【SS】メッセージ

  • 1二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:20:20

    SSを投稿します
    いわゆるオリウマです。ご注意ください
    レースの描写などはありません
    長いです。確か、13レス使用します

  • 2二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:20:58

    メッセンジャーをやっている。
     横文字だから仰々しく見えるかもしれないけれど、要するに郵便配達だ。ただ、普通の郵送とはちょっと違って、わたしたちは顧客から直接メッセージを受け取り、そのまま宛て先へ向けてすっ飛んでいく。集荷の段階がない。だから即時性がすこぶる高い。そこらへんに特徴がある。
     クルマやバイクは使わない。交通量の多い都会だと、渋滞に捕まるおそれがあるからだ。停める場所にも気を遣わなければならない。その点、生身の方が何かと好都合だったりする。専用レーンを走っていれば、自然と交通の先頭に出る。入り組んだ路地裏で、ショートカットを試みることもできる。
     この仕事を始めるにあたって、必要なものは少ない。まあ、土地勘はあった方がいいだろう。あとは動きやすい服装で、荷物を仕舞うための丈夫な鞄を体にくくりつけたら、ほとんど準備は完了だ。最後にシューズと自分の脚を確認したら、いつでもメッセンジャーを始められる。顧客からの信頼云々はいったん抜きにして、よほどの方向音痴でもない限り、健康なウマ娘ならさほど難しくない仕事だと思う。

  • 3二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:21:32

     ウマ娘の郵便配達となると、それはそれは古い歴史があるわけだけど、メッセンジャーに関してはそうでもない。50年では短く、100年では長い。そんなところで、もともとはアメリカで一部のウマ娘が始めたらしく、わたしも詳しくは知らない。日本ではサンフランシスコあたりが有名だろう、あの長い坂を自由に駆け降りるウマ娘を映したミックステープは、バイブルというか必須科目というか、ストリートカルチャーの系譜に連なるウマ娘たちにとって、半ば伝説と化している。
     まあ、そのあたりはどうでもいい。
     日本でのメッセンジャーの成り立ちは、乱暴に言ってしまえば一本のビデオテープに求められる。遠く西海岸のウマ娘たちが、何を思って自分たちの暴走行為を撮影しようと考えたのか、やっぱりわたしにはわからない。ただ、何かを伝えようとしたことは確かだろう。そのメッセージが海を越えて正しく伝わったかはさておき、わたしは今日もメッセンジャー業に勤しんでいる。

  • 4二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:22:02

     勤しんでいるとはいうけど、実は仕事はあまりない。世の中には想像もつかないほどたくさんの会社があるけど、わたしたちメッセンジャーが忙殺されるくらい頻繁に「即時性が高く」「メールや電話で済まされず」「書類を残さなければならない」案件を取り扱っているとしたら、これはちょっと穏やかじゃない。だから悪いことじゃないんだろう、そもそもこの仕事で生計を立てることに無理があるような気もする。だからわたしを含めて、バイトを掛け持ちしている仲間は多い。それでもやることがないときは会社のみんなと走りにいったり、特に何も考えず、ぼーっと空を眺めたりしている。そんな風に暮らしてる。
     起きて、ご飯を食べて、働いて、またご飯を食べて、働いて、またまたご飯を食べて、お風呂に入って、寝る。もちろんおやつも食べるし、プライベートでも走るし、遊ぶし、ぼーっとする。本を読んだり、文章を書いたりする。
     わたしの日常は、だいたいそういう感じだ。

  • 5二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:22:37

     わたしのバイト先というのは喫茶店なので、常連さんが何人もいる。なぜ喫茶店には常連客がつきものなのかというと、マスターいわく「有史以来、そう定められている」らしい。
     そのうちの一人に、ウマ娘がいる。黒鹿毛で、わたしより少し年上のようだ。いつもガウチョパンツを履いており、メンズのシャツをざっくり羽織っている。ちょっと怪しげな雰囲気をまとっていて、ただ者ではないだろうとわたしはにらんでいる。もっとも、本人は「単なるパートタイマーだよ」と、そっけない。
     わたしは彼女とよく本の貸し借りをし、客足が少ないときは話をする。たいてい、彼女がつらつらと話し、わたしがそれを聞いている。
    「ウマ産部を由来とする説明がある」ウマムスビノベ、とわたしは呟く。「品部のひとつで、『ウマ娘を産出する職能集団』を意味する」
    「あるいは渡来人系の氏族『ウマ氏』の産女ではないかとされる」ムスメ、とわたしはより小さな声で呟く。「諸説ある」
     ウマ娘はなぜウマ娘と呼ばれるのかというわたしの疑問に対する、彼女の答えはそのようなものだった。
    「つまり、いまいちわかってないってことさ」と、彼女は笑う。「ウマは『UMA』なんじゃないかという主張もあるね。明らかな誤謬だが、これは正直言って面白い。人参果が実るように、ウマ娘がある日突然この地上に降り立ったのだとしても──まあ、驚くことは何もないんじゃないかと思う」

  • 6二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:23:03

     メッセンジャーの仕事は、即時性が高い。
     だからメッセージを受け取ったら、なるべく急ぐ必要がある。ほとんどすべての仕事がそうであるように。
     たとえば「ハハキトク スグカエレ」の電報が100年前に打たれたとして、50年が経ってのちそれが届けられたとしても、あまり意味がない。この場合、メッセージを伝えられた側も亡くなっている可能性があり、情報には鮮度があるのだということがわかる。
     反対に、寝かせる必要のあるメッセージも世の中には存在する。あなたが学生だったとして、タイムカプセルを埋めたとする。10年後、20年後の再会を友人と近い、故郷を離れたとする。これが翌日掘り起こされたとしたらいろいろと台無しで、振り返るべき遠い思い出は、単なる昨日の出来事として処理されることになる。
     メッセージには、さまざまな伝わり方がある。
     時間的な制約もさることながら、人を選ぶ。それは常に、誰かに向けて発信されてる。誰かっていうのは、誰でもじゃない。特定の個人だけってわけじゃないけど、ある程度のしぼり込みができないほど広くは発信されてない。
     わたしがこうして書いている簡単な日本語の文章だって、英語圏の人には読めない。
     クラスメイトのAちゃんに向けたラブレターは、決してBくんに向けたものじゃない。

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:23:33

     走ることを仕事にしている理由は、走ることが好きだからだ。
     だったらどうして競走の世界を目指さなかったのかというと、意欲と才能がなかったからとしか言いようがない。どうもわたしは競技精神や闘争心といったものには縁がないらしく、レースと言われてもピンとこない。志の低さを覆せるほどの才能があるわけでもないので、トレセンに進学するという発想がそもそもなかった。それでも走ることは好きだったので、こうして日夜街中を駆け回っている。
     メッセンジャーになりたかったわけではなくて、これは単に仲間から誘われたから選んだ職業にすぎない。ただ、性には合っている。流されているだけだといえばその通りだけど、食べるために走り、食べるためでもなく走る今の生活は、わたしにとってとても自然だと思う。

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:24:15

    文章うめえ

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:24:41

    「コンスタンス・ピーターソン博士の提唱した『人間メッセージ説』によると、人間は識閾外知的生命体からのメッセージだという」
     わたしがコーヒーを注ぐのを待ちながら、常連客の彼女は言った。いつにも増して、何を言っているのかわからない。
    「小説のネタだよ」と、カップと皿を受け取りながら笑う。そして交換するように、わたしに文庫本を差し出してくる。「この短編集の最後に登場する」
     皿の上には、ホイップを添えたパウンドケーキが載っている。マスターはよくこれを焼く。わたしもよくバイト中に摘まむ。
    「少し前に配達中の君を見かけたんだ。そのとき、ふと思い出してね」
    「このお話の中で、メッセージは人間の形をしている。その擬態は巧妙で、メッセージなのか人間なのか、人間には区別がつかない。メッセージの方からしても、擬態があまりに精巧だから、自分こそ人間だと思い込んでいる」
    「メッセージは、本来なら直接出向いて用件を伝えるのが都合が好い。しかしながら、必ずしもそういうわけにはいかない。みんな事情がある。海の向こうで暮らす友人と話したいと考えたとき、ほとんどの人は電話という手段を選ぶだろう。船旅でも空路でも、息災を喜ぶごとに海を越えるわけにはいかない。ある意味では、遺書なんかもそうだろう。故人が遺された人びとにメッセージを伝えるには、文章をしたためておくのがわかりよい」
    「想像してごらんよ。君がすれ違う人びとは、ひょっとしたら誰かからの郵便物なのかもしれない」
     ケーキには、バナナが練り込まれている。

  • 10二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:25:21

     生まれたときから、わたしの足もとはアスファルトとコンクリートにおおわれていた。
     学校のグラウンドから離れてみれば、土と芝の上を走る機会は、めっきり減ったように思う。意識してそういう場所を訪ねないと、わたしの走る道はいつも舗装されたものになる。いいとか悪いとかではなく、そうなっている。
     青く塗られた50km/h制限の専用レーンは、今日も平らに均されている。トラックとミニバンのアイドリングの振動が、耳を叩く。赤信号を待つわたしの前を、カートを押した老婆がよろよろと横切っていく。ウマ娘だった。きっと50年前は、わたしのように毎日跳ね回っていたのだろう。100年前にはたぶん生まれてない。
     わたしは駆ける。
     次の交差点まで、しばらく距離がある。速度超過を犯さないよう、スマートウォッチをちらちら覗く。スピードメーターアプリは43km/hをキープしている。いいペースだった。1000mほどこれが続く。
     交差点は青信号だったので、左折する。ときどき、わたしは地面を震わせるエンジンの鼓動に違和感を抱くことがある。こうじゃなかった、と今では思い出せない記憶と比べることがある。この感覚の正体は、わからない。でも、いつかのどこかのわたしは、クルマとバイクの走っていない、アスファルトとコンクリートにおおわれていない道を走っていたのだと、強く、強く思うことがある。

  • 11二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:25:39

     それでも、わたしにとって街は自然だ。
     毎日のように渋滞し、クラクションが鳴る。電気が通り、水道管が走り、ガスは隅々にまで行き渡って尽きることがない。わたしはスマートフォンを操り、エアコンで涼み暖まり、蛇口をひねって洗濯機を回して、コンロの火でコーヒーを淹れる。それは素敵な毎日で、何かひとつでも失われてしまえば、ひどく戸惑うに違いない。
     道は徐々に狭くなっていった。わたしは大通りを外れ、路地裏へ向けて突き進んでいる。ショートカットだ。そこに人気はなく、建物の裏口にあたり、ポリバケツなどが並んで、左右をコンクリートに囲まれている。のら猫の姿があり、わたしのスピードに驚いて毛を逆立たせていた。置き去りにし、ごめんねと一瞬だけ振り返る。
     路地の先は、実は袋小路になっている。高い塀があり、通れない。クルマなら。バイクなら。──普通の人間なら。
     わたしはウマ娘だから、アスファルトの地面を蹴ると、コンクリートの壁に向けて跳躍する。いわゆる三角跳びの要領で高度を保ち、ぐんぐんと上昇し、やがて塀に足をかける。大げさに言ってしまえば、それはさながら飛翔する気分だ。昔の人びとは、疾走するウマ娘の姿に龍を重ねたともいう。
     宙を舞い、体を捻り、着地に備えて回転を始める。逆さまになった世界で青空を見下げてみせる。ふと人の気配があり、仰ぎ見ればうろたえる男性の姿がある。しぃ、とわたしは右手の人差し指を立てて口もとに添えた。スピードメーターが速度超過を警告する。天地が正しい位置に戻り、姿勢を制御しつつ自分の体にかかったエネルギーに身を任せる。
     着地し、振り返らず駆けていく。この塀を越えてしまえば、目的地まではもうすぐだ。

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:26:53

    「龍といえば、恐竜は鳥の祖先だそうだね」その仮説はわたしも聞いたことがある。「恐竜からすると、どうなんだろうね。牙はなく、羽毛におおわれた翼を広げ、宙空を舞う生き物を指し、あれがあなたたちの子孫ですよと伝えられたところで、納得できるものだろうか」
     後脚で立ち、前脚を組んで首をかしげる恐竜を想像し、わたしは笑う。
    「思えば、文字にも似たようなところがある」と、常連客の彼女は続けた。「われわれを指し示す『ウマ』の字は、亀甲に刻まれていた時代と比べ、その姿形を大きく変えている」
     彼女は指先を踊らせるように振るった。「有マ記念」の「マ」の漢字を鏡文字にしてたどってみせたのだ。迷いはなく、不思議と字形が伝わる動きだった。ただ、ちょっと不自然に感じるところもあった。具体的には、二点ほど。
    「古代の文字たちは、自らの系譜の連なりを、現代の文字に見いだせるだろうか。あるいは未来の文字も、自らの系譜の起こりだと、現代の文字をそう見なせるだろうか」
     わたしはコーヒー豆を煎り、ミルを挽く。ネルにお湯を注ぎ、待つ。今日のブレンドはモカがベースだ。酸味は少なく、ほのかな甘味が余韻の中に漂う。
    「コーヒーも同じかな」彼女は目を閉じ、厚く強くなっていく香りを楽しんでいる。「さまざまなブランドがあり、品種改良は今も続けられている。残った種があり、残らなかった種がある。伝わった種があり、伝わらなかった種がある」
     メッセージ、と思わずわたしは呟いた。
    「そうだね」笑顔で彼女はカップを受け取る。「わたしたちを取り巻く世界は、メッセージによく似ている」

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:27:28

     わたしたちの先祖が海を渡り、この島国に足を踏み入れたのは、五世紀のことになるらしい。受け売りだけど、有名な『魏志倭人伝』にも、「ウマなし」のメッセージが残されているそうだ。
     ウマ娘は、あっという間にこの国の隅々にまで駆け抜けてしまった。各地での生活の記録は、現代にも伝わっている。それから長い年月をかけ、今もわたしたちはここで暮らしている。
     わたしは由緒ある家系の生まれではないけど、今こうして生きているっていうことは、今日まで続くなんらかの流れがあったということで、父と母がある。父父と父母があり、母父と母母がある。わたしのルーツはそうして枝分かれしていって、もはやわからない。しかしながら、いつかのそこに存在したことは確かだ。どこかの誰かが刻み残したメッセージが伝わり、姿形を変えて広まっていくように。
     にもかかわらず、その事実に疑問を抱くことがある。
     ──本当なら、わたしを形作る一連の流れは、どこかで途絶えているのではないか。
     そう疑う。そんなはずはないのに、理性を超えて直感的に、そう思うことがある。それは決まって、レースに励むウマ娘を観る度に起こる感情だった。
     ──もしかして、と考える。
     わたしと彼女たちは、同じウマ娘であるはずなのに、どこかで異なってしまっているのではないか。端から見ればよくわからない違いがあり、詳しい者なら気づく差がある。手足が短く、やや寸胴。整地された道を好みつつ、荒れ地を進むことも辞さない。生きるために。食べていくために。残すために。伝えるために。自らの系譜というメッセージを。
     ──あの娘たちは、手紙みたいだ。
     レース場で駆け回り、全身全霊を懸けて競うウマ娘の姿に、わたしはひとつの便箋を見いだす。彼女たちの生きざまは、ひょっとして誰かからのメッセージなのではないか。始まりの姿からは、見た目を変えている。だから、わたしたちにはそれとわからない。しかしそうでない者──たとえば識閾外生命体からすると、わたしたちからすれば見分けのつかない姿の奥に、秘められた意図を感じ取れるのかもしれない。
     便箋を広げようとしたところで、わたしにはそこに何が書かれているのかはわからない。なぜなら、人間の方でメッセージを区別する手段はなく、メッセージの方も、自分を人間だと思い込んでいるからだ。

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:28:02

     メッセンジャーの職を、わたしは退くことになる。
     希望ではなく、会社が倒産した。社長のウマ娘はわたしたちに最後の給料をきっちり払い、「どうせなら騒ごうか」と宴を催した。ウマ娘は、たいていが当然バ食だ。そして鯨飲でもあり、わたしは仲間たちと過ごす最後の時間を楽しんだ。その後にどうなるのかなんてことは、不粋だから誰も聞くはずがなかった。何かが続いていく裏で、何かがいつも絶えている。
    「ウチで働けばいい」と、バイト先の喫茶店のマスターが、ヒゲを弄りながら言う。「どうせなら、店を継いでくれ」独り身の彼は、このままでは一代で築いた店を、誰にも残せそうにない。「腕はいいし、真面目なのは知っている」
     危うく無職になりかけたわたしからすると、渡りに船だった。とうとう走ることが仕事から遠ざかったけれど、そういうものかと納得する。ならば趣味で走ればいいのだし、──遠い過去のわたしも、もし周りに食べるものがなくなれば、河岸を変えたに違いないからだ。
    「コーヒー豆の一粒をとっても、奥深いストーリーがある」マスターは言う。「生育に携わる人びと、収穫に携わる人びと、品質を管理する人びと、それを売却する人びと、購入する人びと、運搬する人びと──この一粒の裏側に、無数の人間の物語が秘められている。彼らにはそれぞれの暮らし、生きざまがある。だったらこのコーヒー豆も、君が扱っていたメッセージのようなものとして捉えることができるだろう」
     マスターの淹れるコーヒーに、わたしはまだまだ太刀打ちできない。バナナを練り込んだパウンドケーキは、ふんだんに空気を含み、口に入れると溶けるようだ。染み渡り、体中に広がっていく。
    「生きることは保つことだ」勤め先が倒産してさすがに参ったわたしに向けて、マスターは笑う。「そして保つことは、伝えることだ」

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:28:34

     かつてわたしは、今とはきっと異なる姿だった。長い年月が経ち、海を超えてこうして喫茶店に勤めている。
     かつて競走ウマ娘たちは、──何か今と違う形をしていたのだろう、コーヒー豆の背景に連なるストーリーのように、うかがい知ることはできないけれど、伝えたいものがあったことはよくわかる。
     ウマ娘は、メッセージだ。
     この世界のすべてが、メッセージであるように。
     それを忘れないために。決して忘れたくないために。だから姿形を変えてでも、こうして今ここに伝わり、わたしがとうとう知るはずのない、いつかのどこかの誰かの胸に刻み込まれることとなる。
     その誰かも、きっと伝えようとするだろう。ウマ娘には、それだけ人を惹き付ける力がある。だから途絶えず、きっと残されるはずだ。ウマ娘という形が失われても、その裏側に潜む真のメッセージは、彼女たちの生きざまの背景に強く、強く刻まれているに違いない。
     わたしもまた、ウマ娘だから──毎日を、一所懸命に生きればいい。そうすれば、きっと伝わるものがある。残せるものがある。競走ウマ娘たちと違って、どこかでわたしの連なりは絶えてしまったのかもしれないけれど、今ここにこうして文章をしたためることによって、いつか誰かの目に留まるかもしれない。
     わたしは徹底された血統の生まれではない。
     メッセンジャーを、やっている。

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:35:22

    以上です
    「ウマ娘はみんなサラブレッドなのか?」という疑問がありました
    「ならばサラブレッドでないウマ娘が、誤って存在したとしたら」と考え、今に至ります
    誤配という概念があり、ウマ娘が史実の競走馬を伝えるメッセージだとして、本来なら綴られることのないメッセージ/届くはずのないメッセージ=非競走馬を思い浮かべ、書きました
    何かを伝え残す方法として、美少女コンテンツは悪くないと思います
    さようなら

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:38:08

    良かったです

  • 18二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:42:12

    あにまんでこんな硬派な文章読めるとは思ってなかった
    SF的な設定の掘り下げも文体も好き
    伊藤計劃とか好きだったりする?

  • 19二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:43:26

    >>16

    お前…消えるのか…?

  • 20二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 21:57:56

    読んでくださってありがとうございます

    反応があってびっくりしました

    >>18

    伊藤計劃は実は読んだことがなくて、円城塔との合作『屍者の帝国』に目を通したくらいです

    >>19

    何度でも蘇るさ

  • 21二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 22:52:03

    語彙がないのでシンプルにこれだけ
    面白かったです!

  • 22二次元好きの匿名さん22/11/10(木) 23:17:17

    見事やな……(ニコッ)

  • 23二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 00:15:25

    また作者様の作品を読みたいと思わせるようなssでした
    非常に良かったです

  • 24二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 03:14:23


    面白かった

  • 25二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 03:55:04

    SSっつーより何かの短編集になってそうなすごくいい文章だった。
    興味深くて面白い話だった。すごい。(語彙力NTR)

オススメ

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