口角を上げるキッドに情緒をぐちゃぐちゃにされました。良作をありがとうございます。
    ワンピの男は皆海の男なのでそういったタチの人は多いですが、少女とのやりとりではキッドでしか出せない魅力があって最高でした!文も読みやすく、クスっと笑えて、どんな場面でも鮮やかに情景や心情が伝わってきて素晴らしかったです!
    「かつて喪った親友の面影」が少女になければ関りも、少しの気遣いもなかったというのが、なんというか、ささやかで切なくて、少女的に言えば運命的で素敵だなぁと思いました。住む世界も違うし、夢も全然違うし、見てる視点も到底同じにはなれない二人が分かり合えずとも短い間お互いを思いあえたのが…安易な言葉に頼ってしまうとエモさの極みでした。少女の名前が最後まで出ないことも、キッドにとってあくまでとある島にいた一少女、といった雰囲気で素敵でやんした…

    個人的にはキッドが最後の少女の告白を断るシーンが大好きです。
    一世一代の告白に対してのキッドの返答が、あまりに平常通りに素っ気なくって、読んでてこっちまで「ずるいなぁ…!」と思うぐらい色男のそれでした。全文を通して言えることですが、スレ主様のキッドは一人の男としてのかっこよさと海賊としての凶悪なかっこよさがあふれ出ていて悶えてしまいます…!
    それと少女の父親の工場を襲撃した後の「もうキッドには、男の顔すら思い出せない。」という文が、少女の人生を縛っていた人物に対してあまりに『海賊』だなぁ…と。少女にとって人生の要だった人物も、キッドから見たらただのつまらない男、で二人の差に少し切なくなりました。その後の「デート」で持ち直しましたが。

    自分は元ネタのスレを知らないので0知識でわくわくしながら読ませていただきました!一日一日の更新をこんなに待ち望んだSSは初めてです!タイトル回収の場面は本当に震えました…。心揺れる作品をありがとうございました!どうせなら感想ぶちまけようと思ったら馬鹿みたいに長文になってしまいました…すみません…。

  • 187二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 03:41:44

    解釈が一致しすぎてほんとに好きです……この男ー!てなるのがもうほんとに……

  • 188二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 12:35:20

    熱量のある感想にスレ主でもなんでもないのにニコッ!ってなっちゃったな
    キッドのメンタルがすっごく硬くて一本筋が通ってて読んでて惚れ惚れしました!会えたのは一日おきだけど女の子ちゃんにとって夢のような一週間だったろうなぁ...

  • 189二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 15:06:43

    キッドは女の子ちゃんが不自由に縛られてる事には嫌悪感を抱いてたけど元凶(過去)の悲劇自体には深入りしないっていうところにとてもらしさを感じる
    女の子が父親を一人にできないと思ってたり父親の作る兵器が万華鏡みたいな形だったりと母親が亡くなるまでは幸せな家族だったのかな…?
    女の子とキッドの合体技みたいな攻撃が呪いを払うような一撃って表されてるところぐっときました

  • 190二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 15:35:10

    最期のデートシーンキッドがキッドらしいままロマンチックな雰囲気を感じてズルくてびっくりしてしまった
    女の子にデートって言葉を使ってレディ扱いすることろ本人には直接言ってないけど「いい女」って認めてるのを出してて「もしキッドがその腕を無くしたら~」あたりのシーンも含めてすごい好き...

  • 191122/11/20(日) 16:07:43

    >>186

    たっぷりの感想ありがとうございます!エネルギー感じて嬉しい……。

    ドルヤナイカ嬢のことがなければキッドはそこまで少女に見向きもしなかったし、夢を語る少女がいなければキッドはその夢を閉ざした男に腹立つこともなかった。けれど別にそこまで入れ込むことはなく、憐れみ少なくある種敬意をもって見送る、なんかそういうエモさとスレ主の思うキッドの格好よさをこう……詰め込みたかった……(ろくろを回す手)

    少女の名前最後に出すか迷ったけど、やっぱり出さないを貫き通してよかったでやんした! ここはキッドがただひと時滞在した島、なだけなので……。


    >>187

    解釈一致してくれて助かる。三馬鹿もいいけどこういうニヒルなキッドも浴びたい。


    >>188

    キッドに会う前に死のうとしていたのに、キッドに会ってまだ死にたくないと思う程度には、恋していた日々は少女にとってハッピー満載な日々でした。

  • 192122/11/20(日) 16:13:12

    >>189

    お父様の過去とか幸せだったころとかどうしてこうなったかとか、そういうのも書こうと思ったけど、でもキッドにとっては取るに足らない存在にしようと思って、戦闘もそこそこに一発で退場させる形にしました。この島は通過点。

    呪いを払う攻撃、少女の呪いも晴らした側面もありつつ、ダムドパンクのダムドの意味が、呪わしい、とか忌々しい、とかそういう意味があるのでこう、ろくろをこねて……。


    >>190

    キッドは乙女心に理解はありませんが、生きざまがかっこいいので、キッドがすることは格好いいんだというファンの主張。少女がキッドに惚れたのは本当に間違いがなかった。

  • 193二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 19:23:13

    キッドかっこよすぎて惚れてしまう
    同情もしないし善意で助けてあげるつもりであるわけでもないけどそれでも彼がやりたいようにやったその結果が女の子にとっての光であり救いになったのがとてもキッドらしい印象で超良かった

  • 194二次元好きの匿名さん22/11/20(日) 22:02:39

    推しがめちゃくちゃいい男でした…
    素晴らしいSSをありがとうございました……

  • 195122/11/21(月) 01:56:20

    >>193

    ありがとうございます! キッドは身内には情に厚くて、では身内以外なら?と思いつつこういった形になったのですが、それが結果的に女の子の救いになるような、生きざまがかっこいい男を目指してます!


    >>194

    いい男と思ってくれてありがてえ。こちらこそ読んでくれてありがとう!!

  • 196二次元好きの匿名さん22/11/21(月) 02:42:47

    変に優しい嘘をつかないところや少女へのイイ感じの素っ気無さ、どこを取っても強く筋の通ったキッドらしくて読む手が止まりませんでした!とても素敵なお話を見せてくれて本当にありがとう!!

  • 197二次元好きの匿名さん22/11/21(月) 12:47:18

    誰に対しても行動で語るから見てろって感じのキッドが本当にかっこよかった
    生き様で自分の価値を証明するのは間違いなくいい男
    良きSSが読めて感謝です!!お気に入りした

  • 198二次元好きの匿名さん22/11/21(月) 19:18:47
  • 199122/11/21(月) 19:47:38

    >>196

    こちらこそ読んでくれてありがとう!!少女に対してもある種誠実と言えるほどにまったく嘘をつかないそのまんま男だからこその魅力があるって思ってる……。辛辣だけど……!


    >>197

    お気に入りにしてくれてありがとう! キッドは立っているだけでかっこいいまである(?)

    口数少なくとも行動で表してくれるから、優しくないけど少女にとっては優しく思えてしまうんだ……。

    キッドはいい男なんだってことをこのSSでそれが少しでも出せていたのならよかった!


    >>198

    びびびっくりしちゃった、漫画になった!? 文章をこうして漫画として描いてもらえるのは書き手としてすげー嬉しいです!

    ドルヤナイカ嬢に面影がありつつ愛嬌のある顔が凄く可愛いです。髪の毛がちゃんと整えられて、いいとこのお嬢様の服を着て、確かに身なりのいい少女だ……。けれども服から見える腕や足がとんでもなく細いところまできっちり描いてくださっている。ありがとう。

    アマゾネスになるわと決意を抱いている少女を見るキッドの顔がとんでもなく面白かったです。これはキラーも笑いをこらえるレベル。

  • 200二次元好きの匿名さん22/11/21(月) 19:58:23

    素敵なSS&神絵をありがとう❗

オススメ

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