トレーナーさん。ポッキーゲーム、しませんか?【※リメイク】

  • 1◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:00:04

     11月11日。十と一を組み合わせると漢字の『士』となる事から『サムライの日』とも呼ばれる。
     もっとも、こちらの呼ばれ方よりも。

    「トレーナーさん。ポッキーゲーム、しませんか?」

     ……世間ではお菓子の『ポッキーの日』という印象の方が強いだろう。

    「……唐突だね。購買で買ってきたの?」
    「ええ。先ほどクラスの子と話している時に耳にしまして。世間では今日はなにやら『ポッキーの日』だとか。ですから、やるのなら“今”しかないと♪」

     なるほど。アルダンに要らぬ知識を与えた子たちには小言のひとつでも言ってやりたくなる。
     とはいえ頭を抱えていても仕方ない。一度興味を示されてしまった以上、納得できる理由を提示できなければアルダンは引き下がらないだろう。
     物腰柔らかな印象に反して、意外と頑固な子だ。

    「アルダン、ポッキーゲームってどんなものか知ってる?」
    「はい。なんでも2人でポッキーの両端を咥えて同時に食べ進めて、先に折ってしまったか口を離してしまった方が負けだとか。度胸試しのようなものだと聞き及んでおります」

     ……主旨自体は理解しているみたいだ。
     しかし理解されている方が厄介だ。分かっててゲームを提案してきてる訳だから。この状況をどうやって躱したものか。

    「……2人とも折らなかったり離さなかったらどうなるか分かってる?」
    「キス、してしまいますね」

     ふふふっ、と楽しげに笑いながら言葉を続ける。

    「ですがそれはどちらともそうしなかった場合の話。どちらかが折ってしまったり口を離せばそうはならない。違いますか?」
    「その通りだね」

  • 2◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:00:19

     そう、ポッキーゲームをしたからといって必ずしもキスしてしまう訳ではない。
     むしろ度胸試し的な意味合いが強い分、ある意味では折るか口を離す想定のゲームではあるのだろう。
     もっとも、ふたりとも折る気がなかった場合はキスしてしまう訳だが。
     ……それならそれでカップル成立となる訳だから万々歳なのかもしれない。元は合コンなどのパーティーで行なわれるゲームであろうし。

    「アルダン、君、負ける気ないでしょ?」
    「さぁ、どうでしょう?」

     ウマ娘は大なり小なり負けず嫌いな子が多い。アルダンも御多分に漏れず負けず嫌いな面はかなりある。
     頑固な上に負けず嫌いな面が重なってしまった、今のこの場を切り抜ける為には……。
     少し思案し、ある種の諦観と反骨心を滲ませて言葉を口にする。

    「……ねぇ、アルダン。『ポッキーの日』以外にも、今日が何の日だか知ってる?」
    「『サムライの日』、でしょうか」

     流石はアルダンだ、博識なだけあって説明する手間が省けた。

    「やっぱり知ってるよね……。じゃあ、俺が言いたい事もなんとなく伝わるんじゃないかな?」
    「と、言いますと?」

     そう、このゲームは『サムライの日』に受けた果し合いのようなものだ。ならば、俺が返すべき答えはひとつだろう。

    「その勝負、受けて立とう」
    「ふふっ、そうこなくては♪」

     どちらが先に刀を折るか、あるいは手放すか。
     ここから説得して回避するのは不可能だと判断した。ならば勝ってどうにかするのみ。
     覚悟を決めつつ、ウキウキとした様子でポッキーを取り出すアルダンを眺める。

  • 3◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:00:29

    「どうせなら何か賭け事でもしてみましょうか?」
    「そうだな……じゃあ無難に負けた方が勝った方のお願いを聞く、でどうかな?」
    「ふふふっ、お願いを聞いていただくのが楽しみです♪」

     やっぱり負ける気はさらさらないみたいだ。それなら俄然こちらもやる気が出てきた。……ダメだな。大人げないとは分かっていながらも、こちらも勝ちたいという欲が抑えきれない。

    「では、私の方から咥えますので、トレーナーさんが咥えたらゲーム開始といたしましょう」
    「ああ、それで問題ないよ」

     アルダンがポッキーを咥え、こちらの方に向けて来る。
     端整な顔立ちを間近で見るのはやはり慣れない。いつまでもポッキーを咥えない俺に対して不思議そうな顔をした後、目を少し細めて嫋やかに微笑まれる。
     ……咥える前から緊張してる場合じゃないか。
     勝負を受けたにも関わらず弱腰になっていた自分を追い払い、腹を括ってポッキーを咥える。
     先の言葉通り、俺が咥えたタイミングでゲームが開始されお互い食べ進める。
     とはいえそこまで長さのあるお菓子ではない。あっという間に鼻尖すら触れてしまいそうな距離になってしまう。

    「…………~っ」
    「…………っ」

     互いにポッキーを咥えた状態のまま、膠着が続く。
     目先にあるアルダンの瞳は潤みを帯びて、どこか落ち着きがなさそうに視線を合わせようとしない。
     そんなに照れるなら勝負を仕掛けなければ良かったじゃないか……。好奇心には勝てなかったのだろうが。
     とはいえ俺自身もこの状態はかなり緊張する。誰だって美人の顔が眼前に迫っていればそうなってしまうのは仕方ないだろう。
     ……しかしこのままだとお互いが折るなり口を離すなりする前に、ふやけたポッキーが折れてしまい勝敗が曖昧になってしまいそうだ。この状況をどう打破するべきか。あまり思考に割く余裕はないが必死に脳内で打開策を探す。

    (……! これなら! いや、でも……)

  • 4◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:00:39

     ひとつ、方法……いや、悪戯と言った方がいいだろうか。状況を崩す方法が思い浮かぶ。
     ただしこの手段を取るとポッキーゲーム自体には負けてしまう。

    (……いや、些細な問題か)

     潤んだ瞳で、俺が口を離す瞬間を今か今かと待ち望んでいるアルダンを見るとそんな事はもうどうでもいいだろう。
     それよりもこの状況からすぐにでも解放してあげよう。俺だってこんな生殺しのような状態は限界だ。
     ポッキー自体もそろそろふやけて折れてしまいう。そうなってしまう前に、自ら折る。
     ……自身が勝った為か、それともこのゲームが終わった事に対してか。恐らくは後者だろうが、アルダンが安堵した表情を浮かべる。
     ……この距離なら、逃がしはしない。残ったポッキーを食べようとするアルダンの後頭部へと手を添え顔を寄せる。
     再び迫る俺の顔に驚愕し、瞳が見開いたことにも構わず、そのまま顔を引き寄せる。

    「──っ!?」

     ころん、と。両端が齧られたポッキーが床へと落ちる音が微かに聞こえた。
     逃がさないように、右手を添えた後頭部から伝わるのは緊張と、動揺。
     ふわりと香る髪の匂いが鼻腔をくすぐり、聞こえてくるのは互いの鼻から漏れる息遣いと、外で練習に励むウマ娘たちの声。唇を通して感じるのは、先程食べていたチョコレートの甘い味。
     ……何秒こうしていただろうか。息苦しくなった頃合いで顔を離す。

    「……先にポッキーを折っちゃったから、俺の負けだね」

     顔を離した時に見えたアルダンの頬は、いつもの白磁のような色ではなく、今は朱色に染まっていた。
     ……ポッキーゲーム自体には負けてしまったが、これでいい。

    「と、トレーナーさん……っ!?」

     先の狼藉に、アルダンが珍しくワタワタと慌てふためている。目の前で可愛らしく狼狽している彼女に微笑みかけながら。

  • 5◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:00:53

    「ポッキーゲームを仕掛けてきた、ってことはそういう事だと思ってたんだけど……違った?」
    「……そういう事は、分かっていても言わないお約束ではないでしょうか?」

     そうだろうと思った。直接言ってこないあたりがいじらしい。あくまで自分からではなく、俺からしてほしかったのだろう。
     場所が場所だし正直もう少し安全な場所で頼んで欲しかったが、まあ誰も来なかったし今は良しとしよう。来たとしてもノックくらいはされるだろうし、その辺りはアルダンだって考えているはず。
     しかし俺がそのまま口を離すなりして降参していたらどうするつもりだったのだろうか。……今はそんなことはどうでもいいか。

    「俺には君と争うような事は向いていないみたいだ。……守るべき人に、刀を振るうような真似は出来ないからね」
    「……でしたら、主君に狼藉を働くような真似は許されないのではないですか?」
    「それは……そうだね。……そうだ、ポッキーゲームで負けたらお願いをひとつ聞く約束だったね。俺は何をすればいいかな?」
    「……では、していただきたいことがひとつ、よろしいでしょうか?」
    「そういう約束だからね。なんなりとご用件を、お姫様」

     冗談めかして、続く言葉を待つ。

    「今から町へと、連れ出していただけますか?」

     そんな軽口にも付き合ってくれるのが愛おしい。言ってしまえばデートのお誘いだろう。

    「お安い御用だよ。でもそれだけでいいのかい? それなら普段やってることとあまり変わらない気がするけど」

     そんな俺の疑問を見透かしていたかのように、ふわりと笑いながら。

    「ええ。私が勝った時にするはずだったお願いは、先程トレーナーさんが叶えてくださいましたから♪」

    (勝負を挑まれた時点で、俺の負けだったみたいだね……)

     思わず、苦笑が零れる。
     してやったと思っていた反撃すらも。最初から、アルダンの手のひらの上で転がされていたらしい。

  • 6◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:01:41

    みたいな話が読みたいので誰か書いてください。
    遥か昔に書いてましたね……。

  • 7二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 00:03:10

    懐かしいな…やはりいいものだ、色褪せない

    サムライのくだりが加筆部分かな?いいSSをありがとう

  • 8二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 00:04:55

    ありがとうありがとう…

  • 9二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 00:05:41

    うお…すっげえ透き通る永遠…

  • 10◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:21:21

    >>7

    流石にもう覚えてる人いないだろうなぁ……と思ってたんですけどありがとうございます!

  • 11◆y6O8WzjYAE22/11/11(金) 00:22:11

     という訳で文字通り初めて書いた怪文書のリメイクでした。
     あれから半年以上経っているのは早いものですね。流石にあの頃よりは上手く書けるようになってる……はず?
     まあ、辻斬りだったので荒いのは若干仕方ない部分もあったのでしょうけど。
     ただポッキーゲームをするだけだと尺があっさりしちゃうのでサムライの日と絡めつつ。こんな会話するかなぁ……と若干不安になったもののイベ報酬のサポカイベントを見たらするだろう、という結論になったのでこの形と相成りました。
     元々書いていたスレは探さないでください……。本当に、本当に下手くそだったので……。封印すらしたいので……。
     ここまで読んでいただきありがとうございました。

  • 12二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 00:59:45

    美しい...これ以上の芸術は存在しないでしょう...

  • 13二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 01:25:25

    なんか男2人が鉄骨かなんか咥えたスレのやつだっけ?

  • 14二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 01:29:41

    ポッキーの数百倍は甘いんですが

  • 15二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 01:30:33

    ここでみたssで一番好きだったから忘れられなかった。まさかリメイク読めるとは

  • 16二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 09:32:29

    みんな結構覚えてるもんだね
    かくいう私もこのSSがお気に入りだったから嬉しい

  • 17二次元好きの匿名さん22/11/11(金) 21:06:08

    懐かしい

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