- 1二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 17:44:46
注意
ウマ娘化されてない競走馬のウマ娘
大丈夫な方はどうぞ
気がつくと、私は宝塚記念のゲートにいました。よくよく考えたら今日は私にとってGI初出走ですね。それなのに何故だか気が飛んでいました。緊張によるもの……というには何だか違和感がありました。
2000年の春、レース場にはちょっとした怪談が生まれていました。GII京都記念を勝ったナリタトップロードさんや、見事天皇賞春を勝ち取ったラスカルスズカさんらが口を揃えて「勝った気がしない」と言いました。それから彼女たちは「自分の前に別のウマ娘が居たはずなのにゴールしたら居なくなった」と続けたそうです。
今日の宝塚記念も同じように感じるのでしょうか…。いやそもそもその幻?が見えた人は着順良い人だけだから、まずは私が頑張らないと!
最後の直線、私の前にもう一人のウマ娘が走っていました。決して遠くないその距離が走っても走っても縮まりません。一体どなただろう?マントをはためかせ、キラキラと輝く王冠と耳飾り。こんなに目を引く方なのにどうして気づかなかったのだろう?兎も角、今日は私の負けだと思いながらゴール板を駆け抜け、彼女の名前を実況で聞いてみようと耳を澄ませました。しかし。
『宝塚記念の勝者はメイショウドトウ!見事、初GIを制しました!』
「……え?」
振り返った時には、既に彼女の姿は無く、私は彼女の姿を忘れてしまいました。 - 2二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 17:45:53
「やっぱりドトウも見えたの?」
「はいぃ、よく覚えてはいないんですけど、確かに私の前にウマ娘が居ました……。」
「そうだよね、私も見たし。」
ラスカルさんと、トップロードさんと、私。夏合宿中三人で集まって会議?をしました。
「実は私、皐月賞でも見たんだよね。」
「えっ!そうなんですか!?」
「うん、一瞬だったんだけど大外から凄い速さで突っ込んできて、やられたなぁって思ったんだけど、ゴール板抜けた後探したら京都記念や春天と同じようにどこにもいなかったんだよね。」
「私も実は阪神大賞典でも見たの!何なんだろう、あの人。圧倒的着差じゃないけど絶対抜かせなくて。」
「もしかして、三女神様が走りたいって思ってレース中にだけ現れてるとか?」
「あははっ!うそー!でも普通に笑ってるけど、よくよく考えたら怖くない?幽霊かもしれないでしょ?」
「そんな訳!って言いたいけど見た人少なくとも三人いるんだしあり得なくはないかもね……。」
「ですけど、怖い感じはしませんでしたよ?」
「そうだね、危害加えてくるわけでもないし、私たちに道標を残してくれる良い幽霊かもね!」
「あ、確かに!」
「そうですね!」
お二人と話して分かったことは、お二人はその幽霊と二回以上走ったけど、レース中は幽霊の話を忘れ、共に走るウマ娘だと思ったということ。そして、私は彼女のことを考えると、喪失感に襲われるということ。
「彼女は、一体何者なのでしょうか……?」
私はポツリと呟くしかありませんでした。 - 3二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 17:47:21
天皇賞秋、私は二番人気で挑みました。天皇賞秋にはジンクスがあります。アキツテイオーさんが一番人気で勝利したのを最後に、一番人気の方が敗退し続けていて、それがもう12回目だというものです。そのせいで私とトップロードさんのオッズが争い、紆余曲折ののち、私は二番人気に収まりました。
結果として、一番人気のジンクスが破られることはありませんでした。私が勝利したからです。でも、その更に二バ身先に、件のウマ娘はいました。走っている最中は、ラスカルさんやトップロードさんと同じように彼女を意識し、勝ちたいと思いこそすれ、幽霊だとは全くもって思いませんでした。でも消えてしまったので、私にはただ敗北感が残されました。……きっとあの人が走っていたら、一番人気で一着だったんだろうなぁ。
JCも私が勝ちました。幽霊もいつも通り私の前に来ていました。彼女の姿は今回来ていただいたファンタスティックライトさんにも見えていたようで、
「Crazy stro…Huh?」
と、戸惑っていました。
私はいつも一着なのに二着のような気分です。そして、何度も彼女の後ろ姿を見たおかげか、朧げながら彼女の容姿を思い出せるようになりました。彼女はピンクのマントをしている。彼女は王冠をかむっている。彼女はオレンジ色の髪を持っている。そんな彼女の容姿を思い出す度、胸がきゅうと締まりました。 - 4二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 17:48:20
一ヶ月後、私の、もとい彼女の秋シニア三冠が掛かった有マ記念が始まりました。走って前目の方に付けようとして、前があまりにも人が多くて、大外に出ようとしても横にもウマ娘がいて。……私はドジでグズだから、ここに来て最大のドジをやらかしてしまいました。転びそうになるのを抑えて、砂を浴びて、いつになるのか分からない、前が開く時を待ちました。
きっと、いつも一緒に走る彼女は既にずっと前にいるんだろうな。彼女は毎回いつの間にか前にいました。きっと着順の高い子にしか見えない幽霊だったのでしょう。今までは私は彼女の二着になれていたけど、今回は。そう思いながら辺りを見渡すと、彼女は私の斜め後ろにいました。
あ、初めて彼女を前から見れた。彼女の衣装は煌びやかで、金と緑の耳飾りがよく似合っている。瞳は片方は眼帯をしていて、もう片方も髪に隠れてよく見えない。口元は薄らと笑みを浮かべている。素敵だなと思いました。でも、何でこんな、私より後ろに。
頭が痛む。
私は、この景色を知っている気がするのです。彼女が来ない。いや、来るに決まっている。そう信じた気がしてならないんです。
彼女は、一体。
ゴールまで残り僅かなところで彼女は足を沈める。髪が揺れ、覗かせたのは紫の瞳。
……あぁ、そうだ。どうして忘れていたの。どうしてここにいないの。足りないに決まっていたのに。
「オペラオーさん。」
彼女はスパートを掛け、たった一人分のバ群の隙間を切り裂く。
「オペラオーさんっ。」
そしてズンズンと先頭まで突き進む。
「オペラオーさん!」
彼女は一瞬こちらを振り返り、
『役者が足りないよ、ドトウ。』
と微笑んだ。
「オペラオーさんっ!」
彼女の示してくれた道に沿って走り出す。追いつくんだ。迎え入れるんだ。本来は、彼女が私を追うんだから!
「今行きます!オペラオーさん!」
彼女に追いつくハナ差のところが、ゴール板でした。
『メイショウか!僅かにメイショウか!』 - 5二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 17:50:27
「!」
気がつくと、私は天皇賞春のゲートにいました。よくよく考えたら今日は私にとって長距離GI初出走ですね。それなのに何故だか気が飛んでいました。緊張によるもの……というにはリアリティのある白昼夢を見たのでした。
オペラオーさんがいないという夢。そんな世界、私にとっては辛いものです。それを望んでいる人も……ほんの少しいるのかもしれません。でも、そんなのは関係ないことです!だってオペラオーさんのいる世界が私の世界なんだから!
ガチャコン、という音と共に、私たちは走り出しました。
「結局また二着でしたぁ……、オペラオーさん天皇賞春二連覇凄いです!」
「ハーッハッハッハ!世紀末覇王の進撃はまだまだ終わらせないとも!」
「私も二年連続三着かぁ……、何か嫌な予感がするけど……。」
オペラオーさんと、トップロードさんと、私。今はウイニングライブの準備中です。
今回も、夢の中と同じようにオペラオーさんの背中を見ました。でもゴール板を駆け抜けた後、オペラオーさんの体が消えることは無くて、そのことに心が落ち着く私がいました。……次は、オペラオーさんの背中に追いつきたいなぁ。
「オペラオーさんとトップロードさんの次走は何ですか?」
「ボクは勿論宝塚記念さ!」
「えーと、私は宝塚は回避かな……。」
「おや、今回も雨が心配なのかい?」
「あー、まぁね。今年こそバ場が重くなる気がするし。」
「おやおや、いらない心配だというのに。君さえ望めば、ボクは雨を止ませることだって出来るさ。」
「あはは、それでも遠慮しとくね。」
「むう。」
「わ、私は参加します!」
「ああ、そうだと思っていたとも!我がライバルドトウ!君との出逢いの地宝塚で雌雄を決する戦いに身を乗り出そうじゃないか!」
オペラオーさんと約束を取り付けることが出来て、思わず笑顔が漏れました。……よし、次の宝塚記念でこそ、オペラオーさんに追いつくんだ!そう私は決意しました。 - 6二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 17:56:34
すき
- 7二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 18:03:28
素晴らしい…
- 8121/10/26(火) 18:08:22
- 9二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 18:15:15
- 10121/10/26(火) 18:26:21
NTRくんはこういうとこ持ってなかったなあと思います
- 11二次元好きの匿名さん21/10/26(火) 18:27:39
- 12121/10/26(火) 18:48:38
感想ありがとう!